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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1374399
審判番号 不服2020-12294  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-02 
確定日 2021-06-15 
事件の表示 特願2016- 53568「ファームウェア起動装置、ファームウェア起動方法、およびファームウェア起動プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-167887、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成28年3月17日の出願であって,令和1年12月16日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年2月10日付けで手続補正がされ,令和2年2月26日付けで拒絶理由通知(最後)がされ,令和2年4月23日付けで手続補正がされ,令和2年5月26日付けで令和2年4月23日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年9月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和3年2月12日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,令和3年4月1日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年5月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-10に係る発明は,以下の引用文献A-Cに基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2002-7171号公報
B.特開平11-316687号公報
C.特開2009-59105号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1-10に係る発明は,以下の引用文献1,2に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2014-194682号公報(当審において新たに引用した文献)
2.特開2002-7171号公報(拒絶査定の引用文献A)

第4 本願発明
本願請求項1-10に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は,令和2年9月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1-10は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
複数のメモリ領域に格納されたファームウェアのうち起動する対象となるファームウェアを指定する起動領域選択信号と、前記起動領域選択信号の有効性に関する情報を含む有効情報信号とを、外部システムから取得する取得手段と、
前記起動領域選択信号と前記有効情報信号とに基づいて、起動する対象となるファームウェアである起動ファームウェアを決定するファームウェア決定手段と、
前記起動ファームウェアを、実行可能な状態に設定するファームウェア設定手段と、
前記起動ファームウェアに関する情報である起動領域情報を記憶する記憶手段、とを有し、
前記ファームウェア決定手段は、前記起動領域選択信号および前記有効情報信号を、前記起動領域情報よりも優先的に参照して、前記起動ファームウェアを決定する
ファームウェア起動装置。
【請求項2】
前記ファームウェア決定手段は、前記有効情報信号に基づいて前記起動領域選択信号が有効か否かを判断し、前記起動領域選択信号が有効であると判断した場合、前記起動領域選択信号が指定する前記ファームウェアを前記起動ファームウェアに決定する
請求項1に記載したファームウェア起動装置。
【請求項3】
前記ファームウェア決定手段は、前記有効情報信号に基づいて前記起動領域選択信号が有効か否かを判断し、前記起動領域選択信号が有効でないと判断した場合、前記起動領域情報に基づいて前記起動ファームウェアを決定する
請求項1または2に記載したファームウェア起動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載したファームウェア起動装置と、
前記起動ファームウェアを実行する処理装置と、
前記処理装置が実行する前記起動ファームウェアを格納するための動作ファームウェア領域を備えた第1の記憶手段と、
複数の前記ファームウェアと、前記起動ファームウェアに関する情報である起動領域情報を記憶する第2の記憶手段、とを有し、
前記ファームウェア設定手段は、前記第2の記憶手段が記憶する前記複数のファームウェアのうち前記起動ファームウェアを、前記動作ファームウェア領域に配置する
制御装置。
【請求項5】
複数のメモリ領域に格納されたファームウェアのうち起動する対象となるファームウェアを指定する起動領域選択信号と、前記起動領域選択信号の有効性に関する情報を含む有効情報信号とを、外部システムから取得し、
前記起動領域選択信号と前記有効情報信号とに基づいて、起動する対象となるファームウェアである起動ファームウェアを決定し、
前記起動ファームウェアを、実行可能な状態に設定し、
前記起動ファームウェアに関する情報である起動領域情報を記憶し、
前記起動ファームウェアを決定する際に、前記起動領域選択信号および前記有効情報信号を、前記起動領域情報よりも優先的に参照する
ファームウェア起動方法。
【請求項6】
前記起動ファームウェアを決定する処理は、前記有効情報信号に基づいて前記起動領域選択信号が有効か否かを判断し、前記起動領域選択信号が有効であると判断した場合、前記起動領域選択信号が指定する前記ファームウェアを前記起動ファームウェアに決定する処理を含む
請求項5に記載したファームウェア起動方法。
【請求項7】
前記起動ファームウェアを決定する処理は、前記有効情報信号に基づいて前記起動領域選択信号が有効か否かを判断し、前記起動領域選択信号が有効でないと判断した場合、前記起動領域情報に基づいて前記起動ファームウェアを決定する処理を含む
請求項5または6に記載したファームウェア起動方法。
【請求項8】
コンピュータを
複数のメモリ領域に格納されたファームウェアのうち起動する対象となるファームウェアを指定する起動領域選択信号と、前記起動領域選択信号の有効性に関する情報を含む有効情報信号とを、外部システムから取得する取得手段、
前記起動領域選択信号と前記有効情報信号とに基づいて、起動する対象となるファームウェアである起動ファームウェアを決定するファームウェア決定手段、および
前記起動ファームウェアを、実行可能な状態に設定するファームウェア設定手段、として機能させるためのファームウェア起動プログラムであって、
前記ファームウェア決定手段は、前記起動領域選択信号および前記有効情報信号を、前記起動ファームウェアに関する情報である起動領域情報よりも優先的に参照して、前記起動ファームウェアを決定する
ファームウェア起動プログラム。
【請求項9】
前記ファームウェア決定手段は、前記有効情報信号に基づいて前記起動領域選択信号が有効か否かを判断し、前記起動領域選択信号が有効であると判断した場合、前記起動領域選択信号が指定する前記ファームウェアを前記起動ファームウェアに決定する
請求項8に記載したファームウェア起動プログラム。
【請求項10】
前記ファームウェア決定手段は、前記有効情報信号に基づいて前記起動領域選択信号が有効か否かを判断し、前記起動領域選択信号が有効でないと判断した場合、前記起動領域情報に基づいて前記起動ファームウェアを決定する
請求項8または9に記載したファームウェア起動プログラム。」

第5 引用文献,引用発明等

1.引用文献1について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献1(特開2014-194682号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、不揮発性記憶手段で情報を記憶する領域として運用面および待機面の2面が区分配設され、この2面の区分領域に加えて、この2面のそれぞれが運用面および待機面のいずれの状態にあるかを示す第1のフラグ、ならびに待機面の情報消去の状態を示す第2のフラグを記憶するフラグの区分領域が配設され、制御機能ブロックの更新制御機能ブロックでこの装置を起動し、起動後、更新要求に応じて外部機器から不揮発性記憶手段への新たな情報の書込みを制御するとともに、起動にともない第2のフラグが書込み済み状態であることに応じて待機面における1つのセクタ分ずつ情報を消去させて、更新によるハードウェアの構成変更によらず、この待機面の区分領域を消去するように制御して、あらかじめ、待機面の情報を消去しておくことにより、更新要求を受けてから更新完了までの更新時間を短縮することができる。」

「【0018】
通信機器10は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)12、RAM(Random Access Memory)14、フラッシュメモリ16、LAN(Local Area Network)インタフェース回路(I/F)18およびUSB(Universal Serial Bus)インタフェース回路20を含む。本発明を実現する上で、ハードウェアには、CPU 12、RAM 14、フラッシュメモリ16が搭載されていることが必要条件である。」

「【0025】 次にフラッシュメモリ16のパーティション構成を図3に示す。フラッシュメモリ16は、便宜上、メモリ内部をいくつかのパーティションに分割されている。パーティションは、メモリ内部を、たとえばブートローダ領域24、ファームウェア領域26および28、ならびにデータ領域30、・・・に割り当てるように設定されている。フラッシュメモリ16には、ファームウェア領域26および28が運用面と待機面の2面分を保持可能にする十分な空き容量が要求される。本実施例では、ファームウェア領域26および28をA面/B面に設定している。 【0026】 また、データ領域30には、2つのフラグが格納されている。データ領域30は、図4に示すように、フラグ名32および設定データ34を有する。フラグ名32には、第1のフラグに起動面フラグ36、および第2のフラグに消去フラグ38がある。起動面フラグ36は、A面とB面のファームウェアのどちらを起動するかの判断に用いるフラグであり、設定データ34は起動を“1”、待機を“0”と設定する。したがって、A面起動とB面待機の場合、起動面フラグ36の設定データ340は“10”にデータセットしている。逆の場合、起動面フラグ36の設定データ340は“01”に設定されている。」

「【0036】
次に本発明を適用した通信機器10における主な動作を記述する。この動作には、主に、起動、更新の起動およびファームウェアの更新の3つの工程がある。まず、通信機器10の起動手順を図5に示す。通信機器10の電源を投入すると、CPU 12が起動し、フラッシュメモリ14(当審注:引用文献1には、「フラッシュメモリ14」と「フラッシュメモリ16」が混在して記載されているところ、両者は同じ内容を指すと認められるので、審決では、「フラッシュメモリ16」で統一した。)のブートローダ領域24にアクセスする。CPU 12は、図1のように、このアクセスによりブートローダ機能部46が起動する(ステップS10)。
【0037】
ブートローダ機能部46は、フラッシュメモリ14のデータ領域30に保存されている起動面フラグ36の設定データ34を読む(ステップS12)。
【0038】
次にブートローダ機能部46は、起動面フラグ36の設定データ34がA面の起動か否かを判断する(ステップS14)。読み込んだ起動面フラグ36の設定データ34が“10”または単に“1”のとき(YES)、A面のファームウェアで起動すると判断する。また、読み込んだ起動面フラグ36の設定が“01”または“0”のとき(NO)、B面のファームウェアで起動すると判断する。本実施例では、A面のファームウェアを起動する場合で起動動作を記述する。
【0039】
次にブートローダ機能部46は、A面のファームウェアをRAM 20(当審注:引用文献1には、「RAM 14」と「RAM 20」が混在して記載されているところ、両者は同じ内容を指すと認められるので、審決では、「RAM 14」で統一した。)に展開する(ステップS16)。展開処理完了後、RAM 20上に展開されたファームウェアのプログラムを先頭から順次、適宜に処理して起動する(ステップS18)。
【0040】
なお、B面のファームウェアを起動する場合、B面のファームウェアをRAM 20に展開する(ステップS17)。
【0041】 この起動後、アプリケーション群52のアプリケーションを指示に応じて起動する(ステップS20)。このように運用面の内容で起動しアプリケーションを動作させながら、待機面の内容を消去している。」

「【0052】
次にファームウェアの更新処理工程について図8を参照しながら、記述する。更新制御機能部50は、待機判定処理に進む(ステップS40へ)。待機判定処理は、各アプリケーションからたとえば割込み処理のようにファームウェアの更新要求を受信するまで待機状態にするループ処理である(ステップS40およびS42)。すなわち、待機処理で所定の時間経過を待ち(ステップS40)、更新判定処理は、ファームウェアの更新要求の有無を判定する(ステップS42)。ファームウェアの更新要求がない場合(NO)、待機処理に戻る(ステップS40へ)。また、ファームウェアの更新要求がある場合(YES)、外部の接続機器から新しいファームウェアを通信機器10のRAM 20に転送し、ファームウェアの更新処理を開始する。
(途中省略)
【0054】
更新制御機能部50は、各アプリケーションからファームウェアの更新要求を受信すると、現在、待機中のファームウェア領域28の消去フラグ38の値を未消去“0”に変更する(ステップS44)。この変更は、待機面にこれからの新たなファームウェアが何等かのプログラムデータとして書き込まれることから、結果的に消去済み“1”から書込み状態の未消去“0”に変更することを意味している。したがって、A面/B面の消去フラグ38の値は、この時点で2つ併せてみると値“00”になる。
【0055】
この変更後、新しいファームウェアをフラッシュメモリ14のファームウェア領域28に書込みを開始する。ここでの書込み先は、この時点における待機面、B面である。書込み処理は、B面に対して1セクタ単位で実行する(ステップS46)。この制御機能部50における更新処理もセクタ単位での書込み処理は、図9に示すように、時刻T20にて更新制御機能部50から書込みコマンド74で指示され、フラッシュデバイスドライバ54の内部で処理される。
(途中省略)
【0062】
起動面フラグ反転処理は、更新制御機能部50は、全セクタの書き込み完了後、起動面フラグのデータ“10”から“01”に切り換える(ステップ50)。すなわち本実施例における起動面はA面からB面に反転させている。このように、A面で起動していた場合、B面に更新するファームウェアに(当審注:「ファームウェアに」は、「ファームウェアを」の誤記である。)書き込み、起動面フラグをA面からB面に変更する。
【0063】
この動作完了後、通信機器10を再起動する(ステップ52)。起動により、データ領域30を参照して、運用面がB面に切り替わり、新しいファームウェアで起動する。消去フラグ38の待機面の値を読むと、“00”であるから、未消去“0”と判断して待機のA面を消去する。」

「図2



「図3



「図4



「図5



「図8



したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「CPU12,RAM14,およびフラッシュメモリ16を含む通信機器10であって,(段落0018,図2)
前記フラッシュメモリ16は,メモリ内部をいくつかのパーティションに分割され,前記パーティションは,前記メモリ内部を,ブートローダ領域24,ファームウェア領域26および28,ならびにデータ領域30に割り当てるように設定され,前記ファームウェア領域26および28をA面/B面に設定し,(段落0025,図3)
前記データ領域30には,A面とB面のファームウェアのどちらを起動するかの判断に用いられる起動面フラグ36が格納されており,起動を“1”,待機を“0”とすると,A面起動とB面待機の場合,設定データは“10”にデータセットされ,(段落0026,図4)
前記通信機器10の電源を投入すると,前記CPU12が起動して,前記フラッシュメモリ16の前記ブートローダ領域24にアクセスすることによりブートローダ機能部46が起動し(ステップS10),(段落0036,図5)
前記ブートローダ機能部46は,前記フラッシュメモリ16の前記データ領域30に保存されている前記起動面フラグ36の設定データ34を読み(ステップS12),(段落0037,図5)
前記ブートローダ機能部46は,起動面フラグ36の設定データ34がA面の起動か否かを判断し(ステップS14),読み込んだ起動面フラグ36の設定データ34が“10”または単に“1”のとき(YES),A面のファームウェアで起動すると判断し,また,読み込んだ起動面フラグ36の設定が“01”または“0”のとき(NO),B面のファームウェアで起動すると判断し,(段落0038,図5)
前記A面のファームウェアを起動する場合,前記ブートローダ機能部46は,前記A面のファームウェアを前記RAM14に展開し(ステップS16),展開処理完了後,前記RAM14上に展開されたファームウェアのプログラムを先頭から順次,適宜に処理して起動し(ステップS18),(段落0038,0039,図5)
この起動後,アプリケーション群52のアプリケーションを指示に応じて起動し(ステップS20),このように運用面の内容で起動しアプリケーションを動作させながら,待機面の内容を消去し,(段落0041,図5)
ファームウェアの更新処理工程において,更新制御機能部50は,各アプリケーションからファームウェアの更新要求を受信すると,この時点における待機面であるB面に更新するファームウェアを書き込み,前記起動面フラグをA面からB面に変更し,前記通信機器10を再起動することにより,運用面がB面に切り替わり,新しいファームウェアで起動し,
消去フラグ38の待機面の値を読むと,“00”であるから,未消去“0”と判断して待機のA面を消去し,(段落0052,0054,0055,0062,0063,図8)
あらかじめ,待機面の情報を消去しておくことにより,更新要求を受けてから更新完了までの更新時間を短縮することができる(段落0013)
通信機器10。」

2.引用文献2について
当審拒絶理由通知に引用された引用文献2(特開2002-7171号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フラッシュメモリ等の書き換え可能なプログラムROM(PROM)領域を2面以上備え、PROMの正常/異常の状態を診断した結果に基づいてPROMの切替を行いながら情報処理システムの運用を行うPROM切換制御に関する。」

「【0015】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明のPROM切換制御システムの一実施例を示す。マイクロプロセッサ(1)は、PROM-A(2)またはPROM-B(3)が格納しているプログラムに従って処理を実行する。PROM-A(2)とPROM-B(3)は同一構成のプログラム書き換え可能なROMである。このプログラムは、ダウンロードデータ入力端子(6)から、一方のPROM内のプログラムに従って、マイクロプロセッサ(1)により他方のPROMにアドレス/データバス(5)を介してダウンロードされる。」

「【0036】外部切替信号(11)がHIGHの場合は、外部切替信号(12)の状態に関わらず、PROMサムチェック信号(13)?(14)とPROMエラー信号(15)?(16)との組合せでPROMセレクト信号(7)を出力する。PROMサムチェック信号(13)?(14)、PROMエラー信号(15)?(16)が全てHIGHの場合には、全てのエラーチェックに異常がなかった場合であり、マイクロプロセッサ(1)が出力する制御信号(8)の状態によってPROMセレクト信号(7)の出力が変わる。」

「【0043】一方、外部切替信号(11)がLOWの場合は、外部からの強制切替モードである。この場合は、PROMサムチェック信号(13)?(14)およびPROMエラー信号(15)?(16)の組合せに関わらず、PROMセレクト信号(7)は外部切替信号(11)によって定まる。外部切替信号(11)がLOWで、かつ、外部切替信号(12)がHIGHの場合は、PROMセレクト信号(7)にHIGHを出力してPROM-A(2)を選択する。また、外部切替信号(11)がLOWで、かつ、外部切替信号(12)がLOWの場合は、PROMセレクト信号(7)にLOWを出力してPROM-B(3)を選択する。
【0044】以下に、PROM-B(3)からPROM-A(2)に強制切替を行う例を示す。例えば、PROM-A(2)のプログラムによりPROM-B(3)にダウンロードを行う。このPROM-B(3)に対するダウンロードデータのチェックサムが正しい場合には、マイクロプロセッサ1はPROM-B(3)で再起動する。しかし、PROM-B(3)に書き込んだプログラムのダウンロード機能に不具合があった場合、次に、PROM-A(2)に対してプログラムのダウンロードを行うことができなくなってしまう。
【0045】このような場合、外部切替信号(11)をLOWにして外部からの強制切替えモードにし、外部切替信号(12)をHIGHにしてPROM-A(2)に強制的に切替を行い、マイクロプロセッサ(1)をPROM-A(2)で再起動する。そして、PROM-A(2)のダウンロード機能によりPROM-B(3)に対して、新しいプログラムをダウンロードすることができる。PROM-A(2)からPROM-B(3)に強制切替を行う場合も同様である。」

「図1



「図5



したがって,上記引用文献2には次の発明(以下,「引用文献2発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用文献2発明)
「フラッシュメモリ等の書き換え可能なプログラムROM(PROM)領域を2面以上備え,PROM-A(2)またはPROM-B(3)が格納しているプログラムに従って処理を実行するPROM切換制御システムであって,(段落0001,0015,図1)
外部切替信号(11)がHIGHの場合は,外部切替信号(12)の状態に関わらず,PROMサムチェック信号(13)?(14)とPROMエラー信号(15)?(16)との組合せでPROMセレクト信号(7)を出力する一方,外部切替信号(11)がLOWの場合は,PROMサムチェック信号(13)?(14)及びPROMエラー信号(15)?(16)の組合せに関わらず,PROMセレクト信号(7)は外部切替信号(11)によって定まり,外部切替信号(11)がLOWで,かつ,外部切替信号(12)がHIGHの場合は,PROMセレクト信号(7)にHIGHを出力してPROM-A(2)を選択し,また,外部切替信号(11)がLOWで,かつ,外部切替信号(12)がLOWの場合は,PROMセレクト信号(7)にLOWを出力してPROM-B(3)を選択する強制切替モードで動作し,(段落0036,0043,図5))
例えば,PROM-A(2)のプログラムによりPROM-B(3)にダウンロードを行い,このPROM-B(3)に対するダウンロードデータのチェックサムが正しい場合には,マイクロプロセッサ1はPROM-B(3)で再起動するが,PROM-B(3)に書き込んだプログラムのダウンロード機能に不具合があった場合,次に,PROM-A(2)に対してプログラムのダウンロードを行うことができなくなってしまうことから,外部切替信号(11)をLOWにして外部からの強制切替えモードにし,外部切替信号(12)をHIGHにしてPROM-A(2)に強制的に切替を行い,マイクロプロセッサ(1)をPROM-A(2)で再起動することで,PROM-A(2)のダウンロード機能によりPROM-B(3)に対して,新しいプログラムをダウンロードすることができる,(段落0044,0045,図5))
PROM切換制御システム。」

3.引用文献Bについて
令和2年2月26日付けの拒絶の理由に引用された引用文献B(特開平11-316687号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0007】コンピュータ・システム100の電力投入時に、ホスト・プロセッサ102は、その動作パラメータ(その多くは、NVRAM108内に格納されている)をセットし、メモリを初期化し、システム・コンポーネントの検査及び初期化を行い、通常のユーザ動作を開始する前に、オペレーティング・システムをブートストラップする。電力がコンピュータ・システム100に供給されると、ホスト・プロセッサ102はパワー・オン・システム・テスト(POST:PowerOn System Rest)と呼ばれる、基本入出力システム(BIOS)プログラムの一部を実行し始める。図2に示すように、BIOSは、システムROM104のブート可能な複数のパーティションに永続的に格納することができる。一実施形態では、システムROM104は、変更不可能なブート・ブロック200、及び複数の追加のリプログラマブル・ブート可能パーティション(reprogrammable bootable partition)(その内2つのみをフラッシュ(FLASH)・イメージ202、204として図2に示す)を含んでいる。各フラッシュ・イメージ202、204は、異なるバージョンのBIOSコードを格納することができる。フラッシュ・イメージA及びB(すなわち202、204)の各々は、ブート・ブロック200と同じメモリ・デバイス内に実現することができる。同様に、フラッシュ・イメージA及びBはまた、ブート・ブロック200と別個のメモリ・デバイス内に置くことができる。」

「【0009】次に図3を参照して、システム・スタートアップ・プログラム300及びPOSTプログラムの実行について説明する。スタートアップ処理は、ASRリセット・ルーチンの実行から開始し(ステップ302)、続いてASR POSTルーチンの実行が続き(ステップ304)、更にBIOS POSTルーチンの実行が続く(ステップ306)。これら3つのルーチンは全て、フラッシュROM104のブート・ブロック200以外で実行される。BIOS POSTルーチンが首尾よく完了したことに続いて、選択したフラッシュ・イメージをシステムRAM106にロードし(ステップ308)、スタートアップ動作を従来通りに継続する(ステップ310)。BIOSによるPOST処理の最後に行われる動作は、オペレーティング・システムを探して、これに制御を移転することである(ステップ312)。この最後のステップは、オペレーティング・システムを「ブートストラップする」こととして知られている。BIOSスタートアップ動作(ステップ310)及び制御のオペレーティング・システムへの移転(ステップ312)は、選択したフラッシュ・イメージからシステムRAM106にロードされた命令によって制御される。」

「【0012】BIOS POSTルーチン306の実行中には、図4に示すような多数のBIOSパラメータ400(NVRAM108に格納されている)を用いる。各パラメータは、BIOSの予め選択されている特定の機能を表すものであり、以下のパラメータを含んでいる。
・どのフラッシュ・イメージ(図2参照)をロードすべきかを示すイメージ(IMAGE)・フラグ402
・リカバリ動作が別のフラッシュ・イメージを用いるべきかを示すフェイル・オーバー(FAIL-OVER)・フラグ404
・フェイル・オーバー・フラグと共同で、早期ASR保護がイネーブルされているか否かを示すスタート済(STARTED)フラグ406
・システムがスタートアップ・プロセスを首尾よく完了したか否かを示す完了済(COMPLETED)フラグ408
完了済フラグは、オペレーティング・システムによってのみ、完了したことを示すYESにセットすることができる。2つ以上のフラッシュ・イメージが存在する場合、イメージ・パラメータ(すなわちイメージフラグ402)を拡張しなければならない。例えば、コンピュータ・システムがブート可能なフラッシュ・イメージが4つある場合、イメージ・フラグは2ビットとする必要がある。」

4.引用文献Cについて

令和2年2月26日付けの拒絶の理由に引用された引用文献C(特開2009-59105号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0034】
BIOSによる設定には、日付や時刻の設定、ディスクドライブやデバイス、ビデオカードなどの周辺機器の設定、起動ドライブ(ブートデバイス)の優先順位の設定などがある。起動ドライブの優先順位については、初期状態では外部デバイス31が優先順位1番で、HDD18が優先順位2番に設定されている。ただし、外部デバイス31は、BIOS起動中に後述する異常フラグを検出することが起動条件となっている。またBIOSセットアップメニューは、情報処理装置10のセキュリティを確保するために一般ユーザなどには開放されておらず、たとえば特定のIDやパスワードをキー入力して本人認証が確認できた場合にのみ開放されメニュー画面などを表示するようになっている。
【0035】
HDD18(第1の記録媒体)は、情報処理装置10の動作を制御するOSとそのOS上で動作する第1のプログラム、画像データ(スキャンデータ)などを格納する機能を有し、サウスブリッジ15とIDEバス27で接続されている。」

「【0039】
外部デバイス31(第2の記録メディア)はUSBメモリで構成されており、情報処理装置10の外部から接続部21に接続および離脱可能(着脱可能)とされている。この外部デバイス31には、特定解除キー(認証情報)を格納した特定解除キーファイル、OS、および第2のプログラムが記憶されている。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

引用発明の「ファームウェア領域26および28」に設定される「A面のファームウェア」及び「B面のファームウェア」は,本願発明1の「複数のメモリ領域に格納されたファームウェア」に相当する。

引用発明の「ブートローダ機能部46」は,「起動面フラグ36の設定データ34がA面の起動か否かを判断し(ステップS14)」ているから,上記の検討も踏まえると,本願発明1の「前記起動領域選択信号と前記有効情報信号とに基づいて,起動する対象となるファームウェアである起動ファームウェアを決定するファームウェア決定手段」とは,後記する点で相違するものの,“複数のメモリ領域に格納されたファームウェアのうち,起動する対象となるファームウェアである起動ファームウェアを決定するファームウェア決定手段”である点で共通している。

引用発明の「ブートローダ機能部46」は,「A面のファームウェアを起動する場合」,「A面のファームウェアをRAM 20に展開し(ステップS16)」ているから,本願発明1の「前記起動ファームウェアを,実行可能な状態に設定するファームウェア設定手段」に相当する機能を備えているといえる。

引用発明の「A面とB面のファームウェアのどちらを起動するかの判断に用いられる起動面フラグ36」は,本願発明1の「前記起動ファームウェアに関する情報である起動領域情報」に相当するから,引用発明の「起動面フラグ36」が記憶される「フラッシュメモリ16」は,本願発明1の「前記起動ファームウェアに関する情報である起動領域情報を記憶する記憶手段」に相当する。

以上の検討から,引用発明の「ブートローダ機能部46」と「フラッシュメモリ16」を有する“装置”は,本願発明1の「ファームウェア起動装置」に対応する。

したがって,引用発明と本願発明1とは,以下の点で一致し,また,相違する。

(一致点)
複数のメモリ領域に格納されたファームウェアのうち,起動する対象となるファームウェアである起動ファームウェアを決定するファームウェア決定手段と,
前記起動ファームウェアを,実行可能な状態に設定するファームウェア設定手段と,
前記起動ファームウェアに関する情報である起動領域情報を記憶する記憶手段,とを有する
ファームウェア起動装置。

(相違点)
本願発明1は,「起動する対象となるファームウェアを指定する起動領域選択信号と,前記起動領域選択信号の有効性に関する情報を含む有効情報信号とを,外部システムから取得する取得手段」を有し,「前記起動領域選択信号および前記有効情報信号を,起動領域情報よりも優先的に参照し」,「前記起動領域選択信号と前記有効情報信号とに基づいて」起動ファームウェアを決定するのに対し,引用発明は,そのような構成となっていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用発明は,「A面のファームウェアを起動する場合,ブートローダ機能部46は,A面のファームウェアをRAM14に展開し(ステップS16),展開処理完了後,RAM14上に展開されたファームウェアのプログラムを先頭から順次,適宜に処理して起動し(ステップS18)」,「この起動後,アプリケーション群52のアプリケーションを指示に応じて起動し(ステップS20),このように運用面の内容で起動しアプリケーションを動作させながら,待機面の内容を消去し」ているものであり,このように「あらかじめ,待機面の情報を消去しておくことにより,更新要求を受けてから更新完了までの更新時間を短縮することができる」という発明であって,運用面による起動が完了すると,待機面の情報の消去をすぐに開始していることからすると,仮に,運用面のファームウェアに不具合があって待機面に強制的に切り換える引用文献2発明を適用しようとしても,待機面の情報は既に消去されていて,待機面に切り換えることは不可能であるから,引用発明に引用文献2発明を組み合わせる課題や動機付けがあるとはいえない。
してみれば,引用発明に引用文献2発明を組み合わせて上記相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また,上記相違点に係る構成は,引用文献B及び引用文献Cにも記載されておらず,さらに,上記相違点に係る構成が,周知技術あるいは当業者にとって自明な事項であるともいえない。

したがって,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献2発明,及び引用文献B,Cに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-4について
本願発明2-4は,本願発明1を直接・間接に引用するものであり,上記相違点に係る構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2発明,及び引用文献B,Cに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明5-10について
本願発明5,6,7は,それぞれ,本願発明1,2,3に対応するファームウェア起動方法の発明であり,また,本願発明8,9,10は,それぞれ,本願発明1,2,3に対応するファームウェア起動プログラムの発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2発明,及び引用文献B,Cに記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
1.引用文献Aに記載された発明
原査定の拒絶理由に引用された引用文献A(当審拒絶理由における引用文献2)には,上記第5の2.で認定した,引用文献2発明が記載されている。

2.対比・判断
本願発明1と引用文献2発明を対比すると,本願発明1は,「前記起動ファームウェアに関する情報である起動領域情報を記憶する記憶手段」を有しているのに対して,引用文献2発明は,そのような手段を有していない点で相違している。
上記相違点について検討する。
引用文献2発明は,「外部切替信号(11)がHIGHの場合は,外部切替信号(12)の状態に関わらず,PROMサムチェック信号(13)?(14)とPROMエラー信号(15)?(16)との組合せでPROMセレクト信号(7)を出力する」という構成(以下,「構成a」という。)を有するものであり,この構成aは,どちらのPROMを選択するかを示すPROMセレクト信号(7)をいわば動的に生成するものである。
これに対して,本願発明1は,起動時に参照するためのいわば静的な信号(前記起動ファームウェアに関する情報である起動領域情報)をあらかじめ記憶手段に記憶しておくというものであり,引用発明の動的に生成されるPROMセレクト信号(7)に代えて,あるいは加えて,引用文献Bの「どのフラッシュ・イメージ(図2参照)をロードすべきかを示すイメージ(IMAGE)・フラグ402」や引用文献Cの「起動ドライブ(ブートデバイス)の優先順位の設定」のような,いわば静的な信号を記憶手段に記憶しておき,起動時に敢えてこの静的な信号を参照するという課題ないし動機付けがあるとはいえない。
したがって,引用文献2発明に,引用文献B及び引用文献Cに記載される技術を採用して上記相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-05-28 
出願番号 特願2016-53568(P2016-53568)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石川 亮塚田 肇  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 須田 勝巳
山崎 慎一
発明の名称 ファームウェア起動装置、ファームウェア起動方法、およびファームウェア起動プログラム  
代理人 机 昌彦  
代理人 下坂 直樹  

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