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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01Q |
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管理番号 | 1374378 |
審判番号 | 不服2020-10001 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-07-17 |
確定日 | 2021-06-15 |
事件の表示 | 特願2018- 31801「統合アンテナモジュール,及び,車載システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月 5日出願公開,特開2019-149612,請求項の数(12)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成30年2月26日の出願であって,平成30年12月26日に手続補正がされ,令和元年10月21日付けで拒絶理由通知がされ,令和元年12月25日に手続補正がされ,令和2年5月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年7月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和3年2月12日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,令和3年4月5日に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和2年5月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 この出願の請求項1-13に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2017-200086号公報 2.特開2003-332817号公報 3.特開2018-26660号公報 4.特表2005-521314号公報 5.特開2002-290148号公報 6.国際公開第2016/185871号 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 この出願の請求項1-12に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2017-200086号公報 2.特表2007-527125号公報 第4 本願発明 本願請求項1-12に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明12」という。)は,令和3年4月5日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 車両に搭載され,複数のアンテナ要素からなるアンテナ要素群を備え, 前記アンテナ要素群は,前記複数のアンテナ要素が組み合わさって複数の電磁波を送信又は受信可能な複数のアンテナを構成し, さらに,前記アンテナ要素群は,前記複数のアンテナ要素の相互の接続状態を切り替え可能である切替部を含んで構成され,当該切替部によって前記複数のアンテナ要素の相互の接続状態が切り替えられることで複数の異なる送受信モードに切り替え可能であり,前記複数の異なる送受信モードとして,前記複数のアンテナ要素が集約状態とされ各前記アンテナ要素が構成する各前記アンテナによって受信した電磁波を集約して1つの信号とする全方位アンテナモードと,前記複数のアンテナ要素が独立状態とされ各前記アンテナ要素が構成する各前記アンテナによって受信した電磁波を独立してそれぞれ1つずつの信号とする指向性アンテナモードとで動作するように構成され,前記車両の現在位置に応じて前記送受信モードが前記全方位アンテナモードと前記指向性アンテナモードとに切り替えられ,送受信対象が相対的に少ない郊外部を前記車両が走行する場合に前記全方位アンテナモードとされ,当該全方位アンテナモードでは,複数の前記アンテナによって受信した同一の前記送受信対象からの同一の電磁波に基づく信号について,受信状況の優れた前記アンテナの信号を優先的に用いる,あるいは,各信号を合成してノイズを除去し,送受信対象が相対的に多数存在する都市部を前記車両が走行する場合に前記指向性アンテナモードとされることを特徴とする, 統合アンテナモジュール。 【請求項2】 前記アンテナ要素群は,前記複数のアンテナ要素が組み合わさって複数の異なる周波数の電磁波を送信又は受信可能な前記複数のアンテナを構成する, 請求項1に記載の統合アンテナモジュール。 【請求項3】 前記複数のアンテナ要素は,少なくとも一部が板状に形成された板状部材に平面状に設けられる, 請求項1又は請求項2に記載の統合アンテナモジュール。 【請求項4】 前記複数のアンテナ要素は,少なくとも一部が前記車両の内部,又は,前記車両の外部に露出して設けられる樹脂部材に内蔵可能な薄型構造で構成される, 請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の統合アンテナモジュール。 【請求項5】 前記アンテナ要素群の動作を制御する通信制御モジュールと, 前記複数のアンテナ要素の少なくとも一部,及び,前記通信制御モジュールの少なくとも一部が組み付けられる筐体とを備える, 請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の統合アンテナモジュール。 【請求項6】 前記複数のアンテナ要素と前記通信制御モジュールとの間に介在し電気信号を光信号に変換し当該変換された光信号を伝送し当該伝送された光信号を電気信号に変換する光信号伝送部を備える, 請求項5に記載の統合アンテナモジュール。 【請求項7】 前記アンテナ要素群は,前記複数のアンテナ要素として,複数の主アンテナ要素,及び,前記複数の主アンテナ要素とは異なる位置に設けられる補助アンテナ要素を含む, 請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の統合アンテナモジュール。 【請求項8】 前記アンテナ要素群は,前記複数のアンテナ要素が状況に応じて使い分けられて複数の異なる送受信モードで動作する, 請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の統合アンテナモジュール。 【請求項9】 車両に搭載され電磁波を送信又は受信可能な統合アンテナモジュールと, 前記統合アンテナモジュールと電気的に接続され前記統合アンテナモジュールと前記車両に搭載された車載機器との間で通信を中継するルータとを備え, 前記統合アンテナモジュールは, 複数のアンテナ要素からなるアンテナ要素群を備え, 前記アンテナ要素群は,前記複数のアンテナ要素が組み合わさって複数の電磁波を送信又は受信可能な複数のアンテナを構成し, さらに,前記アンテナ要素群は,前記複数のアンテナ要素の相互の接続状態を切り替え可能である切替部を含んで構成され,当該切替部によって前記複数のアンテナ要素の相互の接続状態が切り替えられることで複数の異なる送受信モードに切り替え可能であり,前記複数の異なる送受信モードとして,前記複数のアンテナ要素が集約状態とされ各前記アンテナ要素が構成する各前記アンテナによって受信した電磁波を集約して1つの信号とする全方位アンテナモードと,前記複数のアンテナ要素が独立状態とされ各前記アンテナ要素が構成する各前記アンテナによって受信した電磁波を独立してそれぞれ1つずつの信号とする指向性アンテナモードとで動作するように構成され,前記車両の現在位置に応じて前記送受信モードが前記全方位アンテナモードと前記指向性アンテナモードとに切り替えられ,送受信対象が相対的に少ない郊外部を前記車両が走行する場合に前記全方位アンテナモードとされ,当該全方位アンテナモードでは,複数の前記アンテナによって受信した同一の前記送受信対象からの同一の電磁波に基づく信号について,受信状況の優れた前記アンテナの信号を優先的に用いる,あるいは,各信号を合成してノイズを除去し,送受信対象が相対的に多数存在する都市部を前記車両が走行する場合に前記指向性アンテナモードとされることを特徴とする, 車載システム。 【請求項10】 前記アンテナ要素群は,前記複数の異なる送受信モードとして,前記複数のアンテナ要素の相互の接続状態を切り替えて当該複数のアンテナ要素の組み合わせを切り替えることで,送受信する電磁波の周波数帯域が相互に異なる複数の周波数帯域モードで動作するように構成される, 請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の統合アンテナモジュール。 【請求項11】 前記アンテナ要素群は,前記複数の異なる送受信モードとして,状況に応じて前記アンテナの指向性が可変とされ当該アンテナの送受信範囲又は向きが可変とされた指向性可変モードと,前記アンテナの指向性が固定され当該アンテナの送受信範囲及び向きが固定された指向性固定モードとで動作するように構成される, 請求項1乃至請求項8,請求項10のいずれか1項に記載の統合アンテナモジュール。 【請求項12】 前記アンテナ要素群は,前記複数の異なる送受信モードとして,前記複数のアンテナ要素によって構成される前記複数のアンテナが動作制限されることなく動作する通常送受信モードと,前記複数のアンテナ要素によって構成される前記複数のアンテナのうち送受信が要求される特定の前記アンテナの通常動作を許可する一方,その他の前記アンテナの電磁波の送受信が制限される干渉抑制モードとで動作するように構成される, 請求項1乃至請求項8,請求項10,請求項11のいずれか1項に記載の統合アンテナモジュール。」 第5 進歩性の判断 1.引用発明 (1)引用発明1について 原査定の理由及び当審拒絶理由に引用された特開2017-200086号公報(以下,「引用例1」という。下線は当審が付与。)には, 「【0014】 [実施形態] 図1,図2に示す本実施形態のルーフモジュール1は,車両Vに適用され,当該車両Vに搭載される各装置間を接続し電源供給や信号通信に用いられるワイヤハーネスの一部を構成する車載モジュールである。ルーフモジュール1は,車両Vの外装を構成する屋根部材であるルーフパネルRP近傍に設けられると共に,種々の機能を統合し適正な通信環境の確保を図った統合オーバーヘッドモジュールである。本実施形態のルーフモジュール1は,典型的には,車両内外における適正な通信環境の確保を図ったものであり,例えば,V2V(Vehicle to Vehicle:車車間)通信やV2I(Vehicle to Infrastructure:路車間)通信を含むV2X(Vehicle to everything)通信,ラジオ,DTV,TEL等の車室外側からの通信を受信し,情報を集約して車室内側に展開し,車室外側の通信と車室内側の通信とをリアルタイムに連携させるものである。」 「【0018】 具体的には,ルーフモジュール1は,図3,図4,図5に示すように,筐体2と,アンテナ3と,金属パネル4と,モジュール基板5とを備え,これらが一体化されモジュール化される。筐体2は,ベース21と,カバー22とを含んで構成される。ルーフモジュール1は,ルーフパネルRPの車室内側において,車室外側から車室内側に向かって,ベース21,アンテナ3,金属パネル4,モジュール基板5,カバー22の順で積層された構造となっている。ルーフモジュール1は,アンテナ3,モジュール基板5等が収容空間部SP,中空柱状のピラーPLの内部空間等に配索される電力線(電線)等を介して電源と電気的に接続され電力が供給される。同様に,ルーフモジュール1は,アンテナ3,モジュール基板5等が収容空間部SP,中空柱状のピラーPLの内部空間等に配索される通信線(電線)を介してワイヤハーネスを構成する他の車載モジュールの一部の機器と電気的に接続され,相互通信可能とされてもよい。」 「【0025】 アンテナ3は,ルーフパネルRPの車室内側に当該ルーフパネルRPに沿って面状に設けられ電波等の電磁波を送受信し,車室外側の通信機器と通信可能なものである。アンテナ3は,例えば,V2X,ラジオ(AM,FM等),DTV(2K,4K,8K等),TEL(PCS,CDMA,LTE,WiMAX(登録商標),5G等),GNSS(Global Navigation Satellite Systems(GPS,GLONASS,ガリレオ等)等,広域無線通信により車室外側の通信機器と通信する。また,アンテナ3は,例えば,ETC/DSRC,VICS(登録商標),無線LAN,ミリ波通信等,狭域無線通信により車室外側の通信機器と通信してもよい。本実施形態のアンテナ3は,いわゆる平面アンテナであり,典型的には,ルーフパネルRPとルーフライナRLとの間に形成される収容空間部SP内に収まる略矩形板面状の薄型アンテナである。アンテナ3は,例えば,絶縁基板31の表面(ここでは車室内側の表面だがこれに限らない。)に印刷回路体として印刷された回路体32によってアンテナパターンが形成されることで構成される。また,アンテナ3は,誘電体基板とその両面に印刷配線された放射素子と地導体板を構成要素とするマイクロストリップアンテナ等によって構成されてもよい。ここでは,アンテナ3は,種々の固定機構を介してベース21の車室内側の面に固定され,当該ベース21に沿って面状に設けられる。」 【図3】 の記載がある。 図3によれば,複数の回路体32によって複数のアンテナパターンが存在しているから,引用例1には, 「車両Vに適用され,V2V通信やV2I通信を含むV2X通信,ラジオ,DTV,TEL等の車室外側からの通信を受信し,情報を集約して車室内側に展開し,車室外側の通信と車室内側の通信とをリアルタイムに連携させるルーフモジュールであって, 筐体2と,アンテナ3と,金属パネル4と,モジュール基板5とを備え, アンテナ3は,例えば,V2X,ラジオ(AM,FM等),DTV,TEL(PCS,CDMA,LTE,WiMAX(登録商標),5G等),GNSS(GPS,GLONASS,ガリレオ等)等,広域無線通信により車室外側の通信機器と通信し,ETC/DSRC,VICS(登録商標),無線LAN,ミリ波通信等,狭域無線通信により車室外側の通信機器と通信してもよく,絶縁基板31の表面に印刷回路体として印刷された回路体32によって複数のアンテナパターンが形成される ルーフモジュール。」(以下,「引用発明1」という。) の発明が記載されている。 (2)引用発明2について 原査定の理由に引用された特開2003-332817号公報(下線は当審が付与。)には, 「【0015】次に,本発明の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態によるアンテナシステムは,複数のアンテナで各々受信した電波信号を多重して一本の光ファイバケーブルにより伝送するものである。図2に第2の実施形態によるアンテナシステムの構成例を示す。この図2に示すアンテナシステムは,4つのアンテナ11a?11dを備え,これらアンテナ11a?11dで受信した4つの電波信号を多重して光ファイバケーブル15dにより伝送する。アンテナ11aはGPSの電波受信用,アンテナ11bは衛星放送(SDARS)の電波受信用,アンテナ11cはVICSの電波受信用,アンテナ11dは狭域通信(DSRC)の電波受信用,である。」 「【0019】分波部22aは,光ファイバケーブル15dから入力された光信号から波長λaの光信号のみを分波して受光部16aへ出力する。波長λa以外の光信号は光ファイバケーブル15eへ出力される。受光部16aは受光した光信号(波長λa)を電気信号に変換してGPS装置本体部へ出力する。分波部22bは,光ファイバケーブル15eから入力された光信号から波長λbの光信号のみを分波して受光部16bへ出力する。波長λb以外の光信号は光ファイバケーブル15fへ出力される。受光部16bは受光した光信号(波長λb)を電気信号に変換して衛星放送(SDARS)受信装置本体部へ出力する。 【0020】分波部22cは,光ファイバケーブル15fから入力された光信号から波長λcの光信号のみを分波して受光部16cへ出力する。波長λc以外の光信号は光ファイバケーブル15gへ出力される。受光部16cは受光した光信号(波長λc)を電気信号に変換してVICS装置本体部へ出力する。分波部22dは,光ファイバケーブル15gから入力された光信号から波長λdの光信号のみを分波して受光部16dへ出力する。受光部16dは受光した光信号(波長λd)を電気信号に変換して狭域通信(DSRC)受信装置本体部へ出力する。」 【図2】 の記載があるから, 「4つのアンテナ11a?11dを備え,これらアンテナ11a?11dで受信した4つの電波信号を多重して光ファイバケーブル15dにより伝送し, 分波部22aは,光ファイバケーブル15dから入力された光信号から波長λaの光信号のみを分波して受光部16aへ出力し,受光部16aは受光した光信号を電気信号に変換してGPS装置本体部へ出力し, 分波部22bは,光ファイバケーブル15eから入力された光信号から波長λbの光信号のみを分波して受光部16bへ出力し,受光部16bは受光した光信号を電気信号に変換して衛星放送(SDARS)受信装置本体部へ出力し, 分波部22cは,光ファイバケーブル15fから入力された光信号から波長λcの光信号のみを分波して受光部16cへ出力し,受光部16cは受光した光信号を電気信号に変換してVICS装置本体部へ出力し, 分波部22dは,光ファイバケーブル15gから入力された光信号から波長λdの光信号のみを分波して受光部16dへ出力し,受光部16dは受光した光信号を電気信号に変換して狭域通信(DSRC)受信装置本体部へ出力する アンテナシステム」(以下,「引用発明2」という。) の発明が記載されている。 (3)引用発明3について 原査定の理由に引用された特開2018-26660号公報(下線は当審が付与。)には, 「【0265】 (第2の応用例) 図28は,本開示に係る技術が適用され得るカーナビゲーション装置920の概略的な構成の一例を示すブロック図である。カーナビゲーション装置920は,プロセッサ921,メモリ922,GPS(Global Positioning System)モジュール924,センサ925,データインタフェース926,コンテンツプレーヤ927,記憶媒体インタフェース928,入力デバイス929,表示デバイス930,スピーカ931,無線通信インタフェース933,1つ以上のアンテナスイッチ936,1つ以上のアンテナ937及びバッテリー938を備える。」 「【0270】 さらに,無線通信インタフェース933は,セルラー通信方式に加えて,近距離無線通信方式,近接無線通信方式又は無線LAN方式などの他の種類の無線通信方式をサポートしてもよく,その場合に,無線通信方式ごとのBBプロセッサ934及びRF回路935を含んでもよい。 【0271】 アンテナスイッチ936の各々は,無線通信インタフェース933に含まれる複数の回路(例えば,異なる無線通信方式のための回路)の間でアンテナ937の接続先を切り替える。」 【図28】 の記載があるから, 「1つ以上のアンテナスイッチ936,1つ以上のアンテナ937及びバッテリー938を備え, 無線通信インタフェース933は,セルラー通信方式に加えて,近距離無線通信方式,近接無線通信方式又は無線LAN方式などの他の種類の無線通信方式をサポートし, アンテナスイッチ936の各々は,無線通信インタフェース933に含まれる異なる無線通信方式のための回路の間でアンテナ937の接続先を切り替える, 複数のアンテナ937を有するカーナビゲーション装置。」(以下,「引用発明3」という。) の発明が記載されている。 (4)引用発明4について 原査定の理由に引用された特表2005-521314号公報(下線は当審が付与。)には, 「【0017】 扇状に配向した指向性平面アンテナを有する基板の形で該アンテナシステムが作製され,指向性パターン制御切り替えスイッチがそれらに接続されているという事実により,この装置が異なるモード:全指向性モード,指向性走査モードおよび固定指向性モードで動作することが保証される。ここで,切り替えスイッチは,単一のまたは同時に二以上の受信/送信用アンテナを接続することができ,このことにより,アンテナシステムの指向性パターンの形状を全体として自在に変えることが可能となり,よって,指向性パターンが受信/送信の特定の条件と完全に合致することが確実となる。」 の記載があるから, 「単一のまたは同時に二以上の受信/送信用アンテナを接続することができる切り替えスイッチにより,アンテナシステムの指向性パターンの形状を全体として自在に変えることが可能となり,全指向性モード,指向性走査モードおよび固定指向性モードで動作することが保証される アンテナシステム。」(以下,「引用発明4」という。) の発明が記載されている。 (5)引用発明5について 原査定の理由に引用された特開2002-290148号公報(下線は当審が付与。)には, 「【0017】アンテナグループは,回路からの制御信号によりアクティブ化されるスイッチを介して回路に結合され,または送信されるべきおよび/または受信されている信号の所定の特性に基づいて所定のアンテナに信号を自動的に経路選択するように設計されている。これらのスイッチは,1つの信号から所定の特性を決定することができるように設計されており,スイッチが結合される対応するグループが,MIMO,ビームフォーミング/ステアリングまたはダイバシティモードのいずれかにおいて動作できるように適切なアンテナにその信号を経路選択する。」 の記載があるから, 「回路からの制御信号によりアクティブ化されるスイッチを介して回路に結合され, スイッチが結合される対応するグループが,MIMO,ビームフォーミング/ステアリングまたはダイバシティモードのいずれかにおいて動作できるように適切なアンテナにその信号を経路選択する, アンテナグループ。」(以下,「引用発明5」という。) の発明が記載されている。 (6)引用発明6について 原査定の理由に引用された国際公開第2016/185871号(下線は当審が付与。)には, 「[0012] 〔実施形態1〕 本発明の実施形態1に係る携帯通信端末は,第1無線部が,予め低干渉モードにおいて使用すると設定されている低干渉アンテナと,予め低干渉モードにおいて使用しないと設定されている非低干渉アンテナとを備えており,第1無線部が,上記通常モードでは,上記低干渉アンテナ及び上記非低干渉アンテナから選択されるアンテナを使用して電波を送信し,上記低干渉モードでは,上記低干渉アンテナのみを使用して電波を送信する。」 の記載があるから, 「通常モードでは,低干渉アンテナ及び非低干渉アンテナから選択されるアンテナを使用して電波を送信し,低干渉モードでは,低干渉アンテナのみを使用して電波を送信する, 携帯通信端末。」(以下,「引用発明6」という。) の発明が記載されている。 (7)引用発明7について 当審拒絶理由に引用された特表2007-527125号公報(下線は当審が付与。)には, 「【0035】 図5は,本発明の他の実施形態を概略的に示す図である。図5に示される実施形態における基本的な動作原理は,放射パターンを,乗用車または運転者の現在のコンテキストに適合させることにある。アンテナ素子の相対位相および相対振幅を調整することによって,制御部はULAの放射パターン(ビーム形状)を制御することができる。位相及び振幅は,コンテキストパラメータによって順番に制御される。コンテキストパラーメタは,乗用車または運転者の現在の状況(たとえば乗用車の現在置(繁華街か都市部か,あるいは高速道路か一般道かなど),運転者のステアリング方向,および道路幅を記載する。図5から判るように,コンテキストパラメータはアンテナ制御部500へ送出される。アンテナ制御部はパラメータの解釈と駆動信号の出力を行う。出力されると,この信号は適切な位相および振幅でアンテナ510を駆動する。」 「【0037】 以下では図5を参照して,本実施形態に係るアンテナシステムをさらに詳細に説明する。上述したように,制御部500はコンテキストパラメータを受信する。コンテキストパラメータは,乗用車のナビゲーションシステムなどによって配布される位置情報および走行環境情報を含む。位置情報は,たとえば乗用車の位置に応じてナビゲーションシステムまたは制御部が,現在の走行エリアが都市部,郊外などの特定の区分に属するかを特定または決定することによって分類される。たとえばステアリング方向,乗用車の速度,あるいは道路幅を含むその他のコンテキストパラメータは,乗用車に搭載されるセンサによって配布され,それらはたとえば,ナビゲーションシステムによってさらに配布される。」 「【0044】 次に,本発明に係る他の実施形態を述べる。この実施形態によれば,ULAは単方向モードまたは全方向モードで動作する。単方向モードでは,信号はすべてのアンテナ素子に同時に送られ,これによって単方向照射パターンが実現される。全方向モードでは,全方向照射パタンを実行するために送信及び受信のために活動するのは1つのアンテナ素子のみである。本実施形態に係るシステムによると,乗用車の走行環境に応じて,全方向モードと単方向モードを切り替える。 【0045】 乗用車が高速道路または郊外の道路を走行する場合,道路の方角へ大きな利得を持つ,幅の狭い主ビームが使われる。ゆえにアンテナアレーは単方向モードで使われる。ULAは乗用車の運転方向に対して直交し,その照準方向は約90°と考えられるため,アンテナの主ビームは,前記乗用車の前方および後方と同じ道路上の他の乗用車へ常に向けられている(図3および図6を参照)。他の乗用車と通信を行う可能性が低い方向(すなわち乗用車の運転方向に対して直交する方向)へは少ない送電力が使われ,前方及び後方へはその分多くの送電力が照射される。その結果,全方向アンテナに比べて長い送電範囲が実現する(図3参照)。送電範囲が長いと,任意の2台の乗用車間での通信に必要なホップが平均的に少なくなるので,接続性は良くなり,エンドツーエンドの遅延が少なくなる。 【0046】 乗用車が都市部や繁華街を走行している場合は,次の理由によって,全方向照射パターンの方がメリットが多い。 1)他の乗用車とすれ違う可能性は前方および後方に限られるわけではない。乗用車は照準方向Φに相対するほぼあらゆる方角に向きうる。 2)ビルおよびその他の障害物などの散乱体は,都市部での無線信号の伝搬に大きな影響をおよぼす。そこで他の乗用車が,マルチパスコンポーネントをさらに組み合わせて受信した信号を「増幅」するために,全方向に送電することは都合がよい。したがってダイバシチ技術を次のように使ってもよい。 2-1)受信には2またはそれ以上のアンテナ素子が使われ,それらは既知の受信ダイバシチ技術(最大比合成法)を使って信号同士を組み合わせる。あるいは 2-2)送電には,送信側のダイバシチ技術(遅延ダイバシチ,空間時間符号など)と組み合わせて2つまたはそれ以上のアンテナ素子が使われる。 【0047】 最後に示した2つの技術では,信号同士の相関を少なくするために,可能な限り最大の物理的距離があるアンテナ素子が使われる。 【0048】 ゆえに一実施形態において,繁華街または都市部にいる場合,乗用車は全方向モードへ切り替える。」 の記載があるから, 「アンテナ素子の相対位相および相対振幅を調整することによって,制御部はULAの放射パターン(ビーム形状)を制御することができ,位相及び振幅は,乗用車の現在置(繁華街か都市部か,あるいは高速道路か一般道かなど),運転者のステアリング方向,および道路幅を記載するコンテキストパラメータによって順番に制御され, コンテキストパラメータは,乗用車のナビゲーションシステムなどによって配布される位置情報および走行環境情報を含み, 乗用車が高速道路または郊外の道路を走行する場合,道路の方角へ大きな利得を持つ,幅の狭い主ビームが使われ,アンテナアレーは単方向モードで使われ, 乗用車が都市部や繁華街を走行している場合は,乗用車は全方向モードへ切り替える, アンテナシステム。」(以下,「引用発明7」という。) の発明が記載されている。 2.本願発明1に対して (1)引用発明1との対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「アンテナ3」は,「複数のアンテナパターン」で構成され,広域無線通信および狭域無線通信を行うから,「複数のアンテナ要素からなるアンテナ要素群を備え」ていて,「前記複数のアンテナ要素が組み合わさって複数の電磁波を送信又は受信可能な複数のアンテナを構成」しているといえる。 そして,引用発明1の「ルーフモジュール」は,上記「アンテナ3」を含むモジュールであるから「統合アンテナモジュール」であるといえる。 したがって,本願発明1と引用発明1とは, 「車両に搭載され,複数のアンテナ要素からなるアンテナ要素群を備え, 前記アンテナ要素群は,前記複数のアンテナ要素が組み合わさって複数の電磁波を送信又は受信可能な複数のアンテナを構成する, 統合アンテナモジュール。」 で一致し,下記の点で相違する。 (相違点) 本願発明1は,「前記アンテナ要素群は,前記複数のアンテナ要素の相互の接続状態を切り替え可能である切替部を含んで構成され,当該切替部によって前記複数のアンテナ要素の相互の接続状態が切り替えられることで複数の異なる送受信モードに切り替え可能であり,前記複数の異なる送受信モードとして,前記複数のアンテナ要素が集約状態とされ各前記アンテナ要素が構成する各前記アンテナによって受信した電磁波を集約して1つの信号とする全方位アンテナモードと,前記複数のアンテナ要素が独立状態とされ各前記アンテナ要素が構成する各前記アンテナによって受信した電磁波を独立してそれぞれ1つずつの信号とする指向性アンテナモードとで動作するように構成され,前記車両の現在位置に応じて前記送受信モードが前記全方位アンテナモードと前記指向性アンテナモードとに切り替えられ,送受信対象が相対的に少ない郊外部を前記車両が走行する場合に前記全方位アンテナモードとされ,当該全方位アンテナモードでは,複数の前記アンテナによって受信した同一の前記送受信対象からの同一の電磁波に基づく信号について,受信状況の優れた前記アンテナの信号を優先的に用いる,あるいは,各信号を合成してノイズを除去し,送受信対象が相対的に多数存在する都市部を前記車両が走行する場合に前記指向性アンテナモードとされる」のに対し,引用発明1は,広域無線通信および狭域無線通信を行うにあたり,アンテナをどのようにして受信するのか特定されていない点。 (2)判断 以下,相違点について検討する。 相違点に関し,車両の現在位置に応じて,全方位アンテナモードと指向性アンテナモードとに切り替えを行うにあたり,全方位アンテナモードでは,複数の前記アンテナによって受信した同一の前記送受信対象からの同一の電磁波に基づく信号について,受信状況の優れた前記アンテナの信号を優先的に用いる,あるいは,各信号を合成してノイズを除去することは,いずれの引用発明にも記載されておらず,自明なことでもない。 (3)小括 上記によれば,本願発明1は,引用発明1?7に基づいて容易に発明をすることができたとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,とはいえない。 3.本願発明2?8,10?12に対して 本願発明2?8,10?12も,本願発明1と同一の構成を備えるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明1?7に基づいて容易に発明をすることができたとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,とはいえない。 4.本願発明9に対して 本願発明1と同様に,引用発明1?7に基づいて容易に発明をすることができたとはいえないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,とはいえない。 第6 むすび 以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-05-27 |
出願番号 | 特願2018-31801(P2018-31801) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01Q)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 福田 正悟、久々宇 篤志 |
特許庁審判長 |
北岡 浩 |
特許庁審判官 |
衣鳩 文彦 吉田 隆之 |
発明の名称 | 統合アンテナモジュール、及び、車載システム |
代理人 | 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所 |