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審決分類 審判 判定 対象物 属さない(申立て不成立) H01T
管理番号 1373814
判定請求番号 判定2020-600008  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2021-06-25 
種別 判定 
判定請求日 2020-03-02 
確定日 2021-04-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第4441724号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及び配線接続工法の説明書に示す、サンダーカット「A-2」(以下「イ号物件」という。)は、特許第4441724号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の趣旨は、令和2年8月3日付けで請求人金村貴康(以下、「請求人」という。)より提出された手続補正書により補正された判定請求書(以下、「判定請求書」という。)の記載からみて、イ号図面及び配線接続工法の説明書に示す、サンダーカット「A-2」(甲第11号証及び甲第12号証参照。)をイ号物件とし、このイ号物件は、特許第4441724号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
1 手続の経緯
本件特許発明に係る特許出願は、平成15年8月1日に出願されたものであって、平成21年5月12日付けで拒絶理由が通知され、同年7月21日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月11日付けで拒絶理由が通知され、同年11月19日に手続補正書が提出され、平成22年1月22日にその特許権の設定登録がされ、同年3月31日に特許公報が発行されたものである。
そして、令和2年3月1日付けで本件判定請求がされ、同年7月22日付けで審尋が請求人に通知され、同年8月3日付けで請求人より手続補正書及び回答書が提出され、同年12月23日に被請求人東日本電信電話株式会社(以下、「被請求人」という。)から答弁書が提出されたものである。

2 本件特許発明について
本件特許発明は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのもの(以下、「本件特許発明」という。)である(なお、便宜上、構成要件に分説し、符号A?Dを付加した。以下、それぞれ「構成要件A」?「構成要件D」という。)。
[本件特許発明]
「【請求項1】
A 大地にアースされたセンター素子を中心としてこれを包囲して配置された環状の放電素子と、
B 該放電素子に電子機器等の電源ケーブル、通信ケーブル、アンテナ線、電話線又はネットワークケーブル等の線路抵抗の異なるケーブルを接続してニアバイアース化し、
C 線路抵抗が最小となるケーブルに過剰電流を放流させることを特徴とする
D 過剰電流の回避回路放電管。 」

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、判定請求書において、概ね次の理由により、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属するものである旨主張している。
(1)イ号物件は、本件特許発明に即して記載すると、次のとおりのものである。
「a
少なくとも2極型SPD素子を収納するケース内の電子基板に大地にアースされた、少なくとも2極型SPD素子のセンター素子を中心として環状に配置した放電素子に、
b
基板内の単相三線式100V回路プラグ電源ケーブルとコンセント回路に、並列接続した過剰電流回避素子と回避回路に、光通信ルーターケーブル、電話線、等の線路抵抗の異なるケーブルを接続し、ニヤバイアース化した回路に、
c
基板内の単相100Vのマイナス極と「サンダーカットA?2」単独アース極の線路抵抗値の最小となるケーブルに過剰電流を放流させることを特徴とする過剰電流の回避回路放電管。」

そして、本件特許発明のAの構成要件とイ号物件のaの構成は部分一致し、本件特許発明のB?Dの構成要件とイ号物件のb及びcの構成とは完全一致する。

(2)イ号物件の過剰電流放電管の配置、素子の構造、ニヤバイアース、大地に埋設しているアース板と鉄筋の並列接続するアース極の等電位アース極については、本件特許発明の構成要件と均等なものである旨予備的に主張する。

(3)以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明と同一か、少なくとも均等であることから、本件特許発明の技術的範囲に属する。

2 被請求人の主張
被請求人は、概ね次の理由により、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属しないものである旨主張している。
(1)甲第12号証は、イ号物件を特定していない。請求人が主張するイ号物件の構成は根拠のないものである。

(2)イ号物件が上記1(1)aの構成を有することは立証されておらず、イ号物件の放電素子の配置に係る構成は不明であるから、イ号物件は、本件特許発明における構成要件Aの「大地にアースされたセンター素子を中心としてこれを包囲して配置された環状の放電素子」の構成を備えていない点で相違する。

(3)均等論について
a 均等の第1要件
構成要件Aの「大地にアースされたセンター素子を中心としてこれを包囲して配置された環状の放電素子」は、本件特許発明の本質的な部分であるといえ、上記(2)の相違する点は、本質的な部分の相違であるといえる。

b 均等の第5要件
特許出願手続における補正により、特許権者は、構成要件Aの「大地にアースされたセンター素子を中心としてこれを包囲して配置された環状の放電素子」を有しないものを、特許請求の範囲から意図的に除外したといえるから、構成要件Aを有しないイ号物件には、特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意図的に除外されたものに当たるなどの特段の事情があるといえる。

第4 イ号物件の構成について
1 甲第1?9号証及び甲第11号証について
甲第1?3号証は本件特許に関する証拠であって、イ号物件の構成に関する証拠ではない。
甲第4?9号証には、雷保護回路の構成についての記載はあるものの、イ号物件の構成を立証し得る、客観的な事項(例えば、イ号物件の分解図、内部に使われている基板の写真や回路図、使用部品の断面図、設計図等。)は記載されていない。
また、甲第11号証については,これがイ号物件の「サンダーカット A-2」であることを示す表示・表記が認められない。

2 甲第12号証について
甲第12号証のイ号物件と認められる「サンダーカット」に関する記載に照らせば、甲第12号証の「内容品」の写真からは、上面には「サンダーカット A-2」の文字及びAC用コンセント、側面にはAC電源のコード、前面には電話用INポート、電話用OUTポート、FAX用INポート、FAX用OUTポート、裏面にはアース用ネジ端子が見て取れる。
また、甲第12号証の「光回線の接続方法(例)」の写真からは、イ号物件のAC電源のコードは商用電源に接続され、AC用コンセント、電話用INポート及びFAX用INポートはルータ等にコードで接続され、電話用OUTポートは電話にコードで接続され、FAX用OUTポートはFAXにコードで接続され、アース用ネジ端子は接地アースに接続されることが理解できる。

ただし、甲12号証の記載では、
(1)イ号物件の放電素子の構成が不明であり、大地にアースされたセンター素子を中心としてこれを包囲して配置された環状の放電素子を備えているかどうか不明である。
(2)イ号物件のAC電源のコード、ルータ等からのコード、電話からのコード、FAXからのコードが放電素子に接続されるか不明であるし、ニアバイアース化(放電のためにコードからアースまでの距離を、より短くする構成を採用)しているかも不明である。
(3)アース用ネジ端子と接地アースの間の接続が、線路抵抗が最小となるケーブルによるものか不明である。
(4)「サンダーカット A-2」が「放電管」の構成を有するか不明である。

上記各事項より、イ号物件は、各構成(以下、「構成a」などという。)ごとに分説して記載すると、次のとおりである。

構成a: 接地アースに接続されるアース用ネジ端子と、

構成b: AC用コンセント、電話用INポート及びFAX用INポートをルータ等にコードで接続し、電話用OUTポートを電話にコードで接続し、FAX用OUTポートをFAXにコードで接続する構成を有する、

構成c: 雷防護アダプタであるサンダーカットA-2


第5 属否の判断
1 文言上の対比
(1)構成要件Aについて
イ号物件の構成a?cに、放電素子の構造及び接地極についての特定事項はないから、イ号物件の構成a?cは、本件特許発明の構成要件Aの「大地にアースされたセンター素子を中心としてこれを包囲して配置された環状の放電素子」を充足しない。

(2)構成要件Bについて
イ号物件の構成a?cに、ニアバイアース化することについての特定事項はないから、イ号物件の構成a?cは、本件特許発明の構成要件Bの「該放電素子に電子機器等の電源ケーブル、通信ケーブル、アンテナ線、電話線又はネットワークケーブル等の線路抵抗の異なるケーブルを接続してニアバイアース化」を充足しない。

(3)構成要件Cについて
イ号物件の構成a?cに、接地アースないし各ケーブルの、どれが線路抵抗が最小であるか、そして、どれに過剰電流を放流させるかについての特定事項はないから、イ号物件の構成a?cは、本件特許発明の構成要件Cの「線路抵抗が最小となるケーブルに過剰電流を放流させる」を充足しない。

(4)構成要件Dについて
イ号物件の構成a?cに、放電管についての特定事項はないから、イ号物件の構成a?cは、本件特許発明の構成要件Dの「過剰電流の回避回路放電管」を充足しない。

(5)小括
以上のように、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A?Dを充足しない。
したがって、イ号物件は、文言上、本件特許発明の技術的範囲に属しない。


2 均等論の適用について
(1)構成要件Aについて
イ号物件は、本件特許発明の構成要件Aと均等なものとすることができるか否かについて検討する。

均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するための要件は、最高裁平成10年2月24日判決(平成6年(オ)第1083号)にて、以下のとおり判示されている。
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,(1)上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,(2)上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,(3)上記のように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,(4)対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」(以下、上記判示事項の要件である「(1)?(5)」を、順に「第1?5要件」という。)
そこで、各要件について以下で検討する。

a 第1要件について
本件特許発明の構成要件Aに関して、甲第3号証(本件特許の特許出願手続において平成21年7月21日に特許権者が提出した意見書)には、
「(3)(中略)。すなわち、本願発明の放電管は、円周対中心点(直径方向)、円周内部への突起物が放電距離として応答開始電圧を変化させることと、センター放電素子が円周率(π)の比率で放電するアース極に対し、円周率倍=約3.14倍の内部抵抗値になるので、包囲極をアース極にすると、落雷時にアース極から流れる回り込み電流に対して、円周率倍の抵抗値で防御できるものであります。」と説明しており、また、明細書の段落【0023】の「(前略)円形のセンター放電素子2と、これを包囲して4分割に配置される環状の放電素子3とからなり、センター放電素子2の外周及び環状素子3の内周に対向配置された突起4a及び4bが設けられている。そして、これら突起4a及び4bの離間距離dを各々異ならせることにより放電開始電圧を調整し、(中略)コンパクトでありながら高電圧用の放電素子としての使用が可能になる。」との記載に基づけば、構成要件Aの「大地にアースされたセンター素子を中心としてこれを包囲して配置された環状の放電素子」は、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴部分であると解されるから、放電素子の構造及び接地極が不明であるイ号物件は、上記第1要件を満たしていない。

b 第5要件について
平成21年11月19日の手続補正書により補正される前の、平成21年7月21日の手続補正書に記載された請求項1(以下、「補正前の請求項1」という。)は
「放電開始電圧の異なる放電素子を複数組み合わせて配置し、これら放電素子に電子機器等の電源ケーブル、通信ケーブル、アンテナ線、電話線又はネットワークケーブル並びに線路抵抗の異なる複数のアースケーブルを接続してニアバイアース化し、線路抵抗が最小となるアースケーブルに過剰電流を放流させることを特徴とする過剰電流の回避回路放電管。」
であった。

そして、補正前の請求項1と、上記第2 2の[本件特許発明]の構成要件A?Dを比較すると、構成要件Aの「大地にアースされたセンター素子を中心としてこれを包囲して配置された環状の放電素子」は、特許出願手続における平成21年11月19日の手続補正書による補正により、請求項1に意識的に付加された構成と認められる。

そうであれば、本件特許発明の構成要件Aの「大地にアースされたセンター素子を中心としてこれを包囲して配置された環状の放電素子」を有しないイ号物件は、特許出願手続における平成21年11月19日の手続補正書による補正において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるから、イ号物件は、上記第5要件を満たしていない。

c 小括
したがって、イ号物件の構成a?cは、本件特許発明の構成要件Aについて第2要件?第4要件を検討するまでもなく、均等なものとすることができない。

(2)まとめ
上記(1)のとおりであるから、イ号物件の構成a?cは、本件特許発明の構成要件Aと均等なものとすることができないので、本件特許発明の構成要件B?Dについて検討するまでもなく、本件特許発明の技術範囲に属するとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。

別紙
1 甲第11号証の「雷防護アダプタ 取付け例」の図面の写し

2 甲第12号証の「内容品」の写真の写し1

3 甲第12号証の「内容品」の写真の写し2


4 甲第12号証の「光回線の接続方法(例)」の写真の写し

5 甲第12号証の「主な仕様一覧」の写真の写し


 
判定日 2021-04-02 
出願番号 特願2003-284634(P2003-284634)
審決分類 P 1 2・ 04- ZB (H01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 学  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 杉山 健一
内田 博之
登録日 2010-01-22 
登録番号 特許第4441724号(P4441724)
発明の名称 過剰電流の回避回路放電管及びこれを用いた過剰電流回避システム  
代理人 澤田 将史  

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