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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1373803
異議申立番号 異議2021-700027  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-13 
確定日 2021-05-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6730056号発明「蓄電デバイスの発生ガス分析方法及び装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6730056号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6730056号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年3月29日に出願され、令和2年7月6日にその特許権の設定登録がされ、同年7月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年1月13日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)は、その請求項1?4に係る特許に対し特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6730056号の請求項1?4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
蓄電デバイスから発生するガスを捕集して分析する蓄電デバイスの発生ガス分析方法であって、
筐体を有する前記蓄電デバイスを前記筐体ごと容器内部に収容し、前記容器内部が不活性ガスで満たされる試験容器と、前記試験容器よりも低い内圧に保持される複数のサンプル容器と、前記試験容器と複数の前記サンプル容器とを連通させる複数の連通流路と、複数の前記連通流路の前記試験容器と前記サンプル容器との間にそれぞれ設けられた流路開閉弁と、を備えるガス捕集器を用い、前記流路開閉弁を閉じて前記蓄電デバイスの安全性評価試験を開始した後、複数の前記連通流路に設けられた前記流路開閉弁を、前記連通流路毎に順次異なるタイミングで開閉動作させ、開閉動作させた前記流路開閉弁に連通する前記サンプル容器に、当該流路開閉弁が開閉動作したタイミングで前記試験容器の内部ガスを吸引して捕集する工程と、
複数の前記サンプル容器にそれぞれ異なるタイミングで捕集された前記内部ガスを、前記サンプル容器毎に分析する工程と、
を有する蓄電デバイスの発生ガス分析方法。
【請求項2】
前記内部ガスを分析する工程は、GC-MS法、GC法、IC法、ICP-AES法、ICP-MS法、吸光光度法、IR法の少なくとも一つに基づいて分析する工程である請求項1に記載の蓄電デバイスの発生ガス分析方法。
【請求項3】
前記安全性評価試験は、釘刺し試験、過充電試験、加熱試験、外部短絡試験、過放電試験、圧壊試験、充放電試験、保存試験の少なくとも一つの試験である請求項1又は2に記載の蓄電デバイスの発生ガス分析方法。
【請求項4】
前記内部ガスを分析する工程は、発生ガス量、ガス成分の少なくとも一方を求める工程である請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の蓄電デバイスの発生ガス分析方法。」

3 申立理由の概要
(1)申立ての理由1(特許法第29条第2項)
申立人は、主たる証拠として下記甲第1号証(以下「甲1」という。)及び従たる証拠として下記甲第2号証(以下「甲2」という。)を提出し、請求項1?4に係る発明は、甲1及び甲2に記載された発明に基づき容易想到であるから、請求項1?4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張する。

甲第1号証:リチウムイオン二次電池の安全性試験時発生ガス分析、
NSSTつうしん、日鉄テクノロジー(株)、
2014年7月1日発行
甲第2号証:特開2008-26187号公報

(2)申立ての理由2(特許法第36条第6項第2号)
申立人は、請求項1?4に記載された発明は明確でなく、請求項1?4に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張する。

4 甲号証の記載
(1)甲1
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与したものである。以下、同様。
(ア)
「リチウムイオン二次電池の安全性試験時発生ガス分析」(表題)
(イ)
「はじめに
リチウムイオン二次電池(以後、LiBと表記)は、自動車、航空機のような大型機器からPCや携帯電話のような小型で身近な機器など幅広い分野で使用されています。
製造メーカーはもとより、日常の生活に浸透している部品であるため、利用者(消費者)の安全への関心も高まってきています。また、海外では輸送などにかかる規制の一部に安全性試験が義務化されています。このLiB安全性試験時に発生するガスの分析例を紹介します。」(左欄1行?12行)
(ウ)
「安全性試験とガス分析手法
当社では主に、LiBの(1)釘刺し試験(短絡試験)、(2)圧壊試験、(3)過充電試験時に発生するガスを分析しています。・・・汎用的なガス分析手法であるGC-TCD法、GC-FID法、GC-MS法と各種光吸収法を組み合わせて分析を行っています。
分析結果として、(1)安全性試験時の動画録画(図1)、(2)電圧、試験体温度、雰囲気温度(図2)、ガス組成及び発生量(図3または図4)が得られます。ガス組成の分析は全量捕集ガス分析またはリアルタイムガス分析が選択できます。
試験の雰囲気は、大気、不活性ガス(Ar,N2)が選択可能です。分析は、実際の使用環境に合わせ大気中で実施することが多いですが、LiB構成材料自体の熱分解挙動を把握するために、不活性ガス中で試験をすることも可能です。」(左欄13行?34行)(なお、上記半角括弧の数字の実際の表記は丸括弧の数字である。)
(エ)
「全量捕集ガス分析
(図1?図3)
試験を密閉容器内で行い、ガス拡散とファンによる攪拌で発生ガスを均一混合した後、一定量を容器から採取、あるいは溶液に捕集しラボでガス分析を行います。LiBから発生したガス種と総ガス量の情報取得ができます。・・・」(左欄35行?41行)
(オ)
「リアルタイムガス分析
(図1、図2、図4)
試験を開放系、あるいは、気流中(空気、N_(2)、Ar)で行い、試験開始から終了までのガス放出挙動を着目成分毎にモニタリングすることも可能です。この方法は成分毎の放出挙動、繰り返し試験時の放出挙動がその場観測できるという利点があります。図4には釘刺し試験時の分析結果を示しました。・・・」(左欄47行?中欄3行)

(カ)掲載図


イ 甲1発明
上記ア(カ)の図面から、「金属容器(密閉容器)内とガス採取容器はガス導入管を介して接続されており、ガスは金属容器(密閉容器)からガス採取容器に捕集後測定される(矢印参照)」ことが見て取れる。
よって、上記アの記載事項から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「リチウムイオン二次電池(以後、LiBと表記)の安全性試験時に発生するガスの分析方法であって、
安全性試験は、釘刺し試験(短絡試験)、圧壊試験、過充電試験であり、
ガス分析手法は、GC-TCD法、GC-FID法、GC-MS法と各種光吸収法を組み合わせて分析を行いガス組成及び発生量を得るものであり、
試験の雰囲気は、大気、不活性ガス(Ar,N2)が選択可能であり、
ガス組成の分析は全量捕集ガス分析またはリアルタイムガス分析が選択でき、
全量捕集ガス分析は、試験を密閉容器内で行い、ガス拡散とファンによる攪拌で発生ガスを均一混合した後、金属容器(密閉容器)内とガス採取容器はガス導入管を介して接続されており、ガスは金属容器(密閉容器)からガス採取容器に捕集後測定され、LiBから発生したガス種と総ガス量の情報取得ができ、
リアルタイムガス分析は、試験を開放系、あるいは、気流中(空気、N_(2)、Ar)で行い、試験開始から終了までのガス放出挙動を着目成分毎にモニタリングし、その場観測する、
分析方法。」

(2)甲2
ア 甲2の記載事項
(ア)
「【請求項1】
採取したガスを保持するためのボトルが1個以上備えられ、採取したガスを分析するための分析装置に接続可能に構成されるガス採取装置であって、
ガスの採取を実行する条件である実行条件を満たすごとに、採取したガスを各ボトルに保持する採取手段と、
ガスを採取したときの環境条件を検出する検出手段と、
前記環境条件を各ボトルに関連付けて記録する記録手段と、
分析装置に接続されたときに、分析装置に対して分析開始の指示を行い、分析装置から分析結果を受け取る制御手段とを有し、
前記制御手段は、受け取った分析結果を、前記環境条件とともに各ボトルに関連付けて前記記録手段に記録することを特徴とするガス採取装置。」
(イ)
「【0005】
たとえば、大気の一部を試料ガスとして採取し、温室効果ガスのモニタリングを行う場合、ガス採取装置を貨物船に搭載し、海上の複数箇所でサンプリングを行う。サンプリングに必要な期間は数ヶ月に渡る場合もあり、サンプリング回数は数十回に及び、非常に多くの試料ガスが採取される。海上で採取したガスは数十本のボトルに保管され、分析室に運ばれ、分析される。」
(ウ)
「【0028】
図1は、本発明の実施の一形態であるガス採取装置1の構成を示す概略図である。
ガス採取装置1は、複数のボトル2、制御部3、データ記録部4、GPS部5、検出部6、複数のバルブ7および試料ガス流路8を備えて構成される。
【0029】
ボトル2は、採取した試料ガスを保管するための容器であり、金属製である。ガス採取前のボトル2内は高真空状態か、または、分析対象物質を含まないガスなどを充填しておく。制御部3は、ガス採取装置1全体の動作を制御し、ボトル2へのガスの封入、バルブ7の開閉、測定環境条件の記録などを行う制御手段である。データ記録部4は、ボトル2ごとに割り振られたボトル番号と、測定環境条件など必要な情報とを関連付けて記憶する記録手段、履歴記憶手段である。GPS部5は、GPS(Global Positioning System)を利用してガス採取装置1の現在位置を出力する。出力される情報は、緯度、経度、高度である。検出部6は、測定環境条件を検出するためのセンサである圧力センサ、温度センサなどを含んで構成される検出手段である。出力される情報は、圧力および温度などである。
【0030】
測定環境条件は、ガスを採取したときのガス採取装置1の環境条件であり、少なくともガスを採取した時刻、ガスを採取したときの装置周辺の温度、ガスを採取したときの装置周辺の圧力、およびガスを採取したときのガス採取装置1の現在位置である。制御部3が、各バルブ7を操作して試料ガスをボトル2に取り込んだときに、制御部3の時計機能で経時した時刻や、GPS部5、検出部6から出力される情報と、試料ガスを取り込んだボトル2のボトル番号とを関連付けてデータ記録部4に記憶させる。
【0031】
試料ガス流路8は、ガス採取装置1内部に設けられ、ボトル2を並列に接続する。
なお、採取手段は、制御部3、バルブ7および試料ガス流路8で構成され、故障検出手段は、制御部3およびデータ記録手段4で構成される。
【0032】
以下では、都市ガスラインからのサンプリングを例として、ガス採取装置1のサンプリング時の動作について説明する。
【0033】
都市ガス中圧ライン10の所定位置にサンプリング用の分岐ライン11を設け、分岐ラインに、ポンプを備えたサンプル加圧部12を設置する。ボトル2は、容量が2L(リットル)でステンレス製、内面が特殊研磨された容器であり、耐圧は1MPaまで充填可能である。本実施形態では、1台のガス採取装置1に、ボトル2が6本備えられており、ガス採取装置1の重さは20?30kgと人力で運搬可能な重量である。
【0034】
ガス採取装置1内部には、ボトル2を並列接続する試料ガス流路8が設けられ、流路8の一方端は、サンプル加圧部12に接続可能に構成されている。また、流路8の他方端は、真空ポンプを備えた真空部13に接続可能に構成されている。
【0035】
複数のバルブ7のうち、バルブ71は、サンプル加圧部12との接続部付近に設けられ、試料ガスを取り込む際に制御部3によって開かれる。バルブ72?バルブ83は、ボトル2前後の開口部にそれぞれ接続され、制御部3がこれらの開閉制御を行うことで、所望のボトル2に試料ガスを封入することができる。
【0036】
実際にガスを採取するタイミングは、ガスの採取を実行する条件である実行条件を満たしたときである。
【0037】
実行条件としては、前回の採取からの経過時間および予め定める時刻のいずれかとする。たとえば、6時間ごとに採取する場合や、毎時0分に採取する場合などがこの条件に含まれる。また、実行条件としては、ガス採取装置の現在位置、温度、圧力、およびこれらの変化のいずれかであってもよい。たとえば、予め定める緯度および経度で採取する場合、緯度または経度が3度ごとに採取する場合、温度が30℃のときに採取する場合、前回採取したときの温度から10℃変化したときに採取する場合、圧力が950hPaのときに採取する場合、前回採取したときの圧力から10hPa変化したときに採取する場合などがこの条件に含まれる。
【0038】
ガス採取装置1をサンプリング現場に持ち込む前に、予め実験室などでガス採取前のボトル2の洗浄を行う。洗浄方法としては2種類あり、分析対象物質を含まないガス(たとえば高純度のN2、Heまたは空気)を流しながら、150℃程度に加熱する第1の方法と、分析対象物質を含まないガスを流すだけで加熱しない第2の方法とがある。洗浄した後、一度、ボトル2内を真空状態にして、真空度を確認し、バルブ7が故障していないことを確認する。現場に持ち込んだ後、再びボトル2内の真空度を確認し、バルブ7が正常に動作していることを確認してから採取を行う。
【0039】
たとえば、6時間ごとに採取する実行条件で、2006年4月1日 AM0:00採取開始の場合、2006年4月1日 AM0:00にバルブ72を開にして真空度を確認する。次にバルブ84を開き、真空部13の真空ポンプがONになると真空度を圧力ゲージ14で確認する。真空状態での圧力は100Pa程度である。」
(エ)
【0046】
図2は、ガス採取装置1を分析装置に接続した状態を示す概略図である。
ガス採取時に、サンプル加圧部12と接続していた接続部は、分析装置たとえばGCのインジェクションにも接続可能に構成されている。
【0047】
GC20は、外部機器からのコントロール(外部機器からの分析の開始および終了指示、分析結果データの外部機器への出力)が可能に構成されており、ガス採取装置1は、外部コントロールを行うための信号を入出力するインターフェイス9を備えている。
【0048】
GC20のウォーミングアップ終了後、バルブ72を開いて、ボトル21に保管されていた試料ガスをGCに注入する。注入後、直ちにGC20に対して分析を開始するようにインターフェイス9を介して制御信号である分析開始信号を出力する。GC20は分析開始信号に基づいて分析を開始し、計測を行う。分析結果データは、GC20から出力され、インターフェイス9を介してガス採取装置1が取得する。このとき、GC20に注入したボトル21のボトル番号(C112)と、入力された分析結果とを関連付けてデータ記録部4に記録する。
【0049】
これにより、データ記録部4には、ボトル番号と、環境条件および分析結果とが関連付けられて記録されることになる。
【0050】
図3は、データ記録部4に記録されるデータの例を示す図である。
ボトル番号ごとに、サンプリング時の環境条件と分析結果とが関連付けられていることがわかる。このようなガス採取装置1を用いることでボトルの取り違えや、ボトル番号の入力間違いが起こらないので、ヒューマンエラーの発生率を極めて低くすることができる。」
(オ)
【図1】


(カ)
【図3】


イ 甲2発明
上記アの記載事項から、概して「1個以上のボトルを備えるガス採取装置におけるガス採取方法」が記載されているといえ、具体的には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため括弧内に対応する段落番号などを付記する。
「採取したガスを保持するためのボトルが1個以上備えられ、採取したガスを分析するための分析装置に接続可能に構成されるガス採取装置におけるガス採取方法において、(請求項1)
ボトル2は、採取した試料ガスを保管するための容器であり、金属製であり、ガス採取前のボトル2内は高真空状態しておき、
制御部3は、ガス採取装置1全体の動作を制御し、ボトル2へのガスの封入、バルブ7の開閉、測定環境条件の記録などを行う制御手段であり、
データ記録部4は、ボトル2ごとに割り振られたボトル番号と、測定環境条件など必要な情報とを関連付けて記憶する記録手段、履歴記憶手段であり、(0029)
試料ガス流路8は、ガス採取装置1内部に設けられ、ボトル2を並列に接続し、(0031)
サンプリング用の分岐ライン11を設け、分岐ラインに、ポンプを備えたサンプル加圧部12を設置し、(0033)
ガス採取装置1内部には、ボトル2を並列接続する試料ガス流路8が設けられ、流路8の一方端は、サンプル加圧部12に接続可能に構成され、また、流路8の他方端は、真空ポンプを備えた真空部13に接続可能に構成され、(0034)
バルブ71は、サンプル加圧部12との接続部付近に設けられ、試料ガスを取り込む際に制御部3によって開かれ、バルブ72?バルブ83は、ボトル2前後の開口部にそれぞれ接続され、制御部3がこれらの開閉制御を行うことで、所望のボトル2に試料ガスを封入し、(0035)
ガスを採取するタイミングは、前回の採取からの経過時間および予め定める時刻のいずれかとする実行条件を満たしたときであり、(0036,0037)
ガス採取時に、サンプル加圧部12と接続していた接続部は、分析装置たとえばGCのインジェクションにも接続可能に構成され、(0046)
GC20のウォーミングアップ終了後、バルブ72を開いて、ボトル21に保管されていた試料ガスをGCに注入し、注入後、分析を開始し、計測を行い、(0048)
データ記録部4には、ボトル番号と、環境条件および分析結果とが関連付けられて記録されるようにする、(0049)
ガス採取方法。」

5 当審の判断
(1)申立ての理由1(特許法第29条第2項)について
ア 請求項1に係る発明について
(ア)請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」という。)と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「リチウムイオン二次電池(LiB)」は、本件特許発明1の「蓄電デバイス」に相当する。
甲1発明は、「全量捕集ガス分析は、試験を密閉容器内で行い、」「試験の雰囲気は、」「不活性ガス(Ar,N2)が選択可能であ」るから、LiBは不活性ガス(Ar,N2)雰囲気で密閉容器内に収容されているといえる。
よって、甲1発明の「密閉容器」と、本件特許発明1の「筐体を有する前記蓄電デバイスを前記筐体ごと容器内部に収容し、前記容器内部が不活性ガスで満たされる試験容器」とは、共に「前記蓄電デバイスを容器内部に収容し、前記容器内部が不活性ガスで満たされる試験容器」である点で共通する。

甲1発明の「ガス採取容器」と、本件特許発明1の「前記試験容器よりも低い内圧に保持される複数のサンプル容器」とは、共に「サンプル容器」である点で共通する。
甲1発明において、「金属容器(密閉容器)内とガス採取容器はガス導入管を介して接続されて」いるから、甲1発明の「ガス導入管」と、本件特許発明1の「前記試験容器と複数の前記サンプル容器とを連通させる複数の連通流路」とは共に、「前記試験容器と前記サンプル容器とを連通させる連通流路」である点で共通する。

以上のことから、甲1発明は、「試験容器」と、「サンプル容器」と、「連通流路」とを備える「ガス捕集器」を用いているといえる。

甲1発明の「ガスは金属容器(密閉容器)からガス採取容器に捕集後測定」することと、本件特許発明1の「複数の前記サンプル容器にそれぞれ異なるタイミングで捕集された前記内部ガスを、前記サンプル容器毎に分析する」とは共に、
「前記サンプル容器に捕集された前記内部ガスを、分析する」点で共通する。

そして、甲1発明の「リチウムイオン二次電池(以後、LiBと表記)の安全性試験時に発生するガスの分析方法」は、本件特許発明1の「蓄電デバイスから発生するガスを捕集して分析する蓄電デバイスの発生ガス分析方法」に相当する。

以上の相当関係をまとめると、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有するものである。
(一致点)
「蓄電デバイスから発生するガスを捕集して分析する蓄電デバイスの発生ガス分析方法であって、
前記蓄電デバイスを容器内部に収容し、前記容器内部が不活性ガスで満たされる試験容器と、サンプル容器と、前記試験容器と前記サンプル容器とを連通させる連通流路と、を備えるガス捕集器を用い、
前記サンプル容器に捕集された前記試験容器の内部ガスを、分析する工程と、
を有する蓄電デバイスの発生ガス分析方法。」

(相違点1)
蓄電デバイスを容器内部に収容することにおいて、本件特許発明1は、蓄電デバイスが筐体を有するものであり、筐体ごと容器内部に収容するものであるのに対し、甲1発明は、リチウムイオン二次電池(LiB)が筐体を有するとは明示されておらず、筐体ごと密閉容器に収容されているとは明示されていない点。

(相違点2)
サンプル容器が、本件特許発明1は、「前記試験容器よりも低い内圧に保持される」のに対し、甲1発明は、ガス採取容器が金属容器(密閉容器)よりも低い内圧に保持されるか不明である点。

(相違点3)
サンプル容器と、前記試験容器と前記サンプル容器とを連通させる連通流路の構成について、本件特許発明1は、サンプル容器及び連通流路が複数であり、複数の前記連通流路の前記試験容器と前記サンプル容器との間にそれぞれ設けられた流路開閉弁を備えるのに対し、甲1発明は、ガス採取容器及びガス導入管は複数であるとの特定はなく、ガス導入管の金属容器(密閉容器)内とガス採取容器の間に流路開閉弁を備えるか不明である点。

(相違点4)
サンプル容器に捕集された試験容器の内部ガスを分析する構成について、
本件特許発明1は、
「前記流路開閉弁を閉じて前記蓄電デバイスの安全性評価試験を開始した後、複数の前記連通流路に設けられた前記流路開閉弁を、前記連通流路毎に順次異なるタイミングで開閉動作させ、開閉動作させた前記流路開閉弁に連通する前記サンプル容器に、当該流路開閉弁が開閉動作したタイミングで前記試験容器の内部ガスを吸引して捕集する工程と、
複数の前記サンプル容器にそれぞれ異なるタイミングで捕集された前記内部ガスを、前記サンプル容器毎に分析する工程」を有するのに対し、
甲1発明は、ガスは金属容器(密閉容器)からガス採取容器に捕集後測定される全量捕集ガス分析である点。

(イ)判断
a 相違点3及び4について
事案に鑑み、先に相違点3を検討する。また、サンプル容器に捕集された試験容器の内部ガスを分析する構成についての相違点4は、サンプル容器と、前記試験容器と前記サンプル容器とを連通させる連通流路の構成についての相違点3の構成を前提とするので相違点4も併せて検討する。

甲1発明において、ガスを金属容器(密閉容器)からガス採取容器に捕集後測定するのは、「全量捕集ガス分析」を選択した場合であり、その分析によりLiBから発生したガス種と総ガス量の情報を取得するものである。
一方、甲2発明は、「1個以上のボトルを備えるガス採取装置におけるガス採取方法」であり、それぞれ異なるタイミングでボトルに採取したガスを測定するための方法であるといえる。
そして、甲2には、試料ガスとして、大気の一部(段落【0005】参照。)や都市ガス中圧ラインの分岐ラインからサンプリングしたガス(段落【0033】参照。)を対象とすることが記載されているように、甲2発明は、試料ガスの一部を異なるタイミングで断続的にサンプリングする際の発明であるから、甲1発明の「全量捕集ガス分析」に、試料ガスの一部をサンプリングする際の発明である甲2発明を採用する動機付けがあるとはいえない。
仮に、甲1発明の「全量捕集ガス分析」に、甲2発明を採用した場合、LiBから発生したガスのうち一部のガスしか分析の対象にならず、全量を分析対象とすることはできなくなり、総ガス量の情報を得ることもできなくなるから、甲1発明の「全量捕集ガス分析」に、甲2発明を採用するには阻害要因が存在するともいえる。
よって、相違点3及び4に係る本件特許発明1の構成を得るために、甲2発明を甲1発明に適用することを、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

b 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、
「ここで、甲1発明および甲2発明は、いずれもガス採取装置に関連し、サンプリングまでを自動で行う機器や分析方法に関するのであるから、当業者は、甲2発明を適宜参照することにより、甲1発明におけるガス採取容器を、複数とし、これにより構成要件1Dを具備させることについて、何ら困難ではない。
<構成要件1Eについて>
甲第2号証の上記開示によれば、甲2発明において、試料ガス流路8は、ガス採取装置1内部に設けられ、ボトル2を並列に接続する([0031]、図1)。
そうすると、甲2発明の「ボトル2を並列に接続する試料ガス流路8」は、本件特許発明1における「前記試験容器と複数の前記サンプル容器とを連通させる複数の連通流路」に相当する。
また、上記のとおり、当業者は、甲1発明において甲2発明を適宜組み合わせる動機が肯定される。
以上より、当業者は、甲2発明を適宜参照することにより、甲1発明におけるガス採取装置とボトルとを接続する場合において、ガス採取装置およびボトルをそれぞれ複数とし、それぞれのガス採取装置およびボトルを、流路によって接続し、これにより構成要件1Eを具備させることについて、何ら困難ではない。
<構成要件1Fについて>
・・・
また、上記のとおり、当業者は、甲1発明において甲2発明を適宜組み合わせる動機が肯定される。
以上より、当業者は、甲2発明を適宜参照することにより、甲1発明におけるガス採取装置とボトルとを接続する場合において、ガス採取装置およびボトルをそれぞれ複数とし、それぞれのガス採取装置およびボトルを接続する流路に、流路開閉弁を設け、これにより構成要件1Fを具備させることについて、何ら困難ではない。
<構成要件1Hについて>
・・・
また、上記のとおり、当業者は、甲1発明において甲2発明を適宜組み合わせる動機が肯定される。
以上より、当業者は、甲2発明を適宜参照することにより、甲1発明におけるガス採取装置とボトルとを接続し、その流路に流路開閉弁を設ける際に、複数のボトルに、それぞれの試料ガスが封入されるように、順次流路開閉弁を連通させ、これにより構成要件1Hを具備させることについて、何ら困難ではない。
<構成要件1Iについて>
・・・
また、上記のとおり、当業者は、甲1発明において甲2発明を適宜組み合わせる動機が肯定される。
以上より、当業者は、甲2発明を適宜参照することにより、甲1発明において採取したガスの分析を行う際に、ボトルを複数とし、かつ、複数のボトルのそれぞれに封入されたガスを分析し、これにより構成要件1Iを具備させることについて、何ら困難ではない。
以上より、甲1発明において、当業者は、甲2発明を組み合わせることにより、構成要件1D?1F、1H、1Iを具備させ得る。
その結果、本件特許発明1は、甲1発明において、甲2発明を組み合わせることにより、容易想到である。」(17頁から20頁参照。なお、下線は当審が付与した。)
と主張している。
ここで、「当業者は、甲1発明において甲2発明を適宜組み合わせる動機が肯定される」根拠として、「甲1発明および甲2発明は、いずれもガス採取装置に関連し、サンプリングまでを自動で行う機器や分析方法に関するのである」ことを挙げている。

また、効果について、
「甲第2号証には、甲2発明を実行することにより、経時で試料ガスを取り込んだそれぞれのボトルについて、ボトル番号と分析結果等が関連付けられてデータ記録部に記録されることが開示されている([0049]、[0050]、図3)。すなわち、甲2発明によれば、本件特許発明1と同様に、発生ガスの経時変化が分析され得る。
したがって、本件特許発明1により奏される効果は、何ら特段のものではなく、当業者であれば、甲1発明?甲2発明に基づいて容易に予期し得る程度に過ぎない。」(20頁参照)
と主張している。
この主張に鑑みるに、甲2発明は「発生ガスの経時変化が分析され得る」効果を奏するための構成であるといえる。

しかしながら、「発生ガスの経時変化が分析され得る」効果を奏するための構成は、甲1発明において「リアルタイムガス分析」の構成として既に有しているものであるから、さらに、「発生ガスの経時変化が分析され得る」効果を奏するための甲2発明を甲1発明に組み合わせる動機があるとはいえない。
また、甲1発明の「リアルタイムガス分析」に代えて甲2発明を採用した場合、ガスの採取は、それぞれ異なるタイミングで断続的なものとなり、ガス放出挙動をリアルタイムにその場観測することはできなくなることから、むしろ、その採用には阻害要因が存在するといえる。
したがって、「甲1発明および甲2発明は、いずれもガス採取装置に関連し、サンプリングまでを自動で行う機器や分析方法に関するのである」としても、甲2発明を甲1発明に組み合わせる動機があるとはいえず、むしろ阻害要因が存在するから、「本件特許発明1は、甲1発明において、甲2発明を組み合わせることにより、容易想到である」との主張には理由がない。

イ 請求項2?4に係る発明について
請求項2?4に係る発明は、本件特許発明1をさらに技術的に限定したものである。よって、上記アに示した理由と同様の理由により、請求項2?4に係る発明は、上記甲1発明及び甲2発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、請求項1?4に係る発明は、甲1発明及び甲2発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(2)申立ての理由2(特許法第36条第6項第2号)について
ア 申立人の主張する明確性要件違反について、異議申立書(22頁?24頁)には、以下のとおり記載されている。
「本件特許発明1は、構成要件1B(筐体を有する前記蓄電デバイスを前記筐体ごと容器内部に収容し)を必須の発明特定事項とする。
しかしながら、「筐体」の関する説明は、本件特許明細書の[0014]等において、「連通流路23の試験容器19側の先端は、図示例のように蓄電デバイス11の筐体内部に配する他、蓄電デバイス11の外側近傍における試験容器19の内部で開口していてもよい」と開示されているのみである。
すなわち、本件特許明細書には、構成要件1Bにおける「筐体」が、具体的に何を指すのか何ら明確に記載されていない。
一般に、「蓄電デバイス」は、種々の寸法・形態等があり、蓄電デバイスの「筐体」にも、種々の寸法、形態等がある。単電池の集合体をモジュールと言い、モジュールの集合体を電池パックと言う。
・・・図省略・・・
たとえば、携帯電話やスマートフォンでは、蓄電デバイスは、「電池パック」そのものを指す。一方、電気自動車の場合、搭載されている「電池パック」(筐体とも捉え得る)の容積は大きく、その電池パック全体を「筐体」というべきか、つまり、本件特許明細書における「筐体」が、単電池、モジュール、電池パックのどれを意味しているか、あるいはさらに別のものを意味しているか、本件特許明細書からは把握することができない。
本件特許発明1は、構成要件1Bを具備することにより、「筐体を有する蓄電デバイス」が、「筐体ごと、容器内部に収容される」のであるから、このような「筐体」がいかなるものであるか明確に理解されなければ、発明の範囲が定まらず、不明確となる。たとえば、電池の一部を筐体と捉え得るならば、その全体でなくとも、一部のみが容器内部に収容されている態様を以って、構成要件1Bが具備され得ると捉えられ兼ねないし、一部のみが容器内部収容されている態様では構成要件1Bが具備されないというのであれば、そのような態様は、本件特許発明の技術的範囲には含まれないこととなり得る。
したがって、このような構成要件1Bの規定された本件特許発明1は、その範囲が不明確である。
本件特許発明1に従属する本件特許発明2?4についても同様である。」

イ 判断
本件特許明細書の【0031】から【0035】までには、具体的な電池の試験についての記載があり、IEC62660-2、UL2580、ISO12405-1などは、電動車両(電気自動車)用の試験であり、JIS C8711は、ポータブル機器用の試験であり、IEC62133は、密閉形小型二次電池の試験である。
このように、「蓄電デバイス」としては種々の寸法、形態のものが記載されるていることから、本件特許発明1の「蓄電デバイス」の「筐体」は、種々の「蓄電デバイス」に応じた「筐体」を意味しているといえる。
そして、異議申立書にも
「一般に、「蓄電デバイス」は、種々の寸法・形態等があり、蓄電デバイスの「筐体」にも、種々の寸法、形態等がある。単電池の集合体をモジュールと言い、モジュールの集合体を電池パックと言う。
・・・図省略・・・
たとえば、携帯電話やスマートフォンでは、蓄電デバイスは、「電池パック」そのものを指す。一方、電気自動車の場合、搭載されている「電池パック」(筐体とも捉え得る)の容積は大きく、その電池パック全体を「筐体」というべき」
と記載されているように、一般に、蓄電デバイスの種類に応じて「筐体」を認識し得ることから、請求項1の「筐体を有する前記蓄電デバイスを前記筐体ごと容器内部に収容し」との特定事項における「筐体」が何を指すのか不明であるとまではいえない。
また、請求項1に従属する請求項2?4についても同様である。

ウ 小括
以上のとおり、請求項1?4に係る発明は、明確でないとはいえない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-04-26 
出願番号 特願2016-66849(P2016-66849)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01N)
P 1 651・ 537- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西浦 昌哉  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 森 竜介
▲高▼見 重雄
登録日 2020-07-06 
登録番号 特許第6730056号(P6730056)
権利者 株式会社コベルコ科研
発明の名称 蓄電デバイスの発生ガス分析方法及び装置  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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