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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1373661
審判番号 不服2020-5888  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-30 
確定日 2021-05-07 
事件の表示 特願2018-541508「車両のためのバッテリシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月11日国際公開、WO2017/076718、平成30年11月22日国内公表、特表2018-534753〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)10月26日(パリ条約による優先権主張2015年11月5日、欧州特許庁)の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 1年 8月21日付け:拒絶理由通知書
令和 1年11月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年12月25日付け:拒絶査定
令和 2年 4月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年11月20日 :上申書の提出

第2 令和2年4月30日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年4月30日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
令和2年4月30日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、本件補正前に、
「【請求項1】
複数の電池(21,22)を有するバッテリ(20)および制御ユニット(30)を備える車両および/または定置のエネルギー蓄積器のためのバッテリシステム(10)であって、第1電池(21,22)が、複数の電極および少なくとも1つのセパレータを備える電気化学部品を含み、少なくとも1つのセパレータが、第1温度に達した場合に電気化学部品内で生成可能なイオンに対して少なくとも部分的に不透過性になるバッテリシステム(10)において、
第1電池(21)が急速放電ユニットを含み、急速放電ユニットが、制御ユニット(30)によって、第1電池(21)の内部および/または外部から接触可能な第1電池(21)の2つの電池端子の間に電気的に接続可能であり、第1電流によって第1電池(21)を放電するように構成されており、
急速放電ユニットの第1抵抗値が、第1電流が急速放電ユニットおよび第1電池(21)の貫流時に電気化学部品の加熱を引き起こし、少なくとも1つのセパレータが第1温度に達するように選択されており、
前記第1抵抗値が、前記第1電池(21)および前記急速放電ユニットの貫流時に第1電流によって誘起される前記電気化学部品の加熱が前記第1電池(21)の熱暴走をトリガしないように選択されており、
前記制御ユニット(30)が、前記第1電池(21)および/または前記バッテリシステム(10)および/または車両のエラー状態が生じた場合に、2つの電池端子の間に急速放電ユニットを接続するように構成されていることを特徴とする車両および/または定置のエネルギー蓄積器のためのバッテリシステム(10)。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリシステム(10)において、
前記制御ユニット(30)が、前記バッテリシステム(10)の第1および/または第2センサユニット(40)および/または前記バッテリシステム(10)の監視ユニットおよび/または前記バッテリシステム(10)の少なくとも1つの制御器と通信するように構成されており、
第1センサユニットが、前記第1電池(21)の少なくとも1つの状態に関して、特に前記第1電池(21)の動作状態に関して、少なくとも1つの第1物理量を検出するように構成されており、および/または
前記第2センサユニット(40)が、前記バッテリシステム(10)の少なくとも1つの状態に関して、特にバッテリシステム(10)の動作状態に関して、少なくとも1つの第2物理量を検出するように構成されており、
監視ユニットが、前記バッテリシステム(10)のエラー状態が生じているかどうかを判定し、前記バッテリシステム(10)にエラー状態が生じている場合には、少なくとも1つの警告信号または警告情報を生成するように構成されており、および/または
少なくとも1つの制御器が、前記バッテリシステム(10)の少なくとも1つの構成要素を制御するために、特に前記第1センサユニットおよび/または前記第2センサユニット(40)のセンサ信号の評価に基づいて、それぞれ制御情報および/または制御信号を生成するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項3】
請求項2に記載のバッテリシステム(10)において、
前記制御ユニット(30)が、第1センサユニットのセンサ信号の評価に基づいて前記第1電池(21)のエラー状態が生じているかどうかを判定し、および/また前記第2センサユニット(40)のセンサ信号の評価に基づいて前記バッテリシステム(10)のエラー状態が生じているかどうかを判定し、および/また少なくとも1つの警告信号が生じている場合、および/または警告情報の評価に基づいて、および/または少なくとも1つの制御信号および/または少なくとも1つの制御情報の評価に基づいて、バッテリシステムのエラー状態が生じているかどうかを判定するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項4】
請求項2または3に記載のバッテリシステム(10)において、
第1センサユニットおよび/第2センサユニット(40)がそれぞれ圧力センサおよび/または電流センサおよび/または加速度センサを含むバッテリシステム(10)。
【請求項5】
請求項2から4までのいずれか一項に記載のバッテリシステム(10)において、
前記監視ユニットが、第1および/または前記第2センサユニット(40)のセンサ信号の評価に基づいて、前記バッテリシステム(10)の乱用および/または前記バッテリシステム(10)の不適切な開放および/または前記バッテリシステム(10)内に設けられているソフトウェアおよび/またはハードウェア構成要素の操作を判定し、乱用および/または不適切な開放および/または操作の判定によって前記バッテリシステム(10)のエラー状態が生じているかどうかを確認するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項6】
請求項5に記載のバッテリシステム(10)において、
監視ユニットが、電気接続および/または通信インターフェイスを含み、監視ユニットが、電気接続が中断された場合に、バッテリシステム(10)の不適切な開放が生じているかどうかを判定し、および/または
監視システムがバッテリシステム(10)の開放を判定し、バッテリシステム(10)の適切な開放前に監視ユニットの通信インターフェイスに伝送されるべき制御情報がバッテリシステム(10)の開放の判定前に得られない場合にはバッテリシステム(10)の不適切な開放として分類するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載のバッテリシステム(10)において、
制御ユニット(30)が、車両の第3センサユニット(60)および/または車両の監視装置(70)および/または車両の少なくとも1つの制御要素(80)および/または車両の通信インターフェイスと通信するように構成されており、
第3センサユニット(60)が、車両の少なくとも1つの状態に関して、特に車両の動作状態および/または冠水状態に関して、少なくとも1つの第3物理量を検出するように構成されており、および/または
監視装置(70)が、第3センサユニット(60)のセンサ信号の評価に基づいて、車両のエラー状態が生じているかどうかを判定し、車両のエラー状態に関する情報を決定するように構成されており、および/または
少なくとも1つの制御要素(80)が、車両のエラー状態が生じた場合に車両の少なくとも1つの安全機能をトリガするための少なくとも1つのトリガ信号を生成するように構成されており、および/または
車両の通信インターフェイスが、車両のエラー状態が生じた場合に少なくとも1つの別のトリガ信号を送信するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項8】
請求項7に記載のバッテリシステム(10)において、
制御ユニット(30)が、第3センサユニット(60)のセンサ信号の評価に基づいて、および/または車両のエラー状態に関する少なくとも1つの情報の評価に基づいて、および/または少なくとも1つのトリガ信号が生じた場合に、および/または少なくとも1つのトリガ信号を受信した場合に、車両のエラー状態が生じているかどうかを判定するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項9】
請求項7または8に記載のバッテリシステム(10)において、
第3センサユニット(60)が、加速度センサおよび/または冠水センサを含むバッテリシステム(10)。
【請求項10】
車両のためのバッテリシステム(10)のバッテリ(20)の複数の電池(21,22)のうちの第1電池を安全な状態に移行する方法において、
請求項1から9までのいずれか一項にしたがってバッテリシステム(10)を形成し、
方法が次のステップ:
第1電池(21)および/またはバッテリシステム(10)および/または車両のエラー状態が生じているかどうかを判定するステップ、および
第1電池(21)の2つの電池端子の間に第1電池(21)の急速放電ユニットを電気接続するステップを含むことを特徴とする方法。」
とあったところを、
本件補正により、
「【請求項1】
複数の電池(21,22)を有するバッテリ(20)および制御ユニット(30)を備える車両および/または定置のエネルギー蓄積器のためのバッテリシステム(10)であって、第1電池(21,22)が、複数の電極および少なくとも1つのセパレータを備える電気化学部品を含み、少なくとも1つのセパレータが、第1温度に達した場合に電気化学部品内で生成可能なイオンに対して少なくとも部分的に不透過性になるバッテリシステム(10)において、
第1電池(21)が急速放電ユニットを含み、急速放電ユニットが、制御ユニット(30)によって、第1電池(21)の内部および/または外部から接触可能な第1電池(21)の2つの電池端子の間に電気的に接続可能であり、前記第1電池(21)に蓄積された電力に起因する第1電流によって第1電池(21)を放電するように構成されており、
急速放電ユニットの第1抵抗値が、第1電流が急速放電ユニットおよび第1電池(21)の貫流時に電気化学部品の加熱を引き起こし、少なくとも1つのセパレータが第1温度に達するように選択されており、
前記第1抵抗値が、前記第1電池(21)および前記急速放電ユニットの貫流時に第1電流によって誘起される前記電気化学部品の加熱が前記第1電池(21)の熱暴走をトリガしないように選択されており、
前記制御ユニット(30)が、前記第1電池(21)および/または前記バッテリシステム(10)および/または車両のエラー状態が生じた場合に、2つの電池端子の間に急速放電ユニットを接続するように構成されていることを特徴とする車両および/または定置のエネルギー蓄積器のためのバッテリシステム(10)。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリシステム(10)において、
前記制御ユニット(30)が、前記バッテリシステム(10)の第1および/または第2センサユニット(40)および/または前記バッテリシステム(10)の監視ユニットおよび/または前記バッテリシステム(10)の少なくとも1つの制御器と通信するように構成されており、
第1センサユニットが、前記第1電池(21)の少なくとも1つの状態に関して、特に前記第1電池(21)の動作状態に関して、少なくとも1つの第1物理量を検出するように構成されており、および/または
前記第2センサユニット(40)が、前記バッテリシステム(10)の少なくとも1つの状態に関して、特にバッテリシステム(10)の動作状態に関して、少なくとも1つの第2物理量を検出するように構成されており、
監視ユニットが、前記バッテリシステム(10)のエラー状態が生じているかどうかを判定し、前記バッテリシステム(10)にエラー状態が生じている場合には、少なくとも1つの警告信号または警告情報を生成するように構成されており、および/または
少なくとも1つの制御器が、前記バッテリシステム(10)の少なくとも1つの構成要素を制御するために、特に前記第1センサユニットおよび/または前記第2センサユニット(40)のセンサ信号の評価に基づいて、それぞれ制御情報および/または制御信号を生成するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項3】
請求項2に記載のバッテリシステム(10)において、
前記制御ユニット(30)が、第1センサユニットのセンサ信号の評価に基づいて前記第1電池(21)のエラー状態が生じているかどうかを判定し、および/また前記第2センサユニット(40)のセンサ信号の評価に基づいて前記バッテリシステム(10)のエラー状態が生じているかどうかを判定し、および/また少なくとも1つの警告信号が生じている場合、および/または警告情報の評価に基づいて、および/または少なくとも1つの制御信号および/または少なくとも1つの制御情報の評価に基づいて、バッテリシステムのエラー状態が生じているかどうかを判定するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項4】
請求項2または3に記載のバッテリシステム(10)において、
第1センサユニットおよび/第2センサユニット(40)がそれぞれ圧力センサおよび/または電流センサおよび/または加速度センサを含むバッテリシステム(10)。
【請求項5】
請求項2から4までのいずれか一項に記載のバッテリシステム(10)において、
前記監視ユニットが、第1および/または前記第2センサユニット(40)のセンサ信号の評価に基づいて、前記バッテリシステム(10)の乱用および/または前記バッテリシステム(10)の不適切な開放および/または前記バッテリシステム(10)内に設けられているソフトウェアおよび/またはハードウェア構成要素の操作を判定し、乱用および/または不適切な開放および/または操作の判定によって前記バッテリシステム(10)のエラー状態が生じているかどうかを確認するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項6】
請求項5に記載のバッテリシステム(10)において、
監視ユニットが、電気接続および/または通信インターフェイスを含み、監視ユニットが、電気接続が中断された場合に、バッテリシステム(10)の不適切な開放が生じているかどうかを判定し、および/または
監視システムがバッテリシステム(10)の開放を判定し、バッテリシステム(10)の適切な開放前に監視ユニットの通信インターフェイスに伝送されるべき制御情報がバッテリシステム(10)の開放の判定前に得られない場合にはバッテリシステム(10)の不適切な開放として分類するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載のバッテリシステム(10)において、
制御ユニット(30)が、車両の第3センサユニット(60)および/または車両の監視装置(70)および/または車両の少なくとも1つの制御要素(80)および/または車両の通信インターフェイスと通信するように構成されており、
第3センサユニット(60)が、車両の少なくとも1つの状態に関して、特に車両の動作状態および/または冠水状態に関して、少なくとも1つの第3物理量を検出するように構成されており、および/または
監視装置(70)が、第3センサユニット(60)のセンサ信号の評価に基づいて、車両のエラー状態が生じているかどうかを判定し、車両のエラー状態に関する情報を決定するように構成されており、および/または
少なくとも1つの制御要素(80)が、車両のエラー状態が生じた場合に車両の少なくとも1つの安全機能をトリガするための少なくとも1つのトリガ信号を生成するように構成されており、および/または
車両の通信インターフェイスが、車両のエラー状態が生じた場合に少なくとも1つの別のトリガ信号を送信するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項8】
請求項7に記載のバッテリシステム(10)において、
制御ユニット(30)が、第3センサユニット(60)のセンサ信号の評価に基づいて、および/または車両のエラー状態に関する少なくとも1つの情報の評価に基づいて、および/または少なくとも1つのトリガ信号が生じた場合に、および/または少なくとも1つのトリガ信号を受信した場合に、車両のエラー状態が生じているかどうかを判定するように構成されているバッテリシステム(10)。
【請求項9】
請求項7または8に記載のバッテリシステム(10)において、
第3センサユニット(60)が、加速度センサおよび/または冠水センサを含むバッテリシステム(10)。
【請求項10】
車両のためのバッテリシステム(10)のバッテリ(20)の複数の電池(21,22)のうちの第1電池を安全な状態に移行する方法において、
請求項1から9までのいずれか一項にしたがってバッテリシステム(10)を形成し、
方法が次のステップ:
第1電池(21)および/またはバッテリシステム(10)および/または車両のエラー状態が生じているかどうかを判定するステップ、および
第1電池(21)の2つの電池端子の間に第1電池(21)の急速放電ユニットを電気接続するステップを含むことを特徴とする方法。」
とするものである。なお、下線部は補正箇所を示す。

本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、第1電流が「第1電池(21)に蓄積された電力に起因する」ものであることが限定された。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正による請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、上記補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件補正の請求項1に記載された事項によって特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。

2.引用文献および引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-197268号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
ア.「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明に係る異常保護回路付電池パックの実施の形態を示す図であり、1は二次電池、2はヒューズ、3は圧力センサ、4は温度センサ、5はオア論理回路、6は遅延回路、7はアンド論理回路、Dは定電圧素子、Tはスイッチング素子、R1、R2は抵抗を示す。
【0010】図1において、ヒューズ2は、二次電池1の充電回路に直列に接続され過大な充電電流が流れると自己発熱により溶断して充電回路を遮断する回路遮断手段であり、例えば配線に用いるNiタブを一定電流で溶断するように加工したものを用いることもできる。圧力センサ3は、二次電池1とそれを覆うケースの間に設置されて一定値以上となる異常圧力を検出する圧力検出手段であり、温度センサ4は、一定値以上となる二次電池1の異常温度を検出する温度検出手段である。オア論理回路5は、圧力センサ3による異常圧力の検出信号と、温度センサ4による異常温度の検出信号とのオア処理を行い、いずれかの検出信号により遅延回路6を動作させるものである。
【0011】定電圧素子Dは、二次電池1が一定以上の電圧に充電されているかどうかを判定、検出する、例えば定電圧ダイオードである。アンド論理回路7は、遅延回路6の出力信号と定電圧素子Dの出力信号とのアンド処理を行い、スイッチング素子Tをオンに制御するものであり、ここでは、異常圧力又は異常温度が遅延回路6で設定された一定時間異常継続した場合に、かつ二次電池1の端子間の充電電圧が定電圧素子Dの動作定電圧を越える場合にスイッチング素子Tをオンに制御する。スイッチング素子Tは、ヒューズ2を通して二次電池1の端子間を短絡するものであり、抵抗R2は、その短絡電流を規定する、例えばFETその他のトランジスタである。」

イ.「【0012】次に、動作を説明する。二次電池パックでは、先に述べたように通常、過充電保護機能を備えているが(図示せず)、この過充電保護機能が作動せず、さらに過充電状態が進行した場合、発熱、膨れが生じて電池パック内の温度が上昇し、圧力が上昇する。その結果、圧力が一定値を越えると、圧力センタ3により異常圧力が検出され、また、温度が一定値を越えると、温度センタ4により異常温度が検出される。
【0013】これらいずれかの出力によりオア論理回路5を通して遅延回路6が動作し、その状態が一定時間以上にわたり継続すると、二次電池1が定電圧素子Dで規定される一定以上の電圧であることを条件に、アンド論理回路7を通してスイッチング素子Tをオンになり、二次電池1からヒューズ2、抵抗R2を通して短絡電流が流れる。この短絡電流によりヒューズ2が溶断されて、充電回路が遮断される。遅延回路6及び定電圧素子Dを用い、一定以上の電圧が二次電池1にかかっていることを判定した上で、さらに一定以上の時間にわたり圧力又は温度が異常である場合にのみスイッチング素子Tがオンしてヒューズ2を溶断させ、電流を手段するので、誤動作を効果的に防ぐこともできる。」

上記アによれば、二次電池1、ヒューズ2、圧力センサ3、温度センサ4、オア論理回路5、遅延回路6、アンド論理回路7、定電圧素子D、スイッチング素子T及び抵抗R1、R2を備えた異常保護回路付電池パックについて記載されている。

上記ア、イによれば、異常圧力又は異常温度の出力がオア論理回路5を通して遅延回路6で設定された一定時間継続した場合に、かつ二次電池1の端子間の充電電圧が定電圧素子Dの動作定電圧を越える場合に、アンド論理回路7を通してスイッチング素子Tをオンに制御し、二次電池1からヒューズ2、抵抗R2を通して短絡電流が流れ、ヒューズは短絡電流が流れると自己発熱により溶断し充電回路が遮断されることが記載されている。

したがって、上記アないしイの記載事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「二次電池1、ヒューズ2、圧力センサ3、温度センサ4、オア論理回路5、遅延回路6、アンド論理回路7、定電圧素子D、スイッチング素子T及び抵抗R1、R2を備えた異常保護回路付電池パックであって、
異常圧力又は異常温度の出力がオア論理回路5を通して遅延回路6で設定された一定時間継続した場合に、かつ二次電池1の端子間の充電電圧が定電圧素子Dの動作定電圧を越える場合に、アンド論理回路7を通してスイッチング素子Tをオンに制御し、二次電池1からヒューズ2、抵抗R2を通して短絡電流が流れ、ヒューズは短絡電流が流れると自己発熱により溶断し充電回路が遮断される異常保護回路付電池パック。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「二次電池1、ヒューズ2、圧力センサ3、温度センサ4、スイッチング素子T及び抵抗R2」を備えた「異常保護回路付電池パック」は、本願補正発明の「第1電池(21)」に相当する。また、引用発明1の「オア論理回路5、遅延回路6、アンド論理回路7、定電圧素子D、及び抵抗R1」は、これらを用いてスイッチング素子Tを制御するものであるから、本願補正発明の「制御ユニット(30)」に相当する。
したがって、引用発明1の「二次電池1、ヒューズ2、圧力センサ3、温度センサ4、スイッチング素子T及び抵抗R2」および「オア論理回路5、遅延回路6、アンド論理回路7、定電圧素子D、及び抵抗R1」を備えた「異常保護回路付電池パック」は、本願補正発明の「第1電池(21)」および「制御ユニット(30)」を備えた「バッテリシステム(10)」に相当する。
ただし、本願補正発明が「複数の電池(21,22)を有するバッテリ(20)」を備えた「バッテリシステム(10)」であるのに対し、引用発明1には複数の電池を備える点について特定されていない点で相違する。
また、本願補正発明が「車両および/または定置のエネルギー蓄積器のための」バッテリシステム(10)であるのに対し、引用発明1には用途が特定されていない点で相違する。

(2)電池として、複数の電極(正極と負極)及びセパレータを備えることは通常の構成であるから、引用発明1の「異常保護回路付電池パック」も、本願補正発明の「複数の電極および少なくとも1つのセパレータを備える電気化学部品を含み」という構成を備えていることは明らかである。
ただし、本願補正発明が「少なくとも1つのセパレータが、第1温度に達した場合に電気化学部品内で生成可能なイオンに対して少なくとも部分的に不透過性になる」のに対し、引用発明1にはセパレータがそのような機能を有することが特定されていない点で相違する。

(3)引用発明1の「スイッチング素子T及び抵抗R2」は、本願補正発明の「急速放電ユニット」に相当する。
また、引用発明1の「スイッチング素子T及び抵抗R2]は異常保護回路付電池パックに含まれ、「オア論理回路5、遅延回路6、アンド論理回路7、定電圧素子D、及び抵抗R1」からの信号によりスイッチング素子Tをオンにして、二次電池から短絡電流を流すものであるから、本願補正発明の「第1電池(21)が急速放電ユニットを含み、急速放電ユニットが、制御ユニット(30)によって、第1電池(21)の内部および/または外部から接触可能な第1電池(21)の2つの電池端子の間に電気的に接続可能であり、前記第1電池(21)に蓄積された電力に起因する第1電流によって第1電池(21)を放電するように構成されて」いることに相当する。
ただし、本願補正発明が「急速放電ユニットの第1抵抗値が、第1電流が急速放電ユニットおよび第1電池(21)の貫流時に電気化学部品の加熱を引き起こし、少なくとも1つのセパレータが第1温度に達するように選択されており、前記第1抵抗値が、前記第1電池(21)および前記急速放電ユニットの貫流時に第1電流によって誘起される前記電気化学部品の加熱が前記第1電池(21)の熱暴走をトリガしないように選択されて」いるのに対し、引用発明1の「抵抗R2」は、抵抗値について特定されていない点で相違する。

(4)引用発明1の「異常圧力又は異常温度の出力がオア論理回路5を通して遅延回路6で設定された一定時間継続した場合に、かつ二次電池1の端子間の充電電圧が定電圧素子Dの動作定電圧を越える場合に、アンド論理回路7を通してスイッチング素子Tをオンに制御」することは、異常保護回路付電池パックに含まれる二次電池1の異常状態を検知した場合にスイッチング素子Tをオンにして短絡経路を形成していると言えるから、本願補正発明の「前記制御ユニット(30)が、前記第1電池(21)および/または前記バッテリシステム(10)および/または車両のエラー状態が生じた場合に、2つの電池端子の間に急速放電ユニットを接続するように構成されていること」に含まれるものである。

そうすると、本願補正発明と引用発明1とは、
「電池(21)および制御ユニット(30)を備えるバッテリシステム(10)であって、第1電池(21)が、複数の電極および少なくとも1つのセパレータを備える電気化学部品を含むバッテリシステム(10)において、
第1電池(21)が急速放電ユニットを含み、急速放電ユニットが、制御ユニット(30)によって、第1電池(21)の内部および/または外部から接触可能な第1電池(21)の2つの電池端子の間に電気的に接続可能であり、前記第1電池(21)に蓄積された電力に起因する第1電流によって第1電池(21)を放電するように構成されており、
前記制御ユニット(30)が、前記第1電池(21)および/または前記バッテリシステム(10)および/または車両のエラー状態が生じた場合に、2つの電池端子の間に急速放電ユニットを接続するように構成されているバッテリシステム(10)。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明が「複数の電池(21,22)を有するバッテリ(20)」を備えた「バッテリシステム(10)」であるのに対し、引用発明1には複数の電池を備える点について特定されていない点。

[相違点2]
本願補正発明が「車両および/または定置のエネルギー蓄積器のための」バッテリシステム(10)であるのに対し、引用発明1には用途が特定されていない点。

[相違点3]
本願補正発明が「少なくとも1つのセパレータが、第1温度に達した場合に電気化学部品内で生成可能なイオンに対して少なくとも部分的に不透過性になる」のに対し、引用発明1にはセパレータがそのような機能を有することが特定されていない点。

[相違点4]
本願補正発明が「急速放電ユニットの第1抵抗値が、第1電流が急速放電ユニットおよび第1電池(21)の貫流時に電気化学部品の加熱を引き起こし、少なくとも1つのセパレータが第1温度に達するように選択されており、前記第1抵抗値が、前記第1電池(21)および前記急速放電ユニットの貫流時に第1電流によって誘起される前記電気化学部品の加熱が前記第1電池(21)の熱暴走をトリガしないように選択されて」いるのに対し、引用発明1の「抵抗R2」は、抵抗値について特定されていない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]、[相違点2]について
入出力電圧を高めるために複数の電池を直列接続したバッテリの構成、入出力容量を高めるために複数の電池を並列接続したバッテリの構成、直列及び/または並列接続されたバッテリを車両用や定置用に用いることは一般的な技術であり、引用発明1において上記一般的な技術を採用し相違点1,2に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得た事項である。

[相違点3]について
通電により所定温度に達した場合に電極間のイオンの通過を遮断するシャットダウン機能付きのセパレータは、例えば原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2015/156261号(段落[0003]参照)や特開2015-171814号公報(段落[0003]参照)に記載されているように、本願出願時には周知のものである。
引用発明1に記載のヒューズ、上記文献に記載のセパレータは、ともに通電により生じる熱によって電流を遮断するという共通の機能を有するものであるから、引用発明1に記載のヒューズに代えて上記文献に記載の周知のシャットダウン機能付きセパレータを採用して相違点3の構成とすることは当業者であれば容易になし得た事項である。

[相違点4]について
引用文献1には抵抗R2について、短絡電流を規定すると記載されている(段落[0011]参照)。
ここで、引用発明1に記載のヒューズに代えてシャットダウン機能付きセパレータを採用した場合、二次電池1の異常発生時にセパレータのシャットダウン機能が動作する程度の電流を流すこと、すなわち短絡電流を規定する抵抗R2の抵抗値として、第1電流が急速放電ユニットおよび第1電池(21)の貫流時に電気化学部品の加熱を引き起こし、少なくとも1つのセパレータが第1温度に達するような値とすることは、シャットダウン機能付きセパレータの採用に伴い当業者であれば当然に設定するものである。
また、国際公開第2015/156261号の段落[0004]や特開2015-171814号公報の段落[0004]にも記載のように、セパレータの発熱が激しい場合にはシャットダウン機能を正常に動作できないことを鑑みれば、第1電流としてセパレータを破断しない範囲の電流を流すこと、すなわち短絡電流を規定する抵抗R2の抵抗値として、第1電池(21)および前記急速放電ユニットの貫流時に第1電流によって誘起される前記電気化学部品の加熱が前記第1電池(21)の熱暴走をトリガしないような値とすることも、シャットダウン機能付きセパレータの採用に伴い当業者であれば当然に設定するものである。

この点に関し、請求人は審判請求書および令和2年11月20日提出の上申書にて、本願発明の急速放電ユニットは、電池セルを急速に放電して当該電池セルに蓄積されるエネルギー量を減らす点(以下、「主張点1」という。)、第1抵抗値を選択することで意図的に制御された放電電流で電池セルを電気的に不活性化する点(以下、「主張点2」という。)で、原査定の拒絶の理由で引用された文献とは相違する旨を主張している。
しかしながら、引用発明1においても二次電池1に蓄積されたエネルギーを利用して短絡電流を流していることから、二次電池1に蓄積されたエネルギー量は短絡電流の生成に伴い当然に低減されており、主張点1については本願発明と引用発明1とは何ら相違するところはない。
また、上記で言及したとおり、引用発明1に記載のヒューズに代えてシャットダウン機能付きセパレータを採用した場合、当該セパレータを破断させないために、短絡電流を規定する抵抗R2の抵抗値として、「第1電流が急速放電ユニットおよび第1電池(21)の貫流時に電気化学部品の加熱を引き起こし、少なくとも1つのセパレータが第1温度に達するように選択されており、前記第1抵抗値が、前記第1電池(21)および前記急速放電ユニットの貫流時に第1電流によって誘起される前記電気化学部品の加熱が前記第1電池(21)の熱暴走をトリガしないように選択」することは、当業者であれば当然に設定するものであるから、上記主張点2についても採用することができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
令和2年4月30日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、令和1年11月26日にされた手続補正の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
複数の電池(21,22)を有するバッテリ(20)および制御ユニット(30)を備える車両および/または定置のエネルギー蓄積器のためのバッテリシステム(10)であって、第1電池(21,22)が、複数の電極および少なくとも1つのセパレータを備える電気化学部品を含み、少なくとも1つのセパレータが、第1温度に達した場合に電気化学部品内で生成可能なイオンに対して少なくとも部分的に不透過性になるバッテリシステム(10)において、
第1電池(21)が急速放電ユニットを含み、急速放電ユニットが、制御ユニット(30)によって、第1電池(21)の内部および/または外部から接触可能な第1電池(21)の2つの電池端子の間に電気的に接続可能であり、第1電流によって第1電池(21)を放電するように構成されており、
急速放電ユニットの第1抵抗値が、第1電流が急速放電ユニットおよび第1電池(21)の貫流時に電気化学部品の加熱を引き起こし、少なくとも1つのセパレータが第1温度に達するように選択されており、
前記第1抵抗値が、前記第1電池(21)および前記急速放電ユニットの貫流時に第1電流によって誘起される前記電気化学部品の加熱が前記第1電池(21)の熱暴走をトリガしないように選択されており、
前記制御ユニット(30)が、前記第1電池(21)および/または前記バッテリシステム(10)および/または車両のエラー状態が生じた場合に、2つの電池端子の間に急速放電ユニットを接続するように構成されていることを特徴とする車両および/または定置のエネルギー蓄積器のためのバッテリシステム(10)。」

2.原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1や引用文献2に記載の発明、引用文献3および引用文献4に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2003-197268号公報
引用文献2:特開平11-115648号公報
引用文献3:国際公開第2015/156261号(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2015-171814号公報(周知技術を示す文献)

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記「第2[理由]2.引用文献および引用発明」に記載したとおりであり、引用発明1は以下のとおりである。
「二次電池1、ヒューズ2、圧力センサ3、温度センサ4、オア論理回路5、遅延回路6、アンド論理回路7、定電圧素子D、スイッチング素子T及び抵抗R1、R2を備えた異常保護回路付電池パックであって、
異常圧力又は異常温度の出力がオア論理回路5を通して遅延回路6で設定された一定時間継続した場合に、かつ二次電池1の端子間の充電電圧が定電圧素子Dの動作定電圧を越える場合に、アンド論理回路7を通してスイッチング素子Tをオンに制御し、二次電池1からヒューズ2、抵抗R2を通して短絡電流が流れ、ヒューズは短絡電流が流れると自己発熱により溶断し充電回路が遮断される異常保護回路付電池パック。」

4.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]1.本件補正」で検討した本願補正発明から、第1電流について、「第1電池(21)に蓄積された電力に起因する」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3.対比、4.判断、5.むすび」に記載したとおり、引用発明1および周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1および周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-12-10 
結審通知日 2020-12-11 
審決日 2020-12-22 
出願番号 特願2018-541508(P2018-541508)
審決分類 P 1 8・ 56- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 慎太郎  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 赤穂 嘉紀
畑中 博幸
発明の名称 車両のためのバッテリシステム  
代理人 松尾 淳一  
代理人 山本 修  
代理人 松尾 淳一  
代理人 中西 基晴  
代理人 中西 基晴  
代理人 山本 修  

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