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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A45D
管理番号 1373123
審判番号 不服2020-7367  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-01 
確定日 2021-04-27 
事件の表示 特願2017-549187「表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材を有する化粧品」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月29日国際公開、WO2016/153174、平成30年 5月17日国内公表、特表2018-512209、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)2月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年3月23日、(KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成30年10月12日付け(発送日:平成30年10月16日)で拒絶理由通知がされ、平成30年12月17日に意見書が提出された後、令和元年5月27日付け(発送日:令和元年6月4日)で再度、拒絶理由通知がされ、令和元年8月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年1月28日付け(発送日:令和2年2月4日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して令和2年6月1日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともにその審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願の請求項1ないし7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1
・引用文献等1及び2

・請求項2ないし5
・引用文献等1及び2または1及び3

・請求項6
・引用文献等1及び3

・請求項7
・引用文献等1及び2

<引用文献等一覧>
1.実願昭58-134450号(実開昭60-44710号)のマイクロフィルム
2.特開平9-164017号公報
3.実願平3-52534号(実開平5-5015号)のCD-ROM

第3 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、令和2年6月1日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
凹凸が形成されている加熱された金属モールド(50)に、パフを押しあてる含浸部材(40)を挿入して加圧することで、表面(41)を溶かして前記含浸部材(40)の表面(41)に凹凸を形成し、この際に前記含浸部材(40)の表面(41)のオープンセル構造が溶けて1/2乃至それ以下のサイズのオープンセル構造に変形されており、前記表面(41)が溶けて凹凸が形成された含浸部材(40)に化粧料を含浸させることを特徴とする、表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材を有する化粧品。
【請求項2】
上部が開放した外容器(10)と、
前記外容器(10)の一側に結合される外容器蓋(20)と、
前記外容器(10)の内側に装着される内容器(30)と、
前記内容器(30)に内蔵され、化粧料が含浸された、パフを押しあてる含浸部材(40)と、
前記内容器(30)の一側にヒンジ結合されて開閉される内容器蓋(70)とを含み、
前記含浸部材(40)は凹凸が形成されている加熱された金属モールド(50)に挿入して加圧することで表面(41)を溶かすことにより、前記含浸部材(40)の表面(41)に凹凸が形成され、この際に前記含浸部材(40)の表面(41)のオープンセル構造が溶けて1/2乃至それ以下のサイズのオープンセル構造に変形されていることを特徴とする、表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材を有する化粧品。
【請求項3】
内容器(30)と、
前記内容器(30)に内蔵され、化粧料が含浸された、パフを押しあてる含浸部材(40)と、
前記内容器(30)の一側にヒンジ結合されて開閉される内容器蓋(70)とを含み、
前記含浸部材(40)は凹凸が形成されている加熱された金属モールド(50)に挿入して加圧することで表面(41)を溶かすことにより、前記含浸部材(40)の表面(41)に凹凸が形成され、この際に前記含浸部材(40)の表面(41)のオープンセル構造が溶けて1/2乃至それ以下のサイズのオープンセル構造に変形されていることを特徴とする、表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材を有する化粧品。
【請求項4】
前記内容器(30)の上端には、前記含浸部材(40)が外部に離脱しないように固定させる固定具(60)がさらに結合されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材を有する化粧品。
【請求項5】
前記含浸部材(40)の表面(41)は金属モールド(50)によって溶けながら閉塞され、前記閉塞された表面(41)は多数の針で穿孔されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材を有する化粧品。
【請求項6】
前記含浸部材(40)は表面(41)の縁部にのみ凹凸が形成されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材を有する化粧品。
【請求項7】
前記含浸部材(40)の表面(41)に形成された凸はふくらんでいる円形又は多角形に形成されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか一項に記載の表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材を有する化粧品。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭58-134450号(実開昭60-44710号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、「液状化粧料用カートリッジ体」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下、同様。)。

(1)「第1図に示す如く、1は液状化粧料2を容入する液状化粧料用カートリッジ体であって、袋状容体3と該袋状容体3に形設した通液孔4と、液状化粧料2を含浸する弾性含浸体6とから構成されている。」(明細書第2頁第19行ないし第3頁第3行)

(2)「また第4図に示す如く、液状化粧料用カートリッジ体1を容器10の収容部11に収納して使用することもできる。」(明細書第4頁第8行ないし第10行)

(3)「次に手指あるいはスポンジ・パフ等の塗布体により通液孔4を押圧すれば、弾性含浸体6中に含浸されていた液状化粧料2が通液孔4を通って滲出する。」(明細書第4頁第18行ないし第5頁第1行)

したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「スポンジ・パフ等の塗布体により押圧すれば、液状化粧料2を滲出するものであり、液状化粧料2を含浸する弾性含浸体6を備えた液状化粧料用カートリッジ体1を、収容部11に収納した容器10。」

2 引用文献2について
本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-164017号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0008】本発明の化粧用スポンジパフの製造方法は、連続気泡構造からなる熱溶融性の化粧用スポンジパフの片面あるいは両面において、加熱した金属板をネット状物を介して押圧してパフ表面を溶融し、一部の気泡の微細開孔部を閉塞することを特徴とする方法である。」

(2)「【0020】図1および図2に示すように、この化粧用スポンジパフ10における前記ネット状物との当接部分12は、金属板からネット状物を介して伝わった熱により溶融固化し濃色化した。これにより、約30%の気泡の微細開孔部14が閉塞した。しかし、このパフにおける柔軟性には何ら変化は見られなかった。」

(3)「【0036】またこの製造方法により得たパフにあっては、このパフの表面に付着させた化粧料のパフ内部への吸収を容易に抑えることができ、これにより、化粧料の無駄を防止することができるとともに、連続気泡からなるパフを使用して、厚化粧が可能となる。」

(4)(2)の記載事項と併せて図1及び2を参酌すると、化粧用スポンジパフ10の片面に、ネット状物との当接部分12を凹部とした凹凸構造を看取できる。

したがって、引用文献2には次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献2記載事項>
「パフの表面に付着させた化粧料のパフ内部への吸収を容易に抑えるため、連続気泡構造からなる熱溶融性の化粧用スポンジパフ10の片面において、加熱した金属板をネット状物を介して押圧してパフ表面を溶融し、一部の気泡の微細開孔部14を閉塞して、パフ表面にはネット状物との当接部分12を凹部とした凹凸構造を形成すること。」

3 引用文献3について
本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された実願平3-52534号(実開平5-5015号)のCD-ROM(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0007】
【考案が解決しようとする課題】
このようにして得られる吸水性のポリウレタンスポンジからなる化粧用スポンジパフは、従来のポリウレタンスポンジからなる化粧用スポンジパフにはなかったすぐれた特性を有しているが、水性化粧品を用いた場合に、スポンジパフの上面(指を当てる面)にまで化粧品が滲み出て、使用中に指が汚れるという欠点を有している。」

(2)「【0016】
【実施例】
図において、10はスポンジ本体であり、吸水性のポリウレタンスポンジで形成されている。この吸水性のポリウレタンスポンジは、イソシアネートとしてイソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等、ポリオールとしてエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンブチレンアジペート、ポリグリセリンジオール等、溶剤としてアセトン、エチルアルコール、セロソルブアセテート等をそれぞれ使用して製造されており、溶融温度約200℃、気孔径5?60μmの超微細連続気孔体である(例えば、トーヨーポリマー(株)製「ルビーセルEBタイプ」)。
【0017】
11は、スポンジ本体10の片面(上面)に設けられた熱融着膜である。この熱融着膜11は、スポンジ本体10の片面に加熱された金属型(図示せず)を圧着して、スポンジ本体10の表面を溶融固化することにより形成されている。従って、スポンジの孔は融着により塞がれており、この熱融着膜11は液不透過性である。また、その表面は、溶融固化のため、スポンジ本体10より若干濃色化している。この熱融着膜11が設けられていることにより、化粧用スポンジパフ全体が適度な腰を有することとなる。膜の厚さは金属型の温度や圧着の時間などにより異なるが、例えば10?100μmとすることができる。
【0018】
12は、熱融着膜11に設けられた刻印の凹部であり、金属型の凹凸により形成される。本実施例においては、スポンジ本体10の周縁に2本の溝、中央に英文字が、それぞれ刻印されている。刻印の入れ方は特に限定されないが、本実施例のように周縁に設けると、化粧用スポンジパフ全体がより適度な腰を有することとなり好ましい。」

したがって、引用文献3には次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献3記載事項>
「スポンジパフの上面にまで化粧品が滲み出て、使用中に指が汚れるという欠点を解消するため、吸水性のポリウレタンスポンジで形成されているスポンジ本体10の片面に加熱された金属型を圧着して、スポンジ本体10の表面を溶融固化することにより、スポンジ本体10の片面に熱融着膜11を形成してスポンジの孔を融着により塞ぎ、熱融着膜11には金属型の凹凸により刻印の凹部12が形成されること。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「液状化粧料2」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明1における「化粧料」に相当し、同様に、「弾性含浸体6」は「含浸部材」に相当する。
そうすると、引用発明における「液状化粧料2を含浸する弾性含浸体6」と、本願発明1における「凹凸が形成されている加熱された金属モールド(50)に、パフを押しあてる含浸部材(40)を挿入して加圧することで、表面(41)を溶かして前記含浸部材(40)の表面(41)に凹凸を形成し、この際に前記含浸部材(40)の表面(41)のオープンセル構造が溶けて1/2乃至それ以下のサイズのオープンセル構造に変形されており、前記表面(41)が溶けて凹凸が形成された含浸部材(40)に化粧料を含浸させることを特徴とする、表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材」とは、「化粧料を含浸させる含浸部材」という限りにおいて一致している。
さらに、本願発明1における「化粧品」は、本願明細書の段落【0025】及び【0027】を参酌すると、外容器10等を含める包括的な表現であると把握できるから、引用発明における「弾性含浸体6」だけでなく、引用発明における「液状化粧料用カートリッジ体1」及び「容器10」も、本願発明1における「化粧品」に含まれる。
したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「化粧料を含浸させる含浸部材を有する化粧品。」

<相違点>
「含浸部材」の構成に関して、本願発明1は「凹凸が形成されている加熱された金属モールドに、パフを押しあてる含浸部材を挿入して加圧することで、表面を溶かして前記含浸部材の表面に凹凸を形成し、この際に前記含浸部材の表面のオープンセル構造が溶けて1/2乃至それ以下のサイズのオープンセル構造に変形されて」いるのに対して、引用発明における「弾性含浸体6」はそのような構成を備えていない点。

上記相違点について検討する。
引用文献2及び引用文献3記載事項には、いずれもスポンジ体のセル構造を閉塞すると共に、スポンジ体の表面に凹凸構造を備える点が開示されているが、このスポンジ体はパフであって、引用発明における「弾性含浸体6」のように化粧料を含浸させて、「スポンジ・パフ等の塗布体」により押圧すれば、化粧料を滲出するものではない。
つまり、引用文献2記載事項における「化粧料スポンジパフ10」は、パフによる化粧料の吸収を抑制するものである一方、引用発明における「弾性含浸体6」は、「液体化粧料2」をその内部に吸収させて使用するものであるから、両者は互いにその機能が相反している。
同様に、引用文献3記載事項における「スポンジ本体10」は、スポンジ表面への化粧料の滲み出しを防止するものである一方、引用発明における「弾性含浸体6」は、必要な時に任意の量の「液体化粧料2」を滲出させて使用するものであるから、両者は互いにその機能が相反している。
特に、引用発明に引用文献3記載事項を適用しようとしても、その適用した結果できる構成は、引用発明における「弾性含浸体6」の表面全体の含浸構造が閉塞したものであり、引用発明における「弾性含浸体6」に含浸させた「液体化粧料2」を滲出させるという機能が果たせなくなる。
そうすると、引用発明における「弾性含浸体6」の表面に、引用文献3記載事項を適用しようとすることについては、阻害要因がある。
さらに、本願発明1における「含浸部材」は、表面のセルのサイズを全体的に小さくしたことにより、適正量の化粧料がパフに薄く均一に付くという効果を有するから、引用文献2記載事項における「化粧用スポンジパフ10」及び引用文献3記載事項における「スポンジ本体10」が有する前述の機能とは明らかに異なっている。
以上を総合すると、引用発明に、引用文献2又は引用文献3記載事項を適用する動機付けは存在しない。
そして、他に、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項が本願優先日前に公知であったというべき証拠や根拠もない。
ゆえに、引用発明の「弾性含浸体6」を上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項に変更することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明並びに引用文献2及び引用文献3記載事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2ないし7について
本願発明2及び3は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項と実質的に同じ事項を全て含むものである。
また、本願の特許請求の範囲における請求項4ないし7は、請求項1ないし3のいずれか1項の記載を直接的に引用して記載されたものであるから、本願発明4ないし7も、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項と実質的に同じ事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし7は、本願発明1について述べたものと同様の理由により、引用発明並びに引用文献2及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 小括
そうすると、本願発明1ないし7は、引用発明並びに引用文献2及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-04-12 
出願番号 特願2017-549187(P2017-549187)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A45D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 遠藤 邦喜  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 高島 壮基
鈴木 充
発明の名称 表面を溶かして凹凸を形成した含浸部材を有する化粧品  
代理人 山下 託嗣  

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