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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61J |
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管理番号 | 1374232 |
審判番号 | 不服2019-16602 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-09 |
確定日 | 2021-05-12 |
事件の表示 | 特願2016-565025「服薬コンプライアンスを監視及び補助するための目立たない無線電子システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日国際公開、WO2015/168171、平成29年 8月17日国内公表、特表2017-522914〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)4月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年4月28日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。 平成31年 2月21日付け:拒絶理由通知 令和 1年 5月24日 :意見書及び手続補正書の提出 令和 1年 8月 6日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 1年12月 9日 :拒絶査定不服審判の請求、同時に手続補正書の提出 第2 令和1年12月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和1年12月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された。(下線は、補正箇所であり、当審が付与したものである。) 「【請求項1】 薬剤の服薬コンプライアンスを監視するデバイスにおいて、 機械的にフレキシブルで電気的に絶縁性であり、薬剤を収容する容器に取り付け及び適合可能な基板と、 前記基板上に形成されたセンサ及び信号処理回路を含むデータ取得ユニットであって、前記デバイスが前記容器に取り付けられた場合に、前記センサは、前記容器からの薬剤の排出の発生を電気信号に変換し、前記信号処理回路は、前記電気信号を増幅する、データ取得ユニットと、 前記基板上に形成されたプロセッサ及びメモリを含み、前記データ取得ユニットと通信して、前記増幅された電気信号を、前記容器から排出された前記薬剤の判定された排出イベントを示すデータとして処理可能なデータ処理ユニットと、 前記基板上に形成され、前記データ処理ユニットと通信して、前記処理されたデータをリモートデバイスに無線で送信可能な通信ユニットと を備えるデバイス。」 (2)本件補正前の、令和1年5月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。 「【請求項1】 薬剤の服薬コンプライアンスを監視するデバイスにおいて、 機械的にフレキシブルで電気的に絶縁性を有する材料を含み、薬剤を収容する容器に取り付け及び適合可能な基板と、 前記基板上に形成されたセンサ及び信号処理回路を含むデータ取得ユニットであって、前記デバイスが前記容器に取り付けられた場合に、前記センサは、前記容器からの薬剤の排出の発生を電気信号に変換し、前記信号処理回路は、前記電気信号を増幅する、データ取得ユニットと、 前記基板上に形成されたプロセッサ及びメモリを含み、前記データ取得ユニットと通信して、前記増幅された電気信号をデータとして処理可能なデータ処理ユニットと、 前記基板上に形成され、前記データ処理ユニットと通信して、前記処理されたデータをリモートデバイスに無線で送信可能な通信ユニットと を備えるデバイス。」 2 補正の適否について 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「基板」について、「電気的に絶縁性を有する材料を含み」とあったのを「電気的に絶縁性であり」と限定するとともに、「データ処理可能ユニット」において処理可能な「データ」について、「前記容器から排出された前記薬剤の判定された排出イベントを示す」と限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、本件補正は、同条第3項及び第4項の規定に違反するものであるともいえない。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、前記1の(1)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項及び引用発明 (2-1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2009-522031号公報(平成21年6月11日公表。以下「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある。(下線は、当審が付与したものである。以下同様。) ア 「【0008】 本発明の主要な目的は、使いやすさ、信頼性、低価格、小型化、有効性、および精度の観点から、公知の遵守モニタおよび監視方法の不利点および欠陥を克服する、新規の服薬遵守監視システムおよび方法を提供することである。」 イ 「【0012】 発明者らは、薬剤投与計画に対する患者の遵守を監視するための服薬遵守監視システムに対する改良システムを発見した。これらのシステムは、薬剤の単位用量が患者に投薬されるたびに信号を提供する検出器を含む。またこれらの信号を、格納形式、送信形式または送信可能形式、患者情報の機密性を保証するために必要に応じた暗号化、などの、より有用な形式に処理するプロセッサを含む。発明者らは、検出器およびプロセッサを一体型システムとして物理的に支持し、信号を検出器からプロセッサへ伝導する可撓性基板を含むことによって、これらのシステムが改良されることを見いだした。 【0013】 かくして、一形態では、本発明のシステムは、単位用量が患者に投薬されるたびに信号を生成するための検出器と、生成された信号に応じて動作可能な信号プロセッサとを含む。また、これらのシステムは、検出器とプロセッサとを一体型構造に物理的に支持し、信号を検出器からプロセッサへ伝導する、可撓性基板を含む。これらのシステムにおいて採用される代表的信号プロセッサは、以下のうちの少なくとも1つを含む。すなわち、a)信号をその信号が生成された時に関連する時間情報と共に格納するためのメモリ、b)信号に関連する情報をシステムから離れた位置に送信するための送信機、c)生成された信号に基づいて、患者への単位用量の投薬、および/または検出された投薬イベントの関連する特定の投与計画に対する患者の遵守に関する情報を、患者に提供するためのディスプレイまたは可聴アナンシエータなど。これらのシステムはまた、検出器および/または他の信号処理構成要素に電力を供給する電源を含む。他のセンサおよび入力装置が、追加として可撓性伝導基板上に存在し、それによって一体型構造に統合され得る。 【0014】 可撓性基板によって伝導される信号は、電気または光信号であり得る。電気信号の場合には、一体型基板は、好ましくは、可撓性導電ポリマーのような、1つ以上の可撓性導電有機材料から成り、またはこれを含有し、または採用する。光信号の場合には、可撓性基板は、好ましくは、光導波路を含み、好ましくは、導光ポリマーのような可撓性導光有機材料から成るが、しかしまた、石英またはガラス繊維のような導光無機材料から成ることも可能であり、またしばしば、有機層または被膜の組み合わせも可能である。」 ウ 「【0016】 好ましい一実施形態では、可撓性伝導基板を備えた一体型服薬監視システムは、基板の可撓性によって、単位用量が投薬される薬剤の容器の外形に適合可能な、ラベルの形態をとることが可能である。本ラベルは、実質的な高さおよび幅を有するが、厚さはあまり有しない、本質的に二次元形状であり得る。そのようなラベル形式の可撓性監視システムは、一般的に、片面には特徴的に書かれた(すなわち、印刷された)ラベリング情報を、裏面には薬剤容器に貼付するための接着剤層を含有し、一体型システムを形成するラベル本体内に伝導体を含む。」 エ 「【0019】 プロセッサ14は、インターフェース24によって受信される、検出器4、6などからの光または電気信号を継続的または周期的に監視し、これらの信号のうちの1つ以上に変化が検出されるときには、その変化は、可撓性基板12のまた一部でもある伝導体30を介して、中央処理装置26に送信される。中央処理装置26は、可撓性基板伝導体34、34’、および34”などを介して時間管理回路32から取得される、検出された信号に付随する適切な時刻を読み取り、投薬イベントに関連するこの時間情報はメモリ28内に格納される。・・・」 オ 「【0024】 一実施形態では、例えば、可撓性基板12に組み込まれる16、18、34、42、42’、および42”などの伝導性トレースは、Baytron(登録商標)として販売されている伝導性有機ポリマーのような、導電有機材料を使用して実装される。 【0025】 この用途における伝導性ポリマーの利点は、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷、またはオフセット印刷のような、公知の費用対効果に優れた印刷技術によって、可撓性基板の中または上に堆積およびパターニングされ得ることである。代替案として、回路は、伝導性ポリマーの薄膜シートから型抜きすることが可能である。」 カ 「【0028】 図4を参照すると、本発明の一体型システム400が、可撓性ラベルとして具現化される。可撓性伝導基板をベースとするこのラベルは、錠剤ボトルまたはバイアル、吸入投薬器などのような、薬剤投与容器への貼付に適している。システム400では、ラベル本体は、図1の記述におけるものに対して列挙された特性および構成要素の多くを有する、可撓性基板12によって画定される。システム400は、1回量の薬剤が患者に供与されるときに信号を生成する、薬剤投薬イベント検出器62をさらに含む。この信号は、本明細書において概略的に上述されたように、可撓性基板12において具現化される伝導体64および66を介して、服用量検出器インターフェース68へ、次いでプロセッサの残りの部分へ送信される。服用量検出器62は、服用量供与を記録するための前述の多くの種類のうちの任意の装置であり得る。この検出は、ラベルが貼付された薬剤投与容器の中味の変化を伴う、静電容量、抵抗、光透過率などの変化を記録することによって、直接的に実行され得る。直接的な検出の他の形態では、容器からの製剤剤形の通過に基づいて、信号が検出され得る。代替案として、検出器は、推測的または間接的に、製剤の剤形の供与を記録することが可能である。間接的または推測的検出は、容器の開放または開閉を記録することによって、あるいは容器などの素早い反転のように、投薬を示す容器の取り扱いを記録することによって、行われ得る。」 キ 「【0031】 好ましい実施形態では、可撓性基板上に取り付けられる電気および光電子回路の一部または全部は、有機伝導体および/または有機半導体を利用する。」 ク 「【0038】 また、システムは、中央処理装置が薬剤除去イベントを情報検索および再送信システムに通信可能とするための、無線通信モジュールを含み得る。このプロセスは、無線周波数または光リンクとして、選択的にはテレビのリモコンで公知の赤外線を使用して、実装される。」 ケ「【図4】 」 (2-2)上記(2-1)の記載事項及び図示事項から、次のことがいえる。 上記記載事項ア及びカと、図示事項ケとを併せてみれば、引用文献記載の発明のシステムは、服薬遵守監視システムであって、当該システム400を具現化する可撓性ラベルのベースとなる可撓性伝導基板12は、薬剤投与容器への貼付に適しており、また、伝導体64、66を有するものといえる。 また、システム400は、薬剤投薬イベント検出器62を含み、該薬剤投薬イベント検出器62は、1回量の薬剤が患者に供与されるときに信号を生成し、その信号は、可撓性伝導基板12において具現化される伝導体64、66を介して、服用量検出器インターフェース68に送信されるものであるから、システム400は、薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68を含み、該薬剤投薬イベント検出器62は、1回量の薬剤が患者に供与されるときに信号を生成し、その信号を服用量検出器インターフェース68に送信するといえる。 上記記載事項エ及びカを併せてみると、プロセッサ14は、服用量検出器インターフェース68によって受信される薬剤投薬イベント検出器62からの電気信号を監視し、この信号に変化が検出されるときには、その変化は、1回量の薬剤が患者に供与されたことを示す情報として、伝導体30を介して、中央処理装置26に送信され、当該信号に付随する時間情報とともにメモリ28内に格納されるものと解されるから、中央処理装置26は、薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68と通信して、信号を、1回量の薬剤が患者に供与されたことを示す投薬イベントとしてメモリ28に格納するといえる。 図示事項ケから、薬剤投薬イベント検出器62と、服用量検出器インターフェース68と、中央処理装置26と、メモリ28とは、可撓性伝導基板12に配置されているといえる。 上記記載事項クによれば、システムは、中央処理装置が薬剤除去イベントを情報検索および再送信システムに通信可能とするための、無線通信モジュールを含むものであり、図示事項ケを併せみれば、無線通信モジュールは、可撓性伝導基板12に配置され、中央処理装置26及びメモリ28と通信して、メモリ28に格納されたデータを情報検索および再送信システムに無線で送信可能であるといえる。 (2-3)上記(2-1)、(2-2)を踏まえると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「服薬遵守監視システムにおいて、 伝導体64、66、30を有し、薬剤投与容器への貼付に適している可撓性伝導基板12と、 前記可撓性伝導基板12に配置された薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68であって、前記服薬遵守監視システムが前記薬剤投与容器に貼付され、前記薬剤投薬イベント検出器62は、前記薬剤投与容器から1回量の薬剤が患者に供与されるときに信号を生成し、その信号を服用量検出器インターフェース68に送信する薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68と、 前記可撓性伝導基板12に配置された中央処理装置26及びメモリ28を含み、前記薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68と通信して、前記信号を、1回量の薬剤が患者に供与されたことを示すデータとしてメモリ28に格納する中央処理装置26及びメモリ28と、 前記可撓性伝導基板12に配置され、前記中央処理装置26及びメモリ28と通信して、前記メモリ28に格納されたデータを情報検索および再送信システムに無線で送信する無線通信モジュールと、 を備える服薬遵守監視システム。」 (3)対比・判断 本件補正発明と引用発明を対比する。 引用発明の「服薬遵守監視システム」は、その機能または構造からみて、本件補正発明の「薬剤の服薬コンプライアンスを監視するデバイス」に相当し、以下同様に、「薬剤投薬イベント検出器62」は「センサ」に、「服用量検出器インターフェース68」は「信号処理回路」に、「中央処理装置26」は「プロセッサ」に、「メモリ28」は「メモリ」に、「情報検索および再送信システム」は「リモートデバイス」に、「無線通信モジュール」は「通信ユニット」に、それぞれ相当する。 また、本件補正発明の「機械的にフレキシブルで電気的に絶縁性であり、薬剤を収容する容器に取り付け及び適合可能な基板」と引用発明の「伝導体(64,66,30)を有し、薬剤投与容器への貼付に適している可撓性伝導基板12」とは、「機械的にフレキシブルであり、薬剤を収容する容器に取り付け及び適合可能な基板」であるかぎりにおいて一致する。 引用発明は、服薬遵守監視システムが薬剤投与容器に貼付され、薬剤投薬イベント検出器62は、薬剤投与容器から1回量の薬剤が患者に供与されるときに信号を生成し、その信号を服用量検出器インターフェース68に送信するものであるところ、薬剤が患者に供与されるときの信号は、薬剤投与容器からの薬剤の排出の発生を意味する電気信号であることは明らかであり、また、服用量検出器インターフェース68は、その電気信号を薬剤投薬イベント検出器62から送信されることでデータとして取得するといえるから、引用発明の薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68は、本件補正発明の「データ取得ユニット」を構成するものと解するのが相当であり、そうすると、引用発明の「前記可撓性伝導基板12に配置された薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68であって、前記服薬遵守監視システムが前記薬剤投与容器に貼付され、前記薬剤投薬イベント検出器62は、前記薬剤投与容器から1回量の薬剤が患者に供与されるときに信号を生成し、その信号を服用量検出器インターフェース68に送信する薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68」は、本件補正発明の「前記基板上に形成されたセンサ及び信号処理回路を含むデータ取得ユニットであって、前記デバイスが前記容器に取り付けられた場合に、前記センサは、前記容器からの薬剤の排出の発生を電気信号に変換する、データ取得ユニット」に相当するといえる。 また、引用発明は、薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68と通信して、信号を、1回量の薬剤が患者に供与されたことを示すデータとしてメモリ28に格納するものであるところ、1回量の薬剤が患者に供与されたことを示すデータは、薬剤投与容器から排出された薬剤の判定された排出イベントを示すデータであることは明らかであり、また、中央処理装置26は、そのデータをメモリ28に格納する処理を行うといえるから、引用発明の中央処理装置26及びメモリ28は、本件補正発明の「データ処理ユニット」を構成するものと解するのは相当であり、そうすると、引用発明の「前記可撓性伝導基板12に配置された中央処理装置26及びメモリ28を含み、前記薬剤投薬イベント検出器62及び服用量検出器インターフェース68と通信して、前記信号を、1回量の薬剤が患者に供与されたことを示すデータとしてメモリ28に格納する中央処理装置26及びメモリ28」は、本件補正発明の「前記基板上に形成されたプロセッサ及びメモリを含み、前記データ取得ユニットと通信して、」「信号を、前記容器から排出された前記薬剤の判定された排出イベントを示すデータとして処理可能なデータ処理ユニット」に相当するといえる。そして、本件補正発明の「増幅された電気信号」と引用発明の「信号」とは、「薬剤の排出に係る信号」である点で共通する。 また、引用発明の「前記可撓性伝導基板12に配置され、前記中央処理装置26及びメモリ28と通信して、前記メモリ28に格納されたデータを情報検索および再送信システムに無線で送信する無線通信モジュール」は、本件補正発明の「前記基板上に形成され、前記データ処理ユニットと通信して、前記処理されたデータをリモートデバイスに無線で送信可能な通信ユニット」に相当するといえる。 そうすると、両者は、 「薬剤の服薬コンプライアンスを監視するデバイスにおいて、 機械的にフレキシブルであり、薬剤を収容する容器に取り付け及び適合可能な基板と、 前記基板上に形成されたセンサ及び信号処理回路を含むデータ取得ユニットであって、前記デバイスが前記容器に取り付けられた場合に、前記センサは、前記容器からの薬剤の排出の発生を電気信号に変換する、データ取得ユニットと、 前記基板上に形成されたプロセッサ及びメモリを含み、前記データ取得ユニットと通信して、薬剤の排出に係る信号を、前記容器から排出された前記薬剤の判定された排出イベントを示すデータとして処理可能なデータ処理ユニットと、 前記基板上に形成され、前記データ処理ユニットと通信して、前記処理されたデータをリモートデバイスに無線で送信可能な通信ユニットと を備えるデバイス。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 「機械的にフレキシブルであり、薬剤を収容する容器に取り付け及び適合可能な基板」について、本件補正発明では、「電気的に絶縁性であ」るのに対し、引用発明では、電気的に絶縁性であるかどうか不明な点。 [相違点2] 本件補正発明では、信号処理回路は電気信号を増幅するのに対し、引用発明では、服用量検出器インターフェース68は信号を増幅しておらず、さらに、このことに関連して、「薬剤の排出に係る信号」が、前者では、増幅された電気信号であるのに対し、後者では、信号である点。 まず、相違点1について検討する。 基板に伝導体を配置することにより電子回路を構成するにあたり、その基板部分を電気的に絶縁性とすることは、本願の優先日における周知の技術事項である(必要であれば、「監視式製品ディスペンサ」を開示する特表平8-501013号公報の第27ページ第13-15行「センサシートの導電性回路は、絶縁性基板にシルクスクリーン加工その他の方法で塗布された導電性インクまたは接着剤からなっていてもよい。」との記載を参照。)。したがって、引用発明において当該周知の事項を適用し、基板として電気的に絶縁性のものを用いるよう構成することは、当業者であれば適宜なし得た設計事項というべきである。 次に、相違点2について検討する。 本願の優先日前に頒布され、原審の平成31年2月21日付け拒絶理由通知において周知の事項を示す文献として提示した国際公開第2013/127564号の段落[0002]には、「More particularly, the present invention is in the technical field of medication compliance and health monitoring systems.」(より詳細には、本発明は、服薬遵守及び健康管理システムの技術分野に属するものである。)と、[0004]には、「The goal of the invention described in this document is to provide a drug compliance system, preferably portable,」(本明細書に記載する本発明の目的は、好ましくは携帯式の薬剤コンプライアンスシステムを提供する・・)と、[0028]には、「The system monitors medicine consumption through a weight sensor 709 featuring sub-milliNewton resolution to detect the remaining drug 712 or the remaining medication 712 in the medication container (e.g. pill bottle, vial box, pill organizer).」(このシステムは、ミリニュートンの分解能を持つ重量センサ709により、薬剤容器(例えば、薬瓶、薬箱、薬剤オーガナイザ)中に残っている薬剤712を検出し、医薬品の消費を監視する。)と、[0030]には、「The medication container holder is attached to the force sensor 709. The force sensor 709 is used to measure the weight of the medication container 710 including the weight of the medication 712.」(薬剤容器ホルダは、力センサ709が取り付けられている。力センサ709は、薬剤712の重量を含む薬剤容器710の重量を測定するために使用される。)と、[0036]には、「The weight of the medication container 710 with the medication 712 create a deflection of the elastic elements 717. This deflection is measured by capacitor electrodes as a change of the air gap between the capacitor plates or as a change of the overlapping area of the capacitor plates.」(薬剤容器710と薬剤712の重量は、弾性要素717の偏向を生じさせる。この偏向は、コンデンサプレートの間の空気ギャップの変化として、またはコンデンサプレートの重なり面積の変化として、容量電極により測定される。)と、[0041]には、「To measure the change of electrical capacitance, interface electronics as shown in Figure 4 can be used to transduce and amplify the capacitance signal into an analog or a digital output signal Vout.」(静電容量の変化を測定するために、図4に示すように、インタフェース電子回路は、静電容量信号をアナログまたはディジタル出力信号Voutに変換し増幅するために使用することができる。)と、それぞれ記載されている。 この例示に従えば、服薬遵守の技術分野において、服薬遵守のためのシステムが用いる電気信号を増幅して用いることは、本願の優先日前周知の事項であるといえる。そして、引用発明の服薬遵守監視システムにおいて、薬剤投薬イベント検出器が検出した電気信号を、その送信前に、送信先の中央処理装置26において取扱いに適した状態の信号としておくべきことは、内在する課題であるといえるから、引用発明において上記周知の技術を参酌し、薬剤投薬イベント検出器が検出した信号を中央処理装置26に送信する前に増幅する信号処理を行うよう構成することは、当業者であれば適宜なし得たことといえる。 してみると、引用発明について、上記相違点1、2における本件補正発明に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。 そして、これらの相違点を勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知の事項の奏する作用効果から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 よって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3 むすび 本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の各請求項に記載の発明は、令和元年5月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?30に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載の発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1の(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、上記引用文献及び上記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載事項は、前記第2の[理由]2の(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明における「基板」について、「電気的に絶縁性であり」との特定に代えて、「電気的に絶縁性を有する材料を含み」と特定するとともに、「データ処理可能ユニット」において処理可能な「データ」について、「前記容器から排出された前記薬剤の判定された排出イベントを示す」との限定事項を削除したものに相当する。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに、「基板」は「電気的に絶縁性である」と特定するとともに、「データ処理可能ユニット」において処理可能な「データ」について、「前記容器から排出された前記薬剤の判定された排出イベントを示す」と限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2の(3)に記載したとおり、引用発明及び上記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び上記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-12-03 |
結審通知日 | 2020-12-08 |
審決日 | 2020-12-21 |
出願番号 | 特願2016-565025(P2016-565025) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61J)
P 1 8・ 575- Z (A61J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小野田 達志、家辺 信太郎 |
特許庁審判長 |
高木 彰 |
特許庁審判官 |
栗山 卓也 角田 貴章 |
発明の名称 | 服薬コンプライアンスを監視及び補助するための目立たない無線電子システム |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 松丸 秀和 |