• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1373232
審判番号 不服2020-8285  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-15 
確定日 2021-05-11 
事件の表示 特願2016- 89564「光学的情報読取装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-212861、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年4月27日の出願(優先権主張 平成27年4月28日)であって,令和1年6月27日付けで拒絶理由通知がされ,令和1年10月25日付けで手続補正がされ,令和2年3月18日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年6月15日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和3年1月15日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,令和3年3月18日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年3月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?9に係る発明は,以下の引用文献A,Bに基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2002-117370号公報
B.特開2014-085684号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1?8に係る発明は,以下の引用文献1?4に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2002-117370号公報(拒絶査定時の引用文献A)
2.特開平8-227437号公報(当審において新たに引用した文献)
3.特開平8-212278号公報(当審において新たに引用した文献)
4.特開2014-085684号公報(拒絶査定時の引用文献B)

<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項9に係る発明については,現時点では,拒絶の理由を発見しない。

第4 本願発明
本願請求項1?8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は,令和3年3月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1?8は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
照明光及びその反射光を通過させる読取口を備えた本体部と,
前記本体部における前記読取口が形成される部位とは異なる部位に連結されて利用者によって把持される把持部と,
前記読取口を介して所定の撮像範囲を光学的に撮像する撮像部と,
前記撮像部によって撮像された前記撮像範囲の画像から二次元コードを解読するための情報コード解読処理を行う解読部と,を備え,
前記読取口の周囲には,当該読取口の読取側に向けて延出する延出部が設けられ,
前記延出部は,当該延出部の先端部から一部が切除されて形成され,かつ,利用者の視線の通過を許容する開口部を有し,底面が前記読取口の下方から読取側に延出するように形成され,前記二次元コードと前記読取口との間に前記開口部が位置し,
前記延出部の先端部は,利用者が前記二次元コードを読みとるために当該先端部を当該二次元コードが媒体面に付されている媒体に当接させるときに,前記媒体面に対して前記延出部の延出方向が斜めになるように当接するテーパー面を有することを特徴とする光学的情報読取装置。
【請求項2】
前記延出部は前記読取側に端部を有し,その端部の少なくとも一部は,前記撮像部の撮像範囲の一縁に沿うように形成されることを特徴とする請求項1に記載の光学的情報読取装置。
【請求項3】
前記延出部は前記把持部側の部位に連なる壁部を有し,その壁部は,前記読取側の端部が,前記撮像部の撮像範囲の一縁に沿うように形成されることを特徴とする請求項2に記載の光学的情報読取装置。
【請求項4】
前記延出部は前記把持部側の部位を有し,その部位は,前記読取側の端部が,前記撮像部の撮像範囲の一縁に沿うように形成されることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の光学的情報読取装置。
【請求項5】
前記延出部は前記把持部側の部位を有し,その部位は,前記読取側の端部における長さが,前記撮像部の撮像範囲における前記把持部側の一縁の長さと略同じになるように形成されることを特徴とする請求項4に記載の光学的情報読取装置。
【請求項6】
前記開口部は,前記把持部から離れるにつれて前記読取口と前記二次元コードとが対向する前後方向の開口長さが大きくなるように形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光学的情報読取装置。
【請求項7】
前記開口部は,前記読取口の周囲における前記把持部側の部位と,当該把持部側の部位とは反対側の部位と,の間の距離に対して,前記読取口と前記二次元コードとが対向する方向の開口長さが少なくとも1/2以上となる構成であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の光学的情報読取装置。
【請求項8】
前記開口部は,前記延出部の先端部を成す前記把持部側の部位とは反対側の部位の先端から前記読取口側に向けて一部切除されるように1つ又は複数設けられていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の光学的情報読取装置。」

第5 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
令和3年1月8日付けの拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は,当審で付したものである。)

「【0079】
【実施の形態】図1は,本発明の一実施形態によるバーコード読取装置の外観を示す図面である。
【0080】本実施形態による読取装置は,定置式読取装置,ガン式読取装置,タッチ式読取装置の各形態に対応できる機能を備えており,1台の読取装置でそれぞれ異なった使用形態に対応することができる。
【0081】図において,1は読取装置本体であり,2は読取装置本体1がセットされるスタンドである。読取装置本体1は,その内部に光源・走査手段・受光手段(いずれも図示せず)などを備えたヘッド部11と,利用者が把持可能な把手12とを備える。
【0082】ヘッド部11の前面には第一の読取窓13aと第二の読取窓13bとが設けられている。第一の読取窓13aはその面積が大きく,図1に図示された読取装置の場合には扇様の形状をしている。なお,窓の形状は図1に図示されたものには限定されず,方形等であってもよい。また,第二の読取窓13bは第一の読取窓13aと比較してその面積は狭く,直線状の横に細長い形状をしている。第二の読取窓の形状も,図1に図示されたものに限定されるものではない。」

「【0097】図2bに図示されるように,フロアミラーE1(?E5)とフロアミラーE8(E6,E7)はその取付け位置が上下にずれている。また,前述の通り,ポリゴンミラーの反射面はその傾斜角が異なっている。そのため,ポリゴンミラーの図示実線で示される反射面にレーザ光が照射されている場合には,走査光はフロアミラーE1(?E5)に向けて図示実線で示される経路を通り反射される。フロアミラーE1に入射した走査光は上方に向けて反射され,第一の読取窓A1から出射される。
(途中省略)
【0099】このように,ポリゴンミラーの反射面の傾斜が異ならせてあるために,走査光が反射される反射面に応じて走査光が入射するフロアミラーが選択され,それぞれのフロアミラーに対応した走査パターンが対応する読取窓から出射される。また,バーコードからの反射光は,走査光の出射経路と同一経路を通って受光センサGに入射する。例えば,フロアミラーE1により反射された走査光に対応した反射光は,第一の読取窓?フロアミラーE1?ポリゴンミラーD?反射ミラーC?受光センサGという経路を通る。ここで,バーコードからの反射光は散乱光であるため,受光センサGでの受光光量を増やすために,光路の一部分に凹面鏡である反射ミラーCが備えられている。この反射ミラーによりバーコードからの反射光を集光して受光センサGに導く。なお,反射ミラーCの焦点位置は,丁度受光センサGの受光面上となり,受光センサGの受光効率が高められるようになっている。」

「【0127】図8は,本実施形態による読取装置の利用形態を示す図面である。
(途中省略)
【0132】一方,タッチ式として読取装置を使用する場合には,図8cに図示される通りに,利用者は読取装置本体の把手を把持する。そして,例えばバーコードメニューの特定のバーコードの位置に第二の読取窓を持っていき,第二の読取窓から出射される走査線によって読取対象のバーコードを走査する。第二の読取窓から出射される走査線の走査方向は固定であるが,バーコードメニューは手元に置かれているためにバーコードの向きを調節することは容易である。」

「【0141】図9は,本実施形態による読取装置の変形例を図示したものである。
(途中省略)
【0147】利用者の視線と,第二の読取窓からの走査光の出射方向とが一致しており,更に走査光の出射方向の延長線上にバーコードがあると,読取窓とバーコードとの位置合わせがやりやすくなる。タッチ式装置として読取装置を使用する場合(特にバーコードメニューを卓上に置いた場合)には,読取対象となるバーコードは利用者の斜め前方に置かれ,バーコードメニューを読み取る場合には,利用者は読取装置をバーコードに対して斜めに接触させて読み取るものと考えられる。本実施形態による読取装置はこの点に着目して,第二の読取窓からの走査光の出射方向を図示斜め上方にしているので,利用者はバーコードの位置の見当をつけやすくなり,第二の読取窓からの走査光の出射方向と,利用者の視線とをほぼ同じ軸上にすることができる。
【0148】図9の場合には,第一の読取窓からは3本のそれぞれ傾きが異なる走査線が出射されている。また,第二の読取窓からは,一本の,走査幅が長い走査線が出射されている。なお,走査線の本数は図9のものに限定されない。」

「【0149】図10は,図9に図示された読取装置の4面図を示している。
【0150】図10aは正面図,図10bは側面図,図10cは背面図,図10dは上面図をそれぞれ示す。
【0151】第二の読取窓の周囲には,例えばゴムなどの弾性を持った部材により成形されたカバーが取り付けられている。このカバーは,第二の読取窓によりバーコードを読み取る際に,読取窓にバーコードが付された面などが直接接触し,第二の読取窓に傷が付くことを防止するとともに,読取窓をバーコード面に接触させた場合に生じる衝撃を吸収する。更にこのカバーは,バーコードと第二の読取窓面とを,バーコードを最適に読み取ることができる適当な間隔に置くために作用する。このようなカバーを取り付けた場合,読取対象となるバーコードはカバー部先端付近に位置するため,第二の読取窓から出射される走査光の焦点位置(走査光のビーム径が最も絞れる位置)はカバーの先端部,あるいはここからわずかに前方の位置とすることが望ましい。」

「【0237】図34は,図31に図示された各部の出力波形を図示したものである。モード選択スイッチからの出力は制御部に供給されるが,第一の読取モードを選択する場合(第一の読取窓A1から走査光を出射)にはオフとなり,第二の読取モードを選択する場合(第二の読取窓A2から走査光を出射)にはオンとなる。制御部は,モード選択スイッチ出力を確認して,どの読取モードが選択されているのかを判定し,その結果に応じてレーザダイオードの点灯制御を行う。
【0238】また,ミラー位置検知信号は,図30に図示されたものと同一であり,ポリゴンミラーの第四の面がフロアミラーE8を走査している期間中オンとなる。
【0239】利用者が第二の読取モード,即ちタッチ式装置として読取装置を使用しようとして,モード選択スイッチがオンとなっている期間は,第二の読取窓から走査光を出射し,第一の読取窓からは走査光が出射されないようにしなくてはならない。そこで,制御部はミラー位置検知信号がオンとなっている期間はレーザ光源を点灯させるように制御し,ミラー位置検知信号がオフとなっている期間(フロアミラーE1?E7が走査されている期間)はレーザ光源が消灯するように制御する。これによって,第二の読取窓のみからレーザ光が出射され,タッチ式装置として読取装置を使用してバーコードメニューの読取を行う場合でも,第一の読取窓から出射される走査光が無関係なバーコードを走査してしまい二重読取となるような事態を防止することができる。」

「【0346】図64は第二の読取窓から出射される走査光の走査位置を利用者に確認させるための更にその他の例を図示するものである。
【0347】図64に図示される装置では,第二の読取装置の周囲に設けられるカバーの両端付近に山形の突起が設けられている。山形突起は図61に図示されるマークと同じ意味合いを持つものであり,山形突起の位置に読取対象となっているバーコードの両端部を位置させることによって,第二の読取窓から出射される走査光が確実にバーコードを走査することができる。図64の場合にも,読取対象となるバーコードが読取窓の影に隠れることを防止できる。」


「【0351】図66はバーコードメニューの読取を図示した図面である。図66に図示されるように,読取窓周囲のカバー部には山形の突起が付けられており,バーコードと読取窓との間(山形突起間)に適当な間隔が設定され,バーコードと走査位置が視認し易くなっている。
【0352】また,読取装置の背面は傾斜を持った形状としている。読取装置の背面が角張っていると,角張った部分が邪魔となりバーコード・走査位置を視認しにくくなる。しかし,図66のように読取装置背面に傾斜をつけることによって,手持ち読取を行った場合にもバーコード・走査位置の視認を阻害するものがなくなり,位置確認が行いやすくなる。
【0353】図67は,図66に図示された読取装置の変形例である。図67に図示された読取装置の背面は,凹部が形成されている。この凹部を設けることによって,読取装置背面からのバーコード・走査位置の確認をより行いやすくすることができる。
【0354】図68は,バーコードメニュー読取時のバーコード位置・走査位置確認を説明する図面である。図68に図示される読取装置の背面には傾斜が形成されている。この傾斜方向は,第二の読取窓からの走査光の出射角度と同じ(ほぼ同じ)角度に設定されている。また,第二の読取窓のカバー部の両端は突起となっていることもあり,操作者の視線は読取装置の読取窓などに邪魔されず,バーコード位置/走査位置を操作者が容易に確認することができる。」

「【図面の簡単な説明】
(途中省略)
【図66】カバー部に切り欠きが設けられた読取装置」

「図1



「図2



「図8



「図10



「図64



「図66



「図68



したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「定置式読取装置,ガン式読取装置,タッチ式読取装置の各形態に対応できる機能を備えたバーコード読取装置における読取装置本体1であって,(段落0079?0081,図1)
その内部に光源・走査手段・受光手段などを備えたヘッド部11と,利用者が把持可能な把手12とを備え,(段落0081,図1)
ヘッド部11の前面には第一の読取窓13aと第二の読取窓13bとが設けられており,(段落0082,図1)
バーコードからの反射光は,走査光の出射経路と同一経路を通って受光センサGに入射するものであり,(段落0099,図2)
タッチ式として読取装置を使用する場合には,利用者は読取装置本体の把手を把持し,そして,バーコードメニューの特定のバーコードの位置に第二の読取窓を持っていき,第二の読取窓から出射される走査線によって読取対象のバーコードを走査するようにし,(段落0132,図8c)
利用者の視線と,第二の読取窓からの走査光の出射方向とが一致しており,更に走査光の出射方向の延長線上にバーコードがあると,読取窓とバーコードとの位置合わせがやりやすくなり,タッチ式装置として読取装置を使用する場合(特にバーコードメニューを卓上に置いた場合)には,読取対象となるバーコードは利用者の斜め前方に置かれ,バーコードメニューを読み取る場合には,利用者は読取装置をバーコードに対して斜めに接触させて読み取るものと考えられるところ,この点に着目して,第二の読取窓からの走査光の出射方向を図示斜め上方にしているので,利用者はバーコードの位置の見当をつけやすくなり,第二の読取窓からの走査光の出射方向と,利用者の視線とをほぼ同じ軸上にすることができ,(段落0147)
第二の読取窓の周囲には,例えばゴムなどの弾性を持った部材により成形されたカバーが取り付けられており,このカバーは,第二の読取窓によりバーコードを読み取る際に,読取窓にバーコードが付された面などが直接接触し,第二の読取窓に傷が付くことを防止するとともに,読取窓をバーコード面に接触させた場合に生じる衝撃を吸収するものであり,更にこのカバーは,バーコードと第二の読取窓面とを,バーコードを最適に読み取ることができる適当な間隔に置くために作用するものであり,このようなカバーを取り付けた場合,読取対象となるバーコードはカバー部先端付近に位置するため,第二の読取窓から出射される走査光の焦点位置(走査光のビーム径が最も絞れる位置)はカバーの先端部,あるいはここからわずかに前方の位置とすることが望ましく,(段落0151,図10)
利用者が第二の読取モード,即ちタッチ式装置として読取装置を使用しようとして,モード選択スイッチがオンとなっている期間は,第二の読取窓から走査光を出射し,(段落0239)
第二の読取窓から出射される走査光の走査位置を利用者に確認させるために,第二の読取窓の周囲に設けられるカバーの両端付近に山形の突起が設けられており,山形突起の位置に読取対象となっているバーコードの両端部を位置させることによって,第二の読取窓から出射される走査光が確実にバーコードを走査することができ,また,読取対象となるバーコードが読取窓の影に隠れることを防止でき,(段落0346,0347,図64)
カバー部に切り欠きが設けられた読取装置(図66の【図面の簡単な説明】)では,読取窓周囲のカバー部には山形の突起が付けられており,バーコードと読取窓との間(山形突起間)に適当な間隔が設定され,バーコードと走査位置が視認し易くなっており,(段落0351,図66)
読取装置の背面が角張っていると,角張った部分が邪魔となりバーコード・走査位置を視認しにくくなるところ,読取装置背面に傾斜をつけることによって,手持ち読取を行った場合にもバーコード・走査位置の視認を阻害するものがなくなり,位置確認が行いやすくなるものであり,(段落0352)
読取装置の背面には傾斜が形成されていて,この傾斜方向は,第二の読取窓からの走査光の出射角度と同じ(ほぼ同じ)角度に設定されており,また,第二の読取窓のカバー部の両端は突起となっていることもあり,操作者の視線は読取装置の読取窓などに邪魔されず,バーコード位置/走査位置を操作者が容易に確認することができる,(段落0354,図68)
読取装置本体1。」

2.引用文献2?4について

ア 令和3年1月15日付けの拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項6】前記バーコードリーダが2次元的に空間符号化された2次元バーコードである請求項1乃至5に記載のバーコードリーダ。」

「【0009】
【発明が解決しようとする課題】上述したハンデイタイプの接触式光学的入力部を具えたバーコードリーダはヘッドがペン式のバーコードリーダと比較するとセンサ部が堅固で故障が少なく装置の信頼性が高いという利点がある。また,定置式のバーコードリーダと比較すると装置が小型化でき,使用空間を簡単に移動でき手軽で多人数の人々が同時に並行して使用できるという利点もある。しかしながら,上述したハンデイタイプの接触式光学的入力部を具えたバーコードリーダでは使用者が読取対象のバーコードを読取るための光学的入力部をバーコードに接触させた時点で,読取用バーコードがバーコードリーダ本体のため陰れてしまい,位置ずれが発生して,正確にバーコードが読取れないケースがしばしば発生するという問題点があった。このため,正確に読取れない場合は,再度使用者が位置補正して正しく読取れる迄読取り操作を繰り返さねばならず,少なからず操作が煩わしいという問題点となっていた。また,バーコード照明用光源として発光素子を光学的入力部に配設したバーコードリーダでは,照明用の消費電力が急増するといった問題点もあった。
【0010】この発明は上述したような事情から成されたものであり,この発明の目的は,ハンデイタイプの接触式光学的入力を具えたバーコードリーダの光学的改良にあり,バーコードリーダの接触中対象となっているバーコードの光学的視認性確認手段を設け,バーコード接触部の位置ずれを使用者が補正し易くすると共に,照明用光源を除去してバーコードリーダ本体の消費電力を著しく低減させたハンデイタイプのバーコードリーダを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】この発明はハンデイタイプの接触式光学的入力部を具えたバーコードリーダに関するものであり,この発明の上記目的は前記接触式光学的入力部にバーコード接触中当該バーコードの位置を確認する光学的視認性確認手段を設けることによって達成される。」

イ 令和3年1月15日付けの拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,例えば2次元データシンボルのようなコード化された情報を読み取るデータシンボル読み取り装置に関する。」

「【0005】この撮像素子(エリアセンサー)を用いた構成の従来のデータシンボル読み取り装置を図10に,該データシンボル読み取り装置におけるシンボル読み取り領域およびデータシンボルを図11にそれぞれ示す。図10に示すように,データシンボル読み取り装置100は,ケーシング101内に読み取り部102が内蔵され,該読み取り部102からシンボル読み取り領域36へ至る部分の周囲が筐体103で覆われた構造となっており,この筐体103の先端には,シンボル読み取り領域36を包含する矩形の開口104が形成されている。そして,読み取り時には,データシンボル38とデータシンボル読み取り装置100とを相対的に移動して,データシンボル38が筐体103の先端開口104内に入るように位置合わせをする。
【0006】この場合,データシンボル38の一部が筐体103の先端開口104からはみ出さないように位置合わせを行う必要がある。例えば,図11に示すように,データシンボル38の一部が筐体103の先端縁部105と重なっている場合でも,読み取りエラーが生じる。
【0007】しかしながら,筐体103は,不透明な部材で構成されているため,データシンボル38と先端開口104との位置関係を確認しにくく,データシンボル38が筐体103の先端外縁106からはみ出していないことを目視確認しても,図11に示すような状態となっていることで読み取りエラーを生じることがある。
【0008】従って,データシンボルを確実に筐体の先端開口内に位置させる作業は,慎重に行わねばならず,手間と時間がかかり,前述したエリアセンサーによるデータシンボル読み取り装置の利点が十分に生かされていない。」

ウ 令和3年1月15日付けの拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0039】
このため,バーコード7が表示されたバーコード紙6を卓上などの平面Pに配置してスキャナ本体1でバーコード7を読み取る際には,図5に示すように,読取補助部材2のガイド突起部18の下端部をバーコード7の手前側(図5では右側)に位置するバーコード紙6上の個所に接触させた状態で,スキャナ本体1の後端下部1bをバーコード紙6上に配置する。このときには,スキャナ本体1の後側下部に設けられている握り部19がバーコード紙6の上面に接触することなく,その上方に配置される。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明の「走査線」が「出射される」「第二の読取窓」は,「走査光の出射経路と同一経路を通って受光センサGに入射する」「バーコードからの反射光」を“通過させる”ものでもあることから,本願発明1の「照明光及びその反射光を通過させる読取口」に相当する。
したがって,引用発明の「前面に」「第二の読取窓13b」が「設けられ」た「ヘッド部11」は,本願発明1の「照明光及びその反射光を通過させる読取口を備えた本体部」に相当する。

イ 引用発明の「利用者が把持可能な把手12」は,本願発明1の「前記本体部における前記読取口が形成される部位とは異なる部位に連結されて利用者によって把持される把持部」に相当する。

ウ 引用発明の「受光手段」は,「第二の読取窓」を介して,「バーコードからの反射光」を受光するものであるから,本願発明1の「前記読取口を介して所定の撮像範囲を光学的に撮像する撮像部」に相当する。

エ 引用発明の「読取装置本体1」は,「バーコード」を読み取るための装置であるから,「バーコード」という“情報コード”の“解読処理を行う解読部”を備えていることは自明である。したがって,引用発明と本願発明1とは,後記する点で相違するものの,“前記撮像部によって撮像された前記撮像範囲の画像から情報コードを解読するための情報コード解読処理を行う解読部”を備える点で共通する。

オ 引用発明の「第二の読取窓の周囲」に「取り付けられて」いる「ゴムなどの弾性を持った部材により成形されたカバー」は,本願発明1の「読取口の周囲」に「設けられ」た,「読取口の読取側に向けて延出する延出部」に相当する。

カ 引用発明の「カバー部」は,「山形の突起が付けられ」,また,「切り欠きが設けられた」ものであるところ,この「切り欠き」は,“先端部から一部が切除されて形成され”ているとみることができるから,引用発明と本願発明1とは,「前記延出部は,当該延出部の先端部から一部が切除されて形成され」ている点で一致する。

キ 引用発明の「山形の突起が付けられ」,また,「切り欠きが設けられた」「カバー部」は,「第二の読取窓から出射される走査光の走査位置を利用者に確認させる」ことができ,また,「読取対象となるバーコードが読取窓の影に隠れることを防止でき」るものであるから,上記「切り欠き」は,本願発明1の「利用者の視線の通過を許容する開口部」に相当する。

ク 引用発明の「山形の突起が付けられ」,また,「切り欠きが設けられた」「カバー部」は,「山形の突起」と「切り欠き」によって,「バーコードと読取窓との間(山形突起間)に適当な間隔が設定され」,「バーコードと走査位置が視認し易くなって」いるものであるから,上記「適当な間隔」が「設定される」,「バーコードと読取窓との間」の位置は,「切り欠き」の位置でもある。そうすると,引用発明と本願発明1とは,後記する点で相違するものの,“情報コードと読取口との間に開口部が位置する”点で共通する。

ケ 引用発明の「読取装置本体1」は,光学的にバーコードの情報を読み取る読取装置であるから,本願発明1の「光学的情報読取装置」に対応する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
照明光及びその反射光を通過させる読取口を備えた本体部と,
前記本体部における前記読取口が形成される部位とは異なる部位に連結されて利用者によって把持される把持部と,
前記読取口を介して所定の撮像範囲を光学的に撮像する撮像部と,
前記撮像部によって撮像された前記撮像範囲の画像から情報コードを解読するための情報コード解読処理を行う解読部と,を備え,
前記読取口の周囲には,当該読取口の読取側に向けて延出する延出部が設けられ,
前記延出部は,当該延出部の先端部から一部が切除されて形成され,かつ,利用者の視線の通過を許容する開口部を有し,前記情報コードと前記読取口との間に前記開口部が位置することを特徴とする光学的情報読取装置。

(相違点)
(相違点1)
情報コードが,本願発明1では,「二次元コード」であるのに対して,引用発明では,「バーコード」である点。

(相違点2)
本願発明1の「延出部」は,「底面が読取口の下方から読取側に延出するように形成され」ているのに対して,引用発明の「カバー」はそのようになっていない点。

(相違点3)
本願発明の「延出部の先端部」は,「利用者が前記二次元コードを読みとるために当該先端部を当該二次元コードが媒体面に付されている媒体に当接させるときに,前記媒体面に対して前記延出部の延出方向が斜めになるように当接するテーパー面を有する」のに対して,引用発明はそのようになっていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点3について先に検討すると,相違点3に係る本願発明1の「前記延出部の先端部は,利用者が前記二次元コードを読みとるために当該先端部を当該二次元コードが媒体面に付されている媒体に当接させるときに,前記媒体面に対して前記延出部の延出方向が斜めになるように当接するテーパー面を有する」という構成は,上記引用文献1?4には記載されておらず,また,当該構成は,本願優先日前において周知技術であるともいえない。
そして,本願発明1は,当該構成を有することによって,段落0034に記載されている「この手動での角度変更のときに,テーパー面をアシスト手段として使用し,図10の仮想線R(LN)で示す読取状態を容易に達成することができる。これにより,鏡面反射による読取不可の状態を簡単に回避できる。」という効果を奏することができるものと認められる。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2?8について
本願発明2?8は,本願発明1を直接・間接に引用するものであり,本願発明1の上記相違点3に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
令和3年3月18日付けの補正により,補正後の請求項1は,「前記延出部の先端部は,利用者が前記二次元コードを読みとるために当該先端部を当該二次元コードが媒体面に付されている媒体に当接させるときに,前記媒体面に対して前記延出部の延出方向が斜めになるように当接するテーパー面を有する」という技術的事項を有するものとなった。当該「前記延出部の先端部は,利用者が前記二次元コードを読みとるために当該先端部を当該二次元コードが媒体面に付されている媒体に当接させるときに,前記媒体面に対して前記延出部の延出方向が斜めになるように当接するテーパー面を有する」ことは,原査定における引用文献A,B(当審拒絶理由における引用文献1,4)には記載されておらず,本願優先日前における周知技術でもないので,本願発明1?8は,当業者であっても,原査定における引用文献A,Bに基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-04-21 
出願番号 特願2016-89564(P2016-89564)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 小林 秀和
須田 勝巳
発明の名称 光学的情報読取装置  
代理人 田下 明人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ