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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1373318
審判番号 不服2020-3577  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-16 
確定日 2021-05-11 
事件の表示 特願2016- 36275「コア及びリアクトル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日出願公開、特開2017-152654、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月26日の出願であって、令和1年8月9日付けで拒絶理由通知がされ、令和1年10月8日に手続補正がされ、令和1年12月25日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和2年3月16日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、令和2年10月9日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由」という。)がされ、令和2年12月3日に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和1年12月25日付け拒絶査定)の概要は、この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、請求項1ないし3に対して引用文献1、4を、請求項4、5に対して引用文献1、2、4を、請求項6ないし9に対して引用文献1ないし4を引用したものである。
引用文献は以下のとおりである(以下、「引用文献1」ないし「引用文献4」という。)。
1.特開平01-256106号公報
2.特開2000-114022号公報
3.特開2012-054483号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2015-015364号公報(周知技術を示す文献)


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1.(新規性)この出願の請求項1、2に係る発明は引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
理由2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の引用文献に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
請求項1、2に対して引用文献1
請求項4、5に対して引用文献1、2
請求項6、7、8に対して引用文献1、2、3

引用文献等一覧
1.特開平01-256106号公報(原査定の引用文献1)
2.特開2000-114022号公報(原査定の引用文献2)
3.特開2012-054483号公報(原査定の引用文献3)


第4 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、令和2年12月3日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし8は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
磁性粉末と樹脂とを含むコアであって、
前記樹脂は、ショア硬度Dが83以上88以下のエポキシ樹脂であり、
前記コアは、前記磁性粉末に対して3wt%?5wt%の前記エポキシ樹脂を含有すること、
を特徴とするコア。
【請求項2】
前記樹脂は、ショア硬度Dが85以上であること、
を特徴とする請求項1に記載のコア。
【請求項3】
前記磁性粉末は、第1の磁性粉末と、前記第1の磁性粉末より平均粒径の小さい第2の磁性粉末とからなり、前記第1の磁性粉末と前記第2の磁性粉末の重量比率が80:20?50:50であること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコア。
【請求項4】
前記磁性粉末は、Fe-Si合金粉末若しくはFe-Si-Al合金粉末又はこれらの混合粉であること、
を特徴とする請求項1?請求項3の何れか1項に記載のコア。
【請求項5】
前記請求項1?請求項4の何れか1項に記載のコアと、
コイルと、
を備えたリアクトル。
【請求項6】
前記コイルは、前記コア内部に埋設されていること、
を特徴とする請求項5に記載のリアクトル。
【請求項7】
前記コイルの周囲には、前記樹脂よりショア硬度Dの低い樹脂が被覆されていること、
を特徴とする請求項5又は請求項6に記載のリアクトル。
【請求項8】
前記コイルの周囲を被覆する前記樹脂はシリコーン樹脂であること、
を特徴とする請求項7に記載のリアクトル。」


第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
令和2年10月9日付けの拒絶理由に引用された引用文献1(特開平1-256106号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「実験例1 まず、鉄粉としての電解鉄粉、未硬化状態の熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂、エポキシ樹脂の溶剤および離型剤としてのステアリン酸亜鉛を準備した。
そして、表1に示す重量比で鉄粉、樹脂および離型剤を混合して混合物を得た。この場合、試料lおよび3については、混合物に樹脂の溶剤も混合していわゆる湿式混合した。その後、溶剤を減圧下で除去した。
それから、混合物を型に入れてたとえば7ton/cm^(2)の圧力で加圧し、さらに、たとえば150°Cに加熱して混合物中の樹脂を熱硬化し、第1A図および第1B図に示すような外径23mm、内径13mm、厚み10mmのリング型のコア(試料1?3)をつくった。」(2頁右下欄9行ないし3頁左上欄4行)

イ「そして、それらの試料1?3について、密度、初期(低周波帯域)の透磁率μi、初期の透磁率が半減する周波数fcおよび硬度を、それぞれ測定した。なお、硬度については、第1A図の点P1で示す4つのポイントをショアー硬度計Dタイプで測定した。また、これらの測定結果を表1に示した。」(3頁左上欄5ないし11行)

ウ 表1として以下の表が記載されている。


」(4頁)

上記「ア」によれば、鉄粉としての電解鉄粉と、未硬化状態の熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂とを含む混合物中の樹脂を熱硬化して作ったリング型のコア(試料1?3)について記載されている。
そして、上記「イ」「ウ」によれば、試料3は電解鉄粉96.4(wt%)、エポキシ樹脂2.89(wt%)を混合し、ショアー硬度計Dタイプで測定し硬度90のコアが得られている。

したがって、上記引用した記載事項、図面、及び技術常識を総合すれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「鉄粉としての電解鉄粉と、未硬化状態の熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂とを有する混合物中の樹脂を熱硬化して作ったリング型のコアであって、前記コアは、ショアー硬度計Dタイプで測定し硬度90であり、前記コアは、電解鉄粉96.4(wt%)、エポキシ樹脂2.89(wt%)を混合したものである、コア。」

2.引用文献2ないし4について
令和2年10月9日付けの当審拒絶理由に引用された引用文献2(特開2000-114022号公報)には、段落【0008】に、磁心にFe-Al-Si合金、珪素鉄を使用する技術が記載されている。

令和2年10月9日付けの当審拒絶理由に引用された引用文献3(特開2012-054483号公報)の段落【0027】?【0032】及び図1には、コイルをコア内部に埋設する技術、及び、コイルをシリコン樹脂で被覆する技術が記載されている。

また、令和1年12月25日付け拒絶査定に引用された引用文献4(特開2015-015364号公報)の段落【0042】には、コアの硬度(強度)を高くして騒音や振動を抑制するという技術的事項が記載されている。


第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「電解鉄粉」は、本願発明1における「磁性粉末」に相当するから、引用発明と本願発明1は「磁性粉末と樹脂を含むコア」といえる点で共通する。
引用発明における「ショアー硬度計Dタイプで測定した硬度」は本願発明1の「ショア硬度D」に相当する。しかしながら、引用発明において特定された「ショアー硬度計Dタイプで測定した硬度90」はコアのショア硬度Dが90であるのに対して、本願発明1ではエポキシ樹脂のショア硬度Dが83以上88以下と特定されている点で異なる。
本願発明では、磁性粉末に対して3wt%?5wt%のエポキシ樹脂を含有するのに対し、引用発明のコアは電解鉄粉96.4(wt%)、エポキシ樹脂2.89(wt%)を有するものであるから、電解鉄粉に対するエポキシ樹脂の含有率は2.89/96.4×100=2.9979・・(wt%)となり、有効数字を考慮すれば実質的に本願発明の「3wt%?5wt%」に含まれるということができる。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「磁性粉末と樹脂とを含むコアであって、
前記樹脂は、エポキシ樹脂であり、
前記コアは、前記磁性粉末に対して3wt%?5wt%の前記エポキシ樹脂を含有する、
コア。」

(相違点)
本願発明1では、エポキシ樹脂のショア硬度Dが83以上88以下と規定されているのに対して、引用発明ではコアのショア硬度Dが90である点。

(2)相違点についての判断
引用文献1の表1によれば(上記「第5」「1.ウ」参照)、試料1は、鉄粉97.4wt%、樹脂1.95wt%、離型剤0.65wt%、からなり、硬度は86である。ここで引用発明とした試料3を試料1と比較すると、試料3では樹脂の割合が1.95wt%から2.89wt%に増加し、硬度も86から90に増加しており、樹脂の割合が増加することにより硬度が増加した考えられる。なお、試料1と比べて試料3では離型剤の割合も増加している(0.65wt%から0.71wt%)ものの、樹脂の割合が増加したことに合わせて増加したもので、増加の割合も樹脂に比べて少ないことから、樹脂の割合が増加することによりコアの硬度は増加すると考えるのが自然である。
そうしてみると、試料3は試料1に対して樹脂の割合が増加することにより硬度も86から90に増加しているから、樹脂の硬度は90以上といえ、引用文献1の樹脂は本願発明の「シエポキシ樹脂」の「ショア硬度Dが83以上88以下」との構成に含まれない。
したがって、本願発明1は引用発明とはいえない。

また、引用文献1の主たる目的は機械的強度が大きくしかも透磁率の周波数特性がよい複合磁性体を製造することであるから(引用文献1の1頁右欄13ないし16行参照)、引用発明の90以上ある樹脂の硬度を、機械的強度を減少させる硬度の低い樹脂に変更することには阻害要因が存在すると言うべきである。したがって引用発明において、上記相違点とした本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得た事項とはいえない。
よって、本願発明1は、当業者が引用発明から容易に発明できたものとはいえない。

さらに、当審拒絶理由で引用した引用文献1ないし3、及び原査定の拒絶の理由で引用した引用文献4を参照しても上記相違点とした構成について記載も示唆もされていない。したがって、当審拒絶理由通知により引用したこれらの引用文献を参照しても、本願発明1を容易に想到できたものとはいえない。

2.本願発明2ないし8について
本願請求項2ないし8は本願請求項1を引用した従属項であり、本願発明2ないし8は、本願発明1の上記相違点とした構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定についての判断
令和2年12月3日付けの補正により、補正後の請求項1ないし8は、エポキシ樹脂のショア硬度Dの上限が88であるという技術的事項を有するものとなった。当該事項は、原査定における引用文献1(当審拒絶理由における引用文献1)、引用文献2(特開2000-114022号公報)、引用文献3(特開2012-054483号公報)、及び引用文献4(特開2015-015364号公報)には記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもないので、本願発明1ないし8は、当業者であっても、原査定における引用文献1ないし4に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する

 
審決日 2021-04-20 
出願番号 特願2016-36275(P2016-36275)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01F)
P 1 8・ 121- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 秋山 直人  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 山本 章裕
赤穂 嘉紀
発明の名称 コア及びリアクトル  
代理人 片桐 貞典  
代理人 木内 加奈子  
代理人 木内 光春  
代理人 大熊 考一  

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