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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N |
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管理番号 | 1373286 |
審判番号 | 不服2020-4404 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-04-02 |
確定日 | 2021-04-21 |
事件の表示 | 特願2016-573960「ビットストリームパーティションのためのHRDパラメータを信号伝達すること」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月23日国際公開、WO2015/195767、平成29年 8月31日国内公表、特表2017-525231〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)6月17日(優先権主張日 2014年6月18日、米国、2015年6月16日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 2月14日 :国際出願翻訳文提出 平成29年 3月 1日 :手続補正および上申書提出 平成30年 5月23日 :手続補正および上申書提出 平成31年 3月 5日 :手続補正および上申書提出 平成31年 4月12日付け:拒絶理由通知 令和 1年 6月25日 :意見書提出および手続補正 令和 1年 7月29日付け:拒絶理由通知 令和 1年11月 6日 :意見書提出 令和 1年11月28日付け:拒絶査定 令和 2年 4月 2日 :拒絶査定不服審判請求 第2 本件発明 本件の請求項1に記載された発明(以下、「本件発明」という。)は、令和1年6月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の次のとおりのものである。(なお、本件発明の各構成の符号は、請求項の記載を分節するために当審で付したものであり、請求項の記載を符号を用いて、以下、発明特定事項A?Eと称する。) (本件発明) A ビデオデータをコード化する方法であって、前記方法は、 B 回路で実装されたプロセッサが、前記ビデオデータを含むビットストリームのビットストリームパーティション初期到着時間補足強化情報(SEI)メッセージのネットワーク抽象化レイヤ(NAL)初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを、NAL仮想参照デコーダ(HRD)パラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかに基づいて決定することと、 C 前記プロセッサが、前記NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定することとは関係なく、前記ビデオデータを含む前記ビットストリームの前記ビットストリームパーティション初期到着時間SEIメッセージのビデオコード化レイヤ(VCL)初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを、VCL HRDパラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかに基づいて決定することと、 A1 前記プロセッサが、前記ビットストリームの前記ビデオデータをコード化することと を備え、 A1 前記ビットストリームの前記ビデオデータをコード化することは、 D 前記NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すると決定したことに応答して、前記NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化することと、 E 前記VCL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すると決定したことに応答して、前記VCL初期到着遅延シンタックス要素をコード化することと A を備える、方法。 第3 原査定の理由 原査定の理由は、請求項1-27に係る発明は、引用文献1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 第4 引用文献及び引用発明 1.引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である、 WANG,Ye-Kui and HANNUKSELA,Miska M.,AHG10 output text,Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11, 18th Meeting:Sapporo,JP,30 June - 9 July 2014, [JCTVC-R0010-v1],2014年6月14日,pp.39,44,119,125 には、以下の記載がある(括弧内に当審で作成した仮訳を添付する。また、下線は強調のために当審で付した。)。 (ア)P.119の上段には「 」という記載がある。 ((仮訳) F.14.4.1.4 ビットストリームパーティション初期到着時刻SEIメッセージシンタックス) (イ)P.125の第9?27行には 「F.14.2.4 Bitstream partition initial arrival time SEI message semantics The bitstream partition initial arrival time SEI message specifies the initial arrival times to be used in the bitstream-partition-specific CPB operation. ・・・ nal_initial_arrival_delay[i] specifies the initial arrival time for the i-th schedule combination of the bitstream partition to which this SEI message applies, when NAL HRD parameters are in use. ・・・ vcl_initial_arrival_delay[i] specifies the initial arrival time for the i-th schedule combination of the bitstream partition to which this SEI message applies, when VCL HRD parameters are in use.」 という記載がある。 ((仮訳) F.14.2.4 ビットストリームパーティション初期到着時刻SEIメッセージセマンティックス ビットストリームパーティション初期到着時刻SEIメッセージはbitstream-partition-specific CPBオペレーションに用いられる初期到着時刻を特定する。 ・・・ NAL HRDパラメータが用いられるとき、nal_initial_arrival_delay[i]は、このSEIメッセージが適用されるビットストリームパーティションについての、i番目のスケジュール組み合わせに関する初期到着時刻を特定する。 VCL HRDパラメータが用いられるとき、vcl_initial_arrival_delay[i]は、このSEIメッセージが適用されるビットストリームパーティションについての、i番目のスケジュール組み合わせに関する初期到着時刻を特定する。) (ウ)P.39の第11?30行には、 「 」 という記載がある。 (エ)P.44の第14?21行には、 「vcl_initial_cpb_removal_delay[i] and vcl_initial_alt_cpb_removal_delay[i] specify the default and the alternative initial CPB removal delays, respectively, for the i-th CPB when the VCL HRD parameters are in use. ・・・ vcl_initial_cpb_removal_offset[i] and vcl_initial_alt_cpb_removal_offset[i] specify the default and the alternative initial CPB removal offsets, respectively, for the i-th CPB when the VCL HRD parameters are in use.」 という記載がある。 ((仮訳) vcl_initial_cpb_removal_delay[i]とvcl_initial_alt_cpb_removal_delay[i]は、VCL HRDパラメータが用いられるとき、それぞれ、i番目のCPBに対するデフォルトまたは代替的な初期CPB除去遅延を特定する。 vcl_initial_cpb_removal_offset [i]とvcl_initial_alt_cpb_removal_offset[i]は、VCL HRDパラメータが用いられるとき、それぞれ、i番目のCPBに対するデフォルトまたは代替的な初期CPB除去オフセットを特定する。) 2.引用文献2 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である、 FLYNN,David et al.,High Efficiency Video Coding (HEVC) Range Extensions text specification: Draft 5,Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11, 15th Meeting:Geneva,CH,23 October - 1 November 2013,[JCTVC-1005_v4],2013年12月27日,p. 328 には、第6?37行において、以下の記載がある。 「E.2.2 HRD parameters semantics The hrd_parameters( ) syntax structure provides HRD parameters used in the HRD operations for a layer set. ・・・ nal_hrd_parameters_present_flag equal to 1 specifies that NAL HRD parameters (pertaining to Type II bitstream conformance) are present in the hrd_parameters( ) syntax structure. ・・・ The variable NalHrdBpPresentFlag is derived as follows: - If one or more of the following conditions are true, the value of NalHrdBpPresentFlag is set equal to 1: - nal_hrd_parameters_present_flag is present in the bitstream and is equal to 1. ・・・ - Otherwise, the value of NalHrdBpPresentFlag is set equal to 0. vcl_hrd_parameters_present_flag equal to 1 specifies that VCL HRD parameters (pertaining to all bitstream conformance) are present in the hrd_parameters( ) syntax structure. ・・・ The variable VclHrdBpPresentFlag is derived as follows: - If one or more of the following conditions are true, the value of VclHrdBpPresentFlag is set equal to 1: - vcl_hrd_parameters_present_flag is present in the bitstream and is equal to 1. ・・・ - Otherwise, the value of VclHrdBpPresentFlag is set equal to 0.」 ((仮訳) E.2.2 HRD パラメータセマンティックス hrd_parameters()シンタックス構造はレイヤセットのHRDオペレーションに用いられるHRDパラメータを提供する。 ・・ nal_hrd_parameters_present_flagが1であることは(タイプIIビットストリーム適合性に関連する)NAL HRDパラメータがhrd_parameters( )シンタックス構造に出現することを特定する。 ・・・ 変数NalHrdBpPresentFlagは以下のように導出される。 - もし下記条件が1つ以上真ならばNalHrdBpPresentFlagの値は1に等しく設定される。 - nal_hrd_parameters_present_flagがビットストリーム中に存在しその値が1に等しいとき ・・・ - そうでなければ、NalHrdBpPresentFlagの値は0に等しく設定される。 vcl_hrd_parameters_present_flagが1であることは(すべてのビットストリーム適合性に関連する)VCL HRDパラメータがhrd_parameters( )シンタックス構造に出現することを特定する。 ・・・ 変数VclHrdBpPresentFlagは以下のように導出される。 - もし下記条件が1つ以上真ならばVclHrdBpPresentFlagの値は1に等しく設定される。 - vcl_hrd_parameters_present_flagがビットストリーム中に存在しその値が1に等しいとき ・・・ - そうでなければ、VclHrdBpPresentFlagの値は0に等しく設定される。) 3.引用発明、引用文献記載事項の認定 (1)引用発明 上記1.(ア)(イ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。引用発明の各構成は、符号(a)?(b2)を用いて、以下、構成(a)?(b2)と称する。 (引用発明) (a) ビットストリームパーティション初期到着時刻SEIメッセージシンタックスとして、 が定義され、ここで、 (b)ビットストリームパーティション初期到着時刻SEIメッセージセマンティックスとして、ビットストリームパーティション初期到着時刻SEIメッセージはbitstream-partition-specific CPBオペレーションに用いられる初期到着事時刻を特定し、 (b1)NAL HRDパラメータが用いられるとき、nal_initial_arrival_delay[i]は、このSEIメッセージが適用されるビットストリームパーティションについての、i番目のスケジュール組み合わせに関する初期到着時刻を特定し、 (b2)VCL HRDパラメータが用いられるとき、vcl_initial_arrival_delay[i]は、このSEIメッセージが適用されるビットストリームパーティションについての、i番目のスケジュール組み合わせに関する初期到着時刻を特定すること。 (2)引用文献1記載の事項 次に、上記1(ウ)は、変数NalHrdBpPresentFlag及びVclHrdBpPresentFlagが用いられる場合のシンタックスを示すものであり、上記1(エ)は、If(VclHrdBpPresentFlag)が真の場合に出現するvcl_initial_cpb_removal_delay、vcl_initial_cpb_removal_offsetの説明として、以下の事項が記載されているものと認められる(以下、「引用文献1記載の事項」という。)。 「 ここで、vcl_initial_cpb_removal_delay[i]は、VCL HRDパラメータが用いられるとき、i番目のCPBに対するデフォルト初期CPB引き抜き遅延を特定し、 vcl_initial_cpb_removal_offset[i]は、VCL HRDパラメータが用いられるとき、i番目のCPBに対するデフォルト初期CPB引き抜き遅延オフセットを特定すること」 (3)引用文献2記載の事項 さらに、上記2.によれば、引用文献2には、HRDパラメータセマンティックスに関して、以下の事項が記載されているものと認められる(以下、「引用文献2記載の事項」という。)。 「変数NalHrdBpPresentFlagは、nal_hrd_parameters_present_flagがビットストリーム中に存在し、その値が1に等しい時に、1に等しく設定され、nal_hrd_parameters_present_flagが1であることはNAL HRDパラメータがhrd_parameters( )シンタックス構造に出現することを特定するものであり、 変数VclHrdBpPresentFlagは、vcl_hrd_parameters_present_flagがビットストリーム中に存在し、その値が1に等しい時に、1に等しく設定され、vcl_hrd_parameters_present_flagが1であることはVCL HRDパラメータがhrd_parameters( )シンタックス構造に出現することを特定するものであること。」 第5 本件発明と引用発明との対比及び判断 1 次に、本件発明と引用発明とを対比する。 ア 発明特定事項A、A1について 引用発明の構成(a)の「ビットストリームパーティション初期到着時刻SEIメッセージシンタックスが定義され」ていることについて、ビットストリームに関するメッセージのシンタックスが定義されていることは、ビデオデータのコード化に関する事項が特定されている点で、本件発明の発明特定事項A、A1の「ビデオデータをコード化する方法であって」「前記プロセッサが、前記ビットストリームのビデオデータをコード化する」と共通する。 ただし、引用発明において、ビデオデータをコード化するための具体的な手段は特定されていない点で本件発明の発明特定事項A1とは異なる。 イ 発明特定事項Bについて 引用発明の構成(a)における、ビットストリームパーティション初期遅延時間SEIメッセージシンタックスにおける、nal_initial_arrival_delay[i]、すなわちi番目のNAL初期遅延到着シンタックス要素、が設定される条件は、If(NalHrdBpPresentFlag)が真であるといえる。 また、引用発明の構成(b)、(b1)は、ビットストリームパーティション初期到着時間SEIメッセージにおいて、NAL HRDパラメータが用いられるとき、すなわち、NAL HRDパラメータがコード化されるとき、i番目のNAL初期到着遅延を表すシンタックス要素が設定されるということを示すといえる。 そうすると、引用発明の構成(b)、(b1)と、本件発明の発明特定事項Bとは、「ビデオデータを含むビットストリームのビットストリームパーティション初期到着時間補足強化情報(SEI)メッセージのネットワーク抽象化レイヤ(NAL)初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを、NAL仮想参照デコーダ(HRD)パラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかに基づいて決定する」点で共通するといえる。 ただし、NAL初期遅延到着シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定する場合、本件発明の発明特定事項Bは、NAL HRDパラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかという条件だけが課されているのに対して、引用発明では、構成(b1)に加え、構成(a)のIf(NalHrdBpPresentFlag)が真であるという条件が課されている点で、一見相違する。 また、本件発明の発明特定事項Bは、「回路で実装されたプロセッサが」上記決定を行うのに対して、引用発明では、構成(b1)において、上記決定を行うための具体的手段は特定されていない点で相違する。 ウ 発明特定事項Cについて 引用発明の構成(a)における、ビットストリームパーティション初期遅延時間SEIメッセージシンタックスにおける、vcl_initial_arrival_delay[i]、すなわちi番目のVCL初期遅延到着シンタックス要素、が設定される条件は、If(NalHrdBpPresentFlag)のelse節を実行する場合であるという条件であるといえる。 引用発明の構成(b)、(b2)は、ビットストリームパーティション初期到着時間SEIメッセージにおいて、VCL HRDパラメータが用いられるとき、すなわち、VCL HRDパラメータがコード化されるとき、i番目のVCL初期到着遅延シンタックス要素、が設定されるということを示すといえる。 そうすると、引用発明の構成(a)、(b)、(b2)と、本件発明の発明特定事項Cとは、「ビデオデータを含むビットストリームのビットストリームパーティション初期到着時間補足強化情報(SEI)メッセージのビデオ化コードレイヤ(VCL)初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定する」点で共通するといえる。 ただし、VCL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定する場合、本件発明は、NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定することとは関係なく、VCL HRDパラメータがビットストリームのためにコード化されるかどうかに基づいて決定するのに対して、引用発明では、構成(b)、(b2)において特定される、VCL HRDパラメータがコード化されるときという条件と、構成(a)において特定される、If(NalHrdBpPresentFlag)のelse節を実行する場合であるという条件がある点で相違するといえる。 エ 発明特定事項D、Eについて 引用発明の構成(a)、(b)、(b1)から、NAL初期到着遅延を表すシンタックス要素が設定されることが決定されたとき、NAL初期到着遅延を示すシンタックス要素が設定されることは明らかであり、引用発明は本件発明の発明特定事項のDである「前記NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すると決定したことに応答して、前記NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すること」を含むといえる。 同様に、引用発明の構成(a)、(b)、(b2)から、VCL初期到着遅延を表すシンタックス要素が設定されることが決定されたとき、VCL初期到着遅延を示すシンタックス要素が設定されることは明らかであり、引用発明は本件発明の発明特定事項Eである、「前記VCL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すると決定したことに応答して、前記VCL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すること」を含むといえる。 2 一致点および相違点の認定 以上のア?オの対比に基づき、本件発明と上記引用発明とを比較すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 (一致点) A’ ビデオデータのコード化について、 B’ ビデオデータを含むビットストリームのビットストリームパーティション初期到着時間補足強化情報(SEI)メッセージのネットワーク抽象化レイヤ(NAL)初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを、NAL仮想参照デコーダ(HRD)パラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかに基づいて決定することと、 C’ 前記ビデオデータを含む前記ビットストリームの前記ビットストリームパーティション初期到着時間SEIメッセージのビデオコード化レイヤ(VCL)初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定することと、 を備え、 D 前記NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すると決定したことに応答して、前記NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化することと、 E 前記VCL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すると決定したことに応答して、前記VCL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すること。 (相違点1) ビデオデータのコード化に関して、本件発明はビデオデータをコード化する方法であり、回路で実装されたプロセッサが、シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定し、ビットストリームのビデオデータをコード化するのに対して、引用発明は、ビットストリームのメッセージシンタックスが定義されているものの、シンタックスがビデオデータのコード化する方法について、ビデオデータのコード化を行うための手段を具体的に特定するものではない点。 (相違点2) NAL初期遅延到着シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定することについて、本件発明は、NAL HRDパラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかという条件だけが課されているのに対して、引用発明では、NAL HRDパラメータがコード化されているかどうかという条件に加えて、If(NalHrdBpPresentFlag)が真のときであるかどうかという条件をさらに含む点。 (相違点3) VCL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定することについて、本件発明は、NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかを決定することとはどうかとは関係なく、VCL HRDパラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかに基づいて決定するのに対して、引用発明では、VCL HRDパラメータがビットストリームのためにコード化されるという条件に加えて、If(NalHrdBpPresentFlag)のelse節を実行する場合であるという条件に基づいて決定する点。 3 相違点に対する判断 (1) 相違点1について 引用発明のビットストリームパーティション初期到着時間SEIメッセージは、HEVCに関するJCTVCにおける規格提案書であり、かつ引用文献1のAbstract第3?4行の「the text changes apply to both MV-HEVC and SHVC」という記載にあるように、MV-HEVCやSHVC、すなわちビデオ符号化に関する標準規格に適用される規格提案書に記載の事項から導かれるものである。 そして、引用文献1の規格提案書に規定されたSEIメッセージシンタックスの記述に接した当業者であれば、当該シンタックスをコード化するために、回路で実装されたプロセッサにおいて、当該シンタックス要素をコード化するべきかどうかを決定することや、シンタックスを含むビデオデータを含むビットストリームをコード化する方法を実現することで、相違点1に関する構成とすることは、当然になし得ることである。 (2) 相違点2について 引用文献2記載の事項から、変数NalHrdBpPresentFlagは、nal_hrd_parameters_present_flagがビットストリーム中に存在し、その値が1のときに、すなわち、「NAL HRDパラメータがhrd_parameters( )シンタックス構造中に出現する」ときに1に設定される。 また、「NAL HRDパラメータがhrd_parameters( )シンタックス構造中に出現する」ときとは、「NAL HRDパラメータが用いられる」ときに他ならない。 そうすると、引用発明において、If(NalHrdBpPresentFlag)が真、すなわち、変数NalHrdBpPresentFlagが1、となるときとは、NAL HRDパラメータが用いられるときであるといえる。 以上から、ビットストリームパーティション初期遅延時間SEIメッセージシンタックスにおける、NAL初期遅延到着シンタックス要素が設定される条件について、引用発明のIf(NalHrdBpPresentFlag)が真という条件は、NAL HRDパラメータが用いられる、すなわちNAL HRDパラメータがコード化されているという条件である。 したがって、引用発明のIf(NalHrdBpPresentFlag)が真という条件と、NAL HRDパラメータがコード化されているという条件は、実は同じ条件を特定しているといえる。 よって、本件発明と引用発明における、NAL初期遅延到着シンタックス要素が設定される条件は、いずれもNAL HRDパラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかという条件だけであり、他の条件は存在しないものといえ、上記相違点2は実質的には存在しない。 (3) 相違点3について (3-1) 引用発明におけるシンタックス要素とセマンティクスについて 引用発明の構成(a)である、ビットストリームパーティション初期遅延時間SEIメッセージシンタックスにおける、VCL初期遅延到着シンタックス要素が設定される条件は、If(NalHrdBpPresentFlag)におけるelse節、すなわち、変数NalHrdBpPresentFlagが0のときである。 一方、引用発明の構成(b2)においてセマンティックスとして説明される、VCL初期遅延到着シンタックス要素が設定される条件とは、VCL HRDパラメータが用いられるときであり、NAL HRDパラメータについては何ら言及されていない。 また、構成(a)におけるシンタックス要素である変数NalHrdBpPresentFlagは一見してNAL HRDパラメータに関するものであって、VCL HRDパラメータに関連するものではない。 そうすると、当業者ならば、引用発明において構成(a)と構成(b2)において、VCL初期到着遅延シンタックス要素と該シンタックス要素のセマンティックスの定義には、修正すべき点があることを認識するものといえる。 ここで、引用文献1記載の事項によれば、vcl_initial_cpb_removal_delay[i]やvcl_initial_cpb_removal_offset[i]といったVCLの初期引き抜き遅延やVCL初期引き抜きオフセットのシンタックス要素の説明として、VCL HRDパラメータが用いられる時に設定されることが規定されており、NAL HRDパラメータについての言及はない点で、引用発明のVCL初期到着遅延シンタックス要素と共通している。 すなわち、引用文献1においては、引用発明におけるVCLの初期到着遅延と、引用文献1記載の事項における初期引き抜き遅延や初期引き抜きオフセットについて記載され、かつ両者に共通して現れる、vcl_initial_で始まる変数はVCL HRDパラメータが用いられる時に設定されており、NAL HRDパラメータとは関係がない点で一貫しているといえる。 そうすると、引用文献1において、引用発明と引用文献1記載の事項に接した当業者ならば、VCL初期到着遅延シンタックス要素が設定される条件として、VCL HRDパラメータが用いられるものであって、かつ、NAL HRDパラメータは関与しないものとすることが、セマンティックスの上でより適切なものと推認するものといえる。 以上から、引用発明に接した当業者は、初期到着遅延シンタックス要素と、これに対するセマンティックスに修正すべき点があること、およびこれを修正し、シンタックス要素とセマンティックスが一貫したものとするには、より適切に定義されているセマンティックスに適合するように初期到着遅延シンタックス要素が設定される条件に関するシンタックスを修正する必要があること、すなわちvcl_initial_arrival_delay[i]が設定される条件に関するシンタックスを、VCL HRDパラメータが用いられ、かつNAL HRDパラメータが関与しないように、修正する必要があることを認識できるといえる。 そして、vcl_initial_arrival_delay[i]が設定される条件に関するシンタックスとは、引用発明の構成(a)のうち、If(NalHrdBpPresentFlag)のelse節が実行されるという条件であり、これをVCL HRDパラメータが用いられ、かつNAL HRDパラメータが関与しないようにする必要があるものと認められる。 (3-2) 変数VclHrdBpPresentFlagの値とVCL HRDパラメータが用いられることの関係について 引用文献2記載の事項から、HRDセマンティックスについて、 変数VclHrdBpPresentFlagが1となるかどうかは、vcl_hrd_parameters_present_flagがビットストリーム中に存在し、その値が1であるかどうか、すなわち、「VCL HRDパラメータがhrd_parameters( )シンタックス構造中に出現するかどうか」によるといえる。 ここで、「VCL HRDパラメータが該シンタックス構造中に出現するかどうか」とは、「VCL HRDパラメータが用いられるかどうか」に他ならない。 以上から、HRDセマンティックスについて、変数VclHrdBpPresentFlagが1となるかどうかは、VCL HRDパラメータが用いられるかどうかと同じことを意味するといえる。 (3-3) 変数VclHrdBpPresentFlagの値とNAL HRDパラメータが用いられることとの関係について 引用文献2記載の事項から、HRDセマンティックスについて、変数NalHrdBpPresentFlagの値は、 nal_hrd_parameters_present_flagがビットストリーム中に存在し、その値が1に等しいかどうか、すなわちNAL HRDパラメータがhrd_parameters( )シンタックス構造中に出現する(換言すれば、NAL HRDパラメータが用いられる)かどうか、によって設定されるといえる。 そして、これは(3-2)における変数VclHrdBpPresentFlagの値とは何ら関係ないことは明らかである。すなわち、変数VclHrdBpPresentFlagの値とNAL HRDパラメータが用いられるかどうかは関係ないといえる。 (3-4) 上記(3-2)、(3-3)を総合すると、HRDセマンティックスについて、変数VclHrdBpPresentFlagの値が1になるときに、VCL HRDパラメータが用いられ、この変数の値とNAL HRDパラメータが用いられるかどうかは関係ないといえる。 そうすると、変数VclHrdBpPresentFlagが1になることを示すシンタックス要素は、NAL HRDパラメータが用いられるかどうかとは関係なく、VCL HRDパラメータが用いられることを意味するといえる。 一方、引用文献1記載の事項には、シンタックス要素vcl_initial_cpb_removal_delayが設定される条件として、シンタックス要素”If(VclHrdBpPresentFlag)”が記載されている。 このシンタックス要素は、引用文献1記載の事項における、 「ここで、vcl_initial_cpb_removal_delay[i]は、VCL HRDパラメータが用いられるとき、i番目のCPBに対するデフォルト初期CPB引き抜き遅延を特定し、vcl_initial_cpb_removal_offset[i]は、VCL HRDパラメータが用いられるとき、i番目のCPBに対するデフォルト初期CPB引き抜き遅延オフセットを特定すること」 の記載からすると、「VCL HRDパラメータが用いられるとき」を意味しており、NAL HRDパラメータの値についての特定はない、すなわち、NAL HRDパラメータが用いられるかどうかを決定することとは関係ないものといえる。 (3-5) 引用発明のシンタックス要素を修正することについて そうすると、初期到着遅延シンタックス要素であるvcl_initial_arrival_delay[i]のシンタックスについての設計変更を行うにあたり、If(NalHrdBpPresentFlag)におけるelse節が実行される条件、すなわち、”If(NalHrdBpPresentFlag){・・・}else”におけるシンタックス要素”else”を、上記シンタックス要素”If(VclHrdBpPresentFlag)”に置き換えることで、シンタックス上、VCL HRDパラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかに基づいて、かつ、NAL HRDパラメータが用いられるかを決定することとはどうかとは関係なく、VCL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定する構成をとることは、当業者ならば格別の創作力を要するものではない。 そして、この構成は、相違点3に係る本件発明の構成に他ならない。 (4)まとめ 以上(1)?(3)を総合すると、引用発明および引用文献1記載の事項、引用文献2記載の事項に基づいて、本件発明を構成することは、当業者ならば容易になしえたものであるといえる。 4 審判請求人の主張について 審判請求人は令和2年4月2日付け審判請求書の「2.本願発明が特許されるべき理由」において、以下のような主張をしているので、これらについて検討する。 (1) 本件発明の課題について 「構成a「前記プロセッサが、前記NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定することとは関係なく、前記ビデオデータを含む前記ビットストリームの前記ビットストリームパーティション初期到着時間SEIメッセージのビデオコード化レイヤ(VCL)初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを、VCL HRDパラメータが前記ビットストリームのためにコード化されるかどうかに基づいて決定すること」は、引用文献1-2と異なる発明を開示していると思料いたします。 (2)まず、本願明細書の段落[0033]-[0035]に「[0033] 3)ビットストリームパーティション初期到着時間SEIメッセージでは、決して起こるべきでない以下の2つの場合の両方が起こることがある。 [0034] a.NalHrdBpPresentFlagが1であるとき、vcl_initial_arrival_delay[i]シンタックス要素を介したVCL HRDパラメータのための初期到着遅延は、VclHrdBpPresentFlagが1に等しい場合でも信号伝達されない。この場合、VCL HRD準拠は定義されないことがある。 [0035] b.NalHrdBpPresentFlagが0であるとき、vcl_initial_arrival_delay[i]シンタックス要素を介したVCL HRDパラメータのための初期到着遅延は、VclHrdBpPresentFlagが0に等しい場合でも信号伝達される。この場合、それらの信号伝達は単にビットを浪費している。」と記載されています。 この問題を解決するために本願明細書の段落[0039]に「ビットストリームパーティション初期到着時間SEIメッセージでは、シンタックスは、VCL HRDパラメータのための初期到着遅延が、VclHrdBpPresentFlagが1に等しいときかつそのときに限って存在するように変更される。」 と記載されています。 これに対して、引用文献1は、上記のような課題を認定する記載がありません。また、引用文献1は、審査官が認定するような設計変更が可能であることについての示唆もありません。 さらに、上記構成aは、上記したような技術的意義を有しており、引用文献1に開示される発明をこのような技術的意義を有する上記構成aに設計変更することが容易であるとの論理付けを審査官殿はしておりません。」 上記主張について検討する。 引用発明の構成(a)である、ビットストリームパーティション初期遅延時間SEIメッセージシンタックスにおける、初期到着遅延シンタックス要素が設定されるシンタックスと、構成(b2)における初期到着遅延シンタックス要素のセマンティックスの定義には修正すべき点があり、セマンティックスに適合するように当該シンタックス要素が設定される条件に関するシンタックスを修正する必要があることを認識すること、 および、このような修正を行うことは、上記3の「(3)相違点3について」における「(3-1)引用発明におけるシンタックス要素とセマンティックスについて」において説示したとおり、引用発明に接した当業者が認識できる(すなわち、引用文献1に接した当業者は、上記主張における「上記のような課題を認定」でき、この課題の解決を行うには、vcl_initial_arrival_delay[i]が設定される条件のシンタックスについての何らかの設計変更を行う必要があることを認識できる)といえる。 (2) 引用発明における置き換えを行うことについて 「(3)次に、引用文献1のF14.1.4を参照すると、「if( NalHrdBpPresentFlag ) ・・・ nal_initial_arrival_delay[i] else ・・・ vcl_initial_arrival_delay[i]」と記載されています。 上記記載から明らかなように、引用文献1は、NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定することに関係して、VCL初期到着時間SEIメッセージをコード化すべきかどうかを決定することを開示しています。 また、審査官殿は、拒絶査定において、上記の「else」を「if(VclHrdBpPresentFlag)」に置き換えることが容易に想到しうることであると認定しています。しかしながら、引用文献1は、上記のような関係を無関係にすることが可能であるという示唆がありません。そのため、引用文献1に開示される発明は、上記構成aと異なる発明を開示していると思料いたします。 また、引用文献2に開示される発明も上記構成aと異なる発明を開示していると思料いたします。」 上記主張について検討する。 まず、「引用文献1は、NAL初期到着遅延シンタックス要素をコード化すべきかどうかを決定することに関係して、VCL初期到着時間SEIメッセージをコード化すべきかどうかを決定することを開示してい」るのではなく、引用発明の構成(a)において、NalHrdBpPresentFlagの値によってVCL初期到着時間SEIメッセージをコード化するかどうかを特定しているのである。 ところで、上記3(3)(3-1)のとおり、シンタックスの設計変更を行う必要があることは、引用発明に接した当業者が認識できるといえる。 そうすると、VCL初期到着遅延のシンタックス要素とセマンティックスの定義における修正を行うに際し、VCL初期到着遅延が設定される場合の条件に関するシンタックスを、”If(NalHrdBpPresentFlag)におけるelseの場合”(すなわち、NalHrdBpPresentFlagが1でない場合)に替えて、”If(VclHrdBpPresentFlag)の場合”(すなわち、VclHrdBpPresentFlagが1の場合)に設定されるように変更することで、セマンティックに適合するシンタックスに修正することは、上記3(3)の「(3-5)引用発明のシンタックス要素を修正することについて」のとおり、当業者が容易になしえたものである。 このとき、上記”If(VclHrdBpPresentFlag)”の値はNAL初期到着遅延シンタックス要素が設定されるための条件である、”If(NalHrdBpPresentFlag)”の値とは無関係に設定されるようになる。 以上(1)?(2)のとおり、引用発明に接した当業者であれば、格別の考察を要することなく、本件発明の課題を認識することができ、かつ本件発明の構成C(審判請求人が主張する上記構成a)を想到することができるものといえる。 したがって、審判請求人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、本件発明は、引用発明、引用文献1記載の事項及び引用文献2記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-11-20 |
結審通知日 | 2020-11-24 |
審決日 | 2020-12-07 |
出願番号 | 特願2016-573960(P2016-573960) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H04N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鉢呂 健 |
特許庁審判長 |
清水 正一 |
特許庁審判官 |
川崎 優 千葉 輝久 |
発明の名称 | ビットストリームパーティションのためのHRDパラメータを信号伝達すること |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 井関 守三 |