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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1373413
審判番号 不服2020-2765  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-28 
確定日 2021-05-11 
事件の表示 特願2015-243255「多層体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月22日出願公開、特開2017-111191、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-243255号(以下「本件出願」という。)は、平成27年12月14日の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和元年 7月 9日付け:拒絶理由通知書
令和元年 9月 6日提出:意見書及び手続補正書
令和元年 9月12日付け:拒絶理由通知書
令和元年11月14日提出:意見書及び手続補正書
令和元年11月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年 2月28日提出:審判請求書
令和2年 9月14日付け:拒絶理由通知書
令和2年11月 4日提出:意見書及び手続補正書
令和2年12月25日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和3年 3月 2日提出:意見書及び手続補正書


第2 原査定の概要
1 原査定の拒絶の概要
原査定の概要は、(進歩性)本件出願の(令和元年11月14日にした手続補正後の)請求項1?10に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1?2に記載された発明(及び周知技術)に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2001-194668号公報
引用文献2:特開平8-166581号公報
引用文献3:国際公開第2015/159929号
(当合議体注:引用文献1は主引例であり、引用文献2は副引例、引用文献3は周知技術を示す文献である。)


第3 当合議体の拒絶理由通知の概要
1 令和2年9月14日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由の概要は、(進歩性)本件出願の(令和元年11月14日にした手続補正後の)請求項1?10に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平8-166581号公報(当合議体注:原査定の拒絶の理由における副引例である。)に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

2 令和2年12月25日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由の概要は、(明確性要件)本件出願は、特許請求の範囲が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない、というものである。


第4 本件発明
本件出願の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という。)は、令和3年3月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。

「 熱可塑性樹脂Aを含む層と熱可塑性樹脂Bを含む層をそれぞれ少なくとも1層以上有する多層体であり、下記条件1?4を満たし、波長550nmにおける面内位相差値Reの絶対値が15nm以下であり、厚み方向位相差値Rthの絶対値が50nm以下である多層体。
条件1:熱可塑性樹脂Aが正の屈折率異方性を有する
条件2:熱可塑性樹脂Bが負の屈折率異方性を有し、主たる繰り返し単位が下記式
【化1】



[式中、R_(12)およびR_(13)は夫々独立して、水素原子、炭素原子数1?10の芳香族基を含んでもよい炭化水素基またはハロゲン原子を示し、R_(14)およびR_(15)は夫々独立して、炭素原子数1?10の芳香族基を含んでもよい炭化水素基を示し、sおよびtは夫々独立して1?4の整数を示し、uおよびkは、夫々独立して1以上の整数を示す。]
で表される単位(C)を含むポリカーボネート樹脂[B]である
条件3:熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bのいずれか一方のガラス転移温度が160℃以上である
条件4:多層体が未延伸である」

なお、本件発明2?7は、本件発明1の「多層体」に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。また、本件発明8は、本件発明1の「多層体」に対してさらに発明特定事項を付加した「光学フィルム」の発明であり、本件発明9は、本件発明8の「光学フィルム」に対してさらに発明特定事項を付加した「透明導電性フィルム」の発明である。


第5 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献2の記載事項
当合議体の令和2年9月14日付け拒絶の理由に引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平8-166581号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光学的に透明でかつ耐熱性を有する光学プラスチック積層シート及びその製造方法、並びに該積層シートを用いた耐熱性透明基板に関する。
・・・省略・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような実情に鑑み、ガラスプロセスと互換性が期待でき、耐熱性・光学的特性に優れ、且つ量産性を有する耐熱光学プラスチック積層シート及びその製造方法、並びに該積層シートを用いた耐熱透明基板を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、高耐熱性を受け持つ層と室温における物理的性質を受け持つ層の積層構造にすることにより、剛性・光学的特性及び耐熱性を合わせ持つ光学プラスチックシートが得られることを見出し本発明に到った。
【0008】即ち、本発明の第1は、4,4′-(α-メチルベンジリデン)ビスフェノール及び/又は9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンをビスフェノール成分として含む、ポリカーボネート又はポリアリレートからなる光学的に透明な少なくとも一つの第1層と、該層よりガラス転移温度の低い光学的に透明な材料からなる第2層とを積層してなる、耐熱性と透明性に優れた光学プラスチック積層シートを、本発明の第2は、第1層を構成する、4,4′-(α-メチルベンジリデン)ビスフェノール及び/又は9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンをビスフェノール成分として含む、ポリカーボネート又はポリアリレートからなる光学的に透明なフィルムと、第2層を構成する、第1層よりガラス転移温度の低い光学的に透明なフィルムを、直接加熱積層することを特徴とする、耐熱性と透明性に優れた光学プラスチック積層シートの製造方法を、本発明の第3は、上記光学プラスチック積層シートを用いた光エレクトロニクス素子用耐熱性透明基板を、それぞれ内容とする。
【0009】本発明で使用される第1層を構成する材料であるポリカーボネート、ポリアリレートは、ビスフェノール成分として4,4′-(α-メチルベンジリデン)ビスフェノールまたは9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンを含む。それぞれの代表的ポリマーのTgを下記に示す。
(A) 4,4′-(α-メチルベンジリデン)ビスフェノールポリカーボネート 195℃
(B) 9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンポリカーボネート 260℃
(C) 4,4′-(α-メチルベンジリデン)ビスフェノールポリアリレート(テレフタル酸/イソフタル酸=1/1) 240℃
(D) 9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンポリアリレート(テレフタル酸/イソフタル酸=1/1) 300℃
なお、これらのモノマーは2種以上混合して用いてもよく、またTgを必要以上に低下させない程度に他のビスフェノール(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF等)の1種又は2種以上と混合使用してもよい。
【0010】第1層は、該層よりも低ガラス転移温度を有する第2層の片面もしくは両面に積層化され、第2層の高温加熱時の熱変形を防止する役割を果たしている。第1層の厚みは、積層シートの厚みや、要求される耐熱形状安定性により決定されるが、通常、積層シートの20?80%である。該積層シートを単に液晶表示装置用基板として用いる場合、シートは低リターデーションであることが必要であり、液晶表示装置の種類にもよるが、一般に50nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以下である。また、該シートに位相差の機能を付与する場合は、積層する少なくとも一つの層に予め特定のリターデーションを付与した後積層することにより容易に得ることができる。一般には、100nm以上、好ましくは300nm以上のリターデーションを付与することが要請される。特に、高耐熱性を有する第1層に特定のリターデーションを付与することが、得られた位相差シートの熱安定性にとり都合がよい。
【0011】第1層に特定のリターデーションを付与するには、上記した高分子材料を配向させることにより得ることができる。一般には、光学的に異方性の少ない高分子フィルムを1軸又は2軸に延伸することにより得ることができる。これらのフィルムは公知のフィルム化技術により得ることができるが、表面性と光学的特性から、溶剤キャスティング法によるフィルムが最も好ましく用いられる。
【0012】リターデーションは、フィルムの膜厚と分子の配向程度により決定され、分子の配向は延伸条件により大きく左右される。従って、リターデーションを精密に制御するためには、第1層の厚みを比較的薄くし、延伸条件の制御幅を大きく取ることが好ましい。そのため、第1層の厚みは20?150μmから選択されるのが望ましく、より好ましくは40?100μmである。また、特開平2-160204号や特開平3-85519号に見られるように、面内方向のいずれの屈折率とも異なるように膜厚方向の屈折率を調整した特殊な材料も好適に用いることができる。この場合においても、第1層は、単層のみならず2層以上の複層であってもよい。
【0013】第2層を構成する材料としては、一般には低複屈折性を有し、厚膜化が容易な材料から構成され、耐熱性は第1層より低いものを用いる。加熱融着法等により、積層プロセスにて第2層がガラス転移温度以上に加熱される場合、低複屈折性を有しない材料を用いることも可能であり、第2層に要求される光学的な初期特性は大幅に緩和される。第2層を構成する材料のガラス転移温度は、要求される耐熱性の程度に依存するが、一般には100℃以上であれば良く、好ましくは140℃以上で、第1層を構成する材料のガラス転移温度よりも20℃以上低いことが好ましく、更に40℃以上低いことが一層好ましい。本発明の積層プラスチックシートの耐熱性は、第1層の耐熱性からの寄与が大きい。第2層は単層又は2層以上の複数層からなる。
【0014】第2層を構成する材料は、第1層との親和性に優れた材料が好ましく、最適プラスチック材料を選択する必要がある。第2層は、常温でのシートの剛性を出すための役割を果たしている。また、熱的変形に対しては第1層により守られているため、ガラス転移温度以上の高温加熱時においても、その片面あるいは両面に存在する高ガラス転移温度を有する第1層の保護を受け、加圧等の応力に対しても流動すること無く形態を保持する。第2層の厚みは、第1層厚みの場合と同様に、積層シートに要求される特性により決定されるが、積層シート全体の厚みの80?20%が選択される。
【0015】本発明のプラスチック積層シートは、各層を構成するプラスチックを溶融共押出法により成形することができるが、各層を単独にて溶剤キャスティング法や溶融押出法により必要とする厚みにフィルム化した後ラミネートすることにより容易に高品位のプラスチック積層シートを得ることができる。接着剤を用いてラミネートすることも可能であるが、積層シートの耐熱性を損なうことのないように接着剤を選択する必要がある。高温時の特性から加熱ラミネートが好ましい。この場合は、第1層と第2層の親和性を考慮して材料選択を行う必要がある。
【0016】第2層の好適な材料としては、比較的低ガラス転移温度を有するポリエステル、ポリアリレート又はポリカーボネート等でが挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。ビスフェノールA型ポリカーボネートはエンジニアリングプラスチックとして広く利用されており、また、ガラス転移温度が約150℃と適度な値を有すると共に、第1層と高い親和性を有しており、特性・コストの点から第2層材料として特に好ましい。また、ビスフェノールA・テレフタル酸・イソフタル酸からなるポリアリレートも工業的に利用できる材料として好ましい
【0017】本発明の耐熱光学プラスチック積層シートは、上記の如く、第1層と第2層とを積層してなるので、光学的特性に優れた薄厚フィルムを得やすいという溶剤キャスティング法の利点を生かし、低コストで耐熱厚膜シートを得ることができるという特徴を有している。また、ラミネート法により積層シートを得る場合、高耐熱層(第1層)は光学的特性や表面平滑性の点から溶剤キャスティング法により成膜したフィルムを用いることができる。更に、比較的低ガラス転移温度を有する材料は溶融押出法で光学的特性の良好なフィルムを生産性高く得ることが容易であるという特徴を利用し、第2層は溶融押出フィルムを用い、積層シートのコストを低減することも可能である。
・・・省略・・・
【0023】本発明のプラスチック積層シートは、耐熱性と光学特性の点からガラスと共用又は互換可能であり、広く、光エレクトロニクス素子用の基板として有用である。更に、ガラスと異なり耐衝撃性に優れ、かつ軽量であるため、大面積化が要求されている液晶表示素子用の基板材料として、特に有用である。」

(2)「【0024】
【実施例】以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】実施例1
第1層の材料として、溶剤キャスティング法により製膜されたリターデーションが10nmである75μm厚の前記(A)のポリカーボネートフィルムを用い、第2層の材料として、溶剤キャスティング法により製膜されガラス転移温度が150℃、リターデーションが13nmである150μm厚のビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムを用い、ポリカーボネートフィルムをポリアリレートフィルム2枚で挟み、真空ラミネート機で145℃にて仮圧着した。その後、ガラス板で挟み180℃に加熱・本圧着し、強固に融着した300μmの積層シートを得た。得られた積層シートのTMA分析による軟化温度(変位の変曲点)は225℃であり、(A)ポリカーボネート単独のフィルムとほぼ同程度の軟化温度を示した。一方、ポリカーボネートの軟化温度は180℃であった。また、作成した積層シートのリターデーションは20nm、表面粗さは、平均で0.025μmであった。
【0026】実施例2
第1層の材料として、溶剤キャスティング法により製膜されたリターデーションが8nmである75μm厚の前記(B)のポリカーボネートフィルムを用い、第2層の材料として、溶剤キャスティング法により製膜されガラス転移温度が150℃、リターデーションが13nmである150μm厚のビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムを用い、ポリカーボネートフィルムをポリアリレートフィルム(当合議体注:「ポリアリレートフィルム」は「前記(B)のポリカーボネートフィルム」の誤記である。)2枚で挟み、真空ラミネート機で145℃にて仮圧着した。その後、ガラス板で挟み190℃に加熱・本圧着し、強固に融着した300μmの積層シートを得た。得られた積層シートのTMA分析による軟化温度(変位の変曲点)は290℃であり、(B)ポリカーボネート単独のフィルムとほぼ同程度の軟化温度を示した。また、作成した積層シートのリターデーションは17nm、表面粗さは、平均で0.025μmであった。
・・・省略・・・
【0036】
【発明の効果】叙上のとおり、本発明により耐衝撃性、剛性を備えるとともに、光学的特性に優れた耐熱透明プラスチック積層シートが提供される。本プラスチック積層シートは、光エレクトロニクス分野、特に液晶表示装置分野でのガラスに代わる光学基板として有用である。」

2 引用発明
引用文献2の【0026】に記載の「前記(B)のポリカーボネート」とは、【0009】に記載の「(B)9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンポリカーボネート 260℃」のことである。なお、上記「260℃」はTg(ガラス転移温度)を示す。
そうしてみると、引用文献2の【0026】には、実施例2の積層シートとして、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、「Tg」は「ガラス転移温度」に用語を統一して記載した。

「第1層の材料として、溶剤キャスティング法により製膜され、ガラス転移温度が260℃、リターデーションが8nmである75μm厚の9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネートフィルムを用い、第2層の材料として、溶剤キャスティング法により製膜されガラス転移温度が150℃、リターデーションが13nmである150μm厚のビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムを用い、ポリカーボネートフィルムを9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネートフィルム2枚で挟み、真空ラミネート機で145℃にて仮圧着し、その後、ガラス板で挟み190℃に加熱・本圧着し、強固に融着した、リターデーションが17nmである300μmの積層シート。」


第6 対比・判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

ア 熱可塑性樹脂Aを含む層、条件1
引用発明の「第2層」は、「材料として、溶剤キャスティング法により製膜され、ガラス転移温度が150℃、リターデーションが13nmである150μm厚のビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムを用い」たものである。
ここで、引用発明の「ビスフェノールA型ポリカーボネート」は、正の屈折率異方性を有する熱可塑性樹脂である(当合議体注:このことは、本件明細書の【0088】において、主成分がBPA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)【0022】、【0082】))である参考例1?3のポリカーボネートA1?A3が、正の屈折率異方性を有することからも理解できる。)。
そうしてみると、引用発明の「ビスフェノールA型ポリカーボネート」及び「第2層」は、それぞれ、本件発明1の「熱可塑性樹脂A」及び「熱可塑性樹脂Aを含む層」に相当する。また、引用発明の「第2層」は、本件発明1の「条件1」における「熱可塑性樹脂Aが正の屈折率異方性を有する」との要件を満たす。

イ 熱可塑性樹脂Bを含む層、条件2
引用発明の「第1層」は、「材料として、溶剤キャスティング法により製膜され、ガラス転移温度が260℃、リターデーションが8nmである75μm厚の9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネートフィルムを用い」たものである。
ここで、引用発明の「9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネート」は、負の屈折率異方性を有する熱可塑性樹脂である(当合議体注:このことは、本件明細書の【0029】において、負の屈折率異方性を有する熱可塑性樹脂Bの単位(C)として、「9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネート」が記載されていることからも理解できる。)。
そうしてみると、引用発明の「9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネート」及び「第1層」は、それぞれ、本件発明1の「熱可塑性樹脂B」及び「熱可塑性樹脂Bを含む層」に相当する。また、引用発明の「第1層」は、本件発明1の「条件2」における「熱可塑性樹脂Bが負の屈折率異方性を有し」との要件を満たす。

ウ 条件3
上記イの構成から、引用発明の「9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネート」の「ガラス転移温度」は、「260℃」であって、160℃以上である。
そうしてみると、引用発明の「ビスフェノールA型ポリカーボネート」及び「9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネート」は、本件発明1の「条件3」における「熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bのいずれか一方のガラス転移温度が160℃以上である」との要件を満たす。

エ 多層体
上記ア?ウを総合すると、引用発明の「積層シート」は、本件発明1の「多層体」に相当する。
また、上記ア及びイの構成からみて、引用発明の「積層シート」は、「第1層」と「第2層」を有するものである。そうしてみると、引用発明の「積層シート」は、本件発明1の「多層体」の「熱可塑性樹脂Aを含む層と熱可塑性樹脂Bを含む層をそれぞれ少なくとも1層以上有する」との要件を満たす。

オ 条件4
引用発明の「積層シート」は、「第1層の材料として、溶剤キャスティング法により製膜され」、「9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネートフィルムを用い、第2層の材料として、溶剤キャスティング法により製膜され」、「ビスフェノールA型ポリカーボネートフィルムを用い、ポリカーボネートフィルムを9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネートフィルム2枚で挟み、真空ラミネート機で145℃にて仮圧着し、その後、ガラス板で挟み190℃に加熱・本圧着し、強固に融着し」、「リターデーションは17nmである」ものである。
上記製法からみて、引用発明の「積層シート」は、未延伸であるといえる。
そうしてみると、引用発明の「積層シート」は、本件発明1の「多層体」の「条件4」における「未延伸である」との要件を満たす。

カ 条件1?4
上記ア?オを総合すると、引用発明の「積層シート」と本件発明1の「多層体」は、「下記条件1?4を満たす」、「条件1:熱可塑性樹脂Aが正の屈折率異方性を有する」、「条件2:熱可塑性樹脂Bが負の屈折率異方性を有」する、「条件3:熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bのいずれか一方のガラス転移温度が160℃以上である」、「条件4:多層体が未延伸である」の点で共通する。

(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、
「 熱可塑性樹脂Aを含む層と熱可塑性樹脂Bを含む層をそれぞれ少なくとも1層以上有する多層体であり、下記条件1?4を満たす、多層体。
条件1:熱可塑性樹脂Aが正の屈折率異方性を有する
条件2:熱可塑性樹脂Bが負の屈折率異方性を有する
条件3:熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bのいずれか一方のガラス転移温度が160℃以上である
条件4:多層体が未延伸である」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「多層体」が、本件発明1は、「波長550nmにおける面内位相差値Reの絶対値が15nm以下であり、厚み方向位相差値Rthの絶対値が50nm以下である」のに対して、引用発明は、「リターデーションは17nmであ」り、厚み方向位相差値Rthの絶対値は不明である点。

(相違点2)
「熱可塑性樹脂B」が、本件発明1は、「条件2:主たる繰り返し単位が下記式
【化1】


[式中、R_(12)およびR_(13)は夫々独立して、水素原子、炭素原子数1?10の芳香族基を含んでもよい炭化水素基またはハロゲン原子を示し、R_(14)およびR_(15)は夫々独立して、炭素原子数1?10の芳香族基を含んでもよい炭化水素基を示し、sおよびtは夫々独立して1?4の整数を示し、uおよびkは、夫々独立して1以上の整数を示す。]
で表される単位(C)を含むポリカーボネート樹脂[B]である」のに対して、引用発明は、「9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネート」である点。

(3)判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
まず、引用文献2には、「第1層」の材料として、上記相違点2に係る単位(C)を含むポリカーボネート樹脂[B]を採用することは、記載も示唆もない。そして、引用文献2の【0010】には、「第1層は、該層よりも低ガラス転移温度を有する第2層の片面もしくは両面に積層化され、第2層の高温加熱時の熱変形を防止する役割を果たしている。」と記載されていて、「第1層」の材料としては、「第2層」のガラス転移温度よりも高いほうが好ましいことが読み取れる。ここで、引用発明の「第1層」の材料である「9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネート」のガラス転移温度は、260℃である。一方で、上記相違点2に係る単位(C)を含むポリカーボネート樹脂[B]のガラス転移温度は、148℃(本件明細書の【0088】の【表1】に参考例4として記載されたBPEFのTg)といった程度のものである。
そうしてみると、引用発明の「第1層」の材料である「9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンのポリカーボネート」に替えて、これより大幅にガラス転移温度が低く、さらには引用発明の「第2層」のガラス転移温度(150℃)よりもガラス転移温度が低くなる可能性のある上記相違点2に係る単位(C)を含むポリカーボネート樹脂[B]を採用することは、動機付けがなく、むしろ、阻害要因があるといえる。
なお、引用発明の「第2層」の材料として、上記相違点2に係る単位(C)を含むポリカーボネート樹脂[B]を採用した場合には、本件発明1の「条件1:熱可塑性樹脂Aが正の屈折率異方性を有する」という構成を満たさなくなるから、いずれにせよ、本件発明1の構成には到らない。

そして、本件発明1は、上記相違点2に係る単位(C)を含むポリカーボネート樹脂[B]を採用することにより、本件明細書の【0013】に記載されているような、引用発明の構成からは予測することができない効果を奏するものと理解される。
したがって、たとえ当業者であっても、引用発明に基づいて上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることが、容易になし得たということはできない。

なお、原査定の拒絶の理由に示された特開2001-194668号公報(以下「引用文献1」という。)及び国際公開第2015/159929号(以下「引用文献3」という。)にも、上記相違点2に係る本件発明1の構成を採用することが容易であることを窺わせる記載はない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、当業者であっても、引用文献1?3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

3 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?9も、本件発明1と同じ理由により、たとえ当業者であっても、引用文献1?3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたということができない。


第6 原査定についての判断
上記第5で述べたように、本件発明1?9は、たとえ当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?3に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたということができない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 当合議体が通知した拒絶の理由について
1 当合議体の令和2年9月14日付け拒絶理由通知の理由(進歩性)については、上記第5で述べたとおりである。

2 当合議体の令和2年12月25日付け拒絶理由通知(最後)の理由(明確性要件)は、令和3年3月2日に提出された手続補正書により補正されたので、当合議体が通知した拒絶の理由は解消された。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-04-22 
出願番号 特願2015-243255(P2015-243255)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
井口 猶二
発明の名称 多層体  
代理人 為山 太郎  
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