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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1373726
審判番号 不服2020-619  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-16 
確定日 2021-05-25 
事件の表示 特願2018- 41999「微生物発電装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月19日出願公開、特開2019-160458、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年 3月 8日の出願であって、平成31年 4月 5日付けで拒絶理由が通知され、令和 1年 6月11日付けで意見書、手続補正書が提出され、同年10月21日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和 2年 1月16日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和 1年10月21日付け拒絶査定)における拒絶理由の概要は次のとおりである。
理由1.本願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献1?4に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2008-288198号公報
2.特開2016-122615号公報
3.特開2000-067891号公報
4.特開2010-153115号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明6」といい、これらを総称して「本願発明」という。)は、令和 1年 6月11日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、下線は補正箇所を示している。

「【請求項1】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対し多孔性非導電性膜を介して隔てられており、該多孔性非導電性膜に接するエアーカソードを有する正極室とを備えた微生物発電装置において、
前記負極室に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段と、
前記窒素ガスを空気より生成させる窒素ガス生成手段と
を備えたことを特徴とする嫌気性微生物による微生物発電装置。
【請求項2】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対し多孔性非導電性膜を介して隔てられており、該多孔性非導電性膜に接するエアーカソードを有する正極室とを備えた微生物発電装置において、
前記負極室に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段と、
前記窒素ガスを空気より生成させる窒素ガス生成手段と、
前記窒素ガス生成手段により空気より窒素ガスを生成した際に発生する酸素富化ガスの少なくとも一部を前記正極室に供給する手段と
を備えていることを特徴とする嫌気性微生物による微生物発電装置。
【請求項3】
前記負極室の排ガスの少なくとも一部を前記正極室に供給する負極排ガス移送手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2の微生物発電装置。
【請求項4】
前記多孔性非導電性膜が紙、織布、不織布のいずれかであることを特徴とする請求項1?3のいずれかの微生物発電装置。
【請求項5】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対し多孔性非導電性膜を介して隔てられており、該多孔性非導電性膜に接するエアーカソードを有する正極室とを備えた微生物発電装置を運転する方法において、
空気より窒素ガスを生成させ、
この窒素ガスを前記負極室に連続的に又は間欠的に供給することを特徴とする嫌気性微生物による微生物発電装置の運転方法。
【請求項6】
前記負極室に前記窒素ガスをLV(線速度)0.5?80m/hrで供給することを特徴とする請求項5の微生物発電装置の運転方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
1-1.引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2008-288198号公報)には、「微生物燃料電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、「…」は記載の省略を表し、下線は当審が付したものである。以下同様。)。

1ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード表面領域を有するアノードと、カソード表面領域を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されたカチオン交換膜と、前記アノードの上に配置されるとともに複数のelectricigenic微生物の物質移動を向上させ微生物燃料電池の出力密度を増大させる複数のコロニーを、互いに間隔を開けて形成する複数のelectricigenic微生物と、を含む、微生物燃料電池。

【請求項10】
前記カソードが空気カソードであることを特徴とする、請求項1に記載の微生物燃料電池。」

1イ「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
微生物燃料電池分野におけるこれまでの研究により、様々な微生物燃料電池が開発されてきている。しかしながら、これらの微生物燃料電池は、出力密度が低く、微生物栄養燃料を有用なエネルギーへ変換する際の効率が低いことから概して不十分であり、これまでのところ、微生物燃料電池の生産及び利用は限られている。
【0004】
そのため、微生物燃料電池の改良が引き続き必要とされている。」

1ウ「【0010】
大まかに言うと、微生物燃料電池は、アノード、カソード、及び、カチオン交換膜を具備している。作動中に、微生物は、易酸化性の有機材料を消化して、二酸化炭素、プロトン、及び、電子を作り出す。作り出された電子は、アノードへと移動され、その後、負荷を介してカソードへと移動される。プロトンは、カチオン交換膜を通ってカソードへと達する。カソードでは、例えば酸素等の酸化剤が、水を生成するためにプロトン及び電子と反応する。
【0011】
グルコースが易酸化性の有機材料であり、酸素が酸化剤である場合、半セル反応は、以下のように表される。
アノード: C_(6)H_(12)O_(6)+6H_(2)O→6CO_(2)+24H^(+)+24e^(-)
カソード: 6O_(2)+24H^(+)+24e^(-)→12H_(2)O
【0012】
本発明の実施形態にかかる燃料電池に含まれるelectricigensは嫌気性の微生物であり、有機材料を完全に酸化させて二酸化炭素とし、電子をアノードへ直接提供する。これは、還元された最終生成物を生成したり、酸化還元メディエータを還元したりする、チオニンやニュートラルレッド等のような、電子をアノードへ間接的に提供する微生物と対照をなす。electricigensは電子をアノードへ直接移動させるので、「酸化還元メディエータ」は必要とされない。加えて、多くの非electricigensは、微生物燃料電池で燃料として使用される有機材料を不完全に酸化させるのみであり、結果として、燃料から電気への変換効率が低下する。」

1エ「【0020】
図8に最も良く表れているように、一形態において、複数のelectricigenic微生物を含む複数の微生物は、互いに間隔を開けた複数のコロニーを形成する。種々のコロニーは、20μmから50μmの高さを有する柱構造を形成していても良い。間隔を開けられた複数のコロニーの形成により、複数のelectricigenic微生物の物質移動が向上され、結果として、微生物燃料電池の出力密度が向上する。複数のコロニーは、互いに、最大で40μmの間隔を開けて形成されていても良い。

【0024】
燃料電池の形態
【0025】
本発明に係る燃料電池は、大まかに説明すると、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に配置されたカチオン交換膜と、アノードに配置されたelectricigenic微生物の個体群と、を有する。アノード及びカソードは、アノードからカソードへ電子が移動できるように、例えば電動デバイス等の負荷を介して、導電材料と接続されている。
【0026】
本発明に係る燃料電池の形態例を、図1に示す。図示された燃料電池10は、アノード支持材13と接触したアノード12と、カソード支持材15と接触したカソード14と、アノード12とカソード14との間に配置されたカチオン交換膜16と、を有している。この実施形態において、燃料電池は二室構造であり、アノード室支持材19によって一部分において画定されるアノード室18と、カソード室支持材21によって一部分において画定されるカソード室20と、を含んでいる。保護壁22、24は、保護壁とアノードとの間、及び、保護壁とカソードとの間にそれぞれ配置されたガスケットを支持する。そのような一つのガスケットが26で示されている。更なるガスケット28、30は、アノード支持材13とアノード室支持材19との間、及び、カソード支持材15とカソード室支持材21との間にそれぞれ配置されている。アノード室支持材を通ってアノード室へと達する吸気通路及び排気通路が、それぞれ32、34で示されている。吸気通路及び排気通路は、互いに他の場所に、任意に配置される。例えば、吸気通路及び排気通路は、アノード室、及び/又は、カソード室の反対側に配置される。
【0027】
特定の実施形態において、本発明に係る微生物燃料電池は、カチオン交換膜によって空気カソードから分離されたアノード室を有する単室型微生物燃料電池を含むように、構成される。」

1オ「【0032】
特定の実施形態において、本発明に係る燃料電池に含まれるアノードには、流体が浸透する。したがって、運転中に、アノード材料が多孔性であることによって存在するアノードの流路を通って、易酸化性の有機材料を含む流体が、随時絶え間なくアノードへと供給される。」

1カ「【0042】
本発明に係る微生物燃料電池は、少なくとも一つのアノード室及び少なくとも一つのカソード室を含有するように任意に構成され、アノード室及びカソード室はカチオン交換膜によって分離されている。
【0043】
本発明に係る燃料電池に含有されるelectricigensは嫌気性生物である。それゆえ、アノード室から酸素が実質的に排除されることが好ましい。アノード室に存在する酸素を低減又は排除するため、例えば、窒素のような不活性ガスが任意にアノード室へと導入される。空気カソードが含まれる実施形態では、空気カソードからアノード室へと流入する酸素に対する実質的な障壁が、任意に含まれる。例えば、実質的に酸素不浸透性のカチオン交換膜が任意に使用される。」

1キ「



1-2.引用文献1に記載された発明
上記1アの請求項1及び請求項10の記載及び上記1エの【0026】の記載によれば、図1に着目すると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
「アノード表面領域を有するアノードと、カソード表面領域を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されたカチオン交換膜と、前記アノードの上に配置されるとともに複数のelectricigenic微生物の物質移動を向上させ微生物燃料電池の出力密度を増大させる複数のコロニーを、互いに間隔を開けて形成する複数のelectricigenic微生物と、を含む、微生物燃料電池であって、前記カソードが空気カソードであり、前記アノードはアノード支持材と接触しており、前記カソードはカソード支持材と接触しており、アノード室支持材によって一部分において画定されるアノード室と、カソード室支持材によって一部分において画定されるカソード室と、を含んでいる二室構造の微生物燃料電池。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2016-122615号公報)には、「微生物燃料電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

2ア「【請求項1】
アノード電極と前記アノード電極に電気的に接続されるカソード電極とを備える微生物燃料電池であって、前記アノード電極が有機物を分解して電子を産生する微生物を含む湿泥の内部に配置され、前記湿泥に含まれる微生物によって産生された電子をアノード電極で回収し、当該電子によりカソード電極において酸素を還元することによって発電することを特徴とする微生物燃料電池。」

2イ「【0018】
本発明の微生物燃料電池では、アノード電極を配置する湿泥中に生息する細胞外電子伝達能を有する微生物がそのままの状態で使用される。すなわち、もともと湿泥に生息している微生物を微生物燃料電池の触媒として用いるため、微生物のコストも不要である。
使用される湿泥中の微生物は、有機物を分解し電子をアノード電極に直接的にもしくは間接的に放出する細胞外電子伝達能を有する微生物であればよく、偏性嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性細菌、耐酸素性細菌のいずれもが使用可能である。」

2ウ「【0028】
このような構成を有する本発明の微生物燃料電池の一態様として、図3に模式図を示すセル構成を有する微生物燃料電池が挙げられる。
図3に示す微生物燃料電池は、アノード電極とカソード電極以外に、アノード電極、カソード電極の接触を防ぐ隔膜(セパレータ)と、ガス非透過性の二重チューブ状容器から構成される。二重チューブ状容器のうち、内側のチューブ状容器には電解質溶液(例えば、NaCl溶液)が蓄えられ、その中にカソード電極が配置される。また、外側のチューブ状容器には不活性ガスが流通できるように設計されており、必要に応じて不活性ガスを供給できる構成である。
【0029】
図3において、アノード電極とカソード電極とはセパレータを介して、アノード電極は湿泥中に配置され、カソード電極は容器内の電解質溶液(NaCl溶液)中に配置される。セパレータは、カチオン交換膜等のプロトン(H^(+))を選択的に透過するように構成され、例えば、水素燃料電池などのセパレータとして用いられるナフィオン膜などが挙げられる。また多少の酸素透過性の膜であっても速いプロトン移動が期待できるアラミド不織紙や和紙なども挙げられる。より電気抵抗を減らすためには、アノード電極とカソード電極とをセパレータに接するように配置することが好ましい。
図3に示すようにカソード電極が配置される内側のチューブ状容器は開放されており、空気中の酸素が溶存して供給される。なお、電解質溶液にはバブリングにより強制的に酸素供給してもよい。
【0030】
また、上述のように外側のチューブ状容器には不活性ガスが流通できるように設計されており、湿泥表面から湿泥内部へ酸素が供給することを防ぐことができる。そのため、そのままでは湿泥表面から酸素が拡散して嫌気的雰囲気ならない湿泥の深さ(例えば、5cm未満)にアノード電極を配置した場合であっても、不活性ガスが流通により嫌気性雰囲気とすることができるので、実用的な電圧(例えば、?0.5V)での発電が可能となる。」

2エ「【0042】
使用したアノード電極、カソード電極及びセパレータは以下の通りである。
(アノード電極)
多孔質炭素としてのケッチンブラック(1300m^(2)/g)を0.05gならびにバインダーとしての1.5gのポリビニリデンフロライドを30mLのN-メチル-2-ピロリジノンに分散して作製したカーボンペーストを、10mm×10mmのチタンメッシュ(100メッシュ/インチ、厚さ0.1mm)の両面に塗布後、図2に示す方法で電極とした。塗布後のチタンメッシュの重量を除いた乾燥重量は5?8mgであった。
(カソード電極)
カソード電極もアノード電極と同じように作製した。
(セパレータ)
アラミド不織紙を用いた」

したがって、上記引用文献2には、偏性嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性細菌、耐酸素性細菌のいずれもが使用可能な微生物燃料電池のアノード電極、カソード電極の接触を防ぐ隔膜(セパレータ)として、カチオン交換膜やナフィオン膜、さらに、多少の酸素透過性の膜であっても速いプロトン移動が期待できるアラミド不織紙や和紙などが用いられるという技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2000-067891号公報)には、「燃料電池発電システム」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

3ア「【0014】以上述べた燃料電池発電システムにおいて、酸素分離装置としては酸素富化空気及び窒素富化空気が得られるものであればどのようなものでも良いが、例えば圧力スイング吸着法を用いた酸素分離装置、酸素分離膜を用いた酸素分離装置等が挙げられる。圧力スイング吸着法はPSA(Pressure Swing Adsorption)法とも呼ばれ、複数の酸素分離塔を用いて交互にガスの吸着・脱着を繰り返すことによって酸素濃度が約90?95%程度の酸素富化空気を生成する工業的プロセスとして実用化されている。酸素分離膜は一般に高分子材料等から出来ており、酸素分子を選択的に透過させることによってコンパクトな装置で酸素濃度が約25?40%程度の酸素富化空気を生成することが出来るため、医療用等の分野で実用化されている。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態の燃料電池発電システムの系統図である。燃料電池発電システムの燃料である都市ガス等の炭化水素系燃料は改質器3に供給される。改質器3は水蒸気改質法により炭化水素系燃料を原燃料として水素を主成分とする改質ガスを生成する装置である。水蒸気改質法は炭化水素系燃料を触媒作用下で水蒸気と反応させるもので、その反応式は一般的な炭化水素系燃料CmHnに対して次の(1)式で表現される。生成された改質ガスは燃料電池セル2の燃料極側へ供給される。
【0016】
2C_(m)H_(n)+2mH_(2)O → 2mCO+(2m+n)H_(2) (1)
空気は燃料電池セル用空気供給装置5により酸素分離膜1に供給される。酸素分離膜1は一般に高分子材料等から出来ており、酸素分子を選択的に透過させることにより酸素濃度が約25?40%程度の酸素富化空気と酸素濃度が約5?15%程度の窒素富化空気を生成する。酸素分離膜1で生成された酸素富化空気は燃料電池セル2の空気極側に供給される。燃料電池セル2では、改質器3で生成された改質ガス中の水素と酸素分離膜1で生成された酸素富化空気中の酸素が次の(2)?(4)式のような反応を起こすことによって、電気エネルギーと熱エネルギーを発生させる。
【0017】
空気極側 O_(2)+4H^(+)+4e^(-) → 2H_(2)O (2)
燃料極側 2H_(2) → 4H^(+)+4e^(-) (3)
全体 O_(2)+2H_(2) → 2H_(2)O (4)」

3イ「【0024】次に、第3の実施の形態について図3を用いて説明する。基本的には第1の実施の形態と同様であるが、本実施の形態では燃料電池セル2の冷却は空気によって行われ、その冷却用空気としては酸素分離膜1で成される窒素富化空気が用いられる。そのため、電池冷却水循環ポンプ19は不要となる。
【0025】また、改質器3内部のバーナーでの燃焼に用いられる空気は改質器用空気供給装置7によって供給される。本実施の形態においては、酸素分離膜1で生成される窒素富化空気は燃料電池セル2に供給され電池冷却用空気として用いられるため、燃料電池セル用空気供給装置5と電池冷却用空気供給装置18を兼用することが可能となる。
【0026】次に、第4の実施の形態について図4を用いて説明する。基本的には第1の実施の形態と同様であるが、本実施の形態では酸素分離膜1で生成される窒素富化空気は酸素分離膜1に設けられたプラント内換気空気用窒素富化空気放散口15からプラント内に放出され、プラント内の換気を行った後、プラント内換気用空気排出口12から排出される。また、改質器3内部のバーナーでの燃焼に用いられる空気は改質器用空気供給装置7によって供給される。
【0027】本実施の形態においては、酸素分離膜1で生成される窒素富化空気はプラント内換気用空気として用いられるため、燃料電池セル用空気供給装置5とプラント内換気用空気供給装置6を兼用することが可能となる。さらに、酸素濃度の低い窒素富化空気によりプラント内の換気を行うため、万一プラント内部に可燃性ガスが漏洩した場合でも酸素濃度が低いために爆発等の事故につながる(当審注:原文では「つながる」の「つな」は左上に「車」、右上に「殳」、下に「糸」であるが、当審決では表記できないのでひらがなで表記する。以下同様。)危険性が低いという利点がある。」

3ウ「【0030】また、改質器3がシステム内に単独で設けられていない燃料電池発電システム、すなわち改質器3が燃料電池セル2に内蔵されたような燃料電池発電システム、あるいはシステム内に改質器3を持たずに水素等の燃料を直接供給するような燃料電池発電システムにおいても、燃料電池セル用空気供給装置5を他の空気供給装置と兼用する事は可能である。さらに、いずれの場合も酸素分離装置としては酸素分離膜以外の装置、例えばPSA法による酸素分離装置等を用いることが出来る。」

3エ「【0033】さらに、燃料電池セル用空気供給装置5をプラント内換気用空気供給装置6と兼用した場合には、プラント内の換気を酸素濃度の低い窒素富化空気で行うことにより、万一プラント内部に可燃性ガスが漏洩した場合でも酸素濃度が低いために爆発等の事故につながる危険性が低いという利点がある。」

したがって、上記引用文献3には、燃料電池発電システムにおいて、空気より窒素富化空気と酸素富化空気を生成する酸素分離装置を用いて、生成した窒素富化空気は電池冷却用空気として燃料電池セルに供給したり、プラント内換気用空気としてプラント内に放出し、生成した酸素富化空気は燃料電池セルの空気極側に供給するという技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2010-153115号公報)には、「微生物発電方法及び微生物発電装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

4ア「【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と
を備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電方法において、
該酸素含有ガスが生物処理排ガスを含むことを特徴とする微生物発電方法。
【請求項2】
請求項1において、該酸素含有ガスとして好気性生物処理排ガスを正極室に供給することを特徴とする微生物発電方法。
【請求項3】
請求項1において、該酸素含有ガスとして空気と嫌気性生物処理排ガスとを該正極室に供給することを特徴とする微生物発電方法。
【請求項4】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と
を備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電方法において、
該正極室に供給される酸素含有ガスに炭酸ガスと水蒸気を導入することを特徴とする微生物発電方法。
【請求項5】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と、
該正極室に酸素含有ガスを供給する手段と
を備えた微生物発電装置において、
該正極室に生物処理排ガスを導入する手段を設けたことを特徴とする微生物発電装置。
【請求項6】
請求項5において、該正極室に好気性生物処理排ガスを導入する手段を有することを特徴とする微生物発電装置。
【請求項7】
請求項5において、該正極室に空気と嫌気性生物処理排ガスとを導入する手段を有することを特徴とする微生物発電装置。
【請求項8】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と、
該正極室に酸素含有ガスを供給する手段と
を備えた微生物発電装置において、
該正極室に供給される酸素含有ガスに炭酸ガスと水蒸気を導入する手段を設けたことを特徴とする微生物発電装置。」

4イ「【0035】
上記反応で生じたプロトンH^(+)は、イオン透過性非導電性膜5Aのカチオン透過膜を通って正極5に移動する。正極5では、
O_(2)+4H^(+)+4e^(-)→2H_(2)O
なる反応が進行する。この正極反応で生成したH_(2)Oは凝縮して凝縮水が生じる。この凝縮水には、イオン透過性非導電性膜2のカチオン透過膜を透過してきたK^(+),Na^(+)などが溶け込み、これにより酸素含有ガスとして空気を通気する従来の微生物発電装置にあっては、凝縮水がpH9.5?12.5程度の高アルカリ性となるが、本発明では炭酸ガスを含む生物処理排ガスを通気するため、炭酸ガスによる中和作用でこの凝縮水のpHは7.5?9程度となる。
【0036】
即ち、イオン透過性非導電性膜2として例えばカチオン透過膜を用いた場合、負極6で生成した電子は端子22、外部抵抗21、端子20を経て正極5へ流れる一方で、プロトンとともに負極6に導入される負極溶液L中のNa^(+),K^(+)がイオン透過性非導電性膜2のカチオン透過膜を透過して正極室3に移動する。この場合、正極室3に通気するガスが炭酸ガスを含むことによるpH中和作用によって、Na^(+),K^(+)の移動を促進していると推定され、これにより発電効率の向上が図れる。」

4ウ「【0056】
正極室に流通させる生物処理排ガスとしては、前述の如く、酸素、炭酸ガス及び水蒸気を含む好気性生物処理排ガスであっても良く、炭酸ガス及び水蒸気を含む嫌気性生物処理排ガスであっても良い。生物処理排ガスとして嫌気性生物処理排ガスを用いる場合は、この生物処理排ガスと空気等の酸素含有ガスとを適当な割合、例えば、嫌気性生物処理排ガス:空気=1:0.5?500(容量比)で混合して供給すれば良い。また、この空気の代りに好気性生物処理排ガスを混合しても良い。
【0057】
生物処理排ガスの由来には特に制限はなく、活性汚泥法の排ガスの他、固定床、流動床、硝化、脱窒、コンポスト等の各種の生物処理で排出され、炭酸ガス濃度が空気よりも高いものであれば、どのようなものでも使用することができ、これらの生物処理排ガスの2種以上を混合して用いても良い。
前述の如く、pH中性?弱酸性で運転している活性汚泥曝気槽からの排ガスは炭酸ガス濃度が高く、好適である。また、近年、省エネを目的に適用が広まっている微細気泡散気管等、酸素溶解効率の高い散気装置を使用している曝気槽の排ガスも炭酸ガス濃度が高く、好ましい。」

4エ「【0078】
以上の結果より、正極室に供給する酸素含有ガスに炭酸ガス及び水蒸気を導入することにより、或いは、この酸素含有ガスとして生物処理排ガスを用いることにより、発電効率を向上させることができることが分かる。」

したがって、上記引用文献4には、生物処理排ガスを微生物発電装置の正極室に供給することで発電効率を向上できるという技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
1-1.本願発明1と引用発明との対比
ア 引用発明の「アノード」、「electricigenic微生物」、「空気カソード」、「微生物燃料電池」は、それぞれ本願発明1の「負極」、「微生物」、「エアーカソード」、「微生物発電装置」に相当する。

イ また、上記第4の1.の1-1.の1エの【0026】の記載、同1カの【0042】の記載及び同1キの図1から、引用発明の「微生物燃料電池」は、「アノード」及び「アノード支持材」を一壁面とするアノード室と、アノード室に対しカチオン交換膜を介して隔てられており、「カソード」及び「カソード支持材」を一壁面とするカソード室を備えて構成されているから、引用発明の「アノード」、「アノード支持材」、「アノード室」を合わせたものが、本願発明1の「負極室」に該当し、引用発明の「カソード」、「カソード支持材」、「カソード室」を合わせたものが、本願発明1の「正極室」に相当する。

ウ そして、上記第4の1.の1-1.の1オの【0032】の記載から、運転中に、易酸化性の有機材料を含む流体が「アノード室」に供給され、当該流体は「アノード室」に隣接する「アノード」に浸透することがわかる。
ここで、当該易酸化性の有機材料(グルコース)は、同1ウの【0011】のアノード側の半セル反応からみて、微生物により消化され電子を作り出す物質、すなわち本願発明1の「電子供与体」に相当するものであって、当該易酸化性の有機材料は「液体」の状態であることが通常であると考えられるから、引用発明の「微生物燃料電池」の「アノード」は、「electricigenic微生物」だけでなく「電子供与体」を含む「液」を「保持する」ものと認められる。

エ また、上記第4の1.の1-1.の1カの【0043】の記載から、引用発明の「微生物燃料電池」は、用いる「electricigens微生物」が嫌気性微生物であり、「アノード室」に存在する酸素を低減又は排除するため、窒素ガスを「アノード室」へと導入し、「空気カソード」から「アノード室」へ酸素が流入することを防止するために、酸素不浸透性のカチオン交換膜を使用するものである。

オ したがって、本願発明1と引用発明は、次の点で一致し、相違する。

〈一致点〉
「負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対し膜を介して隔てられており、該膜に接するエアーカソードを有する正極室とを備えた微生物発電装置において、
前記負極室に窒素ガスを供給する、嫌気性微生物による微生物発電装置。」

〈相違点1〉
負極室と正極室を隔てる「膜」が、本願発明1は「多孔性非導電性膜」であるのに対して、引用発明は「酸素不浸透性のアニオン交換膜」である点。
〈相違点2〉
本願発明1の微生物発電装置は「負極室に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段」と「前記窒素ガスを空気より生成させる窒素ガス生成手段」を備えているのに対して、引用発明の微生物発電装置は「負極室に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段」と「前記窒素ガスを空気より生成させる窒素ガス生成手段」を備えることは記載されていない点。

1-2.相違点についての判断
ア 相違点1について
上記1-1.のウで検討したとおり、引用発明は、嫌気性微生物に好ましくない負極室に存在する酸素を排除するため、負極室と正極室を隔てる「膜」として、正極室から負極室へ酸素を透過させない「酸素不浸透性のアニオン交換膜」を用いた発明であるから、当該「酸素不浸透性のアニオン交換膜」に代えて、ガスの透過を完全には抑制できず、正極室から負極室へ酸素を透過する「多孔性非導電性膜」を用いる動機はない。
また、嫌気性微生物による微生物発電装置において「多孔性非導電性膜」を用いることは、引用文献2?4にも記載されておらず、当該技術分野の周知の技術ともいえない。

イ 相違点2について
上記第4の3.で摘示した3ア?3エから、引用文献3の燃料電池の酸素分離装置は、空気極に供給する酸素富化空気を生成することを主な目的としたもので、酸素富化空気の生成と同時に生成した窒素富化空気は、電池冷却用空気として燃料電池セルに供給したり、プラント内換気用空気としてプラント内に放出することは記載されているものの、当該窒素富化空気を燃料極に供給することが記載されているとは認められない。また、燃料電池の反応についてみても、空気極側では本願発明の正極室と同様の反応が進行するものの、燃料極側での反応は本願発明の負極室側の反応と異なるから、引用文献3の酸素分離装置を用いる動機も認められない。
したがって、微生物燃料電池が燃料電池の一種であるとしても、引用発明の負極室に供給する窒素ガスの供給手段や生成手段として、引用文献3に記載された技術的事項を組み合わせることは当業者が容易になし得ることではない。
また、引用文献2、4をみても、嫌気性微生物による微生物発電装置において負極室に窒素を供給することは何ら示されておらず、当該技術分野の周知の技術ともいえない。

ウ 本願発明の効果について
本願発明は、負極室に窒素ガスを供給することにより、多孔性非導電成膜を透過して正極室から負極室に浸透した酸素を除去することができ、負極の絶対電位の上昇、好気性スライムの増殖を抑制することができ、また、負極室を曝気することで、負極表面への過剰な菌体付着(基質との接触効率低下や負極室の閉塞に繋がる)の防止、電子供与体である有機物の酸化に伴い生成する炭酸によるpH低下の防止(脱炭酸)等の格別の効果を奏するものである。

1-3.小括
したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1を引用することによって、本願発明1の特定事項の全てを備えるから、本願発明1について上記1.で検討したのと同様の理由により、本願発明2は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3.本願発明3?4について
本願発明3?4は、本願発明1を引用することによって、本願発明1の特定事項の全てを備えるから、本願発明1について上記1.で検討したのと同様の理由により、本願発明3?4は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4.本願発明5について
本願発明5は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の「多孔性非導電性膜」、「前記負極室に窒素ガスを供給する窒素ガス供給手段」及び「前記窒素ガスを空気より生成させる窒素ガス生成手段」に対応する構成を備えるから、本願発明1について上記1.で検討したのと同様の理由により、本願発明5は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

5.本願発明6について
本願発明6は、本願発明5を引用することによって、本願発明5の特定事項の全てを備えるから、本願発明5について上記4.で検討したのと同様の理由により、本願発明6は、引用文献1に記載された発明と、引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?6はいずれも、引用文献1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-05-10 
出願番号 特願2018-41999(P2018-41999)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 近藤 政克山内 達人  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 磯部 香
池渕 立
発明の名称 微生物発電装置及び方法  
代理人 重野 剛  

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