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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1373813
異議申立番号 異議2021-700195  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-22 
確定日 2021-05-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6747636号発明「全固体電池用外装材、その製造方法、及び全固体電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6747636号の請求項1?5、7?9に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6747636号の請求項1?9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和2年1月23日(優先権主張 平成31年1月23日)を国際出願日とする出願であって、令和2年8月11日にその特許権の設定登録がなされ、同年8月26日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、令和3年2月22日付けで特許異議申立人浜俊彦(以下、「申立人」という。)により請求項1?5、7?9に対して特許異議の申立てがなされたものである。

2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であって、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である、全固体電池用外装材。
【請求項2】
前記熱融着性樹脂層の厚みが、10μm以上である、請求項1に記載の全固体電池用外装材。
【請求項3】
前記基材層は、外側から、ポリエステル、接着剤層、及びポリアミドをこの順に備える、請求項1又は2に記載の全固体電池用外装材。
【請求項4】
前記基材層は、ポリエステル樹脂の単層により構成されている、請求項1又は2に記載の全固体電池用外装材。
【請求項5】
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂は、ポリエステル又はフッ素樹脂である、請求項1?4のいずれか1項に記載の全固体電池用外装材。
【請求項6】
前記積層体は、前記バリア層の表面に形成されたバリア層保護膜を有しており、
前記バリア層保護膜について、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて分析した場合に、CrPO_(4)^(-)に由来するピーク強度P_(CrPO4)に対するPO_(3)^(-)に由来するピーク強度P_(PO3)の比P_(PO3/CrPO4)が、6以上120以下の範囲内にある、請求項1?5のいずれかに記載の全固体電池用外装材。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載の全固体電池用外装材が成形されてなる、全固体電池用包装体。
【請求項8】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材により形成された包装体中に収容された全固体電池であって、
前記固体電解質層は、硫化物固体電解質材料を含み、
前記全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されており、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である、全固体電池。
【請求項9】
少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層がこの順となるように積層して積層体を得る工程を備えており、
前記熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下であり、
硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための、全固体電池用外装材の製造方法。」

3 特許異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証?甲第6号証(以下、「甲1」?「甲6」という。)を提出し、次の(1)及び(2)の特許異議申立理由を主張している。

(証拠方法)
甲1:特開2016-143520号公報
甲2:武田文七,「プラスチックスの気体透過性について」,日本ゴム協会誌,第29巻,第8号,第667?675頁(1956年)
甲3:特開2002-56824号公報
甲4:特開2011-159913号公報
甲5:特開2011-113803号公報
甲6:特開2008-103245号公報

(1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

・請求項1、2、7?9について
理由(1)
刊行物:甲1

・請求項3について
理由(2)
刊行物:甲1?甲4

・請求項4、5について
理由(2)
刊行物:甲1、甲2及び甲4

・請求項1、2、4、5、7?9について
理由(2)
刊行物:甲5、甲2、甲4及び甲6

・請求項3について
理由(2)
刊行物:甲5、甲2、甲3及び甲4

4 各甲号証の記載
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。なお、各甲号証に記載された発明の認定に関連する箇所には、当審で下線を付した。以下、同じ。
「【0001】
本発明は、全固体型リチウムイオン二次電池に関する。」
「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
正極層と、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質層と、負極層と、がこの順に積層されることにより構成された発電素子を1つ以上含む電池本体と、
金属層を中間層に持つラミネートフィルムにより構成され、前記電池本体が封入されている外装体と、
前記電池本体の一端側の前記正極層の外表面からなる正極端子と電気的に接続された正極外部端子と、
前記電池本体の他端側の前記負極層の外表面からなる負極端子と電気的に接続された負極外部端子と、
を備え、
前記正極外部端子と前記負極外部端子とのうち少なくとも何れか一方は、その少なくとも一部分が前記ラミネートフィルムに埋め込まれている埋設端子であり、
前記埋設端子が前記外装体の外面側に露出している全固体型リチウムイオン二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、容易に薄型に形成することが可能な構造の全固体型リチウムイオン二次電池を提供することができる。」
「【0014】
本実施形態に係る全固体型リチウムイオン二次電池100は、正極層11と、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質層12と、負極層13と、がこの順に積層されることにより構成された発電素子10を1つ以上含む電池本体1と、金属層31、41を中間層に持つラミネートフィルム(例えば、第1のラミネートフィルム30および第2のラミネートフィルム40)により構成され、電池本体1が封入されている外装体20と、電池本体1の一端側の正極層11の外表面からなる正極端子1aと電気的に接続された正極外部端子50と、電池本体1の他端側の負極層13の外表面からなる負極端子1bと電気的に接続された負極外部端子60と、を備えている。
正極外部端子50と負極外部端子60とのうち少なくとも何れか一方は、その少なくとも一部分がラミネートフィルムに埋め込まれている埋設端子であり、埋設端子が外装体20の外面側に露出している。」
「【0018】
外装体20は、金属層を中間層に持つラミネートフィルムにより構成されている。本実施形態の場合、外装体20は、第1のラミネートフィルム30と、第2のラミネートフィルム40と、の2枚のラミネートフィルムにより構成されている。外装体20は、例えば、その内部に電池本体1を真空パックしたものであり、外装体20の内部は陰圧となっている。
第1のラミネートフィルム30は、中間層である金属層31と、金属層31の一方の面を覆う第1樹脂層33と、金属層31の他方の面を覆う第2樹脂層32と、を有する。
同様に、第2のラミネートフィルム40は、中間層である金属層41と、金属層41の一方の面を覆う第1樹脂層43と、金属層41の他方の面を覆う第2樹脂層42と、を有する。」
「【0041】
正極層11は、正極活物質を含んで構成されており、必要に応じて、導電助剤、固体電解質などを含んでいる。正極活物質は、特に限定されず、一般的に公知のものを用いることができる。正極層11は、一例として、アモルファスLi_(6)MoS_(6)の粉末と、アセチレンブラック(AB)の粉末と、Li_(11)P_(3)S_(12)の粉末と、の混合物により構成することができる。
【0042】
負極層13は、負極活物質を含んで構成されており、必要に応じて、導電助剤、固体電解質などを含んでいる。負極活物質は、特に限定されず、一般的に公知のものを用いることができる。負極層13は、一例として、アモルファスLi-Si-P硫化物の粉末により構成することができる。この粉末としては、例えば、Li_(22)Si_(5)の粉末と、グラファイトの粉末と、Li_(11)P_(3)S_(12)の粉末と、の混合物が挙げられる。
【0043】
固体電解質層12を構成する固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されず、一般的に公知のものを用いることができる。固体電解質層12は、一例として、Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末により構成することができる。」
「【0048】
第1のラミネートフィルム30及び第2のラミネートフィルム40における内面側(シーラント層)を構成する第1樹脂層33、第1樹脂層43を構成する樹脂材料としては、例えば、ナイロン、又はポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることができる。
【0049】
第1のラミネートフィルム30及び第2のラミネートフィルム40における外面側を構成する第2樹脂層32、第2樹脂層42を構成する樹脂材料は、特に限定されないが、例えば、PET、ポリエチレン、ナイロン、又はポリプロピレンを用いることができる。」
「【図1】





(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)(特に、【0014】、【0018】、【0043】、【0048】)によれば、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「正極層11と、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質層12と、負極層13と、がこの順に積層されることにより構成された発電素子10を1つ以上含む電池本体1と、を備えた全固体型リチウムイオン二次電池100の外装体であって、
固体電解質層12は、Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末により構成され、
外装体は、
金属層31、41を中間層に持つ第1のラミネートフィルム30および第2のラミネートフィルム40により構成され、
第1のラミネートフィルム30は、中間層である金属層31と、金属層31の一方の面を覆う第1樹脂層33と、金属層31の他方の面を覆う第2樹脂層32と、を有し、
第2のラミネートフィルム40は、中間層である金属層41と、金属層41の一方の面を覆う第1樹脂層43と、金属層41の他方の面を覆う第2樹脂層42と、を有し、
第1のラミネートフィルム30及び第2のラミネートフィルム40における内面側(シーラント層)を構成する第1樹脂層33、第1樹脂層43を構成する樹脂材料は、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる、外装体20。」

イ 上記(1)(特に、【0014】、【0018】、【0043】、【0048】)によれば、次の発明(以下、「甲1電池発明」という。)が記載されている。
「正極層11と、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質層12と、負極層13と、がこの順に積層されることにより構成された発電素子10を1つ以上含む電池本体1と、電池本体1が封入されている外装体20と、を備えた全固体型リチウムイオン二次電池100であって、
固体電解質層12は、Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末により構成され、
外装体は、
金属層31、41を中間層に持つ第1のラミネートフィルム30および第2のラミネートフィルム40により構成され、
第1のラミネートフィルム30は、中間層である金属層31と、金属層31の一方の面を覆う第1樹脂層33と、金属層31の他方の面を覆う第2樹脂層32と、を有し、
第2のラミネートフィルム40は、中間層である金属層41と、金属層41の一方の面を覆う第1樹脂層43と、金属層41の他方の面を覆う第2樹脂層42と、を有し、
第1のラミネートフィルム30及び第2のラミネートフィルム40における内面側(シーラント層)を構成する第1樹脂層33、第1樹脂層43を構成する樹脂材料は、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる、全固体型リチウムイオン二次電池100。」

ウ 上記(1)(特に、【0014】、【0018】、【0043】、【0048】)によれば、次の発明(以下、「甲1方法発明」という。)が記載されている。
「正極層11と、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質層12と、負極層13と、がこの順に積層されることにより構成された発電素子10を1つ以上含む電池本体1と、を備えた全固体型リチウムイオン二次電池100の外装体の製造方法であって、
固体電解質層12は、Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末により構成され、
外装体は、
金属層31、41を中間層に持つ第1のラミネートフィルム30および第2のラミネートフィルム40により構成され、
第1のラミネートフィルム30は、中間層である金属層31と、金属層31の一方の面を覆う第1樹脂層33と、金属層31の他方の面を覆う第2樹脂層32と、を有し、
第2のラミネートフィルム40は、中間層である金属層41と、金属層41の一方の面を覆う第1樹脂層43と、金属層41の他方の面を覆う第2樹脂層42と、を有し、
第1のラミネートフィルム30及び第2のラミネートフィルム40における内面側(シーラント層)を構成する第1樹脂層33、第1樹脂層43を構成する樹脂材料は、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる、外装体20の製造方法。」

(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「極性気体とか極性蒸気になつてくるとH_(2),N_(2)などと様子が変り、拡散係数、溶解度係数が圧力によつて変つてくることがある。この方面の代表的な例は水蒸気であるが、拡散係数と溶解度係数を別々に分けて考えているのが少ない。しかし透過性のみをはかつて構造との関連性を非常に綺麗にDu Pont のMorgan^(6))はなしている。ニューヨーク州立大学のSzwarc等^(14))は極性気体である硫化水素について最近透過、拡散、溶解の諸係数を測定している。
その測定装置は圧力法の代表的なものなので第3図に掲げた。
いま測定値をまとめて掲げると第3表となる。
第3表は透過係数の小さいものから順にならべてみた。」(第670頁左欄第15行?右欄第3行)



」(第671頁上部)

(4)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「【0046】
[実施例5]
PETフィルム(帝人デュポンフィルム社製 マイラーA(商品名)、厚さ12μm)の一方の面に、厚さ50nmとなるようにシリカ(SiO_(2))を蒸着してシリカ蒸着PETフィルムを作製した。
実施例1と同様のPPE基材シートの一方の面に、実施例1に記載の層間接着剤を用いて前記シリカ蒸着PETフィルムを接着し、更に該シリカ蒸着PETフィルムに層間接着剤を用いて、実施例1で用いたものと同じEVAフィルムを接着し、図4に示す構成の裏面保護シートを作製した。
なお、層間接着剤及びラミネート条件は実施例1と同じとした。」

(5)甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電要素を収納するための第1凹部と、前記第1凹部の外周に形成され硫化水素無害部を収納するための第2凹部と、少なくとも前記第2凹部の外周に配置された外周密着部を有する密着部とを有する筐体、および前記外周密着部と密着することにより前記第1凹部および第2凹部を密封する蓋体からなる外装材と、
正極層、負極層、および前記正極層と負極層との間に配置された固体電解質層を有し、前記第1凹部に収納された発電要素と、
硫化水素無害化剤を有し、前記第2凹部に収納された硫化水素無害部と
を有し、
前記正極層、前記負極層、および前記固体電解質層の少なくとも一つには硫黄を含む硫化物系固体電解質が含有されていることを特徴とする全固体電池。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、体積エネルギー密度を低下させることなく、発電要素より生じた硫化水素ガスを吸収し無害化することができる全固体電池を提供することを主目的とするものである。」
「【0017】
本発明の全固体電池は、外装材、発電要素および硫化水素無害化部を少なくとも含むものである。
以下、本発明の全固体電池の各構成について詳細に説明する。
【0018】
1.外装材
本発明に用いられる外装材は、筐体と蓋体とからなるものである。
【0019】
(1)筐体
本発明に用いられる外装材を構成する筐体は、第1凹部、第2凹部、および密着部を少なくとも有するものである。
【0020】
(a)構成材料
本発明に用いられる筐体を構成する材料としては、上記発電要素および硫化水素無害化部を安定的に収納することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、熱融着可能な熱可塑性樹脂等を用いることができる。
本発明においては、なかでも、外側に気密性を高めることができる金属箔からなる金属箔層を有し、内側、すなわち、上記蓋体と密着する側に熱可塑性樹脂を含む熱融着層を有する防湿性多層フィルムであることが好ましい。上記金属箔層により上記発電要素への水分の透過を抑制することができ、さらに上記熱融着層により強度に優れたものとすることができるからである。また、上記蓋体と容易に密着させることができるからである。
上記金属箔の材料としては、軽量かつ柔軟性を有し、化学的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、物性および価格の面で有利なアルミニウムを好ましく用いることができる。
また、上記熱可塑性樹脂としては、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂あるいは、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を用いることができる。本発明においては、なかでも、ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂であることが好ましい。機械的強度に優れるからである。
【0021】
(b)第1凹部および第2凹部
本発明に用いられる筐体における第1凹部は上記発電要素を収納するものであり、上記第2凹部は、上記硫化水素無害化部を収納するものである。このような第1凹部および第2凹部について以下、説明する。」
「【0030】
(2)蓋体
本発明における外装材を構成する蓋体は、上記筐体の密着部と密着することにより上記第1凹部および第2凹部を密封するものである。
【0031】
このような蓋体を構成する材料としては、上記外装材内に配置される発電要素および硫化水素無害化部を安定的に被覆することができるものであれば特に限定されるものではないが、上記筐体と同様の材料を用いることができる。」
「【0033】
(3)外装材
本発明における外装材は、上記筐体の密着部と蓋体とが密着してなるものである。
上記筐体と蓋体との密着形態としては、上記筐体および蓋体が安定的に接着しているものであれば良く、例えば、上記筐体および蓋体同士が接着しているものであっても良く、上記集電体等の他の部材を介して上記筐体および蓋体が接着しているものであっても良い。
【0034】
また、上記筐体および蓋体の密着方法としては、上記筐体および蓋体を直接密着する方法、例えば、上記筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着する方法を用いることができる。また、上記筐体および蓋体を接着性樹脂等により接着する方法であっても良い。
本発明においては、なかでも、上記筐体および蓋体として熱可塑性樹脂からなる熱融着層を含むものを用い、この熱融着層を熱融着する方法であることが好ましい。上記外装材の形成が容易だからである。」
「【0042】
3.発電要素
本発明に用いられる発電要素は、少なくとも、正極層、固体電解質層および負極層がこの順で積層されてなる全固体型の発電要素であり、上記正極層、固体電解質層および負極層の少なくとも一つには硫黄を含む硫化物系固体電解質が含有されるものである。」
「【0044】
(1)硫化物系固体電解質
本発明に用いられる硫化物系固体電解質としては、硫黄を含む硫化物あるいは硫化物が配合された物質であれば特に限定されるものではなく、有機化合物、無機化合物、あるいは有機・無機両化合物からなる材料を用いることができ、一般的な全固体電池に用いられるものを使用することができる。
【0045】
本発明においては、なかでも硫化物系無機固体電解質を好ましく用いることができる。特にイオン伝導度が他の無機化合物より高いからである。
このような硫化物系無機固体電解質としては、特開平4-202034号公報等に記載の無機固体電解質を使用することができる。
具体的には、Li_(2)SとSiS_(2)、GeS_(2、)P_(2)S_(5)およびB_(2)S_(3)との組み合わせからなる無機固体電解質に、適宜、Li_(3)PO_(4)、ハロゲンおよびハロゲン化合物を添加した無機固体電解質を用いることができ、なかでも本発明においては、硫化リチウム(Li_(2)S)と五硫化ニ燐(P_(2)S_(5))とから生成する、硫化リチウム(Li_(2)S)、単体燐(P)および単体硫黄(S)から生成する、または、硫化リチウム(Li_(2)S)、五硫化ニ燐(P_(2)S_(5))、単体燐および/または単体硫黄から生成するリチウムイオン伝導性無機固体電解質を使用することが好ましい。リチウムイオン伝導性が高いからである。」
「【0051】
(3)固体電解質層
本発明における固体電解質層は、上記正極層と負極層との間に配置されるものである。
このような固体電解質層に用いられる固体電解質としては、イオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではなく、一般的な全固体電池に用いられる固体電解質を用いることができる。例えば、上記硫化物系固体電解質、リン酸系固体電解質、ガーネット系固体電解質等を挙げることができる。本発明のおいては、なかでも、上記硫化物系固体電解質であることが好ましい。イオン伝導性が高いからである。」
「【0055】
本発明の全固体電池は、少なくとも一つの発電要素を含むものであれば特に限定されるものではないが、本発明においては、なかでも、上記発電要素が集電体を介して複数積層されており、上記複数積層された発電要素が、外装材により封止されてなるもの、すなわち、外装体内に単電池を複数含むものであることが好ましい。より実用的な全固体電池とすることができるからである。
具体的には、既に説明した図1に示すように外装材10内に複数の発電要素20が中間集電体14cを介して直列に積層されているバイポーラ構造の全固体電池30や、図10に例示するように、外装材10内に複数の発電要素20が集電体を介して並列に積層されているモノポーラ構造の全固体電池30であることが好ましい。
なお、この場合、積層される発電要素の数は、例えば1個以上が好ましく、なかでも2個以上がより好ましく、10個以上がさらに好ましく、50個以上が特に好ましい。一方、積層される発電要素の数は、通常100個以下である。
なお、図10中の符号については、図1のものと同一のものである。」

(6)甲5に記載された発明
ア 上記(5)(特に、【0017】、【0018】、【0020】、【0031】、【0034】、【0042】、【0055】)によれば、甲5には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「筐体と蓋体とからなる全固体電池の外装材であって、
全固体電池は、少なくとも一つの発電要素を含み、
発電要素は、少なくとも、正極層、固体電解質層および負極層がこの順で積層されてなる全固体型の発電要素であり、正極層、固体電解質層および負極層の少なくとも一つには硫黄を含む硫化物系固体電解質が含有され、
筐体は、金属箔層を有し、蓋体と密着する側に熱可塑性樹脂を含む熱融着層を有する防湿性多層フィルムであり、
蓋体は、筐体と同様の材料を用いており、
筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着し、
熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂である、全固体電池の外装材。」

イ 上記(5)(特に、【0017】、【0018】?【0021】、【0031】、【0034】、【0042】、【0055】)及び上記アによれば、甲5には次の発明(以下、「甲5包装体発明」という。)が記載されている。
「甲5発明の外装材において、筐体は第1凹部を有し、筐体における第1凹部は発電要素を収納するものである外装材。」

ウ 上記(5)(特に、【0017】、【0018】、【0020】、【0031】、【0034】、【0042】、【0055】)によれば、次の発明(以下、「甲5電池発明」という。)が記載されている。
「外装材が筐体と蓋体とからなる全固体電池であって、
全固体電池は、少なくとも一つの発電要素を含み、
発電要素は、少なくとも、正極層、固体電解質層および負極層がこの順で積層されてなる全固体型の発電要素であり、正極層、固体電解質層および負極層の少なくとも一つには硫黄を含む硫化物系固体電解質が含有され、
筐体は、金属箔層を有し、蓋体と密着する側に熱可塑性樹脂を含む熱融着層を有する防湿性多層フィルムであり、
蓋体は、筐体と同様の材料を用いており、
筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着し、
熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂である、全固体電池。」

エ 上記(5)(特に、【0017】、【0018】、【0020】、【0031】、【0034】、【0042】、【0055】)によれば、次の発明(以下、「甲5方法発明」という。)が記載されている。
「筐体と蓋体とからなる全固体電池の外装材の製造方法であって、
全固体電池は、少なくとも一つの発電要素を含み、
発電要素は、少なくとも、正極層、固体電解質層および負極層がこの順で積層されてなる全固体型の発電要素であり、正極層、固体電解質層および負極層の少なくとも一つには硫黄を含む硫化物系固体電解質が含有され、
筐体は、金属箔層を有し、蓋体と密着する側に熱可塑性樹脂を含む熱融着層を有する防湿性多層フィルムであり、
蓋体は、筐体と同様の材料を用いており、
筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着し、
熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂である、全固体電池の外装材の製造方法。」

(7)甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
「【請求項1】
分解により硫化水素ガスを発生する硫黄化合物を電池セル内に含み、
硫化水素ガスをトラップし無毒化する物質で、前記電池セルの外周部が覆れている硫化物系二次電池。」
「【0024】
外装材には、気密性を高めるための金属箔層と強度を維持するための樹脂層(高分子膜層)から構成される防湿性多層フィルムが使用できる。金属箔材料は、軽量かつ柔軟であり化学的に安定であれば特に限定されないが、アルミニウムは物性及び価格の面から有利である。高分子膜材料としては、ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリエチエンテレフタレート、あるいはポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が可能であるが、ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂が機械的強度の点から有利である。
【0025】
また、熱融着により封止することが最適であるため、防湿性多層フィルムの電池内部側は熱融着樹脂層であることが望ましいが、接着性の樹脂を用いて封止することも可能である。熱融着樹脂としては、ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂や、ナイロン等のポリアミド樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂等が使用可能であり、特に限定されない。」
「【図1】




5 対比・判断
5-1 甲1を主たる引用例とした場合
(1)本件発明1?5について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「金属層31」及び「金属層41」は、いずれも本件発明1の「バリア層」に相当する。

イ 甲1発明の「第1樹脂層33」及び「第1樹脂層43」は、いずれも「内面側(シーラント層)を構成する」ものであるから、甲1発明の「第2樹脂層32」及び「第2樹脂層42」は、いずれも本件発明1の「基材層」に相当し、甲1発明の「第1樹脂層33」及び「第1樹脂層43」は、いずれも本件発明1の「熱融着性樹脂層」に相当する。

ウ 甲1発明の「Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末」、「全固体型リチウムイオン二次電池100」は、それぞれ本件発明1の「硫化物固体電解質材料」、「全固体電池」に相当する。

エ 甲1発明の「金属層31、41を中間層に持つ第1のラミネートフィルム30および第2のラミネートフィルム40により構成され、第1のラミネートフィルム30は、中間層である金属層31と、金属層31の一方の面を覆う第1樹脂層33と、金属層31の他方の面を覆う第2樹脂層32と、を有し、第2のラミネートフィルム40は、中間層である金属層41と、金属層41の一方の面を覆う第1樹脂層43と、金属層41の他方の面を覆う第2樹脂層42と、を有」する事項は、本件発明1の「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された」事項に相当する。

オ 甲1発明の「リチウムイオン伝導性を有する固体電解質層12」「を備えた全固体型リチウムイオン二次電池100の外装体であって、固体電解質層12は、Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末により構成され」る事項は、本件発明1の「硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であ」る事項に相当する。

カ 上記ア?オより、本件発明1と甲1発明とは、
「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1)
「熱融着性樹脂層を構成する樹脂」について、本件発明1は、「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」のに対し、甲1発明は、「ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)を用い」ており、硫化水素透過量が不明である点。

キ 以下、上記相違点1について検討する。

ク 甲1には、甲1発明の「ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)」の硫化水素透過量の具体的な数値が記載されていない。

ケ 一方、甲2には、マイラーAのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されており、また、マイラーAはデュポンが発売しているPETフィルムであることが周知である(例えば、甲4の【0046】参照。)。

コ しかしながら、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)」は、甲1の【0048】(上記4の(1)参照。)に記載されているとおり、「第1樹脂材料を構成する樹脂材料」の例を挙げたものであって、マイラーA等の具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶性を特定するものでもない。さらに、一般的な「ポリエチレンテレフタレート(PET)」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

サ そうすると、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)」が、本件発明1の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

シ また、甲2には、ナイロンのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されている。

ス しかしながら、甲1発明の「ナイロン」は、甲1の【0048】(上記4の(1)参照。)に記載されているとおり、「第1樹脂材料を構成する樹脂材料」の例を挙げたものであって、具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶化度を特定するものでもない。さらに、一般的な「ナイロン」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

セ そうすると、甲1発明の「ナイロン」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲1発明の「ナイロン」が、本件発明1の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

ソ したがって、上記相違点1は実質的な相違点である。

タ 次に、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到できたものか否かを、念のため検討する。

チ 甲1に記載された技術事項は、正極外部端子または負極外部端子をラミネートフィルムに埋め込まれている埋設端子として、容易に薄型に形成することが可能な全固体型リチウムイオン二次電池を提供するもの(上記4の(1)の【0009】、【0010】参照。)であって、本件発明1のように、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池から発生する硫化水素ガスに注目したものではないから、甲1発明の「第1樹脂層33」及び「第1樹脂層43」の樹脂材料である「ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)」の硫化水素透過量を特定する動機がない。

ツ そうすると、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

テ よって、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

ト また、本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、限定したものであって、少なくとも甲1発明と上記相違点1で相違するから、本件発明1で検討した理由と同様の理由により、甲1発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(2)本件発明7について
ア 本件発明7と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「外装体20」は、「全固体リチウムイオン二次電池100」を包装するものであるといえるから、本件発明7の「包装体」に相当する。

イ そうすると、本件発明7は、「本件発明1の外装材が成型されてなる、全固体電池用包装体」であって、少なくとも甲1発明と上記相違点1で相違するから、本件発明1で検討した理由と同様の理由により、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

(3)本件発明8について
本件発明8と甲1電池発明とを対比する。
ア 甲1電池発明の「正極層11」、「固体電解質層12」、「負極層13」は、それぞれ本件発明8の「正極活物質層」、「固体電解質層」、「負極活物質層」に相当する。

イ 甲1電池発明の「金属層31」及び「金属層41」は、いずれも本件発明8の「バリア層」に相当する。

ウ 甲1電池発明の「第1樹脂層33」及び「第1樹脂層43」は、いずれも「内面側(シーラント層)を構成する」ものであるから、甲1電池発明の「第2樹脂層32」及び「第2樹脂層42」は、いずれも本件発明8の「基材層」に相当し、甲1電池発明の「第1樹脂層33」及び「第1樹脂層43」は、いずれも本件発明8の「熱融着性樹脂層」に相当する。

エ 甲1電池発明の「Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末」、「全固体型リチウムイオン二次電池100」は、それぞれ本件発明8の「硫化物固体電解質材料」、「全固体電池」に相当する。

オ 甲1電池発明の「正極層11と、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質層12と、負極層13と、がこの順に積層されることにより構成された発電素子10を1つ以上含む電池本体1と、電池本体1が封入されている外装体20と、を備えた全固体型リチウムイオン二次電池100」は、本件発明8の「正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材により形成された包装体中に収容された全固体電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材により形成された包装体中に収容された全固体電池」に相当する。

カ 甲1電池発明の「固体電解質層12は、Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末により構成され」る事項は、本件発明8の「固体電解質層は、硫化物固体電解質材料を含」む事項に相当する。

キ 甲1電池発明の「外装体は、金属層31、41を中間層に持つ第1のラミネートフィルム30および第2のラミネートフィルム40により構成され、第1のラミネートフィルム30は、中間層である金属層31と、金属層31の一方の面を覆う第1樹脂層33と、金属層31の他方の面を覆う第2樹脂層32と、を有し、第2のラミネートフィルム40は、中間層である金属層41と、金属層41の一方の面を覆う第1樹脂層43と、金属層41の他方の面を覆う第2樹脂層42と、を有」する事項は、本件発明8の「全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されて」いる事項に相当する。

ク 上記ア?キより、本件発明8と甲1電池発明とは、
「正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材により形成された包装体中に収容された全固体電池であって、
前記固体電解質層は、硫化物固体電解質材料を含み、
前記全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されている、全固体電池。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点2)
「熱融着性樹脂層を構成する樹脂」について、本件発明8は、「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」のに対し、甲1電池発明は、「ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)を用い」ており、硫化水素透過量が不明である点。

ケ 以下、上記相違点2について検討する。

コ 甲1には、甲1発明の「ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)」の硫化水素透過量の具体的な数値が記載されていない。

サ 一方、甲2には、マイラーAのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されており、また、マイラーAはデュポンが発売しているPETフィルムであることが周知である(例えば、甲4の【0046】参照。)。

シ しかしながら、甲1電池発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)」は、甲1の【0048】(上記4の(1)参照。)に記載されているとおり、「第1樹脂材料を構成する樹脂材料」の例を挙げたものであって、マイラーA等の具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶性を特定するものでもない。さらに、一般的な「ポリエチレンテレフタレート(PET)」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

ス そうすると、甲1電池発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲1電池発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)」が、本件発明8の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

セ また、甲2には、ナイロンのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されている。

ソ しかしながら、甲1電池発明の「ナイロン」は、甲1の【0048】(上記4の(1)参照。)に記載されているとおり、「第1樹脂材料を構成する樹脂材料」の例を挙げたものであって、具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶化度を特定するものでもない。さらに、一般的な「ナイロン」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

タ そうすると、甲1電池発明の「ナイロン」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲1電池発明の「ナイロン」が、本件発明8の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

チ したがって、上記相違点2は実質的な相違点である。

ツ 次に、上記相違点2に係る本件発明8の発明特定事項について、当業者が容易に想到できたものか否かを、念のため検討する。

テ 甲1に記載された技術事項は、正極外部端子または負極外部端子をラミネートフィルムに埋め込まれている埋設端子として、容易に薄型に形成することが可能な全固体型リチウムイオン二次電池を提供するもの(上記4の(1)の【0009】、【0010】参照。)であって、本件発明8のように、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池から発生する硫化水素ガスに注目したものではないから、甲1電池発明の「第1樹脂層33」及び「第1樹脂層43」の樹脂材料である「ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)」の硫化水素透過量を特定する動機がない。

ト そうすると、上記相違点2に係る本件発明8の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ナ よって、本件発明8は、甲1電池発明ではないし、甲1電池発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

(4)本件発明9について
本件発明9と甲1方法発明とを対比する。
ア 甲1方法発明の「金属層31」及び「金属層41」は、いずれも本件発明9の「バリア層」に相当する。

イ 甲1方法発明の「第1樹脂層33」及び「第1樹脂層43」は、いずれも「内面側(シーラント層)を構成する」ものであるから、甲1方法発明の「第2樹脂層32」及び「第2樹脂層42」は、いずれも本件発明9の「基材層」に相当し、甲1方法発明の「第1樹脂層33」及び「第1樹脂層43」は、いずれも本件発明9の「熱融着性樹脂層」に相当する。

ウ 甲1方法発明の「Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末」、「全固体型リチウムイオン二次電池100」は、それぞれ本件発明9の「硫化物固体電解質材料」、「全固体電池」に相当する。

エ 甲1方法発明の「金属層31、41を中間層に持つ第1のラミネートフィルム30および第2のラミネートフィルム40により構成され、第1のラミネートフィルム30は、中間層である金属層31と、金属層31の一方の面を覆う第1樹脂層33と、金属層31の他方の面を覆う第2樹脂層32と、を有し、第2のラミネートフィルム40は、中間層である金属層41と、金属層41の一方の面を覆う第1樹脂層43と、金属層41の他方の面を覆う第2樹脂層42と、を有」する事項は、本件発明9の「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体を得る工程を備えて」いる事項に相当する。

オ 甲1方法発明の「リチウムイオン伝導性を有する固体電解質層12」「を備えた全固体型リチウムイオン二次電池100の外装体であって、固体電解質層12は、Li_(11)P_(3)S_(12)ガラスの粉末により構成され」る事項は、本件発明9の「硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材であ」る事項に相当する。

カ 上記ア?オより、本件発明9と甲1方法発明とは、
「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層がこの順となるように積層して積層体を得る工程を備えており、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材の製造方法。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点3)
「熱融着性樹脂層を構成する樹脂」について、本件発明9は、「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」のに対し、甲1方法発明は、「ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)を用い」ており、硫化水素透過量が不明である点。

キ 以下、上記相違点3について検討する。

ク 甲1には、甲1発明の「ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)」の硫化水素透過量の具体的な数値が記載されていない。

ケ 一方、甲2には、マイラーAのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されており、また、マイラーAはデュポンが発売しているPETフィルムであることが周知である(例えば、甲4の【0046】参照。)。

コ しかしながら、甲1方法発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)」は、甲1の【0048】(上記4の(1)参照。)に記載されているとおり、「第1樹脂材料を構成する樹脂材料」の例を挙げたものであって、マイラーA等の具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶性を特定するものでもない。さらに、一般的な「ポリエチレンテレフタレート(PET)」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

サ そうすると、甲1方法発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)」が、本件発明9の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

シ また、甲2には、ナイロンのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されている。

ス しかしながら、甲1方法発明の「ナイロン」は、甲1の【0048】(上記4の(1)参照。)に記載されているとおり、「第1樹脂材料を構成する樹脂材料」の例を挙げたものであって、具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶化度を特定するものでもない。さらに、一般的な「ナイロン」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

セ そうすると、甲1方法発明の「ナイロン」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲1方法発明の「ナイロン」が、本件発明9の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

ソ したがって、上記相違点3は実質的な相違点である。

タ 次に、上記相違点3に係る本件発明9の発明特定事項について、当業者が容易に想到できたものか否かを、念のため検討する。

チ 甲1に記載された技術事項は、正極外部端子または負極外部端子をラミネートフィルムに埋め込まれている埋設端子として、容易に薄型に形成することが可能な全固体型リチウムイオン二次電池を提供するもの(上記4の(1)の【0009】、【0010】参照。)であって、本件発明9のように、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池から発生する硫化水素ガスに注目したものではないから、甲1方法発明の「第1樹脂層33」及び「第1樹脂層43」の樹脂材料である「ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)」の硫化水素透過量を特定する動機がない。

ツ そうすると、上記相違点3に係る本件発明9の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

テ よって、本件発明9は、甲1方法発明ではないし、甲1方法発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

5-1 甲5を主たる引用例とした場合
(1)本件発明1?5について
本件発明1と甲5発明とを対比する。
ア 甲5発明の「金属箔層」は、本件発明1の「バリア層」に相当する。

イ 甲5発明は、「筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着する」ものであるから、甲5発明の「熱可塑性樹脂を含む熱融着層」は、本件発明1の「熱融着性樹脂層」に相当する。

ウ 甲5発明の「硫黄を含む硫化物系固体電解質」は、本件発明1の「硫化物固体電解質材料」に相当する。

エ 甲5発明の「筐体と蓋体とからな」り、「筐体は、金属箔層を有し、蓋体と密着する側に熱可塑性樹脂を含む熱融着層を有する防湿性多層フィルムであり、蓋体は、筐体と同様の材料を用いており、筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着する」事項と、本件発明1の「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された」事項とは、「少なくとも、外側から、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された」事項で共通する。

オ 甲5発明の「全固体電池の外装材であって、全固体電池は、少なくとも一つの発電要素を含み、発電要素は、少なくとも、正極層、固体電解質層および負極層がこの順で積層されてなる全固体型の発電要素であり、正極層、固体電解質層および負極層の少なくとも一つには硫黄を含む硫化物系固体電解質が含有され」る事項は、本件発明1の「硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための、全固体電池用外装材であ」る事項に相当する。

カ 上記ア?オより、本件発明1と甲5発明とは、
「少なくとも、外側から、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点4)
「外装材」の「外側」に、本件発明1は、「基材層」を備えるのに対し、甲5発明は、「基材層」を備えていない点。

(相違点5)
「熱融着性樹脂層を構成する樹脂」について、本件発明1は、「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」のに対し、甲5発明は、「ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂であ」り、硫化水素透過量が不明である点。

キ 事案に鑑み、まず上記相違点5について検討する。

ク 甲5には、甲5発明の「ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂」の硫化水素透過量の具体的な数値が記載されていない。

ケ 一方、甲2には、マイラーAのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されており、また、マイラーAはデュポンが発売しているPETフィルムであることが周知である(例えば、甲4の【0046】参照。)。

コ しかしながら、甲5発明の「ポリエチレンテレフタレート」は、甲5の【0020】(上記4の(5)参照。)に記載されているとおり、「熱可塑性樹脂」の例を挙げたものであって、マイラーA等の具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶性を特定するものでもない。さらに、一般的な「ポリエチレンテレフタレート」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

サ そうすると、甲5発明の「ポリエチレンテレフタレート」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲5発明の「ポリエチレンテレフタレート」が、本件発明1の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

シ また、甲2には、ナイロンのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されている。

ス しかしながら、甲5発明の「ナイロン樹脂」は、甲5の【0020】(上記4の(5)参照。)に記載されているとおり、「熱可塑性樹脂」の例を挙げたものであって、具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶化度を特定するものでもない。さらに、一般的な「ナイロン樹脂」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

セ そうすると、甲5発明の「ナイロン樹脂」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲5発明の「ナイロン樹脂」が、本件発明1の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

ソ したがって、上記相違点5は実質的な相違点である。

タ 次に、上記相違点5に係る本件発明1の発明特定事項について、当業者が容易に想到できたものか否かを、検討する。

チ 甲5に記載された技術事項は、「発電要素より生じた硫化水素ガスを吸収し無害化することができる」(上記4の(5)の【0007】参照。)ものではあるものの、本件発明1のように、熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量に注目したものではないから、甲5発明の「熱可塑性樹脂」の樹脂材料である「ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂」の硫化水素透過量を特定する動機がない。

ツ そうすると、上記相違点5に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

テ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

ト また、本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、限定したものであって、少なくとも甲5発明と上記相違点5で相違するから、本件発明1で検討した理由と同様の理由により、甲5発明に基いて当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(2)本件発明7について
ア 本件発明7と甲5発明とを対比すると、甲5包装体発明の「外装材」は、「全固体電池」を包装するものであるといえるから、本件発明7の「包装体」に相当する。

イ そうすると、本件発明7は、「本件発明1の外装材が成型されてなる、全固体電池用包装体」であって、少なくとも甲5包装体発明と上記相違点5で相違するから、本件発明1で検討した理由と同様の理由により、甲5包装体発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

(3)本件発明8について
本件発明8と甲5電池発明とを対比する。
ア 甲5電池発明の「正極層」、「固体電解質層」、「負極層」は、それぞれ本件発明8の「正極活物質層」、「固体電解質層」、「負極活物質層」に相当する。

イ 甲5電池発明の「金属箔層」は、本件発明8の「バリア層」に相当する。

ウ 甲5電池発明は、「筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着する」ものであるから、甲5電池発明の「熱可塑性樹脂を含む熱融着層」は、本件発明8の「熱融着性樹脂層」に相当する。

エ 甲5電池発明の「外装材が筐体と蓋体とからなる全固体電池であって、 全固体電池は、少なくとも一つの発電要素を含み、発電要素は、少なくとも、正極層、固体電解質層および負極層がこの順で積層されてなる全固体型の発電要素であ」る「全固体電池」は、本件発明8の「正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材により形成された包装体中に収容された全固体電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材により形成された包装体中に収容された全固体電池」に相当する。

オ 甲5電池発明の「硫黄を含む硫化物系固体電解質」は、本件発明8の「硫化物固体電解質材料」に相当する。

カ 甲5電池発明の「全固体電池」は、「外装材が筐体と蓋体とからなる」ものであるから、甲5電池発明の「筐体は、金属箔層を有し、蓋体と密着する側に熱可塑性樹脂を含む熱融着層を有する防湿性多層フィルムであり、蓋体は、筐体と同様の材料を用いており、筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着」する事項と、本件発明8の「全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されて」いる事項とは、「全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されて」いる事項で共通する。

キ 上記ア?カより、本件発明8と甲5電池発明とは、
「正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に積層された固体電解質層とを含む単電池を少なくとも含む電池素子が、全固体電池用外装材により形成された包装体中に収容された全固体電池であって、
前記固体電解質層は、硫化物固体電解質材料を含み、
前記全固体電池用外装材は、少なくとも、外側から、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成されている、全固体電池。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点6)
「外装材」の「外側」に、本件発明8は、「基材層」を備えるのに対し、甲5電池発明は、「基材層」を備えていない点。

(相違点7)
「熱融着性樹脂層を構成する樹脂」について、本件発明8は、「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」のに対し、甲5電池発明は、「ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂であ」り、硫化水素透過量が不明である点。

ク 事案に鑑み、まず上記相違点7について検討する。

ケ 甲5には、甲5発明の「ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂」の硫化水素透過量の具体的な数値が記載されていない。

コ 一方、甲2には、マイラーAのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されており、また、マイラーAはデュポンが発売しているPETフィルムであることが周知である(例えば、甲4の【0046】参照。)。

サ しかしながら、甲5電池発明の「ポリエチレンテレフタレート」は、甲5の【0020】(上記4の(5)参照。)に記載されているとおり、「熱可塑性樹脂」の例を挙げたものであって、マイラーA等の具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶性を特定するものでもない。さらに、一般的な「ポリエチレンテレフタレート」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

シ そうすると、甲5電池発明の「ポリエチレンテレフタレート」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲5発明の「ポリエチレンテレフタレート」が、本件発明8の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

ス また、甲2には、ナイロンのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されている。

セ しかしながら、甲5電池発明の「ナイロン樹脂」は、甲5の【0020】(上記4の(5)参照。)に記載されているとおり、「熱可塑性樹脂」の例を挙げたものであって、具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶化度を特定するものでもない。さらに、一般的な「ナイロン樹脂」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

ソ そうすると、甲5電池発明の「ナイロン樹脂」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲5電池発明の「ナイロン樹脂」が、本件発明8の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

タ したがって、上記相違点7は実質的な相違点である。

チ 次に、上記相違点7に係る本件発明8の発明特定事項について、当業者が容易に想到できたものか否かを、検討する。

ツ 甲5に記載された技術事項は、「発電要素より生じた硫化水素ガスを吸収し無害化することができる」(上記4の(5)の【0007】参照。)ものではあるものの、本件発明8のように、熱癒着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量に注目したものではないから、甲5電池発明の「熱可塑性樹脂」の樹脂材料である「ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂」の硫化水素透過量を特定する動機がない。

テ そうすると、上記相違点7に係る本件発明8の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ト よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲5電池発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

(4)本件発明9について
本件発明9と甲5方法発明とを対比する。
ア 甲5方法発明の「金属箔層」は、本件発明9の「バリア層」に相当する。

イ 甲5方法発明は、「筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着する」ものであるから、甲5方法発明の「熱可塑性樹脂を含む熱融着層」は、本件発明9の「熱融着性樹脂層」に相当する。

ウ 甲5方法発明の「硫黄を含む硫化物系固体電解質」は、本件発明9の「硫化物固体電解質材料」に相当する。

エ 甲5方法発明の「筐体と蓋体とからな」り、「筐体は、金属箔層を有し、蓋体と密着する側に熱可塑性樹脂を含む熱融着層を有する防湿性多層フィルムであり、蓋体は、筐体と同様の材料を用いており、筐体および蓋体を構成する材料として熱可塑性樹脂を用い、熱融着する」事項と、本件発明9の「少なくとも、外側から、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体を得る工程を備えて」いる事項とは、「少なくとも、外側から、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体を得る工程を備えて」いる事項とで共通する。

オ 甲5方法発明の「全固体電池の外装材の製造方法であって、全固体電池は、少なくとも一つの発電要素を含み、発電要素は、少なくとも、正極層、固体電解質層および負極層がこの順で積層されてなる全固体型の発電要素であり、正極層、固体電解質層および負極層の少なくとも一つには硫黄を含む硫化物系固体電解質が含有され」る製造方法は、本件発明9の「硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための、全固体電池用外装材の製造方法」に相当する。

カ 上記ア?オより、本件発明9と甲5方法発明とは、
「少なくとも、外側から、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された、硫化物固体電解質材料を含む全固体電池に用いるための全固体電池用外装材。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点8)
本件発明9は、外側に「基材層」を備えるのに対し、甲5方法発明は、外側に「基材層」を備えていない点。

(相違点9)
「熱融着性樹脂層を構成する樹脂」について、本件発明9は、「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」のに対し、甲5方法発明は、「ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂であ」り、硫化水素透過量が不明である点。

キ 事案に鑑み、まず上記相違点9について検討する。

ク 甲5には、甲5発明の「ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂」の硫化水素透過量の具体的な数値が記載されていない。

ケ 一方、甲2にが、マイラーAのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されており、また、マイラーAはデュポンが発売しているPETフィルムであることが周知である(例えば、甲4の【0046】参照。)。

コ しかしながら、甲5方法発明の「ポリエチレンテレフタレート」は、甲5の【0020】(上記4の(5)参照。)に記載されているとおり、「熱可塑性樹脂」の例を挙げたものであって、マイラーA等の具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶性を特定するものでもない。さらに、一般的な「ポリエチレンテレフタレート」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

サ そうすると、甲5方法発明の「ポリエチレンテレフタレート」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力694mmHgにおいて、6.9×10^(-11)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲5方法発明の「ポリエチレンテレフタレート」が、本件発明9の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

シ また、甲2には、ナイロンのH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであることが記載されている。

ス しかしながら、甲5方法発明の「ナイロン樹脂」は、甲5の【0020】(上記4の(5)参照。)に記載されているとおり、「熱可塑性樹脂」の例を挙げたものであって、具体的な商品名を意図したものではなく、また、その重合度や結晶化度を特定するものでもない。さらに、一般的な「ナイロン樹脂」は、必ず「硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」といえる証拠もない。

セ そうすると、甲5方法発明の「ナイロン樹脂」のH_(2)Sの透過係数が、測定温度30℃、測定圧力110mmHgにおいて、3.2×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであり、測定温度30℃、測定圧力621mmHgにおいて、3.4×10^(-10)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHgであるとはいえず、甲5方法発明の「ナイロン樹脂」が、本件発明9の「熱融着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量が、1.0×10^(-9)cc・mm/cm^(2)・sec・cmHg以下である」との発明特定事項を満たすものであるかは不明であるといわざるを得ない。

ソ したがって、上記相違点9は実質的な相違点である。

タ 次に、上記相違点9に係る本件発明9の発明特定事項について、当業者が容易に想到できたものか否かを、検討する。

チ 甲5に記載された技術事項は、「発電要素より生じた硫化水素ガスを吸収し無害化することができる」(上記4の(5)の【0007】参照。)ものではあるものの、本件発明9のように、熱癒着性樹脂層を構成する樹脂の硫化水素透過量に注目したものではないから、甲5方法発明の「熱可塑性樹脂」の樹脂材料である「ポリエチレンテレフタレートやナイロン樹脂」の硫化水素透過量を特定する動機がない。

ツ そうすると、上記相違点9に係る本件発明9の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

テ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲5方法発明に基いて当業者が容易に想到できたものともいえない。

6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?5、7?9に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1?5、7?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-05-10 
出願番号 特願2020-532080(P2020-532080)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (H01M)
P 1 652・ 121- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 結城 佐織  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 土屋 知久
井上 猛
登録日 2020-08-11 
登録番号 特許第6747636号(P6747636)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 全固体電池用外装材、その製造方法、及び全固体電池  
代理人 水谷 馨也  
代理人 田中 順也  

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