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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1374123 |
審判番号 | 不服2020-12565 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-08 |
確定日 | 2021-05-11 |
事件の表示 | 特願2020- 41622「構造体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,令和2年2月13日に出願した特願2020-22443号の一部を令和2年3月11日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年4月6日付け :拒絶理由通知書 令和2年4月27日 :意見書,手続補正書の提出 令和2年6月15日付け :拒絶査定 令和2年9月8日 :審判請求書,手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和2年6月15日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1?15に係る発明は,本願出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明及び引用例2?6に記載された技術的事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用例一覧 1.特許第6625260号公報 2.特開2014-154754号公報 3.特開2012-169562号公報 4.特開2008-71801号公報 5.特開平5-62966号公報 6.特開2000-60200号公報 第3 本願発明 本願の請求項1?15に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明15」という。)は,令和2年9月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を,ペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液中に浸漬された状態で容器に収容する工程と, 前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ,前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで,前記被エッチング領域をエッチングする工程と, を有し, 前記所定温度を,45℃以上100度未満とし, 前記エッチング液は,ペルオキソ二硫酸イオンの塩を,前記エッチング液が調整される時点でのペルオキソ二硫酸イオン濃度である調整時濃度が所定濃度となるように,水に溶解させることで調整されたものであり, 前記調整時濃度を,前記エッチング液の温度を45℃以上に上昇させたときのエッチングレートが,前記エッチング液の温度が上昇するほど増加し,前記エッチング液の温度が45℃未満であるときのエッチングレートよりも高くなるような濃度とする,構造体の製造方法。」 本願発明2?15は,本願発明1を減縮した発明である。 第4 引用例の記載と引用発明 1.引用例1について (1)引用例1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例1(特許第6625260号公報)には,次の記載がある。(下線は当審で付加。以下同じ。) 「【0042】 アノード電極340にUV光371が照射されることで,アノード電極340およびカソード電極330では,それぞれ以下の反応が進行する。アノード電極340では,UV光371の照射で発生したホールによりGaNがGa^(3+)とN_(2)とに分解され(化1),さらにGa^(3+)がOH^(-)基によって酸化されることで(化2),酸化ガリウム(Ga_(2)O_(3))が生成する。生成されたGa_(2)O_(3)が,電解液320であるNaOH水溶液により溶解されることで,アノード電極340が,つまりGaN材料100が,エッチングされる。このようにして,PECエッチングが行われる。 (アノード反応) 【化1】 【化2】 【化3】 (カソード反応) 【化4】 」 「【0118】 図24(a)?24(d)は,第7実施形態による無電極PECエッチング態様を例示する概略図である。図24(a)を参照する。GaN材料100(以下,ウエハ100ともいう)を用意する。ウエハ100は,例えば直径2インチ以上の大径(大面積)を有する。ウエハ100の構造は,適宜選択されてよい。ウエハ100は,例えば,図1(g)に示したような基板そのものでもよいし,また例えば,図3あるいは図14(a)に示したような,基板とエピタキシャル成長層との積層体であってもよい。ウエハ100の被エッチング面である表面100sに,互いに離隔して配置された複数の,被エッチング領域111?113が画定されている。 【0119】 被エッチング領域111?113は,後述のように,エッチング液420中に浸漬された状態(エッチング液420と接触した状態)でUV光431が照射されることにより,GaN材料100がエッチングされる領域である。ウエハ100の表面100s上に,UV光431を遮光する遮光性のマスク41が形成されている。マスク41は,被エッチング領域111?113を露出させる開口を有する。ここでは,3つの被エッチング領域111?113を例示するが,被エッチング領域の個数は,必要に応じて適宜変更されてよい。また,各被エッチング領域111等の形状および大きさ,複数の被エッチング領域111等の表面100s上における配置,等は,必要に応じて適宜変更されてよい。 【0120】 図24(b)を参照する。容器410内に,エッチング液420を用意する。エッチング液420は,第2実施形態(第1実験例)で説明した電解液320と同様な電解液と,当該電解液に溶解されたペルオキソ二硫酸カリウム(K_(2)S_(2)O_(8))と,を含む。当該電解液は,上述のように,例えば,NaOH水溶液である。本実施形態の無電極PECエッチングに用いられるエッチング液420は,水酸化物イオン(OH^(-))およびペルオキソ二硫酸イオン(S_(2)O_(8)^(2-))を含む。これに対し,第2実施形態の有電極PECエッチングに用いられるエッチング液(つまり電解液320)は,水酸化物イオン(OH^(-))は含むが,ペルオキソ二硫酸イオン(S_(2)O_(8)^(2-))は含まない。 【0121】 図24(c)を参照する。マスク41が形成されたウエハ100を,ウエハ100の表面100sがエッチング液420の表面420sと平行になるように(水平になるように),表面100sがエッチング液420中に浸漬された状態で,容器410内に収納する。本実施形態の無電極PECエッチングでは,ウエハ100の全体がエッチング液420中に浸漬されてよいため,上述のようなシール構造を設けずにエッチングを行うことができる。ここで,ウエハ100の表面100sとエッチング液420の表面420sとが「平行」とは,ウエハ100の表面100sとエッチング液420の表面420sとのなす角が,0°±2°の範囲内にあることをいう。 【0122】 なお,容器410内にエッチング液420を収納し,その後に容器410内にウエハ100を収納する手順で,容器410内にウエハ100およびエッチング液420が収納された状態としてもよいし,容器410内にウエハ100を収納し,その後に容器410内にエッチング液420を収納する手順で,容器410内にウエハ100およびエッチング液420が収納された状態としてもよい。容器410内にエッチング液420を用意する工程と,容器410内にウエハ100を収納する工程とは,必要に応じ,どちらの手順で行われてもよい。 【0123】 図24(d)を参照する。ウエハ100およびエッチング液420が静止した状態で,光照射装置430から,UV光431を,ウエハ100の表面100sに照射する。UV光431としては,波長が365nmより短いUV光が用いられる。UV光431は,被エッチング領域111?113の表面のそれぞれに対して,エッチング液420の表面420s側から,つまり上側から,垂直に照射される。ここで,被エッチング領域111?113の表面に対して,つまりウエハ100の表面100sに対して「垂直」とは,UV光431がウエハ100の表面100sに対してなす角が,90°±2°の範囲内にあることをいう。」 「【0125】 本実施形態の無電極PECエッチングでは,以下の反応(化5)?(化7)が生じ,第2実施形態の有電極PECエッチングにおけるカソード反応(化4)が,(化7)に置き換わることで,GaN材料100においてホールと対で発生した電子が,消費される。したがって,第2実施形態の有電極PECエッチングで使用したカソード電極330を省略することができ,これに伴い,配線350およびオーミック接触プローブ341も省略することができる。つまり,エッチング液420の外部に延在する配線350に接続された状態でエッチング液420に浸漬されるカソード電極330,を用いずに(エッチング液420に浸漬されるカソード電極330,および,カソード電極330に接続されエッチング液420の外部に延在する配線330,を用いずに),PECエッチングが行われる。GaN材料100におけるアノード反応(化1)?(化3)は,無電極PECエッチングと有電極PECエッチングとで同様である。このようにして,本実施形態の無電極PECエッチングによって,GaN材料100をエッチングすることができる。 【化5】 【化6】 【化7】 」 「【0179】 温度センサ480は,エッチング液420の温度を測定する。温度調整器481は,制御装置440に制御されることで,エッチング液420の温度を所定温度に調整する。温度センサ480による測定結果に対応するデータは,制御装置440に入力される。制御装置440は,温度センサ480によるエッチング液420の温度の測定に基づいて,照射工程におけるエッチング液420の温度の変動が抑制されるように,温度調整器481を制御する。なお,温度調整器481と制御装置440とを合わせた装置を,温度調整器と捉えてもよい。このようにして,本変形例では,エッチング条件の変動を抑制することができる。」 (2)摘記の整理 以上の摘記によれば,引用例1には次の事項が記載されているものと理解できる。 ア GaN材料からなるウエハ100を用意すること。当該ウエハ100の表面100sに,被エッチング領域111?113が互いに離隔して画定されていること。(段落0118) イ ウエハ100を,ペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液420中に浸漬された状態で容器410内に収納すること。(段落0120,0121) ウ ウエハ100およびエッチング液420が静止した状態で,UV光431をウエハ100の表面100sに照射すること。(段落0123) エ GaN材料の被エッチング領域111?113は,エッチング液420中に浸漬された状態でUV光431が照射されることによりエッチングされること。(段落0119) オ アノード反応において,UV光で発生したホールによりGaNがGa^(3+)とN_(2)とに分解され,Ga^(3+)が酸化されて酸化ガリウム(Ga_(2)O_(3))が生成されること。当該酸化ガリウムが電解液により溶解されることで,GaN材料100がエッチングされること。(段落0042) カ ペルオキソ二硫酸イオンが熱又は光により硫酸ラジカルとなること。(化6) キ 硫酸ラジカルを含むカソード反応により,GaN材料100においてホールと対で発生した電子が消費され,無電極PECエッチングが行われること。(段落0125,化7) ク エッチング液420の温度を所定温度に調整すること。(段落0179) (3)引用発明1 上記ア?クによれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「互いに離隔した被エッチング領域111?113が表面100sに画定されたGaN材料からなるウエハ100を用意する工程と, ウエハ100をペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液420中に浸漬された状態で容器410内に収納する工程と, UV光431をエッチング液420中に浸漬された状態のウエハ100の表面100sに照射して,GaN材料の被エッチング領域111?113をエッチングする工程と, を有し, 熱又は光により生成された硫酸ラジカルと,UV光でGaN材料に発生したホールによりGaN材料がエッチングされる無電極PECエッチングが行われ, エッチング液420の温度が所定温度に調整される, 無電極PECエッチング方法。」 2.引用例2について (1)引用例2の記載 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例2(特開2014-154754号公報)には,次の記載がある。 「【0028】 <メカニズム> 本発明によるシリコンエッチング及びレジスト剥離のメカニズムは以下の通りである。 即ち,硫酸溶液の電解液中には,硫酸の電気分解により,以下の反応で生成した過硫酸であるペルオキソ二硫酸イオン(S_(2)O_(8)^(2-))を含む。 2SO_(4)^(2-)→S_(2)O_(8)^(2-)+2e^(-) 又は 2HSO_(4)^(-)→S_(2)O_(8)^(2-)+2H^(+)+2e^(-) このペルオキソ二硫酸イオン(S_(2)O_(8)^(2-))は高温加熱すると励起して自己分解(活性化)し,硫酸ラジカル(SO_(4)^(・-))を生成する。 S_(2)O_(8)^(2-)→2SO_(4)^(・-) 生成した硫酸ラジカルの高い酸化力(SO_(4)^(・-)+e^(-)→SO_(4)^(2-))によりレジストが除去されるが,本発明で用いるエッチング液は,更にフッ酸(HF)を含むため,以下の反応でシリコンエッチングすることができる。 ペルオキソ二硫酸イオンの活性化: 2S_(2)O_(8)^(2-)→4SO_(4)^(-・)(100℃以上の温度で活性化) 活性化したペルオキソ二硫酸イオンによる酸化反応: Si+2H_(2)O+4SO_(4)^(-・)-→SiO_(2)+4HSO_(4)^(-) フッ酸による溶解反応:SiO_(2)+6HF →H_(2)SiF_(6)+2H_(2)O」 (2)引用例2の技術的事項 上記によれば,引用例2には次の技術的事項が記載されているものと理解できる。 ア ペルオキソ二硫酸イオンは高温加熱すると励起して自己分解(活性化)し,硫酸ラジカルを生成すること。 イ ペルオキソ二硫酸イオンは100℃以上の温度で活性化すること。 3.引用例3について (1)引用例3の記載 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例3(特開2012-169562号公報)には,次の記載がある。 「【0009】 硫酸の電解分解により生成した過硫酸は,ペルオキソ二硫酸とペルオキソ一硫酸の混合状態であると考えられ,過硫酸が自己分解するときに生成する硫酸ラジカルが非常に強い酸化剤である。このため,酸化が困難な窒化物も酸化することができると推定される。過硫酸により窒化物が酸化すると半導体表面は,例えばGa_(2)O_(3)(GaN半導体の場合)となる。Ga_(2)O_(3)は両性酸化物であり,酸にもアルカリにも溶解することが知られている。半導体材料と硫酸溶液の接触時間を長くした場合,Ga_(2)O_(3)などの化合物酸化物が電解溶液中の硫酸に溶解してエッチングが進む。」 「【0015】 上記過硫酸含有硫酸溶液は,窒化物半導体表面に接触させる際に,120?190℃の液温を有するのが望ましい。該液温は溶液を加熱することにより調整する。 加熱を行う手段は特に限定されるものではないが,加熱後,窒化物を含む化合物半導体表面に接触させるまでの時間が長いと,過硫酸含有硫酸溶液中の過硫酸が自己分解してしまい,十分な酸化力が得られなくなるので,溶液を急速に加熱できるものが望ましい。また,加熱後,前記接触に至るまでの経路長をできるだけ短くするのが望ましい。 上記液温が120℃未満であると,酸化力が十分でなく,一方,190℃を超えると過硫酸の自己分解が早期に進行してしまい,窒化物半導体に対する酸化力を十分に発揮することが難しくなる。したがって,過硫酸含有硫酸溶液の液温は120℃?190℃が望ましい。」 (2)引用例3の技術的事項 上記によれば,引用例3には次の技術的事項が記載されているものと理解できる。 ア 過硫酸はペルオキソ二硫酸を含み,過硫酸が自己分解により生成する硫酸ラジカルは非常に強い酸化剤であるため,GaN半導体を酸化してエッチングが進むこと。(段落0009) イ 過硫酸含有硫酸溶液を窒化物半導体表面に接触させる際に液温を120?190℃に調整することで,十分な酸化力を得ること。(段落0015) 3.引用例4について (1)引用例4の記載 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例4(特開2008-71801号公報)には,次の記載がある。 「【0012】 本発明によれば,窒化シリコンの選択的なエッチングにおいて,その窒化シリコンのエッチングレートを高めることができるエッチング液,エッチング方法および電子部品の製造方法が提供される。」 「【0037】 そのため,硫酸(H_(2)SO_(4))の割合を多くすれば,高集積化・微細化のために高い寸法精度,形状精度が必要となる処理にも対応ができるようになる。一方,硫酸(H_(2)SO_(4))の割合を少なくすれば,シリコン酸化膜(SiO_(2) )とシリコン窒化膜(Si_(3) N_(4) )のエッチングレートをともに高くすることができる。そのため,硫酸(H_(2)SO_(4))の割合を少なくすれば,寸法や形状に対する精度要求は比較的緩やかだが,高い生産性が必要となる処理にも対応ができるようになる。 【0038】 これらの観点から,好ましい混合体積比を例示するものとすれば,リン酸:硫酸=300:32?150:300程度である。そして,この範囲において要求される形状・寸法の精度と,生産性との兼ね合いから適宜適切な混合体積比を選択することができる。」 「【0042】 本発明者は,さらなる検討の結果,エッチング液に酸化剤を添加すればさらに良好な寸法・形状の精度が得られるとの知見を得た。 【0043】 例えば,硫酸(H_(2)SO_(4))の割合が少ないエッチング液を用いた場合,図3(a)で説明をしたようにポリシリコン層3(シリコン;Si)が若干程度除去される場合がある。このような場合,ポリシリコン層3(シリコン;Si)の表面を酸化させて薄い酸化膜(SiO_(2) )を形成させることができれば,この部分のエッチングレートは塗布型酸化膜5(SiO_(2) )と同等となり,除去されることを抑制することができる。このことは,生産性の高いエッチング条件下において,形状・寸法の精度を改善することができることをも意味する。 【0044】 ここで,シリコン(Si)の表面を酸化させるためには,酸化剤を添加すればよい。酸化剤としては,金属汚染を生じさせないものであればよく,具体的には,ペルオキソ二硫酸アンモニウム,過酸化水素,オゾンなどを例示することができる。この場合,オゾンは気体のためそのまま添加するのではなく,バブリングなどにより水(H_(2)O)などに溶存させてから添加するようにする。尚,複数種類の酸化剤を混合させて用いることもできる。 【0045】 図6(a)は,酸化剤添加の効果を説明するためのグラフ図であり,図6(b),(c)は,酸化剤添加の効果を説明するためのウェーハの模式断面図である。 ウェーハ断面の構成は,図3(a)で説明したものと同様のため,その説明は省略する。図6(a)の横軸はペルオキソ二硫酸アンモニウム濃度を,縦軸はシリコン酸化膜(SiO_(2))のエッチングレートを表している。また,図6(b)は,エッチング液がリン酸(H_(3)PO_(4)):300ml,硫酸:160mlの混合液の場合であり,図6(c)は,エッチング液がリン酸(H_(3)PO_(4)):300ml,硫酸:160ml,ペルオキソ二硫酸アンモニウム:0.2mol/lの混合液の場合である。尚,図6(a),図6(b),図6(c)とも処理温度は160℃である。 【0046】 図6(a)からは,ペルオキソ二硫酸アンモニウム濃度が0.2mol/lの時,シリコン酸化膜(SiO_(2))のエッチングレートが最小となることが分かる。この場合,好ましいペルオキソ二硫酸アンモニウム濃度を例示するものとすれば,0.1mol/l以上,0.3mol/l以下程度とすることができる。」 (2)引用例4の技術的事項 以上の摘記を総合すると,引用例4には次の技術的事項が記載されているものと理解できる。 ・リン酸と硫酸を混合した窒化シリコンのエッチング液において,酸化剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウムを好ましくは0.1mol/l以上,0.3mol/l以下程度添加することで,良好な寸法,形状の精度が得られること。 4.引用例5?6について (1)引用例5の記載 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例5(特開平5-62966号公報)には,次の記載がある。 「【0014】すなわち,飽和水溶液を使用すると,エッチング液の濃度上昇や濃度低下が生じないので再現性の高いエッチングを行うことができる。例えば,水の持込みがある場合にはエッチング槽の底に沈澱している結晶の溶解が生じ,また,水の蒸発が生じた場合は溶液から蓚酸の結晶が析出して平衡が保たれる。 【0015】このように,飽和溶液を使用すると,その温度により決められた溶解度を維持するために特定濃度の溶液を使用する場合に較べ,遙かに安定したエッチングを行うことができる。」 (2)引用例6の記載 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例6(特開2000-60200号公報)には,次の記載がある。 「【0029】 図6A?Fは,本実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の製造方法を示す模式断面図である。異種基板31の表面に,バッファ層33と高温成長層34とから成る下地層32を形成する(図6A)。次に,下地層32上にn型クラッド層35,活性層36,p型クラッド層37,p型コンタクト層38,そして,1層以上の金属層から成る第1の接合層39を形成する(図6B)。ここで,第1の接合層39において,p型コンタクト層38上にp電極を形成した後,オーミック接触を得るためのアニール処理を行う。次に,1層以上の金属層から成る第2の接合層41を表面に形成した支持基板40を,第1の接合層39と第2の接合層41とが対向するように異種基板1の上に積層し,加熱圧着して接合する。 【0030】 次に,導電性の支持基板40と接合した異種基板31を実施の形態1と同様にして剥離する(図6D)。即ち,酸又はアルカリであるエッチング液中で異種基板31側からウエハ全面にレーザ光を照射することによって異種基板31の剥離を行う。異種基板31を剥離した後,バッファ層33はレーザ光による熱分解とエッチング液によるエッチングによって除去され,高温成長層34が露出する。」 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)本願発明1と引用発明1の対比 本願発明1と引用発明1を比較する。 ア 引用発明1における「互いに離隔した被エッチング領域111?113が表面100sに画定されたGaN材料からなるウエハ100」は,本願発明1における「III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物」に相当する。 イ 引用発明1における「ウエハ100をペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液420中に浸漬された状態で容器410内に収納する工程」は,本願発明1における「処理対象物を,ペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液中に浸漬された状態で容器に収容する工程」に相当する。 ウ 引用発明1において,「エッチング液420の温度は所定温度に調整され」ており,「熱又は光により生成された硫酸ラジカルと,UV光でGaN材料に発生したホールによりGaN材料がエッチングされる無電極PECエッチングが行われ」ていることから,引用発明1における「UV光431をエッチング液420中に浸漬された状態のウエハ100の表面100sに照射して,GaN材料の被エッチング領域111?113をエッチングする工程」は,本願発明1における「前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ,前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで,前記被エッチング領域をエッチングする工程」に相当する。 エ 引用発明1の「無電極PECエッチング方法」は,ウエハ100の互いに離隔した被エッチング領域をエッチングする方法であるから,本願発明1の「構造体の製造方法」に相当する。 以上のア?エによれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,次のとおりである。 (一致点) 「III族窒化物で構成された被エッチング領域を有する処理対象物を,ペルオキソ二硫酸イオンを含むエッチング液中に浸漬された状態で容器に収容する工程と, 前記エッチング液の所定温度への加熱により硫酸イオンラジカルを生成させ,前記被エッチング領域への光照射によりホールを生成させることで,前記被エッチング領域をエッチングする工程と, を有する,構造体の製造方法。」 である点。 (相違点1) 本願発明1では「前記所定温度を,45℃以上100度未満」とするのに対し,引用発明1では,「エッチング液420の温度が所定温度に調整される」ことは特定されているが,所定温度の具体的範囲が特定されていない点。 (相違点2) 本願発明1では「前記エッチング液は,ペルオキソ二硫酸イオンの塩を,前記エッチング液が調整される時点でのペルオキソ二硫酸イオン濃度である調整時濃度が所定濃度となるように,水に溶解させることで調整されたものであり, 前記調整時濃度を,前記エッチング液の温度を45℃以上に上昇させたときのエッチングレートが,前記エッチング液の温度が上昇するほど増加し,前記エッチング液の温度が45℃未満であるときのエッチングレートよりも高くなるような濃度とする」のに対し,引用発明1では,エッチング液420のペルオキソ二硫酸イオン濃度の調整方法が特定されていない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み,はじめに相違点2について検討する。 ア 上記第4の2.(2)に示したとおり,引用例2には,ペルオキソ二硫酸イオンは高温加熱すると励起して自己分解(活性化)し,硫酸ラジカルを生成すること,及び,ペルオキソ二硫酸イオンは100℃以上の温度で活性化することが記載されている。また,上記第4の3.(2)に示したとおり,引用例3には,ペルオキソ二硫酸を含む過硫酸が自己分解により生成する硫酸ラジカルは非常に強い酸化剤であるため,GaN半導体を酸化してエッチングが進むこと,及び,過硫酸含有硫酸溶液を窒化物半導体表面に接触させる際に液温を120?190℃に調整することで,十分な酸化力を得ることが記載されている。 引用例2及び引用例3に記載されたこれらの技術的事項によれば,ペルオキソ二硫酸イオンを加熱することで硫酸ラジカルが生成され,GaNのエッチングに十分な酸化力が得られることが,当業者に周知の事項であったといえる。 イ しかしながら,引用例2及び引用例3には,ペルオキソ二硫酸イオンの濃度が所定の高い濃度でないときには,エッチング液の温度を上昇させてもエッチングレートの増加が見られないことについては記載も示唆もされていないから,引用例2及び引用例3の記載から,温度を上昇させたときにエッチングレートが上昇するような濃度に調整すること,すなわち,「前記調整時濃度を,前記エッチング液の温度を45℃以上に上昇させたときのエッチングレートが,前記エッチング液の温度が上昇するほど増加し,前記エッチング液の温度が45℃未満であるときのエッチングレートよりも高くなるような濃度とする」ように「ペルオキソ二硫酸イオンの塩を,前記エッチング液が調整される時点でのペルオキソ二硫酸イオン濃度である調整時濃度が所定濃度となるように,水に溶解させることで調整」することを,容易に想到することができたとはいえない。 また,引用例4には,ペルオキソ二硫酸アンモニウムを好ましくは0.1mol/l以上,0.3mol/l以下程度添加したエッチング液が開示されているが,当該エッチング液は窒化シリコンのエッチング液であるから,GaNのPECエッチング技術である引用発明1に適用することが容易であるとはいえない。 さらに,引用例5及び引用例6にも,上記相違点2に係る濃度の調整方法について記載されていない。 ウ したがって,引用発明1及び引用例2?6に記載された技術的事項から上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではないから,相違点1について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明1及び引用例2?6に記載された技術的事項から,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.本願発明2?15について 本願発明2?15は本願発明1と同じ技術的事項を備える発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用例1?6に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 原査定について 審判請求時の補正により,本願発明1?15は 「前記エッチング液は,ペルオキソ二硫酸イオンの塩を,前記エッチング液が調整される時点でのペルオキソ二硫酸イオン濃度である調整時濃度が所定濃度となるように,水に溶解させることで調整されたものであり, 前記調整時濃度を,前記エッチング液の温度を45℃以上に上昇させたときのエッチングレートが,前記エッチング液の温度が上昇するほど増加し,前記エッチング液の温度が45℃未満であるときのエッチングレートよりも高くなるような濃度とする」 という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用例1?6に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第7 結言 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-04-21 |
出願番号 | 特願2020-41622(P2020-41622) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 智之 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
小川 将之 ▲吉▼澤 雅博 |
登録日 | 2021-06-02 |
登録番号 | 特許第6893268号(P6893268) |
発明の名称 | 構造体の製造方法 |
代理人 | 福岡 昌浩 |
代理人 | 橘高 英郎 |
代理人 | 福岡 昌浩 |
代理人 | 橘高 英郎 |