ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F |
---|---|
管理番号 | 1373617 |
審判番号 | 不服2020-8215 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-12 |
確定日 | 2021-04-26 |
事件の表示 | 特願2015-221593号「ペリクル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年5月25日出願公開、特開2017-90719号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成27年11月11日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成31年 4月19日付け:拒絶理由通知書 令和元年 6月24日 :意見書、手続補正書の提出 令和元年10月 1日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書 令和元年12月 3日 :意見書、手続補正書の提出 令和2年 3月 5日付け:令和元年12月3日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定 令和2年 6月12日 :審判請求 令和2年 6月12日 :手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 令和2年11月30日 :拒絶理由通知 令和3年 2月 1日 :意見書、手続補正書の提出 2.本願発明 本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 ペリクル枠と、 前記ペリクル枠の一端面に張設されたペリクル膜と、 前記ペリクル枠の他端面に付着した、架橋型の粘着剤層と、を備え、 前記粘着剤層に含まれる粘着剤は、炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化剤との反応生成物を含み、前記硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーが、炭素数3?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、 前記粘着剤におけるカルボン酸含有モノマーユニットの含有量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量%に対して0質量%である、ペリクル。」 3.拒絶の理由 令和2年11月30日に当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない(理由1)、及び、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由2)、というものである。 記 引用文献1:特開2012-93518号公報 引用文献2:特開2015-114502号公報 4.引用文献の記載及び引用発明 (1)引用文献1の記載 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。 ア 「【請求項1】 ペリクル枠体と、前記ペリクル枠体の表面に展張支持されたペリクル膜と、前記表面の反対側の裏面に設けられた粘着剤とを備えるペリクルであって、 前記粘着剤は、アクリル系樹脂粘着剤であり、 前記ペリクル枠体は、Cu:0.5?3.0%、Mg:1.5?4.5%、Zn:4.0?7.0%を含むアルミニウム材にて形成されているペリクル。 【請求項2】 前記粘着剤は、 炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、 前記硬化材との反応生成物と、 を含む請求項1に記載のペリクル。」 イ 「【0001】 本発明は、例えばIC(Integrated Circuit:集積回路)、LSI(LargeScale Integration:大規模集積回路)、TFT型LCD(Thin Film Transistor,Liquid Crystal Display:薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ)等の半導体装置や液晶表示装置を製造する際のリソグラフィー工程で使用されるフォトマクスやレティクルに異物が付着することを防止するために用いるペリクルに関する。」 ウ 「【0030】 続いて、粘着剤10について詳細に説明する。粘着剤10は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化材との反応生成物とを含む組成物からなる粘着剤であれば、架橋密度を調整でき、ペリクル枠体2の平坦性を向上できるが、この(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下『A成分』という。)と、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマー(以下『B成分』という。)との少なくとも2つのモノマー成分を共重合させることによって得られる共重合体である粘着剤であること好ましい。この場合、マスクとの接着力が十分で、且つ、剥離後の糊残りが少ない。・・・ 【0034】 B成分のモノマーは、上記A成分のモノマーと共重合可能なモノマーであって、エポキシ基との反応性を有するモノマーである。例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸などのカルボキシル基含有モノマーや、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシル基含有モノマーである。これらは単独でも2種以上併せて用いてもよい。なかでも、共重合性、汎用性等の点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の炭素数2?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられる。特に糊残りの点から(メタ)アクリル酸が好ましく、(メタ)アクリル酸は(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマーに対し0.1?5重量%、更に好ましくは0.5?4重量%、更に好ましくは0.8?3重量%含有することがよい。」 エ 「【0041】 硬化材の含有量は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して、0.05?3重量部であるとペリクルに好ましく、0.05?2重量部、更には、0.05?1重量部であることがより好ましい。この範囲であると、架橋密度が適度な密度となり、糊残りしにくく、且つ、十分な接着力、耐荷重性を有する粘着剤となる。」 オ 「【0080】 (フォトマスクの変形の評価) フォトマスクの変形の評価は、Tropel社製のFlatMaster200を用いて測定した。フォトマスク(6025石英)について、ペリクルを貼りつける前の平坦度を測定し、その後にペリクルを貼り付け、ペリクル貼り付け後の平坦度を測定した(測定範囲:135mm×110mm)。貼り付け前後の平坦度の差し引きを行い、ペリクルを貼り付けたことでどれだけ6025石英が変形したかを算出した。」 (2)上記(1)によれば、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ペリクル枠体と、前記ペリクル枠体の表面に展張支持されたペリクル膜と、前記表面の反対側の裏面に設けられた粘着剤とを備えるペリクルであって、 前記粘着剤は、アクリル系樹脂粘着剤であり、 前記ペリクル枠体は、Cu:0.5?3.0%、Mg:1.5?4.5%、Zn:4.0?7.0%を含むアルミニウム材にて形成され(【請求項1】)、 前記粘着剤は、 炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマー(以下『B成分』という。)との共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、 前記硬化材との反応生成物と、 を含み(【請求項2】、【0030】)、 前記粘着剤は、架橋密度を調整でき(【0030】)、 前記B成分のモノマーは、(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有モノマーや、ヒドロキシル基含有モノマーであり、なかでも、共重合性、汎用性等の点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の炭素数2?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられ(【0034】)、 前記硬化材の含有量は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して、0.05?3重量部の範囲であると、架橋密度が適度な密度となり、糊残りしにくく、且つ、十分な接着力、耐荷重性を有する粘着剤となる(【0041】)、 ペリクル。」 (2)引用文献2 本願の出願前に頒布された刊行物である特開2015-114502号公報(以下「引用文献2」という。)には、下記各記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、LSI、超LSIなどの半導体素子あるいは液晶表示板などの半導体装置を製造する際に、マスク(フォトマスク)に異物が付着することを防止するために使用されるフォトリソグラフィー用ペリクルに関する。」 イ 「【0014】 (官能基について) 水酸基、カルボキシル基、エポキシ基を、合計で上記濃度(0.008mmol/g)を超えて含む粘着剤は、露光中に迷光が粘着剤にあたった時にマスクの表面と反応しやすくなり、これが糊残りの原因の一つになる。例えば、マスクが石英ガラスからなる場合は、その表面に水酸基が存在する。その水酸基と官能基との間で水素結合やイオン結合などの結合がおこり、経時と共に当該結合が強固になると考えられる。そのため、マスクからペリクルを剥離する際に、マスクに糊残りが生じる。水酸基、カルボキシル基、エポキシ基は、マスクの表面に存在する水酸基やシリカ、金属イオンなどと水素結合やイオン結合などの結合をおこしやすいためマスクの糊残りが特に問題となる。粘着剤中の水酸基、カルボキシル基については、一般的な方法としてJIS K0070に準じて、各濃度を測定することができる。また、粘着剤中のエポキシ価については、一般的な方法としてASTM D-1652に準じて濃度を測定することができる。」 5.対比・判断 (1)新規性について ア 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「ペリクル枠体」は、本願発明の「ペリクル枠」に相当する。 (イ)引用発明の「前記ペリクル枠体の表面に展張支持されたペリクル膜」は、本願発明の「前記ペリクル枠の一端面に張設されたペリクル膜」に相当する。 (ウ)引用発明の「前記表面の反対側の裏面に設けられた」「架橋密度を調整でき」る「粘着剤」は、本願発明の「前記ペリクル枠の他端面に付着した、架橋型の粘着剤層」に相当する。 (エ)引用発明の「前記粘着剤は、炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、前記硬化材との反応生成物と、を含む」ことは、本願発明の「前記粘着剤層に含まれる粘着剤は、炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化剤との反応生成物を含」むことに相当する。 (オ)引用発明の「ペリクル」は、本願発明の「ペリクル」に相当する。 (カ)以上のことから、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「ペリクル枠と、 前記ペリクル枠の一端面に張設されたペリクル膜と、 前記ペリクル枠の他端面に付着した、架橋型の粘着剤層と、を備え、 前記粘着剤層に含まれる粘着剤は、炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化剤との反応生成物を含む、ペリクル。」 【相違点】 (相違点1) 「硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマー」(B成分のモノマー)が、 本願発明は、「炭素数3?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル」であるのに対して、 引用発明は、「(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の炭素数2?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート」である点。 (相違点2) 本願発明は、「前記粘着剤におけるカルボン酸含有モノマーユニットの含有量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量%に対して0質量%である」であるのに対して、引用発明は、不明である点。 イ 判断 (ア)上記相違点1について検討する。 引用発明は、「B成分のモノマーは、(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有モノマーや、ヒドロキシル基含有モノマーであり、なかでも、共重合性、汎用性等の点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の炭素数2?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられ」ると特定するところ、当該「炭素数2?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート」は、「炭素数3?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル」を含んでいる。 そうすると、引用発明と本願発明とはB成分のモノマーについて、「炭素数3?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル」で重複している。 したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。 (イ)上記相違点2について検討する。 引用発明の「粘着剤」は、「架橋密度を調整でき」るものであって、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーとして、上記(ア)で検討したとおり、「炭素数2?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート」を用いてよいものである。 これに対して、「硬化材の含有量」は、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して、0.05?3重量部の範囲であると、架橋密度が適度な密度となり、糊残りしにくく、且つ、十分な接着力、耐荷重性を有する粘着剤となる」ものであるから、炭素数4?14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合中の硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーとしての「炭素数2?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート」は、硬化材と反応して、架橋密度が適度な密度となり、糊残りしにくくなる状態にあるといえる。 そして、前述の当該状態は糊残りしにくくなる状態であるから、硬化材と反応せず残ったカルボキシル基含有モノマーはほぼ0の状態にあると解される。 したがって、上記相違点2は実質的な相違点ではない。 ウ 以上ア及びイでの検討によれば、引用発明と本願発明は相違するところがない。 したがって、引用発明は本願発明である。 (2)進歩性について ア 対比 上記「(1)」「ア」のとおりである。 イ 判断 (ア)上記相違点1について検討する。 引用発明と本願発明とはB成分のモノマーについて、「炭素数3?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル」で重複しており、引用発明において、B成分のモノマーとして「炭素数3?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル」を選択することに何ら困難性は認められない。 (イ)上記相違点2について検討する。 引用文献1に「(フォトマスクの変形の評価)フォトマスクの変形の評価は、Tropel社製のFlatMaster200を用いて測定した。フォトマスク(6025石英)について、ペリクルを貼りつける前の平坦度を測定し、その後にペリクルを貼り付け、ペリクル貼り付け後の平坦度を測定した(測定範囲:135mm×110mm)。貼り付け前後の平坦度の差し引きを行い、ペリクルを貼り付けたことでどれだけ6025石英が変形したかを算出した。」(【0080】)と記載されているように、引用発明のペリクルは、石英からなるマスクに使用することが想定されているところ、引用文献2には、「マスクが石英ガラスからなる場合は、その表面に水酸基が存在する。その水酸基と官能基との間で水素結合やイオン結合などの結合がおこり、経時と共に当該結合が強固になると考えられる。そのため、マスクからペリクルを剥離する際に、マスクに糊残りが生じる。水酸基、カルボキシル基、エポキシ基は、マスクの表面に存在する水酸基やシリカ、金属イオンなどと水素結合やイオン結合などの結合をおこしやすいためマスクの糊残りが特に問題となる。」(【0014】)との知見が記載されている。 そうすると、引用発明のペリクルにおいて、石英からなるマスクに使用するに際しては、「マスクの表面に存在する水酸基やシリカ、金属イオンなどと水素結合やイオン結合などの結合をおこしやすいためマスクの糊残りが特に問題となる」「水酸基、カルボキシル基、エポキシ基」を含有しない粘着剤が好ましいことは当業者が容易に予測し得ることであり、当該観点から、引用発明の「粘着剤」は、「カルボン酸含有モノマーユニット」を、最初から含有しないか(「カルボン酸含有モノマーユニット」を添加しないもの)、あるいは、「前記硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーは、カルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられ」るものであっても、当該カルボキシル基含有モノマーが硬化材と反応して、架橋密度が適度な密度となり、糊残りしにくくなる状態、つまり、硬化材と反応せず残ったカルボキシル基含有モノマーはほぼ0の状態になる量の硬化材を含有するものが好ましいことも明らかである。 したがって、引用発明において、引用文献2に記載された上記知見に基づいて、「粘着剤」は、「カルボン酸含有モノマーユニット」を、最初から含有しないか(「カルボン酸含有モノマーユニット」を添加しないもの)、あるいは、含有していても、「前記硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーは、カルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられ」るものであっても、当該カルボキシル基含有モノマーが硬化材と反応して、架橋密度が適度な密度となり、糊残りしにくくなる状態、つまり、硬化材と反応せず残ったカルボキシル基含有モノマーはほぼ0の状態になる量の硬化材を含有するものとなして、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。 よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ウ 本願発明が奏する効果について 確かに、本願の発明の詳細な説明では、実施例1ないし3が示され、それぞれ、硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーとして、実施例1は「4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)」(【0092】)、実施例2は「2-ヒドロキシエチルアクリレート」(【0093】)、実施例3は「4-ヒドロキシエチルアクリレート(本願の発明の詳細な説明には「4-ヒドロキエチルアクリレート」とあるがこれは「4-ヒドロキシエチルアクリレート」の誤記と認める。)」(【0094】)が用いられていて、いずれも「炭素数3?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル」であるといえ、比較対象である比較例1は「硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマー」が「アクリル酸」である。 しかしながら、本願の明細書全体の記載を見ても、比較例1に対する実施例1ないし3の有利な効果は、「マスク粘着剤におけるカルボン酸含有モノマーユニットの含有量が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量%に対して、0.9質量%以下にした」(本願の明細書の段落【0016】)、あるいは、「0%に限定した」ことによって得られたものと解すべきであって、本願の明細書の段落【0034】及び【0035】に記載された「炭素数3?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル」以外の例えば引用発明におけるB成分のモノマーでもあるヒドロキシル基含有モノマーを用いることに対して、「炭素数3?4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル」を用いたことによる奏される効果であるとは到底いえない。 6.むすび 上記「5.」「(1)」で検討したとおり、本願発明は引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 また、上記「5.」「(2)」で検討したとおり、本願発明は、その出願前に引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-02-26 |
結審通知日 | 2021-03-01 |
審決日 | 2021-03-12 |
出願番号 | 特願2015-221593(P2015-221593) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G03F)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今井 彰 |
特許庁審判長 |
瀬川 勝久 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 松川 直樹 |
発明の名称 | ペリクル |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 内藤 和彦 |