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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1374171
審判番号 不服2019-17532  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-25 
確定日 2021-05-13 
事件の表示 特願2014-533127「薬剤組成物が塗布されたマイクロニードルアレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月 6日国際公開、WO2014/034882〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)8月30日(特許法第41条に基づく優先権主張 2012年(平成24年)8月30日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成29年 8月18日付け:拒絶理由通知
同年10月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 3月 8日付け:拒絶理由通知
同年 7月10日 :意見書の提出
同年 9月19日付け:拒絶理由通知
平成31年 1月24日 :意見書の提出
令和 1年 5月15日付け:拒絶理由通知
同年 9月19日 :意見書の提出
同年 9月25日付け:拒絶査定
同年12月25日 :審判請求書の提出
令和 2年10月30日付け:拒絶理由通知
令和 3年 1月 4日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、請求項の番号に対応して「本願発明1」などといい、総称して「本願発明」という。)は、令和3年1月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。なお、便宜上、分説符号A?Gを付した(以下、符号に対応して「構成A」などという。)。
「【請求項1】
A 錐体部およびその上の先端部からなり、先端頂角が15?60°の範囲で、先端直径が1?20μmの範囲にある
B マイクロニードルアレイの微小針の先端部から100μm?400μmの範囲まで、
C 薬剤と添加剤を含有する薬剤組成物が塗布された
D 剣山型マイクロニードルアレイであって、
E 添加剤が、3より低いビッカース硬度の添加剤と10以上のビッカース硬度の添加剤の混合添加剤、あるいは3より低いビッカース硬度の添加剤と3?10のビッカース硬度との混合添加剤であり、
F 塗布・乾燥後の薬剤組成物のビッカース硬度が3以上であり、
G 薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)である
H ことを特徴とする、マイクロニードルアレイ。
【請求項2】
マイクロニードルアレイの微小針が50?200本/cm^(2)設置されている、請求項1に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項3】
微小針の高さが300?1000μmである、請求項2に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項4】
上記薬剤が、ペプチド、タンパク質、核酸、RNAであることを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項5】
上記薬剤の含量が、薬剤組成物の25w/w%以下であることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項6】
上記混合添加剤として、3より低いビッカース硬度の添加剤が、混合添加剤全体の5?20w/wであることを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ。」


第3 当審の拒絶理由
当審において、令和2年10月30日付けで通知した拒絶の理由は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」という理由を含むものであって、概略、以下の点を指摘している。
本願発明1は、発明の詳細な説明において本願発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、本願発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また、本願発明2?6についても同様である。
よって、本願発明1?6は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


第4 当審の判断
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、本願の特許請求の範囲の記載が、上記規定に適合するか否かについて検討する。

1 本願発明の課題及びその解決手段について
本願の明細書には次の記載がある。
「発明が解決しようとする課題
[0005] 本願発明は、マイクロニードルアレイに薬剤を塗布しても、穿刺性が低下せず、更にマイクロニードルアレイの穿刺の際にも、塗布したコーティング薬剤が剥落することなく、皮内に挿入できるマイクロニードルアレイを提供することを目的とする。更には、マイクロニードルアレイに塗布するためのコーティング組成物を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明者らはこれまで、穿刺性の良好なマイクロニードルアレイ(WO2012/057345などを参照)を薬剤溶液に浸漬して乾燥させ、薬剤をマイクロニードルアレイの微小針に塗布させることを検討してきた(WO2012/057602を参照)。薬剤をマイクロニードルアレイに塗付し、付着させるためには、薬剤だけでは不十分であり、薬剤溶液に一定の粘性を与える添加剤が必要である。しかし、マイクロニードルアレイに担持させる薬剤の量が増加すれば、それに合わせて添加剤の量も増加するため、穿刺性が良好なマイクロニードルアレイであっても、薬剤溶液を塗布すると、マイクロニードルアレイの微小針の先端部が鈍化したり、微小針に塗付された薬剤が剥離する現象も起こってきた。
[0007] そこで、本発明者らは、50?250μg/微小針(100本)の範囲の塗付量であれば、微小針の形状の変化が大きくないので、微小針の先端部の鈍化が大きくなく、微小針に塗付された薬剤が剥離し難いと考えた。この塗付量の範囲で、マイクロニードルアレイから脱落し難い薬剤組成物の検討を行なった。その結果、図2に示されるように、組成物の硬度(ビッカース硬度)が約3以上の場合に、マイクロニードルアレイから薬剤組成物の脱落が少なくなり、良好に皮膚内に穿刺、挿入されることを見出した。即ち、本発明者らは、ビッカース硬度を指標として塗布された薬剤組成物の硬度を計測することで、薬剤組成物が塗付されたマイクロニードルアレイの穿刺性と薬剤の皮膚内への挿入性を評価できることを明らかにした。
[0008] 更に、本発明者らは、添加剤が同じでも使用する薬剤の種類によって、図1のように、塗布された薬剤組成物のビッカース硬度が変化することを見出した。一方、図9に示すように、薬剤が同じであれば(図1のOVAの場合と対比すると)、添加剤の種類が異なっても、塗布された薬剤組成物のビッカース硬度はあまり影響を受けず、薬剤の影響を受けやすいことが明らかとなった。
[0009] また、ビッカース硬度による添加剤の分類(接着剤的役割と硬度付与剤的役割)が可能となったので、この分類による2種の添加剤を組み合わせることにより、所望の硬度を作製できることが分かった。これにより、薬剤の添加による硬度の低下を回復できるようになり、薬剤組成物のビッカース硬度が約3以上に調節できるようになった。このような調節がビッカース硬度を用いて可能となったため、薬剤の如何にかかわらず、薬物組成物が担持されたマイクロニードルアレイの穿刺性が良好に維持できるようになり、薬剤を皮膚内に効率的に挿入できることを見出した。
本発明者らは、上記の知見に基づき、本発明を完成した。」

以上の記載によれば、本願発明の課題は、「マイクロニードルアレイに薬剤を塗布しても、穿刺性が低下せず、更にマイクロニードルアレイの穿刺の際にも、塗布したコーティング薬剤が剥落することなく、皮内に挿入できるマイクロニードルアレイを提供すること」([0005])である。
また、当該課題を解決するに当たり、発明者らは、50?250μg/微小針(100本)の範囲の塗付量であれば、微小針の形状の変化が大きくないので、微小針の先端部の鈍化が大きくなく、微小針に塗付された薬剤が剥離し難いと考え、この塗付量の範囲で、マイクロニードルアレイから脱落し難い薬剤組成物の検討を行なった結果、図2に示されるように、組成物の硬度(ビッカース硬度)が約3以上の場合に、マイクロニードルアレイから薬剤組成物の脱落が少なくなり、良好に皮膚内に穿刺、挿入されることを見出し([0007])、また、薬剤の如何にかかわらず、薬物組成物が担持されたマイクロニードルアレイの穿刺性が良好に維持できるようになり、薬剤を皮膚内に効率的に挿入できることを見出した([0009])というものであるところ、本願発明1?6は、上記課題を解決するための手段として、とりわけ構成Fの「塗布・乾燥後の薬剤組成物のビッカース硬度が3以上であ」る事項及び構成Gの「薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)である」事項を、発明を特定するための事項として具備している。

2 本願発明が課題を解決できると認識できるものであるか否かについて
そこで、本願発明1の「マイクロニードルアレイ」が、「塗布・乾燥後の薬剤組成物のビッカース硬度が3以上」という数値の全範囲において、かつ「薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)」という数値の全範囲において、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて、続いて検討する。
なお、明細書の発明の詳細な説明には、「本発明をより具体的に説明する」([0026])ための実施例として、実施例1?6が記載されているが、実施例1([0027]?[0038])は、「塗布された薬剤組成物の硬さの評価」に関し、薬剤組成物をガラス板に塗布する例であり、実施例3([0042]?[0044])は、「添加剤の種類(分子量の相違)とビッカース硬度の相関性」に関し、薬剤組成物をプレパラートに塗布する例であって、いずれもマイクロニードルアレイの穿刺性やマイクロニードルアレイに塗布された薬剤の剥落に関する具体例ではないので、その余の実施例である、実施例2、4?6について、順次検討する。
(1)実施例2について
明細書には、次の記載がある。
「[0039](実施例2)薬剤組成物の硬さとマイクロニードルアレイの穿刺率との相関性
薬剤組成物の硬さとマイクロニードルアレイの穿刺率の相関性を評価するため、約1cm^(2)に97本のマイクロニードルアレイ(針の長さ約600μm)を持つアレイを公知方法(WO2012/057345)に準じて作製し、これを用いて以下の薬剤組成液を塗布し、使用した。
(1)薬剤組成物
以下の表5の組成でコーティング組成物水溶液を調製し、マイクロニードルアレイに塗布した。塗布後、マイクロニードルアレイを摘出ラット皮膚に穿刺し、直後にマイクロニードルアレイを引き抜いた。穿刺後のマイクロニードルアレイの様子を顕微鏡(キーエンス社製デジタルマイクロスコープ VHX-2000)を用いて観察した。塗布された薬剤組成物が脱落せずに穿刺したものをカウントし,穿刺率とした。各薬剤組成物水溶液につき,N=3で実施した。
[0040][表5]

[注記]
OVA:卵白アルブミン(血清アルブミンの分配係数 -0.4)
PVP K-90:ポリビニルピロリドンK-90
[0041](2)塗布方法
図5に記載の塗布機(薬剤水溶液量:4ml)を使用した。
マイクロニードルアレイの浸漬深さ:約300μm、
上記マイクロニードルアレイに、塗布後、室温下(20?25℃)で60秒間乾燥することを行った。塗布・乾燥を合計5回繰り返し、図6に示されるマイクロニードルアレイを得た。
(3)結果
これらの結果、図2に示されるように、OVAの含量が高くなれば、ビッカース硬度が上昇する(硬くなる)ことが分かった。この結果は、実施例1の結果を更にサポートする結果となっており、OVAのようなタンパク質は、薬剤組成物の硬さを向上させることが示された。
更に、ビッカース硬度と薬剤組成物の穿刺率との相関関係は、図3に示される傾向があることが分かった。即ち、ビッカース硬度が3以上になれば約90%の穿刺率を示し,10以上になれば、約95%以上の穿刺率を示した。更に、ビッカース硬度が12以上になれば、ほぼ薬剤組成物の脱落が生じないことが示された。」

以上の記載によれば、実施例2において、薬剤組成物に用いる添加剤は「PVP K-90」の一種のみであって、「混合添加剤」(構成E)ではないことから、実施例2のマイクロニードルアレイは、本願発明の実施例とはいえない。実施例2からは、国際公開第2012/057345号に記載された公知のマイクロニードルアレイに、薬剤として「リドカイン塩酸塩」及び「OVA」を、添加剤として「PVPK-90」を含有する薬剤組成物を塗布したものであって、その薬剤組成物が特定の組成物(表5における「I924-1」、「I924-2」、「I924-3」の3例)であれば、ビッカース硬度は3を超え、皮膚に穿刺すると90%を上回る穿刺率を示すこと、即ち、「マイクロニードルアレイに薬剤を塗布しても、穿刺性が低下せず、更にマイクロニードルアレイの穿刺の際にも、塗布したコーティング薬剤が剥落することなく、皮内に挿入できる」とのことが理解できるのみである。
そして、次のとおり、本願発明1が、実施例2に係る上記の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。
ア 構成Gについて
明細書には、実施例2の薬剤組成物の担持量について何らの記載がない。[0006]に「マイクロニードルアレイに担持させる薬剤の量が増加すれば、それに合わせて添加剤の量も増加するため、穿刺性が良好なマイクロニードルアレイであっても、薬剤溶液を塗布すると、マイクロニードルアレイの微小針の先端部が鈍化したり、微小針に塗付された薬剤が剥離する現象も起こってきた。」とあるように、薬剤組成物の担持量の大小がマイクロニードルアレイの穿刺性及び薬剤の剥離に大きく影響することは明らかであることを踏まえると、薬剤組成物の担持量について何らの言及のない実施例2に係る上記の記載に基づいて、本願発明1が、「薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)」という数値の全範囲において、上記発明の課題を解決できると、当業者が認識できるものとはいえない。
また、薬剤組成物のビッカース硬度が3を超えさえすれば、「薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)」という数値の全範囲において、マイクロニードルアレイの穿刺性が低下せず、更に薬剤も剥落しないことが、本願の優先権主張日前における技術常識であったものともいえない。
イ 構成Cについて
実施例2において用いられる薬剤は「リドカイン塩酸塩」及び「OVA」のみであり、その他の薬剤についての試験は見当たらない。
そうすると、「リドカイン塩酸塩」及び「OVA」以外の薬剤について何らの言及のない実施例2についての上記記載に基づき、本願発明1が、任意の薬剤を用いた薬剤組成物においても、上記発明の課題を解決できると、当業者が認識できるとはいえない。
また、薬剤組成物のビッカース硬度が3を超えさえすれば、任意の薬剤を用いた薬剤組成物において、マイクロニードルアレイの穿刺性が低下せず、更に薬剤も剥落しないことが、本願の優先権主張日前における技術常識であったものともいえない。

(2)実施例4について
明細書には、次の記載がある。
「[0045](実施例4)メトクロプラミドを含有する組成物で塗布されたマイクロニードルアレイ
(1)試剤
a)10%メトクロプラミドのヒアルロン酸組成物の溶液として、メトクロプラミド:10w/w%、ヒアルロン酸:2w/w%、水:88w/w%の水溶液を作製する。
b)10%メトクロプラミドのコラーゲン組成物の溶液として、メトクロプラミド:10w/w%、ヒアルロン酸(審決注:「コラーゲン」の明白な誤記である。):2w/w%、水:88w/w%の水溶液を作製する。
(2)塗布・評価方法
a)実施例1に準じて、ガラス板に上記a)?b)のメトクロプラミド溶液を塗布し、乾燥後、ビッカース硬度を測定する。
b)実施例2に準じて、マイクロニードルアレイに上記a)?b)のメトクロプラミド溶液を塗布し、マイクロニードルアレイの穿刺性とラット血中濃度の経時的変化を評価する。ラット血中濃度は、Wistarラット(雄性)6週令の腹部に上記2種のマイクロニードルアレイを各2個使用して穿刺する。テープでマイクロニードルアレイを腹部に固定貼付したまま0.5、1、2及び3及び5時間目に採血し,メトクロプラミドの血漿中濃度を測定する。
5時間目の採血後,マイクロニードルアレイを回収し、皮膚表面を拭き取ったキムワイプ及び回収マイクロニードルアレイから回収される、残存メトクロプラミド量を測定する。
(3)結果
メトクロプラミドのヒアルロン酸組成物とコラーゲン組成物は、良好なビッカース硬度と穿刺性を有すると共に、皮膚内にメトクロプラミドを効果的に挿入できる。」

以上の記載によれば、実施例4は、上記の「実施例2」における薬剤組成物に代えて、「メトクロプラミド」を10w/w%及び「ヒアルロン酸」を2w/w%含有した水溶液、又は、「メトクロプラミド」を10w/w%及び「コラーゲン」を2w/w%含有した水溶液を用いたマイクロニードルアレイであるところ、この2つの水溶液(薬剤組成物)で用いられる添加剤は、いずれも単独の添加剤であって「混合添加剤」(構成E)ではないことから、実施例4は、本願発明の実施例とはいえない。実施例4の2例は、良好な穿刺性を有するとのことが理解できるのみである。
そして、明細書には、実施例4で使用される薬剤組成物につき、その具体的なビッカース硬度についても、その具体的な担持量についても一切の言及がない。
[0007]に「本発明者らは、50?250μg/微小針(100本)の範囲の塗付量であれば、微小針の形状の変化が大きくないので、微小針の先端部の鈍化が大きくなく、微小針に塗付された薬剤が剥離し難いと考えた。この塗付量の範囲で、マイクロニードルアレイから脱落し難い薬剤組成物の検討を行なった。その結果、図2に示されるように、組成物の硬度(ビッカース硬度)が約3以上の場合に、マイクロニードルアレイから薬剤組成物の脱落が少なくなり、良好に皮膚内に穿刺、挿入されることを見出した。」とあるように、本願発明1における薬剤組成物の適正なビッカース硬度(構成F)と薬剤組成物の適正な担持量(構成G)とは、両者が相俟って「薬剤組成物の脱落が少なくなり、良好に皮膚内に穿刺、挿入されること」を実現するというものである。
そうすると、薬剤組成物の具体的なビッカース硬度についても、薬剤組成物の具体的な担持量についても一切の言及がない実施例4についての上記記載によっては、技術常識に照らしても、本願発明1の「マイクロニードルアレイ」が、「塗布・乾燥後の薬剤組成物のビッカース硬度が3以上」(構成F)という数値の全範囲において、かつ「薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)」(構成G)という数値の全範囲において、本願発明の課題を解決できると当業者が認識できるものとはいえない。
また、「メトクロプラミド」以外の薬剤について何らの言及のない実施例4についての上記記載に基づき、本願発明1が、任意の薬剤を用いた薬剤組成物においても、上記発明の課題を解決できると、当業者が認識できるとはいえない。

(3)実施例5、6について
明細書には、次の記載がある。
「[0046](実施例5)薬剤担持量と経皮吸収量の評価検討
約1cm^(2)に97本のマイクロニードルアレイ(針の長さ約600μm)を持つアレイを公知方法(WO2012/057345)に準じて作製し、これを用いて以下の薬剤担持量と経皮吸収量の評価試験を行なった。
(1)試剤(コーティング組成物の水溶液)
添加剤:カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCNa)F1400MC 0.5w/w% + ヒドロキシプロピルセルロース 1000-5000mPa・s 0.75w/w%
薬剤: 酢酸デスモプレシン(分配係数 -3.18) 1w/w%
水: 97.75w/w%
(2)塗布方法
図5に記載の塗布機(薬剤水溶液量:4ml)を使用した。
マイクロニードルアレイの浸漬深さ:約300μm、
上記マイクロニードルアレイに、塗布後、室温下(20?25℃)で60秒間乾燥することを行った。塗布・乾燥を合計5回繰り返し、図7に示されるマイクロニードルアレイを得た。
(3)穿刺方法
9週令のSDラット(雄性)の腹部の毛をバリカン及びシェーバーで除毛した。
図7のマイクロニードルアレイをラットの皮膚に指で押圧しテープで固定した。1時間後にマイクロニードルアレイを取りはずした。

酢酸デスモプレシンの残存量(皮膚表面の残存量とマイクロニードルアレイの付着量)を評価するため、次のように酢酸デスモプレシンの回収処理を行った。
a)皮膚表面の酢酸デスモプレシンの残存量
エタノールを含浸させたキムワイプで皮膚表面を拭き取り、皮膚から回収された薬物量をHPLCで測定した。
b)マイクロニードルアレイ表面の酢酸デスモプレシンの残存量
回収されたマイクロニードルアレイを75%メタノールに浸漬し、回収した薬物量をHPLCで測定した。
(4)結果
皮膚表面やマイクロニードルアレイの表面に付着し残存する酢酸デスモプレシンの残存量(μg)を測定した。表7に結果を示す。
[0047][表7]

(単位 μg)
[0048] 上記表7に示されるように、酢酸デスモプレシン含有コーティング組成物は、薬剤残存量から、きわめて高い利用率で皮膚下に投与できることが分かった。
[0049](実施例6)マイクロニードルアレイによる薬剤投与効果の比較評価
実施例5において、酢酸デスモプレシンの利用率を、デスモプレシンの血中濃度測定を行って確認した。
試剤
酢酸デスモプレシン塗布のマイクロニードルアレイ:実施例4の方法に準じて塗布・乾燥を行ない、酢酸デスモプレシンが約5μg担持されたマイクロニードルアレイを作製した。
(2)方法
9週令のSDラット(雄性)の腹部の毛をバリカン及びシェーバーで除毛した。マイクロニードルアレイ投与群は,酢酸デスモプレシンを塗布したマイクロニードルアレイをラットの皮膚に指で押圧して穿刺し、保護テープで状態を保持した.薬物投与後,5分,15分,30分,1時間,2時間で採血を行い,ラット血漿中の酢酸デスモプレシン濃度をHPLCで測定した.投与30分後の採血後にマイクロニードルアレイ投与群はマイクロニードルアレイを剥離し,エタノールを含浸させたキムワイプで皮膚表面を拭き取り、皮膚から回収された薬物量をHPLCで測定した.また,投与後のマイクロニードルアレイを75%メタノールに浸漬し、回収した薬物量をHPLCで測定した。
(3)結果
酢酸デスモプレシンのマイクロニードルアレイ投与によるラット血中濃度の推移は図8に示す。 また、マイクロニードルアレイ等の表面の酢酸デスモプレシンの残存量を補正すると、以下のように整理でき、AUCをまとめて以下の表8に示した。
[0050][表8]

[0051] 上記表8に示されるように、マイクロニードルアレイを皮膚に貼付後30分間で、マイクロニードルアレイに塗布された酢酸デスモプレシンの約99%が皮膚内に投与されている。しかも、図8に示されるように、酢酸デスモプレシンが血中に速やかに移行している。このように、マイクロニードルアレイを用いて効率的な皮下投与が可能であることが示された。」

以上の記載によれば、国際公開第2012/057345号に記載の公知の方法により作製されたマイクロニードルアレイ(針の本数:97本)に、薬剤として「酢酸デスモプレシン」を1w/w%、添加剤として「カルボキシメチルセルロースナトリウム」を0.5w/w%及び「ヒドロキシプロピルセルロース」を0.75w/w%含有する薬剤組成物を塗布し、これを皮膚に穿刺すると、きわめて高い利用率で薬剤を皮膚下に投与できること、すなわち、マイクロニードルアレイの穿刺性が低下せず塗布した薬剤が剥落しないとのことが理解できる。
しかしながら、明細書には、構成Fに関し、実施例5及び6のマイクロニードルアレイで用いられた薬剤組成物の具体的なビッカース硬度について何らの記載がない。
また、薬物組成物の担持量に関し、使用前のマイクロニードルアレイに担持される総量が、実施例5では、「4.67」?「5.12μg」(表7)であること、実施例6では、「約5μg」([0049])であることが示されてはいるが、実施例5、6のマイクロニードルアレイが97本の針を有することを考慮すると、当該マイクロニードルアレイは、薬剤組成物の担持量が、50?250μg/(100本の微小針当たり)」(構成G)という数値範囲を大幅に下回るマイクロニードルアレイにすぎない。
そして、上記「(2)実施例4について」で検討したように、本願発明1においては、薬剤組成物の適正なビッカース硬度(構成F)と薬剤組成物の適正な担持量(構成G)とが相俟って「薬剤組成物の脱落が少なくなり、良好に皮膚内に穿刺、挿入されること」を実現するものである。
そうすると、薬剤組成物の具体的なビッカース硬度について何らの言及がなく、また、薬剤組成物の担持量についても構成Gの数値範囲と大きくかけ離れた実施例5、6に係る上記の記載によっては、技術常識に照らしても、本願発明1の「マイクロニードルアレイ」が、「塗布・乾燥後の薬剤組成物のビッカース硬度が3以上」(構成F)という数値の全範囲において、かつ「薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)」(構成G)という数値の全範囲において、本願発明の課題を解決できると当業者が認識できるものとはいえない。
また、「酢酸デスモプレシン」以外の薬剤について何らの言及のない実施例5、6についての上記記載に基づき、本願発明1が、任意の薬剤を用いた薬剤組成物においても、上記発明の課題を解決できると、当業者が認識できるものとはいえない。

(4)各実施例のまとめ
実施例2、4?6を総合してみても、各実施例のいずれにも、構成Gの「薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)である」マイクロニードルアレイが示されていない。
そして、実施例2、4?6について摘記した上記記載以外の明細書の記載をみても、発明の詳細な説明には、「マイクロニードルアレイに薬剤を塗布しても、穿刺性が低下せず、更にマイクロニードルアレイの穿刺の際にも、塗布したコーティング薬剤が剥落することなく、皮内に挿入できるマイクロニードルアレイを提供する」という課題を解決するマイクロニードルアレイの具体例に関する記載は見当たらない。
してみると、構成Gに関し、明細書の記載全体を総合してみても、[0007]に「本発明者らは、50?250μg/微小針(100本)の範囲の塗付量であれば、微小針の形状の変化が大きくないので、微小針の先端部の鈍化が大きくなく、微小針に塗付された薬剤が剥離し難いと考えた。」との記載が一応あるだけであって、構成Gの「薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)である」ことが、構成Fの「塗布・乾燥後の薬剤組成物のビッカース硬度が3以上」であることと相俟って、どのように発明の課題を解決したのかを裏付ける具体的な記載は明細書に一切ないのであるから、技術常識を考慮したとしても、本願発明1の「マイクロニードルアレイ」が、「塗布・乾燥後の薬剤組成物のビッカース硬度が3以上」という数値の全範囲において、かつ「薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)」という数値の全範囲において、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるものとはいえない。
また、構成Fの「塗布・乾燥後の薬剤組成物のビッカース硬度が3以上」であることとマイクロニードルアレイの穿刺性についての関連を示す実施例は、実施例2のみであり、マイクロニードルアレイが良好な穿刺性を示すとされる薬剤組成物に使用される薬剤の具体例は、「リドカイン」(実施例2)、「OVA」(実施例2)、「メトクロプラミド」(実施例4)、「酢酸デスモプレシン」(実施例5、6)の4例のみであり、さらに、マイクロニードルアレイの良好な穿刺性を示すとされる薬剤組成物に使用される混合添加剤(構成E)の具体例は、「カルボキシメチルセルロースナトリウム」及び「ヒドロキシプロピルセルロース」(実施例5、6)の1例のみであるところ、仮に、特定の薬剤組成物を用いた実施例2、4?6のマイクロニードルアレイが実際に良好な穿刺性を示すものであったとしても、任意の薬剤と任意の添加剤を含有する任意の薬剤組成物を用いたマイクロニードルアレイまでもが、同様に良好な穿刺性を示す点については明細書に記載がないし、この点が本願の優先権主張日前における技術常識であったともいえない。
してみると、技術常識を考慮しても、薬剤組成物につき何らの具体的限定のない本願発明1の「マイクロニードルアレイ」が、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるものとは直ちにいえないことから、上記4例の薬剤と上記1例の混合添加剤に関する明細書の記載内容を、単なる「薬剤と添加剤を含有する薬剤組成物」(構成C)へと拡張ないし一般化できるとはいえない。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成31年1月24日付け意見書において実験データを提出し、令和1年9月19日付け意見書において、「平成31年1月24日付け意見書において提出した実験データには、本願明細書の表5に示された組成物I924-2について、薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)の範囲のマイクロニードルアレイが得られたことが立証されています。この塗布方法は、段落[0041]に記載されており、実施例5の塗布方法と同じです。すなわち、実施例5の塗布方法によれば、薬剤組成物の担持量を50?250μg/(100本の微小針当たり)の範囲で薬剤組成物をマイクロニードルアレイに塗布することが可能であることは当業者であれば理解できるものと思料いたします。さらに、提出した実験データの『B.実験結果』に示した図では、薬剤組成物の担持量が、塗布回数依存的に増加していくことが示されています。当業者であれば、この図から、薬剤組成物の組成によって回数は異なるとしても、回数を重ねれば担持量が増え、50?250μg/(100本の微小針当たり)の範囲になることは理解できるはずです。
以上より、本願の・・・特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものと思料いたします。」と主張している。
また、令和3年1月4日付け意見書において、「本願のマイクロニードルアレイを、国際公開第2012/057345号に記載されたマイクロニードルアレイと同様のものに特定しました。国際公開第2012/057345号には、「実施例7で得られたマイクロニードルアレイの針先を40%の卵白アルブミン(OVA)水溶液の薄膜に浸漬して、乾燥後のOVA量が1枚あたり50μgとなるように塗布し接種用のサンプルとした。」との記載があります(第12頁の「(評価4)薬剤投与評価」を参照のこと)。かかる記載によれば、実施例7のマイクロニードルアレイ、すなわち、97本のマイクロニードルを有する国際公開第2012/057345号の形状を有するマイクロニードルアレイであれば、50μg以上/100本塗布できることは当業者であれば理解できるものと思料いたします。したがって、本願明細書の実施例および本願出願前の技術常識を考慮すると、薬剤組成物の担持量を50μg?250μg/(100本の微小針当たり)である要件を満たす補正後の本願発明のマイクロニードルアレイはサポートされているものと思料いたします。」と主張する。
請求人の上記主張の骨子は、要するに、実施例5の塗布方法によれば、薬剤組成物の担持量が50?250μg/(100本の微小針当たり)となる範囲で薬剤組成物をマイクロニードルアレイに塗布することは可能であり、また、国際公開第2012/057345号の形状を有するマイクロニードルアレイであれば、50μg以上/100本の担持量で薬剤組成物を塗布できることは当業者であれば理解できるので、本願発明のマイクロニードルアレイはサポートされている、というものである。
なるほど、[0041]の「上記マイクロニードルアレイに、塗布後、室温下(20?25℃)で60秒間乾燥することを行った。塗布・乾燥を合計5回繰り返し、図6に示されるマイクロニードルアレイを得た。」、[0046]の「上記マイクロニードルアレイに、塗布後、室温下(20?25℃)で60秒間乾燥することを行った。塗布・乾燥を合計5回繰り返し、図7に示されるマイクロニードルアレイを得た。」等の記載を参考にしつつ、繰り返し塗布を更に重ねれば、請求人が主張するように、薬剤組成物を担持量が50μg以上/(100本の微小針当たり)となるよう塗布することも可能であるといえなくもない。
しかしながら、仮に、明細書に記載された上記実施例2、4?6のマイクロニードルアレイにおいて、薬剤組成物をその担持量が50μg以上/(100本の微小針当たり)となるように塗布可能であると理解できたとしても、明細書の発明の詳細な説明に、「塗布・乾燥後の薬剤組成物のビッカース硬度が3以上」であれば、「薬剤組成物の担持量が50μg/(100本の微小針当たり)」の場合だけでなく、担持量を250μg/(100本の微小針当たり)にまで増加させた場合であっても、「マイクロニードルアレイに薬剤を塗布しても、穿刺性が低下せず、更にマイクロニードルアレイの穿刺の際にも、塗布したコーティング薬剤が剥落することなく、皮内に挿入できる」という本願発明1の課題が解決できることを裏付ける記載のない点には、変わりがない。
よって、「本願発明のマイクロニードルアレイはサポートされている」との上記主張は採用できない。

3 小括
したがって、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
また、本願発明1について示した理由と同様の理由により、本願発明2?6も発明の詳細な説明に記載したものではない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2021-03-08 
結審通知日 2021-03-09 
審決日 2021-03-29 
出願番号 特願2014-533127(P2014-533127)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 落合 弘之家辺 信太郎  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 角田 貴章
関谷 一夫
発明の名称 薬剤組成物が塗布されたマイクロニードルアレイ  
代理人 品川 永敏  
代理人 水原 正弘  
代理人 山田 卓二  
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