ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01G 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G |
---|---|
管理番号 | 1374400 |
審判番号 | 不服2020-10834 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-08-04 |
確定日 | 2021-06-15 |
事件の表示 | 特願2016-102132「積層セラミックコンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 2日出願公開、特開2017- 28254、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年5月23日(優先権主張 平成27年7月17日)の出願であって、令和1年10月21日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年12月24日に手続補正がなされたが、令和2年4月22日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対して、同年8月4日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされ、当審による令和3年2月17日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年4月15日に手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、令和3年4月15日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である(なお、下線部は補正箇所を示す。)。 「【請求項1】 直方体状の積層体を備え、 前記積層体は、積層された複数の誘電体層と複数の内部電極層とを有し、さらに、積層方向に相対する第1の主面および第2の主面と、前記積層方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面と、前記積層方向および前記幅方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面および第2の端面とを有し、 前記第1の端面を覆い、前記第1の端面から延伸して前記第1の主面、前記第2の主面、前記第1の側面および前記第2の側面を覆って配置された第1の外部電極と、 前記第2の端面を覆い、前記第2の端面から延伸して前記第1の主面、前記第2の主面、前記第1の側面および前記第2の側面を覆って配置された第2の外部電極とを備え、 前記誘電体層は Ba、Sr、Zr、Ti、Hfを含み、Caを任意で含むペロブスカイト型構造からなり、さらにVを含み、 Srのモル数/(Baのモル数+Caのモル数+Srのモル数)が0.6から0.95であり、 Zrのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.9から0.98であり、 前記誘電体層の厚みは1μm以下であり、 前記誘電体層を構成する誘電体粒子の平均粒径は0.6μm以下であり、 前記誘電体層はさらにSi、Mnを含み、 前記Siのモル数/前記Mnのモル数は、0.8以上1.0以下であり、 前記誘電体層には、Alが含まれていないことを特徴とする、積層セラミックコンデンサ。 【請求項2】 前記積層体の前記長さ方向の寸法が0.25mm以下であり、前記積層方向の寸法が0.125mm以下であり、前記幅方向の寸法が0.125mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。 【請求項3】 (前記誘電体粒子径の標準偏差/前記誘電体粒子の平均粒子径)×100で表されるCV値が47%以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の積層セラミックコンデンサ。 【請求項4】 前記誘電体層は、 SiとMnとを含み、 さらに、Reで表されるLa、Ce、PrまたはNdの少なくとも1種以上を含み、 (Baのモル数+Caのモル数+Srのモル数+Reのモル数)/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が1.00以上1.03以下であり、 Baのモル数/(Baのモル数+Caのモル数+Srのモル数)が0.05以上0.40以下であり、 Caのモル数/(Baのモル数+Caのモル数+Srのモル数)が0.00以上0.35以下であり、 Tiのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.02以上0.10以下であり、 Siのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.1以上4.0以下であり、 Mnのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.1以上4.0以下であり、 Vのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.01以上0.3以下であり、 Reのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.0を超え3.0以下であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサ。」 第3 当審の拒絶の理由について 1.当審拒絶理由の概要 当審において令和3年2月17日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備なため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項2において、「前記誘電体層は、前記積層体を溶剤により溶解した場合」と記載されているが、積層体を溶剤により溶解することの技術的意味(意義)が不明であるとともに、そもそも発明の詳細な説明には、積層体を溶剤により溶解することに関する記載はない。 この点において、請求項2に係る発明及び請求項2に係る発明に従属する請求項3?7に係る発明は技術的にみて明確なものでないとともに、発明の詳細な説明に記載されたものとも認められない。 (2)請求項5において、「さらに、Reで表されるLa、Ce、PrまたはNdの少なくとも1種以上を含み」とあり、Reを含む旨記載されている一方で、「Reのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.0以上3.0以下である」ともあり(下線を付した記載部分に注意)、必ずしもReは含まなくてもよいと解される記載もあり、記載内容の対応がとれていない。 よって、請求項5に係る発明及び請求項5に従属する請求項6,7に係る発明は明確なものでない。 (3)請求項6において、「請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の積層セラミックコンデンサを作製するための誘電体セラミック材料の原料粉末を混合したスラリーであって」とあるが、引用する請求項1ないし請求項5に記載された「積層セラミックコンデンサ」についての各発明特定事項により、当該「スラリー」の構成がそれぞれ如何に限定されるものであるのか不明である。 この点において、請求項6に係る発明及び請求項6を引用する請求項7に係る発明は明確なものでない。 (4)請求項6において、「前記誘電体スラリーは、Ba、Ca、Zr、Ti、Hf、Vを含む原料粉末の凝集粒径(D50)は150nm以下である」と記載されている。 しかしながら、発明の詳細な説明(段落【0029】を参照)には、凝集粒径(D50)が150nm以下である原料粉末は、SrCO_(3)、BaCO_(3)、CaCO_(3)、ZrO_(2)、TiO_(2)、Re_(2)O_(3)であることが記載され、Vを含む原料粉末も含むことは記載されていない。 さらに、上記記載によれば、「スラリー」が凝集粒径(D50)は150nm以下の原料粉末を含むものであるかのように解されるが、発明の詳細な説明(段落【0029】?【0031】)では、凝集粒径(D50)が150nm以下の所定の原料粉末を湿式混合、乾燥、解砕して仮焼きした後、さらにV_(2)O_(5)などの粉末を添加して再び湿式混合、乾燥、解砕した粉末がスラリーとして調整されることが記載されており、記載内容の対応がとれていない。 これらの点において、請求項6に係る発明及び請求項6を引用する請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。 (5)請求項7において、「請求項6の原料粉末を混合したペロブスカイト構造であって、前記ペロブスカイト型化合物を含む第1主成分粉末は、・・」とあるが、ここでいう「ペロブスカイト構造」なるものは、単に原料粉末を混合したものであるかのように解され、技術的に不明瞭である〔「原料粉末を混合して仮焼した」(段落【0029】)あるいは「原料粉末を合成した」(段落【0039】)ものである旨正確に記載すべきである。〕。また、「前記ペロブスカイト型化合物」なる記載より前には、「ペロブスカイト型化合物」についての記載はない。 これらの点において、請求項7に係る発明は明確なものでない。 2.当審拒絶理由についての判断 上記(1)、(3)ないし(5)の指摘に対して、令和3年4月15日の手続補正により、拒絶の理由の対象となった補正前の請求項2、請求項6及び請求項7は削除された。 また、上記(2)の指摘に対して、令和3年4月15日の手続補正により、請求項4(補正前の請求項5)について、「Reのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.0以上3.0以下である」との記載が「Reのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.0を超え3.0以下である」と補正され、Reが0.0の場合は除かれたことで、同請求項の「さらに、Reで表されるLa、Ce、PrまたはNdの少なくとも1種以上を含み」なる記載との対応もとれるものとなった。 したがって、当審拒絶理由で指摘した不備な点はすべて解消され、本件出願は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしているものと認められる。 第4 原査定について 1.原査定の概要 原査定(令和2年4月22日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項1ないし6に対して引用文献5、2ないし4 ・請求項7に対して引用文献5、2ないし4、1 <<引用文献一覧>> 引用文献1:国際公開第2014/024527号 引用文献2:特開2007-258474号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:特開2013-30753号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開2014-150120号公報(周知技術を示す文献) 引用文献5:特開2014-36140号公報 2.原査定についての判断 (1)引用文献及び引用発明 原査定の拒絶の理由に主引例として引用された上記引用文献5(特開2014-36140号公報)には、「積層セラミックコンデンサ」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項1】 誘電体セラミック層と内部電極とが交互に積層された内層部と、前記内層部の外側に形成される内部電極のない誘電体セラミック層からなる外層部とを含む積層セラミックコンデンサであって、 前記内層部および前記外層部を構成する前記誘電体セラミック層は、CaおよびZrを含有するペロブスカイト型化合物と、SiおよびMnとを含有し、 前記外層部を構成する誘電体セラミックの平均粒径が前記内層部を構成する誘電体セラミックの平均粒径より小さく、 前記内部電極と前記誘電体セラミック層の界面近傍における誘電体セラミック中のSi/Mnモル比が、Si/Mnモル比≦15の範囲にある、積層セラミックコンデンサ。」 イ.「【0014】 図1はこの発明の積層セラミックコンデンサの一例を示す斜視図であり、図2はその内部構造を示す図解図である。積層セラミックコンデンサ10は、たとえば直方体状の基体12を含む。基体12は、複数の誘電体セラミック層14と内部電極16とが交互に積層するように形成されている。複数の内部電極16は、基体12の長手方向の中央部で対向し、隣接する内部電極16が基体12の対向する端部に引き出される。したがって、複数の内部電極16は、交互に基体12の対向する端部に引き出されている。また、基体12の幅方向において、内部電極16は誘電体セラミック層14の両端部から間隔を隔てた位置に形成される。 【0015】 基体12は、内部電極16が形成された内層部18と、内部電極16の形成されていない外層部20を含む。内層部18は、基体12の積層方向の中央部に形成され、外層部20は、内層部18を挟むようにして基体12の積層方向の両外側に形成される。さらに、基体12の対向する端部には、外部電極22が形成される。外部電極22は、基体12の端面から側面に回り込むように形成される。これらの外部電極22には、基体12の端部に引き出された内部電極16が接続される。したがって、基体12の両端部に形成された2つの外部電極22間に静電容量が形成される。 【0016】 誘電体セラミック層14は、CaおよびZrを含有するペロスカイト型化合物と、SiおよびMnとを含む。ここで、外層部20における誘電体セラミック層14の平均粒径は、内層部18における誘電体セラミック層14の平均粒径より小さくなるように形成される。さらに、内部電極16と誘電体セラミック層14の界面近傍における誘電体セラミック中のSi/Mnモル比が、Si/Mnモル比≦15の範囲となるように形成される。」 ウ.「【実施例1】 【0024】 誘電体セラミックを構成する主成分の素材として、純度99%以上のCaCO_(3)、SrCO_(3)、BaCO_(3)、TiO_(2)、ZrO_(2)の各粉末を準備した。これらの材料を所定量秤量した後、ボールミルにより湿式混合し、その後、乾燥、解砕した。この粉末を大気中で900?1300℃で仮焼した後、解砕して、CaおよびZrを含有するペロブスカイト型化合物を有する主成分粉末を得た。なお、主成分の製造方法は、固相法、水熱法など特に限定されず、素材も炭酸物、酸化物、水酸化物など特に限定されない。 【0025】 次に、添加物素材として、SiO_(2)、MnCO_(3)、Mの酸化物(Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、Vから選ばれる元素)の粉末を準備した。そして、添加物を所定量秤量した後、主成分粉末と添加物とをボールミルにより湿式混合し、その後、乾燥、解砕して原料粉末を得た。 得られた原料粉末の組成をICP発光分光分析にて確認した結果を表1および表2に示した。表1および表2中、wはSr/(Ca+Sr+Ba)のモル比、xはBa/(Ca+Sr+Ba)のモル比、yはTi/(Zr+Ti+Hf)のモル比、zはHf/(Zr+Ti+Hf)のモル比、mはZr、Ti、Hfの合計含有量1モル部に対するCa、Sr、Baの合計含有モル部、aはZr、Ti、Hfの合計含有量100モル部に対するSiの含有モル部、bはZr、Ti、Hfの合計含有量100モル部に対するMnの含有モル部、cはZr、Ti、Hfの合計含有量100モル部に対するMの含有モル部である。また、表1および表2に、各試料におけるMの種類を示した。なお、Hfは、原料粉末の作製や、その他の積層セラミックコンデンサの製造工程のいずれかの段階において、不純物として混入するものであるが、このような不純物の混入は、積層セラミックコンデンサの電気的特性上、問題となることはない。」 エ.「【0030】 このようにして得られた積層セラミックコンデンサのチップの外径寸法は、幅1.2mm、長さ2.0mm、厚さ0.6mmであり、誘電体セラミック層の平均厚みは3μmであった。また、有効誘電体セラミック層の総数は100層であった。」 オ.「【0039】 【表1】 」 上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。 ・上記「ア.」、「イ.」の記載事項、及び図1、図2によれば、引用文献5に記載の「積層セラミックコンデンサ」は、複数の誘電体セラミック層14と内部電極16とが交互に積層された内層部18を含む直方体状の基体12を含み、誘電体セラミック層14は、CaおよびZrを含有するペロブスカイト型化合物と、SiおよびMnとを含有してなるものである。 ・上記「イ.」の記載事項、及び図1、図2によれば、基体12の対向する端部には、一対の外部電極22が基体12の端面から側面に回り込むように形成されてなるものである。 ・上記「ウ.」、「オ.」の【表1】の記載事項によれば、実施例1として誘電体セラミック層の組成が異なる試料番号1ないし11のものが示され、いずれも、100(Ca_(1-w-x)Sr_(w)Ba_(x))_(m)(Zr_(1-y-z)Ti_(y)Hf_(z))O_(3)+aSi+bMn+cM(Mは、アルカリ、アルカリ土類、希土類、Vから選ばれる元素)で表されるものであり、(Ca_(1-w-x)Sr_(w)Ba_(x))_(m)(Zr_(1-y-z)Ti_(y)Hf_(z))O_(3)で表されるペロブスカイト型化合物と、添加物としてSi、Mn、及びMとを含有してなるものである。 そして、Mが「V」である資料番号11によると、w=0.72,x=0.22,y=0.05,z=0.01,a=0.90,b=1.50であり、内層部の平均粒径、すなわち内層部の誘電体セラミック層における平均粒径は1.0μmである。なお、平均粒径についての単位は示されていないが、後述のように実施例1における誘電体セラミック層の平均厚みが3μmであることを踏まえると、単位は「μm」であると解される。 ・上記「エ.」の記載事項によれば、実施例1の誘電体セラミック層の平均厚みは3μmである。 以上のことから、資料番号11に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献5には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「複数の誘電体セラミック層と内部電極とが交互に積層された内層部を含む直方体状の基体と、 前記基体の対向する端部に、当該基体の端面から側面に回り込むように形成された一対の外部電極と、を備え、 前記誘電体セラミック層は、100(Ca_(1-w-x)Sr_(w)Ba_(x))_(m)(Zr_(1-y-z)Ti_(y)Hf_(z))O_(3)+aSi+bMn+cM(Mは、アルカリ、アルカリ土類、希土類、Vから選ばれる元素)で表されるものであり、(Ca_(1-w-x)Sr_(w)Ba_(x))_(m)(Zr_(1-y-z)Ti_(y)Hf_(z))O_(3)で表されるCaおよびZrを含有するペロブスカイト型化合物と、添加物としてSi、Mn、及びMとを含有してなるものであって、w=0.72,x=0.22,y=0.05,z=0.01,a=0.90,b=1.50,MがVであり、 前記誘電体セラミック層の平均厚みは3μmであり、 前記誘電体セラミック層における平均粒径は1.0μmである、積層セラミックコンデンサ。」 (2)対比・判断 (2-1)本願発明1について ア.対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明における複数の「誘電体セラミック層」、複数の「内部電極」は、それぞれ本願発明1でいう複数の「誘電体層」、複数の「内部電極層」に相当し、引用発明における「直方体状の基体」は、複数の誘電体セラミック層と内部電極とが交互に積層された内層部を含むものであるから、本願発明1でいう「直方体状の積層体」に相当するものである。 そして、引用発明における「直方体状の基体」にあっても、積層方向に相対する一対の主面(本願発明1でいう「第1の主面および第2の主面」)と、積層方向に直交する幅方向に相対する一対の側面(本願発明1でいう「第1の側面および第2の側面」)と、積層方向および幅方向に直交する長さ方向に相対する一対の端面(本願発明でいう「第1の端面および第2の端面」)とを有することは自明なことである。 したがって、本願発明1と引用発明とは、「直方体状の積層体を備え、前記積層体は、積層された複数の誘電体層と複数の内部電極層とを有し、さらに、積層方向に相対する第1の主面および第2の主面と、前記積層方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面と、前記積層方向および前記幅方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面および第2の端面とを有」するものである点で一致する。 (イ)引用発明における基体の対向する端部に形成された「一対の外部電極」は、それぞれ基体の端面から側面に回り込むように形成されてなるものであって、ここでいう側面とは、一対の端面を除いた残りの四つの面(積層方向に相対する一対の主面と幅方向に相対する一対の側面)を意味するといえるものであり(引用文献5の図1、図2も参照)、本願発明1でいう「第1の外部電極」及び「第2の外部電極」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明とは、「前記第1の端面を覆い、前記第1の端面から延伸して前記第1の主面、前記第2の主面、前記第1の側面および前記第2の側面を覆って配置された第1の外部電極と、前記第2の端面を覆い、前記第2の端面から延伸して前記第1の主面、前記第2の主面、前記第1の側面および前記第2の側面を覆って配置された第2の外部電極と」を備えるものである点で一致する。 (ウ)引用発明おける「誘電体セラミック層」は、100(Ca_(1-w-x)Sr_(w)Ba_(x))_(m)(Zr_(1-y-z)Ti_(y)Hf_(z))O_(3)+aSi+bMn+cM(Mは、アルカリ、アルカリ土類、希土類、Vから選ばれる元素)で表されるものであり、(Ca_(1-w-x)Sr_(w)Ba_(x))_(m)(Zr_(1-y-z)Ti_(y)Hf_(z))O_(3)で表されるCaおよびZrを含有するペロブスカイト型化合物と、添加物としてSi、Mn、及びMとを含有してなるものであって、w=0.72,x=0.22,y=0.05,z=0.01,a=0.90,b=1.50であり、MがVであることから、本願発明1と引用発明とは、「前記誘電体層は、Ba、Sr、Zr、Ti、Hfを含み、Caも含むペロブスカイト型構造からなり、さらにVを含」むものである点、「前記誘電体層はさらにSi、Mnを含」むものである点、及び「前記誘電体層には、Alが含まれていない」ものである点で共通するということができる。 さらに、Srのモル数/(Baのモル数+Caのモル数+Srのモル数)について、引用発明では当該モル数の比を示すwは0.72であるから、本願発明1で特定する「0.6から0.95」の範囲(条件)を満たす。 また、Zrのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)について、引用発明では当該モル数の比を示す1-y-zは0.94であるから、本願発明1で特定する「0.9から0.98」の範囲(条件)も満たす。 ただし、Siのモル数/Mnのモル数について、本願発明1では「0.8以上1.0以下」であるのに対し、引用発明では当該モル数の比を示すa/bは0.60である点で相違する。 (エ)誘電体層の厚みについて、本願発明では「1μm以下」であるのに対し、引用発明では3μmである点で相違する。 また、誘電体層を構成する誘電体粒子の平均粒径について、本願発明では「0.6μm以下」であるのに対し、引用発明では1.0μmである点でも相違する。 (オ)そして、引用発明における「積層セラミックコンデンサ」は、本願発明でいう「積層セラミックコンデンサ」に相当する。 よって、上記(ア)ないし(オ)によれば、本願発明1と引用発明とは、 「直方体状の積層体を備え、 前記積層体は、積層された複数の誘電体層と複数の内部電極層とを有し、さらに、積層方向に相対する第1の主面および第2の主面と、前記積層方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面と、前記積層方向および前記幅方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面および第2の端面とを有し、 前記第1の端面を覆い、前記第1の端面から延伸して前記第1の主面、前記第2の主面、前記第1の側面および前記第2の側面を覆って配置された第1の外部電極と、 前記第2の端面を覆い、前記第2の端面から延伸して前記第1の主面、前記第2の主面、前記第1の側面および前記第2の側面を覆って配置された第2の外部電極とを備え、 前記誘電体層は Ba、Sr、Zr、Ti、Hfを含み、Caも含むペロブスカイト型構造からなり、さらにVを含み、 Srのモル数/(Baのモル数+Caのモル数+Srのモル数)が0.6から0.95であり、 Zrのモル数/(Zrのモル数+Tiのモル数+Hfのモル数)が0.9から0.98であり、 前記誘電体層はさらにSi、Mnを含み、 前記誘電体層には、Alが含まれていないことを特徴とする、積層セラミックコンデンサ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 誘電体層の厚みについて、本願発明1では「1μm以下」であるのに対し、引用発明では3μmである点。 [相違点2] 誘電体層を構成する誘電体粒子の平均粒径について、本願発明1では「0.6μm以下」であるのに対し、引用発明では1.0μmである点。 [相違点3] Siのモル数/Mnのモル数について、本願発明1では「0.8以上1.0以下」であるのに対し、引用発明では0.60である点。 イ.相違点についての判断 事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。 相違点3に係る構成に関して、引用文献5には、Siのモル数/Mnのモル数を示すa/bの値が本願発明1で特定する「0.8以上1.0以下」の範囲(条件)を満たす組成の誘電体セラミック層を備えるものが、実施例1の資料番号1(a/bは1.00),資料番号10(a/bは1.00),資料番号16(a/bは0.83),資料番号19(a/bは0.83)に記載(【表1】及び【表2】を参照)されている。しかしながら、資料番号1に係るものは、Mが「V」ではなく「Al」であって、本願発明1や引用発明における「Alが含まれていない」構成を有していないことに加えて、w=0.00,x=0.00であって主とするペロブスカイト型化合物の組成が本願発明1や引用発明とは大きく異なるものである(本願発明1や引用発明ではSrの比率が高くCaの比率は低いのに対し、資料番号1に係るものはSrを含まずCaの比率が高い)。また、資料番号10,16,19に係るものについても、いずれもw=0.01,x=0.00であって主とするペロブスカイト型化合物の組成が本願発明1や引用発明とは大きく異なるものであり(本願発明1や引用発明ではSrの比率が高くCaの比率は低いのに対し、資料番号10,16,19に係るものはいずれもSrの比率は低くCaの比率が高い)、これら資料番号1,10,16,19における、誘電体セラミック層を構成する組成のうちの「Siのモル数/Mnのモル数(a/b)」のみを引用発明に適用すべき動機はなく、引用発明において相違点3に係る構成を導き出すことはできない。 そして、周知技術を示す文献として引用された上記引用文献2、上記引用文献3、及び上記引用文献4には、いずれも誘電体層にSi、Mnを含むことの記載すらなく、これら引用文献2ないし4の記載を考慮しても引用発明において相違点3に係る構成を導き出すことはできない。 ウ.まとめ したがって、上記相違点1及び相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び周知の技術事項(引用文献2ないし4に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (2-2)本願発明2ないし4について 請求項2ないし4は、請求項1に従属する請求項であって、請求項2ないし4に係る各発明は、相違点3に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び周知の技術事項(引用文献2ないし4に記載された技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1ないし4に係る発明は、引用文献5に記載された発明及び周知の技術事項(引用文献2ないし4に記載の技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-05-31 |
出願番号 | 特願2016-102132(P2016-102132) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01G)
P 1 8・ 537- WY (H01G) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 多田 幸司 |
特許庁審判長 |
山田 正文 |
特許庁審判官 |
畑中 博幸 井上 信一 |
発明の名称 | 積層セラミックコンデンサ |
代理人 | 岡田 全啓 |