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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B29B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B29B |
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管理番号 | 1373812 |
異議申立番号 | 異議2021-700180 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-02-18 |
確定日 | 2021-05-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6745049号発明「ペレットの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6745049号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6745049号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、令和1年6月27日を出願日とする特許出願であって、令和2年8月5日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、特許掲載公報が同年同月26日に発行され、その後、その特許に対し、令和3年2月18日に特許異議申立人 伴よし子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし6の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件特許発明1」などといい、これらを併せて「本件特許発明」という場合がある。)。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂および強化材を含む組成物からなるストランドを、ダイの吐出口から押し出す工程と、 前記ストランドを、水槽内の水に引き込み、冷却する工程と、 冷却された前記ストランドを切断して、ペレットを得る工程とを含み、 前記ストランドを前記水槽内で導くための一つ以上の第一ガイドローラーが前記水槽内に設けられており、最上流に位置する前記第一ガイドローラー前後で前記ストランドがなす角度は90°以上180°未満であり、 前記ペレットの径の、前記吐出口の径に対する比(前記ペレットの径/前記吐出口の径)が0.45?0.80であり、 前記ストランドを冷却する工程は、前記水槽内で水冷された前記ストランドを空冷する工程を含み、 前記水槽内で水冷された前記ストランドを空気中で導くための、一つ以上の第二ガイドローラーが設けられており、 最上流に位置する前記第二ガイドローラー前後で前記ストランドがなす角度は、最上流に位置する前記第一ガイドローラー前後で前記ストランドがなす前記角度よりも大きい、 ペレットの製造方法。 【請求項2】 最上流に位置する前記第一ガイドローラー前後で前記ストランドがなす前記角度は179°以下である、請求項1に記載のペレットの製造方法。 【請求項3】 前記第一ガイドローラーが前記水槽内に一つだけ設けられている、請求項1または2に記載のペレットの製造方法。 【請求項4】 前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含む、請求項1?3のいずれかに記載のペレットの製造方法。 【請求項5】 前記強化材の含有量が、前記組成物100質量%中、10質量%以上である、請求項1?4のいずれかに記載のペレットの製造方法。 【請求項6】 前記ペレットにおける扁平率の標準偏差が0.25以下である、請求項1?5のいずれかに記載のペレットの製造方法。」 第3 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由は、おおむね次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証を根拠とする新規性欠如) 本件特許発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるベきものである。 2 申立理由2(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如) 本件特許発明1ないし6は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(甲2を主引用例とする進歩性欠如) 本件特許発明1ないし6は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 4 証拠方法 特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。文献の表記は、特許異議申立書の記載に基づく。以下、甲各号証の番号に応じて、甲第1号証を「甲1」などという。 ・甲第1号証:特開2004-137450号公報 ・甲第2号証:特開2008-265296号公報 ・甲第3号証:特開平11-309715号公報 ・甲第4号証:参考図、特許異議申立人作成、令和3年2月 第4 当審の判断 当審は、以下に述べるように、申立理由1ないし3には、いずれも理由はないと判断する。 1 甲各号証の記載事項等 (1)甲1の記載事項 甲1には、「製造方法及びその樹脂組成物」に関し、以下の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同様。)。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】 ポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、ロットサイズが小さいものから大きいものまであり、且つグレード数が多く、着色も多種である。しかも、ポリフェニレンエーテル樹脂は、粉体で且つハンドリングの難しい樹脂のため、ポリフェニレンエーテル粉体を押出機で溶融混練するには、押出機一台毎に特殊な粉体供給設備を要する。 本発明は、優れた生産性、物性及び着色性を持った難燃ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の製造方法及びその樹脂組成物を得ることに関する。」 ・「【0004】 【発明が解決しようとする課題】 ポリフェニレンエーテル粉体からポリフェニレンエーテル樹脂組成物を製造する場合、少なくとも5つの課題を抱えている。 ・・・・ これらのポリフェニレンエーテル粉体の課題を解決することが求められている。 しかしながら、先行技術では、これらの課題に対して十分とは言えない。 本発明は、優れた生産性、物性及び着色性を持った難燃ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の製造方法及びこれから得られる樹脂組成物を得ることを目的とする。」 ・「【0010】 【発明の実施の形態】 以下、本発明を更に詳細に、図面を用いて説明する。 まず始めに図面の説明をする。 本発明の一例に係るポリフェニレンエーテル粉体から中間原料ペレットを造り、難燃ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を製造する概要図を図1に示す。 図1中において、・・・9は、第一工程押出機の第一供給口ホッパーである。10は、第一工程用二軸同方向回転押出機である。 【0011】 11は、真空ベントである。12は、スクリーンチェンジャーである。13は、ダイ部である。14と28は、ストランドバスである。15と29は、ストランドカッターである。16と30は、篩である。・・・」 ・「【0034】 本発明で使用する押出機には、ブレーカープレートに10番から200番の金属メッシュを付けて、異物を除去することが望ましい。ブレーカープレートの濾過面積は、第一工程と同じであることが好ましい。ただし、強化材グレードを造る場合にはメッシュを外すことが必要である。 また、本発明の難燃ポリフェニレンエーテル樹脂に必要に応じてガラスファイバーおよび/または強化材を添加することができる。添加量は、第二工程で得られた樹脂部100重量部に対して5?60重量部添加することが好ましい。 【0035】 本発明の強化材であるフィラーは、重質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、軟質炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、クレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、アルミナ、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ハイドロタルサイト、針状フィラー(ウオラストナイト、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、セプライト、ゾノトライト、ホウ酸アルミニウム)、ガラスビーズ、シリカビーズ、アルミナビーズ、カーボンビーズ、ガラスバルーン、金属系導電性フィラー、非金属製導電性フィラー、カーボン、磁性フィラー、圧電・焦電フィラー、摺動性フィラー、封止材用フィラー、紫外線吸収フィラー、制振用フィラー、導電性フィラー(ケッチェンブラック、アセチレンブラック)等で、ファイバーは、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等である。」 ・「【0037】 【実施例】 本発明を実施例に基づいて説明する。 まず始めに、第一工程の説明をする。 中間原料種の製造例(第一工程) なお、本発明の第一工程で用いた押出機の運転条件は下記に示す通りである。 ・・・ 【0038】 (A) 原料 PPE樹脂A: 平均粒径:500μm Mw/Mn:2.8 還元粘度:0.51 PPE樹脂B: 平均粒径 250μm Mw/Mn:2.5 還元粘度:0.45 (B) 押出機 押出機: 日本国東芝機械社製の二軸同方向回転押出機TEM-136SS(押出機長さ7バレル 約L/D=28)を使用した。 ・・・ 【0040】 ・・・ ダイプレート: 4、5mmΦの穴径150穴 【0041】 ストランドバスの長さ: 5m ストランド水の温度: 40℃ ストランドは、ストランド水に2m浸漬したのち、空冷し、エアワイパーでストランド表面に付着している水を吹き飛ばした。 ストランドのペレタイザーの入り口温度: 140℃ ペレットサイズ(長さ): 3mm目標(その後篩で、連粒ペレット、長ペレットを分離して、99wt%が2.5?3.5mmの円柱状のペレットを製造。) ・・・ 【0044】 [製造1] フレキシブルコンテナからポリフェニレンエーテル粉体を20m^(3)のストックホッパーに5t投入し、ストックホッパーからフィーダーホッパーにREFIL量400kgを仕込んだ。 また、ストックホッパー、フィーダーホッパーおよび第一供給口ホッパーを窒素パージした。 第一工程の押出機の回転数は、300rpmとした。ポリフェニレンエーテル粉体用重量式フィーダーの流量を2550kg/Hに設定し、ポリスチレン系用重量式フィーダーの流量を480kg/Hに設定した。ペレットサイズの平均径が3.1mmのものであった。得られた組成物を中間原料種aとした。詳細を表1に示す。」 ・「【図1】 ![]() 」 (2)甲1に記載された発明 甲1には、特に中間原料種の製造例(第一工程)における[製造1]及び【図1】に関連する記載から、以下の発明が記載されていると認める。 <甲1発明> 「ポリフェニレンエーテル粉体を、二軸同方向回転押出機を使用し、ダイプレートが4、5mmΦの穴径150穴で押し出したストランドを、ストランドバスの長さ:5m、ストランド水の温度:40℃にて、ストランド水に2m浸漬したのち、空冷し、エアワイパーでストランド表面に付着している水を吹き飛ばし、3mm目標でストランドカッターにて切断した後、篩で、連粒ペレット、長ペレットを分離して、ペレットサイズの平均径が3.1mmで、99wt%が2.5?3.5mmの中間原料種aとしての円柱状のペレットを製造する方法。」 (3)甲2の記載事項 甲2には、「熱可塑性樹脂ストランド水切り装置及び熱可塑性樹脂ペレットの製造方法」に関し、以下の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 熱可塑性樹脂をストランド状に連続成形し、このストランド群を冷却固化した後に水切りを行うストランド水切り装置において、層状の圧縮空気を同一の作用面で衝突するように上下から吹き付け、前記作用面における上下から吹き付けた圧縮空気の衝突領域を、前記ストランド群が通過するように構成したことを特徴としたストランド水切り装置。 ・・・ 【請求項4】 ダイヘッドより押し出された2?70本のストランド群を冷却固化した後、このストランド群を請求項1?3のいずれか1項記載のストランド水切り装置により均一に水切り処理し、次いでこのストランド群をペレタイズ装置で切断することを特徴とする熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。」 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、熱可塑性樹脂ストランドの水切り装置、特に押出機が具備する複数のダイノズルから熱可塑性樹脂組成物を連続的に吐出して得られる熱可塑性樹脂ストランド群を、水冷しながら搬送し、ペレタイズ装置で切断後、振動式篩で粗悪品と良品を選別してペレットを製造するに際し、前記ストランド群の表面に付着した冷却水を効率的に脱水または除水する熱可塑性樹脂ストランドの水切り装置およびこの水切り装置を使用する熱可塑性樹脂ペレットの製造方法に関する。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ・・・ 【0006】 したがって、本発明の目的は、ストランド群の表面に付着した冷却水を効率的に脱水または除水する熱可塑性樹脂ストランドの水切り装置およびこの水切り装置を使用する熱可塑性樹脂ペレットの製造方法を提供することにある。」 ・「【発明を実施するための最良の形態】 【0013】 次に、本発明の実施態様について図面を参照して説明する。 【0014】 図1は本発明の効果を効率よく発揮できる装置の一例を示す工程図、図2は本発明の水切り装置の第1実施例を示す正面図、図3は同じく第2実施例を示す正面図である。 【0015】 図1に示したように、本発明においては、押出機1から2?70本の熱可塑性樹脂ストランド群Sを吐出させ、冷却バス3及びテンションローラー2を経て冷却した後、本発明のストランド水切り装置Mに導入し、ストランド群Sに付着した冷却水を除去し、ペレタイズ装置6でペレタイズを行う。 【0016】 なお、図1の5a、5bは、水切り装置Mにおいてストランド群Sに対し上下から圧縮空気を吹きつけるスリット式ノズル、6a、6bはストランド群Sを搬送するガイドロールである。」 ・「【0023】 なお、本発明に適用することができる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、液晶性ポリエステル樹脂等の溶融成形可能な樹脂が挙げられ、これらは強化、非強化にかかわらず適用可能である。」 ・「【実施例】 【0025】 以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。 【0026】 [実施例1] 押出機1からそれぞれ3,23,60本の熱可塑性樹脂ストランド群を吐出させ、冷却バス3及びテンションローラー2を経て冷却した後、図2に示したストランド水切り装置に導入し、ストランドに付着した冷却水を約20℃の圧縮空気で水切り処理し、次いでペレタイズ装置でペレタイズを実施した。 【0027】 すなわち、上下1対のスリットノズル8a、8bからの層状圧縮空気を、ストランド群の進行方向に向かって90度の位置で吹き付け、圧縮空気が衝突する領域をストランド群が通過するように配置した。 ・・・ 【0032】 実施例に用いた熱可塑性樹脂の品種詳細は以下の通り。 ・ポリフェニレンスルフィド(PPS1) 東レ社製PPS A305MD1B(ガラス繊維45%、炭酸カルシウム5%) ・ポリブチレンテレフタレート(PBT) 東レ社製PBT 1101GX65B(ガラス繊維40%) ・ナイロン6 東レ社製ナイロン CM1011G45(ガラス繊維40%) ・ポリフェニレンスルフィド(PPS2) 東レ社製PPS A680M(ワラステナイト18%、炭酸カルシウム40%) ・液晶性ポリエステル(LCP) 東レ社製LCP L304G35BH(ガラス15%、ミルドファイバー20%)」 ・「【符号の説明】 【0040】 S :ストランド群 M :水切り装置 1 :押出機 2 :テンションガイドロール 3 :冷却バス 4a:ガイドロール(前方) 4b:ガイドロール(後方) 5a:スリット式ノズル(上方) 5b:スリット式ノズル(下方) 6 :ペレタイズ装置 7a:ガイドロール(前方) 7b:ガイドロール(後方)」 ・「【図1】 ![]() 【図2】 ![]() 」 (4)甲2に記載された発明 甲2には、実施例1、図1及び図2に関する記載から、以下の発明が記載されていると認める。 <甲2発明> 「熱可塑性樹脂として、ポリフェニレンスルフィド(PPS1)である東レ社製PPS A305MD1B(ガラス繊維45%、炭酸カルシウム5%)を用い、押出機1からそれぞれ3,23,60本の熱可塑性樹脂ストランド群を吐出させ、冷却バス3及びテンションローラー2を経て冷却した後、ストランド水切り装置に導入し、ストランドに付着した冷却水を約20℃の圧縮空気で水切り処理し、次いでペレタイズ装置でペレタイズを実施する熱可塑性樹脂ペレットの製造方法であって、 前記ストランド水切り装置は、上下1対のスリットノズル8a、8bからの層状圧縮空気を、ストランド群の進行方向に向かって90度の位置で吹き付け、圧縮空気が衝突する領域をストランド群が通過するように配置され、ストランド群を搬送するガイドロールであるガイドロール(前方)7a及びガイドロール(後方)7bが配置される、熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。」 2 申立理由1及び2(甲1を根拠とする新規性・進歩性欠如)について (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 「ポリフェニレンエーテル」は、熱可塑性樹脂であるから、甲1発明の、「ポリフェニレンエーテル粉体を、二軸同方向回転押出機を使用し、ダイプレートが4、5mmΦの穴径150穴で押し出したストランドを、ストランドバスの長さ:5m、ストランド水の温度:40℃にて、ストランド水に2m浸漬」する工程は、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含む組成物からなるストランドを、ダイの吐出口から押し出す工程と、前記ストランドを、水槽内の水に引き込み、冷却する工程」を有することに限り相当する。 そして、甲1発明は、ダイから押し出したストランドを「ストランド水に2m浸漬したのち、空冷」する工程は、本件特許発明1における「前記水槽内で水冷された前記ストランドを空冷する工程」に相当する。 また、甲1発明において、冷却及び乾燥後のストランドを「3mm目標でストランドカッターにて切断した後、篩で、連粒ペレット、長ペレットを分離」する工程は、本件特許発明1における「冷却された前記ストランドを切断して、ペレットを得る工程」に相当する。 ペレットの径の、ダイの吐出口の径に対する比に関し、甲1発明は、「ダイプレートが4、5mmΦの穴径」で、「ペレットサイズの平均径が3.1mm」のものを得ると特定されることから、同比を計算すると0.78あるいは0.62となり、いずれも本件特許発明の「0.45?0.80」を充足する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 <一致点> 「熱可塑性樹脂含む組成物からなるストランドを、ダイの吐出口から押し出す工程と、 前記ストランドを、水槽内の水に引き込み、冷却する工程と、 冷却された前記ストランドを切断して、ペレットを得る工程とを含み、 前記ペレットの径の、前記吐出口の径に対する比(前記ペレットの径/前記吐出口の径)が0.45?0.80であり、 前記ストランドを冷却する工程は、前記水槽内で水冷された前記ストランドを空冷する工程を含む、 ペレットの製造方法。」 <相違点1> ペレット材料の熱可塑性樹脂を含む組成物に関し、本件特許発明1は「強化材を含む」ことを特定するのに対し、甲1発明は、そのようには特定されない点。 <相違点2> ストランドを導く手段に関し、本件特許発明1は、「前記ストランドを前記水槽内で導くための一つ以上の第一ガイドローラーが前記水槽内に設けられており」、また、「前記水槽内で水冷された前記ストランドを空気中で導くための、一つ以上の第二ガイドローラーが設けられており」と特定するのに対し、甲1発明は、そのようには特定されない点。 <相違点3> ストランドを導くために水槽内に設けられた、最上流に位置する第一ガイドローラー前後でストランドがなす角度に関し、本件特許発明1は、「90°以上180°未満」であると特定するのに対し、甲1発明は、そのようには特定されない点。 <相違点4> 最上流に位置する第二ガイドローラー前後でストランドがなす角度と、最上流に位置する第一ガイドローラー前後でストランドがなす角度に関し、本件特許発明は、前者が後者よりも大きいことが特定されるのに対し、甲1発明は、そのようには特定されない点。 イ 相違点についての検討 (ア)相違点1について 相違点1は、中間製品であるペレットの材料に係るものであるから、実質的な相違点といえるところ、甲1の段落【0034】には、「本発明の難燃ポリフェニレンエーテル樹脂に必要に応じてガラスファイバーおよび/または強化材を添加することができる。」と記載されており、甲1発明において、当該樹脂による成形品に求められる性状に応じ、強化材を熱可塑性樹脂に配合することによって、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を採用することは、当業者が適宜なし得ることである。 (イ)相違点2について 甲1の図1を見るに、ストランドの進行方向の角度がストランドバス中及びストランドバスとストランドカッターとの間で変化しており、また、ペレット成形におけるストランドを導く際にガイドローラーを用いることは、当該技術分野における常套手段であって、甲1発明においても、本件特許発明1における第一及び第二のガイドローラーに相当するものが採用されている蓋然性は高いといえるから、相違点2は実質的な相違点とは言えず、仮にそうでないとしても、第一及び第二のガイドローラーの採用は、当業者が適宜なし得ることである。 (ウ)相違点3について ストランドを導くために水槽内に設けられた、最上流に位置する第一ガイドローラー前後でストランドがなす角度に関し、その上限が180°以上にすると、水槽の水面から沈む方向をなすため、ストランドを水面から導出できないし、その下限を90°未満にすると、ストランドがダイから押し出され、冷却が進まないうちに大きく屈曲することとなるため、通常採用しない角度であるから、甲1発明において、相違点3は実質的な相違点とはいえず、また、このことは甲1の図1からも看取できる。 (エ)相違点4について 最上流に位置する第二ガイドローラー前後でストランドがなす角度と、最上流に位置する第一ガイドローラー前後でストランドがなす角度に関し、ストランドの角度の相関関係について、甲1には記載も示唆もないから、相違点4は、実質的な相違点といえる。 また、甲1発明の課題は、甲1の段落【0004】に記載されるように「優れた生産性、物性及び着色性を持った難燃ポリフェニレンエーテル樹脂組成物」を得ることにあって、ペレット製造において、生産性の観点からストランド切れを抑制することが自明な課題であったとしても、甲1発明において、種々ある解決手段の中から、水中及び水上のガイドローラ前後におけるストランドの角度の違いに着目し、相違点4に係る本件特許発明1の特定事項を採用する動機付けは存在しない。 そして、本件特許発明1は、相違点4に係る発明特定事項を有することによって、ストランドの振れを低減することが可能となり、ストランド切れを抑制できるという格別顕著な効果を奏するものである。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書第7ないし8ページにおいて、上記相違点4について、おおむね以下の主張をしている。 「甲第4号証(参考図1)に示すように、甲第1号証の図1に分度器を当てて実測すれば、最上流に位置する第二ガイドローラー前後でストランドがなす角度(δ2=160°)が、最上流に位置する第一ガイドローラー前後でストランドがなす角度(δ1=140°)よりも大きいことは明らかである。」 しかしながら、甲1の図1におけるストランドが第一及び第二のガイドローラ前後でなす角度は、何れも角度の概略を示すものであって、図の記載からその角度の絶対値の取得やその大小を比較することは適切ではなく、また、ストランドの進行方向の角度の絶対値及び角度同士を比較することに関する記載及び示唆は、甲1になされていない。 そして、上記イ(エ)で検討したとおり、本件特許発明1は、相違点4に係る特定事項によって、ストランド切れ抑制という格別顕著な効果を奏するものである。 よって、特許異議申立人の上記主張は、採用できない。 エ 本件特許発明1についての小括 そうすると、少なくとも上記相違点4は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明とはいえないし、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (2)本件特許発明2ないし6について 本件特許発明1が、甲1発明ではなく、また、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2ないし6についても同様に甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)申立理由1及び2のまとめ したがって、申立理由1及び申立理由2には理由がない。 3 申立理由3(甲2を根拠とする進歩性欠如)について (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明で用いる「ポリフェニレンスルフィド(PPS1)」に含まれる「ガラス繊維」、「テンションローラー2」及び「ガイドロール(前方)7a」は、それぞれ本件特許発明1の、「強化材」、「最上流に位置する前記第一ガイドローラー」及び「最上流に位置する前記第二ガイドローラー」に相当し、また、甲2発明において、冷却バス3を経た熱可塑性樹脂ストランド群は、空冷されていることは明らかである。 そうすると、本件特許発明1と甲2発明との一致点、相違点及び一応の相違点は、それぞれ次のとおりである。 <一致点> 「熱可塑性樹脂および強化材を含む組成物からなるストランドを、ダイの吐出口から押し出す工程と、 前記ストランドを、水槽内の水に引き込み、冷却する工程と、 冷却された前記ストランドを切断して、ペレットを得る工程とを含み、 前記ストランドを前記水槽内で導くための一つ以上の第一ガイドローラーが前記水槽内に設けられており、 前記ストランドを冷却する工程は、前記水槽内で水冷された前記ストランドを空冷する工程を含み、 前記水槽内で水冷された前記ストランドを空気中で導くための、一つ以上の第二ガイドローラーが設けられている、 ペレットの製造方法。」 <相違点5> ストランドを導くために水槽内に設けられた、最上流に位置する第一ガイドローラー前後でストランドがなす角度に関し、本件特許発明1は、「90°以上180°未満」であると特定するのに対し、甲2発明は、そのようには特定されない点。 <相違点6> 最上流に位置する第二ガイドローラー前後でストランドがなす角度と、最上流に位置する第一ガイドローラー前後でストランドがなす角度に関し、本件特許発明は、前者が後者よりも大きいことが特定されるのに対し、甲2発明は、そのようには特定されない点。 <相違点7> ペレットの径の、ダイの吐出口の径に対する比(前記ペレットの径/前記吐出口の径)に関し、本件特許発明1は、「0.45?0.80」と特定するのに対し、甲2発明は、そのようには特定されない点。 イ 相違点についての検討 (ア)相違点5について ストランドを導くために水槽内に設けられた、最上流に位置する第一ガイドローラー前後でストランドがなす角度に関し、その上限が180°以上にすると、水槽の水面から沈む方向をなすため、ストランドを水面から導出できないし、その下限を90°未満にすると、ストランドがダイから押し出され、冷却が進まないうちに大きく屈曲することとなるため、通常採用しない角度であるから、甲2発明において、相違点5は実質的な相違点とはいえず、また、このことは甲2の図1からも看取できる。 (イ)相違点6について 最上流に位置する第二ガイドローラー前後でストランドがなす角度と、最上流に位置する第一ガイドローラー前後でストランドがなす角度に関し、ストランドの角度の相関関係について、甲2の図1から、後者は、ほぼ180°であり、前者は上記(ア)にて相違点5について検討したように、180°未満であることは明らかであるから、相違点6は実質的な相違点とはいえない。 (ウ)相違点7について ペレットの径のダイの吐出口の径に対する比(前記ペレットの径/前記吐出口の径)に関し、甲2には記載も示唆もないから、相違点7は、実質的な相違点といえる。 また、甲2発明の課題は、甲2の段落【0006】に記載されるように「ストランド群の表面に付着した冷却水を効率的に脱水または除水する」ことにあって、ペレット製造において、効率性の観点からストランド切れを抑制することが自明な課題であったとしても、甲2発明において、種々ある解決手段の中から、ペレットの径のダイの吐出口の径に対する比に着目し、相違点7に係る本件特許発明1の特定事項を採用する動機付けは存在しない。 そして、本件特許発明1は、相違点7に係る発明特定事項を有することによって、ガイドローラー通過前後のストランドの角度と相まってストランドの振れを低減することが可能となり、ストランド切れを抑制できるという格別顕著な効果を奏するものである。 ウ 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書第14ページにおいて、上記相違点7について、おおむね以下の主張をしている。 「残る本件特許発明1の構成要件「1c」は甲第2号証に明記されていないが、本件特許発明1の構成要件「1a、1b、1d、1e、1f」と共通の構成を有する甲第1号証に記載の甲1発明が蓋然性を以て充足し得る構成要件1c(ペレット径/吐出口の径の比が0.45?0.80)を甲2発明に適用しようとすることに何らの阻害要因もないことから、当業者であれば甲1?甲3発明に基づいて本件特許発明1に容易に想到し得る。」 しかしながら、甲1記載の技術は、難燃ポリフェニレンエーテル樹脂組成物に係るものである一方、甲2記載の技術は、その段落【0023】に「本発明に適用することができる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、液晶性ポリエステル樹脂等の溶融成形可能な樹脂が挙げられ、これらは強化、非強化にかかわらず適用可能である。」と記載されるように、対象とする樹脂が異なること、また、甲2発明の課題は、甲2の段落【0006】に記載されるように「ストランド群の表面に付着した冷却水を効率的に脱水または除水する」ことにあって、甲1の段落【0004】に記載されるように「優れた生産性、物性及び着色性を持った難燃ポリフェニレンエーテル樹脂組成物」を得るという甲1の課題と異なることからも、甲2発明に甲1記載のペレット径とストランドのダイの吐出口の径に対する比を適用する動機づけがないし、そもそも甲1には、当該比を調整することによって、本件特許発明の課題であるストランド切れを抑制するという技術が記載も示唆もなされていない。 よって、特許異議申立人の上記主張は、採用できない。 エ 本件特許発明1についての小括 そうすると、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (2)本件特許発明2ないし6について 本件特許発明1が、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(1)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2ないし6も同様に甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)申立理由3のまとめ したがって、申立理由3には理由がない。 第5 むすび したがって、特許異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-05-07 |
出願番号 | 特願2019-119526(P2019-119526) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B29B)
P 1 651・ 113- Y (B29B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山本 雄一 |
特許庁審判長 |
細井 龍史 |
特許庁審判官 |
岩田 健一 大畑 通隆 |
登録日 | 2020-08-05 |
登録番号 | 特許第6745049号(P6745049) |
権利者 | 東洋紡株式会社 |
発明の名称 | ペレットの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |