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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G09B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09B
管理番号 1373437
審判番号 不服2020-4881  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-09 
確定日 2021-05-08 
事件の表示 特願2018-208496「語学学習装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 5月21日出願公開、特開2020- 76812、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年11月5日の出願であって、令和1年9月18日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月11日付けで手続補正がされ、令和2年1月14日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年12月22日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和3年2月26日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
1.本願発明の内容
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、令和3年2月26日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
骨伝導センサーを有する、
イヤホンマイク型センサー、又はマスク型センサー、又はヘアバンド型センサー、又は眼鏡型センサーのいずれかを備え、
学習対象言語の再生原音声を学習者が聴取し、該再生原音声に習って発声を行うことにより当該言語の会話の学習を行う語学学習装置であって、
前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と、該再生原音声の振動の信号の開始点を一致させ、
発声の有声のときは各音節の開始点から終了点の前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値及び終了点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断し、
発声状態の無声のときは各音節の開始点のみの、前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断する尤度判定手段を有する語学学習装置。」

第3 原査定の概要
原査定(令和2年1月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.令和1年11月11日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、以下の引用文献1ないし5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2002-258729号公報
引用文献2:国際公開第2013/118539号(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2017-46094号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2006-229373号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:国際公開第2006/028045号(周知技術を示す文献)

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の出願前である平成14年9月11日に頒布された刊行物である特開2002-258729号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、外国語学習システムに関する。」
イ 「【0012】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。尚、以下の実施の形態の説明では、外国語として英語を例にして説明するが、勿論これに限るわけではなく、本例による外国語学習システムは、基本的には全ての外国語学習に適用できる。
【0013】ところで、まず初めに、外国語学習とは、特に初級者レベル(中学生レベル)の学習においては、丸数字の1(以下、丸数字を「丸1」「丸2」等で表現する)読む(reading )、丸2書く(writing)、丸3聞く(listing)、及び丸4話す(speaking)という4つの学習項目が、基本的且つ重要なものであり、これらの学習を繰り返すことが重要である。このうち、丸1読む(reading)と丸3聞く(listing )は、現在、例えばインターネット上での英語学習サービスで実現されているが、丸2書く(writing)と丸4話す(speaking )ことまでも学習させることは行なわれていない(但し、問題文を読んで、回答を選択したり、回答を書いたりする(キーボード入力等で)のは、丸1読む(reading )に含まれる行為であり、上記「丸2書く(writing )」は、これとは別のことである。詳しくは後述する。また、ここで言っていることは、少なくとも学習内容をチェックする処理まで行うことであり、例えば単に問題文を表示してユーザに勝手に音読させるだけでは丸4話す(speaking)学習を行なわせたことにはならないものとする)。本例の外国語学習システムでは、上記4つの学習項目を、きちんと学習しているかを随時チェックしながら、繰り返し学習を行なわせることで、確実に効率的に外国語学習成果が上がるようにできる。」
ウ 「【0020】図1は、本例による外国語学習システム全体の概略的なシステム構成図である。同図に示す外国語学習システムは、各ユーザ(学習者)が携帯する携帯情報端末1、外国語学習の各種課題や問題文、更に各ユーザの学習結果や学習履歴等の情報を格納するデータベース(不図示)を備えるサーバ装置2、公衆回線網、専用線網(PHS網、携帯電話網等)、インターネット等であるネットワーク(学校内の閉じたネットワークも含む)3より成る。
【0021】ユーザは、所望のときに、携帯情報端末1を操作して、ネットワーク3を介してサーバ装置2にアクセスし、例えば一週間分の学習課題(またはその都度必要な分の学習課題)をダウンロードする。そして、詳しくは後述する各種学習を行う。携帯情報端末1は後述するように学習内容をチェックしつつユーザに学習を行なわせ、また学習結果(課題終了(後述する“合格”)した学習項目名や問題に対する回答またはその採点結果)をサーバ装置2に送る。」
エ 「【0023】図2は、携帯情報端末の概略的なハードウェア構成の一例を示す図である。本例の外国語学習システムで用いる携帯情報端末は、ハードウェア構成自体は既存のものを用いればよいので、特に詳細には説明しないが、概略的には、CPU11、記憶部12、表示/入力部13、音声入力部14、音声出力部15、通信部16等を有する。
【0024】記憶部12には、後に説明する外国語学習システムによる学習処理を実現させる為のアプリケーションプログラムや、その他、OSや従来より存在する携帯情報端末の機能を提供する各種プログラムが格納されており、CPU11はこれらプログラムを読み出して、各種処理を実行する。記憶部12は、例えばROM/RAM等である。あるいは、携帯情報端末が携帯可能なパソコン(ノート型パソコン等)である場合には、更にHDD(ハード・ディスク・ドライブ)、可搬記憶媒体(FD(フレキシブルディスク)、CD-ROM等)であってもよい。
【0025】表示/入力部13は、例えばタッチパネル(及びスタイラスペン等の専用ペン)である。音声入力部14は、主に丸4上記話す(speaking)学習の際に必要な構成であり、内蔵マイクであっても、外付けマイクであってもよいが、本例では携帯情報端末を用いて何時でも何処でも学習させるようにしている為、例えば公共の場では周囲の雑音が大きく、後述する丸4話す(speaking)学習のチェック処理で間違いが生じるのを防ぐ為、所謂「骨導マイク」(振動ピックアップ型マイクロホン)を用いるのが望ましい。
【0026】音声出力部15は、主に上記丸3聞く(listing)で用いられる構成であり、スピーカー等であってもよいが、イヤホン等を用いるほうが望ましい。通信部16は、本例では主に上記ネットワーク3を介してサーバ2とデータ送受信(問題文のダウンロード/学習結果の返信等)する為の構成であり、特に無線通信機能を提供するものである。よって、例えば、PHSや携帯電話等の無線通信機能を内蔵してもよいし、外部のPHSや携帯電話等と接続する構成であってもよい。」
オ 「【0036】

・丸4話す(speaking)学習(話すことの学習経過のモニタリング)
利用者の発する音声の入力には、携帯情報端末内蔵または外付けのマイクを使用する。これは通常のマイクでもよい。但し、携帯情報端末を用いる学習は、いつでも何処でも行えるというメリットがあるが、戸外等の騒音が多い場所等、音声のピッチ抽出に悪影響を与えるような場所では、骨導マイク(振動ピックアップ型マイクロホン)が望ましい。以下、図6を参照して説明していく。
(a) まず、予め、例えばモデルとなる人(正しい発音ができる人)に、ユーザに丸4speaking学習させる各文章を音読させて、その音声波形パターンとピッチパターンとを測定し、これを記憶しておく(モデルパターンという)。
(b) ユーザに学習させる際には、上記文章を表示すると共に、この文章の音声波形の軌跡や音声のピッチの変化(上記モデルパターン;例えば図6(a)に示すように)を表示する。そして、例えば適当な速度で文章中の文字(または単語毎)の色を変化させていくことで、ユーザに音読を指示する(または、模範的な音読をスピーカーから流して聞き取らせ、これを真似するように指示するようにしてもよい)。
【0037】そして、ユーザによる音読の音声波形パターンとピッチパターンとを測定し、これとモデルパターンとを比較する。そして、両者が“一致”するか否かを判定し、一致する場合は合格、一致しない場合には不合格とする(その文章についてspeaking学習を行なったとは認めず、例えば再度音読を行なわせる)。
【0038】上記両者が“一致”するか否かの判定の具体的な方法は、例えば以下に説明する2通りがある。但し、これは一例であり、この例に限らず、例えば既存の音声認識ソフトを利用するものであってもよい。すなわち、ユーザが音読したものを音声認識して、この認識結果としての文章と、出題文書(上記表示させたもの)とを比較して、両者が一致すれば合格とするようにしてもよい。この場合、上記モデルパターンは必要なく、単に、表示される文章通りに音読したか否かのみをチェックすることになる。尚、既存の音声認識ソフトの認識率を考慮して、完全に一致しなくても合格とするようにしてもよい。
(1)第1の方法
音声波形の振幅がある部分から無音部分の終りまでを1つの単位として(例えば、図6(a)の丸1の部分;図6(b)の丸1’の部分)、モデルパターンと比較して、一致/不一致を判定する(但し、厳密に一致/不一致をチェックするのではなく、ある程度大きなマージンをとって、パターン同士を比較する。基本的には、発音の正確さを厳密にチェックすることを目的とするのではなく、真面目に学習(トレーニング)しているかをチェックすることが目的だからである。よって、複雑/高度な音声認識機能を用いる必要なく、プログラムが簡略化されるので、携帯情報端末の少ない記憶容量でも十分対応可能である)。その際、ユーザの音読速度をモデルパターンの音読速度に合わせるように補正してから(図6(b)の丸1’の部分の長さを、図6(a)の丸1の部分の長さに合わせるように補正する)、両者を比較するようにする。これより、ユーザの音読の速度が多少遅くても(あるいは早くても)、これをもって不一致(不合格)となってしまわないようにできる。但し、学習者の音読パターンにおいて“振幅がある部分”が、モデルパターンの“振幅がある部分”より、所定の第1の設定値以上長かった場合は(例えば1.3倍以上)、うまく発音できずに途中でつまったことが予想されるので、“不合格”とし、もう一度音読するように指示する。あるいは、その逆に、所定の第2の設定値より短かった場合にも(例えば0.6以下)、最後まで読んでいない可能性があるので、“不合格”とし、もう一度音読するように指示する。
(2)第2の方法
第2の方法では、ピッチの高低のパターンを見る。
【0039】例えば、モデルパターンのある部分において、ピッチのパターンが山形に下から始まって、途中頂点に達し、下降するという流れを辿ったとき、学習者のパターンがこれと同じような山形のピッチの変化を辿った場合(但し、多めのマージンをとるようにし、厳密に見るようなことはしない。理由は、丸2書く(writing)学習で説明したことと同じである)、“合格”(学習者がちゃんと音読練習したもの)と見做す。その際、具体的なピッチ自体は、話者により異なるので考慮せず、その動きだけに注目する。
【0040】ここで、上述してあるように、騒音が多い場所(戸外、電車/バス内等)で「話す(speaking)学習」を行う場合には、骨導マイク(振動ピックアップ型マイクロホン)を用いることが望ましい。
【0041】骨導マイク(振動ピックアップ型マイクロホン)は、本出願の発明者により特公昭53-39763号、特許2583838(特願平2-299734号)の発明等で既に提案されているものであり、外耳道壁から骨伝導音声振動をピックアップする構成となっているので、他人の音声や騒音(空気振動)を拾い難い。例えば図7に示す測定データからも、音声信号の対騒音比が最も優れたマイクロホンであることが分かる。
【0042】ところが、上記振動ピックアップ型マイクロホンと、通常のマイク(以下、気道型マイクロホンと呼ぶ)とでは、その音声収集に関する原理上(骨を伝わってくる音声、空気中を伝わってくる音声)、収集した音声の周波数構造が異なる。骨導マイクは、例えば、図8(a)に示す周波数特性をもっている。また、骨導マイクを気道型マイクロホンと比較した場合の(気道型マイクロホンを0(dB)とした場合に得られた)信号スペクトルは、図8(b)に示すようになる。図示の通り、骨導マイクは、通常のマイクと比較すると、1000(Hz)を越える周波数領域では、response(dB)が急激に下がる(骨は、空気に比べて、高い周波数が伝わり難い為)。一方、上記モデルパターンを作成する際には、通常のマイクを使っていた。この為、ユーザの発音が悪くないにも係わらず、“不合格”となる可能性があった。
【0043】この問題に対しては、2通りの対応方法が考えられる。1つ目の方法は、骨導マイクにより収集した音声信号を補正する方法である。この方法では、通常のマイクを使って作成されたモデルパターンとのマッチングが正常に行われるようにする為に、骨導マイクの周波数構造を通常のマイクに合わせるように補正する補正手段を、音声処理回路の前段に設ける。補正手段は、上記1000(Hz)以上の周波数領域に対して逆補正特性を持つフィルター回路(逆フィルター回路)であってもよいし、ソフトウェアにより補正を行うようにしてもよい。
【0044】2つ目の方法は、骨導マイクを使用したモデルパターンも作成/記憶しておき、ユーザが使用するマイクに応じてマッチングに用いるモデルパターンを切換える方法である。
【0045】上記何れの方法においても、現在使用しているマイクがどちらであるのかを知る必要がある。これに対しては、例えば、何等かのスイッチ、あるいはソフトウェアにより、ユーザが現在使用しているマイクの種類を設定する。
【0046】あるいは、使用する装置にマイク入力端子を2つ(通常マイク用と骨導マイク用)設ける。これは、1つ目の方法に関しては図9に示す構成とすればよいし、2つ目の方法に関しては現在マイクが接続されている端子を検出して、それに応じたモデルパターンを用いてマッチングを行えばよい(例えば、骨導マイク用の端子にマイクが接続されていることを検出した場合には、骨導マイクを使用して作成されているモデルパターンを用いてマッチングを行う)。
【0047】あるいは、上記のような新たな構成を設けることなく、ソフトウェアにより判別を行うようにしてもよい。上記の通り、通常のマイクと骨導マイクとでは周波数特性が異なり、図8(a)に示すようにピーク(3kHz付近で)を持つので、例えば使用開始時にユーザに特定のアクション(例えばマイクを触るか、軽く叩く)を行ってもらうことで、現在どちらのマイクを使用しているのかを判別できる(勿論、この特定のアクションに応じた判別基準(閾値等)は、予め同様のアクションの実測データに基づいて決定されている)。これは、例えば、FFTと呼ばれるソフト(通常、組込まれている)により周波数分析を行って、上記3kHz付近の周波数特性を見ることで判別できる(骨導マイクは、マイクに触れただけでも敏感に反応する)。
【0048】最後に、本発明は、外国語学習システム、その情報処理端末、及びサーバという装置自体に限らず、コンピュータにより使用されたときに、上述した本発明の各実施形態の機能を実現させる為のプログラムが格納されたコンピュータ読出し可能な記録媒体(記憶媒体)として構成することもできる。
【0049】この場合、「記録媒体」には、例えば図10に示されるように、例えばCD-ROM21、フレキシブルディスク22(あるいはMO、DVD、リムーバブルハードディスク等であってもよい)等の可搬記憶媒体や、外部の情報処理装置23内の記憶手段(不図示)、あるいは情報処理装置20(上記携帯情報端末1/サーバ2)内の記憶装置(RAM/ROM又はハードディスク等)が含まれる。
【0050】あるいは、図10に示すように、本発明の装置及び方法を実現させるプログラムは、当該プログラムが格納されている外部の情報処理装置23内の記憶手段(不図示)から、ネットワーク3を介して、情報処理装置20内の記憶装置にロードされるものであってもよいし、または当該プログラムが格納されているCD-ROM21、フレキシブルディスク22等を、情報処理装置20に設けられた(あるいは接続された)媒体駆動装置20aに挿入することで、これら可搬記憶媒体に記憶されているプログラム(データ)21a、22aが、媒体駆動装置20aによって読み出されるものであってもよい。」
カ 「【図6】



(2)引用文献1の記載から認定できる事項
ア 上記(1)のオの【0036】の「(a) まず、予め、例えばモデルとなる人(正しい発音ができる人)に、ユーザにspeaking学習させる各文章を音読させて、その音声波形パターンとピッチパターンとを測定し、これを記憶しておく(モデルパターンという)。」、「(b) ユーザに学習させる際には、上記文章を表示すると共に、この文章の音声波形の軌跡や音声のピッチの変化(上記モデルパターン;例えば図6(a)に示すように)を表示する。そして、例えば適当な速度で文章中の文字(または単語毎)の色を変化させていくことで、ユーザに音読を指示する(または、模範的な音読をスピーカーから流して聞き取らせ、これを真似するように指示するようにしてもよい)。」との記載からすれば、スピーカーから流して聞き取らせるための「模範的な音読」は、モデルとなる人(正しい発音ができる人)に、ユーザにspeaking学習させる各文章を音読させたものであって、携帯情報端末は、モデルとなる人(正しい発音ができる人)に、ユーザにspeaking学習させる各文章を「模範的な音読」として音読させた際の音声波形パターンとピッチパターンとを測定し、これをモデルパターンとして記憶しておくものといえる。

イ 上記(1)のカの【図6】及び上記(1)のオの【0038】の「その際、ユーザの音読速度をモデルパターンの音読速度に合わせるように補正してから(図6(b)の丸1’の部分の長さを、図6(a)の丸1の部分の長さに合わせるように補正する)、両者を比較するようにする。」との記載からすれば、ユーザの音読速度をモデルパターンの音読速度に合わせるように補正することは、音声波形の振幅がある部分から無音部分の終りまでを1つの単位として、単位ごとに、ユーザによる音読の音声波形パターンの開始点と終了点を、モデルパターンの開始点と終了点に合わせているといえる。

(3)引用発明1
上記(1)及び(2)より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「外国語学習システムで用いる携帯情報端末であって、
外国語学習システムによる学習処理を実現させる為のアプリケーションプログラムを読み出して、各種処理を実行するCPU11と、
記憶部12と、
表示/入力部13と、
骨導マイクを用いた音声入力部14と、
スピーカーを用いた音声出力部15と、を有し、
モデルとなる人に、ユーザに話す学習をさせる各文章を模範的な音読として音読させた際の音声波形パターンとピッチパターンとを測定し、これをモデルパターンとして記憶しておき、
模範的な音読をスピーカーから流して聞き取らせ、これを真似するように指示し、
ユーザによる音読の音声波形パターンとピッチパターンとを測定し、
音声波形の振幅がある部分から無音部分の終りまでを1つの単位として、単位ごとに、ユーザによる音読の音声波形パターンの開始点と終了点を、モデルパターンの開始点と終了点に合わせてから、ユーザによる音読の音声波形パターン及びピッチパターンと、モデルパターンとを比較して、両者が一致するか否かを判定し、一致する場合は合格、一致しない場合には不合格として再度音読を行なわせるものである、
携帯情報端末。」

2.引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の出願前である2013年8月15日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能であった国際公開第2013/118539号(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

「[0017] 本発明を実施するための形態につき、添付図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明に係る骨伝導イヤホンの一実施形態の縦断面図であり、そこに示されるように本発明に係る骨伝導イヤホンは、コード導入口1aを有する後面カバー1と、骨伝導マイクロホン12と骨伝導スピーカ13とを収納して後面カバー1に組み付けられるイヤホンケース2とから成る。

[0018] イヤホンケース2は、その先端側に配置される骨伝導マイクロホン12を収納するためのマイク収納スペース4と、後面カバー1側に配置される骨伝導スピーカ13を収納するためのスピーカ収納スペース5とを有する硬質樹脂製イヤプラグ3と、マイク収納スペース4設置部分に被装されるイヤプラグ3よりも軟質資材製の感知カバー6とで構成される。好ましい実施形態においては、感知カバー6の先端部下部に空間部7が形成され、その空間部7を形成する薄肉の外壁面8が膨出状態となって、外耳道の内壁に密着することにより骨導音を感知する構成とされる。」

(2)引用文献2に記載の技術的事項
上記(1)より、引用文献2には、「コード導入口1aを有する後面カバー1と、骨伝導マイクロホン12と骨伝導スピーカ13とを収納して後面カバー1に組み付けられるイヤホンケース2とから成る骨伝導イヤホン」という技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
(1)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願の出願前である平成29年3月2日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能であった特開2017-46094号(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0010】
図1に示す防音送話装置1は、遮音カバー2と、騒音検出用マイクロホン3及び4と、使用者の音声を収音するための送話用マイクロホン6及び7と、使用者の口の動きを検出する焦電センサ8と、を有する。図1では、符号Uで示す使用者の顔を模式的に描いている。」
イ 「【0012】
遮音カバー2は、使用者Uの発する音声を収音するために、外部騒音を可及的に遮断する部材であり、少なくとも口を覆うようにして使用者Uに装着される。図1に示す例では、装着状態において使用者Uの口及び鼻を覆うように、遮音カバー2の大きさや形状が定められている。遮音カバー2は周縁部21と、周縁部21と一体に形成されたカバー本体部22と、を備える。周縁部21は、軟質な素材により形成され、使用者Uの口及び鼻まわりの顔の一部に密着する。また、カバー本体部22は、顔の前面側に位置する例えばゴム素材等により成形される。
【0013】
カバー本体部22は、使用者Uの口元において比較的大きな空間部23を形成するように外側に湾曲した形状を有する。この例では、カバー本体部22は、中央部よりも上側の位置に、ベント24を有している。ベント24は、使用者Uの口または鼻からの呼吸気を通すものであり、この呼吸用のベント24を覆うようにして、多孔質体によるシート状の音響抵抗体25が取り付けられている。
【0014】
遮音カバー2の内側には、第1のマイクロホンとしての送話用マイクロホン6が配置されている。送話用マイクロホン6は、使用者Uの口元に対峙する位置に設けられ、使用者Uの発する声音を気導音として収音し出力する。」
ウ 「【0017】
送話用マイクロホン6は、使用者Uの口の近傍に位置し、使用者Uの発した音声を気導音として収音するものである。この実施形態では、送話用マイクロホン6として、単一指向性を有するコンデンサマイクロホンが用いられる。送話用マイクロホン6の他の例として、双指向性を有するマイクロホンが用いられてもよい。送話用マイクロホン6は、使用者Uの口元に対峙するように配置され、遮音カバー2の内側(内部)に固定配置される。
【0018】
他方、送話用マイクロホン7は、第2のマイクロホンとして機能し、使用者Uの発した音声を骨導音として収音するものである。本実施形態では、送話用マイクロホン7として、振動センサを用いた骨伝導マイクロホンが用いられる。送話用マイクロホン7は、使用者Uが声帯の振動により音声を発する際に、骨に伝わる声帯の振動を振動センサでピックアップして音声信号に変換する。以下、各送話用マイクロホン6及び7で収音され出力される信号を「収音信号」と称する。」

(2)引用文献3に記載の技術的事項
上記(1)より、上記引用文献3には、「口を覆うようにして使用者Uに装着される遮音カバー2と、騒音検出用マイクロホン3及び4と、使用者Uの口元に対峙する位置に設けられ、使用者Uの発する声音を気導音として収音し出力する送話用マイクロホン6と、使用者Uの発した音声を骨導音として収音する送話用マイクロホン7と、使用者の口の動きを検出する焦電センサ8と、を有する防音送話装置1。」という技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4について
(1)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用され、本願の出願前である平成18年8月31日に頒布された刊行物である特開2006-229373号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。

「【0009】
以下、図面に基づき本発明の1実施形態について説明する。図1に示す骨伝導送受話ヘッドバンド(1)は、二点鎖線で示す人間の頭部(8)の形状に沿って円弧状に曲成して弾力性を持たせており、数10mmの所定幅で薄肉、且つ長尺の細長い合成樹脂製の板状体(2)から形成されている。この板状体(2)の長手方向の両端部は、頭部(8)の表面に弾力性をもって軽く押圧するように押圧部(3)が形成されており、その端部近傍には骨伝導スピーカ(5)を装着している。
【0010】
骨伝導スピーカ(5)は、圧電セラミックスの薄い層と電極層を交互に積層した積層圧電アクチュエータであり、音源からの音声信号を送信器から無線信号に変換して受信器に入力し、入力された信号を圧電式の音響振動として聴取者の頭部(8)に直接伝達することで骨伝導により音声が聞こえるようにしたものである。
【0011】
前記骨伝導スピーカ(5)から離間した、例えば板状体(2)の長手方向の中央部の内面側には、前記スピーカ(5)と同様に骨伝導によって音声を伝達する骨伝導マイク(6)を頭部に当接するように設置しており、これら骨伝導のスピーカ(5)とマイク(6)は板状体(2)の中央部分の外面に電源部とともに取り付けたトランスミッター(7)に接続されている。
【0012】
この構成によれば、円弧状の板状体(2)をその弾性力により頭部(8)につけるだけのカチューシャタイプであるため、使用者としては、装着が容易であるとともにヘアベルトのように頭部(8)を締め付けることがないので圧迫感を軽減できるものであり、ヘッドバンド(1)としての構成も面接合テープや面ファスナーが不要となるばかりでなく、トランスミッターが別体である場合に接続コードなどによる煩わしさもなくなって簡単な構成となり、コンパクトな形状にすることができる。」

(2)引用文献4に記載の技術的事項
上記(1)からすれば、引用文献4には、「骨伝導スピーカ(5)と、骨伝導によって音声を伝達する骨伝導マイク(6)を設置したカチューシャタイプの骨伝導送受話ヘッドバンド(1)。」という技術的事項が記載されていると認められる。

5.引用文献5について
(1)引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用され、本願の出願前である2006年3月16日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能であった国際公開第2006/028045号(以下、「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「[0014] 以下、本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。図示したものは送受話機能を有する本発明に係るメガネ型通信装置であって、メガネの体裁をしていて、マイクロホン1が取り付けられるテンプル2と、骨伝導スピーカー3が取り付けられる耳あて4と、耳あて4の先端に形成される入出力端子5と、 上記各部以外の普通のメガネと同じ機能を果たす部品 (前枠、レンズ等)とで構成される。」
イ 「 [0019] マイクロホン1は、気導式であってもよいし、骨伝導マイクロホンであってもよい。図示したものは、いずれも気導マイクロホンであって、骨伝導マイクロホンを用いる場合はそれよりも耳側、即ち、骨伝導スピーカー3に近い耳珠又は顎関節付近に設置される。骨伝導マイクロホンを用いる場合使用者の発声音は、骨導音として骨伝導マイクロホンによってピックアップされ、電気信号に変換されて送信される。この場合も周囲騒音はピックアップされず、使用者の発生音のみが送信されるので、相手方はそれを明瞭に聴取することができる。」

(2)引用文献5に記載の技術的事項
上記(1)からすれば、引用文献5には、「メガネの体裁をしていて、マイクロホン1が取り付けられるテンプル2と、骨伝導スピーカー3が取り付けられる耳あて4と、耳あて4の先端に形成される入出力端子5と、 上記各部以外の普通のメガネと同じ機能を果たす部品 (前枠、レンズ等)とで構成され、マイクロホン1は骨伝導マイクロホンである、メガネ型通信装置。」という技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明1の「外国語学習システムで用いる携帯情報端末」は、「外国語学習システムによる学習処理を実現させる為のアプリケーションプログラムを読み出して、各種処理を実行するCPU11」を備えるものであって、語学学習を行うための装置であるから、本願発明1の「語学学習装置」に相当する。

イ 引用発明1の「骨導マイクを用いた音声入力部14」は、骨導マイクが骨伝導による音声入力を行うセンサーとして機能することは明らかであるから、本願発明1の「骨伝導センサー」に相当する。

ウ 引用発明1の「模範的な音読」は、「外国語学習システムによる学習処理」における「ユーザに話す学習をさせる」ためのものであり、かつ、「話す学習」において「模範的な音読をスピーカーから流して聞き取らせ」るものである。そして、「話す学習」における「模範的な音読」が、学習対象言語によって行われていることは自明であることを踏まえれば、引用発明1の「模範的な音読」は、本願発明1の「学習対象言語の再生原音声」に相当する。

エ 引用発明1の「模範的な音読をスピーカーから流して聞き取らせ、」は、ユーザが模範的な音読を聴取するものであるから、本願発明1の「学習対象言語の再生原音声を学習者が聴取し、」に相当する。

オ 引用発明1の「これを真似するように指示し、」は、「これ」が「模範的な音読」であること、及び、「真似する」ことは模範的な音読に習って発声を行うことであることは明らかであるとともに、「真似する」ことによって言語の学習を行っていることも、当業者にとって自明な事項である。
してみれば、本願発明1の「学習対象言語の再生原音声を学習者が聴取し、該再生原音声に習って発声を行うことにより当該言語の会話の学習を行う語学学習装置」と、引用発明1の「模範的な音読をスピーカーから流して聞き取らせ、これを真似するように指示」する「携帯情報端末」とは、「学習対象言語の再生原音声を学習者が聴取し、該再生原音声に習って発声を行うことにより当該言語の」「学習を行う語学学習装置」である点で一致する。

カ 引用発明1は、「ユーザによる音読の音声波形パターン及びピッチパターンと、モデルパターンとを比較して、両者が一致するか否かを判定」するにあたって、「音声波形の振幅がある部分から無音部分の終りまでを1つの単位として、単位ごとに、ユーザによる音読の音声波形パターンの開始点と終了点を、モデルパターンの開始点と終了点に合わせている」ものであって、少なくとも両者の開始点を一致させているといえること、及び、「ユーザによる音読の音声波形パターン」が、「骨導マイクを用いた音声入力部14」によって得られる振動の信号であることは明らかであることからすれば、引用発明1は、本願発明1の「前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と、該再生原音声の振動の信号の開始点を一致させ、」という発明特定事項に相当する構成を具備している。

キ 引用発明1は、「ユーザによる音読の音声波形パターン及びピッチパターンと、モデルパターンとを比較しているものであること、及び、上記カで示したとおり、「ユーザによる音読の音声波形パターン」が、「骨導マイクを用いた音声入力部14」によって得られる振動の信号であることは明らかであることからすれば、本願発明1の「発声の有声のときは各音節の開始点から終了点の前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値及び終了点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断し、発声状態の無声のときは各音節の開始点のみの、前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断する尤度判定手段」と、引用発明1の「ユーザによる音読の音声波形パターン及びピッチパターンと、モデルパターンとを比較して、両者が一致するか否かを判定し、一致する場合は合格、一致しない場合には不合格として再度音読を行なわせるものである、」とは、「前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号」を「比較」する点で共通する。

ク したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「骨伝導センサーを有する、
学習対象言語の再生原音声を学習者が聴取し、該再生原音声に習って発声を行うことにより当該言語の学習を行う語学学習装置であって、
前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と、該再生原音声の振動の信号の開始点を一致させ、
前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を比較する語学学習装置。」

[相違点]
(相違点1)
本願発明1は、骨伝導センサーを有する「イヤホンマイク型センサー、又はマスク型センサー、又はヘアバンド型センサー、又は眼鏡型センサーのいずれか」を備えるのに対し、引用発明1は、骨導マイクを用いた音声入力部14が、いかなる型のセンサーを有するものであるのかが特定されていない点

(相違点2)
本願発明1は、学習対象言語の「会話の」学習を行うのに対し、引用発明1は、外国語の「話す」学習を行う点

(相違点3)
本願発明1は、「発声の有声のときは各音節の開始点から終了点の前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値及び終了点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断し、発声状態の無声のときは各音節の開始点のみの、前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断する尤度判定手段」を有するのに対し、引用発明1は、「ユーザによる音読の音声波形パターン及びピッチパターンと、モデルパターンとを比較して、両者が一致するか否かを判定」するものであるが、比較・判定を行う際に、本願発明1のような処理を行っていない点

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
上記相違点1について検討すると、引用文献2ないし5にそれぞれ記載されているように、骨伝導音声振動をピックアップする際のセンサーとして、イヤホンマイク型センサー、マスク型センサー、ヘアバンド型センサー、眼鏡型センサーを用いることは、いずれも本願出願前公知であることを踏まえれば、引用発明1の骨導マイク(振動ピックアップ型マイクロホン)として、イヤホンマイク型センサー、マスク型センサー、ヘアバンド型センサー、眼鏡型センサーのうちのいずれかの型のセンサーを用いることによって、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
上記相違点2について検討すると、語学学習における「話す」学習に、会話の学習やスピーチの学習が含まれることは、当業者に限らず公衆に知られている一般常識であり、かつ、いかなる内容の「話す」学習を行うかは学習者の学習目的に応じて適宜選択し得る程度のものであることを踏まえれば、引用発明1において、「話す」学習として、「会話」の学習を行うようにすることで、上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
上記相違点3について検討する。
例えば英語の一文を話す際、複数の音節を切れ目なく発音することはごく一般的であることを踏まえれば、引用発明1における「音声波形の振幅がある部分から無音部分の終りまで」の単位が必ずしも1つの「音節」の単位に対応するとはいえないことから、引用発明1は、本願発明1のように「音節毎」に比較を行っているものではない。
仮に、単音節の単語からなる一文を、単語ごとに区切って発話した場合は、引用発明1における「音声波形の振幅がある部分から無音部分の終りまで」の単位が1つの「音節」の単位に対応するといえなくもないが、この場合であっても、引用発明1は、「ユーザによる音読の音声波形パターン及びピッチパターンと、モデルパターンとを比較して、両者が一致するか否かを判定」するにあたって、「音声波形の振幅がある部分から無音部分の終りまでを1つの単位として、単位ごとに、ユーザによる音読の音声波形パターンの開始点と終了点を、モデルパターンの開始点と終了点に合わせている」ものであり、開始点と終了点それぞれをズレのない状態に合わせているのであるから、引用発明1においては、「ユーザによる音読の音声波形パターン及びピッチパターンと、モデルパターンとを比較」しても、両者の開始点と終了点にはズレが生じることはないことから、本願発明1の「発声の有声のとき」の「当該各音節の開始点のズレ…及び終了点のズレ」、及び、「発声状態の無声のとき」の「当該各音節の開始点のズレ」を評価するものでないことは明らかである。
してみれば、引用発明1の「ユーザによる音読の音声波形パターン及びピッチパターンと、モデルパターンとを比較して、両者が一致するか否かを判定し、一致する場合は合格、一致しない場合には不合格として再度音読を行なわせるものである」という技術的事項は、本願発明1が「発声の有声のときは各音節の開始点から終了点の前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値及び終了点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断し、発声状態の無声のときは各音節の開始点のみの、前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断する」という発明特定事項とは明らかに相違するものである。
また、引用発明1において、「発声の有声のとき」と「発声状態の無声のとき」とで場合分けをして処理を行うことについては何ら記載も示唆もされていない。
したがって、引用文献1には、上記相違点3に係る本願発明1の構成について何ら記載も示唆もされていない。
また、引用文献2ないし5には、上記相違点3に係る構成について何ら記載も示唆もされておらず、上記相違点3に係る本願発明1の構成が本願の出願前に当業者に知られていたことを示す証拠も見当たらない。
さらに、上記相違点3に係る構成が当業者の設計的事項であるという根拠も見当たらない。
よって、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者であっても引用発明1、及び、引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に想到し得たことであるとはいえない。

(3)小括
したがって、上記(2)ウにより、本願発明1は、当業者であっても引用発明1、及び、引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)当審では、令和2年4月9日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、「高度な音声認識技術を使い、プロソディやフォルマントの検出を行って音声の周期性を解析するなどの複雑な処理」を行うことによって、尤度を求めるものをも包含していることは明らかであるから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、かつ、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないといわざるを得ないため、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない、との拒絶の理由を通知している。

(2)上記(1)の理由に対して、令和3年2月26日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1において、当初明細書の【0069】、図7に基づいて、「前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と、該再生原音声の振動の信号の開始点を一致させ、発声の有声のときは各音節の開始点から終了点の前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値及び終了点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断し、発声状態の無声のときは各音節の開始点のみの、前記骨伝導センサーから取得される振動の信号と該再生原音声の振動の信号を音節毎に比較して、当該各音節の開始点のズレの絶対値の合計を計算し、合計が予め決めた最小値を下回るまで繰り返すことにより学習達成度を判断する」と、処理の内容が「高度な音声認識技術を使い、プロソディやフォルマントの検出を行って音声の周期性を解析するなどの複雑な処理」ではないことが特定されたことから、上記(1)の拒絶理由は解消した。

2.当審拒絶理由の理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)当審では、令和2年4月9日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知している。

ア 同請求項1には、「歪ゲージまたはコイル状の銅線からなる骨伝導センサーを有して、」と記載されているが、歪ゲージからなる骨伝導センサー、ないし、コイル状の銅線からなる骨伝導センサー、とはそれぞれ具体的にいかなる骨伝導センサーを指しているのかを明確に把握することができない。

イ 同請求項1の記載では、「歪ゲージまたはコイル状の銅線からなる骨伝導センサーを有して、」と「イヤホンマイク型センサー、 又はマスク型センサー、又はヘアバンド型センサー、又は眼鏡型センサーのいずれかからなる、」との技術的関係を明確に把握することができない。

ウ 同請求項1の「歪ゲージまたはコイル状の銅線からなる骨伝導センサーを有して、イヤホンマイク型センサー、 又はマスク型センサー、又はヘアバンド型センサー、又は眼鏡型センサーのいずれかからなる、・・・語学学習装置であって、」との記載が、具体的にいかなる事項を特定しているのかを明確に理解することができない。

(2)上記(1)アの理由に対して、令和3年2月26日付け手続補正書によって、「歪ゲージまたはコイル状の銅線からなる」との記載が削除されたため、上記(1)アの拒絶理由は解消した。

(3)上記(1)イ及びウの理由に対して、令和3年2月26日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1において、「骨伝導センサーを有する、イヤホンマイク型センサー、又はマスク型センサー、又はヘアバンド型センサー、又は眼鏡型センサーのいずれかを備え、学習対象言語の再生原音声を学習者が聴取し、該再生原音声に習って発声を行うことにより当該言語の会話の学習を行う語学学習装置であって、」と特定されたことにより、「イヤホンマイク型センサー、又はマスク型センサー、又はヘアバンド型センサー、又は眼鏡型センサーのいずれか」が「骨伝導センサーを有する」ことが明確に特定されたとともに、「語学学習装置」が「骨伝導センサーを有する」「イヤホンマイク型センサー、又はマスク型センサー、又はヘアバンド型センサー、又は眼鏡型センサーのいずれか」を「備え」ることが明確に特定されたため、上記(1)イ及びウの拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、当業者が引用発明1、及び、引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしている。
したがって、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-04-12 
出願番号 特願2018-208496(P2018-208496)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G09B)
P 1 8・ 537- WY (G09B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 東 芳隆  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 清水 康司
古川 直樹
発明の名称 語学学習装置  

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