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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F16K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K
管理番号 1373398
審判番号 不服2020-2825  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-02 
確定日 2021-04-22 
事件の表示 特願2016-19810「ソレノイドバルブ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年8月10日出願公開、特開2017-137951〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月4日の出願であって、令和元年6月10日付けの拒絶理由の通知に対し、令和元年8月5日に意見書が提出されたが、令和元年12月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して令和2年3月2日に審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「第1ポートから第2ポートへ流れる作動流体の流量を制御するソレノイドバルブであって、
前記第1ポートと前記第2ポートとの連通開度を変化させる主弁と、
前記第1ポートから作動流体が導かれ、前記主弁を閉弁方向に付勢する制御圧室と、
前記主弁内に形成され、前記制御圧室と前記第2ポートとを連通させる連通路と、
前記制御圧室に開口する前記連通路の開口端に形成される弁座と、
前記弁座に離着座する副弁と、
供給される電流に応じて前記副弁を変位させるソレノイド部と、
を備え、
前記主弁は、前記弁座と同軸上に形成され前記副弁の径方向への移動を規制する規制部を有することを特徴とするソレノイドバルブ。」

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由1(新規性)は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特表2011-511222号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1)「パイロット制御される弁、特にパイロット制御される比例絞り弁であって、
弁ピストン(29)であって、
流体入口(2)と流体出口(1)を有する弁ハウジング(13)内で長手方向に走行可能に案内され、
その後ろ側に作用する流体圧によってその前側(27)がメイン弁座(25)に対して付勢可能である、弁ピストン(29)、と、
パイロット弁装置であって、
電気的に駆動可能な磁気システム(4)によって長手方向に移動可能な操作部材(7)を有し、
前記操作部材が、弁ピストン(29)の孔(31)内のパイロット弁座(33)と協働し、
前記孔が前記弁ピストンの後ろ側をピストン前側における流体出口(1)と接続し、
それによってパイロット弁座(33)が解放された場合に、開放運動のためにピストン(29)の後ろ側における流体圧が崩壊され、パイロット流体の供給によってピストン(29)をその閉鎖位置へ付勢する流体圧を構築するために、ピストン後ろ側とハウジング(13)の流体入口(2)の間に流れ遮蔽装置(39)がもうけられている、パイロット弁装置と、
を有しているものにおいて、
流れ遮蔽装置(39)が、パイロット流体の濾過、好ましくは間隙濾過を実施するための装置(41、45、55、56)を有している、
ことを特徴とするパイロット制御される弁。」([請求項1])
(2)「操作部材(7)が、エネルギ蓄積装置、好ましくはばね配置(9)によって、磁気システム(4)が通電されない場合にパイロット弁座(33)を封鎖する運動のために付勢されており、かつ
磁気システム(4)が通電された場合には、パイロット弁座(33)から引き戻し可能である、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の弁。」([請求項12])
(3)「比例絞り弁は、流体システム内で一般に、体積流を制御するために用いられる。」(段落[0002])
(4)「パイロット弁座に生じる圧力差は、弁座と協働する、操作部材の弁円錐に、この弁円錐を閉鎖位置に保持しようとする合成力を発生させる。」(段落[0004])
(5)「この課題は、本発明によれば、その全体において請求項1の特徴を有する弁によって解決される。(・・・省略・・・)。遮蔽装置が汚れる危険を回避することが、遮蔽孔とパイロット弁座の直径を従来技術に比較してずっと小さく形成する可能性を開く。それによってパイロット体積流が減少することが、高い圧力差が支配する場合でも、かつ制御すべき流体体積流の小さい領域において、弁の細かい制御を可能にする。」(段落[0006]-[0007])
(6)「図1に示す既知のパイロット制御される比例絞り弁の弁座仕様には、電気的に駆動可能な磁気システム4が設けられている。弁を駆動するためのこの種の磁気システムは、従来技術(DE4416279A1)において十分に知られており、その場合に磁気システム4の操作コイル3によって磁気アーマチュア5が駆動可能である。図示の実施形態において、磁気システム4は、通電された状態において磁気アーマチュア5と、それに伴ってそれと結合された操作部材7を、図1を見る視線方向に見て下から上へ移動させる、いわゆる牽引する、ルート制御される比例磁石として形成されている。通電されない状態においては、アーマチュア5とそれに伴って操作部材7は、圧縮ばね9によって形成されるエネルギ蓄積装置を介して下方へ復帰され、すなわち長手軸11に関して、絞り弁の閉鎖位置に相当する軸方向位置へ調節される。」(段落[0021])
(7)「磁気システム4のハウジングは、シールを形成しながら弁ハウジング13と結合されており、その弁ハウジングの、長手軸11に対して同心の、貫通した孔17内へ操作部材7が延びており、その操作部材の先端が尖った端部が、パイロット弁円錐15を形成する。弁ハウジング13内の孔17は、段付きである。磁気システム4に隣接する段部19が、ばね9のための支持部を形成し、そのばねの他方の端部は、操作部材7のカラー21に支持されている。弁ハウジング13の流出端部23(ここに、接続端1と称される、弁の流体出口が位置している)の近傍に、メイン弁座25が形成されており、それが、メイン弁体として機能する弁ピストン29の端部に設けられた、精密制御面27と協働する。弁ピストン29は、図1において見て上方へ向かって、接続端2と称される流体入口に連続する、ハウジング孔17の部分内で長手方向に走行可能に周面を案内されている。弁ピストン29自体は、長手軸11に対して同心の内部孔31を有しており、それが、接続端1へ向いた端部から距離をおいて、パイロット弁座33を形成しながら細くなっており、そのパイロット弁座が、特に図2から明らかなように、操作部材7の端部に設けられたパイロット弁円錐15と協働する。特にこの図から同様に明らかなように、流体接続端2から始まって、弁体29内の遮蔽孔35が、その内部孔31内へ延びており、それによって流体接続端2から流体圧が弁ピストン29のピストン後ろ側に構築可能であって、その流体圧が弁ピストン29を、図1において下方へ向かって閉鎖位置へ付勢し、その閉鎖位置においてその制御面27が、メイン弁座25に添接して閉鎖する。
内部孔31は、図1においてパイロット弁座33の上方に位置する部分において、ガイド部分32を形成し、そのガイド部分が、操作部材7の、ガイドエッジを有するガイドボディ37のための滑りガイドとして用いられる。
接続端2から遮蔽孔35を介して弁ピストン29の内部孔31内へ流入する流体によって、弁ピストン29の後ろ側に圧力を構築することにより、弁ピストン29がその閉鎖位置に保持される。磁気システム4の通電によって操作部材7が引き戻される、それによって弁円錐15がパイロット弁座33から持ち上がると、ピストンの後ろ側に圧力降下が発生するので、接続端2から弁ピストン29に作用する流体圧が、ピストン29の開放運動とそれに伴って接続端1における流体流出をもたらし、その場合にこの流体流に、遮蔽孔35とパイロット弁座33の寸法設計から生じるパイロット流体流が重畳される。」(段落[0022]-[0024])
(8)段落[0023]の「内部孔31は、図1においてパイロット弁座33の上方に位置する部分において、ガイド部分32を形成し、そのガイド部分が、操作部材7の、ガイドエッジを有するガイドボディ37のための滑りガイドとして用いられる。」との記載および図1を参照するに、弁ピストン29のガイド部分32の内周面が、操作部材7のガイドボディ37の外周面を覆うように形成されていることを看取できる。
(9)段落[0022]の「接続端1と称される、弁の流体出口(・・・省略・・・)弁ピストン29自体は、長手軸11に対して同心の内部孔31を有しており、それが、接続端1へ向いた端部から距離をおいて、パイロット弁座33を形成しながら細くなっており」、請求項1の「前記操作部材が、弁ピストン(29)の孔(31)内のパイロット弁座(33)と協働し、前記孔が前記弁ピストンの後ろ側をピストン前側における流体出口(1)と接続」及び段落[0024]の「接続端2から弁ピストン29に作用する流体圧が、ピストン29の開放運動とそれに伴って接続端1における流体流出をもたらし、その場合にこの流体流に、遮蔽孔35とパイロット弁座33の寸法設計から生じるパイロット流体流が重畳」との記載並びに図1及び2を参照するに、前記弁ピストンの後ろ側とピストン前側における流体出口(1)との接続は、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び弁ピストン29前側に形成された孔で形成されると共に、パイロット弁座33の寸法設計から生じるパイロット流体流は、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び弁ピストン29前側に形成された孔を流れることが理解できる。
(10)図2を参照するに、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔は、弁ピストン29の後ろ側に開口し、パイロット弁座33は、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔の開口端に形成されていることを看取できる。
(11)図2を参照するに、「操作部材7」の端部に設けられたパイロット円錐15は、パイロット円錐15の円錐頂点を「パイロット弁座33」に挿入し、パイロット円錐15の円錐側面で「パイロット弁座33」を封鎖するものであることを看取できる。

2 引用発明
したがって、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「接続端2から接続端1に流体流出をもたらし、パイロット制御される比例絞り弁であって、
パイロット制御される前記比例絞り弁には、電気的に駆動可能な磁気システム4が設けられており、磁気システム4で弁を駆動するものであり、
弁ピストン29の開放運動により、前記接続端2から前記接続端1に流体流出する前記弁ピストン29と、
前記接続端2から前記弁ピストン29の内部孔31内へ流入する流体によって、前記弁ピストン29の後ろ側に圧力を構築して前記弁ピストン29を閉鎖位置に保持し、流体圧によって前記弁ピストン29の前側をメイン弁座25に対して付勢する前記弁ピストン29の後ろ側と、
前記弁ピストン29の前記内部孔31に形成され、前記弁ピストン29の後ろ側を前記ピストン29の前側における前記接続端1と接続し、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び前記弁ピストン29前側に形成された孔と、
前記パイロット弁座33の寸法設計から生じるパイロット流体流は、前記パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び前記弁ピストン29前側に形成された孔を流れ、
パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔は、弁ピストン29の後ろ側に開口し、パイロット弁座33は、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔の開口端に形成されていること、
前記パイロット弁座33を開放又は封鎖する操作部材7と、
前記磁気システム4が通電された場合に前記磁気アーマチュア5に結合した前記操作部材7を移動させる前記磁気システム4と、
を備え、
通電されていない状態において前記操作部材7は、長手軸11に関して絞り弁の閉鎖位置に相当する軸方向位置に調節されるものであり、
前記弁ピストン29は、前記長手軸11に対して同心の前記内部孔31を有し、前記弁ピストン29の前記内部孔31は、前記操作部材7のガイドエッジを有するガイドボディ37のための滑りガイドとして、ガイド部分32を有する比例絞り弁。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「接続端2」、「接続端1」、「接続端2から接続端1に流体流出をもたらし、パイロット制御される」こと、「弁ピストン29」及び「操作部材7」は、それぞれ本願発明の「第1ポート」、「第2ポート」、「第1ポートから第2ポートへ流れる作動流体の流量を制御する」こと、「主弁」及び「副弁」に相当する。
引用発明の「弁ピストン29の開放運動により、前記接続端2から前記接続端1に流体流出する前記弁ピストン29」と本願発明の「前記第1ポートと前記第2ポートとの連通開度を変化させる主弁」は、「前記弁ピストン29」及び「主弁」いずれも流体を弁を介して連通させるものであることから、「前記第1ポートと前記第2ポートとを連通させる主弁」で共通する。
引用発明は、「前記接続端2から前記弁ピストン29の内部孔31内へ流入する流体によって、前記弁ピストン29の後ろ側に圧力を構築」するものであり、「前記接続端2」から流入する「流体」は、「内部孔31内」の「前記弁ピストン29の後ろ側」に導かれる。よって、引用発明の「前記接続端2から前記弁ピストン29の内部孔31内へ流入する流体によって、前記弁ピストン29の後ろ側に圧力を構築」することは、本願発明の「前記第1ポートから作動流体が導かれ」ることに相当する。そして、引用発明が「前記弁ピストン29の後ろ側に圧力を構築して前記弁ピストン29を閉鎖位置に保持し、流体圧によって前記弁ピストン29の前側をメイン弁座25に対して付勢する」ものであり、引用発明は、「前記弁ピストン29」が閉鎖された位置つまり「前記弁ピストン29」が閉弁の位置に保持するよう「前記弁ピストン29の後ろ側」で弁ピストン29を付勢するものである。よって、引用発明の「前記弁ピストン29を閉鎖位置に保持し、流体圧によって前記弁ピストン29の前側をメイン弁座25に対して付勢する」こと及び「前記弁ピストン29の後ろ側」は、それぞれ本願発明の「前記主弁を閉弁方向に付勢する」こと及び「制御圧室」に相当する。以上から、引用発明の「前記接続端2から前記弁ピストン29の内部孔31内へ流入する流体によって、前記弁ピストン29の後ろ側に圧力を構築して前記弁ピストン29を閉鎖位置に保持し、流体圧によって前記弁ピストン29の前側をメイン弁座25に対して付勢する前記弁ピストン29の後ろ側」は、本願発明の「前記第1ポートから作動流体が導かれ、前記主弁を閉弁方向に付勢する制御圧室」に相当する。
引用発明の「前記弁ピストン29の前記内部孔31に形成され」ることは、本願発明の「前記主弁内に形成され」ることに相当する。また、引用発明は、「パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び前記弁ピストン29前側に形成された孔」により、「前記パイロット弁座33の寸法設計から生じるパイロット流体流」が流れるものであることから、「パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び前記弁ピストン29前側に形成された孔」は、「弁ピストン29の後ろ側」と「接続端1」とをパイロット流体流が流れるよう連通するものである。よって、引用発明の「前記弁ピストン29の後ろ側を前記ピストン29の前側における前記接続端1と接続し」「前記パイロット弁座33の寸法設計から生じるパイロット流体流は、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び弁ピストン29前側に形成された孔を流れ」ることは、本願発明の「前記制御圧室と前記第2ポートとを連通させる」ことに相当する。また、引用発明の「パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び弁ピストン29前側に形成された孔」は、本願発明の「連通路」に相当する。したがって、引用発明の「前記弁ピストン29の前記内部孔31に形成され、前記弁ピストン29の後ろ側を前記ピストン29の前側における前記接続端1と接続し、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び前記弁ピストン29前側に形成された孔と、前記パイロット弁座33の寸法設計から生じるパイロット流体流は、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び弁ピストン29前側に形成された孔を流れ」ることは、本願発明の「前記主弁内に形成され、前記制御圧室と前記第2ポートとを連通させる連通路」に相当する。
上記したとおり、引用発明の「パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔及び弁ピストン29前側に形成された孔」が、本願発明の「連通路」に相当することから、引用発明の「パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔は、弁ピストン29の後ろ側に開口」することは、本願発明の「前記制御圧室に開口する前記連通路」に相当する。そして、引用発明の「パイロット弁座33は、パイロット弁座33を形成しながら細くなった孔の開口端に形成されていること」は、本願発明の「前記連通路の開口端に形成される弁座」に相当する。
引用発明の「前記パイロット弁座33を開放又は封鎖する操作部材7」に関し、「前記パイロット弁座33」が「開放」された状態は、「操作部材7」が「前記パイロット弁座33」から離れた状態であり、また、「前記パイロット弁座33」が「封鎖」された状態は、「操作部材7」が「前記パイロット弁座33」に着座した状態であることから、引用発明の「前記パイロット弁座33を開放又は封鎖する」ことは、本願発明の「前記弁座に離着座する」ことに相当する。
「ソレノイド」とは、一般に「1.コイル内に磁界を作るための絶縁巻線でつくった電流励起型コイル.2.可動鉄芯を取巻くコイル.電流を流すと鉄芯をコイルの真中部分に引張る.」[マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版 株式会社日刊工業新聞社]を意味するものである。引用発明の「磁気システム4」は、その「操作コイル3」によって「操作部材7」を移動させるものであることから、引用発明の「磁気システム4が通電された場合に前記磁気アーマチュア5に結合した前記操作部材7を移動させる磁気システム4」は、本願発明の「供給される電流に応じて前記副弁を変位させるソレノイド部」に相当する。そして、「ソレノイドバルブ」とは、「電磁弁」のことであり、一般に「電磁石(ソレノイド)によって操作される切換弁を電磁弁という」[新版油空圧便覧 株式会社オーム社]。引用発明の「比例絞り弁」は、「電気的に駆動可能な磁気システム4が設けられており、磁気システム4で弁を駆動するもの」であることから、引用発明の「比例絞り弁であって、パイロット制御される前記比例絞り弁には、電気的に駆動可能な磁気システム4が設けられており、磁気システム4で弁を駆動するもの」は、本願発明の「ソレノイドバルブ」に相当する。
以上から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
1 一致点
「第1ポートから第2ポートへ流れる作動流体の流量を制御するソレノイドバルブであって、
前記第1ポートと前記第2ポートとを連通させる主弁と、
前記第1ポートから作動流体が導かれ、前記主弁を閉弁方向に付勢する制御圧室と、
前記主弁内に形成され、前記制御圧室と前記第2ポートとを連通させる連通路と、
前記制御圧室に開口する前記連通路の開口端に形成される弁座と、
前記弁座に離着座する副弁と、
供給される電流に応じて前記副弁を変位させるソレノイド部と、
を備える、ソレノイドバルブ。」
2 相違点
本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
(1)相違点1
第1ポートと第2ポートとを連通させる主弁に関し、本願発明が「前記第1ポートと前記第2ポートとの連通開度を変化させる主弁」であるのに対し、引用発明は、「弁ピストン29」が「接続端2」と「接続端1」との連通開度を変化させるものであるか否か不明な点。
(2)相違点2
本願発明が「前記主弁は、前記弁座と同軸上に形成され前記副弁の径方向への移動を規制する規制部を有する」ものであるのに対し、引用発明は、「通電されていない状態において前記操作部材7は、長手軸11に関して絞り弁の閉鎖位置に相当する軸方向位置に調節されるものであり、前記弁ピストン29は、前記長手軸11に対して同心の前記内部孔31を有し、前記弁ピストン29の前記内部孔31は、前記操作部材7のガイドエッジを有するガイドボディ37のための滑りガイドとして、ガイド部分32を有する」ものの、引用発明の「ガイド部分32」が「操作部材7」の径方向への移動を規制するのか不明であり、また、「ガイド部分32」が「パイロット弁座33」と同軸上に形成されているか否か不明な点。

第6 判断
1 相違点について
(1)相違点1について考察する。
上記第4の1(3)及び(5)に記述したとおり、引用文献1には、「比例絞り弁は、流体システム内で一般に、体積流を制御するために用いられる。」段落[0002])及び「この課題は、本発明によれば、その全体において請求項1の特徴を有する弁によって解決される。(・・・省略・・・)。遮蔽装置が汚れる危険を回避することが、遮蔽孔とパイロット弁座の直径を従来技術に比較してずっと小さく形成する可能性を開く。それによってパイロット体積流が減少することが、高い圧力差が支配する場合でも、かつ制御すべき流体体積流の小さい領域において、弁の細かい制御を可能にする。」(段落[0006]-[0007])と記載されている。引用発明の「パイロット制御される比例絞り弁」において、「接続端2」から「接続端1」への流体流出は、「弁ピストン29」の開放運動に伴ってもたらされるものであって、「接続端2」から「接続端1」への流体流出の体積流の制御は、「弁ピストン29」の開放する量を変化させることでなされるものである。
以上から、引用発明も、「弁ピストン29」は、「弁ピストン29」の開放する量を変化させることで、「接続端2」と「接続端1」との連通開度を変化させるものであって、上記相違点1は実質的なものではなく、引用発明の「弁ピストン29の開放運動により、前記接続端2から前記接続端1に流体流出する前記弁ピストン29」は、本願発明の「前記第1ポートと前記第2ポートとの連通開度を変化させる主弁」に相当する。
(2)相違点2について考察する。
引用発明の「操作部材7」は、「パイロット弁座33」を開放又は封鎖するべく軸方向に運動するものである。引用発明において「操作部材7」の軸方向運動は、「操作部材7」のガイドボディ37と「弁ピストン29」に設けられた「ガイド部分32」とによって滑りガイドされる。上記第4の1(8)に記述したとおり、引用発明の「弁ピストン29」の「ガイド部分32」の内周面は、「操作部材7」のガイドボディ37の外周面を覆うように形成されていることから、「操作部材7」の軸方向運動の構成は、「操作部材7」のガイドボディ37の外周面と「ガイド部分32」の内周面とで滑りガイドされる構造からなることを把握できる。「操作部材7」のガイドボディ37の外周面と「ガイド部分32」の内周面とで滑りガイドする当該構造は、「操作部材7」の軸方向運動を「滑り」ガイドする以上、「操作部材7」のガイドボディ37の外周面と「ガイド部分32」の内周面とが接触しながら、「操作部材7」のガイドボディ37が「ガイド部分32」に対して移動することは明らかであり、両者が接触しているのであれば、当然「ガイド部分32」は「操作部材7」の径方向への移動を規制することとなる。つまり、引用文献1には、明示的に記載はないが、引用発明の「ガイド部分32」は、「操作部材7」の径方向への移動を規制するものであるといえる。
引用発明は、「通電されていない状態において前記操作部材7は、長手軸11に関して絞り弁の閉鎖位置に相当する軸方向位置に調節されるもの」であることから、「操作部材7」は、「長手軸11」上に形成されたものである。「操作部材7」の軸方向運動を滑りガイドし、かつ、「操作部材7」の径方向への移動を規制する「ガイド部分32」も「長手軸11」上に形成されていることも明らかである。また、「操作部材7」の端部に設けられるパイロット円錐15も、「操作部材7」と同様に「長手軸11」上に形成されたものである。「磁気システム4」が通電されていない状態において、「操作部材7」の端部に設けられたパイロット円錐15により「パイロット弁座33」を封鎖する。上記第4の1(11)に記述したとおり、引用発明は、「パイロット円錐15の円錐側面で「パイロット弁座33」を封鎖する構成であることから、引用発明の「パイロット円錐15」が「パイロット弁座33」を適切に封鎖するように、「長手軸11」上に形成されたパイロット円錐15の中心と「パイロット弁座33」の中心とが同軸上つまり「長手軸11」に形成されて、「ガイド部分32」と「パイロット弁座33」とは、「長手軸11」という同軸上に形成されたものと理解できる。
なお、請求人は、審判請求書の「(3)本願発明と引用文献に記載の発明との対比」において「引用文献1には、パイロット弁座33を基準としてこれと同軸に内部孔31ないしガイド部分32を形成することについては明記されておりませんので、操作部材7の径方向への移動が弁ピストン29によって制限されたとしましても、そのような制限が、操作部材7がパイロット弁座33に対して偏心した状態や操作部材7が傾いた状態でパイロット弁座33に着座することまでを抑制し、操作部材7がパイロット弁座33に着座する際のシール性を向上させるものであると当業者が引用文献1の記載から導き出せるとは思われません。」と主張する。
しかしながら、「第6 判断」で説示したとおり、引用発明は、「弁ピストン29」が「パイロット弁座33」と同軸の「長手軸11」上に形成され「操作部材7」の径方向への移動を規制する「ガイド部分32」を有するものである。引用発明は、本願発明のすべての発明特定事項を備えるものであり、それらの事項により本願発明と同様の作用効果を奏することは明らかであるところ、引用発明の「操作部材7」は、「磁気システム4」が通電されていない状態において、「長手軸11」に関し、「絞り弁」である「弁ピストン29」の閉鎖位置に相当する軸方向位置に調節されるとともに「操作部材7」の端部に設けられたパイロット円錐15により「パイロット弁座33」を封鎖するものである。そして、例えば、「操作部材7」が「パイロット弁座33」に対して偏心した状態や「操作部材7」が傾いた状態で「パイロット弁座33」に着座した状態では、「操作部材7」の端部に設けられたパイロット円錐15により「パイロット弁座33」を封鎖することはできず、引用発明の備える構成により、「操作部材7」が「パイロット弁座33」に着座する際のシール性を向上させる効果を発揮することは明らかであって、請求人の上記主張を採用することはできない。
以上から、引用発明も、「弁ピストン29」は、「パイロット弁座33」と同軸の「長手軸11」上に形成され「操作部材7」の径方向への移動を規制する「ガイド部分32」を有するものであって、上記相違点2は実質的なものでなく、引用発明の「通電されていない状態において前記操作部材7は、長手軸11に関して絞り弁の閉鎖位置に相当する軸方向位置に調節されるものであり、前記弁ピストン29は、前記長手軸11に対して同心の前記内部孔31を有し、前記弁ピストン29の前記内部孔31は、前記操作部材7のガイドエッジを有するガイドボディ37のための滑りガイドとして、ガイド部分32を有する」ことは、本願発明の「前記主弁は、前記弁座と同軸上に形成され前記副弁の径方向への移動を規制する規制部を有すること」に相当する。

第7 むすび
上記のとおりであって、本願発明は、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。本願は、その他の請求項を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-02-10 
結審通知日 2021-02-16 
審決日 2021-03-03 
出願番号 特願2016-19810(P2016-19810)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16K)
P 1 8・ 113- Z (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 所村 陽一  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 岡澤 洋
佐々木 芳枝
発明の名称 ソレノイドバルブ  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  

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