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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1374345
審判番号 不服2019-666  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-18 
確定日 2021-05-20 
事件の表示 特願2015-7423「セメント組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年7月25日出願公開、特開2016-132587〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月19日に出願された特願2015-7423号であって、平成30年8月2日付けの拒絶理由通知に対し、同年10月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年10月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成31年1月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたが、令和2年3月2日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年7月14日付けで拒絶理由通知がなされ、同年9月14日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年12月21日付けで拒絶理由通知がなされ、令和3年2月12日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明
令和3年2月12日の手続補正(以下、「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
結合材と、骨材(ただし、細骨材として高炉スラグ細骨材を使用する場合を除く。)と、水と、を有するセメント組成物(ただし、混和剤として増粘剤を含有した混和剤を使用する場合と、材齢3月以内のコンクリート硬化体となる時、硬化体の中性化深さが0.5mm以上となるセメント組成物である場合とを除く。)であって、
前記結合材としてセメントと高炉スラグ微粉末(ただし、ブレーン値が5700?6300cm^(2)/gの高炉スラグ微粉末を除く。)のみを有し、
前記水と前記結合材の水結合材比を37?44%とし、
前記セメントの単位セメント量を94?111kg/m^(3)としたセメント組成物。(ただし、前記水と前記結合材の水結合材比を37%とし、結合材中にセメントを25%、高炉スラグ微粉末を75%含有し、単位水量が149kg/m^(3)であるセメント組成物を除く。)」

第3 拒絶の理由
令和2年12月21日付けで当審が通知した拒絶理由の理由1(新規性)は、次のとおりのものである。

本件補正前の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の文献7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

文献7:溝渕 麻子 他、「混和剤を高含有したコンクリートのCO_(2)削減効果」、コンクリート工学年次論文集、Vol.36、No.1、2014年、P.118?123

第4 当審の判断
本件補正の請求項1に係る発明は、上記第3に示した理由により、特許を受けることができないものである。理由は以下のとおりである。

1 文献7の記載
文献7には、以下の事項が記載されている。
(1a)
「要旨:本研究は、混和材を高含有したコンクリートのCO_(2)削減効果を把握することを目的に、結合材の種類および混合割合、水結合材比をパラメータとした実験を行い、結合材水比と強度の関係および結合材水比とCO_(2)排出量の関係をもとめ、対象とするコンクリートのCO_(2)排出量低減率を算定した。その結果、CO_(2)排出量の削減率は、強度レベルによらず結合材中のセメントの混合割合と相関が高いことが実験結果からも確認することができた。また、適用事例および既往の研究例での検証も行った。
・・・
1.はじめに
低炭素社会の構築を進め、温室効果ガス排出量の削減に努めなければならない昨今であるが、 日本は現在、地球温暖化、東日本大震災からの復興・復旧、エネルギーの安定的確保などの課題を抱えているのが現状である。
日本の年平均気温は約1.15℃/100年の割合で上昇しており、1990年以降は高温となる年が頻出している^(1))。また、IPCC第4次評価報告書^(2))では「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇は、人為起源の温室効果ガス濃度増加による可能性が高い」と示されており、温暖化の要因が人為的なものによるとされている。
コンクリートの低炭素化には、CO_(2)排出量原単位が少ない産業副産物である高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等の混和材を利用することが有効であるとされ、各種検討が行われている。 本研究はこのような背景を踏まえ、コンクリートの材料起源におけるCO_(2)排出量を算定し、混和材を高含有したコンクリートのCO_(2)削減効果について実験的に検討している。また、併せて、 適用事例や既往の研究例をもとに検証を加えている。

2.コンクリートの低炭素化
コンクリートの主な使用材料であるポルトランドセメントはCO_(2)排出量原単位が大きく、これはセメントの製造工程に起因する。セメントの製造工程は「原料工程」、「焼成工程」および「仕上工程」に大別され、これらの工程において、CO_(2)はエネルギー起源と非エネルギー起源として排出される。「原料工程」および「仕上工程」 では原材料の粉砕およびセメントの中間製品であるクリン力を粉砕する際の電力エネルギー、「焼成工程」では高温で原材料を焼成し、クリンカを製造する際の熱エネルギーがある。日本のセメント製造技術は世界のトップクラスにあり、積極的にエネルギーの効率化を追求している。しかし、セメント産業からのCO_(2)排出量は日本国内全体の約3.7%^(3))を占めるため、コンクリートを低炭素化することによりCO_(2)削減に大きな効果を期待することができる。」(118頁)

(1b)
「3.1 使用材料
使用材料の種類および品質を表-1に示す。結合材としては、普通ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュおよびシリカフュームを用いた。」(119頁左欄4行?7行)

(1c)


」(118頁)

(1d)
「3.2 実験条件
実験の設定条件を表-2に、パラメータとした結合材の混合割合および予備実験により決定した単位水量を表-3にそれぞれ示す。 各種結合材の組合せおよび結合材料に対する各種材料の混合割合をパラメータとし、結合材はセメントをベースとして、その一部を高炉スラグ微粉末で置換した2成分系、高炉スラグ微粉末の一部をさらにフライアッシュで置換した3成分系、フライアッシュの一部をシリカフュームで置換した4成分系に大別する。水結合材比は30%、37%および44%の3水準とした。」(119頁左欄8行?18行)

(1e)


」(119頁左欄)

(1f)


」(119頁右欄)

(1g)
「4. 実験結果4.1 強度試験結果 結合材の混合割合と28日標準養生強度の関係に整理した結果を図-1に示す。セメント単体とした1成分と高炉スラグ微粉末を組合せた2成分を見ると、セメントの混合割合の減少に伴って、強度は減少する傾向にある。」(119頁左欄29行?120頁左欄2行)

(1h)


」(119頁右欄)

2 引用発明
文献7には、上記(1a)によると、本研究は、混和材を高含有したコンクリートのCO_(2)削減効果を把握することが目的であること、コンクリートを低炭素化することによりCO_(2)削減に大きな効果を期待することができること、コンクリートの低炭素化には、CO_(2)排出量原単位が少ない産業副産物である高炉スラグ微粉末等の混和材を利用することが有効であるとされ、各種検討が行われており、このような背景を踏まえ、コンクリートの材料起源におけるCO_(2)排出量を算定し、混和材を高含有したコンクリートのCO_(2)削減効果について実験的に検討していること、結合材の種類および混合割合、水結合材比をパラメータとした実験を行い、結合材水比と強度の関係および結合材水比とCO_(2)排出量の関係をもとめ、対象とするコンクリートのCO_(2)排出量低減率を算定し、その結果、CO_(2)排出量の削減率は、強度レベルによらず結合材中のセメントの混合割合と相関が高いことが実験結果からも確認することができたことが記載されている。
そして、上記(1b)?(1h)には、コンクリートの結合材として、普通ポルトランドセメントをベースとして、その一部を高炉スラグ微粉末で置換した2成分系のものを用いたこと、前記高炉スラグ微粉末として、比表面積が4360cm^(2)/gのものを用いたこと、前記結合材以外の使用材料として、水、陸砂からなる細骨材、硬質砂岩砕石からなる粗骨材、及び混和剤を用い、前記混和剤として、高性能AE減水剤とAE助剤を用い、水結合材比は30%、37%および44%の3水準とした具体的な例が記載されている。
また、上記(1f)の表-3には、調合No.3として、結合材中にセメント(C)を25%、高炉スラグ微粉末(BS)を75%含有し、単位水量が149kg/m^(3)であるコンクリートが記載されている。

したがって、文献7には、
「結合材と、陸砂からなる細骨材と、硬質砂岩砕石からなる粗骨材と、水と、混和剤と、を有するコンクリートであって、
前記混和剤として高性能AE減水剤とAE助剤を用い、
前記結合材として普通ポルトランドセメントとブレーン比表面積が4360cm^(2)/gである高炉スラグ微粉末のみを有し、
前記水と前記結合材の水結合材比が30%、37%および44%である場合を具体例とし、当該水結合材比を37%とした場合には、
前記結合材中にセメント(C)を25%、高炉スラグ微粉末(BS)を75%含有し、単位水量が149kg/m^(3)であるコンクリートの発明」(以下、「引用発明7」という)が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
本願発明1と引用発明7とを対比すると、引用発明7の細骨材は陸砂であり、粗骨材は硬質砂岩砕石であって、高炉スラグ細骨材ではないため、引用発明7の細骨材及び粗骨材は、本願発明1における「骨材(ただし、細骨材として高炉スラグ細骨材を使用する場合を除く。)」に相当する。
そして、引用発明7のコンクリートは、セメント、高炉スラグ、骨材、水及び混和剤を有するセメント組成物が硬化することでコンクリート硬化体となったものであるから、前記コンクリートが硬化する前のセメント組成物は、本願発明1における「セメント組成物」に相当する。
さらに、引用発明7のコンクリートは、「前記水と前記結合材の水結合材比を37%とし、結合材中にセメント(C)を25%、高炉スラグ微粉末(BS)を75%含有し、単位水量が149kg/m^(3)である」ところ、水結合材比(W/(C+BS))が37%である場合について、前記セメント(C)の単位量をそれぞれ計算すると、
セメント(C)の単位量(kg/m^(3))
=149/0.37×0.25
=100.7
となるから、本願発明1における「前記水と前記結合材の水結合材比を37?44%とし、前記セメントの単位セメント量を94?111kg/m^(3)」の範囲内である。
また、引用発明7の混和剤は、高性能AE減水剤とAE助剤を含有するものであり、これらは増粘剤であるとは認められず、混和剤として増粘剤を使用することは文献7には記載されてないから、引用発明7におけるコンクリートには増粘剤を含有した混和剤は使用されていないものと認められる。
そして、引用発明7のコンクリートが硬化する前のセメント組成物は、材齢3月以内のコンクリート硬化体となる時、硬化体の中性化深さが0.5mm以上となるセメント組成物ではないため、本願発明1における「材齢3月以内のコンクリート硬化体となる時、硬化体の中性化深さが0.5mm以上となるセメント組成物である場合・・・を除く。」を満足する。
そうとすると、本願発明1と引用発明7とは、「結合材と、骨材(ただし、細骨材として高炉スラグ細骨材を使用する場合を除く。)と、水と、を有するセメント組成物(ただし、混和剤として増粘剤を含有した混和剤を使用する場合と、材齢3月以内のコンクリート硬化体となる時、硬化体の中性化深さが0.5mm以上となるセメント組成物である場合とを除く。)であって、
前記結合材としてセメントと高炉スラグ微粉末(ただし、ブレーン値が5700?6300cm^(2)/gの高炉スラグ微粉末を除く。)のみを有し、
前記水と前記結合材の水結合材比を37?44%とし、 前記セメントの単位セメント量を94?111kg/m^(3)としたセメント組成物。」
を満足するものの、水結合材比を37%とし、結合材中にセメントを25%、高炉スラグ微粉末を75%含有し、単位水量が149kg/m^(3)であるセメント組成物が除かれているため、さらに検討する。
上記第4の2で示したとおり、引用発明7は、発明の課題が、“CO_(2)排出量原単位が少ない産業副産物である高炉スラグ微粉末等の混和材を利用することで、コンクリートの強度を低下させることなく、コンクリートの材料起源におけるCO_(2)排出量を削減すること”であるといえ、かかる課題は、本願発明1の課題と同一乃至類似するものである。
ここで、前記1(1a)によれば、引用発明7の技術思想は、混和材を高含有したコンクリートのCO_(2)削減効果を把握することを目的に、結合材の種類及び混合割合、水結合材比をパラメータとした実験を行い、結合材水比と強度の関係及び結合材水比とCO_(2)排出量の関係を求め、対象とするコンクリートのCO_(2)排出量低減率を算定した結果、CO_(2)排出量の削減率は、強度レベルによらず結合材中のセメントの混合割合と相関が高いことを確認した、というものである。
そして、上記技術思想からみれば、引用発明7は、パラメータの一つである水結合材比について、30%、37%及び44%が代表的な値として挙げられる、30%?44%の範囲において、混和材を高含有したコンクリートのCO_(2)削減効果を把握することを目的としたものといえるから、37%を除いた、37%超?44%の範囲にある水結合材比を有する「セメント組成物」を排除するものではない。
更に、引用発明7の課題が本願発明1の課題と同一ないし類似することは上記のとおりであるから、本願発明1において、水結合材比を37%とし、結合材中にセメントを25%、高炉スラグ微粉末を75%含有し、単位水量が149kg/m^(3)であるセメント組成物が除かれているとしても、本願発明1と引用発明7とは、37%超?44%の範囲にある水結合材比を有し、結合材中にセメントを25%、高炉スラグ微粉末を75%含有し、単位水量が149kg/m^(3)であるセメント組成物である点で一致するというべきである。
そしてその場合、例えば、水結合材比が37%と44%の間の39.6%である場合には、

セメント(C)の単位量(kg/m^(3))
=149/0.396×0.25
=94.1
となることからみれば、引用発明7は、少なくとも水結合材比が37%超?39.6%の間で、「前記セメントの単位セメント量を94?111kg/m^(3)とした」との発明特定事項を満足するから、本願発明1における「前記セメントの単位セメント量を94?111kg/m^(3)としたセメント組成物。(ただし、前記水と前記結合材の水結合材比を37%とし、結合材中にセメントを25%、高炉スラグ微粉末を75%含有し、単位水量が149kg/m^(3)であるセメント組成物を除く。)」との発明特定事項を満足するものである。
してみれば、本願発明1と引用発明7との間に相違点は存在しないので、本願発明1は文献7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第6 請求人の主張ついて
請求人は、令和3年2月12日提出の意見書において、次のように主張する。
「補正後請求項1を、「前記水と前記結合材の水結合材比を37%とし、結合材中にセメントを25%、高炉スラグ微粉末を75%含有し、単位水量が149kg/m^(3)であるセメント組成物」を除く所謂除くクレームとしております。・・・かかる補正によって、補正後請求項1に係る発明が文献7と差別化されたものと思量します。
以上のことから、本願発明は、引用文献に記載された発明ではありません。このため、新規性違反は解消したものと思量します。」

請求人の上記主張によると、同意見書とともに提出された本件補正における請求項1に係る発明は、「前記水と前記結合材の水結合材比を37%とし、結合材中にセメントを25%、高炉スラグ微粉末を75%含有し、単位水量が149kg/m3であるセメント組成物」を除くという、所謂除くクレームによって、補正後の請求項1に係る発明が文献7に記載された発明と差別化されたものとしているが、引用発明7の技術思想からみれば、引用発明7は、37%を除いた、37%超?44%の範囲にある水結合材比を有する「セメント組成物」を排除するものではないこと、及び、引用発明7の課題が本願発明1の課題と同一ないし類似することは上記のとおりであるから、水結合材比が37%の点を除いたとしても、本願発明1と引用発明7との差別化がされているとはいえないから、請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-09 
結審通知日 2021-03-16 
審決日 2021-03-30 
出願番号 特願2015-7423(P2015-7423)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C04B)
P 1 8・ 537- WZ (C04B)
P 1 8・ 121- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 金 公彦
末松 佳記
発明の名称 セメント組成物  
代理人 一色国際特許業務法人  

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