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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B61L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B61L |
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管理番号 | 1373100 |
審判番号 | 不服2020-8484 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-18 |
確定日 | 2021-04-15 |
事件の表示 | 特願2015-209330「移動体位置検出システム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年5月18日出願公開、特開2017-81257〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年10月23日の出願であって、令和元年7月31日付け(発送日:令和元年8月6日)で拒絶理由通知がされ、令和元年9月25日に意見書及び手続補正書が提出された後、令和元年11月28日付け(発送日:令和元年12月3日)で再度、拒絶理由通知がされ、令和2年1月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年4月14日付け(発送日:令和2年4月21日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して令和2年6月18日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともにその審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 令和2年6月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年6月18日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を以下の理由により却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の請求項1の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「 [請求項1] 所定ルートを走行する移動体の前部及び後部に搭載される無線機と、 前記ルートに沿って間隔を開けて位置検出区間毎に配置され、隣り合うものに異なるチャンネルが設定された固定無線機と、 前記前部及び後部無線機と前記各固定無線機でそれぞれ無線通信したときの、チャンネル毎の無線信号の受信レベルに基づいて特定した前記固定無線機に挟まれた、前記ルート上の移動体の存在区間を検出する存在区間検出部と、 を含む、移動体位置検出システム。」 (2)本件補正前の請求項1の記載 本件補正前の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「 [請求項1] 所定ルートを走行する移動体の前部及び後部に搭載される無線機と、 前記ルートに沿って間隔を開けて配置され、隣り合うものに異なるチャンネルが設定された固定無線機と、 前記前部及び後部無線機と前記各固定無線機でそれぞれ無線通信したときの、チャンネル毎の無線信号の受信レベルに基づいて特定した前記固定無線機に挟まれた、前記ルート上の移動体の存在区間を検出する存在区間検出部と、 を含む、移動体位置検出システム。」 2 補正の適否 上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「固定無線機」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明の認定 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献、引用発明等 ア 引用文献1について 本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された中国特許出願公開第103010265号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、「移動体位置検出システム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下、同様。)。 (ア) 「当審訳:[0026]CBTCシステムは、無線通信技術を用いて、列車と地上制御システムとの間の連続的な通信を実現することにより、移動閉塞方式による効率が高い運行を可能にする。列車と地上との通信には、シームレスにカバーすることが必要であり、一般的には軌道に沿って複数の無線基地局/AP(Access Point)が設置され、列車は任意の場所で基地局との通信を確立することができる。列車と地上との信頼性の高い通信を確保するために、一般的に2つの移動局がそれぞれ列車の両端に設置されている。本発明は、無線情報を利用し、CBTCシステムに無線情報収集サーバ、位置検知処理サーバ、位置検知データサーバを追加することにより、停車中の列車の位置検知を実現する。」 (イ) 「当審訳:[0028]本発明において、基本データには、軌道地図と特定の定義された始点で確立された一次元座標が含まれ、基地局地図は、各基地局の軌道地図上の座標であり、列車データは、列車番号及び関連する車載無線基地局の標示番号である。 [0029]本方法の原理は、正常な運転モードにおける列車の運転を追跡し、無線電界強度と位置の相関特性データを確立するものであり、列車が何らかの理由で自分の位置を特定できなくなった場合は、この相関情報を用いて、迅速に列車の位置を特定することができる。システムの動作は、図2に示すように、3段階に分けられ、まず、トレーニング学習段階であり、このプロセスでは、列車の位置及び無線特性情報を収集し、分析処理することにより、無線特性と位置の相関データを形成する。次に、位置検知段階であり、列車が自分の位置を特定できない場合に、位置検知処理サーバに位置検知要求を送信することにより、確立された相関データを用いて列車の位置を特定する。最後に、学習調整段階であり、列車の位置及び電界強度データを追跡することにより、マッピング関係を調整し、基地局及び移動局装置の老朽化による測定変化に適応する。 [0030]CBTCシステムに適用する停車中の列車の位置検知方法であり、以下を含むことを特徴とする。 [0031]手順1:列車の先頭と最後尾の両端には、移動局が設置されており、それぞれ第一移動局、第二移動局とする。 [0032]手順2:現在時刻において、列車が、位置検知サーバと無線情報収集サーバに列車パラメータを送信することは、以下の手順2.1-2.7を含む: [0033]手順2.1:列車はエリアコントローラに自分の位置xを報告し、列車の位置情報は、センサーとビーコンを組み合わせた方式により取得される。 [0034]手順2.2:列車番号Tn及び列車位置を位置検知データサーバに転送し、位置検知データサーバは列車位置を記憶する。 [0035]手順2.3:列車は各移動局の識別子及び受信した基地局の電界強度情報(M、P^(i))を無線情報収集サーバへ送信する;そのうち、Mは移動局の識別子を示し、iは基地局番号を示し、P^(i)は移動局Mが受信したiの電界強度を示す。 [0036]手順2.4:無線情報収集サーバは受信すると、移動局の識別子に応じて、位置検知データサーバに照会して、列車番号を決定し、対応する列車位置を取得し、列車位置と電界強度相関データ を形成する。そのうち、xは列車位置であり、 は列車のx位置にある時に第一移動局が受信した基地局iの電界強度情報であり、 は列車がx位置にある時に第二移動局が受信した基地局jの電界強度情報である。 [0037]手順2.5:電界強度情報を正規化処理し、正規化された列車位置と電界強度の相関データ を得る。 [0038]手順2.6:次に、各移動局が受信した基地局の位置に基づいて、列車位置、基地局の位置、電界強度の相関データ を確立する。そのうち、z_(i)は第一移動局が受信した基地局iの位置であり、z_(j)は第二移動局が受信した基地局jの位置である。 [0039]手順2.7:第一移動局と第二移動局が受信したすべての基地局の数NBを確定し、これらの番号に改めて番号を付け直し、z_(1)、z_(2)、...z_(NB)を得る。」 (ウ) 「当審訳:[0049]手順3:車載位置検知装置は、列車位置を取得したか否かを判断し、車載位置検知装置が自分の列車位置を取得した場合、次の時点で、手順2に戻り、それ以外の場合は、手順4を実行する。 [0050]手順4:移動局は位置検知処理サーバに位置検知要求を送信する。 [0051]手順5:正規化データX、Z、Y1、Y2を用いて、BPニューラルネットワークをトレーニングし、列車位置と各移動局が受信した電界強度特徴との対応関係を確立する。」 [0052]そのうち、X=[x1、x2、...、xQ]^(T)であり、x_(1)は、現在時刻より前の1番目の時刻における列車の位置である。 は現在時刻より前の1番目の時刻における第一移動局と第二移動局が受信した基地局の位置である。 は現在時刻より前の1番目の時刻において第一移動局が受信した基地局Kの正規化電界強度情報である。 は現在時刻より前の1番目の時刻において第二移動局が受信した基地局Kの正規化電界情報であり、l=1、2...、Qであり、K=1、2...、NBである。 [0053]手順6:図3のとおり、現在時刻において、第一移動局と第二移動局の基地局位置で受信した基地局位置に応じて、第一移動局が受信した基地局電界強度と第二移動局が受信した基地局電界強度を入力データとし、手順5のトレーニングされたBPニューラルネットワークに入力し、得られた入力結果を現在時刻における列車位置とする。 [0054]トレーニング完了後に、システムは、列車が測定した無線電界強度情報を用いて、列車の位置を確定することができる。ただし、システムの運用に伴い、基地局及び移動局の性能が変化し、位置検知精度が低下する可能性がある。このような状況に対応するために、システムは、列車位置及び対応する無線電界強度情報を追跡し、定期的に調整して補正する。調整原理については、手順2.1-2.7のトレーニング方法と同様である。これにより、システムは、初回のトレーニングとオンラインによる定期的な調整により、列車の位置検知を実現することができる。」 (エ)(ア)及び(イ)の記載事項と併せて図1を参酌すると、列車は所定の軌道を走行することが把握できる。 (オ)(ア)の記載事項と併せて図1を参酌すると、軌道に沿って設置された複数の無線基地局は、互いに間隔を空けていることが看取できる。 (カ)(イ)及び(ウ)の記載事項から、列車位置、各移動局が受信した無線基地局の位置、各移動局が受信した電界強度特徴の相関データを用いて、列車位置と各移動局が受信した電界強度特徴との対応関係からなる相関データベースが確立されていると把握できる。 したがって、上記記載事項及び図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「所定の軌道を走行する列車の先頭と最後尾の両端にそれぞれ設置されている第一移動局、第二移動局を備え、 軌道に沿って設置された複数の無線基地局は、互いに間隔を空けていて、 第一移動局と第二移動局は無線基地局との通信を確立し、第一移動局が受信した基地局電界強度と第二移動局が受信した基地局電界強度を入力データとし、列車位置、各移動局が受信した無線基地局の位置、各移動局が受信した電界強度特徴の相関データを用いて確立された、列車位置と各移動局が受信した電界強度特徴との対応関係からなる相関データベースに当該入力データを入力し、得られた入力結果を現在時刻における列車位置とする、 列車の位置検知システム。」 イ 引用文献2について 本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として例示された特開2009-225135号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「[0001] 本発明は、列車無線通信システムにおける周波数チャネル選択方法および車上無線端末に関し、更に詳しくは、列車の軌道に沿って配置された複数の無線基地局のうち、隣接する無線基地局が、互いに異なった周波数チャネルを使用して、走行中の列車の車上無線端末と通信するようにした列車無線通信システムにおける周波数チャネルの選択方法および車上無線端末に関する。」 (イ)「[0024] 各APマスタ12は、列車の軌道41に沿って設置された複数の無線基地局(以下、APという)30(30a、30b、・・・)と回線101で接続され、これらのAPと管理装置10との間で、上り/下り電文(通信メッセージ)を中継する中継装置として機能する。各AP30は、APマスタ12から受信した下り電文を無線で送信し、列車40から無線で受信した上り電文をAPマスタ12に転送する。 [0025] 軌道41上を走行する各列車40は、前方車両と後方車両に車上無線端末(以下、ステーション:STAという)50a、50bが搭載されている。前方車両は、先頭車両でも2両目の車両でもよく、後方車両は、最終車両でもその前の車両でもよい。これらのSTA50a、50bは、列車内の通信回線52を介して、前方車両に搭載された車上制御装置:ATPS(Automatic Train Protection System)に接続されている。ATPSは、管理装置10から与えられた指令を表示するための表示装置を備えており、表示装置の他に、例えば、運転員に警報を知らせるための警報出力装置や、列車の現在位置を測定するためのGPSを備えている。 [0026] 列車に搭載されたSTA50a、50bは、通信圏内に位置したAP30(30a、30b、・・・)と無線で通信し、管理装置10から送信された下り電文をAP30経由で受信して、ATPS51に転送すると共に、ATPS51が生成した上り電文を無線でAP30に送信する。」 (ウ)「[0031] ここで、AP30aが使用する周波数チャネルCHaと、AP30aに隣接するAP30bが使用する周波数チャネルCHbは、それぞれの送受信信号が互いに干渉しないように、異なった周波数にしておく必要がある。本実施例では、AP30a、AP30bが参照する周波数ホッピングテーブルに、ホッピングパターンの異なる複数種類の周波数パターンを予め記憶しておき、各APが、自分のIDと対応する周波数パターンで、周波数チャネルを選択できるようにしておく。図2に示した例では、AP30aはチャネル番号「CH04」、AP30bはチャネル番号「CH09」の周波数チャネルを使用している。」 したがって、引用文献2には次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献2記載事項> 「軌道41上を走行する列車40における前方車両と後方車両に搭載された車上無線端末STA50a、50bは、列車の軌道41に沿って設置された複数の無線基地局AP30(30a、30b、・・・)のうち、通信圏内に位置したAP30(30a、30b、・・・)と無線で通信する列車無線通信システムにおいて、AP30aが使用する周波数チャネルCHaと、AP30aに隣接するAP30bが使用する周波数チャネルCHbは、それぞれの送受信信号が互いに干渉しないように、異なった周波数にしておくこと。」 ウ 引用文献3について 本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として例示された特開平8-316899号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「[0001] [発明の属する技術分野]本発明は、ルートに沿って配置された無線局を有する列車無線システム、およびルートに沿って移動するビークル用の移動局に関する。 [0002] [従来の技術]このような列車無線システムおよびこのような移動局は独国特許第42 22 237A1号明細書から知られている。各列車無線システムは列車無線用のセル無線システムとして説明されており、隣接する無線局は異なった無線周波数を使用し、従って複数の無線セルはルートに沿って無線セルの連鎖の形態で整列されている。ここで説明されているビークル(列車)内の移動局はこの無線セル中にそれが位置されている無線局に接続されている。独国特許第42 22 237 A2号明細書で説明されているように、簡単な方法で列車無線システムを実現するため、“GSM”(自動車通信用の世界的システム)標準方式にしたがって設計される。無線局に接続される制御装置は列車が移動中に1つの無線セルから別の無線セルまでの無線リンクの設定を制御する。しかしながら、原理上、セル無線回路網内のハンドオバーは高価な回路網構造を必要とする。このように例えばGSM回路網は無線リンクを設定するときに移動局でチェックインし、無線リンクをハンドオバーするときに現在および次の無線セル(“サービングセル”と“ターゲットセル”)を決定するためにいわゆるホームデータバンクとビジターデータバンクを有する無線切換え局を必要とする。さらに、回路網構造がGSM標準方式に対応する既知の列車無線システムは、移動局と異なった無線局との間の2以上の無線リンクを同時に設定することによって無線送信を保護することができない。」 したがって、引用文献3には次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献3記載事項> 「ルートに沿って配置された無線局を有する列車無線システム、およびルートに沿って移動するビークル用の移動局に関して、隣接する無線局は異なった無線周波数を使用すること。」 エ 引用文献4について 本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである特開2013-66101号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「[0033] [無線通信システム:図1] 本発明の実施の形態に係る無線通信システムについて図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る無線通信システムの概略図である。 本発明の実施の形態に係る無線通信システム(本無線通信システム)は、図1に示すように、軌道101に沿って設置された基地局(AP:Access Point)201,202,203と、列車102の車上無線局である移動局(STA:Station)301,302と、APの集中制御装置(APM:Access Point Master)401と、列車制御上位システム(指令装置)402と、AP201?203、APM401、上位システムをつなぐ有線のネットワークであるバックボーンネットワーク(Back-Bone Network)103とを基本的に有している。 尚、本無線通信システムは、CBTCシステムを前提にしている。 [0034] [無線通信システムの各部] 基地局(AP)201,202,203は、隣接するAPで干渉しないようにするため、異なるチャネルを用いて無線通信を行っている。 例えば、ある特定の時間帯(スロット)では、AP201では、チャネルはCH1を用い、AP202ではCH5を用い、AP203ではCH9を用いてSTA301,302と無線通信を行っている。 また、例えば、別の時間帯(スロット)では、AP201では、チャネルはCH9を用い、AP202ではCH13を用い、AP203ではCH5を用いてSTA301,302と無線通信を行っている。 [0035] STA301,302は、列車軌道101を列車102に伴って進行方向に移動し、チャネルサーチを行いながらAP201,202,203と順次ハンドオーバーを行うことで、シームレスな無線通信を実現する。 ここで、STAは、列車102の前後に各一台設けられており、それぞれが別の装置となっている。」 したがって、引用文献4には次の事項(以下、「引用文献4記載事項」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献4記載事項> 「軌道101に沿って設置された基地局(AP:Access Point)201,202,203と、列車102の車上無線局である移動局(STA:Station)301,302とを有している本無線通信システムにおいて、基地局(AP)201,202,203は、隣接するAPで干渉しないようにするため、異なるチャネルを用いて無線通信を行うこと。」 (3)対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明における「所定の軌道を走行する列車」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件補正発明における「所定のルートを走行する移動体」に相当し、以下同様に、「列車の先頭と最後尾の両端にそれぞれ設置されている第一移動局、第二移動局」という事項は、「前部及び後部に搭載される無線機」に相当する。 さらに、引用発明における「列車の位置検知システム」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件補正発明における「移動体位置検出システム」に相当する。 そして、引用発明における「軌道に沿って設置された複数の無線基地局は、互いに間隔を空けていて」という事項と、本件補正発明における「前記ルートに沿って間隔を開けて位置検出区間毎に配置され」という事項とは、「前記ルートに沿って間隔を開けて配置され」という限りにおいて一致している。 また、引用発明における「第一移動局と第二移動局は無線基地局との通信を確立し、第一移動局が受信した基地局電界強度と第二移動局が受信した基地局電界強度を入力データとし、列車位置、各移動局が受信した無線基地局の位置、各移動局が受信した電界強度特徴の相関データを用いて確立された、列車位置と各移動局が受信した電界強度特徴との対応関係からなる相関データベースに当該入力データを入力し、得られた入力結果を現在時刻における列車位置とする」という事項に関して、相関データベースは、列車位置、各移動局が受信した無線基地局の位置、各移動局が受信した電界強度特徴の相関データを用いて確立されたものであるから、第一移動局が受信した基地局電界強度と第二移動局が受信した基地局電界強度を入力すると、各移動局が受信した無線基地局位置を割り出し、その結果、各移動局が受信した無線基地局位置間に存在する列車位置を導出していると把握できる。 そうすると、引用発明における「第一移動局が受信した基地局電界強度と第二移動局が受信した基地局電界強度」は、本件補正発明における「前記前部及び後部無線機と前記各固定無線機でそれぞれ無線通信したときの無線信号の受信レベル」に相当し、また、引用発明における「相関データベース」は、本件補正発明における「存在区間検出部」に相当する。 以上から、引用発明における上記事項は、「チャンネル毎の無線信号」である点を除いて、本件補正発明における「前記前部及び後部無線機と前記各固定無線機でそれぞれ無線通信したときの、チャンネル毎の無線信号の受信レベルに基づいて特定した前記固定無線機に挟まれた、前記ルート上の移動体の存在区間を検出する存在区間検出部」に相当する事項を備えている。 したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 <一致点> 「所定ルートを走行する移動体の前部及び後部に搭載される無線機と、 前記ルートに沿って間隔を開けて配置された固定無線機と、 前記前部及び後部無線機と前記各固定無線機でそれぞれ無線通信したときの、無線信号の受信レベルに基づいて特定した前記固定無線機に挟まれた、前記ルート上の移動体の存在区間を検出する存在区間検出部と、 を含む、移動体位置検出システム。」 <相違点1> 「固定無線機」の配置に関して、本件補正発明は「ルートに沿って間隔を開けて位置検出区間毎に配置され」ているのに対して、引用発明は軌道に沿って設置された複数の無線基地局が互いに間隔を空けているものの、「位置検出区間毎」かどうか不明である点。 <相違点2> 本件補正発明における「固定無線機」は隣り合うものに異なるチャンネルが設定され、「前部及び後部無線機」と「各固定無線機」でそれぞれ無線通信したときに特定される「固定無線機」が、「チャンネル毎の無線信号の受信レベル」に基づいているのに対して、引用発明における無線基地局がどのようなチャンネル設定をしているのかは不明である点。 (4)判断 ア 相違点について 上記相違点1について検討する。 本件補正発明における「位置検出区間毎に」という事項に関して、本願の発明の詳細な説明における段落【0010】及び【0011】の記載を参酌すると、移動体位置検出システム1の一部である、複数の固定無線機WRS1?WRSnが互いに間隔をあけて配置されている以上のことは把握できない。 したがって、上記相違点1に係る事項に関して、本件補正発明と引用発明とは実質的に一致している。 仮にそうでないとしても、引用発明における複数の無線基地局を、「位置検出区間毎に」配置して上記相違点1に係る事項とすることは、当業者が必要に応じて行う設計変更である。 上記相違点2について検討する。 引用文献2記載事項ないし引用文献4記載事項より、軌道上を走行する列車に搭載された車上無線端末が、列車の軌道に沿って設置された複数の無線基地局と無線で通信する列車無線通信システムにおいて、隣接する無線基地局は異なるチャネルを用いて無線通信を行うという技術的事項は、本願の出願前において周知技術(以下、「周知技術」という。)であったといえる。 そうすると、上記相違点に係る事項のうち、「隣り合うものに異なるチャンネルが設定された固定無線機」という事項は、周知技術であるといえる。 また、引用文献1に明示的な記載は存在しないものの、列車の位置によっては、基地局電界強度の大きさのみではどの無線基地局から送信された無線であるかを区別できない場合が存在することが明らかであるから、引用発明においても複数の無線基地局に異なるチャンネルを用いていることを容易に推測できる。 したがって、引用発明に上記周知技術を採用して上記相違点2に係る事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、引用発明に上記周知技術を採用した場合、引用発明において、第一移動局と第二移動局がそれぞれ無線基地局と通信を確立したときに、基地局電界強度がチャンネル毎のものとなることは自明である。 イ 作用効果について 上記相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 ウ 請求人の主張について なお、請求人は、上記周知技術を示す例として挙げた引用文献2及び3には、固定無線機に複数チャンネルを設定することは記載されているものの、本件補正発明とは目的、技術思想、作用効果などが根本的に異なるから、当業者が引用発明に上記周知技術を適用しても、本件補正発明のような技術思想には容易に想到できない旨を主張している。 しかしながら、本願の発明の詳細な説明における段落【0013】の記載を参酌しても、隣り合う固定無線機にそれぞれ異なる無線チャンネルを設定することは記載されているものの、それによりどのような効果がもたらされるのかについて、何ら説明箇所は存在しない。 そうすると、隣り合う固定無線機にそれぞれ異なる無線チャンネルを設定することに関して、上記周知技術に示されている以上のことは把握できないから、請求人の上記主張は当を得ているといえない。 エ 小括 したがって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、令和2年1月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の下記の請求項1ないし8に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 ・請求項 1 ・引用文献等 1ないし4 ・請求項 2ないし8 ・引用文献等 1ないし4 <引用文献等一覧> 1.中国特許出願公開第103010265号明細書(本審決の引用文献1) 2.特開2009-225135号公報(本審決の引用文献2;周知技術を示す文献) 3.特開平8-316899号公報(本審決の引用文献3;周知技術を示す文献) 4.特開平7-107537号公報(周知技術を示す文献) 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、本件補正発明から、「固定無線機」の配置について「位置検出区間毎に」という限定を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-01-26 |
結審通知日 | 2021-02-02 |
審決日 | 2021-02-25 |
出願番号 | 特願2015-209330(P2015-209330) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B61L)
P 1 8・ 121- Z (B61L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 笹岡 友陽 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
北村 英隆 高島 壮基 |
発明の名称 | 移動体位置検出システム |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 小川 護晃 |
代理人 | 西山 春之 |