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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1373238
審判番号 不服2020-11438  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-18 
確定日 2021-05-11 
事件の表示 特願2016-128846「電気機器用放熱器」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月11日出願公開、特開2018- 6458、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月29日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 2年 2月13日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 4月15日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 5月25日付け:拒絶査定
令和 2年 8月18日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年5月25日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。

本件出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2及び3に記載の周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2002-153931号公報
引用文献2:特開2006-162141号公報
引用文献3:特開2012-46114号公報

第3 本願発明
本件特許出願の請求項1、請求項2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」「本願発明2」という。)は、令和2年8月18日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、請求項2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
内部に冷媒流体を流すための複数の流路を有し同一形状の板状に形成され厚み方向に所定距離離間させて積層された複数の放熱板を備え、
前記放熱板に形成された各前記流路は、前記流路が延びる方向に直角方向でかつ前記放熱板の面に沿った方向に向かって所定間隔で離間して配置されており、
前記放熱板は、左右両端側に設けられて幅寸法が左右で異なっている縁部と、前記流路の両端部に設けられて前記放熱板を厚み方向に貫くと共に積層方向へ突出して前記流路に連通した2つのヘッダ部と、を有し、
2つの前記ヘッダ部は、各ヘッダ部の中心が前記放熱板において前記流路の長手方向に対する直角方向の中心を通る中心線上に位置するように又は前記放熱板の中心点に対して相互に点対称となる位置に設けられ、
積層方向に隣接する2枚の前記放熱板について見た場合、前記各放熱板はその積層方向に向かって交互に裏表反転又は中心点を支点に積層方向の面に沿って180°回転させた姿勢で、かつ、積層方向に対して左右の両側が揃うように配置されており、一方の前記放熱板に形成された前記流路と他方の前記放熱板に形成された前記流路とは、それぞれ前記流路が延びる方向に対して直角方向の面で切断した断面視において千鳥状に配置されていると共に、
一方の前記放熱板に設けられた前記ヘッダ部と他方の放熱板に設けられた前記ヘッダ部とが突き合わせて連結されており、
隣接する前記放熱板の間の前記所定距離は、前記放熱板に形成された前記流路の間の前記所定間隔の半分に設定されている、
電気機器用放熱器。
【請求項2】
同一の前記放熱板において、一方の端部側に設けられた前記流路の中心から前記放熱板の一方の端部までの距離寸法と他方の端部側に設けられた前記流路の中心から前記放熱板の他方の端部までの距離寸法との差が、同一の前記放熱板において隣接する2つの前記流路の中心間距離の半分に設定されている、
請求項1に記載の電気機器用放熱器。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、空気調和装置等に用いられる熱交換器用の熱交換チューブ及びこの熱交換チューブを用いたフィンレス熱交換器に係り、特に、熱交換器の小型化及び軽量化に用いて好適な技術に関する。」

イ.「【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る熱交換チューブ及びフィンレス熱交換器の一実施形態を図面に基づいて説明する。図12は本発明によるフィンレス熱交換器の構成を示す斜視図であり、図中の符号100はフィンレス熱交換器、101は熱交換媒体流路となる細管(チューブ)、102はヘッダを示している。このフィンレス熱交換器100は、左右一対のヘッダ102,102間を多数の細管101で連結した構成となっており、各細管101の間には空気(熱交換流体)流路となる間隙が設けられている。
【0017】細管101には、図13に示すように、たとえば長径Lが2mm程度でかつ短径Sが1.2mm程度と細い楕円断面形状のものを採用し、長径Lと空気流れ方向とが平行となるように配置して使用する。そして、多数の細管101は、たとえば空気流れ方向にピッチP(たとえば2.4mm程度)で配置すると共に、上下方向に間隙H(たとえば1.9mm程度)を設けて千鳥状に配列されており、この結果、各細管101間には空気流路となる間隙が形成されている。また、このようにして形成した各細管101間の隙間は、従来の熱交換器と異なり、コルゲートフィンなどのフィンを設けることなく空間部をそのまま空気流路として活用している。」

ウ.「【0024】さて、上述したフィンレス熱交換器100では、多数の細管101をヘッダ102に挿入するものであるが、多数の細管101をヘッダ102に挿入する作業は、作業性や製造コストなどの面で難がある。そこで、上述したフィンレス熱交換器100に用いて好適な熱交換チューブ、すなわち複数のチューブを一体にまとめた多穴チューブの構成を以下に説明する。図1は、熱交換チューブに係る第1の実施形態を示しており、図中の符号10は熱交換チューブ、11はチューブ、12はリブ、13はリブ除去部である。
【0025】熱交換チューブ10は、複数のチューブ11をリブ12でつなげた形状の多穴チューブであり、上述したヘッダ102に挿入される両端部を残して中央部のリブ12を切断除去し、隣接するチューブ11間を分離状態にしたリブ除去部13を形成してある。このように構成された熱交換チューブ10の製造は、たとえばアルミニウムまたはアルミニウム合金のような熱伝導性金属を押し出し成形することで、図2に示すように、平行に配列された複数(図示の例では6本)のチューブ11間をリブ12により連結して一体化した形状の熱交換チューブ基本体(多穴チューブ)10′とする。この後、チューブ11における軸方向両端部を残して中央部分のリブ12を切断除去すれば、6本のチューブ11が両端部でリブ12により一体化された管群の熱交換チューブ10となる。なお、リブ12を切断除去することにより生じた空間部分がリブ除去部13である。
(中略)
【0027】このような熱交換チューブ10をフィンレス熱交換器100に採用すれば、多数のチューブ101をヘッダ102に組み付けする作業に代えて、複数のチューブ11を一体化した多穴チューブの管群として取り扱うことができるので、組み付け作業時における保持や作業が容易になる。また、両端部を除いてリブ12を切断除去したので、熱交換する空気の流れはリブ除去部13を通って各チューブ11の前面に当たり、チューブ11内を流れる熱交換媒体と効率よく熱交換させることができる。なお、ここでのチューブ11の形状、寸法及び配列等については、上述した単独の細管101に関して説明したものを適用すればよい。」

エ.「【0035】なお、図8(b)に示した第3変形例のように空気流の圧力損失を低減させるためには、たとえば図9に示す他の実施例のように、リブ12の切断除去工程をなくし、全面的にリブ12を残すようにしてもよい。この場合、リブ12が全面的に存在しているため熱伝達率の面では不利になる反面、リブ12がチューブ後流側における空気流の剥離や渦の発生を抑制し、しかも、製造工程が減ることから、より低コストで圧力損失を低減できるという利点がある。すなわち、この場合の熱交換チューブ10は、図2に示した熱交換チューブ基本体10′と実質的に同じものとなる。」

オ.「【0038】さて、上述した各実施形態の熱交換チューブ10,20,30をフィンレス熱交換器100のヘッダ102に挿入する部分の構成例に関し、その好適な実施形態を図14及び図15に示して説明する。図14に示す第1の実施形態では、ヘッダ102に矩形断面の挿入穴103を多段に設けておき、一方、熱交換チューブ10側では、両端を挿入穴103の矩形断面に合わせるためにプレス加工を施す。すなわち、図14(b)に示すように、熱交換チューブ10を先端側の正面から見た形状が挿入穴103と一致する矩形となるように変形させた熱交換チューブ10Aとする。このようにプレス加工を施した熱交換チューブ10Aとすることにより、ヘッダ102側に設ける挿入穴103の形状を単純な矩形形状とすることができ、従って、挿入穴103の加工が容易になり、ヘッダ102の加工コストを低減できる。なお、上下に隣接する挿入穴103については、チューブ11の配置が千鳥状となるよう左右に交互にずらして設けておくとよい。」

「【図1】



「【図2】



「【図12】



「【図13】



「【図14】



上記アによれば、「空気調和装置等に用いられる」「フィンレス熱交換器」が記載されている。

上記イによれば、「フィンレス熱交換器100は、左右一対のヘッダ102,102間を多数の細管101で連結した構成となっており、各細管101の間には空気(熱交換流体)流路となる間隙が設けられ」ることが記載されている。

上記ウによれば、「複数のチューブ11を」「一体化した形状の」「熱交換チューブ10」を「採用」することが記載されている。

上記エには「リブ12の切断除去工程をなくし、全面的にリブ12を残すようにしてもよい」、「この場合の熱交換チューブ10は」「熱交換チューブ基本体10′と実質的に同じものとなる」と記載されているから、上記ウにおいて、中央部のリブ12は切断除去しなくても良いことは明らかである。したがって、上記ウ、エによれば、「熱交換チューブ10は、複数のチューブ11をリブ12でつなげた形状であり」、「アルミニウムまたはアルミニウム合金のような熱伝導性金属を押し出し成形することで」「平行に配列された複数」「のチューブ11間をリブ12により連結して一体化した形状」であることが記載されている。

上記ウには「ここでのチューブ11の形状、寸法及び配列等については、上述した単独の細管101に関して説明したものを適用すればよい」と記載されている。よって、上記イにおける「細管101」を「チューブ11」と読み替えることにより、上記イには「チューブ11には」、「長径Lが2mm程度でかつ短径Sが1.2mm程度と細い楕円断面形状のものを採用し、長径Lと空気流れ方向とが平行となるように配置し」、「多数のチューブ11は」、「空気流れ方向にピッチP(たとえば2.4mm程度)で配置する」ことが記載されている。

上記ウによれば、「熱交換媒体」が「チューブ11内を流れる」ことが記載されている。

上記オによれば、「熱交換チューブ10」を「挿入」する「フィンレス熱交換器100のヘッダ102」に「矩形断面の挿入穴103を多段に設けておき」、「上下に隣接する挿入穴103については、チューブ11の配置が千鳥状となるよう左右に交互にずらして設けておく」ことが記載されている。

したがって、上記アないしオの記載事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、「細管101」、「チューブ101」、「チューブ11」など用語と符号がばらついているので、「チューブ11」で統一した)。
「空気調和装置等に用いられるフィンレス熱交換器であって、
フィンレス熱交換器100は、左右一対のヘッダ102,102間を多数のチューブ11で連結した構成となっており、各チューブ11の間には空気(熱交換流体)流路となる間隙が設けられ、
複数のチューブ11を一体化した形状の熱交換チューブ10が採用でき、
熱交換チューブ10は、複数のチューブ11をリブ12でつなげた形状であって、アルミニウムまたはアルミニウム合金のような熱伝導性金属を押し出し成形することで平行に配列された複数のチューブ11間をリブ12により連結して一体化した形状であり、
チューブ11には、長径Lが2mm程度でかつ短径Sが1.2mm程度と細い楕円断面形状であるものを採用し、長径Lと空気流れ方向とが平行となるように配置し、多数のチューブ11は、空気流れ方向にピッチP(たとえば2.4mm程度)で配置され、熱交換媒体がチューブ11内を流れ、
熱交換チューブ10を挿入するフィンレス熱交換器100のヘッダ102に矩形断面の挿入穴103を多段に設けておき、上下に隣接する挿入穴103については、チューブ11の配置が千鳥状となるよう左右に交互にずらして設けておく、
空気調和装置等に用いられるフィンレス熱交換器」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
「【0010】
図3は、本発明による第2実施例の熱交換器を示す概略図であり、図3(a)及び図3(b)はその平面図及び側面図である。また図4から図9は第2実施例の変形例の熱交換器を示す概略図(側面図)であり、本第2実施例及びその変形例の熱交換器は、複数の伝熱板から成る構成が特徴になっている。
図3に示す本実施例の熱交換器は、複数の伝熱管1と、例えば2枚の波状の伝熱板2aとで構成されている。伝熱板2aの山部11の高さは伝熱管1の半径と同等であり、2枚の伝熱板2aで伝熱管1を挟み込むような配置になっている。そして、図3の熱交換器では、伝熱管1のピッチPは直径Dの約2倍になっているが、効率と空気側の圧力損失から、PとDの関係をD<=P<=3D程度とする構成の熱交換器が望ましい。
また、図4に示す本実施例の変形例の熱交換器では、更に3枚の波状の伝熱板2aと伝熱管1とを高密度に配置することにより、伝熱面積の増大と併せ、高効率化を行うことができる構成としている。この場合の伝熱管1のピッチPと直径Dの関係は、2D<=Pが望ましい。
図5に示す本実施例の他の変形例の熱交換器の構成は、波状の伝熱板2と平板状の伝熱板2bとの組み合わせである。また、図6に示す本実施例の他の変形例では、1枚の波状の伝熱板2と、2枚の平板状の伝熱板2bとの構成で熱交換器を形成している。
図7に示す本実施例の他の変形例の熱交換器の構成は、波状の伝熱板2と伝熱管1との組み合わせであるが、伝熱管1が、平行に構成した2枚の波状の伝熱板2間の、それぞれの山部11と谷部12の部分に配置している。このような伝熱管1を千鳥配列にする構成により、小型で高効率な熱交換器を形成することができる。また、図8に示す本実施例の他の変形例の熱交換器のような、2枚の波状の伝熱板2と1枚の平板状の伝熱板2bとを組み合わせて千鳥配列を形成する構成でも良い。
さらに、図9に示す本実施例の他の変形例の熱交換器は、波状の伝熱板2cと平板状の伝熱板2bとの組み合わせの構成であり、波状の伝熱板2cの山の高さが伝熱管1の直径と同等の形状になっている。」

「【図3】



「【図8】



上記記載からみて、当該引用文献2には以下の技術事項が記載されていると認められる。
「複数の伝熱板からなる熱交換器であって、伝熱管1のピッチPを直径Dの約2倍とし、2枚の波状の伝熱板2と1枚の平板状の伝熱板2bとを組み合わせて千鳥配列を形成すること」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
「【0036】
図4(A)に示すように、PTCヒータは、たとえば、3つの熱交チューブ17が互いに平行になるように積層されている。3つの熱交チューブ17は、下段、中段、上段熱交チューブ17c、17b、17aの順に積層されている。各熱交チューブ17a、17b、17cの流路内には、図4(C)に示すように、コルゲート状のインナーフィン21が形成されている。これにより、各熱交チューブ17a、17b、17cの内部には、その軸方向に連通している複数の流路が形成されることとなる。
(中略)
【0038】
各熱交チューブ17a、17b、17cは、図4(B)に示すように、熱媒体を供給する入口ヘッダ部22および熱媒体が導出される出口ヘッダ部23と、入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23に設けられる液状ガスケット(密着部材)26(図4(A)参照)と、を有している。各熱交チューブ17a、17b、17cは、図3(B)に示すように、電極板14をそれらの間に挟んで互いに平行に積層されている。
【0039】
熱交チューブ17cは、図4(B)に示すように、平面視した場合に、軸方向(図4(B)において左右方向)に長い偏平状を呈している。偏平状の熱交チューブ17は、扁平方向、すなわち、軸方向と直交する幅方向(図4(B)において上下方向)に幅広となっている。
【0040】
熱交チューブ17の軸方向の端部には、入口ヘッダ部22と出口ヘッダ部23とが各々設けられている。入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23は、その中心に連通孔(図示せず)を有している。
【0041】
各熱交チューブ17c、17b、17aをこの順に積層させて、後述する熱交押さえ板16によってIGBT冷却板15の方向に押圧することによって、液状ガスケット26が中段熱交チューブ17bの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の下面と、その下方に位置している下段熱交チューブ17cの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の上面との間を密着し、かつ、中段熱交チューブ17bの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の上面と、上段熱交チューブ17aの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の下面とが密着する。このように、各熱交チューブ17a、17b、17cを積層させることによって、上段熱交チューブ17a、中段熱交チューブ17bおよび下段熱交チューブ17の各連通孔が連通する。
【0042】
PTCヒータには、熱媒体入口路11dから導かれた熱媒体が各入口ヘッダ部22から各熱交チューブ17c、17b、17aへと導かれる。各熱交チューブ17a、17b、17cに流入した熱媒体は、各熱交チューブ17a、17b、17cを通過する際に昇温(加熱)されて、各熱交チューブ17a、17b、17から各出口ヘッダ部23に流入し、熱媒体出口路11eから熱媒体加熱装置10外へと導出される。熱媒体加熱装置10に導出された熱媒体は、熱媒体循環回路10A(図1参照)を介して放熱器6に供給されることになる。」

「【図4】



上記記載からみて、当該引用文献3には以下の技術事項が記載されていると認められる。
「各熱交チューブ17a、17b、17cの流路内にはコルゲート状のインナーフィン21が形成され、これにより、各熱交チューブ17a、17b、17cの内部には、その軸方向に連通している複数の流路が形成され、熱媒体を供給する入口ヘッダ部22および熱媒体が導出される出口ヘッダ部23と、液状ガスケット(密着部材)26と、を有し、軸方向の端部に各々設けられている入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23は、その中心に連通孔を有し、各熱交チューブ17c、17b、17aをこの順に積層させて、中段熱交チューブ17bの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の下面と、その下方に位置している下段熱交チューブ17cの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の上面との間を密着し、かつ、中段熱交チューブ17bの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の上面と、上段熱交チューブ17aの入口ヘッダ部22および出口ヘッダ部23の下面とが密着することによって、上段熱交チューブ17a、中段熱交チューブ17bおよび下段熱交チューブ17の各連通孔が連通する、PTCヒータ。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
ア.引用発明の「複数のチューブ11」は、「熱交換媒体がチューブ11内を流れ」るから、本願発明1の「内部に」「流体を流すための」「複数の流路」に相当する。また、引用発明の「熱交換チューブ10」は、「複数のチューブ11をリブ12でつなげた形状であって、アルミニウムまたはアルミニウム合金のような熱伝導性金属を押し出し成形することで平行に配列された複数のチューブ11間をリブ12により連結して一体化した形状」のものであるから、本願発明1の「板状に形成され」た「放熱板」に相当する。

イ.引用発明では「熱交換チューブ10を挿入するフィンレス熱交換器100のヘッダ102に矩形断面の挿入穴103を多段に設けて」いる。よって、「ヘッダ102」に「多段に設け」られた「矩形断面の挿入穴103」に挿入された「熱交換チューブ10」は、同一形状の熱交換チューブ10を、その厚み方向である上下方向に所定距離離間させて積層しているといえるから、本願発明1の「同一形状の板状に形成され厚み方向に所定距離離間させて積層された複数の放熱板」に相当する。
ただし、本願発明1が、流路に「冷媒」を流すのに対し、引用発明は、チューブ11に「熱交換媒体」を流しているものの、「熱交換媒体」が「冷媒」であるか明らかでない点で相違する。

ウ.引用発明の、「熱交換チューブ10」に設けられた「複数のチューブ11」が、「長径Lと空気流れ方向とが平行となるように配置し、多数のチューブ11は、空気流れ方向にピッチP(たとえば2.4mm程度)で配置され」ていることは、流路が延びる方向に直角方向に所定間隔Pだけ離間して複数のチューブを配置しているといえるから、本願発明1の「前記放熱板に形成された各前記流路は、前記流路が延びる方向に直角方向でかつ前記放熱板の面に沿った方向に向かって所定間隔で離間して配置され」ていることに相当する。

エ.引用発明の「左右一対のヘッダ102,102」は、「多数のチューブ11で連結」されているから、本願発明1の「流路の両端部に設けられて」「前記流路に連通した」「2つのヘッダ部」に相当する。
ただし、本願発明1は、「放熱板」が、「左右両端側に設けられて幅寸法が左右で異なっている縁部」と「前記流路の両端部に設けられて前記放熱板を厚み方向に貫くと共に積層方向へ突出して前記流路に連通した2つのヘッダ部」とを有し、「2つの前記ヘッダ部は、各ヘッダ部の中心が前記放熱板において前記流路の長手方向に対する直角方向の中心を通る中心線上に位置するように又は前記放熱板の中心点に対して相互に点対称となる位置に設けられ」、「一方の前記放熱板に設けられた前記ヘッダ部と他方の放熱板に設けられた前記ヘッダ部とが突き合わせて連結されて」いるのに対し、引用発明は、そのようなものではない点で相違する。

オ.引用発明では、「熱交換チューブ10を挿入するフィンレス熱交換器100のヘッダ102に矩形断面の挿入穴103を多段に設けておき、上下に隣接する挿入穴103については、チューブ11の配置が千鳥状となるよう左右に交互にずらして設け」ている。すると、「上下に隣接」した「挿入穴103」に挿入された「チューブ11」について見た場合、「チューブ11」の断面の配置が「千鳥状となる」ことは明らかである。よって、引用発明における「チューブ11」の「配置」が、本願発明1の「積層方向に隣接する2枚の前記放熱板について見た場合」「一方の前記放熱板に形成された前記流路と他方の前記放熱板に形成された前記流路とは、それぞれ前記流路が延びる方向に対して直角方向の面で切断した断面視において千鳥状に配置されている」ことに相当する。
ただし、本願発明1は、「前記各放熱板はその積層方向に向かって交互に裏表反転又は中心点を支点に積層方向の面に沿って180°回転させた姿勢で、かつ、積層方向に対して左右の両側が揃うように配置されて」いるのに対し、引用発明は「前記各放熱板はその積層方向に向かって交互に裏表反転又は中心点を支点に積層方向の面に沿って180°回転させた姿勢で」「配置され」ることについて特定されておらず、また、上下に隣接する挿入穴103を左右に交互にずらして設けた挿入穴に対し熱交換チューブ10を挿入しているため、「積層方向に対して左右の両側が揃うように配置されて」いない点で相違する。

カ.本願発明1は、「隣接する前記放熱板の間の前記所定距離は、前記放熱板に形成された前記流路の間の前記所定間隔の半分に設定されている」のに対し、引用発明は、「上下に隣接する挿入穴103」に挿入された「チューブ11」の間の距離(所定距離)が「ピッチP(たとえば2.4mm程度」(所定間隔P)の半分に設定されることについて特定されていない点で相違する。

キ.引用発明の「空気調和装置等に用いられるフィンレス熱交換器」は、外気との間で熱のやり取りを行うものであり、本願発明1と「放熱器」である点で共通する。
ただし、本願発明1は電気機器の熱を放熱する「電気機器用放熱器」であるのに対し、引用発明は「空気調和装置等に用いられるフィンレス熱交換器」である点で相違する。

ク.そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「内部に流体を流すための複数の流路を有し同一形状の板状に形成され厚み方向に所定距離離間させて積層された複数の放熱板を備え、
前記放熱板に形成された各前記流路は、前記流路が延びる方向に直角方向でかつ前記放熱板の面に沿った方向に向かって所定間隔で離間して配置されており、
前記流路の両端部に設けられて前記流路に連通した2つのヘッダ部を有し、
積層方向に隣接する2枚の前記放熱板について見た場合、一方の前記放熱板に形成された前記流路と他方の前記放熱板に形成された前記流路とは、それぞれ前記流路が延びる方向に対して直角方向の面で切断した断面視において千鳥状に配置されている、
放熱器。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明1は、流路に「冷媒」を流すのに対し、引用発明は、チューブに「熱交換媒体」を流しているものの、「熱交換媒体」が「冷媒」であるか明らかでない点。

[相違点2]
本願発明1は、「放熱板」が「左右両端側に設けられて幅寸法が左右で異なっている縁部」と、「前記流路の両端部に設けられて前記放熱板を厚み方向に貫くと共に積層方向へ突出して前記流路に連通した2つのヘッダ部」と、を有し、「2つの前記ヘッダ部は、各ヘッダ部の中心が前記放熱板において前記流路の長手方向に対する直角方向の中心を通る中心線上に位置するように又は前記放熱板の中心点に対して相互に点対称となる位置に設けられ」「一方の前記放熱板に設けられた前記ヘッダ部と他方の放熱板に設けられた前記ヘッダ部とが突き合わせて連結されて」いるのに対し、引用発明は、そのようなものではない点。

[相違点3]
本願発明1は、「前記各放熱板はその積層方向に向かって交互に裏表反転又は中心点を支点に積層方向の面に沿って180°回転させた姿勢で、かつ、積層方向に対して左右の両側が揃うように配置されて」いるのに対し、引用発明は「前記各放熱板はその積層方向に向かって交互に裏表反転又は中心点を支点に積層方向の面に沿って180°回転させた姿勢で」「配置され」ることについて特定されておらず、また、上下に隣接する挿入穴103を左右に交互にずらして設けた挿入穴に対し熱交換チューブ10を挿入しているため、熱交換チューブ10は「積層方向に対して左右の両側が揃うように配置されて」いない点。

[相違点4]
本願発明1は、「隣接する前記放熱板の間の前記所定距離は、前記放熱板に形成された前記流路の間の前記所定間隔の半分に設定されている」のに対し、引用発明は、所定距離が所定間隔Pの半分に設定されることについて特定されていない点。

[相違点5]
本願発明1は電気機器の熱を放熱する「電気機器用放熱器」であるのに対し、引用発明は「空気調和装置等に用いられるフィンレス熱交換器」である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず、相違点2、相違点4について検討する。
ア.相違点2について
(ア)原査定においてヘッダ部の構成に関する周知文献として提示された引用文献3には、軸方向に連通している複数の流路が形成された熱交チューブに、熱媒体を供給する入口ヘッダ部22および熱媒体が導出される出口ヘッダ部23を設けたPTCヒータが記載されている。
しかしながら、引用文献3に記載されたPTCヒータでは、各熱交チューブ17a、17b、17cの流路内に(PTCで発生した熱を熱交チューブ内の熱媒体に効率よく伝えるための)コルゲート状のインナーフィン21が形成されているのであるから、引用発明の「空気調和装置等に用いられるフィンレス熱交換器」とは、熱交換のためのチューブの種類が異なっている。
また、引用発明は、共通に設けられた1対のヘッダに挿入穴を設けて熱交換チューブを挿入することにより流体を流すものであって、各熱交換チューブに対して入口ヘッダ部と出口ヘッダ部を設ける引用文献3に記載の技術とは、ヘッダと熱交換チューブとの関係に共通するところがない。
よって、引用文献3に記載の技術を引用発明に採用することは、当業者に動機付けられないことである。

(イ)また、仮に、引用文献1に記載の熱交換チューブに対し、熱交チューブに2つのヘッダ部を備える上記引用文献3に記載の技術を採用したとしても、引用文献3には、「左右両端側に設けられて幅寸法が左右で異なっている縁部」を熱交換チューブ(熱交チューブ)に設ける点について記載も示唆もされていないから、上記相違点2に係る構成とはならない。また、この点は、引用文献2にも記載も示唆もされておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。

イ.相違点4について
(ア)引用文献1の段落[0017]には、多数の細管101の配列に関し、「多数の細管101は、たとえば空気流れ方向にピッチP(たとえば2.4mm程度)で配置すると共に、上下方向に間隙H(たとえば1.9mm程度)を設けて千鳥状に配列」することが記載されており、また、段落[0027]には、チューブ11に関し、「チューブ11の形状、寸法及び配列等については、上述した単独の細管101に関して説明したものを適用すればよい」と記載されている。
しかしながら、上記記載は、所定距離を所定間隔の半分に設定するものではなく、それを示唆するものでもない。

(イ)また、引用文献1の段落[0033]には、「図7(a)に想像線で示す成形当初のチューブ位置から、ほぼ短径の半分に相当する分だけ上に変形移動させるチューブ11aと、反対にほぼ短径の半分に相当する分だけ下に変形移動させるチューブ11bとを交互に配置する」との記載があるが、上記記載は、1つの熱交換チューブにおけるチューブの配列に関する記載であって、隣接する熱交換チューブの間の所定距離についての記載ではない。

(ウ)更に、引用文献2に記載された「伝熱板2、2b」は単なる板であって、複数の流路を有するものではないから、引用文献2には、複数の流路を有する放熱板において、隣接する放熱板の間の所定距離を放熱板に形成された流路の間の所定間隔の半分に設定することについては記載も示唆もされていない。また、この点は、引用文献3にも記載も示唆もされておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。

(3)小括
よって、相違点1、3及び5について検討するまでもなく、本願発明1は引用文献1に記載された発明、引用文献2及び3に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本願発明2について
請求項2は請求項1の従属請求項である。よって、本願発明2は、本願発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記判断と同様の理由により、引用文献1に記載された発明、引用文献2及び3に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 原査定について
上記[相違点2]、[相違点4]に係る構成は、原査定における引用文献1乃至3には記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1及び2は、当業者であっても、原査定における引用文献1乃至3に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-04-16 
出願番号 特願2016-128846(P2016-128846)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐久 聖子  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 須原 宏光
赤穂 嘉紀
発明の名称 電気機器用放熱器  
代理人 特許業務法人 サトー国際特許事務所  

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