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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1373231
審判番号 不服2020-7608  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-03 
確定日 2021-05-11 
事件の表示 特願2016- 55382「Lidar用選択波長吸収樹脂組成物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-167484、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-55382号(以下「本件出願」という。)は、平成28年3月18日を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和元年11月12日付け:拒絶理由通知書
令和2年 1月 9日提出:意見書、手続補正書
令和2年 4月 6日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 6月 3日提出:審判請求書、手続補正書
令和3年 1月 8日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由」という。)
令和3年 3月 9日提出:意見書、手続補正書

2 原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。
本件出願の請求項6に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献等一覧
引用文献A:特開2008-9238号公報
引用文献B:特開2008-9222号公報
引用文献C:米国特許出願公開第2007/0290172号明細書
引用文献D:特開平11-273439号公報
引用文献E:特開2010-132874号公報
引用文献F:特開2011-76075号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献Dであり、引用文献A、B、E、Fは周知例として引用された文献である。引用文献Cは使用していない。)

3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。
本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献1:特開2011-26559号公報(当審において新たに引用した文献)
引用文献2:特開2008-9238号公報(拒絶査定時の引用文献A)
引用文献3:特開2008-9222号公報(拒絶査定時の引用文献B)
引用文献4:特開2010-132874号公報(拒絶査定時の引用文献E)
引用文献5:特開2011-76075号公報(拒絶査定時の引用文献F)
(当合議体注:主引用例は、当審において新たに引用した引用文献1であり、引用文献2?3は、請求項1?6に対する周知例として、引用文献4?5は、請求項6に対する周知例として、それぞれ引用された文献である。)

4 本願発明
本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は、令和3年3月9日にした手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項6に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
透明樹脂と、光吸収剤とを有するLidar用選択波長吸収樹脂組成物であって、上記透明樹脂がエポキシ樹脂を主成分とし、かつ、エポキシ樹脂を2種以上併用し、上記エポキシ樹脂の少なくとも1種が多官能エポキシ樹脂であり、上記樹脂組成物の厚み1mmに成形した硬化体が、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下であり、Lidarで使用するレーザ光の波長における光透過率が80%以上である上記Lidarで使用するレーザ光の波長が、850nm以上950nm以下の範囲および1500nm以上1600nm以下の範囲の少なくとも一方であることを特徴とするLidar用選択波長吸収樹脂組成物。
【請求項2】
光吸収剤の含有量が、樹脂組成物全体の0.001質量%以上10質量%以下に設定されている請求項1記載のLidar用選択波長吸収樹脂組成物。
【請求項3】
光吸収剤として、染料および顔料の少なくとも一方を用いる請求項1または2記載のLidar用選択波長吸収樹脂組成物。
【請求項4】
光吸収剤として、複数の染料を組み合わせて用いる請求項1または2記載のLidar用選択波長吸収樹脂組成物。
【請求項5】
上記Lidarで使用するレーザ光の波長が、850nm以上950nm以下の範囲および1500nm以上1600nm以下の範囲のいずれも対象とする請求項1?4のいずれか一項に記載のLidar用選択波長吸収樹脂組成物。
【請求項6】
透明樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤と、光吸収剤とを有し、上記透明樹脂がエポキシ樹脂を主成分とし、かつ、エポキシ樹脂を2種以上併用し、上記エポキシ樹脂の少なくとも1種が多官能エポキシ樹脂であり、厚み1mmに成形した硬化体が、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下であり、Lidarで使用するレーザ光の波長における光透過率が80%以上であり、上記Lidarで使用するレーザ光の波長が、850nm以上950nm以下の範囲および1500nm以上1600nm以下の範囲の少なくとも一方であるLidar用選択波長吸収樹脂組成物を製造する方法であって、光吸収剤を溶媒に配合して配合物を作製する工程と、上記配合物に透明樹脂、硬化剤、硬化促進剤を含む残りの成分を配合する工程とを有することを特徴とするLidar用選択波長吸収樹脂組成物の製造方法。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用物発明(引用方法発明)
(1)引用文献1について
当審拒絶理由において、主引用物発明(引用方法発明)が記載された文献として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2011-26559号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用物発明(引用方法発明)の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【請求項1】
可視光波長の光の選択吸収性を示す硬化物を形成する硬化性樹脂組成物であって、
該組成物は、硬化性樹脂及び硬化剤成分を含み、
硬化性樹脂がエポキシ樹脂及び不飽和イミド化合物を必須として構成されることを特徴とする波長選択吸収性硬化性樹脂組成物。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択吸収性硬化性樹脂組成物に関する。より詳しくは、光学フィルム等の光学デバイス用途に好適に用いることができる波長選択吸収性硬化性樹脂組成物に関する。
・・・中略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、アクリル系樹脂の耐熱性、耐湿性を改善する目的でノルボルネン系熱可塑性樹脂が用いられているが、ノルボルネン系熱可塑性樹脂を用いた場合であっても、高温時の形態安定性は高いとはいえず、また、波長選択吸収剤として添加する色素についても耐熱性に乏しいものが多いことから、耐熱性は充分とはいえない。このため、特定波長の光を選択的に吸収するとともに、耐熱性が高く、高温時における変形等も充分に抑制された硬化物を与える樹脂組成物について検討する工夫の余地があった。特に、このような樹脂組成物が用いられる光学デバイス用途においては、可視光領域の光を吸収し、近赤外線領域の光を透過する性質を有するものの需要が多く、そのような光学特性を有しながら、耐熱性にも優れた樹脂組成物が求められている。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、特定波長の光を選択的に吸収するとともに耐熱性が高く、製造工程で高温になる製品や、高温環境下で使用される用途にも好適に用いることができる硬化物を形成する波長選択吸収性硬化性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定波長の光を選択的に吸収し、かつ、耐熱性に優れた硬化物を形成する樹脂組成物について種々検討したところ、樹脂組成物を硬化性樹脂と硬化剤成分とを含むものとし、硬化性樹脂としてエポキシ樹脂と不飽和イミド化合物とを含むものとすると、得られる硬化物が可視光波長領域の光の良好な吸収性を示すとともに、近赤外線領域の光を高い透過率で透過する光学特性を発揮するものとなることを見出した。また、エポキシ樹脂と不飽和イミド化合物とを組み合わせることにより、エポキシ樹脂が本来有している耐熱性が更に向上し、得られる硬化物が高温環境下でも優れた形状安定性を有する耐熱性に優れたものとなるとともに、高温環境下におかれた後であっても、良好な光学特性を維持できることを見出した。また、本発明者は、波長選択吸収性硬化性樹脂組成物を特定範囲の熱軟化温度を有するものとしたり、硬化剤としてアミン系硬化剤を含むものとしたりすることで硬化物の可視光波長の光の吸収性が高まり、可視光波長領域の光の吸収性により優れたものとなることや、組成物を更にシラン化合物を含むものとすることで、硬化物の耐熱性が更に向上することも見出した。更に本発明者は、樹脂組成物を硬化性樹脂、硬化剤成分と色素とを含むものとし、硬化性樹脂としてエポキシ樹脂と不飽和イミド化合物を必須として構成されるものを用い、色素として可視光領域の光を選択的に吸収する色素を用いると、エポキシ樹脂と不飽和イミド化合物とを含むことと、特定の色素を含むこととの2つの要因に起因して、得られる硬化物が可視光波長領域の光の優れた吸収性を示すとともに、近赤外線領域の光を高い透過率で透過する光学特性を発揮するものとなることをも見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、可視光波長の光の選択吸収性を示す硬化物を形成する硬化性樹脂組成物であって、前記組成物は、硬化性樹脂及び硬化剤成分を含み、硬化性樹脂がエポキシ樹脂及び不飽和イミド化合物を必須として構成されることを特徴とする波長選択吸収性硬化性樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の波長選択吸収性硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂及び硬化剤成分を含むものであるが、これらをそれぞれ1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。また、これらを含む限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分を含む場合、その他の成分の含有量は、硬化性樹脂と硬化剤成分の合計100質量%に対して0.5?900質量%であることが好ましい。900質量%を超えると、樹脂組成物の粘度が上昇し、ハンドリング性が低下するおそれがある。また、波長選択吸収性硬化性樹脂組成物から形成される硬化物が充分な耐熱性や可視光波長の光の選択吸収性を示さなくなるおそれがある。より好ましくは、1?850質量%である。
【0010】
本発明の波長選択吸収性硬化性樹脂組成物が含む硬化性樹脂は、エポキシ樹脂及び不飽和イミド化合物を必須として構成されるものであるが、エポキシ樹脂100質量%に対して、不飽和イミド化合物を5?400質量%含むものであることが好ましい。エポキシ樹脂と不飽和イミド化合物との配合割合がこのような範囲であると、本発明の組成物から得られる硬化物が耐熱性等の物性により優れたものとなる。より好ましくは、8?350質量%であり、更に好ましくは、10?300質量%である。
なお、後述するように、本発明の波長選択吸収性硬化性樹脂組成物が、不飽和イミド化合物にも該当するシラン化合物を含むものである場合、当該シラン化合物も不飽和イミド化合物に含めて上記比率を満たすことが好ましい。
【0011】
本発明におけるエポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール・クレゾール・キシレノール・ナフトール・レゾルシン・カテコール・ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のフェノール類とホルムアルデヒド・アセトアルテヒド・プロピオンアルデヒド・ベンズアルデヒド・ヒドロキシベンズアルデヒド・サリチルアルデヒド・ジシクロペンタジエン・テルペン・クマリン・パラキシリレングリコールジメチルエーテル・ジクロロパラキシリレン・ビスヒドロキシメチルビフェニル等を縮合反応させて得られる多価フェノール類を更にエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂、及び更に上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;トリスフェノール型エポキシ樹脂;上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等の芳香族骨格を水素化した脂環式グリコール類やエチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・テトラエチレングリコール・PEG600・プロピレングリコール・ジプロピレングリコール・トリプロピレングリコール・テトラプロピレングリコール・ポリプロピレングリコール・PPG・グリセロール・ジグリセロール・テトラグリセロール・ポリグリセロール・トリメチロールプロパン及びその多量体・ペンタエリスリトール及びその多量体・グルコース・フルクトース・ラクトース・マルトース等の単/多糖類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;(3,4-エポキシシクロヘキサン)メチル3′,4′-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等のエポキシシクロへキサン骨格を有するエポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸・ヘキサヒドロフタル酸・安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸・メラミン・ベンゾグアナミンとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる室温で固形の3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び、これらをポリエーテル変性したもの等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、波長選択吸収性硬化性樹脂組成物が後述する熱軟化温度を満たすもの、及び、ポリエーテル変性のものが好ましい。より好ましくは、ポリエーテル変性のものである。
・・・中略・・・
【0029】
本発明の波長選択吸収性硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂中のエポキシ樹脂100質量%に対して硬化剤成分を10?1000質量%含むものであることが好ましい。硬化剤成分の含有量が10質量%より少ないか、又は、1000質量%より多いと、硬化物が充分に硬化しないおそれがある。より好ましくは、エポキシ樹脂100質量%に対して15?800質量%であり、更に好ましくは、20?500質量%である。
【0030】
本発明における硬化剤成分としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸等の酸無水物類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂、種々のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザール等の種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂等の多価フェノール化合物等のフェノール系硬化剤;BF3錯体、スルホニウム塩類、イミダゾール類;トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、N-アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2’-ビス-(アミノフェニル)プロパン、ジアミノジフェニルスルホン、トルエンジアミン、1,3-ジアミノ-2,4-ジエチルトルエン、ビス(3-エチル-4-アミノフェニル)メタン並びにこれらの誘導体等のアミン系硬化剤、及び、これらにポリエーテル構造を導入したもの等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
・・・中略・・・
【0032】
本発明の波長選択吸収性硬化性樹脂組成物は、更に硬化のための硬化促進剤を含むことが好ましく、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルヘキサデシルホスフォニウムブロマイド、トリブチルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等の有機リン化合物;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジルフェニル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物;ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N’-ジメチルピペラジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン化合物等の1種又は2種以上を用いることができる。
硬化促進剤の波長選択吸収性硬化性樹脂組成物における含有量としては、エポキシ樹脂100質量%に対して、0.1?10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.2?5質量%である。
・・・中略・・・
【0066】
本発明の波長選択吸収性硬化性樹脂組成物はまた、色素として波長400?1050nmの領域における分光吸収極大波長が750nm以下であり、かつ波長650nmにおける吸光度を1とした場合に、波長800nmにおける吸光度が0.2以下である波長選択吸収性色素を含むものであることが好ましい。このような色素を含むと、得られる硬化物が可視光波長領域の光の優れた吸収性を示すとともに、近赤外線領域の光を高い透過率で透過する光学特性をより顕著に発揮するものとなる。
また、エポキシ樹脂と不飽和イミド化合物を必須として構成される硬化性樹脂と、このような特定の色素とを組み合わせたものとすることにより、エポキシ樹脂の骨格や樹脂を硬化させる際に用いられる硬化剤の種類に関わらず、充分な可視光領域の光の選択吸収性と耐熱性とを有する硬化物を形成することができ、使用される用途において要求される特性に応じて種々のエポキシ樹脂や硬化剤等を用いることのできる、設計の自由度の高い樹脂組成物とすることが可能となる。
すなわち、可視光波長の光の選択吸収性を示す硬化物を形成する硬化性樹脂組成物であって、上記組成物は、硬化性樹脂及び硬化剤成分と共に色素を含み、上記硬化性樹脂は、エポキシ樹脂及び不飽和イミド化合物を必須として構成され、上記色素は、波長400?1050nmの領域における分光吸収極大波長が750nm以下であり、かつ波長650nmにおける吸光度を1とした場合に、波長800nmにおける吸光度が0.2以下である波長選択吸収性色素を必須とする波長選択吸収性硬化性樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
ここで、波長400?1050nmでの分光吸収極大波長とは、波長400?1050nmの領域において、最も高い吸光度を示す波長を意味する。したがって、色素の全波長領域における吸収極大波長が、400?750nmの間にある場合には、当該波長が波長400?1050nmでの分光吸収極大波長となる。色素の全波長領域における吸収極大波長が、400nm未満の領域にある場合には、400nmが、波長400?1050nmでの分光吸収極大波長となる。650nmの吸光度に対する波長800nmの吸光度が0.2以上であると、800?1000nmの近赤外光透過性が著しく損なわれる可能性があり、好ましくない。より好ましくは、0.1以下であり、更に好ましくは0.05以下である。
なお、色素の光の吸収強度は、以下のUV-Visスペクトル測定装置、条件により測定することができる。
機器:UV3100PC(島津製作所社製)
条件:測定波長領域400nm?900nm、スリット幅8mm、1mm厚試験片
【0067】
上記波長選択吸収性色素としては、上述の吸収特性を満たし、硬化性樹脂に均一に溶解または分散する物であれば特に限定されず、アントラキノン系、トリフェニルメタン系、ナフトキノン系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、スクアリリウム系、シアニン系、ポルフィリン系、アザポルフィリン系、フタロシアニン系、サブフタロシアニン系、キニザリン系、ポリメチン系、ローダミン系、オキソノール系、キノン系、アゾ系、キサンテン系、アゾメチン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリドン系、イソインドリノン系、インダンスロン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、キノリン系、トリフェニールメタン系等の通常用いられる色素化合物を広く使用することができる。これらの中でも後述する260℃の温度で3分加熱しても分解や変質しない耐熱性を有するものが好ましく、特にフタロシアニン系化合物が好ましい。
【0068】
本発明の波長選択吸収性樹脂組成物は、上記のような波長選択吸収性色素としての機能を発揮する化合物を1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。また、色素が2種以上の化合物から構成されるものであっても、色素全体として、上記のような光学特性を満たす物であれば、本発明における波長選択吸収性色素として使用することができる。
【0069】
本発明の波長選択吸収性硬化性樹脂組成物における波長選択吸収性色素の含有量は、組成物全体100質量%に対して、0.001?5質量%であることが好ましい。波長選択吸収性色素の含有量がこのような範囲であると、組成物から得られる硬化物が、優れた可視光波長の光の吸収性を示すものとなる。より好ましくは、組成物全体100質量%に対して、0.005?3質量%であり、更に好ましくは、組成物全体100質量%に対して、0.01?1質量%である。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0078】
本発明の波長選択吸収性硬化性樹脂組成物は、上述の構成よりなり、可視光領域の光を吸収しながら近赤外線領域の光を透過するという、光学デバイス用途において求められるこの多い光学特性を有するとともに、優れた耐熱性を有し、光学デバイス用途の中でも、これまでのアクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂に色素を添付した成型品では使用が難しかった高温環境下で使用される製品や、製造工程で高温になる製品の材料としても好適に用いることができる硬化物を形成する樹脂組成物である。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0079】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0080】
下記実施例及び比較例では、下記のようにして、評価、測定を行った。
(1)硬化物の光透過率測定
各実施例及び比較例で得られた成型物を、縦3mm×横3mm×厚さ1mm直方体の形状に切り出して測定用試料とし、UV-Visスペクトル測定を以下の装置、条件により行うことで、硬化物の光透過率を測定した。
機器:UV3100PC(島津製作所社製)
条件:測定波長領域400nm?900nm、スリット幅8mm、1mm厚試験片
(2)硬化物の耐熱性評価
各実施例及び比較例で得られた成型物から測定用試料を切り出して、熱重量分析(TGA)を以下の装置、条件により行うことで、硬化物の5%重量減少温度を測定した。
機器:TG-DTA2000SA(Bruker AXS社製)
条件:温度領域30?500℃、昇温速度10℃/min、流通ガス乾燥空気100ml/min、秤量10?20mg、試料形状縦3mm×横3mm×厚さ1mm直方体
【0081】
実施例1?11、及び、比較例1、2
表1に示す組成を120℃で混合し、得られた樹脂組成物を平板ガラス(キャビティ間隔1mm)に注型した。180℃にて1時間硬化させて脱型した後、窒素雰囲気下で180℃、3時間硬化させ、縦10mm×横10mm×厚さ1mmの成型品を得た。なお、表1中の配合量はそれぞれ重量部で表されている。
得られた成型品のUV-Visスペクトル測定、及び、TGA分析により、各硬化物の光透過率、及び、5%重量減少温度を測定した。また、耐ハンダリフローを想定し、260℃、3分間のアニーリングを行い、その後のUV-Visスペクトル測定を行った。結果を表2?4に示す。
【0082】
【表1】

(当合議体注:便宜上、【表1】の向きを90°回転した。)
【0083】
表1中で用いたエポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、不飽和イミド化合物、シラン化合物、色素、及び、硬化促進剤としては、それぞれ以下のものを用いた。また、これらの構造を以下に示す。
エポキシ樹脂A:トリスフェノール型エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名「EPPN501H」)
エポキシ樹脂B:ポリエーテル変性型エポキシ樹脂(DIC社製、商品名「EXA4850-150」)
エポキシ樹脂C:ポリエーテル変性型エポキシ樹脂
合成方法:攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた100mL4つ口フラスコに、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名「EX-214L」)32.33gと、ビスフェノールA(東京化成工業社製)37.96gを投入し、乾燥窒素流通下で120℃まで昇温した。トリフェニルホスフィン(和光純薬社製)0.35gを投入して反応させながら徐々に昇温し、150℃で3時間反応させて透明な液状樹脂として得た。^(1)H-NMR、^(13)C-NMRを測定し目的の化合物であることを確認した。
エポキシ樹脂D:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名「1004AF」)
フェノール系硬化剤A:ノボラック型フェノール樹脂(DIC社製、商品名「TD-2131」)
フェノール系硬化剤B:ポリエーテル変性フェノール樹脂
合成方法:攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた100mL4つ口フラスコに、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名「デナコールEX-850L」)32.46gと、ビスフェノールA(東京化成工業社製)37.96gを投入し、乾燥窒素流通下で120℃まで昇温した。トリフェニルホスフィン(和光純薬社製)0.35gを投入して反応させながら徐々に昇温し、150℃で3時間反応させて透明な黄色固定を得た。^(1)H-NMR、^(13)C-NMRを測定し、目的の化合物であることを確認した。
フェノール系硬化剤C:ビフェニル型フェノール樹脂(日本化薬社製、商品名「GPH65」)
【0084】
アミン系硬化剤:ジエチルトルエンジアミン(ETHYL社製、商品名「ETHACURE-100」)
不飽和イミド化合物A:4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド(大和化成工業杜製、商品名「BMI-7000」)
不飽和イミド化合物B:アニリン、ホルムアルデヒド及び無水マレイン酸の縮合物(大和化成工業社製、商品名「BMI-2300」)
不飽和イミド化合物C:
合成方法:攪拌装置、温度センサー、Dean-Stark trapを備え付けた200mL4つ口フラスコに、トルエン67.95gと、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル12.59gと、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物19.46gを投入し、室温で攪拌しながら乾燥窒素流通下で15分間反応させた。p-トルエンスルホン酸一水和物を投入し、98℃まで昇温して縮合水を回収しながら3時間反応後、120℃まで昇温して5時間保持した後に室温まで冷却した。得られた反応液をメタノールに投入し、沈殿物をろ過して固形分を濾出した。さらに得られた固形分をメタノールで洗浄後、再度濾過して白色固体を収率90%で得た。1H-NMR、13C-NMRを測定し、目的の化合物であることを確認した。
【0085】
シラン化合物:ポリ{γ-(5-ノルボルネン-2,3-イミド)プロピル}シルセスキオキサン
合成方法:国際公開第08/099904号公報の明細書に準じて合成した。
色素A:フタロシアニン系色素(1)
色素B:フタロシアニン系色素(2)
色素C:サブフタロシアニン系色素
硬化促進剤A:1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(東京化成工業社製)
硬化促進剤B:2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(ナカライテスク社製、商品名「DMP-30」)
【0086】
【化15ー1】

【0087】
【化15ー2】

【0088】
【表2】

(当合議体注:便宜上、【表2】の向きを90°回転した。)
【0089】
【表3】

(当合議体注:便宜上、【表3】の向きを90°回転した。)
【0090】
【表4】

(当合議体注:便宜上、【表4】の向きを90°回転した。)
【0091】
上記実施例1?8と比較例1、2との比較から、エポキシ樹脂と不飽和イミド化合物とを含む組成物から得られた硬化物は、可視光領域の光の吸収性(可視光遮光性)と近赤外線領域の光の透過性とを有し、かつ、耐熱性に優れたものとなることが確認された。また、実施例1?5の比較から、エポキシ樹脂と不飽和イミド化合物とを含む組成物の中でも、ポリエーテル変性エポキシ樹脂を用いる、あるいは、アミン系硬化剤を用いることで可視光遮光性が向上し、これらを両方とも用いるのがなお良いことが確認された。更に、実施例5と実施例7との比較から、イミド化合物に加え、シラン化合物を含むものとすると、更に耐熱性が向上することが確認された。
また、実施例9?11の結果から、エポキシ樹脂及び不飽和イミド化合物を必須とする硬化性樹脂と硬化剤成分と共に、可視光領域の光を吸収し、近赤外領域の光を吸収しない特性を有する特定の色素を含み、更にシラン化合物を含む樹脂組成物とすると、組成物がアミン系硬化剤を含まなくても、樹脂組成物から得られる硬化物は、可視光領域の光の吸収性(可視光遮光性)と近赤外線領域の光の透過性とを有し、かつ、耐熱性に優れたものとなることが確認された。特に、実施例9の結果から、組成物がアミン系硬化剤を含まず、また、エポキシ樹脂としてポリエーテル変性のものを用いなくても、優れた可視光領域の光の吸収性(可視光遮光性)と近赤外線領域の光の透過性とを有する硬化物が得られることが確認された。なお、実施例11では、波長600nmでわずかに光の透過が確認され、700nmでいったん透過が0となり、800nmで大きな光の透過が確認されているが、これは、色素の特性によるものである。
なお、上記実施例、比較例においては、エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、不飽和イミド化合物、色素等の組成物中の各構成成分について、それぞれ1?4種類を用いて組成物を製造した例が示されているが、これらの組成物中における基本的な作用機構は、すべて同様であることから、上記実施例、比較例の結果から、本明細書において開示した種々の形態について、本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。」

(2)引用文献1に記載された発明
ア 上記(1)ア?ウによれば、引用文献1の【0081】-【0091】には、実施例10として、【0081】の「表1に示す組成を120℃で混合し、得られた」「樹脂組成物」が記載されている。また、【0081】の「表1に示す組成を120℃で混合」する「樹脂組成物の製造方法」が記載されている。さらに、【0088】【表2】には、樹脂組成物の「硬化物の光透過率」が記載されている。

以上の記載に基づけば、引用文献1には、実施例10として、次の「樹脂組成物」の発明(以下「引用物発明」という。)及び「樹脂組成物の製造方法」の発明(以下「引用方法発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 引用物発明
「 4つ口フラスコに、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル32.33gと、ビスフェノールA37.96gを投入し、乾燥窒素流通下で120℃まで昇温し、トリフェニルホスフィン0.35gを投入して反応させながら徐々に昇温し、150℃で3時間反応させて透明な液状樹脂として得たポリエーテル変性型エポキシ樹脂46.8重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂20.1重量部、フェノール系硬化剤としてビフェニル型フェノール樹脂12.7重量部、不飽和イミド化合物として4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド5.5重量部、ポリ{γ-(5-ノルボルネン-2,3-イミド)プロピル}シルセスキオキサン14.3重量部、フタロシアニン系色素0.05重量部、サブフタロシアニン系色素0.05重量部、硬化促進剤として1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール0.5重量部を120℃で混合し、得られた樹脂組成物であって、該樹脂組成物を硬化させた厚さ1mmの硬化物の光透過率は、波長400nmが0%、波長500nmが0%、波長600nmが0%、波長650nmが0.2%、波長700nmが13%、波長800nmが68%、波長900nmが77%である樹脂組成物。」

ウ 引用方法発明
「 4つ口フラスコに、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル32.33gと、ビスフェノールA37.96gを投入し、乾燥窒素流通下で120℃まで昇温し、トリフェニルホスフィン0.35gを投入して反応させながら徐々に昇温し、150℃で3時間反応させて透明な液状樹脂として得たポリエーテル変性型エポキシ樹脂46.8重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂20.1重量部、フェノール系硬化剤としてビフェニル型フェノール樹脂12.7重量部、不飽和イミド化合物として4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド5.5重量部、ポリ{γ-(5-ノルボルネン-2,3-イミド)プロピル}シルセスキオキサン14.3重量部、フタロシアニン系色素0.05重量部、サブフタロシアニン系色素0.05重量部、硬化促進剤として1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール0.5重量部を120℃で混合する樹脂組成物の製造方法であって、該樹脂組成物を硬化させた厚さ1mmの硬化物の光透過率は、波長400nmが0%、波長500nmが0%、波長600nmが0%、波長650nmが0.2%、波長700nmが13%、波長800nmが68%、波長900nmが77%である樹脂組成物の製造方法。」

2 対比及び判断
(1)請求項1に係る発明について
ア 対比
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用物発明を対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)光吸収剤
引用物発明の「フタロシアニン系色素」及び「サブフタロシアニン系色素」は、色素であるから、技術的にみて、光を吸収するものであることは明らかである。
そうしてみると、引用物発明の「フタロシアニン系色素」及び「サブフタロシアニン系色素」は、本願発明1の「光吸収剤」に相当する。

(イ)透明樹脂
引用物発明の「ポリエーテル変性型エポキシ樹脂」は、「透明な液状樹脂として得た」ものであるから、本願発明1の「透明樹脂」に相当する。また、引用物発明の「ポリエーテル変性型エポキシ樹脂」は、樹脂全体に占める配合部(46.8質量部)からみて、主成分であるといえる。さらに、引用物発明は、「ポリエーテル変性型エポキシ樹脂」の他に「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」を含有している。

(ウ)選択波長吸収樹脂組成物
引用物発明の「樹脂組成物」は、その文言とおり、本願発明1の「樹脂組成物」に相当する。また、引用物発明の「樹脂組成物」を硬化させた硬化物の光透過率が、測定波長により光透過率が異なることからみて、引用物発明の「樹脂組成物」は、選択波長吸収性を有していると認められる。
そうしてみると、引用物発明の「樹脂組成物」は、本願発明1の「透明樹脂と、光吸収剤とを有する」「選択波長吸収樹脂組成物であって、上記透明樹脂がエポキシ樹脂を主成分とし、かつ、エポキシ樹脂を2種以上併用」するという要件を満たす。

(エ)波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率
引用物発明の「樹脂組成物」を厚み1mmに硬化させた硬化物は、その光透過率において、波長400nm?600nmの光透過率が0%、650nmの光透過率が0.2%、700nmの光透過率が13%であることからみて、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下であると認められる。そうすると、引用物発明の「樹脂組成物」は、本願発明1の「樹脂組成物の厚み1mmに成形した硬化体が、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下であ」るという要件を満たす。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本願発明1と引用物発明とは、次の構成で一致する。
「 透明樹脂と、光吸収剤とを有する選択波長吸収樹脂組成物であって、上記透明樹脂がエポキシ樹脂を主成分とし、かつ、エポキシ樹脂を2種以上併用し、上記樹脂組成物の厚み1mmに成形した硬化体が、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下である選択波長吸収樹脂組成物。」

(イ)相違点
本願発明1と引用物発明とは、次の点で相違する。
(相違点1-1)
本願発明1の「選択波長吸収樹脂組成物」は、「Lidar用」であるのに対し、引用物発明はそのような用途限定がない点。

(相違点1-2)
「エポキシ樹脂」が、本願発明1では、「少なくとも1種が多官能エポキシ樹脂であ」るのに対し、引用物発明では、この要件を満たさない点。

(相違点1-3)
「選択波長吸収樹脂組成物」が、本願発明1では、「樹脂組成物の厚み1mmに成形した硬化体が、」「Lidarで使用するレーザ光の波長における光透過率が80%以上であり、上記Lidarで使用するレーザ光の波長が、850nm以上950nm以下の範囲および1500nm以上1600nm以下の範囲の少なくとも一方である」とされているのに対し、引用物発明では、このように特定されていない点。

ウ 判断
技術的関連性に鑑みて、相違点1-1?1-3をまとめて検討する。
(ア)引用文献1の【0011】には、エポキシ樹脂の具体例として、他のエポキシ樹脂と共に、トリスフェノール型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂が挙げられており、これらの1種又は2種以上を用いることができると記載されている。また、引用文献1の【0082】【表1】にも多官能エポキシ樹脂であるトリスフェノール型エポキシ樹脂を含有する実施例1、5、7?9の樹脂組成物が記載されている。しかしながら、実施例1、5、7?9の樹脂組成物は、エポキシ樹脂として多官能エポキシ樹脂であるトリスフェノール型エポキシ樹脂のみを単独で含有しており、他のエポキシ樹脂を併用していない。そうすると、エポキシ樹脂を2種以上併用し、かつ、エポキシ樹脂の少なくとも1種が多官能エポキシ樹脂とすることは、引用文献1には開示されていない。また、当審拒絶理由において、周知技術が例示された文献として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2008-9238号公報(以下「引用文献2」という。)及び特開2008-9222号公報(以下「引用文献3」という。)にも、当該事項は記載されていない。
また、引用文献1の【0088】【表2】には、引用物発明の樹脂組成物を厚み1mmに成形した硬化物の光透過率(%)が記載されており、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下であると認められるものの、900nmにおける光透過率が77%にとどまる。そして、引用文献2の【0002】及び【0004】、及び引用文献3の【0002】及び【0004】に開示されているように、可視光線を遮蔽し赤外線を透過する材料に関する技術分野において、当該材料をLidar用フィルターの材料として採用することは、周知技術であるといえるが、引用物発明はLidar用ではなく、可視光領域の波長についての遮断性こそ発現しているものの、それを超える波長領域であるLidarで使用するレーザ光の波長(900nm)における光透過率は劣るものである。さらに、引用文献1には、Lidarで使用するレーザ光の波長(1500nm以上1600nm以下)における光透過率は、開示されていないし、引用文献2?3にも波長1500nm以上1600nm以下における光透過率は、開示されていない。
そうしてみると、上記周知技術を心得た当業者であっても、引用物発明において、エポキシ樹脂を2種以上併用し、かつ、エポキシ樹脂の少なくとも1種が多官能エポキシ樹脂とする構成を採用し、[相違点1-1]?[相違点1-3]に係る本願発明1の構成に想到することは容易になし得たということはできない。
また、引用文献1に記載の実施例11から、引用物発明を認定したとしても判断は同様である。

(イ)さらに、当審拒絶理由において、周知例が記載された文献として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、特開2010-132874号公報(以下「引用文献4」という。)及び特開2011-76075号公報(以下「引用文献5」という。)並びに原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開平11-273439号公報(以下「引用文献D」という。)にも、上記相違点に係る本願発明1の構成は記載されていない。

(ウ)以上(ア)?(イ)のとおりであるから、本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5並びに引用文献Dに記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)請求項2?5に係る発明について
本件補正後の請求項2?5に係る発明は、いずれも、本願発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明であるから、本願発明1における全ての発明特定事項を具備するものである。
そうしてみると、前記ウで述べたのと同じ理由により、本件補正後の請求項2?5に係る発明も、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5並びに引用文献Dに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)請求項6に係る発明について
ア 対比
本件補正後の請求項6に係る発明(以下「本願発明6」という。)と引用方法発明を対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)光吸収剤
引用方法発明の「フタロシアニン系色素」及び「サブフタロシアニン系色素」は、色素であるから、技術的にみて、光を吸収するものであることは明らかである。
そうしてみると、引用方法発明の「フタロシアニン系色素」及び「サブフタロシアニン系色素」は、本願発明6の「光吸収剤」に相当する。

(イ)硬化剤
引用方法発明の「ビフェニル型フェノール樹脂」は「フェノール系硬化剤として」のものである。したがって、引用方法発明の「ビフェニル型フェノール樹脂」は、本願発明6の「硬化剤」に相当する。

(ウ)硬化促進剤
引用方法発明の「1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール」は「硬化促進剤として」のものである。したがって、引用方法発明の「1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール」は、本願発明6の「硬化促進剤」に相当する。

(エ)透明樹脂
引用方法発明の「ポリエーテル変性型エポキシ樹脂」は、「透明な液状樹脂として得た」ものであるから、本願発明6の「透明樹脂」に相当する。また、引用方法発明の「ポリエーテル変性型エポキシ樹脂」は、樹脂全体に占める配合部(46.8質量部)からみて、主成分であるといえる。さらに、引用方法発明は、「ポリエーテル変性型エポキシ樹脂」の他に「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」を含有している。

(オ)選択波長吸収樹脂組成物
引用方法発明の「樹脂組成物の製造方法」は、その文言とおり、本願発明6の「樹脂組成物の製造方法」に相当する。また、引用方法発明の「樹脂組成物」を硬化させた硬化物の光透過率が、測定波長により光透過率が異なることからみて、引用方法発明の「樹脂組成物」は、選択波長吸収性を有していると認められる。
そうしてみると、引用方法発明の「樹脂組成物の製造方法」は、本願発明1の「透明樹脂と、光吸収剤とを有する」「選択波長吸収樹脂組成物であって、上記透明樹脂がエポキシ樹脂を主成分とし、かつ、エポキシ樹脂を2種以上併用」するという要件を満たす。

(カ)波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率
引用方法発明の「樹脂組成物」を厚み1mmに硬化させた硬化物は、その光透過率において、波長400nm?600nmの光透過率が0%、650nmの光透過率が0.2%、700nmの光透過率が13%であることからみて、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下であると認められる。そうすると、引用方法発明の「樹脂組成物」は、本願発明1の「樹脂組成物の厚み1mmに成形した硬化体が、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下であ」るという要件を満たす。

イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本願発明6と引用方法発明とは、次の構成で一致する。
「 透明樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤と、光吸収剤とを有し、上記透明樹脂がエポキシ樹脂を主成分とし、かつ、エポキシ樹脂を2種以上併用し、上記樹脂組成物の厚み1mmに成形した硬化体が、波長380nm以上700nm以下の範囲の平均光透過率が40%以下である選択波長吸収樹脂組成物の方法。」

(イ)相違点
本願発明6と引用方法発明とは、次の点で相違する。
(相違点6-1)
本願発明6の「選択波長吸収樹脂組成物」は、「Lidar用」であるのに対し、引用方法発明はそのような用途限定がない点。

(相違点6-2)
「エポキシ樹脂」が、本願発明6では、「少なくとも1種が多官能エポキシ樹脂であ」るのに対し、引用方法発明では、この要件を満たさない点。

(相違点6-3)
「選択波長吸収樹脂組成物」が、本願発明6では、「樹脂組成物の厚み1mmに成形した硬化体が、」「Lidarで使用するレーザ光の波長における光透過率が80%以上であり、上記Lidarで使用するレーザ光の波長が、850nm以上950nm以下の範囲および1500nm以上1600nm以下の範囲の少なくとも一方である」とされているのに対し、引用方法発明では、このように特定されていない点。

(相違点6-4)
「配合物を作製する工程」と「残りの成分を配合する工程」が、本願発明6では、「光吸収剤を溶媒に配合して配合物を作製する工程と、上記配合物に透明樹脂、硬化剤、硬化促進剤を含む残りの成分を配合する工程とを有する」とされているのに対し、引用方法発明では、このように特定されていない点。

ウ 判断
技術的関連性に鑑みて、相違点6-1?6-3をまとめて検討する。
(ア)相違点6-1?6-3ついての判断は、上記(1)ウで述べたのと同様の理由により、本願発明6は、引用方法発明及び引用文献2?5並びに引用文献Dに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)上記(ア)のとおりであるから、上記相違点6-4について判断するまでもなく、本願発明6は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、引用文献1に記載の実施例11から、引用方法発明を認定したとしても判断は同様である。

第3 原査定について
本件出願の請求項6に係る発明が、引用方法発明及び引用文献2?5並びに引用文献Dに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、上記「第2」「2」「(3)」で述べたとおりである。
よって、原査定における理由は、維持できない。

第4 むすび
以上のとおり、本件補正後の請求項1?6に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5並びに引用文献Dに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-04-23 
出願番号 特願2016-55382(P2016-55382)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小久保 州洋  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井口 猶二
神尾 寧
発明の名称 Lidar用選択波長吸収樹脂組成物およびその製造方法  
代理人 西藤 優子  
代理人 井▲崎▼ 愛佳  
代理人 西藤 征彦  
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