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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1373589
審判番号 不服2020-7051  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-22 
確定日 2021-04-30 
事件の表示 特願2016-143685「立体物造形方法及び立体物造形装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月25日出願公開、特開2018- 12278〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年7月21日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 1年 7月24日付け:拒絶理由通知
令和 1年 9月27日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 2年 2月20日付け:拒絶査定
令和 2年 5月22日 :審判請求書及び手続補正書の提出

第2 補正の却下の決定
[結論]
令和2年5月22日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 令和2年5月22日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容

本件補正は、特許請求の範囲を変更する補正であって、本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ以下のとおりである。

(1)本件補正前
「【請求項1】
1色以上の着色材を用いて形成される単位層を積層することにより立体物を造形する立体物造形方法であって、
色データを含む3次元データから複数の断面スライス情報を算出するスライス情報算出工程と、
前記複数の断面スライス情報の各層に対して、少なくとも前記色データの一部にディザマトリクスを用いて中間調処理を行うと共に、前記複数の断面スライス情報のうち、少なくとも2の前記断面スライス情報に対して用いられる前記ディザマトリクスのパターンが異なるように前記中間調処理を行う中間調処理工程と、
前記中間調処理が行われた前記断面スライス情報に基づき、前記単位層を形成する単位層形成工程と、
を有し、
前記単位層は、表現したい色調に応じて必要なドットにのみ前記着色材を吐出し、それ以外のドットには透明材を吐出して、全てのドットが埋まるよう形成されることを特徴とする立体物造形方法。」

(2)本件補正後(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
1色以上の着色材を用いて形成される単位層を積層することにより立体物を造形する立体物造形方法であって、
色データを含む3次元データから複数の断面スライス情報を算出するスライス情報算出工程と、
前記複数の断面スライス情報の各層に対して、少なくとも前記色データの一部にディザマトリクスを用いて中間調処理を行うと共に、前記複数の断面スライス情報のうち、少なくとも2の前記断面スライス情報に対して用いられる前記ディザマトリクスのパターンが異なるように前記中間調処理を行う中間調処理工程と、
前記中間調処理が行われた前記断面スライス情報に基づき、前記単位層を形成する単位層形成工程と、
を有し、
前記ディザマトリクスは、直交する2軸方向のそれぞれにドットが並んで配置され、そのドットの各々に異なる数字が付与されたものであり、
前記単位層は、表現したい色調に応じて閾値を設定し、該閾値と前記数字とを比較することで前記着色材を吐出するか否かをドット毎に決定し、必要なドットにのみ前記着色材を吐出すると共に、それ以外のドットには透明材を吐出して、全てのドットが埋まるよう形成されることを特徴とする立体物造形方法。」

2 請求項1に係る補正の目的
請求項1に係る本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ディザマトリクス」について、「直交する2軸方向のそれぞれにドットが並んで配置され、そのドットの各々に異なる数字が付与された」として、形式的には一応限定を付加するものであり、「着色材を吐出する」にあたり「閾値を設定し、該閾値と前記数字とを比較することで着色材を吐出するか否かをドット毎に決定し、必要なドットにのみ前記着色材を吐出すると共に、それ以外のドットには透明材を吐出」するという限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野(立体物造形方法)及び解決しようとする課題(立体物の表面画質を3次元データに近付ける)が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものと判断する。

3 独立特許要件違反の有無について
請求項1に係る本件補正は、上記2のとおり、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2016-107406号公報(平成28年6月20日出願公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。なお、下線については、当審において付与した。以下同様。
「【請求項1】
インクジェット方式の立体物形成装置が立体物を形成するためのデータを処理する画像処理装置であって、
前記立体物の3次元物体データを受理するデータ受理部と、
前記立体物の表面の少なくとも一部が着色される際、前記3次元物体データに対し、着色する表面の最表層および該最表層の内側の複数の層に前記着色を施した3次元データを作成するデータ作成部と、を有することを特徴とする画像処理装置。
…(中略)…
【請求項4】
前記最表層よりも内側の複数の層のうち少なくとも1層のドット配列パターンは、前記最表層のドット配列パターンと異なることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記3次元データは、ドット配置を規定する3次元のディザマトリクスを用いることにより作成されることを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
…(中略)…
【請求項8】
前記3次元データは、前記最表層よりも内側の複数の層ごとに、ドット配置パターンを回転および/または平行移動させることにより作成されることを特徴とする請求項4?7のいずれかに記載の画像処理装置。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載の画像処理装置と、該画像処理装置により作成された前記3次元データに基づいて立体物を形成する立体物形成装置と、からなることを特徴とする画像処理システム。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理システム、画像処理プログラムおよび立体物の生産方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、インクジェット方式の立体形成装置が立体物を形成するに際し、下地の色が露出せず立体物の品質を向上させる画像処理装置を提供することを目的とする。」
「【0010】
<画像処理システム>
図1は、画像処理システム10の一例を示す図である。画像処理システム10は、画像処理装置12と、立体物形成装置30と、を備える。画像処理装置12と立体物形成装置30とは、通信可能に接続されている。図2は立体物形成装置30における記録部14の一例を示す図である。
【0011】
立体物形成装置30は、記録部14と、稼働ステージ16と、駆動部26と、を備える。記録部14は、複数のノズル18を備えたインクジェット方式の記録部であり、液滴を複数のノズル18の各々から吐出することによってドットを記録する。ノズル18は、記録部14における、稼働ステージ16との対向面に設けられている。
【0012】
本実施形態では、液滴32は、インク滴および追加液滴の少なくとも一方を含む。インク滴は、画像形成に用いる色材を含むインクの液滴である。すなわち、本実施形態では、画像は、インクによって形成する画像を意味する。
【0013】
追加液滴は、画像に影響を与えない色の液滴である。追加液滴は、例えば、白色または透明である。また、追加液滴は、画像形成対象の支持体Pと同系色であってもよい。支持体Pは、インク滴による画像の形成対象物である。支持体Pは、例えば、記録媒体である。また、インクジェット方式等を用いて液滴を吐出することにより、支持体Pを構成してもよい。
【0014】
インク滴および追加液滴は、刺激硬化性を有する。刺激は、例えば、光(紫外線、赤外線など)、熱、電気などである。本実施形態では、インク滴および追加液滴は、一例として、紫外線硬化性を有する場合を説明する。なお、インク滴および追加液滴は、紫外線硬化性を有する形態に限定されない。
【0015】
記録部14における、稼働ステージ16との対向面には、照射部20が設けられている。照射部20は、ノズル18から吐出されたインク滴や追加液滴を硬化させる波長の光を支持体Pに照射する。本実施形態では、照射部20は、紫外線を照射する。
【0016】
稼働ステージ16は、支持体Pを保持する。駆動部26は、記録部14および稼働ステージ16を、鉛直方向(図1中、矢印Z方向)、鉛直方向Zに垂直な主走査方向X、および鉛直方向Zおよび主走査方向Xに垂直な副走査方向Yに、相対的に移動させる。本実施形態では、主走査方向Xおよび副走査方向Yからなる平面は、稼働ステージ16における記録部14との対向面に沿ったXY平面に相当する。
【0017】
駆動部26は、第1駆動部22および第2駆動部24を含む。第1駆動部22は、記録部14を、鉛直方向Z、主走査方向X、および副走査方向Yに移動させる。第2駆動部24は、稼働ステージ16を、鉛直方向Z、主走査方向X、および副走査方向Yに移動させる。なお、立体物形成装置30は、第1駆動部22および第2駆動部24のいずれか一方を備えた構成であってもよい。」
「【0021】
図2に本実施形態を好適に実施し得る立体物形成装置30の一例を示す。立体物形成装置30における記録部14は、所定方向に複数のノズル18を配列させた構成である。各ノズル18は、液滴32として、インク滴、追加液滴、またはインク滴と追加液滴との混合液を吐出する。ノズル18および液滴を吐出する構成は、公知のインクジェット方式と同様である。
【0022】
本実施形態では、ノズル18K、18C、18M、18Y、18W、18Tが所定方向に配列されている。ノズル18K、18C、18M、18Yは、インク滴を吐出するノズル18である。詳細には、ノズル18Kはブラックのインク滴、ノズル18Cはシアンのインク滴、ノズル18Mはマゼンタのインク滴、ノズル18Yはイエローのインク滴を吐出する。ノズル18Wおよびノズル18Tは、追加液滴を吐出するノズル18である。詳細には、ノズル18Wは白色の追加液滴、ノズル18Tは透明な追加液滴を吐出する。
【0023】
各ノズル18から液滴32が吐出されることで、液滴32に応じたドット34が支持体P上に形成され、インク滴32Aに含まれる色材による画像17が形成される。また、液滴32を積層させて吐出することで、ドット34を積層させ、立体の画像17を形成する。
【0024】
なお、図2には、各ノズル18の各々が1色(1種類)の液滴32を吐出する場合を示した。しかし、各ノズル18は、複数種類の液滴32の混合液滴を吐出してもよい。また、記録部14から吐出するインクの色は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローに限定されない。また、記録部14から吐出する液滴32の種類は、6種類(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、白色、透明)に限定されない。」
「【0028】
図3は、画像処理システム10の機能ブロック図である。立体物形成装置30は、記録部14と、記録制御部28と、駆動部26と、照射部20と、を備える。記録部14、駆動部26、および照射部20は、上述したため、ここでは説明を省略する。
【0029】
記録制御部28は、画像処理装置12から印刷データを受け付ける。記録制御部28は、受け付けた印刷データに応じて、ノズル18から各画素に対応する液滴32を吐出するように、記録部14、駆動部26、および照射部20を制御する。
【0030】
画像処理装置12は、主制御部13を含む。主制御部13は、CPU(Central Processing Unit)などを含んで構成されるコンピュータであり、画像処理装置12全体を制御する。なお、主制御部13は、汎用のCPU以外で構成してもよい。例えば、主制御部13は、回路などで構成してもよい。
【0031】
主制御部13は、データ受理部12Aと、データ作成部12Bと、出力部12Cと、記憶部12Dと、を含む。これらのデータ受理部12Aと、データ作成部12Bと、出力部12Cとの一部または全ては、例えば、CPUなどの処理装置にプログラムを実行させること、すなわち、ソフトウェアにより実現してもよいし、IC(Integrated Circuit)などのハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。
【0032】
データ受理部12Aは、立体物の3次元物体データを受理する。3次元物体データは、形成する立体物の形状や色などの情報である。データ受理部12Aは、通信部を介して、外部装置から画像データを取得してもよいし、画像処理装置12に設けられた記憶部12Dから画像データを取得してもよい。
【0033】
データ作成部12Bは、立体物の表面の少なくとも一部が着色される際、前記3次元物体データに対し、着色する表面の最表層および該最表層の内側の複数の層に前記着色を施した3次元データを作成する。詳細は後述する。」
「【0044】
次に、従来技術によって形成された立体物の一例を図6に示す。図6は、立体物56の上部の表面を着色した状態を示す模式図である。ここでは、立体物56の上部には着色された表面54が図示されている。立体物の着色にも、上記の平面の場合と同様に並置混色の着色方式が用いられる。
【0045】
図6に示す例のように、形成した立体形状の表面にカラーインクを付着させる方式や、立体形状を形成した後、白インクで表面をコーティングし、その上にカラーインクを付着させる方式等が知られている。なお、白をベースとするのは、着色による色表現が減法混色のためであって、最終的に形成する立体物の表現手法によっては、他の色や透明でも構わない。」
「【0050】
次に、例として白インクと黒インクを用いてモノクロの立体物を形成する場合を挙げて説明する。なお、図8における着色層60よりも内側の部分を凹凸部62と称する。 着色層60よりも内側の部分である凹凸部62は立体物の内部であり、最終的に視認されないため、どのような色のインクであっても構わない。本実施形態では、最終的な視認性の観点から白インクにより形成されることが好ましい。白インクの場合、着色層60の色が視認されやすくなる。
【0051】
最表面をグレーに形成する場合、従来の技術であれば白い立体物の表面に黒インクを50%の比率で付着させることとなる。
一方、本実施形態では、着色層60の各層は、最表面の色と同じ色を表現するようにインク比率が構成され、最表面をグレーに形成する場合、着色層60の各層は白インク50%、黒インク50%で構成される。本実施形態では、立体物の立体形状を着色層60を含めて形成することになる。
【0052】
また、着色層60は複数の着色された層から形成されているが、層の枚数や色によっては、最表面の色が濁ったように暗くなる場合がある。この場合には、最終的に立体物の表面の色が所望の色になるように、各層のインク比率を変更することが望ましい。従って、上記の最表面をグレーに形成する例では、着色層60の各層におけるインク比率が白インク50%、黒インク50%となる構成を必要に応じて変更することができる。
【0053】
すなわち、着色層60における各層の色は、最表層の色と全くの同一でなくても、最表層と同等の色を再現できていればよく、本発明の効果が得られる範囲で、層の深さ方向にインク比率を変更することが可能である。インク比率については、インク成分や着色層の厚み、重ねる数などに応じた最適値をあらかじめ内部データとして所有しておき、各層のデータ生成の時点で適用することもできる。」
「【0056】
図9に、本実施形態により得られる立体物の一例において、未着色領域64が発生した状態を説明するための模式図を示す。図9では、白インクによる凹凸部62に着色層60が形成されて立体物が形成されており、着色層60の表面にヘッドの不吐出によるスジ状の未着色領域64が図示されている。本実施形態においても、インクジェット方式特有の問題である前記不吐出や吐出曲がり等が発生すれば、形成される各層の品質に乱れが生じる可能性がある。
【0057】
しかし、インク未付着領域64が発生したとしても、その下層には着色層60における他の層が存在するため、表面から視認した際の着色品質は悪化しない。すなわち、インクが付着しない領域があっても、下地の色が見えることがない。また、前記不吐出や吐出曲がりといったインクジェット方式特有の問題の他にも、完成した立体物の表面が物損によって削れしまう場合や、表面の平滑性を向上させるために研磨したり溶解したりする場合に対しても、本実施形態により得られる立体物は表面着色性を保つことができる。
【0058】
次に、着色層60におけるドット配置パターンについて説明する。本実施形態により得られる立体物は、着色層60における最表層よりも内側の複数の層のうち、少なくとも1層のドット配列パターンが前記最表層のドット配置パターンと異なることが好ましい。
【0059】
図10に、着色層60のインク配置について説明するための模式図を示す。図10では着色層60における層70があわさって立体物72が形成されることが模式的に示されている。
【0060】
例えば、表面をグレーで着色する場合、着色層60内の白インクと黒インクの配置が各層で同一となると、図10(a)に示すように、層の積み上げ方向に同一インクが連結し、側面から見た場合、縦線状のスジとなって見えることがある。
そこで、図10(b)に示すように、着色層60における各層内のインク配置を異ならせることによって、層の積み上げ方向にもインク滴の配置を分散させることができ、好ましい。これにより、着色層60における各層ごとにドット配置パターンが異なり、縦線状のスジが発生することを抑制することができる。
【0061】
各着色層のインク配置を異ならせる手法としては、立体物全体のドット配置データを生成してから、それをスライスして各層のドット配置データとするケース(A)と、各層ごとにドット配置データを生成するケース(B)とが挙げられる。
【0062】
ケース(A)の処理としては、立体物の3次元のドット配置パターンをまず生成し、形成の対象となる層のスライスデータを生成した後、これに基づいて当該層を立体物形成装置30により形成する。そして、次の層のスライスデータを生成し、処理を繰り返す。
ケース(A)であれば、3次元のドット配置パターンをあらかじめ用意しておき、これを適用する手法や、3次元のウェイトマトリクスを用いた誤差拡散方式を適用する手法が考えられる。また、3次元のディザマトリクスを用いる手法が考えられる。
【0063】
上記について、誤差拡散方式としては、公知の手法を用いることができ、また、ディザマトリクスの作成については、公知の手法を用いることができる。
【0064】
ケース(B)の処理としては、形成の対象となる層について、スライスデータを生成した後、2次元のドット配置パターンを生成し、これに基づいて当該層を立体物形成装置30により形成する。そして、次の層のスライスデータを生成し、処理を繰り返す。
ケース(B)であれば、所定のドット配置パターンを回転させる手法、平行移動させる単純な手法や、誤差拡散などのランダムパターンを用い、ノイズを与えることによってランダム性に差を設ける手法などが考えられる。
【0065】
前記回転させる手法は、着色層60における各層ごとに、ドット配置パターンを回転させる手法であり、回転する角度は特に制限されるものではない。また、前記平行移動させる手法は、着色層60における各層ごとに、ドット配置パターンを平行移動させる手法であり、移動する距離は特に制限されるものではない。すなわち、最表層よりも内側の複数の層ごとに、ドット配置パターンを回転および/または平行移動させることによりドット配置パターンが異なるものとなる。
前記ランダム性に差を設ける手法は、公知の手法を用いることができる。誤差拡散方式などのランダムパターンを着色層60における各層ごとに生成する。その際、各層でランダムパターンを発生させるノイズ位置を変えることにより、着色層60における各層ごとに、ドット配置パターンを異ならせることができる。
【0066】
これらの手法は、適宜組合せが可能である。これらの手法の中でも、3次元のディザマトリクスを用いる場合、画像処理装置12の処理負担をより軽減することができる。また、最表層よりも内側の複数の層ごとに、ランダムパターンを発生させるノイズ位置を変える場合についても、画像処理装置12の処理負担をより軽減することができる。
【0067】
<フローチャート>
図11に、本実施形態における立体物を形成する処理を説明するためのフローチャートの一例を示す。
まず、データ受理部12Aが立体物の3次元物体データを受理する(ステップS001)。
画像処理装置12は、受理した3次元物体データについて、着色する表面の最表層および該最表層の内側の複数の層に前記着色を施しているデータかどうか判断を行う(ステップS002)。すなわち、着色層60の有無を判断する。
内側の複数の層に着色を施していないデータの場合(ステップS002:no)、着色する表面の最表層の色情報から、データ作成部12Bが最表層の内側の複数の層に前記着色を施した3次元データを作成する(ステップS003)。
【0068】
なお、受理した3次元物体データが最層の内部方向に着色を施したデータである場合(ステップS002:yes)、受理した3次元物体データを3次元データとして扱う。すなわち、本実施形態の場合、データ受理部12Aが受理する3次元物体データは、着色する表面の最表層および該最表層の内側の複数の層に前記着色を施した3次元データであってもよい。この場合、3次元物体データは3次元データとして後の処理が行われる。
【0069】
ステップS003の後、またはステップS002の判断で内側の複数の層に着色を施しているデータの場合(ステップS002:yes)、立体物の1層目を形成するために、nを1とする(ステップS004)。
…(中略)…
【0072】
ドット配置パターンを異ならせる場合(ステップS010:no)、形成する立体物について、3次元の状態でドット配置パターンを生成するか否かの判断を行う(ステップS020)。
【0073】
3次元の状態でドット配置パターンを生成する場合(ステップS020:yes)、3次元データに基づいて、まず3次元の状態でドット配置パターンが生成される(ステップS030)。
そして、生成された3次元の状態のドット配置パターンに基づいて、第n層のスライスデータが生成される(ステップS031)。
このスライスデータに基づいて、立体物形成装置30によって第n層が形成される(ステップS032)。
その後、全層の形成が完了したか否かを判断し(ステップS033)、完了している場合、処理を終了させる。完了していない場合、nの数値を1つ繰り上げ(ステップS034)、第n層のスライスデータ生成の処理(ステップS031)以降を繰り返す。
このようにして得られた立体物は、図10(b)に示されるようなドット配置が各層で異なる立体物となる。
【0074】
3次元の状態でドット配置パターンを生成しない場合(ステップS020:no)、3次元データに基づいて、第n層のスライスデータが生成される(ステップS040)。 このスライスデータに対して、2次元のドット配置パターンが生成される(ステップS041)。 この2次元のドット配置パターンおよび第n層のスライスデータに基づいて、立体物形成装置30によって第n層が形成される(ステップS042)。 その後、全層の形成が完了したか否かを判断し(ステップS043)、完了している場合、処理を終了させる。完了していない場合、nの数値を1つ繰り上げ(ステップS044)、第n層のスライスデータ生成の処理(ステップS040)以降を繰り返す。
このようにして得られた立体物は、図10(b)に示されるようなドット配置が各層で異なる立体物となる。」
「図1


「図2


「図3


「図8


「図9


「図10


「図11



イ 引用発明
引用文献1における「立体物形成装置」は、「インクジェット方式」(請求項1)であって、「ドット配列パターン」を「層」として認識(請求項4)しているものであるから、引用文献1に記載の立体物形成装置は、ドットとして1色以上の着色材を用い、表現したい色調に応じて着色材を吐出するか否かをドット毎に決定し、必要なドットに前記着色材を吐出して単位層を積層することにより立体物を形成しているものであることは、当業者にとって明らかである。

これらの点をふまえつつ、引用文献1の記載事項、特に請求項1,4,5,8の発明特定事項を全て含む請求項9に関する記載事項を中心に整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「画像処理装置と、
前記画像処理装置により作成された3次元データに基づいて1色以上の着色材を用いて単位層を積層することにより立体物を形成する立体物形成装置を有する画像処理システムであって、
前記画像処理装置が、
立体物の3次元物体データを受理するデータ受理部と、
前記立体物の表面の少なくとも一部が着色される際、前記3次元物体データに対し、着色する表面の最表層および該最表層の内側の複数の層に前記着色を施した3次元データを作成するデータ作成部と、を有し、
前記3次元データは、前記最表層よりも内側の複数の層のうち少なくとも1層のドット配列パターンが前記最表層のドット配列パターンと異なるように、3次元のディザマトリクスを用いてドット配置を規定し、かつ、前記最表層よりも内側の複数の層ごとにドット配置パターンを回転および/または平行移動させて作成されるものであり、
前記単位層は、表現したい色調に応じて前記着色材を吐出するか否かをドット毎に決定し、必要なドットに前記着色材を吐出して形成される画像処理システム。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明を対比する。
引用発明における「画像処理システム」は、「画像処理装置」と「前記画像処理装置により作成された3次元データに基づいて」「立体物を形成する立体物形成装置」によって「立体物を形成する」工程を備えるものであるから、本件補正発明における「立体物造形方法」に相当する。
引用発明における「着色を施した3次元データ」は、本件補正発明における「色データを含む3次元データ」に相当する。
引用発明における「画像処理装置」は、「最表層よりも内側の複数の層ごとにドット配置パターンを回転および/または平行移動」させるものであり、引用文献1の段落【0074】に、その具体的なステップとして、層ごとのスライスデータの生成について記載されていることからみても、引用発明は、当然、「複数の断面スライス情報を算出するスライス情報算出工程」を有するものといえる。
引用発明は、層のドット配列パターンについて、「3次元のディザマトリクスを用いてドット配置を規定」するものであるから、本件補正発明の「複数の断面スライス情報の各層に対して、少なくとも色データの一部にディザマトリクスを用い」る工程を有するものといえる。
引用発明は、「3次元データ」を作成するにあたり、「ディザマトリクス」を用い「層ごとにドット配置パターンを回転および/または平行移動動」することにより、各層のドット配置を決定することで、積層方向のドット配置パターンを異ならせて縦線状のスジが発生することを抑制する(【0060】)、すなわち、積層方向でドット配置を異ならせ(拡散させ)中間色にすることを目的とするものであるから、結局のところ、引用発明における、「3次元データ」を「最表層よりも内側の複数の層のうち少なくとも1層のドット配列パターンが前記最表層のドット配列パターンと異なるように、3次元のディザマトリクスを用いてドット配置を規定し、かつ、前記最表層よりも内側の複数の層ごとにドット配置パターンを回転および/または平行移動させて作成」する工程は、本件補正発明における「複数の層のうち、少なくとも2の層に対して用いられるディザマトリクスのパターンが異なるように中間調処理を行う中間調処理工程」に相当するものであるといえる。
引用発明の「立体物形成装置」は、「画像処理装置により作成された3次元データに基づいて1色以上の着色材を用いて単位層を積層する」工程を備えるものであるから、本件補正発明の「中間調処理が行われた断面スライス情報に基づき、単位層を形成する単位層形成工程」を備えているものである。

イ してみると、本件補正発明と引用発明との一致点は次のとおりである。<一致点>
「1色以上の着色材を用いて形成される単位層を積層することにより立体物を造形する立体物造形方法であって、
色データを含む3次元データから複数の断面スライス情報を算出するスライス情報算出工程と、
前記複数の断面スライス情報の各層に対して、少なくとも色データの一部にディザマトリクスを用いて中間調処理を行うと共に、前記複数の層のうち、少なくとも2の層に対して用いられる前記ディザマトリクスのパターンが異なるように前記中間調処理を行う中間調処理工程と、
前記中間調処理が行われた前記断面スライス情報に基づき、前記単位層を形成する単位層形成工程と、
を有し、
前記単位層は、表現したい色調に応じて前記着色材を吐出するか否かをドット毎に決定して着色材を吐出して形成される立体物造形方法。」

ウ そして、以下の点で一応相違又は相違する。
<相違点1>
本件補正発明は、「ディザマトリクスは、直交する2軸方向のそれぞれにドットが並んで配置され、そのドットの各々に異なる数字が付与されたもの」であり、単位層は、「閾値を設定し、該閾値と前記数字とを比較することで、着色材を吐出するか否かをドット毎に決定」して形成されていると特定されているのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点2>
本件補正発明は、「必要なドットにのみ着色材を吐出すると共に、それ以外のドットに透明材を吐出し、全てのドットが埋まるよう形成される」と特定されているのに対し、引用発明は、必要なドットに着色材を吐出しているものの、それ以外のドットに透明材を吐出して全てのドットが埋まるよう形成されているか否か、特定されていない点。

(4)判断
ア 相違点1について
「ディザマトリクス」とは、そもそも、直交する2軸方向のそれぞれにドットが並んで配置され、そのドットの各々に異なる数字が付与されたものであるから、相違点1に係る本件補正発明の「ディザマトリクスは、直交する2軸方向のそれぞれにドットが並んで配置され、そのドットの各々に異なる数字が付与されたもの」という特定事項は、ディザマトリクスそのものを、単に説明したに過ぎない。
さらに、表現したい色調に応じて「閾値を設定し、該閾値とドットに付与された数字とを比較することで、着色材を吐出するか否かをドット毎に決定」する工程も、ディザマトリクスを用いたドット配置工程そのものを、単に説明したに過ぎない。
したがって、この点は実質的な相違点とはならない。
仮に相違点であったとしても、引用発明のディザマトリクスを用いたドット配置工程として、通常のものを採用することは、当業者が適宜なし得たことに過ぎない。

イ 相違点2について
引用発明は、前提として、単位層を積層することにより立体物を形成するものであるから、立体物を形成する際に着色材が吐出されない部分(着色材で埋まらない部分)を何らかの材料で埋めなければ、次の層が形成できないから、着色材が吐出されない部分(着色材で埋まらない部分)には、何らかの材料が吐出されていることは、当業者にとって明らかである。
そして、引用文献1に、「本実施形態では、ノズル18K、18C、18M、18Y、18W、18Tが所定方向に配列されている。…(中略)…ノズル18Wは白色の追加液滴、ノズル18Tは透明な追加液滴を吐出する。」(【0022】)と記載されているように、引用文献1の画像処理システムは、白色及び透明な追加液滴のためのノズルを備えているものであり、「なお、白をベースとするのは、着色による色表現が減法混色のためであって、最終的に形成する立体物の表現手法によっては、他の色や透明でも構わない。」(【0045】)と、立体物として表現したい色に応じて、白ではなく透明を選択してもよい旨の記載がある。
加えて、着色料を含有していない透明材が低コストであるということも、当業者にとって技術常識である。
以上のことに鑑みれば、引用発明において、立体物を形成する際に着色材が吐出されない部分(着色材で埋まらない部分)に、透明材を吐出して埋めることは、当業者が設計上適宜なし得たことに過ぎない。
なお、立体物造形方法において、着色材で埋まらない部分を透明材で埋めることは、本願出願前の周知の技術でもある(もし必要であれば、特開2015-147328号公報(請求項1,2、段落【0006】-【0011】、【0040】-【0044】等)、特開2016-93912号公報(請求項1,5、段落【0001】,【0016】,【0017】,【0076】-【0078】、図11,12,14等)、国際公開2015/138567号(段落[0038]、[0039]、FIG.4等)等を参照。)。

ウ 効果について
第一層の着色ドット以外のドットが透明材であれば、第二層以降の着色ドットが透明材を透過して視認できることになる。してみると、着色領域に奥行きが生じて深みのあるリアリティの高い色調が得られ、かつ第一層と第二層以降の着色ドットとが混色されて多様な色表現が可能となるという効果は、引用発明において透明材を用いれば、当業者が当然予測し得る効果であって、格別顕著なものともいえない。
ディザマトリクスを用いて中間調処理を行い、積層方向にパターンを異ならせることで、着色ドットの配置が適度にずれて着色領域による内部の隠蔽性を確保することができるという効果については、引用発明も、3次元のディザマトリクスを用いてドット配置を規定し、かつ、最表層よりも内側の複数の層ごとにドット配置パターンを回転および/または平行移動させているものであるから、同様の効果を奏することが、当業者にとって明らかである。

エ 請求人の主張について
請求人は審判請求書において、「引用文献1の実施例として、白インクを用いることのみが開示されており、白インクにより第二層以降の着色材は隠蔽されるので、上述の本願発明に係る顕著な効果は奏し難いものと思料致します。」と主張しているが、上記イにて述べたとおり、引用文献1には、白ではなく透明を選択してもよい旨の記載等があるため、請求人の前記主張は、採用できない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定のむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年5月22日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和1年9月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]3(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]3で検討した本件補正発明との対比において、「ディザマトリクス」について、「直交する2軸方向のそれぞれにドットが並んで配置され、そのドットの各々に異なる数字が付与された」という事項、及び「着色材を吐出する」にあたり「閾値を設定し、該閾値と前記数字とを比較することで着色材を吐出するか否かをドット毎に決定し、必要なドットにのみ前記着色材を吐出すると共に、それ以外のドットには透明材を吐出」する事項を特定しないものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、上記事項を付加したものに相当する本件補正発明は、前記第2の[理由]3(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-02-26 
結審通知日 2021-03-02 
審決日 2021-03-15 
出願番号 特願2016-143685(P2016-143685)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 575- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正 知晃神田 和輝  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 植前 充司
岩田 健一
発明の名称 立体物造形方法及び立体物造形装置  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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