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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K |
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管理番号 | 1373243 |
審判番号 | 不服2020-11968 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-08-26 |
確定日 | 2021-05-11 |
事件の表示 | 特願2016- 73644「薄型媒体搬送装置、料金自動収受機、薄型媒体の状態特定方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月 5日出願公開、特開2017-182756、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成28年3月31日の出願であって,令和1年8月30日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年1月9日付けで手続補正がされ,令和2年5月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年8月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和2年10月29日に前置報告がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和2年5月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1.本願請求項1?6に係る発明は,以下の引用文献1に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2014-118218号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 審判請求時の補正によって請求項1,5,6において「前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中において,繰り返し算出されている前記代表値が所定の判定閾値未満から当該判定閾値以上に変動した場合,前記薄型媒体の状態を複数枚同時挿入と特定する」という事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,当該事項は,当初明細書の段落【0045】及び図5(ステップS07,ステップS08)に記載されているから,当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。 そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1?6に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願の請求項1?6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明6」という。)は,令和2年8月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 厚さが互いに異なる複数種類の薄型媒体を搬送可能な搬送路と, 前記搬送路の少なくとも一点に規定された厚さ計測点において,前記薄型媒体の前記厚さ計測点に位置する部分の厚さを計測する厚さ計測センサと, 前記厚さ計測センサから前記薄型媒体の厚さの計測結果を示す厚さ情報を取得して前記薄型媒体の種類及び状態を特定する状態特定部と, を備え, 前記状態特定部は, 前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中であって前記薄型媒体が検知されてから当該薄型媒体が前記搬送路の所定点を通過し終わるまでの間,前記厚さ情報を所定の時間間隔で複数回取得し,連続で所定個数だけ取得する度に当該所定個数の前記厚さ情報からなる厚さ情報群についての代表値を繰り返し算出し,算出した前記代表値に基づいて前記薄型媒体の種類及び状態を特定し, 前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中において,繰り返し算出されている前記代表値が所定の判定閾値未満から当該判定閾値以上に変動した場合,前記薄型媒体の状態を複数枚同時挿入と特定する, 薄型媒体搬送装置。 【請求項2】 前記状態特定部は, 前記厚さ情報を連続で所定個数だけ取得する度に,当該所定個数だけ取得してから次に前記厚さ情報を取得するまでの時間間隔を前記所定の時間間隔よりも長い時間とする 請求項1に記載の薄型媒体搬送装置。 【請求項3】 前記状態特定部は, 前記厚さ情報群に含まれる所定個数の前記厚さ情報のうち,最初に取得された前記厚さ情報を除いて前記代表値を算出する 請求項1または請求項2に記載の薄型媒体搬送装置。 【請求項4】 請求項1から請求項3の何れか一項に記載の薄型媒体搬送装置を備える 料金自動収受機。 【請求項5】 厚さが互いに異なる複数種類の薄型媒体を搬送可能な搬送路の少なくとも一点に規定された厚さ計測点において,前記薄型媒体の前記厚さ計測点に位置する部分の厚さを計測する厚さ計測センサを用いた前記薄型媒体の状態特定方法であって, 前記厚さ計測センサから前記薄型媒体の厚さの計測結果を示す厚さ情報を取得して前記薄型媒体の種類及び状態を特定する状態特定ステップを有し, 前記状態特定ステップにおいて, 前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中であって前記薄型媒体が検知されてから当該薄型媒体が前記搬送路の所定点を通過し終わるまでの間,前記厚さ情報を所定の時間間隔で複数回取得し,連続で所定個数だけ取得する度に当該所定個数の前記厚さ情報からなる厚さ情報群についての代表値を繰り返し算出し,算出した前記代表値に基づいて前記薄型媒体の種類及び状態を特定し, 前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中において,繰り返し算出されている前記代表値が所定の判定閾値未満から当該判定閾値以上に変動した場合,前記薄型媒体の状態を複数枚同時挿入と特定する, 薄型媒体の状態特定方法。 【請求項6】 厚さが互いに異なる複数種類の薄型媒体を搬送可能な搬送路と,前記搬送路の少なくとも一点に規定された厚さ計測点において,前記薄型媒体の前記厚さ計測点に位置する部分の厚さを計測する厚さ計測センサと,を備える薄型媒体搬送装置のコンピュータを, 前記厚さ計測センサから前記薄型媒体の厚さの計測結果を示す厚さ情報を取得して前記薄型媒体の種類及び状態を特定する状態特定手段として機能させるプログラムであって, 前記状態特定手段は, 前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中であって前記薄型媒体が検知されてから当該薄型媒体が前記搬送路の所定点を通過し終わるまでの間,前記厚さ情報を所定の時間間隔で複数回取得し,連続で所定個数だけ取得する度に当該所定個数の前記厚さ情報からなる厚さ情報群についての代表値を繰り返し算出し,算出した前記代表値に基づいて前記薄型媒体の種類及び状態を特定し, 前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中において,繰り返し算出されている前記代表値が所定の判定閾値未満から当該判定閾値以上に変動した場合,前記薄型媒体の状態を複数枚同時挿入と特定する, プログラム。」 第5 引用文献,引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。) 「【背景技術】 【0002】 プリンタ,複写機等の画像形成装置では,様々な種類の用紙ごとの特性に応じて画像形成条件を適宜設定し,用紙の種類に関わらず常に一定品質以上の画像を出力する必要がある。例えば電子写真方式の画像形成装置では,用紙の厚さに応じて定着条件や転写条件等を適宜変更することが一般的に行われている。」 「【0017】 画像形成装置100は,収納する用紙Pを供給する供給手段として複数の用紙供給部70a?70dを有している。各用紙供給部70(以下,符号a?dを省略して説明する)は,用紙Pを供給する用紙トレイ71,用紙トレイ71から用紙Pを搬送経路に供給する給紙ローラ72,用紙トレイから搬送経路に供給される用紙Pを検知する供給検知手段としての給紙センサ73を有する。なお,例えば積載された用紙Pを搬送経路に供給する手差しトレイ91等を用紙供給部として設けても良い。 【0018】 用紙トレイ71から給紙ローラ72により1枚ずつ給紙された用紙Pは,ローラ対75?78により,搬送経路において複数の用紙供給部70の下流側に設けられている搬送手段としての搬送ローラ81に向けて搬送される。搬送ローラ81では,用紙Pを更に下流側に設けられているレジストローラ35に搬送すると共に,後述する方法により用紙Pの厚さ検出が行われる。 【0019】 搬送経路において用紙供給部70と搬送ローラ81との間には,搬送検知手段としての搬送センサ79が設けられている。搬送センサ79は,搬送経路を搬送される用紙Pを検知する。なお,用紙供給部として手差しトレイ91が設けられている場合,搬送ローラ81及び搬送センサ79は,用紙の搬送経路において複数の用紙供給部70a?70d及び手差しトレイ91の下流側に設けられる。 【0020】 画像形成装置100は,各用紙供給部70から給紙される用紙Pの厚さを算出し,算出した用紙Pの厚さに応じて画像形成条件を適宜設定することで,常に一定の画像品質以上の印刷を行うことができる。 【0021】 <画像形成装置の機能構成> 図2は,実施形態における画像形成装置100の機能構成を例示する図である。 【0022】 図2に示す様に,画像形成装置100は,用紙供給部70,用紙厚さ検出部80,エンジン制御部110,定着部120,画像形成部130,コントローラ制御部140,操作表示部150,ネットワークI/F部160,記録媒体I/F部170を有する。 【0023】 用紙供給部70は,給紙センサ73による用紙Pの検知結果をエンジン制御部110に出力する。 【0024】 用紙厚さ検出部80は,用紙Pを検知する搬送センサ79,用紙Pを搬送する搬送ローラ81等を有し,搬送センサ79による検知結果等を取得してエンジン制御部110に出力する。 【0025】 エンジン制御部110は,基準位置算出手段としての基準位置算出部111,厚さ算出手段としての厚さ算出部112,記憶部113を有する。エンジン制御部110は,厚さ算出部112により算出される用紙Pの厚さに基づいて,用紙Pの厚さに応じた画像形成条件で定着部120,画像形成部130等を制御する。」 「【0034】 <用紙厚さ検出部の構成> 図3は,実施形態における用紙厚さ検出部80の概略構成を例示する図である。 【0035】 用紙厚さ検出部80は,図3(a)に示す様に,搬送手段としての搬送ローラ81,位置検出手段としての位置検出センサ82を有する。 【0036】 搬送ローラ81は,回転駆動する駆動ローラ81a,駆動ローラ81aに接触して従動回転する従動ローラ81bを有し,駆動ローラ81a及び従動ローラ81bとの間で用紙Pを挟持搬送する。従動ローラ81bは,固定して配設されている駆動ローラ81aに対して接離する方向に移動可能に設けられており,不図示の押圧手段により駆動ローラ81aに押圧されている。 【0037】 位置検出センサ82は,一定の間隔でスリットが刻まれたホイール82a,ホイール82aのスリットを検出してホイール82aの回転角を検出するセンサ82bと,ホイール82aの回転軸に一端が固定され,他端が従動ローラ81bの回転軸に接する様に設けられているアーム82cを有する。 【0038】 駆動ローラ81aと従動ローラ81bとの間に用紙Pが搬送されると,図3(b)に示す様に従動ローラ81bが駆動ローラ81aから離れる方向に変位して位置検出センサ82のアーム82cを矢印方向に押し上げ,ホイール82aを回転させる。 【0039】 位置検出センサ82は,この様に用紙Pを搬送することによる従動ローラ81bの位置変動に応じて回転するホイール82aの回転位置をセンサ82bで検出し,従動ローラ81bの駆動ローラ81aに対する接離方向の位置を検出して出力する。画像形成装置100の厚さ算出部112は,用紙Pの搬送時及び非搬送時におけるセンサ82bの検出結果の差分に基づいて用紙Pの厚さを検出する。なお,位置検出センサ82としては,例えば光学式のセンサ等を用いても良く,従動ローラ81bの位置を検出することが可能であれば,本実施形態に係る構成に限るものではない。 【0040】 図4に,位置検出センサ82の出力例を示す。 【0041】 図4に示す様に,位置検出センサ82からは,搬送ローラ81における用紙Pの非搬送時と搬送時とで異なるレベルの値が出力される。 【0042】 基準位置算出部111は,搬送ローラ81の用紙Pの非搬送時における位置検出センサ82の検出結果から,従動ローラ81bの基準位置を算出する。また,厚さ算出部112は,搬送ローラ81の用紙Pの搬送時における位置検出センサ82の検出結果から,従動ローラ81bの搬送位置を算出し,基準位置と搬送位置との差分に基づいて用紙Pの厚さを算出する。 【0043】 ここで,位置検出センサ82の出力には,従動ローラ81bの偏心の影響により,従動ローラ81bの回転周期に応じた変動成分が重畳される。そこで,位置検出センサ82の出力を従動ローラ81bが一定期間以上回転する間(例えば従動ローラ81bが1回転以上する時間)の位置検出センサ82の出力をサンプリングし,これを平均化した値を基準位置又は搬送位置として用紙Pの厚さ検出に用いることが好ましい。平均化した値を用いることで,厚さ算出部112による用紙Pの厚さ検出精度を向上させることができる。」 「【0054】 (画像印刷処理) 次に,画像形成装置100における画像印刷処理について,図6に例示するフローチャートに基づいて説明する。 【0055】 画像形成装置100に印刷が指示されると,エンジン制御部110が,まずステップS1にて画像を印刷する用紙P及び用紙Pを収納している用紙供給部70を選択し,ステップS2にて用紙Pの搬送速度を設定する。 【0056】 続いて,ステップS3にて,基準位置算出部111が基準位置算出処理を実行し,非搬送時における搬送ローラ81の従動ローラ81bの基準位置を算出する。 【0057】 ステップS4では,基準位置算出処理におけるエラーの有無を判定し,エラーが発生していた場合には,ステップS10にて用紙Pの搬送を停止し,ステップS11にてエラー処理を行った後に処理を終了する。 【0058】 基準位置算出処理においてエラーが発生しなかった場合には,ステップS5にて厚さ算出部112が用紙厚さ算出処理を実行し,用紙Pの厚さを算出する。 【0059】 ステップS6では,用紙厚さ算出処理において用紙Pの重送が検知されたか否かを判定し,重送が検知された場合には,ステップS10にて用紙Pの搬送を停止し,ステップS11にてジャム処理を行った後に処理を終了する。 【0060】 用紙厚さ算出処理において用紙Pの重送が検知されなかった場合には,ステップS7にて,エンジン制御部110が用紙Pの厚さに基づいて定着部120,画像形成部130の印刷条件設定を行う。 【0061】 次に,ステップS8にて,定着部120,画像形成部130により設定された印刷条件で用紙Pへの印刷が実行される。 【0062】 ステップS9では,印刷ジョブが終了したか否かを判定し,次の用紙Pに印刷を行う場合には再びステップS1からの処理を実行し,印刷ジョブが終了した場合には,処理を終了する。」 「【0071】 (用紙厚さ算出処理) 次に,厚さ算出部112における用紙厚さ算出処理について,図8に例示するフローチャートに基づいて説明する。 【0072】 まずステップS201にて,厚さ算出部112が,搬送ローラ81の用紙Pの搬送時における位置検出センサ82の検出結果を取得する。搬送ローラ81の搬送時における位置検出センサ82の検出結果の取得期間は,例えば搬送される用紙Pのサイズ等に応じて適宜設定される。 【0073】 次にステップS202にて,厚さ算出部112が位置検出センサ82から取得した検出結果を平均することで,搬送ローラ81の搬送時における従動ローラ81bの搬送位置を算出する。 【0074】 続いてステップS203にて,厚さ算出部112が,算出した搬送位置と基準位置算出部111により算出されて記憶部113に保存されている基準位置との差分に基づいて,用紙Pの厚さを算出する。 【0075】 ステップS204では,厚さ算出部112が算出した用紙Pの厚さと,例えば直前に搬送された同一種類の用紙Pの厚さ算出結果に所定の倍率α(例えばα=1.2)を乗じた値とを比較し,用紙Pが重送されているか否かの判定を行う。算出した用紙Pの厚さが,直前に搬送された同一種類の用紙Pの厚さ算出結果に所定の倍率αを乗じた値以上である場合には,ステップS206にて,用紙Pが重送されていると判断して処理を終了する。 【0076】 算出した用紙Pの厚さが,直前に搬送された同一種類の用紙Pの厚さ算出結果に所定の倍率αを乗じた値未満の場合には,用紙Pが正常に搬送されていると判断し,ステップS205にて,算出した用紙Pの厚さを記憶部113に保存して処理を終了する。」 「図1 ![]() 」 「図2 ![]() 」 「図3 実施形態に係る用紙厚さ検出部の概略構成を例示する図 ![]() 」 「図4 ![]() 」 「図6 ![]() 」 「図8 ![]() 」 したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「様々な種類の用紙ごとの特性に応じて画像形成条件を適宜設定し,用紙の種類に関わらず常に一定品質以上の画像を出力する必要がある画像形成装置であって,(段落0002) 収納する用紙Pを供給する供給手段として複数の用紙供給部70a?70dを有し,各用紙供給部70は,用紙Pを供給する用紙トレイ71,用紙トレイ71から用紙Pを搬送経路に供給する給紙ローラ72を有し,(段落0017,図1) 用紙トレイ71から給紙ローラ72により1枚ずつ給紙された用紙Pは,ローラ対75?78により,搬送経路において複数の用紙供給部70の下流側に設けられている搬送手段としての搬送ローラ81に向けて搬送され,搬送ローラ81では,用紙Pを更に下流側に設けられているレジストローラ35に搬送すると共に,用紙Pの厚さ検出が行われ,(段落0018,図1) 画像形成装置100は,用紙厚さ検出部80,エンジン制御部110を有し,(段落0022,図2) エンジン制御部110は,基準位置算出手段としての基準位置算出部111,厚さ算出手段としての厚さ算出部112を有し,(段落0025,図2) 用紙厚さ検出部80は,搬送手段としての搬送ローラ81,位置検出手段としての位置検出センサ82を有し,(段落0035,図3) 搬送ローラ81は,回転駆動する駆動ローラ81a,駆動ローラ81aに接触して従動回転する従動ローラ81bを有し,(段落0036,図3) 位置検出センサ82は,用紙Pを搬送することによる従動ローラ81bの位置変動に応じて回転するホイール82aの回転位置をセンサ82bで検出し,従動ローラ81bの駆動ローラ81aに対する接離方向の位置を検出して出力し,(段落0039,図3) 厚さ算出部112は,用紙Pの搬送時及び非搬送時におけるセンサ82bの検出結果の差分に基づいて用紙Pの厚さを検出するものであり,(段落0039) 位置検出センサ82の出力には,従動ローラ81bの偏心の影響により,従動ローラ81bの回転周期に応じた変動成分が重畳されるため,位置検出センサ82の出力を従動ローラ81bが一定期間以上回転する間(例えば従動ローラ81bが1回転以上する時間)の位置検出センサ82の出力をサンプリングし,これを平均化した値を基準位置又は搬送位置として用紙Pの厚さ検出に用いることで,厚さ算出部112による用紙Pの厚さ検出精度を向上させ,(段落0043,図4) 画像形成装置100における画像印刷処理では,(段落0054,図6) 画像形成装置100に印刷が指示されると,エンジン制御部110が画像を印刷する用紙P及び用紙Pを収納している用紙供給部70を選択し,(段落0055,図6ステップS1) 基準位置算出部111が,従動ローラ81bの基準位置を算出し,(段落0056,図6ステップS3) 厚さ算出部112が用紙厚さ算出処理を実行し,用紙Pの厚さを算出し,(段落0058,図6ステップS5) 用紙厚さ算出処理において用紙Pの重送が検知されたか否かを判定し,重送が検知された場合には,用紙Pの搬送を停止し,ジャム処理を行った後に処理を終了し,(段落0059,図6ステップS6,S10,S11) 用紙Pの重送が検知されなかった場合には,エンジン制御部110が用紙Pの厚さに基づいて定着部120,画像形成部130の印刷条件設定を行い,(段落0060,図6ステップS7) 定着部120,画像形成部130により設定された印刷条件で用紙Pへの印刷が実行され,(段落0061,図6ステップS8) 厚さ算出部112における用紙厚さ算出処理では,(段落0071,図8) 厚さ算出部112が,搬送ローラ81の用紙Pの搬送時における位置検出センサ82の検出結果を取得し,(段落0072,図8ステップS201) 厚さ算出部112が位置検出センサ82から取得した検出結果を平均することで,搬送ローラ81の搬送時における従動ローラ81bの搬送位置を算出し,(段落0073,図8ステップS202) 厚さ算出部112が,算出した搬送位置と基準位置算出部111により算出されて記憶部113に保存されている基準位置との差分に基づいて,用紙Pの厚さを算出し,(段落0074,図8ステップS203) 厚さ算出部112が算出した用紙Pの厚さと,直前に搬送された同一種類の用紙Pの厚さ算出結果に所定の倍率α(例えばα=1.2)を乗じた値とを比較し,算出した用紙Pの厚さが,直前に搬送された同一種類の用紙Pの厚さ算出結果に所定の倍率αを乗じた値以上である場合には,用紙Pが重送されていると判断し,(段落0075,図8ステップS204,S206) 算出した用紙Pの厚さが,直前に搬送された同一種類の用紙Pの厚さ算出結果に所定の倍率αを乗じた値未満の場合には,用紙Pが正常に搬送されていると判断して,算出した用紙Pの厚さを記憶部113に保存し,(段落0076,図8ステップS205) 算出した用紙Pの厚さに応じて画像形成条件を適宜設定することで,常に一定の画像品質以上の印刷を行うことができる(段落0020) 画像形成装置。」 第6 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 ア(ア)引用発明では,「用紙」として「様々な種類」のものが想定されており,「用紙ごとの特性に応じて画像形成条件を適宜設定」することで,「用紙の種類に関わらず常に一定品質以上の画像を出力する」ものであって,具体的には,「用紙Pの厚さに応じて画像形成条件を適宜設定することで,常に一定の画像品質以上の印刷を行うことができる」ものであるから,「用紙の種類」ごとに「用紙」の「厚さ」は異なるものである。 そして,引用発明の「用紙」は,「画像」を「印刷」するための“薄型”の“媒体”と言えるものである。 したがって,引用発明の「様々な種類の用紙」は,本願発明1の「厚さが互いに異なる複数種類の薄型媒体」に相当する。 (イ)引用発明では,「用紙トレイ71から給紙ローラ72により1枚ずつ給紙された用紙Pは,ローラ対75?78により,搬送経路において複数の用紙供給部70の下流側に設けられている搬送手段としての搬送ローラ81に向けて搬送され,搬送ローラ81では,用紙Pを更に下流側に設けられているレジストローラ35に搬送すると共に,用紙Pの厚さ検出が行われ」るところ,「用紙P」が「ローラ対75?78」,「搬送ローラ81」,及び「レジストローラ35」によって搬送される「搬送経路」は,本願発明1の「薄型媒体を搬送可能な搬送路」に相当する。 (ウ)したがって,引用発明と本願発明1とは,「厚さが互いに異なる複数種類の薄型媒体を搬送可能な搬送路」を備える点で一致する。 イ(ア)引用発明の「搬送ローラ81」は,「ローラ対75?78」,「搬送ローラ81」,及び「レジストローラ35」によって形成される「搬送経路」内の“一点”にあり,当該「搬送ローラ81」で「用紙Pの厚さ検出が行われ」るものであるから,前記「搬送経路」内の「搬送ローラ81」がある“一点”は,本願発明1の「前記搬送路の少なくとも一点に規定された厚さ計測点」に相当する。 (イ)引用発明の「位置検出センサ82」は,「用紙厚さ検出部80」に設けられており,「厚さ算出部112」が前記「位置検出センサ82」を構成する「センサ82b」の「検出結果の差分に基づいて用紙Pの厚さを検出する」から,引用発明の「位置検出センサ82」は,本願発明1の「前記薄型媒体の」「厚さを計測する厚さ計測センサ」に相当する。 そして,引用発明の「用紙厚さ検出部80」は,「搬送手段としての搬送ローラ81」を「有し」ており,「搬送経路」内の「搬送ローラ81」がある“一点”において「用紙Pの厚さ」が「検出」されるものであるから,上記(ア)の検討も踏まえると,“前記薄型媒体”の“厚さ計測点”に位置する部分の“厚さを計測する”ものである。 (ウ)したがって,引用発明と本願発明1とは,「前記搬送路の少なくとも一点に規定された厚さ計測点において,前記薄型媒体の前記厚さ計測点に位置する部分の厚さを計測する厚さ計測センサ」を備える点で一致する。 ウ(ア)上記ア(ア)より,引用発明の「用紙」は,「種類」ごとに「厚さ」が異なるものであるから,引用発明の「厚さ算出部112」が「用紙Pの厚さを検出する」ことは,本願発明1の「薄型媒体の種類」を「特定する」ことに相当する。 (イ)引用発明の「厚さ算出部112」は,「算出した用紙Pの厚さと,直前に搬送された同一種類の用紙Pの厚さ算出結果に所定の倍率α(例えばα=1.2)を乗じた値とを比較し,算出した用紙Pの厚さが,直前に搬送された同一種類の用紙Pの厚さ算出結果に所定の倍率αを乗じた値以上である場合には,用紙Pが重送されていると判断し」,「エンジン制御部110」は,「用紙厚さ算出処理において用紙Pの重送が検知されたか否かを判定し」ているから,引用発明の「エンジン制御部110」は,「用紙P」が「重送」の“状態”であるか否かを判定しているといえる。 (ウ)引用発明の「厚さ算出部112」は,「用紙Pの搬送時」における「センサ82bの検出結果」の差分に基づいて「用紙Pの厚さを検出する」から,“前記厚さ計測センサから前記薄型媒体の厚さの計測結果を示す厚さ情報を取得して”いるといえる。 (エ)引用発明の「エンジン制御部110」は,「厚さ算出部112」を有しているから,上記(ア)の「厚さ算出部112」が「薄型媒体の種類」を「特定する」処理,上記(ウ)の「厚さ算出部112」が“前記厚さ計測センサから前記薄型媒体の厚さの計測結果を示す厚さ情報を取得”する処理は,「厚さ算出部112」を有する「エンジン制御部110」の処理であるとみることができる。 したがって,引用発明の「エンジン制御部110」は,上記(ア)?(ウ)の処理を実行する主体である点で,本願発明1の「状態特定部」に相当する。 (オ)上記(ア)?(エ)の検討から,引用発明と本願発明1とは,「前記厚さ計測センサから前記薄型媒体の厚さの計測結果を示す厚さ情報を取得して前記薄型媒体の種類及び状態を特定する状態特定部」を備える点で一致する。 エ(ア)引用発明では,「位置検出センサ82の出力を従動ローラ81bが一定期間以上回転する間(例えば従動ローラ81bが1回転以上する時間)の位置検出センサ82の出力をサンプリングし,これを平均化した値を」「搬送位置として用紙Pの厚さ検出に用いることで,厚さ算出部112による用紙Pの厚さ検出精度を向上させ」ているから,引用発明の「位置検出センサ82の出力をサンプリング」することは,本願発明1の「厚さ情報を所定の時間間隔で複数回取得」することに相当する。 そして,取得された“所定個数”の情報についての「平均化した値」を“算出”することは,本願発明1の「所定個数の前記厚さ情報からなる厚さ情報群についての代表値」を「算出」することに相当する。 また,上記イの検討も踏まえると,前記「サンプリング」は,“前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中”に実行されるものである。 さらに,上記ウの検討も踏まえると,引用発明の「エンジン制御部110」と本願発明1の「状態特定部」とは,「算出した前記代表値に基づいて前記薄型媒体の種類及び状態を特定」している点で一致しているといえる。 (イ)上記(ア)の検討から,引用発明と本願発明1とは,後記する点(相違点1)で相違するものの,「前記状態特定部は,前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中」,「前記厚さ情報を所定の時間間隔で複数回取得し」,「所定個数の前記厚さ情報からなる厚さ情報群についての代表値を」「算出し,算出した前記代表値に基づいて前記薄型媒体の種類及び状態を特定し」ている点で共通している。 オ 引用発明の「画像形成装置」は,上記ア?エで検討した「搬送路」,「厚さ計測センサ」,及び「状態特定部」を備えている点で,本願発明1の「薄型媒体搬送装置」に対応するものといえる。 カ したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「厚さが互いに異なる複数種類の薄型媒体を搬送可能な搬送路と, 前記搬送路の少なくとも一点に規定された厚さ計測点において,前記薄型媒体の前記厚さ計測点に位置する部分の厚さを計測する厚さ計測センサと, 前記厚さ計測センサから前記薄型媒体の厚さの計測結果を示す厚さ情報を取得して前記薄型媒体の種類及び状態を特定する状態特定部と, を備え, 前記状態特定部は, 前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中,前記厚さ情報を所定の時間間隔で複数回取得し,所定個数の前記厚さ情報からなる厚さ情報群についての代表値を算出し,算出した前記代表値に基づいて前記薄型媒体の種類及び状態を特定する, 薄型媒体搬送装置。」 (相違点) (相違点1) 本願発明1は,「前記薄型媒体が検知されてから当該薄型媒体が前記搬送路の所定点を通過し終わるまでの間」,厚さ情報を所定の時間間隔で「連続で所定個数だけ取得する度に」,代表値を「繰り返し」算出しているのに対して,引用発明は,そのように構成されていない点。 (相違点2) 本願発明1は,「前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中において,繰り返し算出されている前記代表値が所定の判定閾値未満から当該判定閾値以上に変動した場合,前記薄型媒体の状態を複数枚同時挿入と特定する」のに対し,引用発明は,そのような構成となっていない点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点1及び相違点2について 引用発明の「薄型媒体」は,トレイから給紙される印刷用紙であり,引用発明では,「用紙厚さ算出処理において用紙Pの重送が検知されたか否かを判定し」,「用紙Pの重送が検知されなかった場合には,エンジン制御部110が用紙Pの厚さに基づいて定着部120,画像形成部130の印刷条件設定を行い」,「定着部120,画像形成部130により設定された印刷条件で用紙Pへの印刷が実行され」るものであるから,用紙厚さの算出処理は1枚の用紙について1回だけ実行されるものであり,印刷用紙が計測点を通過する間,繰り返し,用紙厚さの算出処理が実行されるというものではない。 そして,印刷用紙が計測点を通過する間,繰り返し,用紙厚さを算出して,重送の判定を実行することとすると,その分だけ,用紙厚さの測定結果に基づいた印刷条件設定による印刷処理が遅れてしまうことは明らかであり,印刷処理を遅らせてまで,重送の判定を繰り返し実行するという積極的な動機付けがあるとは認められない。 また,重送の判定を繰り返し実行することが,当該技術分野における周知技術であるともいえない。 そうすると,引用発明において,「前記薄型媒体が検知されてから当該薄型媒体が前記搬送路の所定点を通過し終わるまでの間」,厚さ情報を所定の時間間隔で「連続で所定個数だけ取得する度に」,代表値を「繰り返し」算出し,「前記薄型媒体が前記厚さ計測点を通過している最中において,繰り返し算出されている前記代表値が所定の判定閾値未満から当該判定閾値以上に変動した場合,前記薄型媒体の状態を複数枚同時挿入と特定する」ことは,当業者であっても,容易に想到し得たことであるとはいえない。 イ よって,本願発明1は,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2?6について 本願発明2?4は,本願発明1を直接・間接に引用するものであって,本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 また,本願発明5は,本願発明1に対応する方法の発明であり,本願発明6は,本願発明1に対応するプログラムの発明であって,いずれも,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明1?6は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-04-21 |
出願番号 | 特願2016-73644(P2016-73644) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06K)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 梅沢 俊 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 須田 勝巳 |
発明の名称 | 薄型媒体搬送装置、料金自動収受機、薄型媒体の状態特定方法及びプログラム |
代理人 | 橋本 宏之 |
代理人 | 伊藤 英輔 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 鎌田 康一郎 |
代理人 | 古都 智 |