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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1373406
審判番号 不服2020-9072  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-30 
確定日 2021-04-22 
事件の表示 特願2017-537560「半導体装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 9日国際公開、WO2017/038110〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は2016年(平成28年)2月9日(優先権主張2015年8月28日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年11月30日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月11日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年 6月21日付け:拒絶理由通知書
令和 1年10月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 3月24日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 2年 6月30日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和1年10月23日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
溝部を有する絶縁層を基板上に形成する絶縁層形成工程と、
前記溝部を埋めるように前記絶縁層上に銅層を形成する銅層形成工程と、
前記溝部内の銅層部分を残し、前記絶縁層上の前記銅層を前記絶縁層の一部を含めてフライカット法により除去する除去工程と、を備え、
前記絶縁層形成工程では、前記絶縁層に前記溝部を形成した後であって前記銅層形成工程前に、前記絶縁層を加熱硬化する、
半導体装置の製造方法。」

第3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-3
・引用文献等 7、8、10、11

・請求項 4-7
・引用文献等 5、7-11

・請求項 8-9
・引用文献等 1、5-11

<引用文献等一覧>
1.特開2003-204140号公報(周知技術を示す文献)
2.特表2010-532090号公報
3.特開2012-190858号公報
4.特開平8-222834号公報
5.特開2012-227302号公報
6.特開2011-119502号公報(周知技術を示す文献)
7.特開2012-60100号公報
8.特開平7-170069号公報
9.特開2007-314866号公報
10.特開2002-246744号公報(周知技術を示す文献)
11.特開2014-236190号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献、引用発明

1.原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7(特開2012-60100号公報)には、「ウエハレベルパッケージ構造およびその製造方法」について、図面ともに以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した。

ア.「【0001】
本発明はウエハレベルパッケージ構造およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体を用いた回路システムに対しては、小型化の要求が非常に高まっている。このような要求を満たすため、半導体回路はそのチップサイズに近いパッケージ(CSP)に実装されることがある。
【0003】
CSPを実現する方法の一つとして、ウエハレベルパッケージ(WLP)と呼ばれるパッケージ方法が知られている。WLPの一例は、ダイシングにより個片化する前のシリコンウエハに対して外部電極などを形成する方法であり、ダイシングによる個片化は、外部電極などを形成した後に行われる。WLPを用いれば、多数の半導体チップに対して再配線パターンおよび外部端子電極(第二電極)などの形成を同時に行うことができるため、生産性を高めることができると期待されている。よって、WLPは半導体装置である。」

イ.「【0016】
上記の第1の樹脂は、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂またはユレア樹脂を主成分とするとよい。例えば、ダイヤモンド製のバイトなどの切削刃による切削は、切削時の局部発熱で塑性変形を起こさない熱硬化樹脂が望ましい。切削刃の切れ味を良くするためには、適度な弾性率を持ち、応力歪曲線における破断強度が比較的低い樹脂が良好と考えられるからである。例えば、応力に対する歪みは数%以下が好ましく、クレーズ(Craze)が生じにくい、切削刃の絡み付きの少ない材料とするべきだからである。上述の樹脂はいずれも、例えば弾性率が2?4GPaを示す程度に固く伸びが少ないπ型環状基を含有している。
【0017】
またこれらの樹脂は、固くて伸びが少ない特性を有することから、これらの樹脂が切削される際、一緒に切断される隣接する金属との間に、隙間が生じにくい。そのため樹脂が歪むことにより配線を形成する金属が歪むことが防止されるという顕著な効果を有する。
【0018】
上記の基板は、少なくともその表面の一部にパッシベーション膜を有し、パッシベーション膜が第1の樹脂と接するとよい。パッシベーション膜と第1の樹脂とが接することによって第1の樹脂の密着性(接着力)が向上し、切削性能が、より向上するからである。
【0019】
パッシベーション膜は、ポリイミド樹脂を主成分とするとよい。パッシベーション膜に接する第1の樹脂として用いられるフェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、またはユレア樹脂は、ポリイミド樹脂に接着する感光性樹脂であり、接着力が強く、切削しやすい性能を有するからである。」

ウ.「【0054】
次に、本実施形態によるウエハレベルパッケージの第1の実施形態の製造方法について説明する。
【0055】
図5?図16は、本実施形態によるウエハレベルパッケージの第1の実施形態の製造方法を説明するための工程図である。図5乃至図10は、図2における左側に示す複数のチップ取り出し電極2がY軸方向に展開されている場所の断面図に相当する。図11乃至図16は、図2における左側に示すいずれか一つのチップ取り出し電極2及び配線層21並びに半田ボール(外部端子電極)9のX軸方向の断面図に相当する。
【0056】
まず、前工程が完了した基板1を用意し、図5に示すように、その表面を絶縁性の優れた樹脂6で覆う(樹脂塗布工程)。樹脂塗布膜の厚さはとくに限定するものではないが5μmから30μm程度がのぞましい。本願発明の特徴の一つである樹脂6の材料については、後述する。
【0057】
次に配線層21(図1)を形成すべき領域の部分が図8に示す溝201となるように樹脂6を除去する(溝形成工程)。樹脂の除去は、例えばフォトリソグラフィー法によって行われるため、溝幅(再配線幅)は10μm以下の微細な加工が可能となる。工程としては図6に示すように、樹脂6に溝を形成する部分を開口部203としたマスク200を樹脂6の上方から被せ、図7に示すように開口部203を通して感光用の光202を照射し、溝201となる部分の樹脂6を感光させた樹脂6aとする。
【0058】
次にマスクを剥離し(リフトオフ工程)、キュアをかけた後、感光された樹脂6aを洗浄により除去する(現像工程)ことにより溝201を形成する(図8)。」

エ.「【0060】
このようにして配線層21を形成すべき領域の部分の溝201を形成し、次に図9に示すように、マスクを使用せず基板1全面にバリア金属材料4及びアルミニュウム5をPVD法によりこの順に被着させる(成膜工程)。ここで溝201の内部に被着したバリア金属材料4bとアルミニュウム5bがこの後の工程を経て第1の配線層21を形成することになる。
【0061】
なお、アルミニュウム5は銅(Cu)であっても問題はなく、銅(Cu)とした場合はPVD法によらずメッキ法によって積層すること可能である。銅(Cu)を積層とした場合はPVD法、メッキ法のどちらかの製法を選択することが可能である。」

オ.「【0062】
第1の配線層21となる成膜を被着した後は、切削刃によって成膜した表面から基板1の表面に対して平行に切削し、樹脂によって形成された溝201の内部にのみ配線層21が残るよう4uと5u部分を除去する(研削工程)。これによって配線21が完成する(図10、図11参照)。なお、研削工程において樹脂6の一部が切削されてもなんら問題はない。基板1の表面(または裏面)から切削刃までの位置(高さ)について、切削ライン(走査ライン)が、バリア金属材料4の存在しない位置(高さ)であることが、最も望ましい。詳細は後述する。」

カ.「【0071】
本方法ではまず、かかる基板450の表面に凹凸形状の絶縁性の第1の樹脂452を形成する樹脂形成工程400(図17)を行う。樹脂形成工程400では、例えば図18(a)に示すように、基板450の表面に第1の樹脂452を塗布する。第1の樹脂452は、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂またはユレア樹脂を主成分としてよい。
【0072】
次に図18(b)?(c)に示すように、第1の樹脂452の一部(内部端子電極442の位置)をフォトリソグラフィー法によって除去して、残存する第1の樹脂452Aの間に溝454を形成する。溝454を形成する際には、フォトマスク(図示省略)を介して紫外線を照射することにより、露光された部分452と未露光の第1の樹脂452Aとが出来上がる(図18(b))。これを現像液に浸けて露光された部分452を除去すると、図18(c)に示すように、残存する第1の樹脂452Aの間に溝454が形成される。第1の樹脂452Aは「凸」に相当し、溝454は「凹」に相当する。基板450を視点とすれば、第1の樹脂452が有する「凹」は、溝であり孔でもある。これは、図2及び図4が示す配線層21を絶縁する材である樹脂6の形状から当然に理解できることである。尚、第1の樹脂452は、樹脂6と同じである。」











2.引用文献7の上記記載及び図面から、次のことがいえる。
(1)上記ウ及び図8には、ウエハレベルパッケージの製造方法として、基板1を用意し、その表面を絶縁性の優れた樹脂6で覆う樹脂塗布工程と、配線層21を形成すべき領域の部分が溝201となるように樹脂6を除去する溝形成工程が記載されている。
(2)【0061】に「アルミニュウム5は銅(Cu)であっても問題はなく」と記載されており、アルミニュウム5に代えて銅を用いた技術に着目すると、上記エには、基板1全面に銅を被着させる成膜工程が記載されている。
また、図9によれば、溝201を埋めるように樹脂6上に銅を被着させる構成が見てとれる。
よって、上記エ及び図9によれば、溝201を埋めるように樹脂6および基板1全面に銅を被着させる成膜工程が示されている。
(3)アルミニュウム5に代えて銅を用いた技術に着目すると、上記オの「5u部分」は銅である。また、上記オには、研削工程において樹脂6の一部を切削することについて記載されている。
よって、上記オには、切削刃によって成膜した表面から基板1の表面に対して平行に切削し、樹脂によって形成された溝201の内部にのみ配線層21が残るよう銅と樹脂6の一部を除去する研削工程が記載されている。
(4)上記カによれば、樹脂6は、第1の樹脂452と同じであるから、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂またはユレア樹脂を主成分とするものである。また、上記イによれば、これらの樹脂は、熱硬化樹脂であり、かつ、感光性樹脂である。
よって、上記イ及びカによれば、樹脂6は、熱硬化樹脂であり、かつ、感光性樹脂であることが記載されている。
(5)上記アによれば、ウエハレベルパッケージは半導体装置である。

3.上記(1)ないし(5)によれば、引用文献7には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「基板1を用意し、その表面を絶縁性の優れた樹脂6で覆う樹脂塗布工程と、
配線層21を形成すべき領域の部分が溝201となるように樹脂6を除去する溝形成工程と、
溝201を埋めるように樹脂6および基板1全面に銅を被着させる成膜工程と、
切削刃によって成膜した表面から基板1の表面に対して平行に切削し、樹脂によって形成された溝201の内部にのみ配線層21が残るよう銅と樹脂6の一部を除去する研削工程と、を備え、
樹脂6は、熱硬化樹脂であり、かつ、感光性樹脂である、
半導体装置であるウエハレベルパッケージの製造方法。」

4.原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8(特開平7-170069号公報)には、図面とともに以下の図面ともに以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した。

ア.「【0029】該バイア部位28をその後銅層30でめっきし、バイア31を形成する。銅層30のめっきはバイア31の上部がフォトレジスト層26の上部表面33と同じかほんの少し低くなるように調整する。ここでも、電気めっき後の姿(すなわち層30)がフォトレジストの表面をマッシュルーム状に覆わないように注意する。図6参照。」

イ.「【0033】(a)アセンブリ(プラットホーム、バイア、トレース、フルオロポリマー層)を成型機中に置き、成型機を閉め、熱がかけられるように低圧(約100psi)をかけ、(b)温度を700°Fまで徐々に上げ、(c)圧力を1700psiまで上げ、(d)700°Fおよび1700psiで1時間均熱し、(e)1700psiに保ちながら、温度を400°Fまで下げ、(f)400°Fにおいて、圧力を100psiまで下げ、(g)100psiで100°F未満(または室温)まで冷却し、(h)アセンブリーを成型機から除く。【0034】ラミネートしたアセンブリー(図8参照)を成型機から除いた後に、銅の離脱層36をエッチングによって除く。プラットホーム10を、例えばフォトレジストでコートすることによってこのエッチングの間保護し、エッチングステップの後にフォトレジストを除く。」

ウ.「【0035】次に、アセンブリーの上の表面をフライカットによって平坦化し、(a)プラットホーム10の上の表面との一般的な平坦性(すなわち、平行性)を確保し、かつ、(b)バイア31が露出され、かつ、ラミネートされたフルオロポリマー層34の露出された上部表面38と互いに一般的に共平坦化された該アセンブリの上部表面38を得る。図9参照。」

上記イ及びウによれば、引用文献8には、プラットホーム、バイア、トレース、フルオロポリマー層を含むアセンブリーの上の表面をフライカットによって平坦化する技術が記載されている。
また、フルオロポリマーは樹脂であり、上記アによれば、バイアは銅である。
そして、引用文献8は、バイアおよびフルオロポリマー層を含むアセンブリーの上の表面をフライカットにより平坦化していることから、銅であるバイアと樹脂であるフルオロポリマー層を、フライカットによって除去しているものと解される。
したがって、引用文献8には、「銅であるバイアと樹脂であるフルオロポリマー層をフライカットによって除去する技術」が記載されている。

5.原査定の拒絶の理由に引用された引用文献10(特開2002-246744号公報)には、図面とともに以下の図面ともに以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した。

「【0017】まず図1(a)に示すように、絶縁基板11上に、導体パターンに対応する凹部12aが形成された絶縁材料からなる導体パターン形成用絶縁層12を形成する。絶縁基板11自身に、あらかじめ所定の回路(パッド・配線・ビアホールなど)が形成されていてもよい。導体パターン形成用絶縁層12の材料には、上記一般式(I)で表されるフルオレン骨格を有するエポキシアクリレートを主原料とする感光性樹脂が用いられる。このフルオレン骨格を有するエポキシアクリレートを主原料とした感光性樹脂は、特開平7-48424号公報において光学用としての用途が開示されている。尚これ以降、フルオレン骨格を有するエポキシアクリレートを主原料とする感光性樹脂をフルオレン樹脂と記載する。導体パターン形成用絶縁層12の形成方法は、フレオン樹脂をスピンコート法、ダイコート法、カーテンコート法、印刷法等で塗布し、乾燥等の処理を施してかためた後、フォトリソプロセスで所定形状のパターンを形成し、ドライエッチングなどを用いて凹部12aを形成する。」
「【0021】(第1実施例)本発明の第1実施例を図面を参照して説明する。第1実施例は第1実施の形態に対応するものである。図1を参照して、第1実施例である導体形成方法を説明する。絶縁基板11としてガラス繊維強化有機基板(FR-5)を用い、表面を清浄化した。導体パターン形成用絶縁層12としては、ネガ型のフルオレン樹脂である新日鐵化学株式会社製のV-259PAを用いた。このネガ型フルオレン樹脂を、絶縁基板11上にスピンコータ法により膜厚10μmで塗布し、熱対流式乾燥機で乾燥を施し、フォトリソプロセスである露光、現像を行って、得ようとする導体パターンに対応する凹部12aを形成し、熱処理を施して硬化させて導体パターン形成用絶縁層12を形成した。
【0022】その後、導体パターン形成用絶縁層12が形成されている基板11の表面全面に、給電層13として、スパッタ法により膜厚80nmのTiW膜と膜厚200nmのCu膜を順次形成して積層させた。次いで、給電層13を用いて、メルテックス株式会社製の周期的逆電流パルス銅めっき(添加剤:カパーグリームPPR、ブライトナー:PPR-AM、キャリアー:PPR-CM)を行った。操作条件は、電流密度比を正方向:逆方向=1:3、通電時間として正方向:逆方向=10/0.5(msec)とし、凹部12aが埋まり込む厚さ10μmの電解めっき層14を形成した。」

上記記載から、引用文献10には、「感光性樹脂であるネガ型フルオレン樹脂を絶縁基板上に塗布し、導体パターンに対応する凹部12aを形成し、熱処理を施して硬化させて導体パターン形成用絶縁層12を形成し、その後、導体パターン形成用絶縁層12が形成されている基板11の表面全面に、Cu膜を順次形成して積層させる技術」が記載されている。

6.原査定の拒絶の理由に引用された引用文献11(特開2014-236190号公報)には、図面とともに以下の図面ともに以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した。

「【0004】
次に、図1(b)に示すように、感光性絶縁樹脂材料920aにより、開口部921を有する絶縁層920を形成する。具体的には、露光装置等により、開口部921が形成される領域に光を照射することにより露光し、現像した後、キュアを行うことにより、開口部921を有する絶縁層920を形成する。感光性絶縁樹脂材料920aは、光の照射された領域が、現像液に溶ける材料が用いられている。従って、開口部921が形成される領域における感光性絶縁樹脂材料920aに、露光により光を照射した後、現像することにより、光が照射された領域における感光性絶縁樹脂材料920aを除去することができる。この後、残存している感光性絶縁樹脂材料920aをキュアにより硬化させることにより、絶縁層920を形成することができる。形成される開口部921は、ビアまたはトレンチであり、絶縁層920を貫通しており、Cuプラグ915が形成されている領域の上にも形成される。露光装置等による露光において、例えば、ステッパーを用いる場合には、開口部921が形成される領域に対応した領域において光が透過するレチクルが用いられる。尚、感光性絶縁樹脂材料のキュアは、キュア温度が約200℃、キュア時間が1時間の条件で行われる。
【0005】
次に、図2(a)に示すように、開口部921及び絶縁層920の上に、バリアメタル層930及びメッキシード層931を形成する。具体的には、スパッタリングにより、絶縁層920等の上に、膜厚が約100nmのTi膜を成膜することによりバリアメタル層930を形成し、バリアメタル層930の上に、膜厚が約100nmのCu膜を成膜することによりメッキシード層931を形成する。尚、メッキシード層931は、Cuの無電解メッキにより形成してもよい。
【0006】
次に、図2(b)に示すように、メッキシード層931の上に、Cuの電解メッキにより、厚さが約7μmのCuメッキ層932を形成する。」

上記記載から、引用文献11には、「感光性絶縁樹脂材料920aにより、開口部921を有する絶縁層920を形成し、この後、残存している感光性絶縁樹脂材料920aをキュアにより硬化させることにより、絶縁層920を形成し、次に、Cuメッキ層932を形成する技術」が記載されている。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1.引用発明の「樹脂6」は、絶縁性に優れたものであり、また、基板1の表面を覆うことによって基板上に層を形成するものといえるから、本願発明の「絶縁層」に相当する。
また、引用発明は、溝形成工程において、配線層21を形成すべき領域の部分が溝201となるように樹脂6を除去することから、該溝形成工程後の「樹脂6」は、本願発明の「溝部を有する絶縁層」に相当する。
よって、引用発明の「基板1を用意し、その表面を絶縁性の優れた樹脂6で覆う樹脂塗布工程と、配線層21を形成すべき領域の部分が溝201となるように樹脂6を除去する溝形成工程」は、本願発明の「溝部を有する絶縁層を基板上に形成する絶縁層形成工程」に相当する。
2.引用発明の「成膜工程」において、樹脂6および基板1全面に被着させた銅は、樹脂6上に銅による層を形成するものといえる。
よって、引用発明の「溝201を埋めるように樹脂6および基板1全面に銅を被着させる成膜工程」は、本願発明の「前記溝部を埋めるように前記絶縁層上に銅層を形成する銅層形成工程」に相当する。
3.引用発明の「溝201の内部にのみ配線層21が残るよう銅と樹脂6の一部を除去する研削工程」は、本願発明の「前記溝部内の銅層部分を残し、前記絶縁層上の前記銅層を前記絶縁層の一部を含めて」「除去する除去工程」に相当する。
また、本願発明の「フライカット法」は、本願の発明の詳細な説明の【0049】に、「フライカット法では、例えばダイヤモンドバイトによる研削装置を使用する。」とあるから、ダイヤモンドバイトという切削刃を用いた研削方法と認められる。
よって、引用発明の「切削刃によって」「除去する」研削の方法と、本願発明の「フライカット方法」は、ともに、切削刃を用いる研削方法である点で共通する。
したがって、引用発明の「切削刃によって成膜した表面から基板1の表面に対して平行に切削し、樹脂によって形成された溝201の内部にのみ配線層21が残るよう銅と樹脂6の一部を除去する研削工程」と本願発明とは、「前記溝部内の銅層部分を残し、前記絶縁層上の前記銅層を前記絶縁層の一部を含めて切削刃を用いる研削方法により除去する除去工程」の点で共通する。
ただし、本願発明では、上記「切削刃を用いる研削方法」が、「フライカット法」であるのに対し、引用発明にはその旨の特定がない点で相違する。
4.引用発明の「半導体装置であるウエハレベルパッケージの製造方法」は、本願発明の「半導体装置の製造方法」に相当する。
5.本願発明では、「前記絶縁層形成工程では、前記絶縁層に前記溝部を形成した後であって前記銅層形成工程前に、前記絶縁層を加熱硬化する」のに対し、引用発明には、その旨の特定がない点で相違する。

6.上記1ないし5によると、本願発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。

(一致点)
「溝部を有する絶縁層を基板上に形成する絶縁層形成工程と、
前記溝部を埋めるように前記絶縁層上に銅層を形成する銅層形成工程と、
前記溝部内の銅層部分を残し、前記絶縁層上の前記銅層を前記絶縁層の一部を含めて切削刃を用いる研削方法により除去する除去工程と、を備えた、
半導体装置の製造方法。」

(相違点1)
本願発明では、「切削刃を用いる研削方法」が「フライカット法」であるのに対し、引用発明にはその旨の特定がない点。
(相違点2)
本願発明では、「前記絶縁層形成工程では、前記絶縁層に前記溝部を形成した後であって前記銅層形成工程前に、前記絶縁層を加熱硬化する」のに対し、引用発明には、その旨の特定がない点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
1.相違点1について
上記「第4」「4.」において説示したとおり、引用文献8には「銅であるバイアと樹脂であるフルオロポリマー層をフライカットによって除去する技術」が記載されており、「銅及び樹脂をフライカット方式により切削加工する技術」は周知技術である(周知を示す文献として必要であれば、特開2012-204523号公報の【0014】【0027】、特開2014-103194号公報の【0030】、【0032】を参照されたい。)。
そして、引用発明においても、「切削刃によって」、「銅と樹脂6の一部を除去する」ものであるから、切削刃を用いた具体的な切削方法として、上記周知技術である「フライカット方式」を採用し、相違点1に係る構成を採用することは当業者が容易になしえたことである。

2.相違点2について
引用発明は、熱硬化樹脂を用いるものであるから、樹脂6を加熱硬化していると解される。
また、熱硬化樹脂に対する加熱硬化は、通常、樹脂を所望の形状とした後に行われるものであり、さらに、加熱による影響が他の素材に及ばないように行われるものである。
そうすると、引用発明においても、樹脂6の加熱硬化は、樹脂6に溝部を形成して所望の形状とした後であって、他の素材である銅を被着させる工程の前に行われると解するのが相当である。
よって、相違点2は実質的な相違とは認められない。

また、仮に、引用発明が、樹脂6を「前記絶縁層に前記溝部を形成した後であって前記銅層形成工程前に、前記絶縁層を加熱硬化する」ものではないとしても、上記「第4」「5.」及び「6.」において説示した引用文献10及び11に記載の技術的事項によれば、絶縁層として感光性樹脂を用いる構成において、「絶縁層に溝部を形成した後であって、銅層を形成する工程の前に、絶縁層を加熱硬化する技術」は周知技術である。
そして、引用発明においても、樹脂6として感光性樹脂を用いるものであるから、上記周知技術を適用し、相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易になしえたことである。

3.そして、本願発明の効果も、引用発明と周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第7 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「しかしながら以下に説明するとおり、上記相違点1,2は、互いに深く関連する技術的事項である。よって、引用発明7に対して上記相違点1を解消するために引用発明8を適用するだけでなく、さらに上記相違点2を解消するといった行為は、いわゆる『容易の容易』に該当することとなり、当業者の通常の創作能力を超えていると出願人は考える。
具体的には、本願発明においては上記相違点2に示される通り、『絶縁層形成工程では、前記絶縁層に前記溝部を形成した後であって前記銅層形成工程前に、前記絶縁層を加熱硬化』した後、『溝部内の銅層部分を残し、前記絶縁層上の前 記銅層を前記絶縁層の一部を含めてフライカット法により除去する除去工程』が実施される。これにより、フライカット法の実施前に絶縁層の硬度を向上させることができるので、フライカット法の実施に伴った絶縁層の圧縮変形を良好に抑制可能になる。このため、例えば引用発明8の段落[0037]に示されるように、『フライカットステップの間にフルオロポリマー層34は圧縮されやすく、フライカット後にバイアの高さが実際は僅かに凹まされる』ことを良好に抑制できる。
例えば、本願発明にて上記相違点2が除外される場合には、上記除去工程にて引用発明8に説明されるように絶縁層が圧縮変形し、溝部内における銅層部分が想定よりも余分に除去されてしまう。これにより、残存する絶縁層の露出面と、残存する銅層部分とにずれが生じてしまう。このまま次の工程を実施することは製品の歩留まり等に影響するため、これも引用発明8に記載されるようにメッキなどにて上記ずれを埋めるための工程を実施する必要があり、コストアップの要因となる。これに対して本願発明では上記相違点2を備えていることから、上記(a)にて示されるように、残存する絶縁層の露出面と、残存する銅層部分の露出面との両方をフライカット工程のみにて確実に平坦化でき、且つ、例えばこれらの面の表面粗さを0.03?0.1μmの範囲内にするといった作用効果が奏される。
このように本願発明においては、上記相違点1,2の両方が規定されることによって、当該作用効果が良好に奏されると言えるものである。このような作用効果は、主引例である引用発明7には記載も示唆もされていない。加えて、引用発明8においては、上述したように加熱硬化を実施しないことによる問題点が記載されているだけであって上記相違点2を備えていないことから、上記作用効果は当然に記載も示唆もされていない。ましてや、引用発明8においては上述したように、フライカット法を実施しただけではフルオロポリマー層の頂面とバイアの頂面とにずれが生じてしまうので、当該ずれを補償するための工程(めっきなど)が実施される。よって、本願発明にて奏され得る上記作用効果は、引用発明7,8を単に組み合わせただけでは依然として得ることができない有利な効果であると言える。
したがって、上記有利な効果を得るために引用発明7,8の組み合わせに対してさらに上記相違点2を補償する行為、すなわち、引用発明7に対して上記相違点1を解消するために引用発明8の内容を適用するだけでなく上記相違点2を解消するための設計変更をさらに実施することは、上述したようにいわゆる『容易の容易』の場合に相当すると考える(平成26年(行ケ)第10079号を参照)。このため、本願発明は、従来技術と明らかに相違する構成(上記相違点1,2)を有し、この構成の全ては当業者であっても容易に得られるものではないと考える。
したがって、本願発明は、進歩性を有すると認定されるべきである。」と主張している。

しかしながら、本願の請求項1には、「残存する絶縁層の露出面と、残存する銅層部分の露出面との両方をフライカット工程のみにて確実に平坦化」することを特定する記載がないから、請求項1に係る発明は、残存する絶縁層の露出面と、残存する銅層部分の露出面との間にずれが生じる構成も含み得るものである。
よって、上記相違点2が、相違点1と深く関連する技術的事項であって、「フライカット法の実施に伴った絶縁層の圧縮変形を良好に抑制可能」とし、「残存する絶縁層の露出面と、残存する銅層部分の露出面との両方をフライカット工程のみにて確実に平坦化」するための構成であるとする請求人の主張は、請求項1の記載に基づくものでなく採用できない。
また、本願の明細書の【0039】に「溝部形成工程においては、溝部4を形成した後に絶縁層3をさらに加熱硬化させてもよい。例えば、加熱温度を100?200℃と設定し、加熱時間を30分?3時間と設定した上で、絶縁層3を加熱硬化する。」と記載があるものの、絶縁層3を加熱硬化することによる作用効果について記載されておらず、絶縁層3の加熱硬化が、フライカット法の実施に伴った絶縁層の圧縮変形を良好に抑制可能とするために行われることについての説明もないから、請求人の主張は、本願の発明の詳細な説明の記載に基づいてなされたものでもない。
よって、請求人の主張は採用することができない。

第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献7に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

 
審理終結日 2021-02-10 
結審通知日 2021-02-16 
審決日 2021-03-03 
出願番号 特願2017-537560(P2017-537560)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊島 洋介  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 須原 宏光
永井 啓司
発明の名称 半導体装置及びその製造方法  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 上村 勇太  
代理人 清水 義憲  
代理人 平野 裕之  

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