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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02C
管理番号 1373094
審判番号 不服2020-4378  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-02 
確定日 2021-04-14 
事件の表示 特願2016-558383「多発ヘリコプタ推進システムの構造、および対応するヘリコプタ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月1日国際公開、WO2015/145042、平成29年4月13日国内公表、特表2017-510746〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2015年(平成27年)3月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年3月27日(FR)フランス共和国)を国際出願日とする出願であって、平成31年2月25日付け(発送日:同年3月5日)で拒絶理由が通知され、令和元年6月4日に意見書の提出及び手続補正がされ、令和元年11月26日付け(発送日:同年12月3日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和2年4月2日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 令和2年4月2日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年4月2日の手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)を以下の理由により却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「動力伝達ギアボックス(3)に接続されたターボシャフトエンジン(1、2)を備え、飛行中にヘリコプタ機器に電力を供給する直流低電圧機上ネットワーク(7)を備える多発ヘリコプタの推進システムの構造であって、
ハイブリッド型ターボシャフトエンジン(1)と呼ばれる、前記ターボシャフトエンジンの中の1つのターボシャフトエンジンであって、ヘリコプタの安定飛行中、他のターボシャフトエンジン(2)だけがこの安定飛行中に動作する状態で、少なくとも1つの待機モードで動作する能力があるただ1つのターボシャフトエンジン(1)と、
前記エンジンを前記待機モードから引き出し、それが機械的動力を前記動力伝達ギアボックスに提供する公称モードと呼ばれるモードに到達するために、前記ハイブリッド型ターボシャフトエンジンを急速に再始動させる電気技術式パック(20)であって、前記再始動パック(20)が前記機上ネットワーク(7)に接続された電気技術式パック(20)と、
前記機上ネットワーク(7)用の少なくとも2つの電力源(4、16、18)と、
を備えることを特徴とする構造。」

(2)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「動力伝達ギアボックス(3)に接続されたターボシャフトエンジン(1、2)を備え、飛行中にヘリコプタ機器に電力を供給する直流低電圧機上ネットワーク(7)を備える多発ヘリコプタの推進システムの構造であって、
ハイブリッド型ターボシャフトエンジン(1)と呼ばれる、前記ターボシャフトエンジンの中の1つのターボシャフトエンジンであって、ヘリコプタの安定飛行中、他のターボシャフトエンジン(2)だけがこの安定飛行中に動作する状態で、少なくとも1つの待機モードで動作する能力があるターボシャフトエンジン(1)と、
前記エンジンを前記待機モードから引き出し、それが機械的動力を前記動力伝達ギアボックスに提供する公称モードと呼ばれるモードに到達するために、前記ハイブリッド型ターボシャフトエンジンを急速に再始動させる電気技術式パック(20)であって、前記再始動パック(20)が前記機上ネットワーク(7)に接続された電気技術式パック(20)と、
前記機上ネットワーク(7)用の少なくとも2つの電力源(4、16、18)と、
を備えることを特徴とする構造。」

2 補正の適否
上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「ハイブリッド型ターボシャフトエンジン(1)と呼ばれる」「ターボシャフトエンジン(1)」に、「ただ一つの」という限定を付加するものであって、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載
ア.引用文献1の記載、引用発明等
本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用した米国特許出願公開第2013/0086919号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、「STARTING OF AIRCRAFT ENGINE」(当審訳:航空機エンジンの始動)の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「[0005] The disclosure describes systems and methods for starting an engine of a multi-engine aircraft.」
(当審訳:本開示は、マルチエンジン航空機のエンジンを始動させるためのシステムおよび方法を説明する。)

(イ)「[0006] In various aspects, for example, the disclosure describes multi-engine gas turbine propulsion systems for helicopters. Such a system may for example comprise: a first gas turbine engine and a second gas turbine engine configured to drive a main rotor of the helicopter; an electric starter motor configured to assist starting of the first engine; an energy source configured to deliver electrical energy to the starter motor at a rapid rate during rapid starting of the first engine, the rapid rate being higher than a regular rate used during regular starting of the first engine; and an electric generator coupled to the second gas turbine engine and configured to convert energy from the second gas turbine engine into electrical energy to charge the energy source during operation of the second gas turbine engine.」
(当審訳:[0006] 様々な側面において、例えば、本開示は、ヘリコプター用のマルチエンジンガスタービン推進システムを説明する。そのようなシステムは、例えば、以下のように構成されてもよい:ヘリコプターのメインロータを駆動するように構成された第1のガスタービンエンジンおよび第2のガスタービンエンジン;第1のエンジンの始動を補助するように構成された電気スタータモータ;第1のエンジンの急速始動中に急速速度でスタータモータに電気エネルギーを供給するように構成されたエネルギー源;および第2のガスタービンエンジンに結合され、第2のガスタービンエンジンの運転中にエネルギー源を充電するために第2のガスタービンエンジンからのエネルギーを電気エネルギーに変換するように構成された発電機;を備える。)

(ウ)「[0008] In a further aspect, the disclosure describes methods for driving devices on aircraft using multi-engine systems comprising at least first engine and second engines. Such a method may for example comprise: using one of the first and second engines to drive the device while the other of the first and second engines is in a shut-down state; rapidly starting the other of the first and second engines by delivering energy to the other of the first and second engines at a rapid delivery rate higher than a regular delivery rate used for regular starting; and using the other of the first and second engines to drive the device.」
(当審訳:[0008] さらなる側面において、本開示は、少なくとも第1のエンジンおよび第2のエンジンからなる複数のエンジンシステムを使用して航空機上の装置を駆動するための方法を説明する。そのような方法は、例えば次のように構成され得る:第1および第2のエンジンの他方が停止状態にある間、第1および第2のエンジンの一方を使用して装置を駆動することと、第1および第2のエンジンの他方を、通常の始動に使用される通常の送達速度よりも高い送達速度で第1および第2のエンジンの他方にエネルギーを送達することによって急速に始動することと、第1および第2のエンジンの他方を使用して装置を駆動することと、を含む。)

(エ)「[0021] FIG. 2 illustrates a multi-engine propulsion system, generally shown at 100 , that may be used to power one or more rotor(s) 120 of helicopter 140 . Similarly to system 10 , system 100 may also comprise two or more engines 160 A and 160 B that may be configured to either collectively and/or separately power rotor(s) 120 . For example, engines 160 A, 160 B may comprise one or more gas turbine engine(s). For example, engines 160 A, 160 B may be turboshaft engines configured to produce shaft power for driving rotor(s) 120 of helicopter 140 . Engines 160 A, 160 B may each comprise high pressure spool(s) 162 A, 162 B comprising one or more compressor stages and low pressure spool(s) 164 A, 164 B comprising one or more turbines stages driving output shaft(s) 166 A, 166 B. Engines 160 A, 160 B and rotor(s) 120 may be engageable via suitable gearbox(es) 190 so that rotor(s) 120 may be driven by either first engine 160 A, second engine 160 B or by both first and second engines 160 A, 160 B simultaneously. Rotor(s) 120 may include, for example, one or more main rotors of helicopter 140 used for generating lift as well as forward/lateral forces for propelling helicopter 140 . Rotor(s) 120 may also comprise one or more tail rotors. Other device(s) 12 , 120 may also or alternatively be driven by engines 160 A, 160 B including one or more, electric generator(s), pump(s), various mechanical or electrical loads and/or other aircraft accessories or loads.」
(当審訳:[0021] 図2は、ヘリコプター140の1つまたは複数のロータ120に動力を供給するために使用されてもよいマルチエンジン推進システムを示している。システム10と同様に、システム100は、まとめておよび/または別々にロータ120に動力を与えるように構成された2つ以上のエンジン160A、160Bから構成されていてもよい。例えば、エンジン160A、160Bは、1つ以上のガスタービンエンジンを構成してもよい。例えば、エンジン160A、160Bは、ヘリコプター140のロータ120を駆動するためのシャフト動力を生成するように構成されたターボシャフトエンジンであってもよい。エンジン160A,160Bは、それぞれ、1つ以上のコンプレッサステージからなる高圧スプール162A,162Bと、出力シャフト166A,166Bを駆動する1つ以上のタービンステージからなる低圧スプール164A,164Bとから構成されていてもよい。エンジン160A,160Bとロータ120とは、ロータ120が第1のエンジン160A、第2のエンジン160B、または第1および第2のエンジン160A,160Bの両方によって同時に駆動されるように、適切なギアボックス190を介して係合可能であってもよい。ロータ120は、例えば、ヘリコプター140を推進するための前進/横方向の力だけでなく、揚力を発生させるために使用されるヘリコプター140の1つまたは複数のメインロータを含んでもよい。ロータ120はまた、1つまたは複数のテールロータを含んでもよい。他の装置12,120はまた、1つまたは複数の発電機、ポンプ、様々な機械的または電気的負荷、および/または他の航空機付属品または負荷を含むエンジン160A,160Bによって駆動されてもよいし、または代替的に駆動されてもよい。)

(オ)「[0022] System 100 may also comprise one or more starter(s) 20 , 200 A, 200 B that may be used to assist starting of at least one of engines 16 , 160 A, 160 B. Starter(s) 200 A may be provided for starting first engine 160 A and starter(s) 200 B may be provided for starting second engine 160 B. Starter(s) 200 A, 200 B may be in the form of electrical motors/generators that may be used as motors during starting of engines and as generators during operation for converting mechanical energy from engines 160 A, 160 B into electrical energy to be used in various parts/systems of helicopter 140 .」
(当審訳:[0022] システム100はまた、エンジン16、160A、160Bの少なくとも1つの始動を補助するために使用されてもよい1つ以上のスタータ20、200A、200Bを含んでいてもよい。スタータ200A,200Bは、エンジン160A,160Bからの機械的エネルギーを、ヘリコプター140の様々な部品/システムで使用される電気的エネルギーに変換するために、エンジンの始動時にはモータとして使用され、運転時には発電機として使用される電気モータ/発電機の形態であってもよい。)

(カ)「[0023] Starter(s) 200 A, 200 B may be powered by one or more energy sources 220 A, 220 B, 240 A, 240 B capable of delivering energy at a regular rate during regular starting of one of engines 160 A, 160 B and delivering energy at a rapid rate during rapid starting of one of engines 160 A, 160 B. Energy sources 220 A, 220 B, 240 A, 240 B may be incorporated into separate power control units 210 A, 210 B associated with each of engines 160 A, 160 B. For example, power control unit 210 A may be associated with engine(s) 160 A and comprise energy sources 220 A and 240 A. Power control unit 210 B may be associated with engine(s) 160 B and comprise energy sources 220 B and 240 B. Alternatively, energy sources 220 A and 220 B may be combined into a single regular start energy source such as energy source 22 shown in FIG. 1 and energy sources 240 A and 240 B may be combined into a single rapid start energy source such as energy source 24 shown in FIG. 1.」
(当審訳:[0023] スタータ200A,200Bは、エンジン160A,160Bのうちの1つのエンジン160A,160Bの通常の始動中に通常の速度でエネルギーを供給し、エンジン160A,160Bのうちの1つのエンジン160A,160Bの急速始動中に急速な速度でエネルギーを供給することができる1つ以上のエネルギー源220A,220B,240A,240Bによって駆動されてもよい。エネルギー源220A、220B、240A、240Bは、それぞれのエンジン160A、160Bに関連付けられた別個の電力制御ユニット210A、210Bに組み込まれてもよい。例えば、電力制御ユニット210Aは、エンジン(複数可)160Aに関連付けられ、エネルギー源220Aおよび240Aを構成してもよく、電力制御ユニット210Bは、エンジン(複数可)160Bに関連付けられ、エネルギー源220Bおよび240Bを構成してもよい。あるいは、エネルギー源220Aおよび220Bは、図1に示されたエネルギー源22のような単一の通常始動エネルギー源に結合されてもよく、エネルギー源240Aおよび240Bは、図1に示されたエネルギー源24のような単一の急速始動エネルギー源に結合されてもよい。)

(キ)「[0024] Energy sources 220 A, 220 B may comprise one or more conventional or other types of batteries that may be found on helicopter 140 and used to power various device(s)/accessory(ies) on helicopter 140 and also used for regular starting of engines 160 A, 160 B via starter/generators 200 A, 200 B respectively. Energy sources 220 A, 220 B may be rechargeable and may be charged using one or more of engines 160 A, 160 B. For example, energy source(s) 220 A may be charged by engine 160 B via starter/generator 200 B and energy source(s) 220 B may be charged by engine 160 A via starter/generator 200 A. An exemplary output voltage of energy source(s) 22 , 220 A, 220 B may be 28 Volts.」
(当審訳:[0024] エネルギー源220A、220Bは、ヘリコプター140に存在し、ヘリコプター140上の様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給するために使用され、また、スタータ/ジェネレータ200A、200Bを介してそれぞれエンジン160A、160Bを定期的に始動させるために使用される、1つ以上の従来型または他のタイプの電池から構成されていてもよい。エネルギー源220A,220Bは、充電可能であってもよく、1つ以上のエンジン160A,160Bを使用して充電されてもよい。例えば、エネルギー源220Aは、スタータ/発電機200Bを介してエンジン160Bによって充電されてもよく、エネルギー源220Bは、スタータ/発電機200Aを介してエンジン160Aによって充電されてもよい。エネルギー源22、220A、220Bの例示的な出力電圧は、28ボルトであってもよい。)

(ク)「[0025] As described above, rapid start energy source(s) 24 , 240 A, 240 B may similarly comprise one or more supercapacitors. For example, energy source(s) 240 A, 240 B may each comprise one or more electric double-layer capacitors (EDLCs). Energy source(s) 240 A, 240 B may be used for rapid starting of engines 160 A, 160 B when required via starter/generators 200 A, 200 B respectively. Energy sources 240 A, 240 B may be rechargeable and may be charged using one or more of engines 160 A, 160 B. For example, energy source(s) 240 A may be charged by engine 160 B via starter/generator 200 B and energy source(s) 240 B may be charged by engine 160 A via starter/generator 200 A. An exemplary output voltage of energy source(s) 24 , 240 A, 240 B may be 200 Volts. Hence, rapid start energy source(s) 24 , 240 A, 240 B used to rapidly start one of engines 16 A, 16 B, 160 A, 160 B in the shut-down state may be charged by the other of engines 16 A, 16 B, 160 A, 160 B which is (or has been) operating.」
(当審訳:[0025] 上述したように、急速起動エネルギー源24,240A,240Bは、同様に、1つ以上のスーパーキャパシタを構成してもよい。例えば、エネルギー源240A、240Bは、それぞれ、1つ以上の電気二重層キャパシタ(EDLC)を構成してもよい。エネルギー源240A、240Bは、スタータ/発電機200A、200Bを介してそれぞれ必要とされるときに、エンジン160A、160Bを急速に始動させるために使用されてもよい。エネルギー源240A,240Bは、充電可能であってもよく、エンジン160A,160Bの1つ以上を使用して充電されてもよい。例えば、エネルギー源(複数可)240Aは、スタータ/発電機200Bを介してエンジン160Bによって充電されてもよく、エネルギー源(複数可)240Bは、スタータ/発電機200Aを介してエンジン160Aによって充電されてもよい。エネルギー源(複数可)24,240A,240Bの例示的な出力電圧は、200ボルトであってもよい。したがって、シャットダウン状態のエンジン16A,16B,160A,160Bの一方を急速に始動させるために使用される急速始動エネルギー源24,240A,240Bは、運転中である(または運転されている)エンジン16A,16B,160A,160Bの他方によって充電されてもよい。)

(ケ)「[0026] During operation, engines 16 A, 16 B, 160 A, 160 B may be used to collectively and/or separately power various device(s) 12 , 120 of aircraft 14 , 140 . During, for example, certain phases of flight of aircraft 14 , 140 where a large amount of power may be required, such as take-off for example, both first engine(s) 16 A, 160 A and second engine(s) 16 B, 160 B may be required to be operated at a relatively high power output setting. However, during other phases of flight where a lower amount of power may be required, only one of first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B may be sufficient to provide the required amount of power. Accordingly, only one of first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B may be operated while the other of first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B may be in a shut-down state. Hence, the one of first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B may be operated at a higher power output level (e.g. closer to or within an optimum performance window) than it would otherwise if both first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B would be operating simultaneously at reduced power output levels. As a result, the operation of a single engine at a higher power output level may provide an overall better fuel efficiency (e.g. lower fuel consumption) and lower overall operating expenses than the operation of two engines at reduced power output levels.」
(当審訳:[0026] 運転中、エンジン16A、16B、160A、160Bは、航空機14、140の様々な装置12、120に一括して及び/又は別々に動力を与えるために使用されてもよい。例えば、大量の電力が必要とされるかもしれない航空機14,140の飛行の特定の段階の間、例えば離陸のように、第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bの両方が、比較的高い出力設定で運転されることが必要とされるかもしれない。しかしながら、より低い出力量が必要とされ得る飛行の他の段階では、第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bのうちの1つのみが、必要とされる出力量を提供するのに十分である場合がある。したがって、第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bのうちの一方のみが運転される一方で、第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bのうちの他方は、シャットダウン状態にあってもよい。したがって、第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bの一方は、第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bの両方が低減された出力レベルで同時に動作する場合に、そうでない場合よりも高い出力レベルで(例えば、最適性能ウィンドウに近いか、または最適性能ウィンドウ内で)動作してもよい。その結果、より高い出力レベルでの単一エンジンの運転は、低減された出力レベルでの2つのエンジンの運転よりも、全体的に良好な燃料効率(例えば、より低い燃料消費量)およびより低い全体的な運転費用を提供する可能性がある。)

(コ)「[0027] For safety reasons, it may be required during operation of only one of first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B that the other of first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B have the ability to be re-started from the shut-down state and rapidly brought to a suitable or full power output level. Accordingly, in the event of an emergency such as a failure of the operating engine, the shut-down engine may have the ability to take over for the failed engine and prevent placing aircraft 14 , 140 in a potentially catastrophic situation. The re-starting and power output increase of the shut-down engine should be done as rapidly as possible. The re-starting and power output increase of the shut-down engine may be initiated and controlled by a control system of aircraft 14 , 140 .」
(当審訳:[0027] 安全上の理由から、第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bのうちの一方のみの運転中に、第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bのうちの他方が、シャットダウン状態から再始動され、適切なまたは全出力レベルに急速に引き上げる能力を有していることが要求されてもよい。したがって、作動エンジンの故障のような緊急時には、シャットダウンエンジンは、故障したエンジンの代わりに引き継ぎ、航空機14,140を潜在的に破局的な状況に置くことを防止する能力を有することができる。シャットダウンエンジンの再始動および出力増加は、可能な限り迅速に行われることが好ましい。シャットダウンエンジンの再始動および出力増加は、航空機14,140の制御システムによって開始および制御されてもよい。)

(サ)「[0029] For example, system 10 , 100 may be used to conduct a method comprising: using one of the first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B to drive device(s) 12 , 120 while the other of the first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B is in a shut-down state; rapidly starting the other of the first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B by delivering energy to the other of the first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B at a rapid delivery rate higher than a regular delivery rate used for regular starting; and using the other of the first engine 16 A, 160 A and second engine 16 B, 160 B to drive device(s) 12 , 120 .」
(当審訳:[0029] 例えば、システム10,100は、以下からなる方法を実施するために使用されてもよい。第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bの一方を使用して、第1のエンジン16A,160Aおよび第2のエンジン16B,160Bの他方がシャットダウン状態にある間、装置12,120を駆動すること。第1のエンジン16A、160Aおよび第2のエンジン16B、160Bの他方に、通常の始動に使用される通常の送達速度よりも高い急速送達速度でエネルギーを送達することによって、第1のエンジン16A、160Aおよび第2のエンジン16B、160Bの他方を急速に始動させること;および第1のエンジン16A、160Aおよび第2のエンジン16B、160Bの他方を駆動装置12、120に使用すること;を含む。)

(シ)「FIG.2


(ス)上記(エ)に摘記した事項から、上記(シ)のFIG.2に図示されるものは、ヘリコプター140のマルチエンジン推進システムであり、当該ヘリコプター140のマルチエンジン推進システムは、複数のロータ120を駆動するためのシャフト動力を生成するように構成されたターボシャフトエンジン160A及び160Bと、ターボシャフトエンジン160A及び160Bとロータ120とを、ロータ120が前記ターボシャフトエンジン160A、前記ターボシャフトエンジン160B、または前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bの両方によって同時に駆動されるように、係合可能であるギアボックス190とを備えるものであることが理解できる。

(セ)そして、前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bは、上記(ケ)ないし(サ)に摘記した事項から、そのうちの一方のみが運転され、ロータ120を駆動する一方で、他方が、シャットダウン状態にあるときに、前記他方を急速に始動させることが理解でき、上記(カ)に摘記した事項から、前記他方を急速に始動させるために、エネルギー源220Aと急速起動エネルギー源240Aが組み込まれた電力制御ユニット210Aによって駆動されるスタータ/発電機200A及びエネルギー源220Bと急速起動エネルギー源240Bが組み込まれた電力制御ユニット210Bによって駆動されるスタータ/発電機200Bとを備えていることが理解でき、上記(キ)に摘記した事項から、前記エネルギー源220A及び220Bは、前記ヘリコプター140上の様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給するために使用され、スタータ/発電機200A及び200Bによって充電されることが理解できる。

(ソ)以上を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

《引用発明》
「複数のロータ120を駆動するためのシャフト動力を生成するように構成されたターボシャフトエンジン160A及び160Bと、前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bとロータ120とを、ロータ120が前記ターボシャフトエンジン160A、前記ターボシャフトエンジン160B、または前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bの両方によって同時に駆動されるように、係合可能であるギアボックス190とを備えた、ヘリコプター140のマルチエンジン推進システムであって、
前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bのうちの一方のみが運転され、ロータ120を駆動する一方で、他方が、シャットダウン状態にあるときに、前記他方を急速に始動させるために、従来型電池から構成され得るエネルギー源220Aと、スーパーキャパシタから構成され得る急速起動エネルギー源240Aが組み込まれた電力制御ユニット210Aによって駆動されるスタータ/発電機200A、及び、従来型電池から構成され得るエネルギー源220Bと、スーパーキャパシタから構成され得る急速起動エネルギー源240Bが組み込まれた電力制御ユニット210Bによって駆動されるスタータ/発電機200Bとを備え、
前記エネルギー源220A及び220Bは、前記ヘリコプター140上の様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給するために使用され、スタータ/発電機200A及び200Bによって充電される、
ヘリコプター140のマルチエンジン推進システム。」

(タ)また、上記(キ)及び(ク)に摘記した事項から、次の技術的事項(以下、「引用文献1技術的事項1」という。)が把握される。

《引用文献1技術的事項1》
前記エネルギー源220A及び220Bの例示的な出力電圧が28ボルトであり、前記急速起動エネルギー源240A及び240Bの例示的な出力電圧が200ボルトであり得ること。

(チ)さらに、上記(エ)に摘記した事項から、次の技術的事項(以下、「引用文献1技術的事項2」という。)が把握される。

《引用文献1技術的事項2》
前記エンジン160A,160Bは、1つまたは複数の発電機、ポンプ、様々な機械的または電気的負荷、および/または他の航空機付属品または負荷を含むものであり得ること。

イ.引用文献2の記載等
本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用した仏国特許出願公開第2990573号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、「SYSTEME DE COMMANDE ET D'ALIMENTATION EN ENERGIE DES TURBOMACHINES D'UN HELICOPTERE」(当審訳:ヘリコプタタービン用制御・電力供給システム)の発明に関して、図面とともに次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

《引用文献2記載事項》


」(3頁19行ないし4頁9行)
(当審訳:図1は、ガス発生器12A、14Aをそれぞれ有する2つのタービンエンジン12、14それぞれと係合されるMGB10、ガス発生器によって発生したガス流によって駆動されるフリータービン12B、14B、および発電機として動作可能であり、かつガス発生器に機械的に連結された電気モータで構成される可逆電気機械12C、14Cを示している。図面では、参照番号16は、始動発電機(S/G)を形成する電気機械18に機械的に連結される補助動力装置(APU)を指し、参照番号20はバッテリを指している。始動発電機18は、一般に、コンタクタ22を介して115ボルトAC(Vac)で三相電力を供給し、バッテリ20は、一般に、コンタクタ24を介して28ボルトDC(Vdc)で電力を供給し、これらの電圧は共に航空業界では一般的であり、電力は制御装置26の制御下で供給される。
本発明において、ヘリコプタのモータ発電機12C、14C用の電気制御・電力供給システム28は、電子制御回路34によって作動される接続マトリックス32のコンタクタ320、322、324、326、328、330の位置に応じてモータ発電機に交流電力を選択的に供給する第1のDC/ACコンバータ30を備え、この第1のDC/ACコンバータ自身は、DC電圧を供給しており、始動発電機18によって供給されるAC電圧を整流するためのダイオード整流回路36(非制御整流器)、もしくはバッテリ20から電力を供給される電圧ブースタDC/DCコンバータ38によって形成される電力供給装置を介してDC電力を供給される。)

(3)対比
引用発明と本件補正発明とを対比する。
引用発明の「ヘリコプター140」は、「複数のロータ120を駆動するためのシャフト動力を生成するように構成されたターボシャフトエンジン160A及び160B」を備えるものであるから、前記「ヘリコプター140」は本件補正発明の「多発ヘリコプタ」に相当し、同様に、「前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bとロータ120とを、ロータ120が前記ターボシャフトエンジン160A、前記ターボシャフトエンジン160B、または前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bの両方によって同時に駆動されるように、係合可能である」という「ギアボックス190」は「動力伝達ギアボックス」に相当し、「ヘリコプター140のマルチエンジン推進システム」は、「多発ヘリコプタの推進システムの構造」に相当する。

また、引用発明の「エネルギー源220A及び220B」は、「ヘリコプター140上の様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給するために使用され」るものであり、前記「様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給する」ための供給路は、本件補正発明の「直流低電圧機上ネットワーク」に対応するものであることを踏まえると、引用発明の「エネルギー源220A及び220Bは、前記ヘリコプター140上の様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給するために使用され、スタータ/発電機200A及び200Bによって充電される」ることと、本件補正発明の「飛行中にヘリコプタ機器に電力を供給する直流低電圧機上ネットワーク」及び「前記機上ネットワーク(7)用の少なくとも2つの電力源(4、16、18)」とは、「飛行中にヘリコプタ機器に電力を供給する機上ネットワーク」及び「前記機上ネットワーク用の電力源」という限りにおいて一致する。

そして、引用発明の「ターボシャフトエンジン160A及び160B」は、「前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bののうちの一方のみが運転され、ロータ120を駆動する一方で、他方が、シャットダウン状態にあるときに、前記他方を急速に始動させる」るものであるから、その双方が、本件補正発明において「ヘリコプタの安定飛行中、他のターボシャフトエンジン(2)だけがこの安定飛行中に動作する状態で、少なくとも1つの待機モードで動作する能力がある」という「ハイブリッド型ターボシャフトエンジン(1)」と呼ばれ得るものである。
ゆえに、引用発明の「前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bののうちの一方のみが運転され、ロータ120を駆動する一方で、他方が、シャットダウン状態にあるときに、前記他方を急速に始動させる」と、本件補正発明の「ハイブリッド型ターボシャフトエンジン(1)と呼ばれる、前記ターボシャフトエンジンの中の1つのターボシャフトエンジンであって、ヘリコプタの安定飛行中、他のターボシャフトエンジン(2)だけがこの安定飛行中に動作する状態で、少なくとも1つの待機モードで動作する能力があるただ1つのターボシャフトエンジン(1)」とは、「ハイブリッド型ターボシャフトエンジンと呼ばれる、前記ターボシャフトエンジンの中の1つのターボシャフトエンジンであって、ヘリコプタの安定飛行中、他のターボシャフトエンジンだけがこの安定飛行中に動作する状態で、少なくとも1つの待機モードで動作する能力があるターボシャフトエンジン」という限りにおいて一致する。

さらに、引用発明の「電力制御ユニット210A」及び「電力制御ユニット210B」は、「前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bのうちの一方のみが運転され、ロータ120を駆動する一方で、他方が、シャットダウン状態にあるときに、前記他方を急速に始動させるため」のものであり、本件補正発明の「電気技術式パック(20)」ないし「再始動パック(20)」に対応するところ、前記「電力制御ユニット210A」及び「電力制御ユニット210B」に組み込まれる「エネルギー源220A及び220B」は、「ヘリコプター140上の様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給するために使用され」るものであることを踏まえると、引用発明の「前記ターボシャフトエンジン160A及び160Bのうちの一方のみが運転され、ロータ120を駆動する一方で、他方が、シャットダウン状態にあるときに、前記他方を急速に始動させるために、従来型電池から構成され得るエネルギー源220Aと、スーパーキャパシタから構成され得る急速起動エネルギー源240Aが組み込まれた電力制御ユニット210Aによって駆動されるスタータ/発電機200A、及び、従来型電池から構成され得るエネルギー源220Bと、スーパーキャパシタから構成され得る急速起動エネルギー源240Bが組み込まれた電力制御ユニット210Bによって駆動されるスタータ/発電機200Bとを備え」と、本件補正発明の「前記エンジンを前記待機モードから引き出し、それが機械的動力を前記動力伝達ギアボックスに提供する公称モードと呼ばれるモードに到達するために、前記ハイブリッド型ターボシャフトエンジンを急速に再始動させる電気技術式パック(20)であって、前記再始動パック(20)が前記機上ネットワーク(7)に接続された電気技術式パック(20)」とは、「前記エンジンを前記待機モードから引き出し、それが機械的動力を前記動力伝達ギアボックスに提供する公称モードと呼ばれるモードに到達するために、前記ハイブリッド型ターボシャフトエンジンを急速に再始動させる電気技術式パックであって、前記再始動させる電気技術式パックが前記機上ネットワークに接続された電気技術式パック」という限りにおいて一致する。

してみると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

《一致点》
「動力伝達ギアボックスに接続されたターボシャフトエンジンを備え、飛行中にヘリコプタ機器に電力を供給する機上ネットワークを備える多発ヘリコプタの推進システムの構造であって、
ハイブリッド型ターボシャフトエンジンと呼ばれる、前記ターボシャフトエンジンの中の1つのターボシャフトエンジンであって、ヘリコプタの安定飛行中、他のターボシャフトエンジンだけがこの安定飛行中に動作する状態で、少なくとも1つの待機モードで動作する能力があるターボシャフトエンジンと、
前記エンジンを前記待機モードから引き出し、それが機械的動力を前記動力伝達ギアボックスに提供する公称モードと呼ばれるモードに到達するために、前記ハイブリッド型ターボシャフトエンジンを急速に再始動させる電気技術式パックであって、前記再始動させる電気技術式パックが前記機上ネットワークに接続された電気技術式パックと、
前記機上ネットワーク用の電力源と、
を備える構造。」

《相違点1》
ハイブリッド型ターボシャフトエンジンと呼ばれる、ターボシャフトエンジンの数が、本件補正発明では、「ただ一つ」であるのに対し、引用発明の「ターボシャフトエンジン160A及び160B」は、双方が、ハイブリッド型ターボシャフトエンジンと呼ばれ得るものであって、ただ一つではない点。

《相違点2》
機上ネットワーク及び当該機上ネットワーク用の電力源の数が、本件補正発明では、「直流低電圧機上ネットワーク」であって、その電源の数が「少なくとも2つ」であるのに対し、引用発明では、そのようには規定されていない点。

(4)判断
ア.相違点1について
引用発明の「ターボシャフトエンジン160A及び160B」は、双方が、ハイブリッド型ターボシャフトエンジンと呼ばれ得るものであって、「その一方のみが運転され、ロータ120を駆動する一方で、他方が、シャットダウン状態にあるときに、前記他方を急速に始動させる」ことを相互に行い得るものであるから、ハイブリッド型ターボシャフトエンジンが「ただ一つ」しかないものに比して、より安全性が高いと解されるとともに、構造の重量が増しや部品点数も多く製造コストもかかることは、当業者が普通に想定し得ることであるところ、引用文献1には、「ターボシャフトエンジン160A」または「ターボシャフトエンジン160B」のうちの一方のみを、ハイブリッド型ターボシャフトエンジンと呼ばれ得るものとする旨の直接的な記載はないが、これを積極的に禁止する記載もない。
そして、多発ヘリコプタの推進システムの構造を検討するにあたり、安全性の高さと、構造の重量の軽減、部品点数の減少及び製造コストの安さとのどちらを優先させるかは、製品化のための総予算等を考慮し、当業者が適宜決定し得る事項であるところ、引用発明に接した当業者が、「ターボシャフトエンジン160A」または「ターボシャフトエンジン160B」のうちの一方のみを、ハイブリッド型ターボシャフトエンジンと呼ばれ得るものとするようにその構成を変更することは、格別の創意を要することなくなし得たことというべきである。

イ.相違点2について
上記(2)ア(タ)及び(チ)に示したように、引用文献1には、引用発明に加え、《引用文献1技術的事項1》である「前記エネルギー源220A及び220Bの例示的な出力電圧が28ボルトであり、前記急速起動エネルギー源240A及び240Bの例示的な出力電圧が200ボルトであり得ること。」及び《引用文献1技術的事項2》である「前記エンジン160A,160Bは、1つまたは複数の発電機、ポンプ、様々な機械的または電気的負荷、および/または他の航空機付属品または負荷を含むものであり得ること。」が記載されている。
また、上記(2)イに摘記した《引用文献2記載事項》から、「ヘリコプターでは、115Vの交流による電力と28Vの直流による電力、すなわち、交流電力と当該交流電力よりも低電圧である28ボルトの直流電力の2系統の電力が供給されることが一般的であるとの技術的事項が、本願の優先日前に周知であったといえる(以下、前記技術的事項を、「引用文献2に例示される周知技術」という。)。
してみると、前記《引用文献1技術的事項1》に接した当業者であれば、引用発明において、「エネルギー源220A及び220B」から、「ヘリコプター140上の様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給する」ための供給路、すなわち、「機上ネットワーク」で供給される電力を、直流28ボルトという、直流低電圧とすることは、当業者が適宜なし得たことであり、このことは、引用文献2に例示される周知技術とも矛盾しないことであるし、さらに、前記《引用文献1技術的事項2》に接した当業者であれば、前記「ヘリコプター140上の様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給する」ための供給路用の電源、すなわち、「機上ネットワーク」用の電源を、「スタータ/発電機200A及び200B」に加えて、「エンジン160A,160B」で駆動される、前記「スタータ/発電機200A及び200B」とは別の「1つまたは複数の発電機」とすることも、当業者が適宜なし得たことである。

ウ.本件補正発明の作用効果について
上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項に関し、本件特許明細書の段落【0023】に記載された「このように本発明による構造は、ただ1つのターボシャフトエンジンだけが待機モードに置かれることが可能であるということを提供することによって、構成要素の数を最小限にする。ハイブリッド型ターボシャフトエンジンだけに電気技術式再始動パックが設けられ、このように推進システムの総重量を制限する。」という作用効果は、引用発明に接した当業者が、安全性よりも構造の重量の軽減、部品点数の減少及び製造コストの安さを優先させることの決定に伴い、普通に想定される作用効果にすぎない。
また、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項に関し、本件特許明細書の段落【0024】に記載された「したがって、構造はOBNに電力を供給するための発電に重複性を有し、それは、OBN用の第1電源に起こり得る故障が第2電源によって補償されることを意味する。」という作用効果は、引用発明に接した当業者が、「様々な装置(複数可)/アクセサリ(複数可)に電力を供給する」ための供給路用の電力源、すなわち、「機上ネットワーク用の電力源」を複数化したことに伴い、普通に想定される作用効果にすぎない。
したがって、本件補正発明が奏する作用効果は、引用発明、引用文献1技術的事項1、引用文献1技術的事項2及び引用文献2に例示される周知技術に接した当業者が予測し難いものとはいえない。

(5)小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献1技術的事項1、引用文献1技術的事項2及び引用文献2に例示される周知技術に基いて、本願の優先日前に、当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定の規定に違反してなされたものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、その国際出願時に願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1、2、7ないし9
・引用文献等 (1)及び(2)

・請求項 3ないし5
・引用文献等 (1)ないし(3)

<引用文献等一覧>
(1)米国特許出願公開第2013/0086919号明細書
(2)仏国特許出願公開第2990573号明細書(周知技術を示す文献)
(3)仏国特許出願公開第2992630号明細書

3 引用文献の記載、引用発明、
引用文献(1)及び(2)の記載事項、引用発明は、上記第2 2(2)ア及びイに示したとおりである。

4 判断
本願発明は、本件補正発明の発明特定事項である「ハイブリッド型ターボシャフトエンジン(1)と呼ばれる」「ターボシャフトエンジン(1)」について、「ただ一つの」という限定を省いたものであって、その余の発明特定事項を本件補正発明と同じくするものである。
したがって、本願発明は、上記第2に示した理由と同様の理由により、引用発明、引用文献1技術的事項1、引用文献1技術的事項2及び引用文献2に例示される周知技術に基いて、本願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり,本願発明は、引用発明、引用文献1技術的事項1、引用文献1技術的事項2及び引用文献2に例示される周知技術に基いて、本願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであって、原査定は妥当である。
よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-11-05 
結審通知日 2020-11-10 
審決日 2020-11-26 
出願番号 特願2016-558383(P2016-558383)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 勝広  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 西中村 健一
渡邊 豊英
発明の名称 多発ヘリコプタ推進システムの構造、および対応するヘリコプタ  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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