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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1373434 |
審判番号 | 不服2020-13820 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-10-02 |
確定日 | 2021-05-11 |
事件の表示 | 特願2016-162413「波長変換部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 1日出願公開、特開2018- 31829、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2016-162413号(以下「本件出願」という。)は、平成28年8月23日を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和元年12月24日付け:拒絶理由通知書 令和2年 3月 5日提出:意見書、手続補正書 令和2年 6月26日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和2年10月 2日提出:審判請求書、手続補正書 2 原査定の概要 原査定の概要は、次のとおりである。 本件出願の請求項1?4に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2007-182529号公報 引用文献2:特開昭57-136396号公報 引用文献3:特開2007-242939号公報 引用文献4:特開2008-16587号公報 引用文献5:特開2015-142046号公報 引用文献6:国際公開第2016/063930号 引用文献7:特開2013-247067号公報 (当合議体注:主引用例は引用文献1であり、引用文献2?7は周知例として引用された文献である。) 3 本願発明 本件出願の請求項1?請求項4に係る発明は、令和2年10月2日にした手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項4に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 「 【請求項1】 ガラスマトリックス中に蛍光体粒子が配置されてなる波長変換部材の製造方法であって、 前記ガラスマトリックスとなるガラス粒子及び平均粒子径が5μm以上の前記蛍光体粒子を含むスラリーを用意する工程と、 前記スラリーを支持基材上に塗布し、前記支持基材と所定間隔を空けて設置されたドクターブレードを前記スラリーに対して相対的に移動させることにより、グリーンシートを形成する工程と、 前記グリーンシートを複数枚重ね合わせた状態で熱圧着することにより、グリーンシート積層体を形成する工程と、 前記グリーンシート積層体を焼結することにより、波長変換部材を得る工程と、 を備え、 前記グリーンシート積層体を形成する工程において、少なくとも2枚のグリーンシートについて、前記グリーンシートを形成する工程における前記ドクターブレードの移動方向が互いに略直交するように、前記グリーンシートを重ね合わせる、波長変換部材の製造方法。 【請求項2】 前記グリーンシート積層体を形成する工程が、第1及び第2のグリーンシートを繰り返し交互に重ね合わせることにより、前記グリーンシート積層体を形成する工程であり、 前記第1及び第2のグリーンシートを重ね合わせるに際し、前記第1及び第2のグリーンシートを形成する工程における前記ドクターブレードの移動方向が互いに交差するように、前記第1及び第2のグリーンシートを重ね合わせる、請求項1に記載の波長変換部材の製造方法。 【請求項3】 前記第1及び第2のグリーンシートを重ね合わせるに際し、前記第1及び第2のグリーンシートを形成する工程における前記ドクターブレードの移動方向が略直交するように、前記第1及び第2のグリーンシートを重ね合わせる、請求項2に記載の波長変換部材の製造方法。 【請求項4】 前記グリーンシートを重ね合わせるに際し、3枚以上のグリーンシートを重ね合わせる、請求項1?3のいずれか1項に記載の波長変換部材の製造方法。」 第2 当合議体の判断 1 引用文献の記載及び引用発明 (1)引用文献1について 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2007-182529号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、蛍光体複合ガラス、蛍光体複合ガラスグリーンシート及び蛍光体複合ガラスの製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 近年、白色LEDは、白熱電球や蛍光灯に替わる次世代の光源として照明用途への応用が期待されている。 ・・・中略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、特許文献1で開示されているSnO_(2)-P_(2)O_(5)系ガラスやTeO系ガラス等の非鉛系低融点ガラスは、耐候性が低く、また、蛍光体と強く反応して劣化するという問題がある。 【0008】 また、特許文献2に記載で開示されている蛍光体複合ガラスは、ガラス粉末と無機蛍光体粉末を加圧成形して、焼成するものであるため、肉厚の薄いものはできず、発光効率の向上が見込めないという問題があった。また、加圧成形では、大型で均一な厚みを有するものを安価に製造できないという問題もある。 【0009】 本発明の目的は、化学的に安定で、大型で肉厚が薄く、均一な厚みを有し、しかも、エネルギー変換効率が高い蛍光体複合ガラス、蛍光体複合ガラスグリーンシート及び蛍光体複合ガラスの製造方法を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明の蛍光体複合ガラスは、ガラス粉末、無機蛍光体粉末を含む混合物を焼成してなる蛍光体複合ガラスにおいて、波長350?500nmの領域に発光ピークを有する光を照射した時の波長380?780nmの可視光領域へのエネルギー変換効率が10%以上であることを特徴とする。 【0011】 また、本発明の蛍光体複合ガラスグリーンシートは、少なくともガラス粉末、無機蛍光体粉末、有機系溶剤バインダー樹脂を含む混合物を混練してシート状に成形してなることを特徴とする。 【0012】 さらに、本発明の蛍光体複合ガラスの製造方法は、上記の蛍光体複合ガラスグリーンシートの両面若しくは片面に、前記蛍光体複合ガラスグリーンシートの焼成温度では蛍光体複合ガラスグリーンシートと反応しない拘束部材を積層した後、焼成処理を行い、その後、拘束部材を取り除くことを特徴とする。 【発明の効果】 【0013】 本発明の蛍光体複合ガラスグリーンシートは、均一な厚みを有し、しかも、肉厚が薄く、大きいサイズの蛍光体複合ガラスを安価に製造することができる。 【0014】 また、本発明の製造方法によれば、平面方向に対して、収縮や変形を小さくすることができるため、肉厚が薄く、大きなサイズの蛍光体複合ガラスを得ることができる。 【0015】 さらに、このような方法によって作製可能な本発明の蛍光体複合ガラスは、化学的に安定であり、しかも、肉厚が薄く、均一な厚みを有しているため、高いエネルギー変換効率を備えている。 【発明を実施するための最良の形態】 【0016】 本発明の蛍光体複合ガラスは、ガラス粉末と無機蛍光体粉末との焼結体からなり、ガラス中に無機蛍光体が分散した構成を有している。そのため、化学的に安定で、高出力の光に長期間曝されても変色を抑えることができる。また、肉厚が薄く、均一であり、高いエネルギー変換効率を有する蛍光体複合ガラスを得ることができる。」 イ 「【0026】 また、肉厚が薄く、均一な厚みを有し、しかも、大きいサイズの蛍光体複合ガラスを得るには、ガラス粉末、無機蛍光体粉末及び有機系溶剤バインダー樹脂を含む混合物を混練してシート状に成形してなるグリーンシートを用いればよい。 【0027】 しかし、上記の蛍光体複合ガラスグリーンシートは、ガラス粉末の割合が多いため、そのまま焼成すると、ガラスが流動して、ガラスの表面張力により、平面方向に収縮しやすい。従って、肉厚が薄く、均一な厚みを有し、しかも、大きいサイズの蛍光体複合ガラスを得ることが難しい。平面方向への収縮を抑えるために、無機蛍光体粉末の割合を多くすることも考えられるが、無機蛍光体粉末の割合が多くなると、励起光が蛍光体で散乱し発光強度が低下したり、緻密化させるための焼成時間が長くなり、無機蛍光体とガラスとの反応により発泡し、発光強度が大幅に低下することになる。 【0028】 そこで、本発明では、蛍光体複合ガラスグリーンシートの両面若しくは片面に、前記蛍光体複合ガラスグリーンシートの焼成温度では蛍光体複合ガラスグリーンシートと反応しない拘束部材を積層した後、焼成処理を行い、その後、拘束部材を取り除くことで、肉厚が薄く、均一な厚みを有し、しかも、大きいサイズの蛍光体複合ガラスを得ることを可能にした。尚、拘束部材としては、無機組成物を含むグリーンシートまたは多孔質セラミックス基板を用いることができる。 【0029】 尚、本発明において、拘束部材が「蛍光体複合ガラスグリーンシートの焼成温度では蛍光体複合ガラスグリーンシートと反応しない」とは、焼成処理を行った後の蛍光体複合ガラスの表面に残存する未焼結の無機組成物を、超音波洗浄を行うことで容易に除去できる程度のものを意味する。 【0030】 本発明に使用する無機蛍光体粉末としては、一般的に市中で入手できるものであれば使用できる。無機蛍光体には、YAG系蛍光体、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、希土類酸硫化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩化物、ハロリン酸塩化物などからなるものがある。YAG系蛍光体、酸化物蛍光体は、ガラスと混合して高温に加熱しても安定である。窒化物、酸窒化物、硫化物、希土類酸硫化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩化物、ハロリン酸塩化物などの蛍光体は焼結時の加熱によりガラスと反応し、発泡や変色などの異常反応を起こしやすく、その程度は、焼結温度が高温であればあるほど著しくなる。しかし、これらの無機蛍光体を用いる場合、焼成温度とガラス組成を最適化することで使用できる。 ・・・中略・・・ 【0049】 次に、本発明の蛍光体複合ガラスグリーンシートについて説明する。 【0050】 グリーンシートの形態で使用する場合、ガラス粉末、及び無機蛍光体粉末と共に、結合剤、可塑剤、溶剤等を使用する。 ・・・中略・・・ 【0054】 無機蛍光体粉末としては、上述したようなYAG系蛍光体、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、希土類酸硫化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩化物、ハロリン酸塩化物を使用することが好ましい。 【0055】 ガラス粉末と蛍光体粉末の含有割合は、蛍光体粉末の種類や含有量、及び蛍光体複合ガラスの肉厚によって適宜調整すればよいが、何れにしても、質量比で、99.99:0.01?70:30の範囲内で調整することが好ましい。 【0056】 ガラス粉末及び無機蛍光体粉末のグリーンシート中に占める割合は、50?80質量%程度が一般的である。 ・・・中略・・・ 【0060】 蛍光体複合ガラスグリーンシートを作製する方法としては、上記のガラス粉末及び無機蛍光体粉末を混合し、得られた混合物に、所定量の結合剤、可塑剤、溶剤等を添加してスラリーとする。次に、このスラリーをドクターブレード法によって、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルムの上にシート成形する。続いて、シート成形後、乾燥させることによって有機系溶剤バインダーを除去することで、蛍光体複合ガラスグリーンシートとすることができる。 【0061】 続いて、本発明の蛍光体複合ガラスを製造する好適な方法を説明する。 【0062】 まず、上述の方法を用いて作製した蛍光体複合ガラスグリーンシートと、蛍光体複合ガラスグリーンシートの焼成温度では蛍光体複合ガラスグリーンシートと反応しない拘束部材を用意し、それらを所望の寸法に切断する。次に、蛍光体複合ガラスグリーンシートの両面若しくは片面に、拘束部材を積層し、熱圧着によって一体化して積層体を作製した後、焼成して焼結体を得る。続いて、拘束部材を除去することによって、蛍光体複合ガラスを得る。 【0063】 このようにして、化学的に安定で、大型で肉厚が薄く、均一な厚みを有し、しかも、気孔率が低く、エネルギー変換効率が高い蛍光体複合ガラスを作製することができる。 ・・・中略・・・ 【0068】 また、一度の焼成処理で多量の蛍光体複合ガラスを得たい場合は、複数枚の蛍光体複合グリーンシート及び拘束部材とを交互に積層し、熱圧着して、焼成処理することで得ることができる。また、厚めの蛍光体複合ガラスを得たい場合は、複数枚の蛍光体複合グリーンシートを積層した後、積層した蛍光体複合ガラスグリーンシートの両面若しくは片面に、拘束部材を積層し、熱圧着して、焼成処理することで得ることができる。」 ウ 「【実施例】 【実施例1】 【0071】 以下、実施例に基づき、本発明について詳細に説明する。 【0072】 まず、蛍光体複合ガラスグリーンシートを以下のようにして作製した。 【0073】 質量百分率でSiO_(2) 50%、B_(2)O_(3) 5%、CaO 10%、BaO 25%、Al_(2)O_(3) 5%、ZnO 5%含有する組成になるように、各種酸化物のガラス原料を調合し、均一に混合した後、白金坩堝に入れ、1400℃で2時間溶融して均一なガラスを得た。これをアルミナボールで粉砕し、分級して平均粒径が2.5μmのガラス粉末を得た。尚、得られたガラス粉末を加圧成型して900℃で焼成し、厚さ1mmのガラス粉末のみからなる板状焼成体を作製し、波長600nmにおける板状焼成体の全光束透過率を汎用の分光光度計で測定したところ、55%であった。 【0074】 次に、作製したガラス粉末に、無機蛍光体粉末(化成オプトニクス株式会社製 YAG蛍光体粉末 平均粒径:8μm)を、質量比で95:5の割合で添加し、混合して混合粉末を作製した。次いで、作製した混合粉末100に対して、結合剤としてメタアクリル酸樹脂を30質量%、可塑剤としてフタル酸ジブチルを3質量%、溶剤としてトルエンを20質量%添加し、混合してスラリーを作製した。続けて、上記スラリーをドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート成形し、乾燥して、50μmの厚みの蛍光体複合ガラスグリーンシートを得た。 【0075】 次に、拘束部材として、無機組成物よりなるグリーンシートを作製した。 【0076】 無機組成物には、アルミナ粉末(住友アルミ社製 ALM-21 平均粒径:2μm)を用い、上記の蛍光体複合ガラスグリーンシートの作製方法と同様の混合割合及び方法で、200μmの厚みのアルミナグリーンシートを得た。 【0077】 続けて、各グリーンシートを100×100mmの大きさに切断し、図1に示すように、上記のアルミナグリーンシート上に、蛍光体複合ガラスグリーンシートを3枚積層し、さらに、その上に、アルミナグリーンシートを積層し、熱圧着によって一体化して積層体を作製した後、900℃で焼成した。その後、超音波洗浄を行い、得られた焼結体の表面に残存する未焼結のアルミナ層を除去して、大きさ100×100mm、肉厚120μmの蛍光体複合ガラスを作製した。 【0078】 このようにして得られた蛍光体複合ガラスについて、蛍光体複合ガラスの背後から青色光を照射したところ、白色の透過光が得られた。また、蛍光体複合ガラスのエネルギー変換効率、気孔率を測定したところ、エネルギー変換効率は16%であり、気孔率は2%であった。更に、蛍光体複合ガラスの耐水性、耐酸性及び耐候性を評価したところ、JOGISによる粉末法耐水性での質量減少率は0.08wt%(等級2)であり、同粉末法耐酸性での質量減少率は0.26wt%(等級2)であった。恒温恒湿試験による耐候性では、試験後のエネルギー変換効率は15.4%であり、4%の低下率であった。プレッシャークッカー試験による耐候性では、試験後のエネルギー変換効率は14.9%であり、7%の低下率であった。」 (2)引用文献1に記載された発明 上記記載事項ウに基づけば、引用文献1には、実施例1として、次の「蛍光体複合ガラスの製造方法」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「質量百分率でSiO_(2) 50%、B_(2)O_(3) 5%、CaO 10%、BaO 25%、Al_(2)O_(3) 5%、ZnO 5%含有する組成になるように、各種酸化物のガラス原料を調合し、均一に混合した後、白金坩堝に入れ、1400℃で2時間溶融して均一なガラスを得、これを粉砕し、分級して平均粒径が2.5μmのガラス粉末を得、 作製したガラス粉末に、無機蛍光体粉末(平均粒径:8μm)を、質量比で95:5の割合で添加し、混合して混合粉末を作製し、作製した混合粉末100に対して、結合剤としてメタアクリル酸樹脂を30質量%、可塑剤としてフタル酸ジブチルを3質量%、溶剤としてトルエンを20質量%添加し、混合してスラリーを作製し、上記スラリーをドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート成形し、乾燥して、50μmの厚みの蛍光体複合ガラスグリーンシートを得、 無機組成物には、アルミナ粉末を用い、蛍光体複合ガラスグリーンシートの作製方法と同様の混合割合及び方法で、拘束部材として、200μmの厚みのアルミナグリーンシートを得、 各グリーンシートを100×100mmの大きさに切断し、アルミナグリーンシート上に、蛍光体複合ガラスグリーンシートを3枚積層し、さらに、その上に、アルミナグリーンシートを積層し、熱圧着によって一体化して積層体を作製した後、900℃で焼成し、超音波洗浄を行い、得られた焼結体の表面に残存する未焼結のアルミナ層を除去し、 得られた蛍光体複合ガラスの背後から青色光を照射したところ、白色の透過光が得られた蛍光体複合ガラスの製造方法。」 2 対比及び判断 (1)対比 本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 蛍光体粒子 引用発明の「無機蛍光体粉末」は、「平均粒径:8μm」であるから、技術的にみて粒子である。 そうしてみると、引用発明の「無機蛍光体粉末」は、本願発明の「蛍光体粒子」に相当し、「平均粒子径が5μm以上」という要件を満たす。 イ ガラス粒子 引用発明の「ガラス粉末」は、「平均粒径が2.5μm」であるから、技術的にみて粒子である。また、引用発明は「ガラス粉末に、無機蛍光体粉末(平均粒径:8μm)を、質量比で95:5の割合で添加し、混合して」おり、その含有割合から、引用発明の「ガラス粉末」は、ガラスマトリックスとなることは明らかである。 そうしてみると、引用発明の「ガラス粉末」は、本願発明の「ガラス粒子」に相当し、「ガラスマトリックスとなる」という要件を満たす。そして、引用発明の「無機蛍光体粉末」及び「ガラス粉末」は、本願発明の「ガラスマトリックス中に蛍光体粒子が配置されてなる」という要件を満たす。 ウ スラリーを用意する工程 引用発明の「スラリー」は、その文言の意味するとおり、本願発明の「スラリー」に相当する。そして、上記ア及びイからみて、引用発明の「作製したガラス粉末に、無機蛍光体粉末(平均粒径:8μm)を、質量比で95:5の割合で添加し、混合して混合粉末を作製し、作製した混合粉末100に対して、結合剤としてメタアクリル酸樹脂を30質量%、可塑剤としてフタル酸ジブチルを3質量%、溶剤としてトルエンを20質量%添加し、混合してスラリーを作製」する工程は、本願発明の「前記ガラスマトリックスとなるガラス粒子及び平均粒子径が5μm以上の前記蛍光体粒子を含むスラリーを用意する工程」に相当する。 エ グリーンシートを形成する工程 引用発明の「PETフィルム」は、その上に「スラリーをドクターブレード法によって」「シート成形」されるものであるから、技術的にみて、本願発明の「支持基材」に相当する。また、引用発明の「ドクターブレード法」は、基材と所定間隔を空けて設置されたドクターブレードをスラリーに対して相対的に移動させることは、技術常識である。 そうしてみると、引用発明の「上記スラリーをドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート成形し、乾燥して、50μmの厚みの蛍光体複合ガラスグリーンシートを得」る工程は、本願発明の「前記スラリーを支持基材上に塗布し、前記支持基材と所定間隔を空けて設置されたドクターブレードを前記スラリーに対して相対的に移動させることにより、グリーンシートを形成する工程」に相当する。 オ グリーンシート積層体を形成する工程 引用発明の「蛍光体複合ガラスグリーンシートを3枚積層し」た状態は、技術的にみて、本願発明の「グリーンシートを複数枚重ね合わせた状態」に相当する。また、引用発明の「熱圧着によって一体化」は、技術的にみて、本願発明の「熱圧着すること」に相当する。 そうしてみると、引用発明の「アルミナグリーンシート上に、蛍光体複合ガラスグリーンシートを3枚積層し、さらに、その上に、アルミナグリーンシートを積層し、熱圧着によって一体化して積層体を作製」する工程は、技術的にみて、本願発明の「前記グリーンシートを複数枚重ね合わせた状態で熱圧着することにより、グリーンシート積層体を形成する工程」に相当する。 カ 波長変換部材を得る工程 引用発明の「蛍光体複合ガラス」は、「背後から青色光を照射したところ、白色の透過光が得られた」ことから、技術的にみて、波長変換部材であることは明らかである。そうすると、引用発明の「積層体を」「900℃で焼成し、」「蛍光体複合ガラス」を得る工程は、本願発明の「前記グリーンシート積層体を焼結することにより、波長変換部材を得る工程」に相当する。 キ 波長変換部材の製造方法 上記ウ?カの工程及び引用発明の「蛍光体複合ガラス」は波長変換部材であることから、引用発明の「蛍光体複合ガラスの製造方法」は、本願発明の「波長変換部材の製造方法」に相当する。 (2)一致点及び相違点 ア 一致点 以上より、本願発明と引用発明とは、次の構成で一致する。 「 ガラスマトリックス中に蛍光体粒子が配置されてなる波長変換部材の製造方法であって、 前記ガラスマトリックスとなるガラス粒子及び平均粒子径が5μm以上の前記蛍光体粒子を含むスラリーを用意する工程と、 前記スラリーを支持基材上に塗布し、前記支持基材と所定間隔を空けて設置されたドクターブレードを前記スラリーに対して相対的に移動させることにより、グリーンシートを形成する工程と、 前記グリーンシートを複数枚重ね合わせた状態で熱圧着することにより、グリーンシート積層体を形成する工程と、 前記グリーンシート積層体を焼結することにより、波長変換部材を得る工程と、 を備える、波長変換部材の製造方法。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は、次の点で相違する。 (相違点) 本願発明の「グリーンシート積層体を形成する工程」は、「少なくとも2枚のグリーンシートについて、前記グリーンシートを形成する工程における前記ドクターブレードの移動方向が互いに略直交するように、前記グリーンシートを重ね合わせる」のに対し、引用発明は、そのような工程であるか明らかでない点。 (3)判断 相違点について検討する。 ア 原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開昭57-136396号公報(以下「引用文献2」という。)の特許請求の範囲には、複数のグリーンシートをそのキャスティング方向がほぼ直交するように積層し、焼結することが記載されている。また、原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2007-242939号公報(以下「引用文献3」という。)の【0099】には、グリーンシート層を積層する際には、1層毎に成形の方向を90°変えて積層することが記載されている。さらに、原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2008-16587号公報(以下「引用文献4」という。)の【0033】には、グリーンシートを積層する際には、グリーンシートの塗工方向がシート間で直交するように、グリーンシートを積層することが記載されている。 しかしながら、引用文献2?4に記載の技術的事項は、回路パターンや配線パターンなどが形成されたグリーンシートを積層して乾燥、焼結する際に、収縮による配線の分断等の課題を解決するためのものである。一方、引用発明の課題は、波長変換部材である蛍光体複合ガラスにおいて、均一な厚みを有し、肉厚が薄く大きいサイズの蛍光体複合ガラスを安価に製造することである。 そうしてみると、引用発明と引用文献2?4に記載された事項とでは、その技術分野や課題が異なり、引用発明において引用文献2?4に記載の技術的事項を採用する動機付けはない。 さらに、すすんで検討する。 引用発明は、均一な厚みを有し、肉厚が薄く大きいサイズの蛍光体複合ガラスを安価に製造するために、焼成温度では蛍光体複合ガラスグリーンシートと反応しない拘束部材を蛍光体複合ガラスグリーンシートの両面若しくは片面に積層した後、焼成処理を行い、その後、拘束部材を取り除くことで課題を解決している。一方で、引用文献2?4に記載された複数のグリーンシートをキャスティング方向が直交するように積層して焼結したとしても、その積層体の肉厚は薄くはならない。そうしてみると、引用文献2?4に記載の技術的事項を引用発明に採用したとしても、引用発明の課題である、「均一な厚みを有し、肉厚が薄く大きいサイズの蛍光体複合ガラスを安価に製造する」という課題を解決するには至らないことは明らかであり、引用発明において、拘束部材を用いない引用文献2?4に記載の技術的事項を採用することには、阻害要因があるといえる。 したがって、当業者といえども、引用発明において、引用文献2?4に記載された技術的事項を採用して、相違点に係る本願発明の構成に容易に想到することができるとはいえない。 イ さらに、原査定の拒絶の理由で引用文献5?7として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものである特開2015-142046号公報(以下「引用文献5」という。)、国際公開第2016/063930号(以下「引用文献6」という。)、特開2013-247067号公報(以下「引用文献7」という。)にも、上記相違点に係る本願発明の構成は記載されていない。 ウ 以上ア?イのとおりであるから、本願発明は、当業者が引用発明1及び引用文献2?7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)請求項2?4に係る発明について 本件出願の請求項2?4に係る発明は、いずれも、本願発明に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明であるから、本願発明における全ての発明特定事項を具備するものである。 そうしてみると、前記(3)で述べたのと同じ理由により、本件出願の請求項2?4に係る発明も、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第3 原査定について 理由1(特許法第29条第2項)について 本件出願の請求項1?4に係る発明が、引用発明及び引用文献2?7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、上記「第2」「2」「(3)」?「(4)」で述べたとおりである。 よって、原査定における理由1は、維持できない。 第4 むすび 以上のとおり、本件出願の請求項1?4に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。 また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-04-13 |
出願番号 | 特願2016-162413(P2016-162413) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 川村 大輔 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 神尾 寧 |
発明の名称 | 波長変換部材の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所 |