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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1373099
審判番号 不服2020-7059  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-25 
確定日 2021-04-14 
事件の表示 特願2018- 86056「プロセス材料の濃度を決定する工程における関連マトリックスの自動切り換え」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月13日出願公開、特開2018-141803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2014年(平成26年)7月18日(パリ条約による優先権主張、2013年7月19日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2016-527143の一部を平成30年4月27日に新たな特許出願としたものであって、平成30年5月2日に手続補正書が提出され、平成31年4月24日付けで拒絶理由が通知され、令和元年8月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年1月30日付けで拒絶査定(原査定)がされたところ、同年5月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は、令和元年8月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「 【請求項1】
少なくとも2つ以上のプロセス材料マトリックスを格納したメータを用いて、プロセスライン内の第1のプロセス材料を検知し、2つ以上のプロセス材料マトリックスは、第1のプロセス材料に関連した第1のプロセス材料マトリックスと第2のプロセス材料に関連した第2のプロセス材料マトリックスを含み、第1のプロセス材料は第2のプロセス材料とは異なる方法であって、
第1のプロセス材料のライン密度を測定する工程と、
第1のプロセス材料のライン温度を測定する工程と、
ライン密度が第1の密度範囲内にあり、ライン温度が第1の温度範囲内にあると判断したときに、2つ以上のマトリックスから第1のプロセス材料マトリックスを識別する工程であって、第1のプロセス材料マトリックスは、第1の密度範囲及び第1の温度範囲における第1のプロセス材料の第1の濃度範囲を含み、第2のプロセス材料マトリックスは、第2の密度範囲及び第2の温度範囲における第2のプロセス材料の第2の濃度範囲を含む、方法。」


第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし13に係る発明は、その優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開平9-113433号公報
引用文献2:Micro Motion 7826/7828 Insertion Liquid Density Meters; Installation and Configuration Manual,[online],2011年 4月,Pages 1-6, 91-96,[平成29年1月12日検索],インターネット, 引用文献3:特開平7-294406号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2008-232890号公報(周知技術を示す文献)


第4 引用文献の記載及び引用発明

(1)引用文献1について

ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審において付加した。引用文献の記載について以下同様。)。

(引1-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は密度計に係り、特に複数種の被測流体が切り換えられて各被測流体の密度を測定するよう構成した密度計に関する。
【0002】
【従来の技術】密度計の中には、振動するセンサチューブの固有振動数をピックアップにより検出し、その検出信号の周波数又は周期からを流体の密度を測定する振動式密度計がある。この種の振動式密度計は、コリオリ式質量流量計と同一構成である。
【0003】即ち、振動式密度計は、被測流体が通過する直管状のセンサチューブを加振器(駆動コイルと磁石とよりなる)により半径方向に振動させ、流量に比例したコリオリ力による一対のセンサチューブの相対変位をピックアップ(センサコイルと磁石とよりなる)により検出するよう構成されている。
【0004】そして、振動式密度計では、ピックアップから出力された信号の周波数からセンサチューブの固有振動数又は固有周期を得ると共に、演算部が所定の演算式に基づいて固有振動数から被測流体の密度を演算していた。また、流体の密度は温度によって変化するため、予め既知の温度-密度特性が演算式に入力されており、そのときの流体温度に応じた密度を演算していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、計測する流体の種類が変更されるときは、上記温度-密度特性も変える必要がある。そのため、従来の密度計においては、被測流体の種類を変更する場合、その都度、作業者がプリセットスイッチあるいはセレクトスイッチを操作することにより被測流体の種類に応じた温度-密度特性が組み込まれた演算式を設定するかあるいは演算式を切り換えるようにしていた。
【0006】例えば、時間帯によって種類の異なる流体が流れる管路に密度計が配設された構成では、流体の種類が変更される度に作業者が演算式の切り換え操作を行わなければならず、その操作が面倒であるばかりか、作業者が演算式の切り換え操作を忘れたり、あるいは操作ミスにより被測流体に対応しない演算式に切り換えてしまったりするおそれがあった。
【0007】そこで、本発明は上記問題を解決した密度計を提供することを目的とする。」

(引1-イ)「【0025】26は密度演算回路で、後述するようにピックアップユニット20,21からの出力信号及び温度センサ25により測定された被測流体の温度に基づいて被測流体の密度を演算する。図2は密度演算回路26のブロック図である。
【0026】密度演算回路26は、周波数測定回路27と、密度演算部28と、記憶部29とからなる。周波数測定回路27はピックアップユニット20,21から出力された信号からセンサチューブ7,8の固有振動数を測定する。そして、周波数測定回路27により測定されたセンサチューブ7,8の固有振動数又は固有周期は密度演算部28に入力される。
【0027】密度演算部28は、周波数測定回路27により測定されたセンサチューブ7,8の固有振動数又は固有周期に基づいてセンサチューブ7,8を流れる被測流体の密度を所定の演算式で演算する。上記記憶部29には、被測流体の温度t_(1)、センサチューブ7,8の振動周期(又は周波数)I_(1)のときの密度ρ_(1)を算出する演算式(1)が記憶されている。
【0028】
ρ_(1)=f(t_(1),I_(1)) … (1)
密度演算部28は、演算式(1)の演算を行って温度t_(1)のときの密度ρ_(1)を求めた後、後述するように被測流体の種類を判別して記憶部29に記憶された密度-温度特性の演算式を選択し、選択された演算式に基づいて基準温度に対応する被測流体の密度を演算し、その演算結果を表示部30に表示する。
【0029】図3は2種類の流体の密度-温度特性を示すグラフである。記憶部29には、各被測流体の種類毎の密度-温度特性が記憶されている。例えば上記振動式密度計1が配設される管路に2種類の流体が流れる場合には、予め当該2種類の流体の密度-温度特性を実験により求めておき、この密度-温度特性を記憶部29に記憶させておく。
【0030】本実施例では、記憶部29に2種類の流体に対応する密度-温度特性A,B(図3中、実線で示す)を表す式が予め記憶されている。
特性A → ρ_(A)=a(t_(1)-t_(0))+ρ_(0) … (2)
特性B → ρ_(A)=b(t_(1)-t_(0))+ρ_(2) … (3)
(当審注:前後の文脈から、(3)式中の「ρ_(A)」は、「ρ_(B)」の誤記と認める。)
(a,bは被測流体固有の係数、t_(1)は被測流体の温度、t_(0)は基準温度)
この密度-温度特性A,Bは、実験で得られたものであるため、実際の計測値とずれることがある。そこで、本実施例では、密度-温度特性A,Bに対して±10%の許容範囲(図3中、破線で示す)を設定しており、上記(1)式で演算された密度ρが密度-温度特性A又はBのどちらの許容範囲に入るのかを判定することにより被測流体の密度-温度特性式を(2)(3)の中から選択するようにしている。
【0031】そのため、上記(1)?(3)式の演算の後、密度-温度特性A,Bの±10%の許容範囲判定の演算(演算式選択手段)を行う。よって、記憶部29には、次式(4)(5)が記憶されている。
特性Aの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)≦0.1…(4)
特性Bの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)≦0.1…(5)
今、計測した密度が温度t_(1)において密度ρ_(1)でa点とすると、a点はA式の許容範囲内に入っているので、特性Aの(2)式で換算すると基準温度t_(0)においてはb点となり密度ρ_(0)が求まる。
【0032】また、計測した密度が温度t_(1)において密度ρ_(3)でc点であるきは、c点がB式の許容範囲内に入っているので、特性Bの(3)式で換算すると基準温度t_(0)においてはd点となり密度ρ_(2)が求まる。このように、計測した密度がρ_(0)?ρ_(1)の±10%の許容範囲に入るのか、あるいは計測した密度がρ_(2)?ρ_(3)の±10%の許容範囲に入るのかを判定することにより計測中の被測流体の密度が密度-温度特性AかBかを判定することができる。尚、計測中の被測流体の密度が密度-温度特性A又はBの許容範囲に入らない場合には、演算不可能であるのでエラーを表示させる。
【0033】また、記憶部29には、計測された被測流体の密度ρ_(1)を基準温度t_(0)の密度ρ_(0)に補正するための基準温度補正演算式(6)(7)が記憶されている。
ρ_(0)=ρ_(A0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)} … (6)
ρ_(0)=ρ_(B0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)} … (7)
ここで、上記密度演算回路26が実行する密度演算処理につき図4のフローチャートを参照して説明する。
【0034】密度演算回路26は、ステップS1(以下「ステップ」を省略する)において、温度センサ25により計測された被測流体の温度t_(1)を読み込む。次にS2でピックアップユニット20,21から出力された信号の波形から振動周期I_(1)を測定する。
【0035】次のS3では、前述した(1)式の演算を行う。すなわち、密度演算式ρ=f(t_(1),I_(1))の演算を実行して温度t_(1)の被測流体の密度ρ_(1)を求める。続いて、S4に進み、記憶部29に記憶された密度-温度特性A,Bの(2)(3)式の演算を行って温度t_(1)のときの密度ρ_(A1), ρ_(B1)を求める。
【0036】S5では、温度t_(1)のとき被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っているか否かを判定する。すなわち、S5においては、前述した(4)式の演算を行う。そして、S5において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っている場合には、S6に進み、(2)式に基づいて基準温度t_(0)のときの密度ρ_(A0)を算出する。
【0037】そして、S7では、上記(2)式により算出された基準温度t_(0)のときの密度ρ_(A0)を上記密度ρ_(1)と密度ρ_(A1)との差に基づいて補正することにより計測中の被測流体の密度ρ_(0)を算出する。すなわち、前述した基準温度補正演算式(6)の演算を行って基準温度t_(0)に対応する被測流体の密度ρ_(0)を求める。その後、S8に進み、S7で算出された密度ρ_(0)を基準温度での被測流体の密度として外部に出力すると共に、表示部30に表示させる。尚、S8の処理が終了すると、再びS1に戻り、上記S1以降の処理を繰り返す。
【0038】また、上記S5において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っていない場合には、S9に進み、温度t_(1)のとき被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Bの密度ρ_(B1)の±10%以内に入っているか否かを判定する。すなわち、S9においては、前述した(5)式の演算を行う。
【0039】上記S9において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Bの密度ρ_(B1)の±10%以内に入っている場合には、S10に進み、(3)式に基づいて基準温度t_(0)のときの密度ρ_(B0)を算出する。そして、S11では、上記(3)式により算出された基準温度t_(0)のときの密度ρ_(A0)を上記密度ρ_(1)と密度ρ_(A1)との差に基づいて補正することにより計測中の被測流体の密度ρ_(0)を算出する。すなわち、前述した基準温度補正演算式(7)の演算を行って基準温度t_(0)に対応する被測流体の密度ρ_(0)を求める。その後、S8に移行して、S11で算出された密度ρ_(0)を基準温度での被測流体の密度として外部に出力すると共に、表示部30に表示させる。また、S8の処理が終了すると、再びS1に戻り、上記S1?S11の処理を繰り返す。
【0040】尚、上記S9において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Bの密度ρ_(B1)の±10%以内に入っていない場合には、S12に進み、エラーを表示部30に表示させてS1に戻り、再度密度演算処理をやり直す。このように複数種の被測流体が順次給送される給送ラインにおいて、計測された密度が密度-温度特性A,Bの許容範囲内に入っていれば複数種の被測流体の密度を自動的に測定することができるので、従来のように被測流体が切り換わる度に密度-温度特性の演算式の設定を切り換えるといった面倒な操作が不要であり、作業者が演算式の切り換え操作を忘れたり、あるいは操作ミスにより被測流体に対応しない演算式に切り換えてしまったりするといった問題を解消することができる。
【0041】しかも、2種類の密度-温度特性A,Bを設定しておくことにより、測定された被測流体の密度を基準温度に対する密度に補正して正確な密度を求めることができる。また、記憶部29には、上記密度-温度特性A,Bの2種類に限らず、3種類以上の密度-温度特性の演算式を記憶させるようにしても良い。」

(引1-ウ)【図2】




(引1-エ)【図3】




(引1-オ)【図4】




イ 引用文献1に記載された発明

(ア)上記(引1-イ)の「【0029】図3は2種類の流体の密度-温度特性を示すグラフである。記憶部29には、各被測流体の種類毎の密度-温度特性が記憶されている。例えば上記振動式密度計1が配設される管路に2種類の流体が流れる場合には、予め当該2種類の流体の密度-温度特性を実験により求めておき、この密度-温度特性を記憶部29に記憶させておく。
【0030】本実施例では、記憶部29に2種類の流体に対応する密度-温度特性A,B(図3中、実線で示す)を表す式が予め記憶されている。」との記載から、「2種類の流体に対応する密度-温度特性A,B」は、「2種類の被測流体A,Bに対応する密度-温度特性A,B」であるといえる。

(イ)上記(ア)を踏まえると、上記(引1-ア)ないし(引1-オ)の記載から、引用文献1には、

「 複数種の被測流体が順次給送される給送ラインに配設され、複数種の被測流体が切り換えられて各被測流体の密度を測定するよう構成した密度計の密度演算回路26において、ピックアップユニット20,21からの出力信号及び温度センサ25により測定された被測流体の温度に基づいて被測流体の密度を演算する方法であって、
密度演算回路26は、周波数測定回路27と、密度演算部28と、記憶部29とからなり、
記憶部29には、
被測流体の温度t_(1)、センサチューブ7,8の振動周期(又は周波数)I_(1)のときの密度ρ_(1)を算出する演算式(1)
ρ_(1)=f(t_(1),I_(1)) … (1)
2種類の被測流体A,Bに対応する密度-温度特性A,Bを表す(2)(3)式
特性A → ρ_(A)=a(t_(1)-t_(0))+ρ_(0) … (2)
特性B → ρ_(B)=b(t_(1)-t_(0))+ρ_(2) … (3)
(a,bは被測流体固有の係数、t_(1)は被測流体の温度、t_(0)は基準温度)
密度-温度特性A,Bの±10%の許容範囲判定の演算を行うための(4)(5)式
特性Aの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)≦0.1…(4)
特性Bの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)≦0.1…(5)
計測された被測流体の密度ρ_(1)を基準温度t_(0)の密度ρ_(0)に補正するための基準温度補正演算式(6)(7)
ρ_(0)=ρ_(A0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)} … (6)
ρ_(0)=ρ_(B0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)} … (7)
が記憶されており、
密度演算回路26は、
温度センサ25により計測された被測流体の温度t_(1)を読み込むステップS1、
ピックアップユニット20,21から出力された信号の波形から振動周期I_(1)を測定するステップS2、
(1)式の演算を実行して温度t_(1)の被測流体の密度ρ_(1)を求めるステップS3、
(2)(3)式の演算を行って温度t_(1)のときの密度ρ_(A1), ρ_(B1)を求めるステップS4、
(4)式の演算を行って、温度t_(1)のとき被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っているか否かを判定するステップS5、
ステップS5において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っている場合に、(2)式に基づいて基準温度t_(0)のときの密度ρ_(A0)を算出するステップS6、
基準温度補正演算式(6)の演算を行って基準温度t_(0)に対応する被測流体の密度ρ_(0)を求めるステップS7、
ステップS5において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っていない場合に、(5)式の演算を行って、温度t_(1)のとき被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Bの密度ρ_(B1)の±10%以内に入っているか否かを判定するステップS9、
ステップS9において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Bの密度ρ_(B1)の±10%以内に入っている場合に、(3)式に基づいて基準温度t_(0)のときの密度ρ_(B0)を算出するステップS10、
基準温度補正演算式(7)の演算を行って基準温度t_(0)に対応する被測流体の密度ρ_(0)を求めるステップS11、
ステップS9において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Bの密度ρ_(B1)の±10%以内に入っていない場合に、エラーを表示部30に表示させるステップS12、
及び、ステップS7で算出された密度ρ_(0)又はステップS11で算出された密度ρ_(0)を基準温度での被測流体の密度として外部に出力すると共に、表示部30に表示させるステップS8
の密度演算処理を実行する、方法。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)引用文献2について

ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献2には、以下の記載がある。

(引2-ア)第1頁下から4行?第2頁3行
「1.2 About the 7826/7828 liquid density meter
1.2.1 What is it?
The 7826/7828 liquid density meter is based on the proven tuning fork technology. It is an all-welded sensor that is designed for insertion into a pipeline, open tank, or closed tank.
Fluid density is determined directly from the resonant frequency of the tuning fork immersed in the fluid. A temperature sensor (RTD) is also fitted within the transmitter to indicate the operating temperature.」
(和訳:1.2 7826 / 7828液体密度計について
1.2.1 それは何ですか?
7826/7828液体密度計は、実績のある音叉技術に基づいています。これは、パイプライン、オープンタンク又はクローズドタンクに挿入するために設計された全溶接センサです。
流体密度は、流体に浸された音叉の共振周波数から直接決定されます。温度センサ(RTD)も送信機内に取り付けられ、動作温度を示します。)

(引2-イ)第2頁下から8行?第3頁下から4行
「1.2.2 What is it used for?
The 7826/7828 meter is ideally suited to applications where continuous, real-time measurement of density is required. For example, it can be used in process control where density is the primary control parameter for the end product, or is an indicator of some other quality control parameter such as % solids, or % concentration.

1.2.3 Measurements and calculations
The Advanced electronics version contains integral processing electronics to provide full in-situ configuration, enabling it to perform a variety of calculations.
The 7826/7828 meter continuously measures the following fluid properties:
・Line density (measured in kg/m^(3), g/cc, lb/gal, or lb/ft^(3))
・ Operating temperature (measured in °C or °F)
From these properties, the following are calculated:
・ API base density at 15 °C, 1.013 bar (60 °F, 14.5 psi)
・ Base density (by using the matrix referral method)
・°API
・ Specific gravity
・ Special function calculations such as °Brix, °Baume, °Twaddle, % solids, etc.

1.2.4 Outputs from frequency output version (7826 meter only)
Outputs from the frequency output version of the 7826 meter include:
・ Line density in g/cc - as a frequency (periodic time) signal
・ Line (operating) temperature in °C - as a RTD signal
These outputs can be taken directly in by a 795x signal converter (or flow computer), which can then calculate live density-related parameters:
・ Base/referred density (using API tables or a matrix referral)
・ Specific gravity
・°API
・°Brix
・ % Solids
・ % Mass
・ % Volume
・ % Concentration
Note: Features vary between versions and issues of 795x liquid software.
For information on electrical connections between the 7826 meter and a 795x unit, see the Electrical Connections (Frequency Output) chapter.」
(和訳:1.2.2 それは何のために使われますか?
7826/7828メーターは、密度の連続的なリアルタイム測定が必要なアプリケーションに最適です。例えば、密度が最終製品の主要な制御パラメータであるプロセス制御、又は%固形分や%濃度などの他の品質管理パラメータの指標であるプロセス制御で使用できます。

1.2.3 測定と計算
Advanced electronicsバージョンには、完全なin-situ構成を提供する統合処理電子機器が含まれており、さまざまな計算を実行できます。
7826/7828メーターは、次の流体特性を継続的に測定します。
・ライン密度(kg / m^(3)、g / cc、lb / gal、又はlb / ft^(3)で測定)
・動作温度(℃又は°Fで測定)
これらのプロパティから、以下が計算されます。
・15℃、1.013 bar(60°F、14.5 psi)でのAPI基準密度
・基準密度(マトリックス参照法を使用)
・°API
・比重
・°Brix、°Baume、°Twaddle、%固形分などの特殊関数の計算

1.2.4 周波数出力バージョンからの出力(7826メーターのみ)
7826メーターの周波数出力バージョンからの出力は以下を含みます。
・周波数(周期時間)信号として、g / cc単位のライン密度
・RTD信号として、℃でのライン(動作)温度
これらの出力は、795x信号コンバーター(又はフローコンピューター)によって直接取り込むことができ、ライブ密度関連のパラメータを計算できます。
・基準/参照密度(APIテーブル又はマトリックス参照を使用)
・比重
・°API
・°Brix
・%固形分
・%質量
・%ボリューム
・%濃度
注:機能は、795x液体ソフトウェアのバージョンと版によって異なります。
7826メーターと795xユニット間の電気接続については、「電気接続(周波数出力)」の章を参照してください。)

(引2-ウ)第91頁1行?第92頁13行
「B.1 Overview
The 7826/7828 liquid density meter is capable of calculating a number of parameters based on the measured line density and temperature. These calculated parameters are often referred to as ‘special functions.’ Only one calculated parameter is available at any one time; it can be used to control the analog (4-20 mA) output, and can also be accessed as a digital value (Modbus Register 260).
This section describes the algorithms used in these calculations.
The availability of the calculated parameters is dependent on whether Matrix or API is chosen as the density referral method.

B.2 Base density referral
Base density is the density of the fluid at a specified base (or referral) temperature which is different to the line (i.e., the actual) temperature of the fluid. Base density can be calculated by either a Matrix referral method or by the API Referral method.

B.2.1 Matrix density referral
The Matrix Density Referral method uses a process of interpolation and extrapolation between a matrix of known density and temperature reference points to determine the liquid density at a specified base temperature different to the line temperature. A typical referral matrix is shown below.

The lines D1 to D4 plot the density of four product types for which the density is known at five different reference temperatures, T1 to T5. Using this information, and the measured line density and temperature, the 7826/7828 meter calculates the base density at the base temperature.
The information required for the referral is:
・Five reference temperatures
・The density for each of four product types at the five reference temperatures (20 reference points in all)
・The base temperature, which must be one of the five reference temperatures.
All 20 reference points must be specified, otherwise the 7826/7828 meter cannot calculate the base density. If you do not have all the relevant data, enter a sensible estimate for the missing reference points.
The easiest way of entering these values is by using the Board Configuration facility of ADView.
Section 4 tells you how to do this.」
(和訳:B.1 概要
7826/7828液体密度計は、測定されたライン密度と温度に基づいていくつかのパラメータを計算することができます。これらの計算されたパラメータは、「特殊関数」と呼ばれることがよくあります。一度に使用できる計算されたパラメータは1つだけです。アナログ(4?20 mA)出力の制御に使用でき、デジタル値としてアクセスすることもできます(Modbusレジスタ260)。
このセクションでは、これらの計算で使用されるアルゴリズムについて説明します。
計算されたパラメータの可用性は、密度参照方法としてマトリックス又はAPIのどちらが選択されているかによって異なります。


B.2 基準密度参照
基準密度は、流体のライン(つまり実際の)温度とは異なる指定された基準(又は参照)温度での流体の密度です。基準密度は、マトリックス参照法又はAPI参照法のいずれかによって計算できます。

B.2.1 マトリックス密度参照
マトリックス密度参照法は、参照点での既知の密度と温度のマトリックス間の内挿と外挿のプロセスを使用して、ライン温度とは異なる指定された基準温度での液体密度を決定します。典型的な参照マトリックスを以下に示します。
(図略)
線D_(1)からD_(4)は、5つの異なる参照温度T_(1)からT_(5)で密度が既知の4つの製品タイプの密度をプロットします。この情報並びに測定されたライン密度及び温度を使用して、7826/7828メーターは基準温度での基準密度を計算します。
参照に必要な情報は次のとおりです。
・5つの参照温度
・5つの参照温度での4つの製品タイプそれぞれの密度(全部で20個の参照点)
・基準温度。5つの基準温度のいずれかである必要があります。
20個の参照点全てを指定する必要があります。指定しないと、7826/7828メーターは基準密度を計算できません。関連する全てのデータがない場合は、欠落している参照点の適切な推定値を入力してください。
これらの値を入力する最も簡単な方法は、ADViewのボード構成機能を使用することです。
セクション4では、これを行う方法について説明します。)

(引2-エ)第94頁15行?第95頁下から5行
「B.3 Calculated parameters
These are also known as Special Functions.
・・・
B.3.5 % Mass

Where:
K_(1) = base density of product A
K_(2) = base density of product B
ρ_(B) = base density of mixture

B.3.6 % Volume

Where:
K_(1) = base density of product A
K_(2) = base density of product B
ρ_(B) = base density of mixture」
(和訳:B.3計算されたパラメータ
これらは、特殊関数とも呼ばれます。
・・・
B.3.5 %質量

ここで:
K_(1 )=製品Aの基準密度
K_(2) =製品Bの基準密度
ρ_(B)=混合物の基準密度

B.3.6 %ボリューム

ここで:
K_(1 )=製品Aの基準密度
K_(2) =製品Bの基準密度
ρ_(B)=混合物の基準密度)

イ 引用文献2に記載された技術事項

上記(引2-ア)ないし(引2-エ)の記載から、引用文献2には、

「 7826液体密度計は、パイプラインなどに挿入するために設計された全溶接センサであって、温度センサも取り付けられており、
流体特性としてライン密度及び動作温度を継続的に測定し、
5つの参照温度での4つの製品タイプそれぞれの密度(全部で20個の参照点)を指定した参照マトリックスを使用して、基準温度での基準密度を計算したり、
%固形分、%質量、%ボリューム又は%濃度を計算したりすること。」

という技術事項(以下「引用文献2技術事項」という。)が記載されていると認められる。

(3)引用文献3について

ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献3には、以下の記載がある。

(引3-ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、糖度計測装置に関し、より詳細には、糖水溶液(糖液)中のしょ糖の濃度および固形分質量を、密度計測可能なコリオリ流量計を用いて演算出力する糖度計測装置に関する。
【0002】
【従来の技術】食品工業において、一定の品質をもった製品を出荷するために、製品の、味,色,香り,甘味,濃度および糖度等の味覚要素を規定された範囲の値内に保つようにする品質管理を行うことは食品工業のプロセスにとって主要な事項である。例えば、清涼飲料関係のプロセスにおいて、糖液の糖度を、設定された一定の値に保持して出荷することもその一つである。糖液には、通常、主原料としてグラニュウ糖の砂糖が用いられ、ホッパ等で重量計測されたグラニュウ糖に対して流量計測された温水を混合して希釈し、規定の濃度となるように管理されている。
【0003】糖液の濃度(糖度)は、一般にブリックス(Brix)度であらわされている。ブリックス度は、しょ糖の濃度を質量百分率であらわしたもので、通常20℃の温度を基準温度とし、基準温度での値で示されている。
【0004】従来、糖液を製造するプロセスにおいて、糖度を管理するために、屈折計が使用されていた。屈折計は、一定温度に保たれた糖液の屈折率が糖度により定まることを利用した光学計器であり、糖度が目盛られたスケール上に屈折反射された光線を投影し、光線の位置により糖度を計測している。屈折計を用いて糖度を計測するためにプロセスラインから定時的に糖液をサンプリングし、サンプリングされた糖液を屈折計の試料槽に収容して基準温度(例えば、20℃)に保持して糖度が計測されていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】糖液の糖度を一定に保持させるため、プロセスラインから定時的に糖液をサンプリングし、これを屈折計のサンプル容器内に収容して一定温度の糖液として屈折率を計測するためには、時間を要した。すなわち計測が完了したときの糖度は、糖液をサンプリングしてから屈折率の計測が完了するまでの時間が経過した以前にプロセスラインを流れる糖液の値であり、リアルタイムのものではない。このため、計測された糖度は過去のものであり、現時点で流れている糖液は設定された糖度に保持されている保証はなかった。また、サンプリング液を採取して糖度計測を行う作業はプロセス合理化の観点からは無駄な作業であった。
【0006】本発明は、上述の実情に鑑みてなされたもので、プロセスラインを流れる糖液の糖度をオンライン・リアルタイムで計測して、糖液の品質を向上させ、製造工程を無人化することを可能にして合理化を計ることを目的とするものである。」

(引3-イ)「【0010】コリオリ流量計2は、糖液が流れるシステムライン1にフランジ接続される周知の質量流量計であり、測定管3は、システムライン1に連通して糖液が流れる管体で両端部A,Bを支持され、支持部A,Bまわり(紙面と直角方向)に一定の振幅で駆動される。このときの、駆動周波数は糖液を含んだ測定管3の固有振動周波数であり、例えば、測定管3の中央部Cの位置で電磁的に駆動される。
【0011】駆動された測定管3には、測定管3内を流れる糖液の質量流量に比例したコリオリの力が発生し、測定管3の流入側と流出側の対称位置D,Eの間にはコリオリの力に比例した位相差が生ずる。この位相差信号は、例えば、測定管3の位相差検出位置D,Eにおいて基台(図示せず)との間に配設された一対の変位センサ(図示せず)の各々の変位信号に基づいて計測される。コリオリ信号出力端子4は変位センサの変位信号が出力される端子である。
【0012】コリオリ信号出力端子4に出力された各々の変位信号は、質量流量変換器6に入力され、質量流量信号および密度信号が出力される。質量流量は、変位センサから出力される各々の変位信号の位相差に比例した量として求められる。具体的には、測定管3の静止面を基準面として位相差検出位置D,Eの測定管3の両腕部が基準面を通過するときの時間差として検出される。一方、密度は、測定管3の固有振動数の周期に比例した量として求められる。具体的には、密度を何れか一方の検出器から出力される変位信号周期を周期内に取り込まれたクロックの数として求めて糖液の密度Dをディジタル量として検出し、(I/O)8に入力される。
【0013】温度センサ5は、例えば、白金抵抗線等の感温抵抗線であり、測定管3の管壁に貼着され、糖液の温度を抵抗値の関数として求めている。抵抗値のアナログ信号は、温度変換器7に入力され、糖液の温度Tをディジタル信号に変換して(I/O)8に入力され、(I/O)8を介してRAM11に記憶される。
【0014】コリオリ流量計2により計測された糖液の温度Tにおける密度Dは、温度Tにおける値であり、温度Tが変化すると密度Dも変化する。このため、密度Dの値を基準状態で表示することが必要である。基準状態としては、ブリックス度をあらわす基準温度20℃と定め、測定温度Tにおける密度DをTs=20℃における密度Dsに変換される。
【0015】表1は、糖液の温度Tにおける密度Dを基準温度Tsにおける密度Dsに変換するための変換テーブルであり、ROM10に第1記憶情報として記憶されている。コリオリ流量計2により計測されRAM11に記憶された糖液の温度Tの密度Dは、CPU9によりROM10の第1記憶情報と照合され補間演算されて正確な基準温度Tsにおける密度Dsiが求められる。
【0016】
【表1】

【0017】表2は、基準温度Tsに換算された糖液の密度(Ds)と糖度(%)との関係をあらわすテーブルであり、第2記憶情報としてROM10に記憶されている。上記第1記憶情報に基づいて求められた密度Dsiの糖液はCPU9により第2記憶情報を呼び出し照合され補間演算されて正確な糖度(%)が求められる。
【0018】
【表2】



イ 引用文献3に記載された技術事項

上記(引3-ア)及び(引3-イ)の記載から、引用文献3には、

「 プロセスラインを流れる糖液の糖度(濃度)をオンライン・リアルタイムで計測する技術において、
コリオリ流量計2で測定管3の固有振動数の周期に比例した量として密度を求め、測定管3の管壁に貼着された温度センサ5で、抵抗値の関数として糖液の温度を求め、
求めた密度及び温度を、糖液の温度Tにおける密度Dを基準温度Tsにおける密度Dsに変換するための変換テーブル

と照合して補間演算により正確な基準温度Tsにおける密度Dsiを求め、
求めた密度Dsiを、基準温度Tsに換算された糖液の密度(Ds)と糖度(%)との関係をあらわすテーブル

と照合して補間演算により正確な糖度(%)を求めること。」

という技術事項(以下「引用文献3技術事項」という。)が記載されていると認められる。

(4)引用文献4について

ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献4には、以下の記載がある。

(引4-ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の電解液といった、各種液体の比重を測定する装置に関するものである。」

(引4-イ)「【0008】
本発明は、液体の種類に関係なく比重を精度よく自動で測定できる、液体比重測定装置を提供するものである。」

(引4-ウ)「【0014】
図1は、本発明の液体比重測定装置1を示す図である。
【0015】
比重を測定する液体2は測定容器3内にあり、測定容器3に設けられた液体供給口4から液体2が測定容器3内に供給されるとともに、液体2は測定容器3内を流動し、液体排出口5から液体比重測定装置1外に移動する。
【0016】
測定容器3内の液体2中には、液体2の比重に応じて液体2の液面2aに対する上下位置が変動する浮き子6が配置される。浮き子6の上部には浮き子6の上下位置の基準面となる平板6aが有り、この平板6aの上方に、変位計測手段7が設けられ、変位計測手段7と平板6aとの間の距離xを非接触的に計測する。
【0017】
変位計測手段7は、レーザー式変位計や超音波式変位計といった非接触式の変位計であればよく、本発明の液体比重測定装置1では、非接触式変位計における変位量の検出方式で、機能を限定されるものでは無い。
【0018】
本発明では、測定容器3内の液面2aを一定高さに保持するための堰8を有する。堰8の先端から、液体2がオーバーフローして液体排出口5に導出される。堰8の先端形状としては、直線状とすることもできるが、図2に示したような波型形状とすることができる。波型形状における山部8aと谷部8bとの間より液体2がオーバーフローすることになる。このような波型形状は、先端形状を直線状とした場合より、液面2aの位置がより安定するため、好ましい。
【0019】
本発明では、液面2aの位置が堰8によって一定となるため、変位計測手段7によって求めた距離xと、既知である液面2a間の距離yとの差分z(z=y-x)が、平板6aの液面2aを基準とした上下方向の位置情報となる。
【0020】
液体2の種類と、浮き子6の寸法形状・質量によって決定付けられる差分zと、液体2の比重との相関関係を示す相関式あるいはデータテーブル等の相関データを、予め変位計測手段7に接続された比重の検出装置9内に記憶させておき、得られた差分zの値から、前記の相関データより液体2の比重値を検出する。検出された比重値は、必要に応じて液晶ディスプレイ等の表示手段9aで表示してもよく、比重値を示す電気的信号として、出力ポート9bより外部出力してもよい。
【0021】
比重値は、一般的に温度によって変化するため、比重値を所定温度での換算比重とし、この換算比重を管理することが一般的である。したがって、液体2の液温Tを計測する温度センサー10を配置し、これによって得られた液温Tを用いて補正手段9cにより、液温Tにおける比重値を所望とする液温T_(0)における換算比重値に補正する。
【0022】
このような補正手段9c としては、予め液体の種類別に比重と液温との関係を示す関係式やデータテーブルを記憶させておき、液温T、液温T_(0)と比重値とから、液温T_(0)における換算比重値を得ることができる。
【0023】
温度センサー10としては、液体2の種類に応じて必要な防食処理を施した熱電対や測温抵抗体を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の液体比重測定装置1は、堰8によって液面2aが一定位置に保持されるため、液面2aの高さ位置を検出するためのセンサーが不要となる。その結果、液面2aの測定誤差の影響を受けることなく、より正確な比重測定が可能となる。また、浮き子6を用いるものの、浮き子6には目視用目盛りを用いて比重を読み取るものではないため、液体2の色調に関わらず、正確な比重測定を行なうことができる。」

(引4-エ)【図1】




イ 上記(引4-ア)ないし(引4-エ)の記載から、引用文献4には、

「 液体の種類に関係なく比重を精度よく自動で測定する技術において、
浮き子6の上下位置の基準面となる平板6aの液面2aを基準とした上下方向の位置情報を計測により求め、
液体2の種類及び浮き子6の寸法形状・質量によって決定付けられる位置情報と、液体2の比重との相関関係を示す相関式あるいはデータテーブル等の相関データを、比重の検出装置9内に記憶させておき、
計測により求めた位置情報の値と、前記の相関データより液体2の比重値を検出すること。」

という技術事項(以下「引用文献4技術事項」という。)が記載されていると認められる。


第5 対比

1 本願発明と引用発明とを対比する。

(1)
ア 上記(引1-ア)の「【0006】例えば、時間帯によって種類の異なる流体が流れる管路に密度計が配設された構成では、流体の種類が変更される度に作業者が演算式の切り換え操作を行わなければならず、その操作が面倒であるばかりか、作業者が演算式の切り換え操作を忘れたり、あるいは操作ミスにより被測流体に対応しない演算式に切り換えてしまったりするおそれがあった。」及び(引1-イ)の「【0040】・・・複数種の被測流体が順次給送される給送ラインにおいて、計測された密度が密度-温度特性A,Bの許容範囲内に入っていれば複数種の被測流体の密度を自動的に測定することができるので、従来のように被測流体が切り換わる度に密度-温度特性の演算式の設定を切り換えるといった面倒な操作が不要であり、作業者が演算式の切り換え操作を忘れたり、あるいは操作ミスにより被測流体に対応しない演算式に切り換えてしまったりするといった問題を解消することができる。」との記載から、引用発明の密度計は、「作業者」がいる場における「複数種の被測流体が順次給送される給送ラインに配設され」るものであり、工場等での使用を想定したものであると解される。
したがって、引用発明の「給送ライン」及び「2種類の被測流体A,B」は、それぞれ本願発明の「プロセスライン」並びに「第1のプロセス材料」及び「第2のプロセス材料」に相当するといえる。

イ 引用発明の「2種類の被測流体A,Bに対応する密度-温度特性A,Bを表す(2)(3)式」、「密度-温度特性A,Bの±10%の許容範囲判定の演算を行うための(4)(5)式」及び「計測された被測流体の密度ρ_(1)を基準温度t_(0)の密度ρ_(0)に補正するための基準温度補正演算式(6)(7)」は、2種類の被測流体A,Bそれぞれの密度と温度の関係を定めた式であるといえる。
したがって、引用発明の「被測流体A」「に対応する密度-温度特性Aを表す(2)」「式」、「密度-温度特性A」「の±10%の許容範囲判定の演算を行うための(4)」「式」及び「計測された被測流体の密度ρ_(1)を基準温度t_(0)の密度ρ_(0)に補正するための基準温度補正演算式(6)」と、本願発明の「第1のプロセス材料に関連した第1のプロセス材料マトリックス」とは、「第1のプロセス材料に関連した第1のプロセス材料情報」で共通する。
また、引用発明の「被測流体」「Bに対応する密度-温度特性Bを表す」「(3)式」、「密度-温度特性」「Bの±10%の許容範囲判定の演算を行うための」「(5)式」及び「計測された被測流体の密度ρ_(1)を基準温度t_(0)の密度ρ_(0)に補正するための基準温度補正演算式」「(7)」と、本願発明の「第2のプロセス材料に関連した第2のプロセス材料マトリックス」とは、「第2のプロセス材料に関連した第2のプロセス材料情報」で共通する。

ウ 引用発明の「2種類の被測流体A,B」は、異なる流体であると認められるから、本願発明の「第1のプロセス材料は第2のプロセス材料とは異なる」を満たす。

エ 引用発明の「密度演算回路26」の「記憶部29には、
被測流体の温度t_(1)、センサチューブ7,8の振動周期(又は周波数)I_(1)のときの密度ρ_(1)を算出する演算式(1)
ρ_(1)=f(t_(1),I_(1)) … (1)
2種類の被測流体A,Bに対応する密度-温度特性A,Bを表す(2)(3)式
特性A → ρ_(A)=a(t_(1)-t_(0))+ρ_(0) … (2)
特性B → ρ_(B)=b(t_(1)-t_(0))+ρ_(2) … (3)
(a,bは被測流体固有の係数、t_(1)は被測流体の温度、t_(0)は基準温度)
密度-温度特性A,Bの±10%の許容範囲判定の演算を行うための(4)(5)式
特性Aの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)≦0.1…(4)
特性Bの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)≦0.1…(5)
計測された被測流体の密度ρ_(1)を基準温度t_(0)の密度ρ_(0)に補正するための基準温度補正演算式(6)(7)
ρ_(0)=ρ_(A0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)} … (6)
ρ_(0)=ρ_(B0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)} … (7)
が記憶されて」いる「密度計」と、本願発明の「少なくとも2つ以上のプロセス材料マトリックスを格納したメータ」とは、「少なくとも2つ以上のプロセス材料情報を格納したメータ」で共通する。

オ 引用発明において、「(4)式の演算を行って、温度t_(1)のとき被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っているか否かを判定するステップS5」「において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っている場合に、(2)式に基づいて基準温度t_(0)のときの密度ρ_(A0)を算出するステップS6」に進む際には、「給送ラインに」「給送され」ている「被測流体」が「被測流体A」であると判定しているといえる。
したがって、引用発明の「(4)式の演算を行って、温度t_(1)のとき被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っているか否かを判定するステップS5」「において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っている場合に、(2)式に基づいて基準温度t_(0)のときの密度ρ_(A0)を算出するステップS6」に進むことは、本願発明の「プロセスライン内の第1のプロセス材料を検知」することに相当する。

カ 上記アないしオを踏まえると、引用発明の「記憶部29には、
被測流体の温度t_(1)、センサチューブ7,8の振動周期(又は周波数)I_(1)のときの密度ρ_(1)を算出する演算式(1)
ρ_(1)=f(t_(1),I_(1)) … (1)
2種類の被測流体A,Bに対応する密度-温度特性A,Bを表す(2)(3)式
特性A → ρ_(A)=a(t_(1)-t_(0))+ρ_(0) … (2)
特性B → ρ_(B)=b(t_(1)-t_(0))+ρ_(2) … (3)
(a,bは被測流体固有の係数、t_(1)は被測流体の温度、t_(0)は基準温度)
密度-温度特性A,Bの±10%の許容範囲判定の演算を行うための(4)(5)式
特性Aの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)≦0.1…(4)
特性Bの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)≦0.1…(5)
計測された被測流体の密度ρ_(1)を基準温度t_(0)の密度ρ_(0)に補正するための基準温度補正演算式(6)(7)
ρ_(0)=ρ_(A0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)} … (6)
ρ_(0)=ρ_(B0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)} … (7)
が記憶されて」いる、「複数種の被測流体が順次給送される給送ラインに配設され、複数種の被測流体が切り換えられて各被測流体の密度を測定するよう構成した密度計の密度演算回路26において」、「(4)式の演算を行って、温度t_(1)のとき被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っているか否かを判定するステップS5」「において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っている場合に、(2)式に基づいて基準温度t_(0)のときの密度ρ_(A0)を算出するステップS6」に進む「被測流体の密度を演算する方法」と、本願発明の「少なくとも2つ以上のプロセス材料マトリックスを格納したメータを用いて、プロセスライン内の第1のプロセス材料を検知し、2つ以上のプロセス材料マトリックスは、第1のプロセス材料に関連した第1のプロセス材料マトリックスと第2のプロセス材料に関連した第2のプロセス材料マトリックスを含み、第1のプロセス材料は第2のプロセス材料とは異なる方法」とは、「少なくとも2つ以上のプロセス材料情報を格納したメータを用いて、プロセスライン内の第1のプロセス材料を検知し、2つ以上のプロセス材料情報は、第1のプロセス材料に関連した第1のプロセス材料情報と第2のプロセス材料に関連した第2のプロセス材料情報を含み、第1のプロセス材料は第2のプロセス材料とは異なる方法」で共通する。

(2)
ア 引用発明の「温度t_(1)の被測流体の密度ρ_(1)」は、「給送ライン」に「給送され」ている「温度t_(1)」での「被測流体の密度ρ_(1)」であるから、本願発明の「ライン密度」に相当する。

イ 上記アを踏まえると、引用発明の「温度センサ25により計測された被測流体の温度t_(1)を読み込むステップS1」、「ピックアップユニット20,21から出力された信号の波形から振動周期I_(1)を測定するステップS2」及び「(1)式の演算を実行して温度t_(1)の被測流体の密度ρ_(1)を求めるステップS3」は、「被測流体A」の「密度ρ_(1)」を求める場合を含んでいるから、本願発明の「第1のプロセス材料のライン密度を測定する工程」に相当するといえる。

(3)
ア 引用発明の「温度センサ25により計測された被測流体の温度t_(1)」は、「給送ライン」に「給送され」ている「被測流体の温度t_(1)」であるから、本願発明の「ライン温度」に相当する。

イ 上記アを踏まえると、引用発明の「温度センサ25により」「被測流体の温度t_(1)」を「計測」することは、「被測流体A」の「温度t_(1)」を計測する場合を含んでいるから、本願発明の「第1のプロセス材料のライン温度を測定する工程」に相当するといえる。

(4)
ア 引用発明の「(4)式の演算を行って、温度t_(1)のとき被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っている」は、本願発明の「ライン密度が第1の密度範囲内にあり、ライン温度が第1の温度範囲内にある」に相当するといえる。

イ 引用発明において、「ステップS5において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っている場合に、(2)式に基づいて基準温度t_(0)のときの密度ρ_(A0)を算出する」際、「被測流体A」「に対応する」「(2)式」を選択しているといえる。

ウ 上記ア及びイ並びに(1)オを踏まえると、引用発明の「(4)式の演算を行って、温度t_(1)のとき被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っているか否かを判定するステップS5」及び「ステップS5において、被測流体の密度ρ_(1)が密度-温度特性Aの密度ρ_(A1)の±10%以内に入っている場合に、(2)式に基づいて基準温度t_(0)のときの密度ρ_(A0)を算出するステップS6」と、本願発明の「ライン密度が第1の密度範囲内にあり、ライン温度が第1の温度範囲内にあると判断したときに、2つ以上のマトリックスから第1のプロセス材料マトリックスを識別する工程」とは、「ライン密度が第1の密度範囲内にあり、ライン温度が第1の温度範囲内にあると判断したときに、2つ以上の情報から第1のプロセス材料情報を識別する工程」で共通する。

エ 引用発明の「2種類の被測流体A,Bに対応する密度-温度特性A,Bを表す(2)(3)式
特性A → ρ_(A)=a(t_(1)-t_(0))+ρ_(0) … (2)
特性B → ρ_(B)=b(t_(1)-t_(0))+ρ_(2) … (3)
(a,bは被測流体固有の係数、t_(1)は被測流体の温度、t_(0)は基準温度)
密度-温度特性A,Bの±10%の許容範囲判定の演算を行うための(4)(5)式
特性Aの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)≦0.1…(4)
特性Bの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)≦0.1…(5)
計測された被測流体の密度ρ_(1)を基準温度t_(0)の密度ρ_(0)に補正するための基準温度補正演算式(6)(7)
ρ_(0)=ρ_(A0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)} … (6)
ρ_(0)=ρ_(B0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)} … (7)」は、「2種類の被測流体A,B」それぞれの変化し得る「温度」とその「温度」に対応する「密度」の許容範囲の関係を定めているから、本願発明の「第1のプロセス材料マトリックスは、第1の密度範囲及び第1の温度範囲における第1のプロセス材料の第1の濃度範囲を含み、第2のプロセス材料マトリックスは、第2の密度範囲及び第2の温度範囲における第2のプロセス材料の第2の濃度範囲を含む」と、「第1のプロセス材料情報は、第1のプロセス材料の第1の密度範囲及び第1の温度範囲を含み、第2のプロセス材料情報は、第2のプロセス材料の第2の密度範囲及び第2の温度範囲を含む」で共通する構成を備えているといえる。

2 そうすると、本願発明と引用発明とは、

「 少なくとも2つ以上のプロセス材料情報を格納したメータを用いて、プロセスライン内の第1のプロセス材料を検知し、2つ以上のプロセス材料情報は、第1のプロセス材料に関連した第1のプロセス材料情報と第2のプロセス材料に関連した第2のプロセス材料情報を含み、第1のプロセス材料は第2のプロセス材料とは異なる方法であって、
第1のプロセス材料のライン密度を測定する工程と、
第1のプロセス材料のライン温度を測定する工程と、
ライン密度が第1の密度範囲内にあり、ライン温度が第1の温度範囲内にあると判断したときに、2つ以上の情報から第1のプロセス材料情報を識別する工程であって、第1のプロセス材料情報は、第1のプロセス材料の第1の密度範囲及び第1の温度範囲を含み、第2のプロセス材料情報は、第2のプロセス材料の第2の密度範囲及び第2の温度範囲を含む、方法。」

の発明である点で一致し、次の点において相違する。

(相違点)
「第1のプロセス材料の第1の密度範囲及び第1の温度範囲を含む第1のプロセス材料情報」及び「第2のプロセス材料の第2の密度範囲及び第2の温度範囲を含む第2のプロセス材料情報」について、本願発明においては、「第1の密度範囲及び第1の温度範囲における第1のプロセス材料の第1の濃度範囲を含」む「第1のプロセス材料マトリックス」及び「第2の密度範囲及び第2の温度範囲における第2のプロセス材料の第2の濃度範囲を含」む「第2のプロセス材料マトリックス」であるのに対し、引用発明においては、「2種類の被測流体A,Bに対応する密度-温度特性A,Bを表す(2)(3)式
特性A → ρ_(A)=a(t_(1)-t_(0))+ρ_(0) … (2)
特性B → ρ_(B)=b(t_(1)-t_(0))+ρ_(2) … (3)
(a,bは被測流体固有の係数、t_(1)は被測流体の温度、t_(0)は基準温度)
密度-温度特性A,Bの±10%の許容範囲判定の演算を行うための(4)(5)式
特性Aの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)≦0.1…(4)
特性Bの許容範囲→ -0.1≦(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)≦0.1…(5)
計測された被測流体の密度ρ_(1)を基準温度t_(0)の密度ρ_(0)に補正するための基準温度補正演算式(6)(7)
ρ_(0)=ρ_(A0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(A1))/ρ_(A1)} … (6)
ρ_(0)=ρ_(B0)×{1+(ρ_(1)-ρ_(B1))/ρ_(B1)} … (7)」であって、「式」の形態であり、2種類の被測流体A,Bそれぞれに対応する濃度範囲を含んでいない点。


第6 判断

1 上記相違点について検討する。

(1)濃度について
ア 引用文献2技術事項は、7826液体密度計を用いてライン密度及び動作温度を継続的に測定し、%固形分、%質量、%ボリューム又は%濃度を計算により求めることを開示している。

イ 引用文献3技術事項は、コリオリ流量計2と温度センサ5でプロセスラインを流れる糖液の密度と温度を測定し、基準温度Tsに換算された糖液の密度(Ds)に対応する糖度(濃度)(%)を求めることを開示している。

ウ 引用文献2技術事項及び引用文献3技術事項から、密度計により測定した密度から濃度を求めることは、本願優先日前において周知な事項であるといえる。

エ 引用文献1には、被測流体の具体的な種類に関する記載はないが、引用文献2技術事項及び引用文献3技術事項から、流体の濃度を求めることへの需要は少なくないと認められる。
したがって、引用発明において、更に被測流体の濃度を求めるようにすることには、十分な動機付けがあるといえる。

(2)マトリックスについて
ア 引用文献2技術事項は、7826液体密度計において、5つの参照温度での4つの製品タイプそれぞれの密度を指定した参照マトリックスを使用して、基準温度での基準密度を計算することを開示している。

イ 引用文献3技術事項は、コリオリ流量計2と温度センサ5で測定した糖液の密度と温度を、糖液の温度Tにおける密度Dを基準温度Tsにおける密度Dsに変換するための変換テーブルと照合して補間演算により、正確な基準温度Tsにおける密度Dsiを求めることを開示している。

ウ 引用文献2技術事項及び引用文献3技術事項から、液体の密度と温度を測定して基準温度における基準密度を求める技術において、密度と温度の関係をマトリックスの形態で記憶しておき、測定で得られた密度と温度を当該マトリックスと照合して基準温度における基準密度を求めることは、本願優先日前において周知な事項であるといえる。

エ 引用文献4技術事項は、浮き子6の位置情報を計測して液体の比重を測定する技術において、液体2の種類及び浮き子6の寸法形状・質量によって決定付けられる位置情報と、液体2の比重との相関関係を、相関式あるいはデータテーブル等の相関データとして記憶しておき、液体2の比重値の検出に用いることを開示している。

オ 引用文献4技術事項の、相関関係を相関式あるいはデータテーブル等の相関データとして記憶しておくことは、液体の比重を測定する技術特有のものであるとはいえず、相関関係を用いる技術一般に当てはまることであるといえる。

カ したがって、基準温度における基準密度を求める際の、密度と温度の相関関係を利用するための形態として、式の形態で記憶しておくか、データテーブル等の相関データ(マトリックス)の形態として記憶しておくかは、当業者であれば必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるといえる。

(3)濃度範囲を含むマトリックスについて
ア 引用文献3技術事項は、(ア)コリオリ流量計2と温度センサ5で測定した糖液の密度と温度を、糖液の温度Tにおける密度Dを基準温度Tsにおける密度Dsに変換するための変換テーブルと照合して補間演算により、正確な基準温度Tsにおける密度Dsiを求めること、及び、(イ)求めた基準温度Tsにおける密度Dsiを、基準温度Tsに換算された糖液の密度(Ds)と糖度(%)との関係をあらわすテーブルと照合して補間演算により正確な糖度(濃度)(%)を求めることを開示している。

イ 引用文献3技術事項の「糖液の温度Tにおける密度Dを基準温度Tsにおける密度Dsに変換するための変換テーブル」は、測定対象である糖液の密度範囲及び温度範囲を含むマトリックスである(以下、この変換テーブルを「マトリックス3A」という。)。
また、引用文献3技術事項の「基準温度Tsに換算された糖液の密度(Ds)と糖度(%)との関係をあらわすテーブル」は、測定対象である糖液の濃度範囲を含むマトリックスである(以下、このテーブルを「マトリックス3B」という。)。

ウ ここで、本願発明の「第1のプロセス材料マトリックス」及び「第2のプロセス材料マトリックス」は、それぞれ「第1のプロセス材料マトリックスは、第1の密度範囲及び第1の温度範囲における第1のプロセス材料の第1の濃度範囲を含み」及び「第2のプロセス材料マトリックスは、第2の密度範囲及び第2の温度範囲における第2のプロセス材料の第2の濃度範囲を含む」と特定されているが、各マトリックスのデータ構造等の具体的な形式は特定されておらず、各マトリックスが単一のマトリックスで構成されていることも特定されていない。

エ してみると、引用文献3技術事項の「マトリックス3A」及び「マトリックス3B」を併せたものは、本願発明の「第1のプロセス材料マトリックス」及び「第2のプロセス材料マトリックス」のそれぞれと、「プロセス材料の密度範囲及び温度範囲におけるプロセス材料の濃度範囲を含むマトリックス」で共通するといえる。
なお、「マトリックス3A」は温度範囲T_(1)?T_(n)、密度範囲D_(1)?D_(m)における基準密度範囲D_(S11)?D_(Snm)を規定し、「マトリックス3B」は基準密度範囲D_(S11)?D_(Snm)における濃度範囲C_(11)?C_(nm)を規定するものといえるから、「マトリックス3A」において、基準密度範囲D_(S11)?D_(Snm)とともに、又は、基準密度範囲D_(S11)?D_(Snm)に代えて、濃度範囲C_(11)?C_(nm)を規定するものとすることは可能である。

(4)上記(1)で検討したとおり、引用発明において、更に被測流体の濃度を求めるようにすることには、十分な動機付けがあり、上記(2)で検討したとおり、基準温度における基準密度を求める際の、密度と温度の相関関係を利用するための形態として、式の形態で記憶しておくか、データテーブル等の相関データ(マトリックス)の形態として記憶しておくかは、当業者であれば必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であり、上記(3)で検討したとおり、引用文献3技術事項は、本願発明の「第1のプロセス材料マトリックス」及び「第2のプロセス材料マトリックス」のそれぞれと、「プロセス材料の密度範囲及び温度範囲におけるプロセス材料の濃度範囲を含むマトリックス」で共通する「マトリックス3A」及び「マトリックス3B」を開示している。
これらの事項を総合的に勘案すると、引用発明において、(2)式ないし(7)式に代えて、引用文献3技術事項の「マトリックス3A」及び「マトリックス3B」を、被測流体A,Bのそれぞれに対応させて採用することにより、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。

2 本願発明の奏する作用効果について

本願発明によってもたらされる効果は、引用文献1ないし4の記載事項から当業者が予測し得る程度を超えるものではない。

3 したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2ないし4技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張について

(1)請求人は、審判請求書において、以下の主張をしている。

ア 「夫々異なる密度範囲及び温度範囲における濃度範囲を含むプロセス材料マトリックスを2つ以上設け、ライン密度が第1の密度範囲内にあり、ライン温度が第1の温度範囲内にあるときに、2つ以上のマトリックスから第1の密度範囲及び第1の温度範囲における第1の濃度範囲を含む第1のプロセス材料マトリックスを識別する旨を明らかにした。これにより、明細書[0026]に記載しているように、洗浄溶液(明細書[0021]の記載により、プロセス材料は洗浄材料である)の濃度の如何なる変化も自動的に補償される。」

イ 「引用文献3は、測定された密度Dと温度Tを基準温度TSでの密度DSに変換し、その密度DSの値から濃度(糖度)を決定するだけである。
これは密度範囲と温度範囲における濃度範囲を含む本願発明のマトリックスとは同じではない。特に、本願の明細書の例(明細書[0017])とともに本願の図3に示すように、プロセス材料の濃度を決定する際に用いる温度修正には、複数の基準温度等温線を用い、各等温線は密度の値と濃度の値とに関連する。本願の図4と図5にも示すように、密度の値を濃度の値に関連付ける複数の等温線を表示している。即ち、本願発明に係るマトリックスを用いて濃度を決定すれば、引用文献3の表1および表2を用いて濃度を決定するよりも精度が高い。これは、マトリックスがプロセス材料の密度に対する熱の影響を考慮しているためである。一定濃度のプロセス材料が温度上昇することにより密度が低下する場合がある。本願の図4を参照すれば、例えば12%の濃度のプロセス材料は、温度が上昇するにつれて密度の値が減少することを示している。引用文献3は、この温度が上昇するにつれて密度の値が減少する影響を考慮していない。」

ウ 「引用文献3に開示された発明の機能を含むように引用文献1に係る発明を変更しても、本願発明に係るマトリックスにはならないことを主張する。特に、引用文献1の明細書[0030]に開示された式(2)、(3)は温度に関して変化する流体の密度について説明しているが、引用文献1及び引用文献3のいずれにも、密度範囲と温度範囲での濃度範囲を含むマトリックスを示唆する提案はない。
たとえば、引用文献1は単に2つの流体の組成が異なると想定し(引用文献1の明細書[0029]参照)、引用文献3は濃度(糖度%)が単一の基準温度T_(S)における密度Dsの値にのみ関連していると想定している。引用文献1及び引用文献3に開示された発明は、何れも流体の密度に対する濃度と温度の影響を説明するために、温度と濃度を関連付けない。その結果、引用文献1と引用文献3を組み合わせても、密度、温度、及び濃度の範囲を含む2つ以上のマトリックスから選択された1つのマトリックスを使用して、材料の濃度を決定するように、当業者を動機付けない。」

(2)請求人の上記主張アないしウについて検討する。

ア 請求人の上記主張アについて

(ア)本願明細書の段落【0026】の記載は、以下のとおりである。
「 図9は、実施形態に従って、プロセス用途900を示す。タンク910は、用途材料又は洗浄材料で構成されるプロセス材料を保持する。タンク910は充填ライン920によって充填される。一旦タンク910が適切なレベルに満たされれば、ポンプ930は必要に応じて、プロセス材料を出口バルブ940又は再循環バルブ950によって制御される出口に汲み出す。ここで記載されたメータシステム及び方法を用いて、連続的な混合プロセスが実行される。本実施形態にて、メータ120とメータ電子機器128を備えるメータシステム960はプロセス材料の濃度を測定し、プロセス材料のタイプとその濃度を決定するように構成される。メータシステム960が洗浄材料がタンクにあると決定すれば、メータシステム960は洗浄材料の濃度を決定し、濃度レベルに基づいて、タンク910内への水流れを向ける上流バルブ970を制御する。洗浄材料の濃度が変化するにつれ、メータシステム960は、バルブ970を介して要求される濃度レベルを維持するように補償し、バルブ940を介して出力流れを制御し、又は再循環バルブ950を介して流れを再循環させる。有利なことに1)排出タンク内に流れる洗浄溶液の濃度の如何なる変化も直ちに且つ自動的に補償される。2)研究所のテストは不要である、3)悪いバッチとともにバッチングが除かれる。一旦、洗浄工程が終了し、洗浄流体が用途材料に置換されると、メータシステム960は新たな材料を決定し、自動的に要求されるマトリックスに切り換えることが出来、こうしてシステムをシャットダウンさせ、メータを再構成する必要を除く。」

(イ)本願明細書の段落【0026】の記載によれば、請求人が主張する「洗浄溶液・・・の濃度の如何なる変化も自動的に補償される」という作用効果は、メータシステム960が決定した濃度レベルに基づいて、タンク910に関連する上流バルブ970、出口バルブ940及び再循環バルブ950を制御することによりもたらされるものと解される。
しかしながら、本願発明はバルブを制御することを発明特定事項として含んでいないから、請求人の上記主張アは、請求項1の記載に基づいたものではなく、本願発明の進歩性を判断する上では考慮されない。
なお、上記(引2-イ)の「例えば、密度が最終製品の主要な制御パラメータであるプロセス制御、又は%固形分や%濃度などの他の品質管理パラメータの指標であるプロセス制御で使用できます。」との記載から、測定値に応じて濃度を制御するために、バルブの開閉等を制御する点に進歩性があるとは認められない。

イ 請求人の上記主張イについて

(ア)本願発明は、請求人が主張する「基準温度等温線」に係る事項を、発明特定事項として含んでいない。
また、本願発明は、「第1のプロセス材料マトリックス」及び「第2のプロセス材料マトリックス」のそれぞれが、【図4】、【図7】又は【図8】に示されるような、温度及び濃度に対する密度を規定する形態のマトリックスであることを特定してはいない。

(イ)引用文献3技術事項において、求めた密度及び温度を基準温度Tsにおける密度Dsに変換している理由は、流体の密度が温度に依存して変化することを認識しているからにほかならない。

(ウ)したがって、請求人の上記主張イは採用できない。

ウ 請求人の上記主張ウについて

(ア)引用文献3技術事項の「マトリックス3B」は、基準温度T_(S)における密度Dsに対する濃度(糖度)を規定しているが、基準温度T_(S)における密度Dsは、測定された温度及び密度に対応する基準温度T_(S)における密度Dsを規定する「マトリックス3A」から求めたものであるから、引用文献3技術事項における濃度は、測定された温度及び密度により定まるものである。
したがって、請求人の「引用文献3は濃度(糖度%)が単一の基準温度T_(S)における密度Dsの値にのみ関連していると想定している。引用文献1及び引用文献3に開示された発明は、何れも流体の密度に対する濃度と温度の影響を説明するために、温度と濃度を関連付けない」という主張は失当である。

(イ)なお、上記(引3-ア)の「【0003】糖液の濃度(糖度)は、一般にブリックス(Brix)度であらわされている。ブリックス度は、しょ糖の濃度を質量百分率であらわしたもので、通常20℃の温度を基準温度とし、基準温度での値で示されている。」との記載から、引用文献3技術事項において、「マトリックス3B」が基準温度T_(S)における密度Dsに対する濃度(糖度)を規定している理由は、従来から糖液の濃度は基準温度での値として管理されてきたことにあると解される。

エ よって、請求人の上記主張アないしウは、いずれも上記1ないし3の判断を覆すものとは認められない。


第7 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-10-30 
結審通知日 2020-11-04 
審決日 2020-11-25 
出願番号 特願2018-86056(P2018-86056)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 華代  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 渡戸 正義
磯野 光司
発明の名称 プロセス材料の濃度を決定する工程における関連マトリックスの自動切り換え  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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