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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1374313
審判番号 不服2020-1351  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-31 
確定日 2021-05-21 
事件の表示 特願2017-150532「新規の組成物、ならびに5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールおよびトリアゾールオロチン酸塩製剤を調製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月16日出願公開、特開2017-203038〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概要
この出願は、2010年9月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年9月4日及び2010年9月3日 何れも米国(US))を国際出願日とする特願2012-527868号の一部を、平成27年11月2日に新たな特許出願とした特願2015-215891号の一部を、平成29年8月3日に新たな特許出願としたものであって、出願後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

平成29年 9月 4日 手続補正書・上申書の提出
平成30年10月11日付け 拒絶理由通知
平成31年 4月15日 意見書の提出
令和 1年 9月20日付け 拒絶査定
令和 2年 1月31日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書の提

同年 3月18日 手続補正書(方式)の提出
同年 9月30日 上申書の提出
同年10月28日 上申書の提出

第2 令和2年1月31日提出の手続補正書でした手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年1月31日提出の手続補正書でした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の
「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドの1型多形体であって、
図3に実質的に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、
塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体。
図3
【化1】

」との記載を、
「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドの1型多形体であって、
図3に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、
塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体。
図3
【化1】

」(下線は、補正箇所であり当審が付与。)との記載に補正することを含む。

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「図3に実質的に示されるX線回折パターン」について、「実質的に」との事項を削除し、「図3に示されるX線回折パターン」とすることで、X線回折パターンを限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、
「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドの1型多形体であって、
図3に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、
塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体。
図3
【化1】

」である。

(2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
ア はじめに
以下の観点に立って、検討する。
物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいう(特許法第2条第3項第1号)から、特許法第36条第4項第1号の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その物を生産することができ、かつ、その物を使用できることである。したがって、実施可能要件を満たすためには、物の発明については、明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を生産することができ、かつ、その物を使用できることが必要である。

イ 発明の詳細な説明及び図面の記載
本願の発明の詳細な説明及び図面(以下「本願明細書等」という。)には、以下の記載がある。

(ア)技術分野、従来技術及び発明の目的についての記載
「【0002】
技術分野
本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体(カルボキシアミドトリアゾールまたはCAIと本明細書において称される)の新規化学化合物、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩に加えてその置換誘導体(定義された塩基:酸比で、CTO)の製剤、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩に加えてその置換誘導体およびオロチン酸(定義された塩基:酸比で、CAO)の製剤に関し、CAIおよびオロチン酸塩製剤(CTOおよびCAO)のための合成経路において必要な中間体アジド物質を合成するために、安定したより効果的でより安全な出発物質を使用することによる、それらの調製のより安全な方法に関する。より詳細には、本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体の新規多形体に関する。さらにより詳細には、本発明は、新規の5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩(範囲1:1?1:4の最適の塩基:酸比のCTO)に加えて、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体および1:1?1:4の最適の塩基:酸比のオロチン酸(CAO)の製剤に関し、固形癌、黄斑変性症、網膜症、慢性骨髄性白血病、AIDS、ならびに異常なシグナル伝達および増殖に依存する疾患を含むが、これらに限定されない疾患の制御および治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)に加えてその置換誘導体の新規多形体、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールのオロチン酸塩に加えてその置換誘導体、ならびに5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体およびオロチン酸(塩基:酸の最適比で)の製剤の開発の分野である。本発明の目的は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体の新規多形体を開発して、化学的、生物学的、薬物動態学的、および毒素動態学的な特性を改良すること、ならびに抗癌活性、抗転移作用、カルシウム媒介性シグナル伝達、抗血管新生、抗PI3、抗COX2、アポトーシス、慢性骨髄性白血病におけるBCR-ABLタンパク質のダウンレギュレーション、HIV LTR転写の調節または抗VEGF1の特性を含むが、これらに限定されない治療的性質を改良することである。
【0004】
1986年に、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール化合物に加えてその置換誘導体は、抗コクシジウム活性を有することが示された。R.J. Bochis et el., 1986に帰属する米国特許第4,590,201号は、経路における1つの重要な中間体(3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジド)を合成するために、アジ化ナトリウムの使用を含む、5-アミノ-1-(4-[4-クロロベンゾイル]-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4カルボキサミド(L651582またはCAI)を調製する方法を記載する。続いて、L651582またはCAIは、カルシウム流入、アラキドン酸の放出およびイノシトールリン酸の生成を含む経路を含む、選択されたシグナル伝達経路を阻害することが示された。E. C. Kohn et al, 1994に帰属する米国特許5,359,078。「L651582」は、本明細書において使用される時、L6515182、CAI、カルボキシアミドトリアゾール、NSC 609974、または先行技術において記載された99519-84-3を表わす。
【0005】
次いで、F. Wehrmann, 1999に帰属する米国特許第5,912,346号は、L651582の無機塩および有機塩を記載し、特にL651582のオロチン酸塩を調製する方法を記載した。L651582は米国特許第4,590,201号において記載された方法によって調製された。プロトンNMRによって特徴づけられるように、L651582:オロチン酸塩は2:1(塩基:酸)の比であり、融点は234?235℃であった。上記のように、中間体3-(4-クロロベンゾイル)-4-コロルベンゾイル(cholorbenzyl)アジドの合成は、エタノール中の中間体3-(4-クロロベンゾイル)-4-クロロベンゾイルブロミドおよびアジ化ナトリウムを使用して実行された。米国特許第5,912,346号は、ラットのアンドロゲン非依存性ダニングR-3227-AT-1前立腺癌モデルにおいて、L651582の相当用量の抗腫瘍活性と比較して、L651582オロチン酸塩(CAIオロチン酸塩、塩基:酸、2:1)の抗腫瘍活性が改良されたことを記載した。
【0006】
カルシウム媒介性シグナル伝達の阻害剤である、カルボキシアミドトリアゾール、L651582、CAI、NSC 609974または99519-84-3は、最初に見出された細胞静止性のシグナル阻害性抗癌薬の1つである。この薬物を、National Cancer Instituteで、フェーズI、フェーズIIおよびフェーズIIIの治験において固形癌を患う患者で試験した。しかしながら、ヒト試験における有効性の実証に失敗し、ならびに/または低生体利用率、重篤な胃腸毒性、神経毒性、および治療的効果を達成する至適投薬を妨げる耐容性の問題が起こったので、NCIはL651582の開発を中止した。PEG-400中のL651582の微粉化製剤のカプセル剤は、薬の生体利用率を改良するために臨床試験において使用された。Kohn EC et al., Clinical Cancer Res 7:1600-1609 (2001); Bauer KS et al., Clinical Cancer Res 5: 2324-2329 (1999); Berlin J et al., J Clin Onc 15: 781-789 (1997); Berlin J et al., Clinical Cancer res 8: 86-94 (2002); Yasui H et al., J Biol Chem 45:28762-28770 (1997); Alessandro R et al., J Cell Physiol 215: 111-121 (2008)。
【0007】
それゆえ、米国特許第5,912,346号中で記載されるL651582オロチン酸塩(塩基:酸2:1)は、前臨床試験に基づいて、その有効性を改良することによって、この有望な薬(L651582)を救う可能性のある方法を示した。しかしながら、米国特許第5,912,346号中で記載される方法に従ってバルク量でL651582オロチン酸塩(2:1比)を調製する方法は、スケールアップで問題が起こった。
【化1】

【0008】
薬の鎮痛効果の強化におけるオロチン酸の使用に関して、Wawretschek W et al, 1977に帰属する米国特許第4,061,741号は、オロチン酸コリンと組み合わせた、デキストロプロポキシフェン-HCl、レボプロポキシフェン-HClまたはサリチル酸ナトリウムの使用を記載し、オロチン酸コリンと組み合わせた製剤が最も優れた効果を生じたと結論した。明らかに、先行技術は、化学化合物とオロチン酸結合の比率および化学的性質について矛盾する教示を提示する。
【0009】
L651582オロチン酸塩のための先行技術中で記載された合成スキームは、上記の反応スキームIにおいて示される。858は生産物識別子であり、例えば858A?858Dは中間体を示す。858Eはカルボキシアミドトリアゾール(CAI)を示す。858Fは、カルボキシアミドトリアゾール:オロチン酸もしくはカルボキシアミドトリアゾール:オロチン酸塩、または本明細書において定義されるようなCTOを示す。
【0010】
先行技術教示は、好ましい実施形態である、薬物と組み合わせたオロチン酸コリンの使用を示唆した。残念なことに、これは、臨床開発のためのCTOの生産をスケールアップするという、本発明における問題を扱わなかった。L651582オロチン酸塩(2:1)における塩基:酸比が薬物に至適の化学構造であるかどうかは明らかではなかった。さらに、大量に製造するためにL651582オロチン酸塩(2:1)の生産をスケールアップする場合に問題が生じた。バルク量のアジ化ナトリウムを扱うのに必要とされる装置および施設を有する製造業者はほとんどおらず、施設を有する請負者は高い手数料を請求した。
【0011】
TBDMSエーテル工程(工程1)として、3,5-ジクロロベンジルアルコール中のアルコール基の保護の後に、エーテルを4-クロロベンゾイルクロライドと反応させて置換ベンゾフェン(benzophene)を形成する(工程2)。ベンゾフェンを塩化チオニルで処理し(工程3)、次いでアジ化ナトリウムで処理し(工程4)、3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジドを形成した。このアジドのシアノアセトアミドとの反応はL651582を生産する(工程5)。L651582のオロチン酸との反応はL651582オロチン酸塩(2:1)を形成する(工程6)。
【0012】
工程4における上記の方法におけるアジ化ナトリウムの使用は、大量のL6515182オロチン酸塩の生産のスケールアップにとっての深刻な短所であった。アジ化ナトリウムは高エネルギー含有危険物質があるので、大量のアジ化ナトリウムの取り扱いは特別の感圧性の反応器中で行わなければならない。方法を薬物のバルク量へとスケールアップする能力を有する薬物製造業者はほとんどないので、アジ化ナトリウムを扱うのに必要とされる特別の封じ込め施設は製造コストを概して増加させた。これは、アジ化ナトリウムは、無臭の白色固体として存在し、急速に作用して致命的な可能性のある化学物質だからである。アジ化ナトリウムは水または酸と混合した場合に刺激臭を持つ有毒ガスへ急速に変化する。アジ化ナトリウムは、固体金属に接した場合も有毒ガスへと変化する。深刻なアジ化ナトリウム中毒の生存者は心臓および脳の損傷を受ける可能性があるので、犠牲者は疾病対策予防センターのホットラインへ直ちに連絡することが推奨される。(CDC - Facts About Sodium Azide, 2009)。明らかに、アジ化ナトリウムを使用せずにL651582オロチン酸塩を調製する、より安全で新しい手頃で効果的な方法を開発する必要性があった。上で示されるように、アジ化ナトリウム(工程4)が、L651582オロチン酸塩のための合成経路における3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジド(中間体)の調製において必要とされたので、手頃な費用で競争入札は不可能だった。それゆえ、至適の化学的立体配置および塩基:酸比を持つオロチン酸薬物を調製する代替のより安全でより効果的な方法を開発することが必要であった。本発明は、これらの欠点を克服しようとするものである。
【0013】
L651582オロチン酸塩(orotate)が前立腺癌ラットモデルにおいて有意に高い抗腫瘍活性を有することが実証されたにもかかわらず(米国特許第5,912,346号)、2:1の塩基:酸比でのL651582オロチン酸塩の化学的、薬理学的および生物学的特性が至適だったかどうかに関する教示または示唆はなかった。明らかに、臨床開発を正当なものとするために、至適の化学的、生物学的、薬理学的、治療的、および毒素動態学的な特徴を提供する、CAIおよびCAIのオロチン酸化合物(orotate compound)の新規多形体を開発する必要性がある。
【0014】
従って、本発明の主要な目的は、生体利用率に関連しそして人体体液中での可溶性に依存する実効性を改良したCAIのオロチン酸製剤(塩基:酸比は1:1?1:4の範囲である)を開発することである。
【0015】
本発明の別の目的は、バルク量のCAI、CTO(CAIのオロチン酸塩として)およびCAO(オロチン酸と混合したCAIの製剤として)を生産するためにより安全でよりコスト効率の良い方法を開発することである。
【0016】
本発明の重要な目的は、中間体を生産するために、非常に低い濃度で高毒性のアジ化ナトリウムまたはアジ化カリウムを使用する代わりに、より安全でより毒性の低い成分を使用することによってより安全なCAIを製造することである。先行技術中で記載された方法によって生産されたCAIは、患者において深刻な神経毒性および胃毒性を引き起こすことが見出されている。それゆえ、より安全な成分の使用は重要であり、生産のための改良された方法はCAIおよびそのオロチン酸製剤の新規多形体の生産ももたらした。」

(イ)発明の概要についての記載
「【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体(カルボキシアミドトリアゾールまたはCAIとして本明細書において称される)の新規多形体の組成物;5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩に加えてその置換誘導体(定義された塩基:酸比で、CTO)の製剤;ならびに5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩に加えてその置換誘導体およびオロチン酸(定義された塩基:酸比で、CAO)の製剤の提供によって、先行技術に固有の欠点の克服を求める。
【0019】
本発明は、CAIおよびオロチン酸塩製剤(CTOおよびCAO)のための合成経路において必要な中間体アジド物質を合成するために、安定したより効果的でより安全な出発物質を使用することによる、それらの調製のより安全な方法を提供する。
【0020】
より詳細には、本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)に加えてその置換誘導体の新規多形体に関する。CAIは、1型または2型を含むが、これらに限定されない複数の多形型で存在する。
【0021】
本発明は、さらにより詳細には、新規の5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩(範囲1:1?1:4の至適塩基:酸比でのCTO)に加えて、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体および至適塩基:酸比でのオロチン酸(CAO)、オロチン酸塩(CTO)に加えてその置換誘導体の製剤に関する。
【0022】
別の態様において、本発明は、アジ化ナトリウムまたはアジ化カリウムの代わりに、ジフェニルホスホルイルアジドまたはトリメチルシリルアジド(TMSN_(3))を含むが、これらに限定されない、安定したより安全で手頃な出発物質の使用によって、合成経路において必要な中間体アジド物質を調製する方法に関する。
【0023】
より詳細には、本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体、それらのオロチン酸誘導体(CTO)(1:1?1:4の範囲の塩基:酸比)の新規の多形体に関し、固形癌、黄斑変性症、網膜症、慢性骨髄性白血病、AIDS、ならびに電位非依存性カルシウムチャネルブロッカー、PI3、COX2、BCR-ABL、アポトーシス、HIV LTR転写またはVEGF1等の異常なシグナル伝達および増殖経路に依存する疾患を含むが、これらに限定されない疾患の治療におけるそれらの使用に関する。
【0024】
前述の最先端技術の見解において、本発明は、生体利用率の増加、標的への送達、抗腫瘍効果、および毒性の減少を行う化学的有機モイエティをその中に含む、新規の5-アミノもしくは置換アミノ1,2,3-トリアゾールのオロチン酸塩誘導体、またはカルボキシアミドトリアゾールオロチン酸塩(CTO)を提供する。具体的には、約1:1?1:4(トリアゾール:オロチン酸)の範囲の比でイオン結合を有する1つのクラスのカルボキシアミドトリアゾールオロチン酸塩(CTO)は、本発明の新規化合物を構成する。
【0025】
5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)に加えてその置換誘導体およびオロチン酸(定義された塩基:酸比、1:1?1:4で、CAO)の製剤
【0026】
別の態様において、本発明は、アジ化ナトリウムを使用しないが、その代りにジフェニルホスホルイルアジド(DPPA)もしくはTMN_(3)、またはより安全なアジド同等物を使用する、アジド中間体3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジドの調製のための方法を提供する。DPPAはアジ化ナトリウムよりも有意に安全であり、アルコールを直接アジドに転換するのに使われており、それゆえCTOのための合成経路における工程(上で略述したスキームにおける工程3)を除去する。
【0027】
本発明の別の目的は、ヒトおよび他の哺乳類において経口的にまたは他の経路によって与えられた場合のCTOの生体利用率を増加させること、ならびに例えば組織、血液脳関門および脈絡膜網膜複合体を介する吸収、送達および輸送を改良することによって、標的へのCTOの送達を改良することである。
【0028】
本発明のなお別の目的は、血液、組織および器官からの薬物のクリアランスを増加させることによって、オロチン酸塩として投与された場合にCTOおよび関連化合物の毒性を減少させることである。
【0029】
本発明は、CTOまたはオロチン酸(CAO)と組み合わせたCAIが製剤として投与される場合に薬物相互作用および副作用を減少させるためにさらに使用することができる。
【0030】
本発明の別の目的は、ヒト新生物、ならびに特に、原発性腫瘍または転移性腫瘍、黄斑変性症等の血管新生を含む疾患、網膜症、糖尿病性網膜症、慢性骨髄性白血病、AIDSおよび電位非依存性カルシウムチャネル遮断剤、PI3、COX2、BCR-ABL、アポトーシス、HIV LTR転写またはVEGF1等の異常なシグナル伝達および増殖経路に依存する疾患を治療するために、ならびに薬物毒性の敏感な標的である非癌組織の薬物のレベルを低下させることによる薬物の毒性の副次的効果を、L651582またはCAIを与えることと比較した場合、10%?100%まで減少させるために、CTOの組成物を提供することである。
【0031】
本発明の好ましい実施形態は1:1(塩基:酸)の比で、より好ましい実施形態は比1:2でCTOを含み、本発明の最も好ましい実施形態は、本発明の新規方法によって調製されたCTOの組成物を(約0.7:1.3の比で)、固形癌、黄斑変性症、網膜症、慢性骨髄性白血病を含むが、これらに限定されない疾患の治療、およびPI3、COX2、BCR-ABL、STATS、CrkL、アポトーシス、HIV LTR転写、VEGF1または他のもの等のシグナル伝達経路の修飾のために含む。」

(ウ)5-アミノもしくは置換アミノ1,2,3-トリアゾール化合物、該化合物のオロチン酸塩化合物等についての記載
「【0033】
本発明は、5-アミノもしくは置換アミノ1,2,3-トリアゾールの新規の多形体または新規の方法によって調製されたそれらの置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)を提供し、式Iの化合物のクラスを含む。CAIの新規の多形体は、NMR、DSC、FT-IRおよびXRDP等の技法によって特徴づけられるような1型または2型を含むが、これらに限定されない。
式I
【化2】

[式中、R_(1)は式IIを有し、ここで、
R_(1)は
【化3】

であり、
式中、pは0?2であり;mは0?4であり;nは0?5であり;Xは、O、S、SO、SO_(2)、CO、CHCN、CH_(2)、またはC=NR_(6)(式中、R_(6)は、水素、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ低級アルキルアミノまたはシアノである)であり;ならびに、R_(4)およびR_(5)は、独立して、ハロゲン(F、Cl、Br)、シアノ、トリフルオロメチル、低級アルカノイル、ニトロ、低級アルキル、低級アルコキシ、カルボキシ、低級カルバルコキシ(carbalkoxy)、トリフロロメトキシ(trifuloromethoxy)、アセトアミド、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、トリクロロビニル、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルフィニル、またはトリフルオロメチルスルホニルであり;R_(2)は、アミノ、モノ低級アルキルアミノもしくはジ低級アルキルアミノ、アセトアミド、アセトイミド、ウレイド、ホルムアミド、ホルムイミドまたはグアニジノであり;ならびにR_(3)は、カルバモイル、シアノ、カルバゾイル、アミジノまたはN-ヒドロキシカルバモイルであり;低級アルキル、 を含む低級アルキル、低級アルコキシおよび低級アルカノイル基は1?3の炭素原子を含む。]
【0034】
5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール化合物をオロチン酸と反応させて、本発明の方法に記載の使用のためのCTOを形成する本発明の改良されたより安全な方法によって、1:1?1:4(塩基:酸)の範囲の比で5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール化合物のオロチン酸塩化合物を形成する。
【0035】
CAIの新規の多形体をオロチン酸とさらに反応させて、式II:
式II
【化4】

[式中、オロチン酸はR_(2)にイオン結合され、
R_(1)は、
【化5】

であり、
式中、pは0?2であり;mは0?4であり;nは0?5であり;Xは、O、S、SO、SO_(2)、CO、CHCN、CH_(2)、またはC=NR_(6)(式中、R_(6)は、水素、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ低級アルキルアミノまたはシアノである)であり;ならびに、R_(4)およびR_(5)は、独立して、ハロゲン(F、Cl、Br)、シアノ、トリフルオロメチル、低級アルカノイル、ニトロ、低級アルキル、低級アルコキシ、カルボキシ、低級カルバルコキシ(carbalkoxy)、トリフロロメトキシ(trifuloromethoxy)、アセトアミド、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、トリクロロビニル、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルフィニル、またはトリフルオロメチルスルホニルであり;R_(2)は、アミノ、モノ低級アルキルアミノもしくはジ低級アルキルアミノ、アセトアミド、アセトイミド、ウレイド、ホルムアミド、ホルムイミドまたはグアニジノであり;ならびにR_(3)は、カルバモイル、シアノ、カルバゾイル、アミジノまたはN-ヒドロキシカルバモイルであり;低級アルキル、 を含む低級アルキル、低級アルコキシおよび低級アルカノイル基は1?3の炭素原子を含む。]の化合物のクラスのオロチン酸塩化合物を形成する。」

(エ)CTO(オロチン酸塩)の好ましい実施形態についての記載
「【0036】
本明細書において定義される「CTO」の好ましい実施形態は、C_(22)H_(16)Cl_(3)N_(7)O_(6)(分子量580.76)の実験式を有し、201℃および236℃の2つの転位融点がある。CTOは、オロチン酸をイオン結合したCAIの新規多形体を含む。CAIは、1型(パターン1)または2型(パターン2)を含むが、これらに限定されない多くの多形体を有する。CTOの2つの実施形態は異なる転位融点を有し、例えば、CTO(1型、パターン1)は約136℃、194℃および235℃の融点を有し;CTO(2型、パターン2)は約137℃および234℃の融点を有する。CTOの2つの実施形態は、構造CAI:オロチン酸と一致する^(1)H NMRスペクトル(それぞれ図1および図2)、および1型および2型と一致するFT-IRパターン(それぞれ図3および図4)を有する。1型および2型のX線粉末回折パターンによって示されるようにCTOは結晶である(それぞれ図5および図6)。
【0037】
CTOの好ましい実施形態の化学名は、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド (オロチン酸との化合物);5-アミノ-1-(3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物);および5-アミノ-1-{[3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)フェニル]メチル}-1H,1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物)を含む。
【0038】
より詳細には、CTOの多形体の化学構造は、
【化6】



(オ)製剤についての記載
「【0039】
追加の実施形態は、CAIおよびオロチン酸(CAO)の異なる多形体の製剤を含む。5-アミノもしくは置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)、または5-アミノ1,2,3-トリアゾールもしくは置換アミノ1,2,3-トリアゾールの新規多形体を、1:1?1:4(塩基:酸)の範囲でオロチン酸と混合して、本発明の方法に記載のCAO使用の製剤を提供する。」

(カ)調製方法についての記載
「【0040】
新規方法:
本発明の化合物を調製できる、本発明の新規の方法は、5工程の以下の反応スキームIIで示される。より具体的には、新規の方法はジフェニルホスホルイルアジドを使用して、工程3において、アジ化ナトリウムと反応させる代わりに、中間体858.Bと反応させる。これは、中間体858.Cを形成する先行技術における工程3を除去する。上記のスキームI(6工程)を参照されたい。詳細な方法は実施例中で記載される。858.A?858.Fは以下に要約される中間生産物およびCTOを表わす。
858.Aはt-ブチルジメチルシリル-3,5-ジクロロベンジルエーテルを表わす。
858.Bは3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアルコールを表わす。
858.Cは3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルクロライドを表わす。
858.Dは3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルアジドを表わす。
858.Eは5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドを表わす。
858.Fは5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物)(CAI:オロチン酸)(CAI:オロチン酸塩)(CTO)を表わす。
【化7】

【0041】
重要なことには、先行技術中で記載された手順によって合成されたCAIと比較した場合、上記の方法によって製造したCAI、CTOおよびCAOの異なる多形体は、げっ歯類においてより少ない胃病変および毒性を示すことが観察された。これは、アジ化ナトリウムまたはアジ化カリウム等の毒性の成分の使用が無いことに関連する可能性がある。
【0042】
新規方法は、CAI、CTOおよびCAOの新規多形体の生産ももたらした。従って、本発明の化合物は、1つの以上の異なる結晶構造に結晶化し、NMR、DSC、FT-IRおよびXRDP等の技法によって特徴づけられるような、CAIの異なる多形体の異なる化学的特性を示す分子を含む(図1?6)。」

(キ)医薬組成物及び製剤等についての記載
「【0043】
投薬量および製剤
5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体を、先行技術中で記載された手順によって生産されたCAIの短所を克服する、化学的および生物学的特性を有する異なる多形体へ製造した。
【0044】
加えて、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えて置換誘導体をオロチン酸と化学的に反応させて、に独特な生体利用率、薬物動態学的特性、安全性および実効性を有する、比1:1?1:4(塩基:酸)でオロチン酸塩(CTO)を形成する。
【0045】
代替の実施形態は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体の多形体を、比1:1?1:4(塩基:酸)でオロチン酸と混合して、CAIおよびオロチン酸(CAO)の製剤を形成することを含む。
【0046】
上記の医薬組成物および製剤は、原発性新生物および転移性新生物、慢性骨髄性白血病、黄斑変性症、網膜症ならびに他の細胞増殖性疾患の防止および治療のために哺乳類へ投与する医薬調製物へ製剤化することができる。トリアゾールオロチン酸塩化合物の多くは、有機酸塩として直接または薬学的に適合性のあるカウンターイオンと共に提供することができ、それらは単に水溶性の形態である。塩は、対応する遊離塩基形態よりも、水性溶媒または他のプロトン性溶媒中で可溶性である傾向がある。治療的化合物または医薬組成物は、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鞘内、経口的、経直腸的、局所的、またはエアロゾルによって投与することができる。
【0047】
経口投与に好適な製剤は、固体粉末製剤、生理食塩水、水またはPEG 400等の希釈剤中に溶解した活性化合物の溶液;カプセル剤または錠剤(各々は固体、粉末、粒剤またはゼラチンとして所定の量の活性薬剤を含む);近似の培地中の懸濁物;および乳化物を含む。
【0048】
非経口投与に好適な製剤は、バッファー、抗酸化剤および防腐剤を含む水性および非水性の等張の滅菌溶液を含む。製剤は単位用量または多重用量の密封した容器中に入れることができる。
【0049】
CTOの経口投与のための患者への投薬量は、0.25?500mg/日、一般的には25?100mg/日、および典型的には50?400mg/日の範囲である。患者体重に関して言えば、通常の投薬量は、0.005?10mg/kg/日、一般的には0.5?2.0mg/kg/日、典型的には1.0?8.0mg/kg/日の範囲である。患者体表面積に関して言えば、通常の投薬量は0.1?300mg/m^(2)/日、一般的には20?250mg/m^(2)/日、典型的には25?50mg/m^(2)/日の範囲である。投薬量および間隔を個々に調節して、異常なシグナル伝達および増殖に依存する疾患において、抗増殖性効果、抗転移性効果、抗血管新生効果または他の治療的効果を維持するのに十分な活性モイエティの血漿レベルを提供する。
【0050】
用量は、投与経路(例えば静脈内、吸入/エアロゾル、直接腹腔内もしくは皮下、局所、または脊髄内投与)に依存して調節できる。
【0051】
薬理化合物のための様々な送達システムは、リポソーム、ナノ粒子、懸濁物および乳化物を含むが、これらに限定されず、用いることができる。医薬組成物は、好適な固相もしくはゲル相の担体または賦形剤も含むことができる。かかる担体または賦形剤の例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖、スターチ、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコール等のポリマーを含むが、これらに限定されない。
【0052】
さらに、標的化薬物送達システムで、例えば、ナノ粒子および他の形態として腫瘍特異的抗体によりコーティングされたリポソームで、薬物を投与することができる。リポソームまたはナノ粒子は、腫瘍または他の疾患標的に対して標的化され、それらによって選択的に取り込まれ得る。
【0053】
新しく見出されたリード分子の構築に最も難しい特性の1つは、特に経口投薬された化合物のケースにおける、望ましい薬物動態プロファイルである。「経験を積んだ医薬化学者の多くは、標的受容体に対して低い有効性を示すが、本質的に優れた薬物動態学的特性を有する構造シリーズで開始し、次いで他の方向で作業するのではなく、標的に対する有効性の改良について着手することを好む」「薬物探索における有機化学、薬物探索(Organic Chemistry in Drug Discovery, Drug Discovery)」、Science 303: 1810-1813 (2004)。
【0054】
経口投与されたCTOの生体利用率の改良。
本発明は、概して、CTO(比1:1?1:4(塩基:酸)のL651582の独特なオロチン酸塩)の経口生体利用率、送達およびクリアランスを増加させる方法に関する。本発明は、薬物の経口生体利用率、毒性学プロファイルおよび有効性の改良するために、イオン化中心を有する非水溶性薬物のオロチン酸塩を調製するために方法を提供する。好ましくはCTOは比1:1であり、より好ましくは比1:2であり、最も好ましくは比0.7:1.3である。
【0055】
優れた生体利用率は、薬物を口にすることによって全身循環に達することを意味するので、経口経路経由の薬物の吸収は医薬産業界における熱心な研究対象である。経口吸収は、投薬形態からの薬物溶解、薬物が水性環境および膜と相互作用する様式、膜を横切る透過、ならびに腸、肝臓および肺等の初回通過器官による不可逆的除去を含む、薬物の特性および胃腸管の生理的機能の両方によって影響を受ける。低可溶性を示すいくつかの医薬薬剤は、低生体利用率または不規則な吸収を示し、不規則性の程度は、用量レベル、患者の摂食状態および薬物の物理化学的性質等の因子により影響を受ける。
【0056】
絨毛および微絨毛の存在が吸収力のある多面的な面積を増加させるので、大部分の薬物吸収が大きな表面積がある小腸で起こる。腸の循環は、腸が肝臓への基質の流動を調節する前方組織または門脈組織であるという点で独特である。腸の静脈血は、肝臓への血液供給の約75%を構成する。それゆえ、腸によって高度に取り除かれる薬物については、薬物代謝に対する肝臓、腎臓または肺の寄与は低下するようになる。反対に、腸によってあまり抽出されない薬物については、基質は、除去のための次の器官(肝臓および肺)に達することができる。それゆえ、腸に入る薬物の濃度および腸の流量は、薬物送達率を変化させて、肝臓の初回通過代謝を介して腸の割合およびクリアランスに影響を与える。
【0057】
「薬物生体利用率」は、全身的に経時的利用可能な薬物の量として本明細書において定義される。本発明は、医薬剤をオロチン酸塩に転換することによって医薬剤の薬物生体利用率を増加させる。これは、薬物が壁膜に浸透し、血液潅流率が吸収のための全体的な律速工程になるように、薬物の親水性および親油性を変化させることによって、もしくは腸における薬物生体変換の阻害によって、および/または血流の中への腸膜を横切る薬物の正味輸送を減少させる、腸における能動的逆輸送システムの阻害によって、達成することができる。いずれのケースも、増加した薬物生体利用率に関与する組成物は医薬剤のオロチン酸塩である。すぐに明らかになる理由ではないが、非水溶性L651582のCTO(塩基:酸、0.5:1?1:2)への転換は、治療を必要とする哺乳類へ経口投与した医薬剤の生体利用率を増加させる方法を提供することが見出されている。
【0058】
統合された全身濃度における経時的な変化は、曲線下面積(AUC)またはC_(max)(両者とも当該技術分野において周知のパラメータ)によって示される。
【0059】
本発明は、医薬剤の投薬と比較して少なくとも25%?100%のAUCによって測定されるような、医薬剤のオロチン酸塩の生体利用率の増加を、組成物が提供する方法を提供する。
【0060】
本発明は、少なくとも50%?100%のC_(max)によって測定されるように、医薬剤のオロチン酸塩の生体利用率を増加させる組成物を提供する。
【0061】
化学療法剤の「副作用」または「毒性」または「副作用」は、化学療法投与の急性期、および準臨床的組織損傷を持つ癌が治癒した患者で観察される。かなり重篤で障害を与え不可逆的な薬物関連の組織副作用については、高く認識されている。臨床医は、化学療法剤について可能性のある組織/器官合併症に承知していなければならず、必要に応じて、治療法の開始前に基本的組織検査を実行しなければならない。
【0062】
薬物の「クリアランス」は、抽出器官への血液の灌流によって生じる。「抽出」とは、不可逆的に除去(排泄)または異なる化学形態へ変化(代謝)される、器官へ提示された薬物の比率を指す。
【0063】
本発明は、医薬剤の投薬と比較して少なくとも25%?100%の薬理学的試験によって測定されるような、非癌性組織または正常組織からのCTOのオロチン酸誘導体のクリアランスを増加させる方法を提供する。
【0064】
薬物の経口投薬後の「生体利用率」とは、薬物または代謝物質の活性モイエティが全身循環に入り、それによって作用部位へ接近できる程度または率である。薬物の生理化学的な特性は、その吸収能および血清タンパク質へ結合を決定する。薬物の有効性は、分子標的との相互作用に依存する。それゆえ、投薬形態の特性は、その化学的特徴およびバルク量での薬物の製造のための方法に部分的に依存する。規定の薬物の化学的製剤の中の生体利用率、有効性、輸送およびクリアランスにおける差には臨床的有意性があり得る。
【0065】
薬物が完全に吸収される場合でさえ、あまりにも緩慢に吸収されるのならば、治療的血中レベルを十分迅速に生ずることができなかったり、非常に急速に吸収されるのならば、各用量後に治療的レベルを達成するように与えられた高い薬物濃度から毒性が生じたりするので、「吸収」率は重要である。吸収は、3つの方法(受動拡散、能動輸送または促進能動輸送のいずれか)のうちの1つによって生じる。受動拡散は、分子の濃度が膜の両側の浸透バランスに達するまで、分子が粘膜バリアを横切る単純な通過である。能動輸送では、分子は、粘膜を横切って能動的にポンプで送り込まれる。促進輸送では、担体(一般的にはタンパク質)が、吸収のために膜を横切る分子の運搬に必要とされる。本発明は、薬物が異なる組織および器官にうまく送られ、脳に達する血液脳関門でさえ通過することを可能にする化学的立体配置でCTO化合物を提供する。
【0066】
オロチン酸、遊離ピリミジンはウリジル酸(UPP)(主要なピリミジンヌクレオチド)の合成において重要である。ピリミジンは細胞の調節および代謝で中心的な役割を果たす。ピリミジンは、DNA/RNA合成のための基質、いくつかのアミノ酸の生合成のレギュレーター、ならびにリン脂質、糖脂質、糖およびポリサッカライドの生合成におけるコファクターである。古典的なデノボピリミジン生合成経路はUMPの合成により終了する。Biochemistry、Lubert Stryer編、W.H. Freeman & Co、ニューヨーク、第4版、739-762(1995)。本発明は、溶解して帯電した分子および遊離オロチン酸として薬物を放出し、タンパク質へ薬物の結合を妨げ、標的への輸送および迅速なクリアランスを促進できる、CTOのクラスを提供する。
【0067】
本発明は、1)CAI+オロチン酸の相当用量の製剤と比較したCTOの有効性、2)PEG-400中のCTOと比較した、カプセル化固体CTOとして与えられた場合のCTOの生体利用率およびクリアランス、3)経口投与したCTOの血液脳関門を介する脳への輸送、4)イヌにおける脈絡膜網膜複合体および硝子体液を含む異なる眼組織への経口投与したCTOの輸送、における改良によって測定されるような、CTOの実効性における増加を示す実施形態を提供する。
【0068】
重要なことには、CTOの前臨床毒性は、175および350、1025mg/kg/日で経口経路によってイヌで決定され、28日後に死亡は起こらなかった。」

(ク)実施例についての記載
「【実施例】
【0069】
実施例1
4-クロロベンゾイルクロライド
3,5-ジクロロベンジルアルコール(1モル)を、tert-ブチルジメチルシリルクロライド(1.05モル)、99%イミダゾール(2.44モル)、N,N-ジメチルホルムアミド中の4-ジメチルアミノピリジンで低温で処理して、抽出操作でt-ブチルジメチルシリル-3,5-ジクロロベンジルエーテル(858.A1)を生産する。
【0070】
実施例2
3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアルコール
t-ブチルジメチルシリル-3,5-ジクロロベンジルエーテル(858.A1)(1モル)を、ヘキサン中のn-ブチルリチウム1.6M溶液、続いてテトラヒドロフラン中の4-クロロベンゾイルクロライド(1.01モル)と低温で反応させ、塩酸水溶液で中間体を処理して3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアルコール(858.B)を得た。
【0071】
実施例3
3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジド
3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアルコール(858.B)(1モル)を、トルエン中のジフェニルホスホリルアジド(ジフェニルホスホニックアジド)(DPPA)(1.2モル、および1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(異名:DBU)(1.2モル))と低温で反応させ、続いて水性の操作およびアルコール滴定を行い、3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルアジド(858.D)を得た。DPPAは、他の有機化合物の合成において使用される有機化合物である。Aust. J. Chem 26:1591-1593 (1973)。加熱に対するDPPAの安定性は、157℃での蒸留、および175℃の温度が到達するまで窒素の激しい発生が観察されないという事実によって示される。
【0072】
実施例4
5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(CAI)
3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルアジド(858.D)(1モル)を、熱アセトニトリル中のシアノアセトアミド(1.69モル)、および炭酸カリウム(6.2モル)と反応させて、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(858.E)を得た。
【0073】
実施例5
5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物)、(CAI:オロチン酸)
5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(858.E)(1モル)を、オロチン酸(1.03モル)およびメタノール/水混合物と反応させて、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との固体化合物)(CAI:オロチン酸;1:1)、(CTO)(858.F)を得た。これは分子量580.76gであり、示差走査熱量測定法によって測定された約151℃、238℃および332℃の転移融点を有する。XRPDパターンは、CTOが結晶性および非晶性の(多形)材料からなることを示す。
【0074】
実施例6
CAI+オロチン酸(1:1)とCTO(858.F)の抗癌活性の比較
CTO(分子量580.8)およびCAI(分子量424.6)+オロチン酸(分子量156.1)の効果を、オスの無胸腺のNCr-nu/nuマウスの皮下に移植されたHT29ヒト結腸腫瘍異種移植において研究した。6週間齢のマウスにHT29断片を移植し、13日後に10匹の3群に分類した。次の14日間(13?26日目)、群1対照(C)に媒質;群2=343mg/kg/用量;群3=240mg/kg/日のCAI+103mg/kg/日のオロチン酸を投与した。41日目に、以下に示されるように、平均腫瘍体積(mm^(3))が測定された。
群1(対照)=1436mm^(3)
グループ2(CTO 343mg/kg/日)=864 mm^(3)(p=0.0050、群2vs群1)
群3(CAI 250mg/kg/日+オロチン酸103mg/kg/日)=1268 mm^(3)(p=0.2706、群3vs群1)。これらの結果は、CTOは、化学的に反応させないCAIおよびオロチン酸の同等量よりも、腫瘍増殖の阻止により効果的であることを示唆する。しかしながら、CAI+オロチン酸製剤はある程度の腫瘍阻止を示した。
【0075】
実施例7
カプセルの固体またはPEG-400の液体として経口的に与えられたCTOの比較
CTO(塩基:酸、0.7:1.3)の生体利用率を、カプセル(群1)で、またはPEG400(群2)の経口強制投与で、単回用量685mg/kgを投与することによって決定した。2匹のイヌ(1匹メス/1匹オス)を各群で使用した。血液サンプルを、0、1、2、4、8、12、24、48、72および92時間で収集した。CAIはHPLC/MSによって測定した。
【0076】
カプセルを投与した群1。1時間後の血漿濃度は、オスおよびメスのイヌについて155および174ng/mlであった。Cmaxは、オスについて12時間では5800ng/ml、およびメスについて24時間では7950ng/mlであった。オスおよびメスについてそれぞれ、半減期は18時間および22.7時間であり、AUC値は326および277μg/mLであった。
【0077】
PEG400を強制投与した群2。1時間後の血漿濃度は、オスおよびメスのおイヌについて511および570ng/mlであった。Cmaxは、オスについて24時間では6634ng/ml、およびメスについて24時間では5350ng/mlであった。生体利用率は群1(100%)の生体利用率の81.8%であった。
【0078】
これらの結果は、カプセルで固体として与えられたCTOは、PEG400中のCTOよりも優れた吸収パターンおよび生体利用率を有することを示す。これらおよび追加の結果に基づいて、CTOは患者に対してカプセルで固体として投与されるだろう。
【0079】
実施例8
マウスに経口的に与えたCTOは血液脳関門を通過する。
6匹の2群に分類した6週齢のマウスにCTOを経口的に(PEG400中で)与えた。2用量(群1=513mg/kg;群2=342mg/kg)で投与した。CTOによる処理の8時間後に、脳組織中のCTO濃度(CAIとして)の測定のために、マウスを安楽死させた。
【0080】
得られた結果は次のとおりだった。群1のCAIレベルは15167±2372ng/g組織であり、群2レベルのCAIは10950±1704ng/gの組織であり、両者とも治療的範囲(6000ng/mL)であった。CTOが経口投与されたので、これらの結果は、CTOが血液脳関門を通過し標的器官(脳)に達することを示す。
【0081】
本発明は、本発明の1つの態様の例証として意図される実施例において開示された実施形態による範囲で限定されるべきではなく、機能的同等の任意の方法も本発明の範囲内である。実際、本明細書において示され記載されたものの他にも、本発明の様々な修飾は前述の記載から当業者には明らかであろう。かかる修飾は、添付の請求項の範囲内に分類されることが意図される。」

(ケ)別の態様についての記載
「【0082】
当業者は、本明細書において記載された本発明の具体的な実施形態に対する任意の同等物を、わずかなルーチンの実験を使用して、認識または確認することができる。かかる同等物は本請求項によって包含されることが意図される。

本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕式
【化8】

[式中、
R_(1)は、
【化9】

であり、
式中、pは0?2であり;mは0?4であり;nは0?5であり;Xは、O、S、SO、SO_(2)、CO、CHCN、CH_(2)、またはC=NR_(6)(式中、R_(6)は、水素、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ低級アルキルアミノまたはシアノである)であり;ならびに、R_(4)およびR_(5)は、独立して、ハロゲン(F、Br、CL)、シアノ、トリフルオロメチル、低級アルカノイル、ニトロ、低級アルキル、低級アルコキシ、カルボキシ、低級カルバルコキシ、トリフルオロメトキシ、アセトアミド、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、トリクロロビニル、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルフィニル、またはトリフルオロメチルスルホニルであり;R_(2)は、アミノ、モノ低級アルキルアミノもしくはジ低級アルキルアミノ、アセトアミド、アセトイミド、ウレイド、ホルムアミド、ホルムイミドまたはグアニジノであり;ならびにR_(3)は、カルバモイル、シアノ、カルバゾイル、アミジノまたはN-ヒドロキシカルバモイルであり;低級アルキル、を含む低級アルキル、低級アルコキシおよび低級アルカノイル基は1?3の炭素原子を含む。]
を有する塩基の多形型を含む、化合物。
〔2〕5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔1〕に記載の化合物。
〔3〕5-アミノ-1-{[3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)フェニル]メチル}-1H,1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔1〕に記載の化合物。
〔4〕5-アミノ-1-(3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔1〕に記載の化合物。
〔5〕前記多形型が1型または2型を含む、前記〔1〕に記載の化合物。
〔6〕式
【化10】

[式中、オロチン酸は1:1?1:4の範囲でR_(2)にイオン結合され、式中、
R_(1)は、
【化11】

であり、
式中、pは0?2であり;mは0?4であり;nは0?5であり;Xは、O、S、SO、SO_(2)、CO、CHCN、CH_(2)、またはC=NR_(6)(式中、R_(6)は、水素、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ低級アルキルアミノまたはシアノである)であり;ならびに、R_(4)およびR_(5)は、独立して、ハロゲン(F、Br、Cl)、シアノ、トリフルオロメチル、低級アルカノイル、ニトロ、低級アルキル、低級アルコキシ、カルボキシ、低級カルバルコキシ、トリフルオロメトキシ、アセトアミド、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、トリクロロビニル、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルフィニル、またはトリフルオロメチルスルホニルであり;R_(2)は、アミノ、モノ低級アルキルアミノもしくはジ低級アルキルアミノ、アセトアミド、アセトイミド、ウレイド、ホルムアミド、ホルムイミドまたはグアニジノであり;ならびにR_(3)は、カルバモイル、シアノ、カルバゾイル、アミジノまたはN-ヒドロキシカルバモイルであり;低級アルキル、を含む低級アルキル、低級アルコキシおよび低級アルカノイル基は1?3の炭素原子を含む。]
を有する塩基の多形型を含む、オロチン酸化合物。
〔7〕オロチン酸と結合された5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔6〕に記載の化合物。
〔8〕オロチン酸と結合された5-アミノ-1-{[3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)フェニル]メチル}-1H,1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔6〕に記載の化合物。
〔9〕オロチン酸と結合された5-アミノ-1-(3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔6〕に記載の化合物。
〔10〕前記塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、好ましくは1:1および最も好ましくは0.7:1.3である、前記〔6〕に記載の化合物。
〔11〕前記多形型が1型または2型を含む、前記〔6〕に記載の化合物。
〔12〕式
【化12】

を有する化合物。
〔13〕式、
【化13】

[式中、オロチン酸は1:1?1:4の範囲でR_(2)にイオン結合され、式中、
R_(1)は、
【化14】

であり、
式中、pは0?2であり;mは0?4であり;nは0?5であり;Xは、O、S、SO、SO_(2)、CO、CHCN、CH_(2)、またはC=NR_(6)(式中、R_(6)は、水素、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ低級アルキルアミノまたはシアノである)であり;ならびに、R_(4)およびR_(5)は、独立して、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、低級アルカノイル、ニトロ、低級アルキル、低級アルコキシ、カルボキシ、低級カルバルコキシ、トリフルオロメトキシ、アセトアミド、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、トリクロロビニル、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルフィニル、またはトリフルオロメチルスルホニルであり;R_(2)は、アミノ、モノ低級アルキルアミノもしくはジ低級アルキルアミノ、アセトアミド、アセトイミド、ウレイド、ホルムアミド、ホルムイミドまたはグアニジノであり;ならびにR._(3)は、カルバモイル、シアノ、カルバゾイル、アミジノまたはN-ヒドロキシカルバモイルであり;低級アルキル、を含む低級アルキル、低級アルコキシおよび低級アルカノイル基は1?3の炭素原子を含む。]
を有する塩基を含むオロチン酸塩化合物の調製のための、塩基の存在下における3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルアジドとのアセトニトリルの反応を含む、新規方法。
〔14〕前記オロチン酸化合物が、オロチン酸と結合される5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔13〕に記載の新規方法。
〔15〕前記オロチン酸化合物が、オロチン酸と結合される5-アミノ-1-{[3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)フェニル]メチル}-1H,1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔13〕に記載の新規方法。
〔16〕前記オロチン酸化合物が、オロチン酸と結合される5-アミノ-1-(3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔13〕に記載の新規方法。
〔17〕前記オロチン酸化合物が、0.5:1?1:2、好ましくは1:1、および最も好ましくは0.7:1.3の範囲の塩基:酸比を有する、前記〔13〕に記載の新規方法。
〔18〕前記オロチン酸化合物が、0.7:1.3の塩基:酸比、および式、
【化15】

を有する、前記〔13〕に記載の新規方法。
〔19〕式、
【化16】

[式中、
R_(1)は、
【化17】

であり、
式中、pは0?2であり;mは0?4であり;nは0?5であり;Xは、O、S、SO、SO_(2)、CO、CHCN、CH_(2)、またはC=NR_(6)(式中、R_(6)は、水素、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ低級アルキルアミノまたはシアノである)であり;ならびに、R_(4)およびR_(5)は、独立して、ハロゲン(Fl、Br、Cl)、シアノ、トリフルオロメチル、低級アルカノイル、ニトロ、低級アルキル、低級アルコキシ、カルボキシ、低級カルバルコキシ、トリフルオロメトキシ、アセトアミド、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、トリクロロビニル、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルフィニル、またはトリフルオロメチルスルホニルであり;R_(2)は、アミノ、モノ低級アルキルアミノもしくはジ低級アルキルアミノ、アセトアミド、アセトイミド、ウレイド、ホルムアミド、ホルムイミドまたはグアニジノであり;ならびにR._(3)は、カルバモイル、シアノ、カルバゾイル、アミジノまたはN-ヒドロキシカルバモイルであり;低級アルキル、を含む低級アルキル、低級アルコキシおよび低級アルカノイル基は1?3の炭素原子を含む。]
を有する塩基の多形体の調製のための、塩基の存在下における3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルアジドとのアセトニトリルの反応を含む、新規方法。
〔20〕前記化合物が、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔19〕に記載の新規方法。
〔21〕前記化合物が、5-アミノ-1-{[3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)フェニル]メチル}-1H,1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔19〕に記載の新規方法。
〔22〕前記化合物が、5-アミノ-1-(3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドである、前記〔19〕に記載の新規方法。」

(コ)図面についての記載
「【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】1型またはパターン1のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02642の、CAI:オロト酸またはCAI:オロチン酸塩としてのNMRによるCTOの構造を示した図である。
【図2】2型またはパターン2のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02643の、CAI:オロト酸またはCAI:オロチン酸塩としてのNMRによるCTOの構造を示した図である。
【図3】1型またはパターン1のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02642の高分解能ディフラクトグラムを示した図である。
【図4】2型またはパターン2のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02643の高分解能ディフラクトグラムを示した図である。
【図5】1型またはパターン1のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02642のFT-IRを示した図である。
【図6】2型またはパターン2のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02643のFT-IRを示した図である。」
「【図1】


「【図3】


「【図4】


「【図5】



ウ 検討
(ア)本件補正発明は、前記(1)に示したとおり、
「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドの1型多形体であって、
図3に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、
塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体。
図3
【化1】

」である。
以下では、「5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド」を「化合物B」とする場合がある。

(イ)まず、「オロチン酸と結合した、化合物Bの1型多形体であって、図3に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体」(以下「本件補正発明の多形体」という。)を製造したことを明示した具体例が、発明の詳細な説明に記載されているかを検討する。
上記イ(ア)?(コ)のとおり、発明の詳細な説明には、そのような具体例は記載されていない。
すなわち、本件補正発明の多形体を製造したことの手掛かりとなる記載は、上記イ(エ)の「【0036】本明細書において定義される「CTO」の好ましい実施形態は、C_(22)H_(16)Cl_(3)N_(7)O_(6)(分子量580.76)の実験式を有し、201℃および236℃の2つの転位融点がある。CTOは、オロチン酸をイオン結合したCAIの新規多形体を含む。CAIは、1型(パターン1)または2型(パターン2)を含むが、これらに限定されない多くの多形体を有する。CTOの2つの実施形態は異なる転位融点を有し、例えば、CTO(1型、パターン1)は約136℃、194℃および235℃の融点を有し;CTO(2型、パターン2)は約137℃および234℃の融点を有する。CTOの2つの実施形態は、構造CAI:オロチン酸と一致する^(1)H NMRスペクトル(それぞれ図1および図2)、および1型および2型と一致するFT-IRパターン(それぞれ図3および図4)を有する。1型および2型のX線粉末回折パターンによって示されるようにCTOは結晶である(それぞれ図5および図6)。」との記載(なお、当該記載には、図3及び図4をFT-IRパターンとしている点、図5及び図6をX線粉末回折パターンとしている点で誤記があると認められる。)、上記イ(コ)の「【図3】1型またはパターン1のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02642の高分解能ディフラクトグラムを示した図である。」、「【図1】1型またはパターン1のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02642の、CAI:オロト酸またはCAI:オロチン酸塩としてのNMRによるCTOの構造を示した図である。」、「【図5】1型またはパターン1のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02642のFT-IRを示した図である。」という記載のみであるところ、それらには、本件補正発明の多形体の具体的な製造方法は記載されていない。

(ウ)次に、発明の詳細な説明に記載された実施例が、明示はないものの本件補正発明の多形体を製造したものと当業者が理解できるかを検討する。
化合物又は結晶性、非結晶性の材料の製造実施例は、上記イ(ク)の実施例1?5のみである。実施例1?4により化合物Bを合成し(なお、実施例1のタイトルには誤記があると認める。)、続く実施例5は、
「実施例5
5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物)、(CAI:オロチン酸)
5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(858.E)(1モル)を、オロチン酸(1.03モル)およびメタノール/水混合物と反応させて、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との固体化合物)(CAI:オロチン酸;1:1)、(CTO)(858.F)を得た。これは分子量580.76gであり、示差走査熱量測定法によって測定された約151℃、238℃および332℃の転移融点を有する。XRPDパターンは、CTOが結晶性および非晶性の(多形)材料からなることを示す。」というものである。
実施例5に記載された示唆走査熱量測定法によって測定された約151℃、238℃および332℃の転移融点は、【0036】に記載された、CTOについての、201℃および236℃の2つの転位融点、CTO(1型、パターン1)についての、約136℃、194℃および235℃の融点、CTO(2型、パターン2)についての、約137℃および234℃の融点のいずれとも一致せず、実施例5の「XRPDパターンは、CTOが結晶性および非晶性の(多形)材料からなることを示す」との記載からは、実施例5で得られた固体が、本件補正発明の多形体であるとは、当業者は理解できない。
したがって、発明の詳細な説明に記載された実施例が、明示はないものの本件補正発明の多形体を製造したものと当業者は理解できない。

(エ)次に、発明の詳細な説明に、本件補正発明の多形体を製造する方法を当業者が理解できるように記載されているかを検討する。
調製方法について、化合物Bとオロチン酸との化合物を製造するスキームについての一般的な記載がある(上記イ(カ))。そこには、「新規方法」の表題の下に段落【0040】に以下のスキーム

が記載され、その工程5は、化合物Bに、スキーム中の矢印の上下に記載される「オロチン酸」及び「メタノール/水」を加えて、化合物Bとオロチン酸との化合物を製造する工程である。そして、段落【0042】に「新規方法は、CAI、CTOおよびCAOの新規多形体の生産ももたらした。従って、本発明の化合物は、1つの以上の異なる結晶構造に結晶化し、NMR、DSC、FT-IRおよびXRDP等の技法によって特徴づけられるような、CAIの異なる多形体の異なる化学的特性を示す分子を含む(図1?6)。」と記載されている。
したがって、このスキームは、本件補正発明の多形体を製造する方法の一般的記載であるといえる。しかし、化合物Bに、オロチン酸及びメタノール/水を加え、化合物Bとオロチン酸との化合物とする以外のことは、何も記載されていない。また、本件補正発明の多形体だけでなく、図4のX線回折パターンを与える多形体についても、区別のない記載がされているといえる。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件補正発明の多形体の製造方法を当業者が理解できるように記載されているとはいえない。

(オ)出願当時の技術常識に照らして、当業者が本件補正発明の多形体を製造することができたかを検討する。
実際に本件補正発明の多形体を製造するためには、化合物Bとオロチン酸の比率、メタノール/水におけるそれらの比率、濃度、温度、冷却速度、攪拌の有無や攪拌する場合の程度や時間、その他、多くの条件設定が必要であり、上記イ(ア)?(コ)に示した本願明細書等の記載に接した当業者には、出願当時の技術常識に照らして、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するといえる。

(カ)上記(イ)?(オ)に関連する請求人の主張について
i 請求人は、上記(ウ)に関連して、
「実施例1?5は実験レベルの小規模製造(グラム規模)に関するものであるので、当業者は、実施例1?5の方法は少量のCTOを合成する実験室規模の実験であり、そこで用いる試薬や溶媒は不純物を含んでいてもよい実験室グレードであると理解するはずです。したがって、当業者は、融点の僅かな相違がCTOサンプル中の不純物レベルによると理解できます。一方、本願請求項記載のCTOの1型及び2型多形体のXRPDパターンは、純粋な成分(ヒトで使用するためのGMPグレード)を用いて製造された純粋な結晶から得られたものです。」(平成31年4月15日付け意見書(以下「意見書」という。)、4頁下から11?5行)、
「実施例5は、実験室グレードの試薬を用い異なる条件(非GMP条件)で実施した態様を示しています。ここで、本書面に添付する資料10(Guidance for Industry, CGMP for Phase 1 Investigational Drugs, July 2008)は、CGMP(Current Good Manufacturing Procedures)に関するFDAの産業向けガイダンスを記載しています。資料10は、分析証明書(certificate of analysis)に記載の各物質の使用についての合否基準(8頁、D)、詳細な製造手順についての要件(9頁、E)や、実験室の制御(10頁、F)等を記載しています。資料10より、実施例5が非GMP条件下で行われ、分析証明書で認められた物質を使用しなかったことは明らかです。
示差走査熱量測定法(DSC)で測定した融点について、実施例5(非GMP)で製造したCTOの融点がスキームII(GMP)に従い製造したCTOの1型及び2型多形体の融点と異なるのは、使用した成分の品質(純度)又はプロセスを実施した条件の相違に起因すると思料します。化合物の純度はその融点に影響するので、本書面に添付する資料11(Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, Vol.49, Issue 3, p.627-631 (2009))に記載されるように、DSCは純度測定の信頼できる方法です。」(令和2年3月18日付けの、審判請求書を補正する手続補正書(以下「審判請求理由補充書」という。)6頁25?38行)と述べているが、請求人は、実施例5で得られた物質が本件補正発明の多形体であるとは主張していない。

ii 請求人は、上記(イ)、(エ)及び(オ)に関連して、
「2-1-1.・・・CTO(オロチン酸に結合したCAI)を包含するヒト用医薬品製造分野における当業者の技術レベルは以下の通りです。
(1)実験レベルの小規模製造(グラム規模)(例えば、本願明細書の実施例1?5)では、医薬品の製造管理及び品質管理基準(GMP)グレードではない、不純物を含んでいてもよい実験室グレードの成分や試薬が使用されること。
(2)大規模製造(キログラム規模)では、ヒト用医薬品を製造するために、純粋な成分(GMPグレード)を使用しなければならないこと。
(3)ヒト用医薬品製造分野の当業者は結晶多形に関する技術常識を有し、医薬化合物が予想外に2種以上の結晶型等を示したときに起こる問題を、結晶化における僅かな条件変更により解決できること。
したがって、医薬品有効成分(API)製造分野の当業者は、製造方法を実験室規模から工場規模へスケールアップすると、APIの粒径分布や結晶多形における有意な変化がしばしば起ることを認識しています。なお、これらの技術レベルは、資料1・・・に記載されています。
・・・本願明細書記載のスキームII(段落0040?0042)は、CTOの1型及び2型多形体を製造規模で製造するための、5工程を含む新規方法を示しています。
本願明細書には、スキームIIにおける各多形体の製造に特有の条件に関する記載はありません。しかしながら、スキームIIにより意図しない多形体が形成したとしても、前記の技術レベルに鑑み当業者は、僅かな操作変更をスキームIIへ適用して意図する多形体を製造できることを以下に説明致します。
まず、本願明細書は、CTOの1型及び2型多形体を同定するのに十分な情報を記載しています。具体的には、本願明細書の段落0036は各多形体の融点を記載し、同段落0032、図1(J02642)及び図2(J02643)はNMRパターンを記載し、図3(J02642)及び図4(J02643)はXRPDパターンを記載し、図5及び図6はFT-IRを記載しています。
・・・
資料2の記載に鑑みると、本願の図3及び図4に記載のCTOのXRPDパターンは、当業者がCTOの1型及び2型の多形体の同定を可能にする十分な情報を提供しています。
本願明細書の記載に鑑みて当業者は、CTOの各多形体をスキームIIに従って製造できると考えるはずです。仮にスキームIIにより意図した多形体が得られない場合でも、資料3(Organic Process Research & Development, 2000, 4, 413-417)に記載されている周知の「Inverse seeding」法を適用して当業者は意図する多形体を取得できます。資料3はリトナビルに関する2つのInverse seeding法を記載しています(1型について417頁、右欄、9?16行。2型について417頁、右欄、21?27行)。資料3は、下記工程を含むInverse seeding法(又はReverse addition technique)を記載しています。
(資料3:416頁、右欄、下から7行?417頁、左欄、13行)
「少量のシードを、必要量の逆溶剤中で攪拌した。これに対し、製品(product)の溶液を、結晶化溶媒中、ゆっくりと添加した。ごく少量の溶液を元々存在する少量のシードへ添加したので、これは、super-seedingと同じ効果を生み出した。添加が進むにつれ、順に結晶化した製品がシードとして振る舞い、super-seedingの極端な例の効果が与えられる。」
・・・
以上より、本願明細書の記載(特に、スキームII)と当該技術分野の技術レベル(特に、資料3のInverse seeding法)に基づいて、当業者は、CTOの1型及び2型多形体を製造できます。
2-1-2.・・・
しかし、本願明細書の段落0040は「新規方法」であるスキームIIを記載しています。スキームIIは、実験室スケールの5つの実施例(本願明細書の段落0069?0073の実施例1?5)に対応する、製造規模の5工程を記載しています。具体的には、スキームIIの工程1、2、3、4及び5が、それぞれ、実施例1、2、3、4及び5に対応します。
実施例1?5は実験レベルの小規模製造(グラム規模)に関するものであるので、当業者は、実施例1?5の方法は少量のCTOを合成する実験室規模の実験であり、そこで用いる試薬や溶媒は不純物を含んでいてもよい実験室グレードであると理解するはずです。したがって、当業者は、融点の僅かな相違がCTOサンプル中の不純物レベルによると理解できます。一方、本願請求項記載のCTOの1型及び2型多形体のXRPDパターンは、純粋な成分(ヒトで使用するためのGMPグレード)を用いて製造された純粋な結晶から得られたものです。
2-1-3.・・・
しかし、本願明細書の段落0044及び0073(実施例)と基本的な化学原理とに基づき当業者は、意図するCAI:オロチン酸比でCTOを取得する手段を理解できます。例えば、CAI:オロチン酸比が1:1のCTOは、CAI及びオロチン酸を約1モルずつ使用して製造できます。CAI:オロチン酸比が0.7:1.3のCTOでは0.7モルのCAIと1.3モルのオロチン酸となり、これは、1:1?1:4のCAI:オロチン酸比(塩基:酸比)に包含されるCAI:オロチン酸比が1:1.86のCTOについても同様です。CAI:オロチン酸比が1:4のCTOでは、1モルのCAIと4モルのオロチン酸になります。この手順は簡潔であり、前記の比はオロチン酸がCAIよりも多いことを保証します。
ここで、本願明細書の図3及び図4でオロチン酸のピークが28.7の2θにあることは重要です。なぜなら、オロチン酸はCAIへイオン的に結合し、CAIの面間隔(interplanar spacing)に存在しないからです。オロチン酸の割合が大きくなっても、オロチン酸のピーク位置2θは28.7のままです。これが、CAI:オロチン酸比が1:1?1:4の範囲であってもCTOの多形体が同じ回折パターンを有する理由です。
2-1-4.・・・
以上の理由により、本願請求項1?10に係る発明は実施可能要件を満たしています。」(意見書、2頁16行?5頁34行)、
「4-1-3.・・・
本願明細書の全記載と平成31年4月15日付け意見書・・・で述べた理由とから、CTOの1型及び2型多形体をどのようにして得るかを当業者は合理的に理解できます。
本願明細書は、CTOを製造するためのスキームIIを記載しています(段落0040?0042及び図1?図6)。スキームIIにおける各多形体に固有の条件の違いに関する具体的な説明は本願明細書にありません。しかし、スキームIIで意図しない多形体が形成しても、当業者は、出願時に利用可能な文献を用い、僅かな操作変更をスキームIIへ適用して意図する多形体を製造できることを、意見書では資料1?3に基づき説明致しました。
・・・
資料3は、製造販売承認を得るためにリトナビルの2型を1型へ転換させる「Inverse seeding」法を記載しています。多形体を形成する医薬品に関する技術常識又は周知技術に基づき当業者は、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等をすることなくInverse seeding法に変更を施すことができます。意見書中、資料1に基づき説明したとおり、意図しない多形体をヒト用に選択した多形体へ転換するという課題の解決策を有機化学、医薬品化学及び薬学分野の学生に教育する際のケーススタディとして資料3は用いられています。したがって、CTOの1型及び2型多形体を作るために、資料3のInverse seeding法(例示する必要がない程よく知られている技術)をスキームIIへ適用できることを当業者は合理的に理解できます。
以上より、本願明細書の全記載及び技術常識又は周知技術に基づいて、当業者は本発明に係るCTOの多形体を作ることができます。
4-1-4.・・・
前述のとおり、本願明細書の全記載(特にスキームII)及び技術常識(特にInverse seeding法)に基づいて、当業者は本発明に係るCTOの1型及び2型多形体を作ることができます。更にCAIとオロチン酸の量を調節することで、所望の塩基:酸比(CAI:オロチン酸比)を持つCTOを作ることができます。
4-1-5.・・・
4-1-4で述べたとおり、本願明細書の全記載から塩基:酸比が1:1?1:4のCTOの取得手段を当業者が理解できることは自明です。
4-1-6.・・・
・・・資料12は、本願出願時に当業者が利用可能であったので、本願明細書の全記載に基づいて本発明を実施するために当業者が利用可能な技術常識又は周知技術に属します。多形性を詳述する資料12は、医薬品産業では原体の半分以上が多形体又は溶媒和化合物として結晶化することを記載しています(372頁、左欄、第3段落;右欄、第3段落;及び373頁、左欄、第2?3段落)。140を超える文献により引用されている資料12の教示に従い当業者は、固体状化合物の再現可能な結晶化を行うことができます。
平成31年4月15日付け意見書では、2型のリトナビルを1型へ転換させるInverse seeding法を記載した資料3に言及しました。多形体を形成する医薬品に関する技術常識としての資料12に基づき当業者は、Inverse seeding法に変更を施すことができます。意見書では、CTOの1型及び2型多形体の得る手段として工程(a)?(d)を示しました。この工程(a)?(d)は、資料12に基づいて変更したInverse seeding法を本願明細書のスキームIIへ適用することにより当業者に自明です。
「その最初の種晶をどの様にして得られるのか」という疑問について、当業者は、本願明細書及び図面に記載されたCTOの各多形体の構造、機能や特性とスキームIIに従い種晶を得ることができます。多形性は薬学分野で注目度が非常に高く周知であるので、多形性に関する周知技術に基づき当業者は過度の試行錯誤なく種晶を得ることができます(ライフサイエンス産業、特に医薬産業において「多形性」はかなり重要なキーワードです(資料12の372頁、左欄、第2段落))。
なお、以下の経緯により審判請求人は新規結晶を既に所持していました。スキームIIを用いGMP条件下でCTOの最初のロットを大規模に製造したとき、CTOが多形体で存在する証拠は存在しませんでした。したがって、多形体をスクリーニングする実験を行う動機付けを当業者は有しません。しかし、異なる時期にCTOの第2のロットを製造したとき、異なる結晶生成物が予想外に得られました。そのため、多形性が示された物質を特徴付けるために必要な実験を行いました。CTOでは、2つの多形体が同定されました。比較研究の結果、CTOの1型多形体を臨床開発のために選択しました。この1型多形体が、審判請求人が既に所持していた「最初の種晶」です。
4-1-7.・・・
本願明細書は、当業者が本発明を実施できるように本発明を十分に記載しています。・・・前述のとおり、本願明細書の全記載(特にスキームII)及び技術常識(特にInverse seeding法)に基づき当業者は本発明に係るCTOの1型及び2型多形体を作ることができます。
4-1-8.・・・
4-1-4で述べたとおり、本願明細書の全記載(特にスキームII)及び技術常識(特にInverse seeding法)に基づき、更にCAIとオロチン酸の量を調節することにより、当業者は、CAIよりもオロチン酸が優勢な状況を達成できます。
4-1-9.・・・
4-1-2?4-1-8で述べた理由により原査定の理由1及び2は解消したので、請求項1?10に係る発明は実施可能要件及びサポート要件を満たしていると思料します。」(審判請求理由補充書、5頁20行?10頁31行)、
「本願の審理におかれましては、多形体として存在するヒト用の治療活性医薬成分(API)や結晶製品の製造分野における当業者の技術レベル及び技術常識が考慮されるべきものと思料致します。この技術レベルは世界中で均一であるところ、対応外国出願(欧州(ドイツ、フランス、イギリス、アイルランド、イタリア、スイス等)、・・・の審査において審判請求人は前記技術レベルに基づく主張を行い、特許成立に至っております。
日本における当該技術分野の当業者の技術レベルや技術常識は均一な世界的基準にあるところ、当業者は、前記技術レベル等と本願明細書の記載に基づいて本発明の1型及び2型多形体を過度の試行錯誤なしに作ることができます。
・・・(1)「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドの1型多形体であって、図3に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体」(請求項1)の製造、及び(2)「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドの2型多形体であって、図4に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体」(請求項4)の製造は本願明細書に記載されています。具体的には、本願明細書の記載(ウ)(段落[0033]?[0035])に、請求項の記載と矛盾しないかたちで化合物名及び構造式が記載されています。更に本願明細書の記載(エ)(段落[0036]?[0038])には1型及び2型多形体の転移融点が記載され、本願の図3及び図4には、1型及び2型多形体のXRDFが記載されています。
・・・
これに関し、本願明細書の記載(カ)(0040]?[0042])には、1型及び2型多形体の段階的な製造手順が記載されています。
・・・
この点に関し、本願明細書の記載に基づき当業者は、スキームIIの新規方法に従い、1型及び2型の各多形体を製造することができます。多くの医薬化合物は多形性を示すことから、2以上の結晶形態で存在する医薬化合物の取扱いに関する世界中の医薬品化学者の技術レベルは非常に高いといえます。
・・・
資料3は、(1)1型リトナビルは2型リトナビルよりも常に早く結晶化すること、及び(2)所望の結晶形を用いたInverse seeding法を結晶工程で使用したとき、所望の結晶形成は、冷却温度や冷却速度等の冷却条件(前置報告書で指摘された条件です)に依存したことを記載しています(417頁、左欄、下から2行目?右欄、27行)。
資料3の前記(1)及び(2)の記載より、当業者は、(本願明細書のスキームIIに従い作成した)反応混合物を、異なる冷却条件下での結晶化実験に供することにより、「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド」の1型及び2型多形体を選択的に製造するための結晶化条件を認識することできます。なお、種々の冷却条件下で結晶化実験を行うことで結晶化条件をスクリーニングするための、自動化されたハイスループット多形スクリーニング装置(ラマン分光法を使用)は、本願出願日(2010年9月3日)において一般に利用可能でした(本上申書に添付する資料13・・・)。
本願明細書は「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド」の1型及び2型の各多形体を同定するのに十分な情報を開示しています(例えば、図3及び図4)。この情報と資料13記載の自動化装置とを用いることで、当業者は、「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド」の1型及び2型の各多形体を選択的に製造するための結晶化条件の決定と、意図する結晶形(Inverse seeding法用の種晶を含む)の製造とを、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等をすることなく実施できます。
換言すれば、当業者は、資料3に記載された冷却条件を「変更」することにより「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド」の1型及び2型の各多形体を製造することができます。種々の冷却条件下での結晶化実験が可能な自動化装置を利用可能であった本願出願日における技術レベル(資料13)に基づいて、当業者は前記の「変更」(具体的には、資料3に記載された冷却温度を下げること)に到達できます。
以上の理由により、本発明は実施可能要件を満たしています。」(令和2年10月28日付け上申書、6頁1-3の項目2行?8頁27行)と主張している。

請求人の主張は、本願明細書等の全記載(特にスキームII)及び出願時の技術常識(特にInverse seeding法)に基づいて、当業者は本件補正発明の多形体を作ることができるというものであり、また、本願明細書等のスキームIIに従い作成した反応混合物を、異なる冷却条件下での結晶化実験に供することにより、本件補正発明の多形体を選択的に製造するための結晶化条件を認識することでき、本願明細書に記載された本件補正発明の多形体を同定するのに十分な情報と自動化されたハイスループット多形スクリーニング装置を用いることで、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等をすることなく本件補正発明の多形体の製造を実施することができるというものであると認める。

しかし、請求人が指摘するスキームIIの記載は、化合物Bにオロチン酸、メタノール/水を加えて、化合物Bとオロチン酸との化合物を生成することが反応式として記載されているのみであり、スキームIIによって、本件補正発明の多形体の製造方法を当業者が理解できるように記載されているといえないことは上記(エ)で述べたとおりであり、スキームIIをみても、具体的に、本件補正発明の多形体をどのような条件で製造することができるかは不明である。さらに、スキームIIの記載は、本願明細書等に記載された1型多形体と2型多形体の2つの異なる多形体に共通の製造方法に関するものであると認められるところ、1型多形体とは異なるX線粉末回折パターン(図4)により特徴付けられる2型多形体と異なるものとして、本件補正発明の多形体(1型多形体)をどのように製造するかはスキームIIの記載をみても不明である。
また、請求人の主張するInverse seeding法が記載されているとする資料3に記載の方法は、リトナビルという化合物の結晶多形に関し説明したもので、請求人が言及する417頁右欄9?27行は、酢酸エチル中の化合物の溶液から出発してヘプタンを用い、シード(種晶)を用いる等する晶析方法を記載したものであって、結晶となる化合物も溶媒も晶析方法も、本願明細書の段落【0040】のスキームの工程5(化合物Bに、スキーム中の矢印の上下に記載される「オロチン酸」及び「メタノール/水」を用いて、化合物Bとオロチン酸との化合物を製造する工程)とは全く異なるものである。 さらに、資料3に記載の方法が仮に周知の方法であったとしても、該方法を実施するには、シード(種晶)が必要であると認められるところ、種晶の製造方法が不明である。請求人は、「当業者は、本願明細書及び図面に記載されたCTOの各多形体の構造、機能や特性とスキームIIに従い種晶を得ることができます。多形性は薬学分野で注目度が非常に高く周知であるので、多形性に関する周知技術に基づき当業者は過度の試行錯誤なく種晶を得ることができます」(審判請求理由補充書9頁5?8行)と主張するが、上で述べたことから、スキームIIの記載をみても本件補正発明の多形体を製造するための種晶を製造できるとはいえない。
一般的に、結晶化において冷却条件を選択することによって多形体を作り分けられることがあるとしても、どのような冷却条件を選択すればよいかは本願明細書等の記載からは不明であり、上記(オ)で述べたとおり、実際に本件補正発明の多形体を製造するためには、化合物Bとオロチン酸の比率、メタノール/水におけるそれらの比率、濃度、温度、冷却速度、攪拌の有無や攪拌する場合の程度や時間、その他、多くの条件設定が必要であるから、自動化されたハイスループット多形スクリーニング装置を用いたとしても、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等をすることなく本件補正発明の多形体の製造を実施することができるとはいえない。
さらに、請求人は、「以下の経緯により審判請求人は新規結晶を既に所持していました。スキームIIを用いGMP条件下でCTOの最初のロットを大規模に製造したとき、CTOが多形体で存在する証拠は存在しませんでした。したがって、多形体をスクリーニングする実験を行う動機付けを当業者は有しません。しかし、異なる時期にCTOの第2のロットを製造したとき、異なる結晶生成物が予想外に得られました。そのため、多形性が示された物質を特徴付けるために必要な実験を行いました。CTOでは、2つの多形体が同定されました。比較研究の結果、CTOの1型多形体を臨床開発のために選択しました。この1型多形体が、審判請求人が既に所持していた「最初の種晶」です。」(審判請求理由補充書、9頁11?18行)とも主張するが、請求人が新規結晶を既に所持していたかどうかは、本件補正発明の実施可能要件充足の直接の根拠にはならないし、上記主張における第2のロットの製造条件は不明であって、どのような製造条件で、本件補正発明の多形体が得られるかも明らかではない。
加えて、請求人が実施可能要件充足の前提としている1:1?1:4の塩基:酸比を有するCTOを製造できること(仮に製造できるとして)と、所定のX線回折パターンを有する結晶を製造できることとは、別のことであるし、「本願明細書の図3及び図4でオロチン酸のピークが28.7の2θにあることは重要です。なぜなら、オロチン酸はCAIへイオン的に結合し、CAIの面間隔(interplanar spacing)に存在しないからです。オロチン酸の割合が大きくなっても、オロチン酸のピーク位置2θは28.7のままです。これが、CAI:オロチン酸比が1:1?1:4の範囲であってもCTOの多形体が同じ回折パターンを有する理由です。」(意見書、5頁9?13行)との主張についても、何ら技術的な根拠が示されていない。そもそも、オロチン酸と結合した化合物Bの多形体が、あらゆる塩基:酸比(但し、1:1?1:4の範囲内)において、そのX線回折パターンが同じであるということは、塩基:酸比により結晶構造の面間隔が変化しないということといえるが、化合物Bとオロチン酸とがイオン的に結合していることと面間隔を変化させないこととの技術的関係が不明であり、あらゆる塩基:酸比で面間隔が変化しないという出願時の技術常識はなく、仮に図3と図4の双方に28.7°の2θにピークがあるとしても、図面全体では、両者は異なるX線回折パターンであるといえるから、図3と図4の双方に28.7°の2θにピークがあることは、塩基:酸比が1:1?1:4の範囲においてオロチン酸と結合した化合物Bの多形体が同じX線回折パターンを有することの根拠とはならない。

(キ)以上によれば、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件補正発明の多形体を生産することができる、とはいえない。したがって、本件補正発明について、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、この出願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

(3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア はじめに
以下の観点に立って、検討する。
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 発明の詳細な説明及び図面の記載
上記(2)イに記載したとおりである。

ウ 本件補正発明の課題について
上記(2)イ(ア)及び(イ)によれば、従来技術のL651582オロチン酸塩(塩基:酸が2:1)(審決注:「L651582」は化合物Bである。)は、抗腫瘍活性を有することが文献により知られていたが、2:1の塩基:酸比でのL651582オロチン酸塩の化学的、薬理学的及び生物学的特性が至適だったかどうかに関する教示または示唆はなく、至適の化学的、生物学的、薬理学的、治療的、及び毒素動態学的な特徴を提供するCAI(審決注:化合物Bである。)及びCAIのオロチン酸化合物(orotate compound)の新規多形体を開発する必要性があった。また、従来技術のL651582の製造は、中間体を生産するために高毒性のアジ化ナトリウムを使用する問題があった。そこで、この出願の発明は、主要な目的が、生体利用率に関連しそして人体体液中での可溶性に依存する実効性を改良したCAIのオロチン酸製剤(塩基:酸比は1:1?1:4の範囲である)を開発することであり、別の目的がバルク量のCAI、CTOおよびCAOを生産するためにより安全でよりコスト効率のよい方法を開発することであり、重要な目的が、中間体を生産するために、非常に低い濃度で高毒性のアジ化ナトリウムまたはアジ化カリウムを使用する代わりに、より安全でより毒性の低い成分を使用することによってより安全なCAIを製造することであり、この出願の発明は、CAI及びそのオロチン酸製剤の新規多形体の生産ももたらし、それらの調製のより安全な方法を提供した、というものである。
したがって、多形体についての発明である本件補正発明の課題は、生体利用率に関連しそして人体体液中での可溶性に依存する実効性を改良したCAIのオロチン酸製剤(塩基:酸比は1:1?1:4の範囲である)に用いるCAIのオロチン酸塩の新規多形体を提供することであると認める。

エ 発明の詳細な説明に記載された発明と本件補正発明との対比・判断
本件補正発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又は示唆により当業者が本件補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
上記(2)において、実施可能要件について検討したとおり、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、本件補正発明の多形体を生産できるとはいえない。
本件補正発明の多形体を生産できるとはいえない以上、上記ウに示した、本件補正発明の課題を、解決できるとはいえない。
したがって、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

オ まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

(4)補正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明について、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年1月31日提出の手続補正書でした手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、平成29年9月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5- ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドの1型多形体であって、
図3に実質的に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、
塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体。
図3
【化1】



2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成30年10月11日付けの拒絶理由通知における理由1?4であるところ、理由1は「(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであり、理由2は「(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものである。
具体的には、理由1及び2について、
「発明の詳細な説明及び図面には、CTOの多形体とはオロチン酸がイオン結合したCAIであり、1型・2型なるものが段落0036に記載の融点及び図1?6に示される1H-NMRスペクトル、FT-IRパターン、X線粉末回折パターンであることが記載される。
しかし、それら多形をいかにして得るかについて具体的な記載はない。
明細書のいずれの箇所を参照しても、CAI自体またはそのオロチン酸塩自体の合成法の記載のあるのみで、いかにして1型・2型の結晶を得るかについては記載がない。
実施例を参照しても、CAI自体(実施例4)には何ら物性の特定はなく結晶であるかも記載がなく、CTO自体(実施例5)に記載の示唆走査熱量測定法による融点測定の結果は上記1型・2型として記載されるもののいずれとも合致しない。
実施例5には「1:1」の、実施例7には「0.7:1.3」のものが得られたとの文言上の記載があるが、それらがそのようなものであることがいかにして確認されたかについての記載はない。実施例5のものについてはCAIとオロチン酸の原料比が記載されるのみで具体的な実験条件や収量等について記載はなく、実施例7のものについてはそもそもどのようにしてそれを得たか自体の記載がない。
従来技術として明細書の段落0005に記載される文献(下記引用文献2)には、オロチン酸塩の結晶を得たことの記載があり、実施例において、本願明細書の実施例5同様にCAIとオロチン酸とをモル比1:1程度でメタノール/水中で混合したにもかかわらず、CAI基準でほぼ95%という高収率で2:1のイオン結晶を得たことが記載されている。そうすると、本願明細書に記載の具体例の記載により、どのようにして、従来の2:1でなく、1:1及び0.7:1.3の化合物、あるいは1:1?1:4の化合物を得られるかについて、従来技術を考慮しても当業者に自明であるとはいえない。」と指摘した後に、
理由1についてはさらに、
「したがって、請求項1-8に係る発明の多形体、及び請求項9-10に係る発明の医薬組成物における「1型多形体」、又は「2型多形体」を製造し、使用することができるように、発明の詳細な説明が記載されていない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-10に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」と指摘しており、
理由2についてはさらに、
「したがって、請求項1-8に係る発明の多形体、及び請求項9-10に係る発明の医薬組成物における「1型多形体」、又は「2型多形体」の入手手段は、明細書の記載、及び従来技術を考慮しても、当業者が把握できるものとはいえない。
よって、請求項1-10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」と指摘している。
なお、上記原査定及び拒絶理由通知において、「引用文献等一覧」に、「2.特表平11-510141号公報」と記載されている。
本願発明は、拒絶理由通知で言及された請求項1に係る発明である。

3 当審の判断
本願発明は、上記本件補正発明の「図3に示されるX線回折パターン」との発明特定事項が「図3に実質的に示されるX線回折パターン」とされ、上記発明特定事項に「実質的に」が追加されているに過ぎず、「実質的に」との発明特定事項がない発明を包含するから、本件補正発明を包含する発明である。
また、本願については、発明の詳細な説明及び図面の補正はされていない。
してみると、第2[理由]2で述べたとおり、本件補正発明について、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないのであるから、本件補正発明を包含する本願発明についても、同様の理由により、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明について、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-12-22 
結審通知日 2020-12-24 
審決日 2021-01-08 
出願番号 特願2017-150532(P2017-150532)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C07D)
P 1 8・ 575- Z (C07D)
P 1 8・ 536- Z (C07D)
P 1 8・ 537- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 倫世  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 冨永 保
齊藤 真由美
発明の名称 新規の組成物、ならびに5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールおよびトリアゾールオロチン酸塩製剤を調製する方法  
代理人 星野 貴光  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 須田 洋之  
代理人 市川 さつき  

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