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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1373399
審判番号 不服2020-2972  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-03 
確定日 2021-04-22 
事件の表示 特願2015- 49843「光学シート、及び表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月23日出願公開、特開2016-170271〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2015-49843号(以下、「本件出願」という。)は、平成27年3月12日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年10月16日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月25日提出:意見書、手続補正書
平成31年 4月 4日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月17日提出:意見書、手続補正書
令和 元年11月26日付け:補正の却下の決定
(令和元年6月17日提出の手続補正書でした補正が却下された。)
令和 元年11月26日付け:拒絶査定
令和 2年 3月 3日提出:審判請求書、手続補正書
令和 2年10月16日付け:拒絶理由通知書
令和 2年12月21日提出:意見書、手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1?3に係る発明は、令和2年12月21日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、請求項1?2の記載は以下のとおりである(以下、請求項1の記載を引用する請求項2に係る発明を、「本願発明」という。)。
「 【請求項1】
有機エレクトロルミネッセンスによる発光層を具備する積層体から出射された光を透過する光学シートであって、
前記積層体が配置される側から、円偏光板と、光学機能層と、光を透過する基材層と、をこの順で備え、
前記光学機能層では、前記基材層の一方の面に沿って台形断面を有して延びるとともに、当該延びる方向と異なる方向に間隔を有して配置された光透過部と、隣り合う前記光透過部の間に配置され前記光透過部に沿って延びる光吸収部と、が交互に配列され、
前記光透過部の前記台形断面は、前記発光層側が短い上底、前記発光層とは反対側に長い下底を具備しており、
前記光透過部が配列されるピッチが30μm以上100μm以下であり、
前記光透過部と前記光吸収部との界面を挟んだ前記光透過部と前記光吸収部との屈折率差が0.05以上0.07以下であるとともに、前記光透過部の屈折率の方が前記光吸収部の屈折率よりも大きく、
前記円偏光板と前記光学機能層とは粘着剤で接合されている、
光学シート。
【請求項2】
有機エレクトロルミネッセンスによる発光層を具備する積層体と、
前記積層体の光出射側に配置された請求項1に記載の光学シートと、を備える、表示装置。」

3 当合議体の拒絶の理由
令和2年10月16日付け拒絶理由通知書によって当合議体が通知した拒絶の「理由1(進歩性)」は、本件出願の請求項1?4に係る発明は、本件出願の出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用例1:特開2013-109083号公報
引用例2:特開平9-127885号公報
(当合議体注:引用例1及び引用例2は、主引用例であるとともに副引用例でもある。)

第2 引用例2を主引用例とする理由1(進歩性)についての判断
(1)引用例の記載及び引用発明
ア 引用例2の記載
当合議体の拒絶の理由において引用された、特開平9-127885号公報(以下、「引用例2」という。)は、本件出願の出願前に頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の事項が記載されている(当合議体注:下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断において活用した箇所を示す。)。
(ア) 【特許請求の範囲】
【請求項1】 光出射面側に円偏光手段が設けられている発光素子。
【請求項2】 発光層の光出射面とは反対側に光反射層が形成されている、請求項1に記載した表示素子。
【請求項3】 円偏光手段が直線偏光板と1/4波長板とで構成されている、請求項1に記載した表示素子。
【請求項4】 1/4波長板が、広波長範囲でほぼ1/4波長の位相差が得られるように、複数の複屈折板によって構成されている、請求項3に記載した表示素子。
・・・略・・・
【請求項7】 円偏光手段が素子の光出射側に設けられ、外部からの入射光は通すが、前記入射光がこの素子の内部で反射した反射光を外部へ出さないために遮蔽するようになっている、請求項1に記載した表示素子。
【請求項8】 光学的に透明な基体の上に、第1の電極と発光層と光反射率の高い第2の電極とが積層され、これらが積層された反対側の前記基体の上に円偏光手段が設けられ、電界発光素子として構成された、請求項1に記載した表示素子。
・・・略・・・
【請求項10】 ストライプ状の複数の第1の電極上に、発光層を含む少なくとも一層のストライプ状の複数の有機層と、前記第1の電極に交差したストライプ状の複数の第2の電極とが設けられている、請求項8又は9に記載した表示素子。
【請求項11】 有機電界発光素子又はディスプレイである、請求項10に記載した表示素子。」

(イ) 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表示素子に関し、例えば、自発光の平面型ディスプレイであって、特に、有機薄膜を電界発光層に用いる有機電界発光ディスプレイに好適な表示素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】有機電界発光素子(以下、有機EL素子と称することがある。)は、1μm以下の膜厚であり、電流を注入することにより電気エネルギーを光エネルギーに変換して面状に発光するなど、自発光型の表示デバイスとして理想的な特徴を有している。
【0003】図22は、従来の有機EL素子10の一例を示す。この有機EL素子10は、透明基板(例えばガラス基板)6上に、ITO(Indium tin oxide)透明電極5、ホール輸送層4、発光層3、電子輸送層2、陰極(例えばアルミニウム電極)1を例えば真空蒸着法で順次製膜したものである。
【0004】そして、陽極である透明電極5と陰極1との間に直流電圧7を選択的に印加することによって、透明電極5から注入されたホールがホール輸送層4を経て、また陰極1から注入された電子が電子輸送層2を経て、それぞれ発光層3に到達して電子-ホールの再結合が生じ、ここから所定波長の発光8が生じ、透明基板6の側から観察できる。
・・・略・・・
【0009】こうした有機EL素子を用いた、複数の画素からなる表示デバイスにおいて、発光する有機薄膜層2、3、4は一般に、透明電極5と金属電極1との間に挟まれており、透明電極5側に発光する。
【0010】ところが、有機EL素子では、発光輝度を良好にするために、金属電極1として、Mg、MgAg、MgIn、Al、LiAl等のような光反射率の高い金属を用い、発光光を反射して出射量(発光輝度)を高めることが多い。従って、このような素子構造においては、電界発光していない状態では、光反射性の強いミラーとなっており、外界の景色が写ったり反射があり、また発光した状態でも、コントラストが低下したり、黒色が表現できなくなり、ディスプレイとして用いるには致命的な問題点が生じることがあった。
【0011】このように、従来の有機EL素子では、入射した外部光の素子内部での反射によって画素表示に悪影響が生じ易い。しかしながら、これまでの有機EL素子においては、外部光の反射の問題に対する有効な対策は講じられてはいないのが実情である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記のような実情に鑑みてなされたものであって、素子内部に組み込まれた金属電極等の反射性の大きい反射面による光反射を効果的に防止でき、表示素子としての発光時におけるコントラストの低下等が生じず、十分な発光輝度を確保できる表示素子を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の目的を解決するため鋭意検討を重ねた結果、発光素子としての性能は損なわずに外部光の反射を大幅に減少させることができる反射防止機構を見出し、本発明に到達したものである。
【0014】即ち、本発明は、光出射面側に円偏光手段が設けられている表示素子に係るものである。
【0015】本発明者は、表示素子の光出射面から入射した外部からの光の素子内部での反射を大幅に低下させ、表示画像等のコントラストを著しく改善する上で、光出射面に円偏光手段が設けられることが極めて有効であることを見出したのである。
【0016】なお、上記の「表示素子」とは、有機EL素子等の素子のみならず、これを組み込んだディスプレイ等のデバイスも包含する概念とする(以下、同様)。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明による表示素子は、発光層の光出射面とは反対側に光反射層が形成されている構造からなっていてよい。
【0018】また、円偏光手段が特に、直線偏光板と1/4波長板とで構成されていることが望ましい。
【0019】この場合、1/4波長板が、広波長範囲でほぼ1/4波長の位相差が得られるように、複数の複屈折板によって構成されており、特に1/4波長板が複屈折特性の異なる複数の複屈折板(例えば異なる複屈折板を貼り合わせること)によって構成されていることが望ましい。
・・・略・・・
【0021】本発明の表示素子は、具体的には、円偏光手段が素子の光出射側に設けられ、外部からの入射光は通すが、前記入射光がこの素子の内部で反射した反射光を外部へ出さないために遮蔽するようになっている。
【0022】また、光学的に透明な基体の上に、第1の電極と発光層と光反射率の高い第2の電極とが積層され、これらが積層された反対側の前記基体の上に円偏光手段が設けられ、電界発光素子として構成することができる。
・・・略・・・
【0024】これらの電界発光素子では、ストライプ状の複数の第1の電極(例えばITO透明電極)上に、発光層を含む少なくとも一層のストライプ状の複数の有機層と、前記第1の電極に交差したストライプ状の複数の第2の電極(例えば光反射性の強いAl等の金属電極)とが設けられていることが望ましく、有機電界発光素子(有機EL素子)又はディスプレイに好適である。これは、パッシブマトリクス型(単純マトリクス型)のディスプレイに好適である。
【0025】
【実施例】以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0026】図1?図17は、本発明を有機EL素子に適用した第1の実施例を示すものである。
【0027】図1は、本実施例による有機EL素子40において、発光面である透明基板6側に、1/4波長板23及び直線偏光板11が順次配置された状態の模式図である。
【0028】そして、外部光Lが直線偏光板11及び1/4波長板23によって構成された円偏光手段49を通過し、有機EL素子40の金属電極1の内面で反射されるが、この反射光は円偏光手段49によって遮蔽され、外部光入射側へ戻ることはない。
・・・略・・・
【0035】しかしながら、こうした反射(戻り)防止のための光学系は、光ピックアップ用としては利用されてはいるが、上述した有機EL素子においてはその特殊性の故に、そのままでは適用できないことが判明した。
【0036】即ち、レーザ光のように単色光ではなく、可視光の全域に亘る波長領域においては、・・・略・・・従来の1/4波長板12では単板での使用であるために、・・・略・・・特定の波長でしか(換言すれば特定の波長以外では)1/4波長の位相差が得られない。
【0037】このため、可視光全域に亘って戻り光を遮断することはできず、所望の反射防止効果が得られない。
・・・略・・・
【0038】しかしながら、本発明者は、ほぼ可視光の全域で1/4波長の位相差が得られるような特殊な複屈折板が開発されていることに着目し、これを有機EL素子に巧みに利用することにより、前記した入射光の素子内部での反射による戻り光を効果的かつ十二分に遮蔽できる構造を案出したのである。
【0039】即ち、図1に示すように、直線偏光板11に外部から入射するランダムな偏光成分を有する外部光Lのうち、直線偏光板11の偏光軸11aに合致する縦方向の直線偏光成分のみが直線偏光板11を通過して入射し、この入射した縦方向の直線偏光14は、45度傾斜の複屈折主軸23aを有する1/4波長板23を通過する際に右(又は左)円偏光15に変化し、この右(又は左)円偏光15は有機EL素子40の電極1の内面で反射し、左(又は右)円偏光16となって反射し、再び1/4波長板23を通過時に横方向の直線偏光17に変化し、直線偏光板11により外部への出射を遮られる。
【0040】・・・略・・・本実施例で用いる1/4波長板23は、図1に示す如く、複屈折特性の異なる2枚の複屈折板21と複屈折板22とを貼り合わせて構成されていることが特徴的であり、これにより、ほぼ可視光全域で1/4波長の位相差が得ることができる。
【0041】図2は、図1に模式的に示した有機EL素子40の具体例の要部を示す拡大断面図であり、透明基板6の一方の面上には、ITO透明電極5、ホール輸送層4、発光層3、電子輸送層2及び金属電極1が積層され、また、上記の複屈折板21と複屈折板22とは透明基板6の光出射側に貼り合わされている。
・・・略・・・
【0049】これに対し、複屈折板21と複屈折板22とを図1及び図2に示したように貼り合わせると、図3に曲線24で示すように特異な複屈折率分散特性を得ることができる。即ち、各複屈折板の厚みを変えて位相差を相殺し、1/4波長位相差線(屈折率分散線)25にごく接近した変化曲線を得ることができる。こうした重ね合わせ効果自体は公知ではあるが、本発明者はその効果を有機EL素子にはじめて適用し、非常に有用な結果を実現させたのである。
・・・略・・・
【0053】このことから、図1及び図2のように、可視光の広い波長域で1/4波長の位相差に調節可能な複屈折板21及び22を用いた円偏光手段49を有機EL素子40の発光面に貼り合わせれば、可視光のほぼ全域での光の戻りを阻止することができる。そして、この戻り防止効果は、複屈折板21、22の各厚みdをコントロールして1/4波長の位相差を確実に再現することによって、十分なものとなる。
【0054】有機EL素子において、各層が平坦な膜として作製されることが高性能化には必要であり、その結果、最後に作製される金属電極1はミラーの様に極めて平坦で乱反射が起こらないようにし、そこでの光反射量を十分にしている。しかしながら、このような鏡面がある場合には、外光の反射が生じ易く、また反射による表示への悪影響(コントラストの劣化等)が目立ち易い。しかし、反面、そうした鏡面が存在するため、上記した幾何光学的な解析結果が良く成り立つことになり、円偏光板49による反射防止効果が確実に得られ、有機EL素子にとって極めて有効である。
【0055】次に、本実施例による有機EL素子40を更に詳細に説明する。図5は、上記のように構成された有機EL素子40の概略平面図である。透明基板6の上面にはITO透明電極5が同一パターンでストライプ状に形成され、これらの透明電極5の上にはこれらの電極とマトリクス状に直交してSiO_(2)絶縁膜9が同一パターンでストライプ状に形成されている。そして、絶縁膜9-9間には、ホール輸送層4、発光層3、電子輸送層2、金属電極1がこの順でほぼ同じパターンに積層され、この積層体が絶縁膜9と同一方向にて同一パターンでストライプ状に形成されている。
【0056】このようにマトリクス状に各層が積層された透明基板6の面には、図6に示すように、上記した複屈折板21と複屈折板22とを貼り合わせた1/4波長板23、及び直線偏光板11からなる円偏光手段39が貼り付けられている。その状態を示した図6は、図5のA-A線断面におけるa部の拡大図である。上下の電極の交差部が個々の画素PXである。そして、このa部のB-B線拡大断面図を横断面図として示したのが図7である。
・・・略・・・
【0086】このように、本実施例によれば、複屈折板21と複屈折板22とを貼り合わせた1/4波長板23及び直線偏光板11で構成された円偏光手段49が有機EL素子の透明基板の発光面とは反対側の面上に設けられているため、入射した外部光の有機EL素子内部での反射を大幅に低下させ、可視光域のほぼ全域で反射防止が可能となる。従って、素子の発光状態においても、発光部分と非発光部がはっきりと見分けられ、コントラストが非常に良好であり、発光色の色純度が良くなる。
・・・略・・・
【0122】
【発明の作用効果】本発明は、光出射面に円偏光手段が設けられているので、素子の出射面から入射した外部からの光の素子内部での反射を大幅に減少させることができ、表示画像等のコントラストを著しく改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例による有機EL素子を模式的に示した斜視図である。
【図2】同有機EL素子の要部の拡大断面図である。
・・・略・・・
【図5】同有機EL素子の概略平面図である。
【図6】同図5のA-A線に沿うa部の拡大断面図である。
【図7】同B-B線に沿うa部の拡大断面図である。
・・・略・・・
【符号の説明】
1・・・電極(陰極)
2・・・電子輸送層
3・・・発光層
4・・・ホール輸送層
5・・・透明電極(陽極)
6・・・透明基板
11・・・直線偏光板
11a・・・縦方向偏光軸
12、23・・・1/4波長板
12a、23a・・・45度傾斜偏光軸
13・・・反射面
14・・・縦方向偏光
15・・・右円偏光
16・・・左円偏光
17・・・横方向偏光
21、22・・・複屈折板
23・・・1/4波長板
・・・略・・・
40、50、51・・・有機EL素子
49・・・円偏光手段(円偏光板)
L、BL・・・光
・・・略・・・
PX・・・画素」

(ウ) 「【図1】



(エ) 「【図2】



(オ) 「【図5】



(カ) 「【図6】



(キ) 「【図7】



イ 引用発明
引用例2の【0055】?【0056】及び【0086】には、【図5】(有機EL素子の概略平面図)、【図6】(図5のA-A線に沿うa部の拡大断面図)及び【図7】(同B-B線に沿うa部の拡大断面図)とともに、次の「有機EL素子40」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 透明基板6の上面にITO透明電極5が同一パターンでストライプ状に形成され、これらのITO透明電極5の上にこれらのITO透明電極5とマトリクス状に直交してSiO_(2)絶縁膜9が同一パターンでストライプ状に形成され、SiO_(2)絶縁膜9-9間に、ホール輸送層4、発光層3、電子輸送層2、金属電極1がこの順でほぼ同じパターンに積層され、この積層体がSiO_(2)絶縁膜9と同一方向にて同一パターンでストライプ状に形成されている有機EL素子40であって、
マトリクス状に各層が積層された透明基板6の面に、複屈折板21と複屈折板22とを貼り合わせた1/4波長板23、及び直線偏光板11からなる円偏光手段49が貼り付けられ、
上下の電極の交差部が個々の画素PXであり、
円偏光手段49が有機EL素子40の透明基板6の発光面とは反対側の面上に設けられているため、入射した外部光の有機EL素子40内部での反射を大幅に低下させ、可視光域のほぼ全域で反射防止が可能となり、したがって、素子の発光状態においても、発光部分と非発光部がはっきりと見分けられ、コントラストが非常に良好であり、発光色の色純度が良くなる、有機EL素子40。」
(当合議体注:「ITO透明電極5」、「透明電極5」及び「電極」を、「ITO透明電極5」に統一して記載し、「SiO_(2)絶縁膜」及び「絶縁膜」を、「SiO_(2)絶縁膜」に統一して記載し、「有機EL素子40」及び「有機EL素子」を、「有機EL素子40」に統一して記載し、「透明基板6」及び「透明基板」を、「透明基板6」に統一して記載した。また、図2、図5、図6及び【0122】【符号の説明】の「49・・・円偏光手段(円偏光板)」との記載からみて、【0056】の「円偏光手段39」における「39」は、「49」の誤記と認定した。)

(3) 対比
ア 発光層
引用発明の「有機EL素子40」との名称及びその構造からみて、引用発明の「発光層3」の発光は、有機エレクトロルミネッセンスによるものと理解できる。
そうすると、引用発明の「発光層3」は、本願発明の「有機エレクトロルミネッセンスによる」とされる、「発光層」に相当する。

イ 円偏光板
引用発明の「円偏光手段49」は、「複屈折板21と複屈折板22とを貼り合わせた1/4波長板23、及び直線偏光板11からなる」ものであるから、「板」状のものである。
そうすると、引用発明の「円偏光手段49」は、本願発明の「円偏光板」に相当するといえる。

ウ 積層体、光学シート
(ア) 前記(2)イに記載した構造からみて、引用発明の「有機EL素子40」は、(A)「透明基板6」と、(B)「透明基板6の上面に」「ストライプ状に形成され」た「ITO透明電極5」と、「ITO透明電極5の上にこれらのITO透明電極5とマトリクス状に直交して」「ストライプ状に形成され」た「SiO_(2)絶縁膜9」と、「SiO_(2)絶縁膜9-9間に」、「SiO_(2)絶縁膜9と同一方向にて」「ストライプ状に形成され」た、「ホール輸送層4、発光層3、電子輸送層2、金属電極1」「の順で」「積層され」た「積層体」と、(C)「透明基板6の発光面とは反対側の面上に」「貼り付けられ」た「複屈折板21と複屈折板22とを貼り合わせた1/4波長板23、及び直線偏光板11からなる円偏光手段49」と、からなることが理解される。

(イ) 引用発明の「有機EL素子40」の構造からみて、引用発明の「透明基板6の発光面」とは、「透明基板6」の「発光層3」側の面のことである。また、引用発明の「透明基板6の発光面とは反対側の面」とは、「透明基板6」の「発光層3」側の面とは反対側であり、かつ、「発光層3」から発光された光が出射される面のことである。
してみると、引用発明の「円偏光手段49」は、「透明基板6」の光出射側に配置され、かつ、「透明基板6」から出射された光が通過するものと理解できる。
また、技術常識から、引用発明の「1/4波長板23、及び直線偏光板11からなる円偏光手段49」は、その厚みが薄いものといえるから、「円偏光手段49」は、光学的な機能を有するシートということができる。

(ウ) 上記(ア)と(イ)より、引用発明の「円偏光手段49」(上記(C)の構成)は、本願発明の「光学シート」に相当する。また、引用発明の「有機EL素子40」のうち、「円偏光板49」を除く構成(上記(A)及び(B)からなる部分,以下「有機ELパネル」という。)は、本願発明の「積層体」に相当する。
また、上記アと上記(ア)より、引用発明の「有機ELパネル」は、本願発明の「積層体」の、「発光層を具備する」との要件を具備する。加えて、上記イと上記(イ)より、引用発明の「円偏光手段49」は、本願発明の「光学シート」における、「積層体から出射された光を透過する」及び「前記積層体の光出射側に配置された」との要件を具備する。さらに、上記イより、引用発明の「円偏光手段49」と、本願発明の「光学シート」は、「円偏光板」を備えている点で共通する。

エ 表示装置
(ア) 引用発明は、「上下の電極の交差部が個々の画素PXであり」、「素子の発光状態においても、発光部分と非発光部がはっきりと見分けられ、コントラストが非常に良好であり、発光色の色純度が良くなる」ものである。
そうすると、引用発明の「個々の画素PX」のそれぞれは、表示のための画素を構成していると理解できる。
してみると、引用発明の「有機EL素子40」は、表示「素子」であるということができる。

(イ) 引用発明の構造、上記(ア)及び上記ア?ウからみて、引用発明の「有機EL素子40」と、本願発明の「表示装置」とは、「積層体と」、「光学シートとを、備える」「表示素子」である点で共通する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 有機エレクトロルミネッセンスによる発光層を具備する積層体と、
前記積層体の光出射側に配置された光学シートと、を備える、表示素子であって、
前記光学シートは、
有機エレクトロルミネッセンスによる発光層を具備する積層体から出射された光を透過する光学シートであって、
円偏光板を備えたものである、表示素子。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「光学シート」が、本願発明は、「前記積層体が配置される側から、円偏光板と、光学機能層と、光を透過する基材層と、をこの順で備え」、「前記光学機能層では、前記基材層の一方の面に沿って台形断面を有して延びるとともに、当該延びる方向と異なる方向に間隔を有して配置された光透過部と、隣り合う前記光透過部の間に配置され前記光透過部に沿って延びる光吸収部と、が交互に配列され」、「前記光透過部の前記台形断面は、前記発光層側が短い上底、前記発光層とは反対側に長い下底を具備しており」、「前記光透過部が配列されるピッチが30μm以上100μm以下であり」、「前記光透過部と前記光吸収部との界面を挟んだ前記光透過部と前記光吸収部との屈折率差が0.05以上0.07以下であるとともに、前記光透過部の屈折率の方が前記光吸収部の屈折率よりも大きく」、「前記円偏光板と前記光学機能層とは粘着剤で接合されている」のに対して、引用発明は、そのようなものとなっていない点。

(相違点2)
「表示素子」が、本願発明は、「表示装置」であるのに対して、引用発明は、一応、「表示装置」とはされていない点。

(5) 判断
ア 相違点1について
(ア) カーナビゲーション用表示装置において、光透過部と光吸収部とが交互に配列されたルーバーフィルム(光学シート)を設けて、視野角を制限することは技術常識である(例えば、特開2012-132985号公報を参照。)。

(イ)当合議体の拒絶の理由において引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2013-109083号公報(以下、「引用例1」という。)には、「映像表示に必要な光を透過させるとともに映像表示に不要な光は吸収する光制御機能により映像光の質を高めて、コントラスト向上や視野角調整」が図れる光学シート(【0001】)の実施例1(【0072】?【0079】、【0085】、図3等)として、映像生成部6(プラズマディスプレイパネル)の前面部に粘着剤層5aによって貼り合わせられる光学シート10であって、映像生成部6(プラズマディスプレイパネル)が配置される側から、粘着剤層5aと、光制御層1と、基材層4とをこの順で備え、光制御層1では、基材層4の一方の面に沿って台形断面を有して延びるとともに、当該延びる方向と異なる方向に間隔を有して配置された光透過部1aと、隣り合う前記光透過部1aの間に配置され前記光透過部1aに沿って延びる光吸収部1bと、が交互に配列され、前記光透過部1aの前記台形断面は、映像生成部6側が短い上底、その反対側の視認側に長い下底を具備しており、光透過部1a及び光吸収部1bの配列周期を45μmとし、光透過部1aの屈折率を1.550、光吸収部1bの屈折率を1.540とした、光学シート10が記載されている。
さらに、引用例1の【0032】には、光透過部1aの屈折率na及び光吸収部1bの屈折率nbに関し、「屈折率nbと屈折率naの大きさの関係を調整することで、光吸収部1bと光透過部1aとの界面での光の屈折及び全反射を含む反射の量を調整して、光制御機能を調整することができる」と記載されている。

(ウ) 上記(ア)と(イ)より、引用発明のカーナビゲーション用表示装置への応用を考える当業者は、視野角を制限するために、引用発明(表示素子)の「透明基板6の面に」「貼り付けられ」た「円偏光手段49」上に、ルーバーフィルム(光学シート)として、上記(ア)の引用例1に記載の光学シートを粘着剤層5aにより貼り合わせることをまず考える。
また、当該当業者は、引用例1の【0001】や【0032】の記載に基づき、光制御層1の光吸収部1bと光透過部1aとの界面での光の屈折及び全反射を含む反射の量を調整して、カーナビゲーション用表示装置の「映像表示に必要な光を透過させるとともに映像表示に不要な光は吸収する」光制御機能を調整するために、「屈折率nbと屈折率naの大きさの関係を調整する」ことができると理解する。
そうしてみると、引用例1に記載された上記(ア)の光学シートを参考にして、引用発明の「円偏光手段49」上に、粘着剤層と、光制御層と、基材層とをこの順で備え、光制御層では、基材層の一方の面に沿って台形断面を有して延びるとともに、当該延びる方向と異なる方向に間隔を有して配置された光透過部と、隣り合う前記光透過部の間に配置され前記光透過部に沿って延びる光吸収部と、が交互に配列され、光透過部及び光吸収部の配列周期を45μmとし、前記光透過部の屈折率の方が前記光吸収部の屈折率よりも大きいものとした光学シートを、その光透過部の台形断面が、「有機EL素子40」側が短い上底、その反対側の視認側に長い下底となるように、粘着剤層により貼り合わせた構成として、「有機EL素子40」側から、「円偏光手段49」、「光制御層」、「基材層」をこの順に備え、「光透過部」の「台形断面」は、「発光層3」側が短い上底、「発光層3」とは反対側(視認側)に長い下底を具備した構成とすること、「円偏光手段49」と「光制御層」とが粘着剤で接合されている構成とすることは、引用発明のカーナビゲーション用表示装置への応用を考える当業者が容易になし得たことである。また、当該光透過部と光吸収部との屈折率差(光透過部の屈折率-光吸収部の屈折率)を0.05以上0.07以下とすることは、映像光量と界面での全反射量との関係を知る当業者の設計上の事項である(当合議体注:例えば、特開2012-132985号公報の【0001】?【0003】、【0033】、【0065】、図1等、特開2013-61430号公報の【0001】?【0002】、【0043】、【0065】、図1等、特開2012-32749号公報の【0002】、【0054】等、国際公開第2011/068212号の[0002]?[0003]、[0036]、[0063]、図10等、特開2014-63106号公報の【0001】?【0004】、【0038】、図5等に例示されているように、コントラスト・輝度や視野角を制御する光制御シートにおいて、光透過部と光吸収部との屈折率差((光透過部の屈折率)-(光吸収部の屈折率))として、0.05?0.07の値は普通に採用される値である。)。
そして、引用発明においてこのような設計変更を施してなるものは、上記相違点1に係る本願発明の光学シートを具備するといえる。

イ 相違点2について
引用発明の「有機EL素子40」を有機EL表示装置とすることは、予定されたことにすぎない。

(6) 発明の効果について
本願発明の効果として、本件明細書の【0013】には、「有機エレクトロルミネッセンス積層体に、光透過部と光吸収部とが交互に配列された層を積層しても、当該層の機能を低下させることなく、干渉縞(モアレ)の発生を抑制することができる。」との記載がある。
しかしながら、「干渉縞(モアレ)の発生を抑制」できるとの効果は、当業者が予測可能なことであって格別のものではない(当合議体注:光透過部と光吸収部とを備えた光学シートを表示装置に組み込んだ場合、自己モアレ(光学シート自身の明暗パターンと、表示パネル上の光学シートの(光吸収部の)影とが干渉して干渉縞が生じる現象)が発生することは、技術常識である(例えば、特開2013-61430号公報の【0003】を参照。)。そうすると、上記(5)アの相違点1に係る設計変更を施してなる引用発明においては、「円偏光手段49」により反射光(光学シートの(光吸収部の)影)が防止され、自己モアレが解消できることは、当業者が予測可能なことである。)。

(7) 令和2年12月21日提出の意見書の主張について
請求人は、同意見書の「2.理由について」において、「新請求項1及びこれを引用する他の新請求項に記載の発明(以下に「本発明と記載してます。)では、・・・略・・・光透過部と光吸収部との屈折率差が0.05以上0.07以下です。」、「一方、引用文献1には、その明細書の段落[0076]、及び段落[0078]からわかるように光透過部と光吸収部との屈折率差は0.01となり、本発明より小さいです。」、「引用文献1のように小さい屈折率差では光透過部と光吸収部との界面での全反射の量が少ないため干渉する光が少なくなることからモアレの発生を抑制できますが、光吸収部での光の吸収量が大きくなり光の利用効率が低下します。」、「これに対して本発明では、当該屈折率が大きいため光吸収部での光の吸収を小さく抑えて光の利用効率を高めることができ、それにも関わらずモアレの発生を抑制できることが可能となります。」、「引用文献2にもこのような記載はありません。」、「以上のように、本発明によれば挙げられた引用文献とは異なる構成を備え、これにより上記したような効果を奏するため、本発明は当業者が容易に想到することができた発明ではなく、拒絶理由は解消したと思料いたします。」と主張する。
しかしながら、引用文献1の【0032】に記載のとおり、光吸収部の屈折率と、光透過部の屈折率の大きさの関係は、光吸収部と光透過部との界面での屈折や全反射を含む反射の量を調整して、光制御機能を調整するための調整パラメータであること、(光透過部の屈折率-光吸収部の屈折率)を0.05?0.07とすることが当業者の設計上の事項であることは、上記(5)アで述べたとおりである。そして、上記(5)アで述べた上記相違点1に係る設計変更を施した引用発明において、自己モアレが解消できることも、上記(6)で述べたとおり当業者が予測可能な効果である。
してみると、同意見書の請求人の主張を採用することはできない。

(8) 審判請求書の主張について
請求人は、審判請求書において、「本発明は、・・・略・・・表1のように『モアレ』、『2重像』、及び『端部品質』について、いずれも良好であるものとすることができます。」、「これに対して、挙げられた引用文献には、本発明に規定した構造の光学シートを規定した順で配置したものはなく、また、『モアレ』、『2重像』、及び『端部品質』についていずれも良好とするために、どのようなシートをどのような順で積層することが良いかについて記載も示唆もありません。」、「いわゆる光学シートを構成する各層は、多岐にわたるものであり、目的に応じて各層をどのように構成し、また、これら層をどのように積層して組み合わせるかについて、容易に想到することができるものではありません。」と主張する。
しかしながら、引用例1に記載された技術を参考に、引用発明において、「有機EL素子40」が配置された側から、「円偏光板49」、「光制御層」、「基材層」をこの順に配置した(光学シート)構成とすることが、当業者が容易になし得たものであることは、上記(5)アにおいて既に述べたとおりである。また、「モアレ」の抑制についても、上記(6)で述べたとおりである。
さらに、「2重像」と「端部品質」が良好であるとの作用・効果についても、上記(5)アで述べた上記設計変更を施した引用発明が奏する効果であるか、あるいは、当業者が予測可能な効果であって、格別のものとは認められない(当合議体注:例えば、「2重像」の抑制について、「2重像」の発生機序が、仮に、国際公開第2012/063700号の[0065]、[図5]に記載の機序によるものであれば、[0067]に記載されたように、光学シート(光制御層等)と発光層との距離([図5]「D」)により、2重像の発生を抑制できることは、当業者であれば予測可能である。)。
してみると、審判請求書の請求人の主張を採用することはできない。

第3 むすび
本願発明は、引用例2に記載された発明及び引用例1に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-02-10 
結審通知日 2021-02-16 
審決日 2021-03-04 
出願番号 特願2015-49843(P2015-49843)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 草野 顕子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 福村 拓
河原 正
発明の名称 光学シート、及び表示装置  
代理人 山本 典輝  

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