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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F |
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管理番号 | 1374158 |
審判番号 | 不服2019-17567 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-25 |
確定日 | 2021-05-10 |
事件の表示 | 特願2016- 23321「超電導コイルの製造装置及びその製造方法並びに超電導コイル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月17日出願公開、特開2017-143173〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年2月10日の出願であって、平成31年3月27日付け拒絶理由通知に対して令和1年6月3日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年9月25日付けで拒絶査定がなされた。これに対して同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし11に係る発明は、令和1年6月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 薄膜で且つ多層構造の超電導線材間に絶縁材を介在させる状態で前記超電導線材を巻き回し、絶縁性の樹脂を含浸して超電導コイルを製造する超電導コイルの製造装置において、 前記超電導線材を巻枠に巻き回して形成される巻線部の外径寸法を前記巻線部の形成中に測定する測定手段と、 前記巻線部の形成過程で前記超電導線材間に、前記樹脂に対して接着力が低下する離形処理を施した離形絶縁材を供給する供給手段と、 前記測定手段により測定された前記巻線部の外径寸法が設計値未満の場合に前記供給手段を動作させて、前記離形絶縁材を前記巻線部の半径方向の複数箇所に分散して断続的に配置させるように前記超電導線材間に供給して前記巻線部の外径寸法を調整する制御手段と、を有することを特徴とする超電導コイルの製造装置。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、請求項1に係る発明に対する拒絶理由を含むものであって、次のとおりである。 本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特許第5732556号公報 引用文献2:特開2010-267835号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:特開2014-22693号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開昭63-177503号公報(周知技術を示す文献) 引用文献5:特開平4-91409号公報(周知技術を示す文献) 第4 引用文献及びその記載事項 1 引用文献1・引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、超電導コイルの製造装置に関して、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。以下同様。)。 「【0001】 本発明は、超電導線材を用いた超電導コイルの製造方法および製造装置に関する。 ?(中略)? 【0004】 酸化物高温超電導線材は、金属基板上に薄層を多層に積層する構造であり、超電導層の上には銀などの保護層や、銅(めっきやテープ)などの安定化層を有する多層複合構造となっている。従来の金属系超電導線材を用いた超電導コイルは、超電導転移温度が低いため、高価な液体ヘリウム等で冷却されることが多いのに対して、酸化物超電導線材は超電導転移温度が比較的高いため、安価な液体窒素で冷却し、運転することが可能である。 ?(中略)? 【0006】 MRIやNMR等の用途では、より均一で、より高い磁場を有するマグネットを得るため、ボビン上に超電導線材が多重に巻かれた超電導コイルにおいて、線材の超電導層の間隔が均一になり、コイルとして電流密度を均一にすることが求められている。NbTi等の金属系超電導線材は、丸線や平角線など形状に自由度があり、かつ、伸線工程を経て製造することにより、線材の厚さの公差が数十μm程度のレベルで製造することが可能である。これに対し、イットリウム(Y)系の酸化物高温超電導線材は、金属基板上に薄層を多層に積層する構造であり、ビスマス(Bi)系の酸化物高温超電導線材は、安定化材にフィラメント上の超電導体が多数埋め込まれた多芯構造であり、線材の厚さの公差が100μmを大きく上回る。このように、線材寸法を精度良く製作することが困難な高温超電導線材を用いて均一で高磁場を有するマグネットを製作する際には、巻線精度を管理することが課題である。」 「【0012】 以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。 図1に、光学透過式センサを用いた製造装置の実施例を示す。この製造装置10は、超電導線材12を送り出す送出部11、超電導線材12を巻き取る巻取部15、超電導線材12の厚さを調整する厚さ調整部19、巻線時の超電導コイル13の外周寸法を測定する光学透過式センサ20等を備える。 【0013】 超電導線材12は、金属基板、超電導層、保護層、安定化層等を有する多層複合構造となっている。一例として、金属基板の上に下地層、配向性中間層、キャップ層、酸化物超電導層、保護層、安定化層が順に積層された構造が挙げられる。金属基板は、例えばニッケル合金等の金属からなるテープ状の基材である。下地層は例えばY_(2)O_(3)からなり、耐熱性が高く、界面反応性を低減するため設けられる。 ?(中略)? 【0017】 テープ形状の超電導線材12は、送出部11から巻取部15に向けて、巻きをほどいた状態で送出される。厚さ調整部19では、超電導線材12の厚さを増大させるか又は減少させることにより、超電導線材12の厚さを調整する。超電導線材12の厚さを増大させる場合、超電導コイル13において超電導線材の間に介在させる絶縁部材の供給による手法が挙げられる。絶縁部材を供給する手法としては、ポリイミドテープやFRP(繊維強化プラスチック)テープ等のテープ状の絶縁材を重ねたり、エポキシ等の液状樹脂を塗布したりすることが挙げられる。超電導線材12の厚さを減少させる場合、厚さ調整部19の前で超電導線材12上に樹脂等を積層した後、厚さ調整部19において樹脂の一部を除去する手法が挙げられる。 【0018】 厚さ調整部19を経た超電導線材12は、巻取部15において、ボビン、リール等の巻枠14に巻き取られ、超電導コイル13となる。巻枠14の構造は、特に限定されないが、例えば円筒状の胴部の両側に、胴部より径の大きい鍔部を有する構造でもよい、巻枠14の材料は、特に限定されないが、例えばGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)等が好ましい。巻取部15は、巻枠14を回転駆動するため、モーター(図示せず)等を備えてもよい。 ?(中略)? 【0022】 コイルの外周寸法の変化を超電導線材の厚さに換算するには、外周寸法の変化を巻枠の回転数と連動させ、巻枠上の同じ位置での厚さの変化を1ターンごと、又は半ターンごとに演算する。このため、図1の製造装置10では、情報を演算して厚さ調整部19を制御する制御部16と、制御部16から必要に応じて情報を表示させる表示部17と、巻枠14の周方向の位置を測定する位置センサ部18を有する。制御部16として、例えばPLC(プログラマブルロジックコントローラ)やコンピューター等の制御装置が使用可能である。 ?(中略)? 【0024】 (1)巻線前、巻取部15に空の巻枠14をつけた状態で巻枠14を回転させ、各ポイントにおける外周寸法A_(x=0)(w°)を測定し、制御部16に記録させる。xは超電導線材のターン数を示し、x=0は超電導線材を巻いていないことを表す。例えば、外周寸法がコイルの外径(直径)を表す場合、A_(x=0)(w°)は巻枠の胴部の外径(直径)を意味する。 【0025】 (2)巻線中、各ポイントにおける超電導コイル13の外周寸法Ax(w°)を測定する。制御部16で、Ax(w°)-A_(x=0)(w°)の演算を行うことにより、コイルに巻き取られた超電導線材の厚さの合計Bx(w°)を計算する。また、コイル外周寸法とターン数から、巻き取られた線材の条長を計算する。 【0026】 (3)ターン数×設計値(1ターン当たりの厚さ)=Bx_(design)に対して、上記Bx(w°)の過不足分を制御部16で演算処理し、厚さ調整部19に情報を送る。制御部16から表示部17に情報を送って作業者向けに表示部17で情報を表示させることもできる。 【0027】 (4)厚さ調整部19によりBx_(design)に合わせるように厚さの調整を行う。巻取部15において厚さの増加が不足している場合は、厚さ調整部19において超電導線材12の厚さがより大きくなるように調整する。巻取部15において厚さの増加が過剰している場合は、厚さ調整部19において超電導線材12の厚さの増加を抑制するように、あるいは厚さが減少するように、調整する。」 「【0035】 巻き取ったコイルの後処理として、周囲を樹脂等の絶縁物で覆ったり、樹脂を含浸させたりしてもよい。また、複数のコイルを接続して軸方向に積層することも可能である。」 上記記載から、引用文献1には以下の事項が記載されている。 ・上記【0001】によれば、引用文献1は超電導線材を用いた超電導コイルの製造装置に関する発明である。 ・上記【0012】によれば、超電導コイルの製造装置は、超電導線材12を送り出す送出部11、超電導線材12を巻き取る巻取部15、厚さ調整部19、光学透過式センサ20を備えている。 ・上記【0022】によれば、超電導コイルの製造装置は、情報を演算して厚さ調整部19を制御する制御部16を有している。 ・上記【0004】、【0006】、【0013】及び【0017】によれば、テープ形状の超電導線材12は、金属基板上に超電導層、保護層、安定化層等の薄層を多層に積層した構造であり、送出部11から巻取部15に向けて巻きをほどいた状態で送出される。 ・上記【0025】及び【0012】によれば、巻取部15で巻線中の超電導コイル13は、光学透過式センサ20を用いて外周寸法Ax(w°)が測定される。 ・上記【0022】、【0025】及び【0026】によれば、制御部16では、上記外周寸法Ax(w°)より、巻き取られた超電導線材の厚さの合計Bx(w°)を計算する。そして、ターン数×設計値(1ターン当たりの厚さ)=Bx_(design)に対する、Bx(w°)の過不足分を演算して厚さ調整部19を制御している。 ・上記【0027】及び【0017】によれば、巻取部15において厚さの増加が不足している場合には、厚さ調整部19において超電導線材12の間に介在させる絶縁部材をテープ状の絶縁材を重ねることで供給し、上記Bx_(design)に合わせるように厚さの調整を行っている。 ・上記【0018】及び【0035】によれば、厚さ調整部19を経た超電導線材12は、巻取部15において巻枠14に巻き取られ、超電導コイル13となり、巻き取ったコイルの後処理として樹脂を含浸させられる。 したがって、上記記載事項及び図面を勘案すると上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「超電導線材を用いた超電導コイルの製造装置であって、 超電導線材12を送り出す送出部11、超電導線材12を巻き取る巻取部15、厚さ調整部19、光学透過式センサ20を備えており、 情報を演算して厚さ調整部19を制御する制御部16を有しており、 テープ形状の超電導線材12は、金属基板上に超電導層、保護層、安定化層等の薄層を多層に積層した構造であり、送出部11から巻取部15に向けて巻きをほどいた状態で送出され、 巻取部15で巻線中の超電導コイル13は、光学透過式センサ20を用いて外周寸法Ax(w°)が測定され、 制御部16では、上記外周寸法Ax(w°)より、巻き取られた超電導線材の厚さの合計Bx(w°)を計算し、ターン数×設計値(1ターン当たりの厚さ)=Bx_(design)に対するBx(w°)の過不足分を演算して厚さ調整部19を制御しており、 巻取部15において厚さの増加が不足している場合には、厚さ調整部19において超電導線材12の間に介在させる絶縁部材をテープ状の絶縁材を重ねることで供給し、上記Bx_(design)に合わせるように厚さの調整を行い、 厚さ調整部19を経た超電導線材12は、巻取部15において巻枠14に巻き取られ、超電導コイル13となり、巻き取ったコイルの後処理として樹脂を含浸させられる、超電導コイルの製造装置。」 2 引用文献2及び3 (1)引用文献2 原査定において、周知技術を示す文献として引用された引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。 「【請求項1】 多層構造の薄膜超電導線材と絶縁材とを巻き回して形成される超電導コイル部が同心円状の複数の部分からなり、前記同心円状の部分同士が隣接する境界部分の接着力が予め他の部分のそれよりも低く設定されていることを特徴とする超電導コイル。」 「【請求項5】 前記同心円状の部分同士が隣接する境界部分に、離形処理を施した絶縁物を挿入したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の超電導コイル。」 「【0001】 本発明は、超電導コイルに係り、更に詳しくは、巻芯に多層構造の薄膜超電導線材を巻き回してなる超電導コイルにおいて、超電導コイル内部に発生する剥離力を小さくし、超電導コイルの安定性を向上させた超電導コイルに関するものである。」 「【0008】 そこで、本発明は、この課題を解消することを目的とし、超電導コイル内部に発生する剥離力を小さくすることにより、超電導コイルの超電導特性が低下することを防止し、超電導コイルの安定性を向上させることを目的とする。」 「【0026】 (超電導コイル) 超電導テープ線1は、図3に示すように、樹脂を塗布した絶縁テープ8と重ね合わせて複合テープ11とされ、FRP製の巻芯9に渦巻状に巻回し、図4に示すようにパンケーキ型の超電導コイル12とされる。」 「【0044】 本実施形態に係る超電導コイル20は、図6に示す超電導コイル10の125ターン目の複合テープ11の外周面と126ターン目の複合テープ11の内周面、及び375ターン目の複合テープ11の外周面と376ターン目の複合テープ11の内周面の間にFRPテープ23を挿入した以外は、第1の実施の形態に係る超電導コイル10と同様に形成されている。 【0045】 FRPテープ23を挿入したことにより、125ターン目と126ターン目の複合テープ11、及び375ターン目と376ターン目の複合テープ11において、隣り合う超電導テープ線1と絶縁テープ8とが非接着となる。」 「【0050】 本実施形態に係る超電導コイル30は、図6に示す超電導コイル10の125ターン目の複合テープ11の外周面と126ターン目の複合テープ11の内周面、及び375ターン目の複合テープ11の外周面と376ターン目の複合テープ11の内周面の間に冷却・絶縁テープ33を挿入した以外は、第1の実施の形態に係る超電導コイル10と同様に形成されている。 ?(中略)? 【0052】 冷却・絶縁テープ33を挿入したことにより、125ターン目と126ターン目の複合テープ11、及び375ターン目と376ターン目の複合テープ11において、隣り合う超電導テープ線1と絶縁テープ8とが非接着となる。」 (2)引用文献3 原査定において、周知技術を示す文献として引用された引用文献3には、図面とともに以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は超電導コイル及びその製造装置に係り、更に詳しくは、多層構造で且つテープ形状の薄膜超電導線材とテープ形状の絶縁材とが共に巻枠に巻き回されて形成された巻線部を有し、この巻線部の薄膜超電導線材及び絶縁材が、伝熱性を備えた絶縁性樹脂により含浸硬化されて接着される超電導コイル、及びこの超電導コイルを製造する超電導コイルの製造装置に関する。」 「【0007】 本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、薄膜超電導線材に作用する剥離応力を低減し、且つコイル径方向の伝熱経路を確保して、超電導特性の安定性を向上させることができる超電導コイル及びその製造装置を提供することにある。」 「【0026】 上述の事情を踏まえ、図1に示す本実施形態の超電導コイル10の巻線部14には、周方向の一部において、例えばエポキシ樹脂15による接着力が周方向の他の部分よりも低い箇所(本実施形態では離形層23)が、単数または超電導コイル10の径方向に複数設けられている。本実施形態では、離形層23が超電導コイル10の径方向に2本ずつ、巻枠13を挟む位置に略対称に設けられている。尚、内側の離形層23を内側離形層23Aとし、外側の離形層23を外側離形層23Bとする。 ?(中略)? 【0028】 また、離形層23は、図9に示すように、エポキシ樹脂15の含浸前に、巻線部14を構成する超電導テープ線11と絶縁テープ線12との間に、離形材24を用いて離形処理した離形処理絶縁材25を挿入することで設けられてもよい。この離形処理絶縁材25は、本実施形態では、例えばFRPテープなどの絶縁テープ27の両側に離形材24が貼着または塗布されたものである。」 (3)上記の記載によれば、超電導コイルに関して、以下の技術事項は周知技術であると認める。 「テープ形状の超電導線材と絶縁材とを巻回して形成する超電導コイルにおいて、超電導特性の安定性を向上させるために、接着力が他の部分よりも低い離形処理した絶縁材を超電導線材の間に挿入すること」 3 引用文献4及び5 (1)引用文献4 原査定において、周知技術を示す文献として引用された引用文献4には、図面とともに以下の記載がある。 「(1)レジンを含浸したテープあるいはシートを層間にはさみながら超電導線材を多層の筒状に巻回し、巻線終了後その外周にバインド線を巻回し、その後加熱成形することを特徴とする超電導コイルの製造方法。」(特許請求の範囲) 「(作 用) コイル層間に入れるガラステープは枚数を変えることによりコイル外径を変化・調整させ得る。又このガラステープに含浸させているレジンは、コイル巻線完了後に加熱することによって溶け出して線間に入り込み硬化しこれを固定する。 (実施例) 第2図に本発明の方法を適用したコイルの一例を示す。4は層間に挿入した絶縁シート、5は外周固定用バインド線である。絶縁シート4は、ガラス基材にエポキシを含浸したものであり、コイル外径寸法を設計値にあわせるよう各層間に一枚ないし複数枚挿入される。」(第2頁左上欄第9行-右上欄第1行) (2)引用文献5 原査定において、周知技術を示す文献として引用された引用文献5には、図面とともに以下の記載がある。 「[産業上の利用分野] この発明は、超電導コイルの製造方法に関し、とりわけ、コイルの端末が予め決められた超電導コイルの製造方法に関するものである。」(第1頁左欄第14-17行) 「[実施例] 以下、この発明の一実施例を第1図を参照して説明する。図において、(9)はガラス・エポキシ積層板でなるスペーサである。 その他、第2図?第4図におけると同一符号は同一部分である。 次に巻線の手順は、まず、接続用リード部(3a)は予め巻線前に接続用の特別な処理(図示せず)が施されており、このリード部(3a)がコイル巻線後に所定の位置に来るように巻線しなければならない。そのため、テープ状の絶縁物(7)が施された補強帯(6)とNb_(3)Snでなる超電導導体(13)とを共に巻回して超電導コイル(11)を形成するとき、テープ状の絶縁物(7)と超電導導体(13)との間に、寸法調整用のスペーサ(9)を各ターン毎に必要に応じ、必要枚数だけ挿入してゆく。この枚数の決め方は、超電導導体(13)の長さを所定の長さ毎に、等間隔で測定してゆき、この数値と各ターン毎の設計上の寸法とを比較し、両者の寸法のずれを修正する方向になるよう、次のターンのスペーサの枚数を順次に決めてゆく。 ターンによっては、スペーサ(9)が0枚になる場合もある。」(第2頁右上欄第5行-左下欄第7行) (3)上記の記載によれば、超電導コイルに関して、以下の技術事項は周知技術であると認める。 「超電導コイルの外径寸法を調整するために、巻線の際、超電導線材の間に絶縁性のテープ、シート、スペーサ等を必要枚数挿入すること」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「超電導線材12」及び超電導線材12の間に介在させる「絶縁部材」は、本願発明の「超電導線材」及び「絶縁材」にそれぞれ相当する。 (2)引用発明の「超電導線材12」は、金属基板上に超電導層、保護層、安定化層等の薄層を多層に積層した構造であるから、本願発明の「薄膜で且つ多層構造の超電導線材」に相当する。 (3)引用発明の「厚さ調整部19において超電導線材12の間に介在させる絶縁部材を供給し、」「厚さ調整部19を経た超電導線材12は、巻取部15において巻枠14に巻き取られ、超電導コイル13となり、巻き取ったコイルの後処理として樹脂を含浸さられる」ことは、本願発明の「超電導線材間に絶縁材を介在させる状態で前記超電導線材を巻き回し、絶縁性の樹脂を含浸して超電導コイルを製造する」ことに相当する。 (4)引用発明の「超電導コイル13」は、巻線部15において超電導線材12が巻枠14に巻き取られたものであり、本願発明の「前記超電導線材を巻枠に巻き回して形成される巻線部」に相当する。 (5)引用発明の「光学透過式センサ20」は、巻線中の超電導コイル13の外周寸法を測定するから、本願発明の「巻線部の外径寸法を前記巻線部の形成中に測定する測定手段」に相当する。 (6)引用発明の「厚さ調整部19」は、超電導線材12の間に介在させる絶縁部材を供給しており、本願発明の「前記巻線部の形成過程で前記超電導線材間に、絶縁材を供給する供給手段」に相当する。 ただし、供給手段が供給する絶縁材に関して、本願発明は「前記樹脂に対して接着力が低下する離形処理を施した離形絶縁材」であるのに対し、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。 (7)引用発明の「巻取部15において厚さの増加が不足している場合」は、巻線中の超電導コイル13の外周寸法Ax(w°)を測定し、Ax(w°)から計算される巻き取られた超電導線材の厚さの合計Bx(w°)が「ターン数×設計値(1ターン当たりの厚さ)=Bx_(design)」に対して不足している場合であるから、本願発明の「前記測定手段により測定された前記巻線部の外径寸法が設計値未満の場合」に相当する。 そうすると、引用発明の「制御部16」は、「巻取部15において厚さの増加が不足している場合」に「厚さ調整部19」を制御し、「超電導線材12の間に介在させる絶縁部材を供給し、上記Bx_(design)に合わせるように厚さの調整を行」うから、本願発明の「前記測定手段により測定された前記巻線部の外径寸法が設計値未満の場合に前記供給手段を動作させて、前記絶縁材を前記超電導線材間に供給して前記巻線部の外径寸法を調整する制御手段」に相当する。 ただし、絶縁材を超電導線材間に供給することに関して、本願発明は「前記離形絶縁材を前記巻線部の半径方向の複数箇所に分散して断続的に配置させる」ように供給するのに対し、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。 (8)引用発明の「光学透過式センサ20」、「厚さ調整部19」及び「制御部16」を備えた「超電導コイルの製造装置」は、本願発明の「超電導コイルの製造装置」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「薄膜で且つ多層構造の超電導線材間に絶縁材を介在させる状態で前記超電導線材を巻き回し、絶縁性の樹脂を含浸して超電導コイルを製造する超電導コイルの製造装置において、 前記超電導線材を巻枠に巻き回して形成される巻線部の外径寸法を前記巻線部の形成中に測定する測定手段と、 前記巻線部の形成過程で前記超電導線材間に、絶縁材を供給する供給手段と、 前記測定手段により測定された前記巻線部の外径寸法が設計値未満の場合に前記供給手段を動作させて、前記絶縁材を前記超電導線材間に供給して前記巻線部の外径寸法を調整する制御手段と、を有することを特徴とする超電導コイルの製造装置。」で一致し、 以下の点で相違する。 <相違点1> 供給手段が供給する絶縁材に関して、本願発明は「前記樹脂に対して接着力が低下する離形処理を施した離形絶縁材」であるのに対し、引用発明はその旨の特定がない点。 <相違点2> 絶縁材を超電導線材間に供給することに関して、本願発明は「前記離形絶縁材を前記巻線部の半径方向の複数箇所に分散して断続的に配置させる」ように供給するのに対し、引用発明はその旨の特定がない点。 第6 判断 上記相違点1及び2について判断する。 (1)相違点1について 引用文献1記載の厚さ調整部19は、超電導線材12の間にテープ状の絶縁材を重ねて供給するか、樹脂の一部を除去して超電導線材12の厚さを調整しているところ、超電導コイルの外径寸法を調整するために、巻線の際、超電導線材の間に絶縁性のテープ、シート、スペーサ等を必要枚数挿入することは普通に行われており(上記「第4 3(3)」参照)、超電導線材12の厚さをより大きくする際に、超電導コイルの用途に適した絶縁材をさらに加えて供給することは適宜設計し得る事項である。 ここで、テープ形状の超電導線材と絶縁材とを巻回して形成する超電導コイルにおいて、超電導特性の安定性を向上させるために、接着力が他の部分よりも低い離形処理した絶縁材を超電導線材の間に挿入することは周知の技術事項である(上記「第4 2(3)」参照)。 そうすると、引用発明の厚さ調整部が、超電導線材の厚さをさらに大きくする際に、周知の技術事項である離形処理した絶縁材をさらに加えて供給するようにして、上記相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。 (2)相違点2について 引用発明の厚さ調整部19が、超電導線材の間に絶縁材をさらに加えて供給する際には、当該絶縁材は巻線中のコイルに対して断続的に供給され、巻き取った超電導コイルの半径方向の複数箇所に分散して断続的に配置される構成になることが自明といえ、相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。 (3)まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 そして、本願発明のように構成したことによる効果も引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。 第7 請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、絶縁材を厚さの調整に使用すると、本発明の課題が発生する可能性があること(【0005】には「・・・超電導コイル内部で絶縁物の量が不均一になってしまう。このため、超電導コイル冷却時の熱応力が大きくなって、超電導コイルが劣化する恐れがある。」と記載されている。)、及び1枚の絶縁材を巻線部の半径方向の複数箇所に分散して断続的に配置させた場合、超電導コイル内において電気的に接続される部分が発生し、絶縁不良を引き起こす恐れがあることをあげている。 しかしながら、引用発明の厚さ調整部は、超電導線材12の間にテープ状の絶縁材を重ねて供給するか、樹脂の一部を除去して超電導線材12の厚さを調整しており、常にテープ状の絶縁材または樹脂を供給しているところ、テープ状の絶縁材を重ねずに供給する場合や樹脂の一部を除去する場合においても、絶縁材または樹脂そのものが全くなくなるわけではなく、超電導線材上に当然必要な絶縁材または樹脂が形成されているから、絶縁不良となる部分が発生することは想定されないものと認められる。 よって、上記主張を採用することができない。 第8 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-03-03 |
結審通知日 | 2021-03-05 |
審決日 | 2021-03-26 |
出願番号 | 特願2016-23321(P2016-23321) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 孝章 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 五十嵐 努 |
発明の名称 | 超電導コイルの製造装置及びその製造方法並びに超電導コイル |
代理人 | 寺脇 秀▲徳▼ |
代理人 | 原 拓実 |
代理人 | 栗原 譲 |