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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1373228
審判番号 不服2020-315  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-09 
確定日 2021-05-11 
事件の表示 特願2018- 88588「タッチパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月27日出願公開、特開2018-152105、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年2月25日に出願した特願2014-34476号の一部を平成30年5月2日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 7月 4日付け:拒絶理由通知
令和元年 9月 5日 :意見書の提出
令和元年10月 7日付け:拒絶査定
令和2年 1月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和2年12月25日付け:拒絶理由通知
令和3年 3月 3日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要

原査定(令和元年10月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献Aに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

A.特開2012-234419号公報

第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由(令和2年12月25日付け拒絶理由通知)の概要は次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特表2012-514264号公報(当審で新たに引用した文献)
2.特開2012-234419号公報(拒絶査定時の引用文献A)
3.特開平8-161099号公報(当審で新たに引用した文献)

第4 本願発明

本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、令和3年3月3日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-3は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
上部導電膜を有する上部電極基板と、
下部導電膜を有する下部電極基板と、
前記下部電極基板の4隅の各々に設けられた、第1の給電端子と、第2の給電端子と、第3の給電端子と、前記第1の給電端子の対角に配置される第4の給電端子と、
前記第2の給電端子及び前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、
前記第2の給電端子及び前記第4の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、
前記第3の給電端子及び前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、
前記第3の給電端子及び前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と、
を有し、
前記上部電極基板に力を加えることにより前記上部導電膜と前記下部導電膜とが接触し、前記上部電極基板は前記接触した位置における前記下部電極基板の電位を検出し、
前記第1の給電端子は接地されており、
第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部における分圧値を検出し、
前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第2の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第2の電位測定部における分圧値を検出することを特徴とするタッチパネル装置。

【請求項2】
上部導電膜を有する上部電極基板と、
下部導電膜を有する下部電極基板と、
前記下部電極基板の4隅の各々に設けられた、第1の給電端子と、第2の給電端子と、第3の給電端子と、前記第1の給電端子の対角に配置される第4の給電端子と、
前記第2の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、
前記第2の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、
前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、
前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と、
前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第3の抵抗と、
前記第4の給電端子における電位を測定する第3の電位測定部と、
前記第3の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第4の抵抗と、
前記第3の給電端子における電位を測定する第4の電位測定部と、
を有し、
前記上部電極基板に力を加えることにより前記上部導電膜と前記下部導電膜とが接触し、前記上部電極基板は前記接触した位置における前記下部電極基板の電位を検出し、
前記第1の給電端子は接地されており、
第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗と前記第2の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部及び前記第2の電位測定部における分圧値を検出し、
前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第3の抵抗と前記第4の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第3の電位測定部及び前記第4の電位測定部において分圧値を検出することを特徴とするタッチパネル装置。

【請求項3】
上部導電膜を有する上部電極基板と、
下部導電膜を有する下部電極基板と、
前記下部電極基板の4隅の各々に設けられた、第1の給電端子と、第2の給電端子と、第3の給電端子と、前記第1の給電端子の対角に配置される第4の給電端子と、
前記第2の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、
前記第2の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、
前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、
前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と、
前記第3の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第3の抵抗と、
前記第3の給電端子における電位を測定する第3の電位測定部と、
を有し、
前記上部電極基板に力を加えることにより前記上部導電膜と前記下部導電膜とが接触し、前記上部電極基板は前記接触した位置における前記下部電極基板の電位を検出し、
前記第1の給電端子は接地されており、
前記第4の給電端子は前記第1の給電端子の対角に配置されており、
第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗と前記第2の抵抗とをそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部及び前記第2の電位測定部における分圧を検出し、
前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第2の抵抗と前記第3の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第2の電位測定部及び前記第3の電位測定部において分圧値を検出することを特徴とするタッチパネル装置。」

第5 引用文献、引用発明等

1.引用文献1、引用発明について
(1)令和2年12月25日付けの当審拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0024】
図3に5線抵抗膜方式タッチスクリーンが示されている。図1に示す4線式構成と同様に、5線式構成31は、2枚のプレート33、34とコントローラ39とを含むセンサ32を備える。一方のプレート34の表面は、均一な抵抗層を形成するためにITOといった抵抗材料で被覆されており、他方のプレート33の対向する表面は金属層といった導電層で被覆されている。例えば、図3に示す上板33の下面は導電層を備え、下板34の上は抵抗層を備える。センサ32がディスプレイ上に取り付けられる場合には、一方のプレートの抵抗層も他方のプレートの導電層もプレート基板も透明なものとされる。
【0025】
(以下で抵抗プレートと呼ぶ)抵抗層を備えるプレート34は、4つの電極UR35、LR36、LL37およびUL38を含み、各電極は抵抗プレート34の個々の角のところに形成されている。この例では、各電極35、36、37、38は、抵抗プレート34の各角を(視点によって)時計回りまたは反時計回りに進んでUR35、LR36、LL37およびUL38の順に配置されている。(以下で導電プレートと呼ぶ)他方のプレート33の導電層は第5の電極として機能し、ワイパ電極Wとも呼ばれる。4つの電極UR35、LR36、LL37およびUL38はそれぞれコントローラ39の個々の出力に接続されている。ワイパ電極Wはコントローラ39の入力に接続されている。
【0026】
5線式構成31の動作原理は多くの点で4線式構成1の動作原理と類似する。使用に際しては、4つの電極UR35、LR36、LL37およびUL38にしかるべくバイアスをかけることによって、電圧がX方向またはY方向で抵抗層の両端に印加される。この例では、タッチ点のX座標およびY座標は、図3に「O」で示すプレートの角のうちの1つに原点を有する図3に示す軸によって示される方向で定義される。X座標を測定するには、(プレートの一方の縁部に位置する)電極UR35およびLR36を正の基準電圧VREFに接続し、(プレートの対向する縁部に位置する)電極LL37およびUL38を接地に接続することによって、電圧がX方向に印加され得る。このステップでは、UR35電極とLR36電極とが合わさって4線式構成1におけるX+電極6と類似の機能を果たし、LL37電極とUL38電極とが合わさってX-電極5と類似の機能を果たす。ワイパ電極Wは、4線式構成1におけるY+電極8またはY-電極7と類似の測定機能を果たす。
【0027】
各電極35、36、37、38に前述のようにバイアスをかけることにより、X方向で抵抗プレート34の両端に線形電圧増加が生じる。導電プレート33がタッチされると、ワイパ電極がタッチ点Tにおいて抵抗プレート34上に形成された抵抗層と電気的に接続する。4線式構成1の場合と同様に、これにより、印加電圧がワイパ電極によって分割される電圧分割回路が生じる。ワイパ電極によって測定される分割電圧VWXMEASはタッチ点TのX座標に比例する。X座標は電圧比VWXMEAS/VREFにXMAXを乗じたもので与えられる。
【0028】
X座標が決定されると、Y座標がY方向で抵抗層にバイアスをかけることによって決定される。例えば、(プレートの一方の縁部に位置する)電極UL38およびUR35を正の基準電圧VREFに接続し、(プレートの対向する縁部に位置する)電極LL37およびLR36を接地に接続することによって、電圧がY方向に印加される。このステップでは、UL38電極とUR35電極とが合わさって4線式構成1におけるY+電極8と類似の機能を果たし、LL37電極とLR36電極とが合わさってY-電極7と類似の機能を果たす。ワイパ電極Wは4線式構成1におけるX+電極6またはX-電極5と類似の測定機能を果たす。このようにして線形電圧増加がY方向で抵抗プレート34の両端に作り出され、センサ32がタッチされるときにワイパ電極によって分割される。ワイパ電極によって測定される分割電圧VWYMEASはタッチ点TのY座標に比例する。Y座標は電圧比VWYMEAS/VREFにYMAXを乗じたものにより与えられる。
【0029】
また、センサの他の構成も可能である。例えば、7線式および9線式の各タッチスクリーンセンサは、前述の4線式および5線式の各構成の変形を備える。
【0030】
電圧の印加および測定はコントローラ9、39によって行われる。例えば図2dに、X座標を決定するために電圧の印加および測定を行う4線式構成1のセンサ2およびコントローラ9の回路構成を示す。
【0031】
前述のタッチスクリーン装置では、X座標およびY座標の測定値は連続して取得される。例えば4線式構成1では、一方の座標を測定するために一方のプレートの電極の両端に電圧が印加され、次いで、他方の座標を測定するために他方のプレートの電極の両端に電圧が印加される。このプロセスは必要な位置測定ごとに繰り返される。典型的なタッチスクリーン装置は、毎秒100から1000の座標対測定値を生じる。」

「【図3】



(2)上記下線部の記載及び図3によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

〈引用発明〉
「5線抵抗膜方式タッチスクリーンであって、
5線式構成31は、2枚のプレート33、34とコントローラ39とを含むセンサ32を備え、
一方の下板プレート34の表面は、均一な抵抗層を形成するためにITOといった抵抗材料で被覆されており、他方の上板プレート33の対向する表面は金属層といった導電層で被覆され、
上板33の下面は導電層を備え、下板34の上は抵抗層を備え、
(以下で抵抗プレートと呼ぶ)抵抗層を備えるプレート34は、4つの電極UR35、LR36、LL37およびUL38を含み、各電極は抵抗プレート34の個々の角のところに形成され、
(以下で導電プレートと呼ぶ)他方のプレート33の導電層は、ワイパ電極Wとも呼ばれ、4つの電極UR35、LR36、LL37およびUL38はそれぞれコントローラ39の個々の出力に接続され、ワイパ電極Wはコントローラ39の入力に接続されており、
X座標を測定するには、(プレートの一方の縁部に位置する)電極UR35およびLR36を正の基準電圧VREFに接続し、(プレートの対向する縁部に位置する)電極LL37およびUL38を接地に接続することによって、電圧がX方向に印加され、各電極35、36、37、38に前述のようにバイアスをかけることにより、X方向で抵抗プレート34の両端に線形電圧増加が生じ、導電プレート33がタッチされると、ワイパ電極がタッチ点Tにおいて抵抗プレート34上に形成された抵抗層と電気的に接続し、印加電圧がワイパ電極によって分割される電圧分割回路が生じ、ワイパ電極によって測定される分割電圧VWXMEASはタッチ点TのX座標に比例し、X座標は電圧比VWXMEAS/VREFにXMAXを乗じたもので与えられ、
X座標が決定されると、電極UL38およびUR35を正の基準電圧VREFに接続し、電極LL37およびLR36を接地に接続することによって、電圧がY方向に印加され、線形電圧増加がY方向で抵抗プレート34の両端に作り出され、センサ32がタッチされるときにワイパ電極によって分割され、ワイパ電極によって測定される分割電圧VWYMEASはタッチ点TのY座標に比例し、Y座標は電圧比VWYMEAS/VREFにYMAXを乗じたものにより与えられる、5線抵抗膜方式タッチスクリーン。」

2.引用文献2について
(1)令和2年12月25日付けの当審拒絶理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0036】
(マルチタッチ時2)
図5(a)は、タッチパネル1上で、点PM1と点PM2とが押された例を示す模式図である。
図5(b)は、図5(a)の状態で抵抗膜11が駆動膜となっている時の状態を、等価回路で示したものである。
【0037】
図5(a)を参照して、図5(a)の点PM1及び点PM2は、X軸又はY軸に対して平行ではない。抵抗膜11は、電極XLから点PM1までの抵抗RM1と、電極XLから点PM2までの抵抗RM2と、点PM1から電極XRまでの抵抗RM3と、点PM2から電極XRまでの抵抗RM4と、に分けて説明することができる。
【0038】
抵抗膜11上の点PM1と、抵抗膜13上の点PM1’とが接触している。また、抵抗膜11上の点PM2と、抵抗膜13上の点PM2’とが接触している。
MCU31は、検出用抵抗39L、39R、電極XL及び電極XRを通るラインに電圧をかける。つまり、MCU31は、抵抗膜11を駆動膜にする。すると、抵抗膜11上に電流が流れる。そして、抵抗膜13上も、点PM1’と点PM2’との間で電流が流れる。つまり、図5(b)に示すように、並列回路が形成される。このため、電極XLと電極XRとの間の全体抵抗RTxは、マルチタッチがなされていない場合よりも低下する。
その結果、検出用抵抗39Lと電極XLとの間での電位は低下し、検出用抵抗39Rと電極XRとの間の電位は上昇する。この電位の変化は、A/Dコンバータ35L及び35Rによって計測できる。
つまり、MCU31は、抵抗膜11が駆動膜である時のA/Dコンバータ35L及び35Rが計測する電位に変化があった場合、マルチタッチがなされたと判断することができる。
【0039】
次に、MCU31は、検出用抵抗39U、39D、電極YU及び電極YDを通るラインに電圧をかける。つまり、MCU31は、抵抗膜13を駆動膜にする。すると、抵抗膜13上に電流が流れる。そして、抵抗膜13上も、点PM1’と点PM2’との間で電流が流れる。つまり、並列回路が形成される。このため、電極YUと電極YDとの間の全体抵抗RTyは、マルチタッチがなされていない場合よりも低下する。
その結果、検出用抵抗39Uと電極YUとの間での電位は低下し、検出用抵抗39Dと電極YDとの間の電位は上昇する。この電位の変化は、A/Dコンバータ35U及び35Dによって計測できる。
つまり、MCU31は、抵抗膜13が駆動膜である時のA/Dコンバータ35U及び35Dが計測する電位に変化があった場合、マルチタッチがなされたと判断することができる。」

「【図5】



(2)上記下線部の記載及び【図5】(a)、(b)によれば、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

〈引用文献2記載の技術事項〉
「タッチパネル1上で、点PM1と点PM2とが押された例であって、
抵抗膜11上の点PM1と、抵抗膜13上の点PM1’とが接触し、また、抵抗膜11上の点PM2と、抵抗膜13上の点PM2’とが接触し、
MCU31は、検出用抵抗39L、39R、電極XL及び電極XRを通るラインに電圧をかけると、抵抗膜11上に電流が流れ、抵抗膜13上も、点PM1’と点PM2’との間で電流が流れ、図5(b)に示すように、並列回路が形成され、電極XLと電極XRとの間の全体抵抗RTxは、マルチタッチがなされていない場合よりも低下し、
その結果、検出用抵抗39Lと電極XLとの間での電位は低下し、検出用抵抗39Rと電極XRとの間の電位は上昇し、この電位の変化は、A/Dコンバータ35L及び35Rによって計測でき、
つまり、MCU31は、抵抗膜11が駆動膜である時のA/Dコンバータ35L及び35Rが計測する電位に変化があった場合、マルチタッチがなされたと判断することができ、
次に、MCU31は、検出用抵抗39U、39D、電極YU及び電極YDを通るラインに電圧をかけると、抵抗膜13上に電流が流れ、抵抗膜13上も、点PM1’と点PM2’との間で電流が流れ、並列回路が形成され、電極YUと電極YDとの間の全体抵抗RTyは、マルチタッチがなされていない場合よりも低下し、
その結果、検出用抵抗39Uと電極YUとの間での電位は低下し、検出用抵抗39Dと電極YDとの間の電位は上昇し、この電位の変化は、A/Dコンバータ35U及び35Dによって計測でき、
つまりMCU31は、抵抗膜13が駆動膜である時のA/Dコンバータ35U及び35Dが計測する電位に変化があった場合、マルチタッチがなされたと判断することができること。」

3.引用文献3について
(1)令和2年12月25日付けの当審拒絶理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0039】〔実施例1〕 図1は,実施例1のブロック構成図である。実施例1の操作パネルは,アナログタッチパネル方式の操作パネルであり,人間の指などでタッチパネルのタッチ感応表面上のどこにタッチしてもそのタッチを検出するものである。
【0040】まず,構成について説明する。101は,X方向/Y方向それぞれの抵抗膜であるX側抵抗膜101aとY側抵抗膜101bとを重ね合わせて形成されたアナログタッチパネルであり,102のLCDモジュール上に設置される。上記X側抵抗膜101aには,X電極端子(X2)と対向する端部にX側抵抗膜101aの抵抗値を測定する測定用X電極端子(X1)が配置されており,Y側抵抗膜101bには,Y電極端子(Y2)と対向する端部にY側抵抗膜101bの抵抗値を測定する測定用Y電極端子(Y1)が配置されている。
【0041】103は,LCDモジュール102の画面を制御するLCDコントローラである。104a?fは,タッチパネル101の端子間に印加する(または端子から検出する)信号ラインを切り替えるスイッチ(SWa?SWf)であり,105a?dは,信号を検出するセンスアンプ(AMP.a?AMP.d)である。
【0042】また,106はセンスアンプ105a?dから信号(電圧値)を入力して後述するA/Dコンバータに選択的に出力するマルチプレクサ(MUX),107は検出した電圧値をデジタルデータに変換するA/Dコンバータ,108はタッチパネル101面が押下されたことを検出する独立した検出回路(実施例1では,コンパレータ(COMP)),109は押下検出,タッチパネル101の端子信号切り替え,および座標データの算出を行う入力制御部,110は上記各部を制御するメインコントローラ,111aおよび111bは,X電極,Y電極の各電極間の抵抗値測定時のバイアス抵抗回路である。なお,X電極の電極間の抵抗値測定時のバイアス抵抗回路を111a,Y電極の電極間の抵抗値測定時のバイアス抵抗回路を111bとする。また,本装置では点線枠で囲まれた部分は1チップのマイコン(マイクロ・コンピュータ)112によって実現されている。
【0043】なお,スイッチ104a?fによって切替手段が構成され,センスアンプ105a?dおよび検出回路108によって検出手段が構成され,入力制御部109によって座標算出手段が構成され,LCDモジュール102によって表示手段が構成され,マイコン112によって制御手段が構成され,またバイアス抵抗回路111aおよび111bとによって抵抗値検出手段および電圧値検出手段が構成される。」

「【0054】次に,入力制御部109は,X側,Y側それぞれについて抵抗膜の抵抗値を測定するための回路に接続する。このとき,パネル上の1点を押下したときの測定した抵抗値をRTPXとし,パネル上の1点を押下した場合抵抗値RTPXは,初期データの値と同一となるが,パネル上の2点を押下した場合には,図6に示すような等価回路になり,Y側抵抗膜の抵抗値がX側抵抗膜に並列に接続された回路になるため,抵抗値が低下する。
【0055】入力制御部109は,スイッチ104bおよび104eをオンとし,スイッチ104a,c,dおよびfをオフとして(S403),X側抵抗膜の抵抗値を示す電圧値がセンスアンプ105aに検出され,この結果が検出回路108で検出されて入力制御部109に通知される(S404)。
【0056】ここで,測定されたX側抵抗膜の抵抗値を示す電圧値と,電圧値VRxとの差異を求め(S405),求めた差異とあらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)と比較/評価し(S406),差異の電圧値があらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)よりも大きい場合には,パネル上の複数点が押下されたものと判断して,その状態をユーザーに通知する(S418)。通知は,例えば,警告メッセージをLCDモジュール102に表示するなどを行なうと良い。
【0057】ステップS404にて差異の電圧値があらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)と同じであると判断した場合,Y側抵抗膜に対しても同様の比較/評価を実行する。
【0058】入力制御部109は,スイッチ104f,dをオンとし,スイッチ104a,b,c,eをオフとする(S407)。この状態でタッチパネル101上が押下されるとセンスアンプ105cに電圧が検出され,この結果が検出回路108で検出されて入力制御部109に通知される(S408)。
【0059】ここで,測定されたY側抵抗膜の抵抗値を示す電圧値と,電圧値VRyとの差異を求め(S409),求めた差異とあらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)と比較/評価し(S410),差異の電圧値があらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)よりも大きい場合には,パネル上の複数点が押下されたものと判断して,その状態をユーザーに通知する(S418)。通知は,例えば,警告メッセージをLCDモジュール102に表示するなどを行なうと良い。
【0060】ステップS410にて差異の電圧値があらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)と同じであると判断した場合,X側,Y側共に基準データの抵抗値と同一の結果が得られ,すなわち,パネル上の押下点は,1点であると判断できる。」

「【図1】


図1を参照すると、「X側抵抗膜の抵抗値を示す電圧値」は、X側抵抗膜101aの測定用X電極端子(X1)におけるバイアス回路111aの抵抗RxとX側抵抗膜101aの抵抗値の分圧値であり、また、「Y側抵抗膜の抵抗値を示す電圧値」は、Y側抵抗膜101bの測定用Y電極端子(Y1)におけるバイアス回路111bの抵抗RyとY側抵抗膜101bの抵抗値の分圧値であると認められる。

(2)上記下線部の記載及び図1によれば、引用文献3には、次の技術事項(以下、「引用文献3記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

〈引用文献3記載の技術事項〉
「入力制御部109は,スイッチ104bおよび104eをオンとし,スイッチ104a,c,dおよびfをオフとして(S403),X側抵抗膜の抵抗値を示す電圧値(X側抵抗膜101aの測定用X電極端子(X1)におけるバイアス回路111aの抵抗RxとX側抵抗膜101aの抵抗値の分圧値)がセンスアンプ105aに検出され,この結果が検出回路108で検出されて入力制御部109に通知され(S404),
ここで,測定されたX側抵抗膜の抵抗値を示す電圧値(X側抵抗膜101aの測定用X電極端子(X1)におけるバイアス回路111aの抵抗RxとX側抵抗膜101aの抵抗値の分圧値)と,電圧値VRxとの差異を求め(S405),求めた差異とあらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)と比較/評価し(S406),差異の電圧値があらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)よりも大きい場合(S406;No)には,パネル上の複数点が押下されたものと判断し,
Y側抵抗膜に対しても同様の比較/評価を実行し,
入力制御部109は,スイッチ104f,dをオンとし,スイッチ104a,b,c,eをオフとし(S407),この状態でタッチパネル101上が押下されるとセンスアンプ105cに電圧が検出され,この結果が検出回路108で検出されて入力制御部109に通知され(S408),
ここで,測定されたY側抵抗膜の抵抗値を示す電圧値(Y側抵抗膜101bの測定用Y電極端子(Y1)におけるバイアス回路111bの抵抗RyとY側抵抗膜101bの抵抗値の分圧値)と,電圧値VRyとの差異を求め(S409),求めた差異とあらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)と比較/評価し(S410),差異の電圧値があらかじめ設定した所定の閾値(Vrt)よりも大きい場合(S410;No)には,パネル上の複数点が押下されたものと判断すること。」

第6 対比・判断

1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると次のことがいえる。

(ア)引用発明の「他方のプレート33(導電プレート)」は、本願発明1の「上部導電膜を有する上部電極基板」に相当するといえる。
(イ)引用発明の「抵抗層を備えるプレート34(抵抗プレート)」は、本願発明1の「下部導電膜を有する下部電極基板」に相当するといえる。
(ウ)引用発明の「抵抗プレート34の個々の角のところに形成」された「4つの電極UR35、LR36、LL37およびUL38」は、本願発明1の「前記下部電極基板の4隅の各々に設けられた、第1の給電端子と、第2の給電端子と、第3の給電端子と、前記第1の給電端子の対角に配置される第4の給電端子」に相当するといえる。
(エ)引用発明の「導電プレート33がタッチされると、ワイパ電極がタッチ点Tにおいて抵抗プレート34上に形成された抵抗層と電気的に接続し、印加電圧がワイパ電極によって分割される電圧分割回路が生じ、」「分割電圧VWXMEAS」を「ワイパ電極によって」測定すること、及び「タッチされるときにワイパ電極によって分割され、」「分割電圧VWYMEAS」を「ワイパ電極によって」測定する構成は、「ワイパ電極」は、「導電プレート」(本願発明1の「上部電極基板」に相当する。)の導電層であるから、本願発明1の「前記上部電極基板に力を加えることにより前記上部導電膜と前記下部導電膜とが接触し、前記上部電極基板は前記接触した位置における前記下部電極基板の電位を検出」する構成に相当するといえる。
(オ)引用発明の「電極UL38およびUR35を正の基準電圧VREFに接続し、電極LL37およびLR36を接地に接続」し、「分割電圧VWYMEAS」を「ワイパ電極によって測定」する構成と、「X座標を測定するには、」「電極UR35およびLR36を正の基準電圧VREFに接続し、」「電極LL37およびUL38を接地に接続」し、「分割電圧VWXMEAS」を「ワイパ電極によって測定」する構成は、本願発明1の「前記第1の給電端子は接地されており」、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部における分圧値を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第2の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第2の電位測定部における分圧値を検出する」構成と、「前記第1の給電端子は接地されており」、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に電源電位を供給した状態で、電圧値を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に電源電位を供給した状態で、電圧値を検出する」構成である点では共通するといえる。
(カ)引用発明の「5線抵抗膜方式タッチスクリーン」は、後述する相違点を除き、本願発明1の「タッチパネル装置」に相当するといえる。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点と相違点があるといえる。

(一致点)
「上部導電膜を有する上部電極基板と、
下部導電膜を有する下部電極基板と、
前記下部電極基板の4隅の各々に設けられた、第1の給電端子と、第2の給電端子と、第3の給電端子と、前記第1の給電端子の対角に配置される第4の給電端子と、
を有し、
前記上部電極基板に力を加えることにより前記上部導電膜と前記下部導電膜とが接触し、前記上部電極基板は前記接触した位置における前記下部電極基板の電位を検出し、
前記第1の給電端子は接地されており、
第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に電源電位を供給した状態で、電圧値を検出し、
前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に電源電位を供給した状態で、電圧値を検出するタッチパネル装置。」

(相違点)
本願発明1では、「前記第2の給電端子及び前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、前記第2の給電端子及び前記第4の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、前記第3の給電端子及び前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、前記第3の給電端子及び前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と」を有し、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部における分圧値を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第2の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第2の電位測定部における分圧値を検出する」のに対し、引用発明では、上記のような第1ないし第2の抵抗および第1ないし第2の電位測定部を有し、上記のように特定の抵抗を介して電源電圧を供給した状態で、対応する電位測定部における分圧値を検出する構成が特定されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。相違点に係る本願発明1の「前記第2の給電端子及び前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、前記第2の給電端子及び前記第4の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、前記第3の給電端子及び前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、前記第3の給電端子及び前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と」を有することにより、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部における分圧値を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第2の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第2の電位測定部における分圧値を検出する」という5線式タッチパネルでマルチタッチ検出を実現するための構成について、上記引用文献1-3には具体的に記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2について
(1)対比
本願発明2と引用発明を対比すると、本願発明2と引用発明との間には、次の一致点と相違点があるといえる。

(一致点)
「上部導電膜を有する上部電極基板と、
下部導電膜を有する下部電極基板と、
前記下部電極基板の4隅の各々に設けられた、第1の給電端子と、第2の給電端子と、第3の給電端子と、前記第1の給電端子の対角に配置される第4の給電端子と、
を有し、
前記上部電極基板に力を加えることにより前記上部導電膜と前記下部導電膜とが接触し、前記上部電極基板は前記接触した位置における前記下部電極基板の電位を検出し、
前記第1の給電端子は接地されており、
第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に電源電位を供給した状態で、電圧値を検出し、
前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に電源電位を供給した状態で、電圧値を検出するタッチパネル装置。」

(相違点)
本願発明2では、「前記第2の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、前記第2の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と、前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第3の抵抗と、前記第4の給電端子における電位を測定する第3の電位測定部と、前記第3の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第4の抵抗と、前記第3の給電端子における電位を測定する第4の電位測定部と」を有し、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗と前記第2の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部及び前記第2の電位測定部における分圧値を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第3の抵抗と前記第4の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第3の電位測定部及び前記第4の電位測定部において分圧値を検出する」のに対し、引用発明では、上記のような第1ないし第4の抵抗および第1ないし第4の電位測定部を有し、上記のように特定の抵抗を介して電源電圧を供給した状態で、対応する各電位測定部における分圧値を検出する構成が特定されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。相違点に係る本願発明2の「前記第2の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、前記第2の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と、前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第3の抵抗と、前記第4の給電端子における電位を測定する第3の電位測定部と、前記第3の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第4の抵抗と、前記第3の給電端子における電位を測定する第4の電位測定部と」を有することにより、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗と前記第2の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部及び前記第2の電位測定部における分圧値を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第3の抵抗と前記第4の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第3の電位測定部及び前記第4の電位測定部において分圧値を検出する」という5線式タッチパネルでマルチタッチ検出を実現するための構成について、上記引用文献1-3には具体的に記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、本願発明2は、当業者であっても引用発明、引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3.本願発明3について
(1)対比
本願発明3と引用発明を対比すると、本願発明3と引用発明との間には、次の一致点と相違点があるといえる。

(一致点)
「上部導電膜を有する上部電極基板と、
下部導電膜を有する下部電極基板と、
前記下部電極基板の4隅の各々に設けられた、第1の給電端子と、第2の給電端子と、第3の給電端子と、前記第1の給電端子の対角に配置される第4の給電端子と、
を有し、
前記上部電極基板に力を加えることにより前記上部導電膜と前記下部導電膜とが接触し、前記上部電極基板は前記接触した位置における前記下部電極基板の電位を検出し、
前記第1の給電端子は接地されており、
前記第4の給電端子は前記第1の給電端子の対角に配置されており、
第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に電源電位を供給した状態で、電圧値を検出し、
前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に電源電位を供給した状態で、電圧値を検出するタッチパネル装置。」

(相違点)
本願発明3では、「前記第2の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、前記第2の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と、前記第3の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第3の抵抗と、前記第3の給電端子における電位を測定する第3の電位測定部と」を有し、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗と前記第2の抵抗とをそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部及び前記第2の電位測定部における分圧を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第2の抵抗と前記第3の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第2の電位測定部及び前記第3の電位測定部において分圧値を検出する」のに対し、引用発明では、上記のような第1ないし第3の抵抗および第1ないし第3の電位測定部を有し、上記のように特定の抵抗を介して電源電圧を供給した状態で、対応する各電位測定部における分圧値を検出する構成が特定されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。相違点に係る本願発明3の「前記第2の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、前記第2の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と、前記第3の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第3の抵抗と、前記第3の給電端子における電位を測定する第3の電位測定部と」を有することにより、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗と前記第2の抵抗とをそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部及び前記第2の電位測定部における分圧を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第2の抵抗と前記第3の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第2の電位測定部及び前記第3の電位測定部において分圧値を検出する」という5線式タッチパネルでマルチタッチ検出を実現するための構成について、上記引用文献1-3には具体的に記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、本願発明3は、当業者であっても引用発明、引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定についての判断

令和3年3月3日付けの補正により、補正後の請求項1は、「前記第2の給電端子及び前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、前記第2の給電端子及び前記第4の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、前記第3の給電端子及び前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、前記第3の給電端子及び前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と」を有し、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部における分圧値を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第2の抵抗を介して電源電位を供給した状態で、前記第2の電位測定部における分圧値を検出する」という技術的事項を有するものとなった。
また、補正後の請求項2は、「前記第2の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、前記第2の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と、前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第3の抵抗と、前記第4の給電端子における電位を測定する第3の電位測定部と、前記第3の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第4の抵抗と、前記第3の給電端子における電位を測定する第4の電位測定部と」を有し、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗と前記第2の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部及び前記第2の電位測定部における分圧値を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第3の抵抗と前記第4の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第3の電位測定部及び前記第4の電位測定部において分圧値を検出する」という技術的事項を有するものとなった。
また、補正後の請求項3は、「前記第2の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第1の抵抗と、前記第2の給電端子における電位を測定する第1の電位測定部と、前記第4の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第2の抵抗と、前記第4の給電端子における電位を測定する第2の電位測定部と、前記第3の給電端子と電源電位との間に直列に設けられた第3の抵抗と、前記第3の給電端子における電位を測定する第3の電位測定部と」を有し、「第1の方向における測定時には、前記第3の給電端子を接地し、前記第2の給電端子と前記第4の給電端子に前記第1の抵抗と前記第2の抵抗とをそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第1の電位測定部及び前記第2の電位測定部における分圧を検出し」、「前記第1の方向と交差する第2の方向における測定時には、前記第2の給電端子を接地し、前記第3の給電端子と前記第4の給電端子に前記第2の抵抗と前記第3の抵抗をそれぞれ介して電源電位を供給した状態で、前記第2の電位測定部及び前記第3の電位測定部において分圧値を検出する」という技術的事項を有するものとなった。
これらの技術的事項は、いずれも原査定における引用文献A(当審拒絶理由における引用文献2)には記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもないので、本願発明1-3は、当業者であっても、原査定における引用文献Aに基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-04-20 
出願番号 特願2018-88588(P2018-88588)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 菅原 浩二  
特許庁審判長 角田 慎治
特許庁審判官 ▲吉▼田 耕一
小田 浩
発明の名称 タッチパネル  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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