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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F |
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管理番号 | 1374403 |
審判番号 | 不服2020-6523 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-05-14 |
確定日 | 2021-06-15 |
事件の表示 | 特願2016- 84770「ハプティックプレイバック調整システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日出願公開、特開2016-212850、請求項の数(37)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年4月20日(パリ条約による優先権主張 2015年4月28日、2015年10月19日、米国)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成31年 4月19日 :手続補正書の提出 令和 元年 7月 8日付け:拒絶理由通知書 令和 元年10月16日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 1月 9日付け:拒絶査定 令和 2年 5月14日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 原査定の理由の概要 原査定(令和2年1月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 この出願の請求項1-5、8、12-18、20、24-29、31、35-37に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 1.特開2010-15551号公報 第3 本願発明 本願の請求項1-37に係る発明は、令和2年5月14日提出の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-37に記載された事項により特定される発明であり、本願の請求項1-37に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明37」という。)は、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 プロセッサによって実行されるときに前記プロセッサにハプティック効果を生成させる命令が保存されている非一時的コンピュータ読み取り可能な媒体であって、前記命令は、 プレイバック速度を定めることと、 前記プレイバック速度に基づいて複数のハプティック信号を生成することであって、前記複数のハプティック信号の各々は、異なるプレイバック速度に対応する異なるハプティックビットレートを有する、複数のハプティック信号を生成することと、 前記異なるプレイバック速度にてハプティック効果を生成するために、前記複数のハプティック信号の各々をハプティック出力デバイスに適用することと を含む、非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項2】 前記プレイバック速度を定めることは、前記複数のハプティック信号を生成する前に前記プレイバック速度を定めることを含む、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項3】 前記プレイバック速度を定めることは、前記複数のハプティック信号を生成した後に前記プレイバック速度を定めることを含む、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項4】 前記複数のハプティック信号を生成することは、 リサンプリングされた入力データを生成するために前記プレイバック速度に基づいて入力データをリサンプリングすることと、 前記リサンプリングされた入力データから前記複数のハプティック信号を生成することと を含む、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項5】 前記複数のハプティック信号を生成することは、 前記複数のハプティック信号の各々について、元のハプティック信号をハプティック信号にリサンプリングすることを含む、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可【請求項6】 前記複数のハプティック信号を生成することは、 前記複数のハプティック信号の各々について、 リサンプリングされた入力データを生成するために前記プレイバック速度に基づいて入力データをリサンプリングすることと、 前記リサンプリングされた入力データにおけるキー入力イベントを識別することと、 元のハプティック信号におけるキーハプティックイベントを識別することと、 ハプティック信号を作成するために前記キーハプティックイベントを前記キー入力イベントと整合させることと を含む、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項7】 キー入力イベントを識別することは、前記キー入力イベントの長さを識別することをさらに含み、前記複数のハプティック信号を生成することは、 前記キー入力イベントの前記長さに基づいて前記入力データをリサンプリングして、リサンプリングした入力データを生成することであって、前記リサンプリングした入力データは、前記リサンプリングした入力データ内の前記キー入力イベントの開始フレームを示す、リサンプリングした入力データを生成することと、 前記ハプティック信号を、前記キー入力イベントの前記開始フレームにあるように、かつ前記キー入力イベントの長さと一致させるように調整させることと、 をさらに含む、請求項6に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項8】 前記複数のハプティック信号を生成することは、 前記複数のハプティック信号を組み合わせてコンテナに入れることを含む、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項9】 前記複数のハプティック信号を生成することは、 前記複数のハプティック信号の各々について、 切断点を選択することと、 前記切断点においてハプティック信号をハプトレットに分割することと、 前記ハプトレットにインデックスを付けることとを含み、前記ハプティック信号の少なくとも一部が前記ハプティック信号のハプトレットに対応する、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項10】 前記複数のハプティック信号を生成することは、前記複数のハプティック信号の各々をハプティックブロックに分割することを含み、 前記複数のハプティック信号の各々を適用することは、ハプティックブロックを前記ハプティック出力デバイスに送ることと、待機期間の間待つことと、別の連続するハプティックブロックを前記ハプティック出力デバイスに送ることとを含む、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項11】 前記複数のハプティック信号の各々はハプティック信号の抽出部分を含み、前記抽出部分の抽出は前記ハプティック信号の範囲選択に基づくものである、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項12】 前記複数のハプティック信号を生成することは、 前記複数のハプティック信号の各々に付加するか、又は前記複数のハプティック信号の各々から除去するためにサンプルの数を算出することと、 ハプティック信号にサンプルを付加するか、又はハプティック信号からサンプルを除去するために前記複数のハプティック信号の各々をリサンプリングして、調整ハプティック信号を作成することと、 前記ハプティック信号を前記調整ハプティック信号に置き換えることとを含む、請求項1に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項13】 前記リサンプリングは、低エントロピーの期間に0値サンプルを付加することを含む、 請求項12に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項14】 前記リサンプリングは、低エントロピーの期間にハプティック閾値より低いサンプルを除去することを含む、請求項12に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項15】 前記リサンプリングは、 付加するサンプル数に基づいて、サンプルを付加するための前記複数のハプティック信号の各々内の場所を定めることと、 隣接サンプルの1つ又はそれ以上の値に基づいて、付加されるサンプルに対する値を算出することと を含む、請求項12に記載の非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。 【請求項16】 複数のハプティック効果のプレイバックを調整する方法であって、 プレイバック速度を定めるステップと、 前記プレイバック速度に基づいて複数のハプティック信号を生成するステップであって、前記複数のハプティック信号の各々は異なるプレイバック速度に対応する異なるハプティックビットレートを有する、ステップと、 前記異なるプレイバック速度にてハプティック効果を生成するために、前記複数のハプティック信号の各々をハプティック出力デバイスに適用するステップと を含む、方法。 【請求項17】 前記複数のハプティック信号を生成するステップは、 リサンプリングされた入力データを生成するために前記プレイバック速度に基づいて入力データをリサンプリングするステップと、 前記リサンプリングされた入力データから前記複数のハプティック信号を生成するステップと を含む、請求項16に記載の方法。 【請求項18】 前記複数のハプティック信号を生成するステップは、 前記複数のハプティック信号の各々について、元のハプティック信号をハプティック信号にリサンプリングするステップを含む、請求項16に記載の方法。 【請求項19】 前記複数のハプティック信号を生成するステップは、 前記複数のハプティック信号の各々について、 リサンプリングされた入力データを生成するために前記プレイバック速度に基づいて入力データをリサンプリングするステップと、 前記リサンプリングされた入力データにおけるキー入力イベントを識別するステップと、 元のハプティック信号におけるキーハプティックイベントを識別するステップと、 ハプティック信号を作成するために前記キーハプティックイベントを前記キー入力イベントと整合させるステップと、 を含む、請求項16に記載の方法。 【請求項20】 前記複数のハプティック信号を生成するステップは、 前記複数のハプティック信号を組み合わせてコンテナに入れるステップとを含む、請求項16に記載の方法。 【請求項21】 前記複数のハプティック信号を生成するステップは、 前記複数のハプティック信号の各々について、 切断点を選択するステップと、 前記切断点においてハプティック信号をハプトレットに分割するステップと、 前記ハプトレットにインデックスを付けるステップとを含み、前記ハプティック信号の少なくとも一部が前記ハプティック信号のハプトレットに対応する、請求項16に記載の方法。 【請求項22】 前記複数のハプティック信号を生成するステップは、前記複数のハプティック信号の各々を複数のハプティックブロックに分割するステップを含み、 前記複数のハプティック信号の各々を適用するステップは、ハプティックブロックを前記ハプティック出力デバイスに送るステップと、待機期間の間待つステップと、別の連続するハプティックブロックを前記ハプティック出力デバイスに送るステップとを含む、請 求項16に記載の方法。 【請求項23】 前記複数のハプティック信号の各々はハプティック信号の抽出部分を含み、前記抽出部 分の抽出は前記ハプティック信号の範囲選択に基づく、請求項16に記載の方法。 【請求項24】 前記複数のハプティック信号を生成するステップは、 前記複数のハプティック信号の各々に付加する又は前記複数のハプティック信号の各々 から除去するサンプルの数を算出するステップと、 ハプティック信号にサンプルを付加する又はハプティック信号からサンプルを除去する ために前記複数のハプティック信号の各々をリサンプリングして、調整ハプティック信号 を作成するステップと、 前記ハプティック信号を前記調整ハプティック信号に置き換えるステップと、 を含む、請求項16に記載の方法。 【請求項25】 前記リサンプリングするステップは、低エントロピーの期間に、0値サンプルを付加す るステップ、又はハプティック閾値より低いサンプルを除去するステップを含む、請求項 24に記載の方法。 【請求項26】 前記リサンプリングするステップは、 付加するサンプル数に基づいて、サンプルを付加する前記複数のハプティック信号の各 々内の場所を定めるステップと、 隣接サンプルの1つ又はそれ以上の値に基づいて、付加されるサンプルに対する値を算 出するステップと、 を含む、請求項24に記載の方法。 【請求項27】 複数のハプティック効果のプレイバックを調整するためのシステムであって、 プレイバック速度を定めるように構成されたプレイバック速度決定部と、 選択されたプレイバック速度に基づいて複数のハプティック信号を生成するように構成されたハプティック信号ジェネレータであって、前記複数のハプティック信号の各々は異なるプレイバック速度に対応する異なるハプティックビットレートを有する、ハプティック信号ジェネレータと、 前記異なるプレイバック速度にてハプティック効果を生成するために、前記複数のハプティック信号の各々を適用するように構成されたハプティック出力デバイスと、 を含む、システム。 【請求項28】 リサンプリングされた入力データを生成するために前記プレイバック速度に基づいて入力データをリサンプリングするように構成されたリサンプラをさらに含み、 前記ハプティック信号ジェネレータは、前記リサンプリングされた入力データから前記複数のハプティック信号を生成するようにさらに構成される、請求項27に記載のシステム。 【請求項29】 前記ハプティック信号ジェネレータは、前記複数のハプティック信号の各々について、 元のハプティック信号をハプティック信号にリサンプリングするように構成される、請求項27に記載のシステム。 【請求項30】 リサンプリングされた入力データを生成するために前記プレイバック速度に基づいて入力データをリサンプリングするように構成されたリサンプラと、 前記リサンプリングされた入力データにおけるキー入力イベントを識別し、 元のハプティック信号におけるキーハプティックイベントを識別するように構成されたキーイベント識別部と、 をさらに含み、前記複数のハプティック信号の各々について、前記ハプティック信号ジェネレータは、ハプティック信号を生成するために前記キーハプティックイベントを前記キー入力イベントと整合させるように構成される、請求項27に記載のシステム。 【請求項31】 前記システムはさらに、 前記複数のハプティック信号を保持するコンテナを含む、請求項27に記載のシステム。 【請求項32】 前記複数のハプティック信号の各々について、 切断点を選択し、 前記切断点においてハプティック信号をハプトレットに分割し、 前記ハプトレットにインデックスを付けるように構成されたハプトレットジェネレータをさらに含み、前記ハプティック信号の少なくとも一部が前記ハプティック信号のハプトレットに対応する、請求項27に記載のシステム。 【請求項33】 前記複数のハプティック信号の各々を複数のハプティックブロックに分割し、ハプティックブロックを前記ハプティック出力デバイスに送り、待機期間の間待ち、別の連続するハプティックブロックを前記ハプティック出力デバイスに送るように構成されたハプティックブロックジェネレータをさらに含む、請求項27に記載のシステム。 【請求項34】 前記複数のハプティック信号の各々はハプティック信号の抽出部分を含み、前記抽出部分の抽出は前記ハプティック信号の範囲選択に基づく、請求項27に記載のシステム。 【請求項35】 前記複数のハプティック信号の各々に付加する又は前記複数のハプティック信号の各々から除去するサンプルの数を算出し、 ハプティック信号にサンプルを付加する又はハプティック信号からサンプルを除去するために前記複数のハプティック信号の各々をリサンプリングして、調整ハプティック信号を作成し、 前記ハプティック信号を前記調整ハプティック信号に置き換えるように構成されたリサンプラをさらに含む、請求項27に記載のシステム。 【請求項36】 前記リサンプリングは、低エントロピーの期間に、0値サンプルを付加すること、又はハプティック閾値より低いサンプルを除去することを含む、請求項35に記載のシステム。 【請求項37】 前記リサンプリングは、 付加するサンプル数に基づいて、サンプルを付加する前記複数のハプティック信号の各々内の場所を定めることと、 隣接サンプルの1つ又はそれ以上の値に基づいて、前記付加されるサンプルに対する値を算出することとを含む、請求項35に記載のシステム。」 第4 引用文献 1.引用文献1、引用発明 原査定の拒絶理由に引用された上記引用文献1(特開2010-15551号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与した。) a.段落0127?0132 「【0127】 <5.第5の実施形態> 第5の実施形態では、触覚情報を時間伸縮する(触覚情報の再生速度を変化させる)機能を有する触覚ディスプレイ及び触覚情報提示システムの構成例について説明する。なお、本実施形態では、触覚情報を時間伸縮せずに再生する(以下、リアルタイム再生という)ことができるだけでなく、触覚情報をスロー再生することのできる触覚ディスプレイ及び触覚情報提示システムの構成例について説明する。 【0128】 [触覚情報提示システム(触覚ディスプレイ)の構成及び動作] 図15に、本実施形態の触覚情報提示システムの概略構成を示す。本実施形態の触覚情報提示システム120は、主に、再生部121と、制御部125とで構成される。 【0129】 再生部121は、触覚提示用のスピーカ122と、映像表示装置123と、音声再生装置124とを備える。触覚提示用のスピーカ122には、上記第1?第4の実施形態と同様にボイスコイル型のフルレンジスピーカを用いることができる。映像表示装置123としては、例えば液晶ディスプレイ等を用いることができる。また、音声再生装置124としては、ボイスコイル型スピーカを用いることができる。 【0130】 制御部125は、コンピュータ装置126(再生速度調整部)と、アンプ回路127とを備える。コンピュータ装置126は、映像表示装置123及び音声再生装置124に直接接続されており、スピーカ122には、アンプ回路127を介して接続される。なお、図15中の破線で囲まれた部分が本実施形態における触覚ディスプレイ128(触覚情報提示装置)の構成部となる。 【0131】 コンピュータ装置126は、メモリを内蔵しており、メモリには、予め所定の触覚情報(振動データ)が記録されるとともに、その触覚情報を取得する際に記録した触覚情報に対応する現象の映像及び音声が記録される。また、コンピュータ装置126は、スピーカ122で触覚情報を再生する際に、所定の触覚情報の信号(スピーカ122の駆動信号)、並びに、それに対応する映像信号及び音声信号を同期させて同時に出力する。なお、映像信号及び音声信号は、別個に出力してもよいし、音声及び映像データを所定の編集ソフトウェアで合成し、ムービー信号として出力してもよい。 【0132】 そして、本実施形態では、コンピュータ装置126は、触覚情報、映像情報及び音声情報をリアルタイム再生するだけでなく、スロー再生することもできる。触覚情報をスロー再生する場合には、コンピュータ装置126は、サンプリングレートをリアルタイム再生時のサンプリングレートの例えば1/10、1/20、1/40等に更新して再生する。なお、スロー再生時の駆動信号はリアルタイム再生時のそれに比べてエネルギーが小さくなる。それゆえ、スロー再生時には、リアルタイム再生時と同等の強度の触感が得られるように、アンプ回路127により駆動信号のゲインを調整することが好ましい。 b.段落0142?0144 「【0142】 また、この例では、触覚情報記録装置130で振動信号を検出すると同時に、種々の物体140を振動検出板133上に落とした際の映像データ及び音声データをそれぞれ高速度カメラ及びマイクで記録した。なお、映像データの記録フレームレートは、300fps、600fps及び1200fpsとした。また、本実施形態では、映像及び音声データ編集用のソフトウェアを用いて、測定した映像及び音声データを合成してムービーデータを作成した。 【0143】 次に、上述のようにして得た各物体140落下時の振動信号、ムービーデータ(映像及び音声データ)を触覚情報提示システム120のコンピュータ装置126内のメモリに記憶する。そして、被験者の手のひらで触感情報提示システム120のスピーカ122の開口部を塞いだ後、外部の操作入力装置(例えばキーボード等)により、触覚情報の再生開始の司令コマンド、再生速度の情報等を入力し、触覚情報のスロー再生を開始する。なお、この評価試験では、リアルタイム再生(サンプリングレート44kHz)の1/10(4.4kHz)、1/20(2.2kHz)及び1/40(1.1kHz)の各再生速度で触覚情報を再生した。 【0144】 なお、この際、触覚情報提示システム120内の映像表示装置123は、常に30fpsのフレームレートでムービーデータを再生する。上述のように、この例では映像データを300fps、600fps及び1200fpsの各記録フレームレートで取得する。それゆえ、各記録フレームレートに対応するムービーデータを30fpsのフレームレートで再生すると、ムービーデータの再生速度はリアルタイム再生のそれぞれ1/10、1/20及び1/40になる。これにより、スロー再生時にも触覚情報とムービーデータとを同期させて再生することができる。」 c.段落0152?0153 「【0152】 上記第5の実施形態では、主に、触覚情報をスロー再生する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、上記第5の実施形態の触覚情報提示システム120で触覚情報をクイック再生してもよい。なお、触覚情報をクイック再生する場合、触覚情報提示システム120内のコンピュータ装置126が、サンプリングレートをリアルタイム再生時のサンプリングレートの例えば10倍、20倍、40倍等に更新して再生する。 【0153】 このようなクイック再生可能な触覚情報提示システム120は、例えば、医療の分野で医者が患者を触診する際の道具として用いることができる。人間の体は、通常柔らかいので、触診した際、低周波成分の振動が検出される。触診時に検出されるこの低周波数成分の振動データを記録し、その振動データを上記第5の実施形態の触覚情報提示システム120でクイック再生すると、触診時に得た低周波成分の振動を人間の触覚でより認識し易い周波数帯域の振動に変換することができる。この場合、より高精度の触診が可能になる。」 上記a.?b.の記載及び図15によれば、引用文献1には、第5の実施形態の触覚情報提示システムとして、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「再生部121と、制御部125とで構成される触覚情報提示システム120であって、 再生部121は、触覚提示用のスピーカ122と、映像表示装置123と、音声再生装置124とを備え、 制御部125は、コンピュータ装置126(再生速度調整部)と、アンプ回路127とを備え、コンピュータ装置126は、映像表示装置123及び音声再生装置124に直接接続されており、スピーカ122には、アンプ回路127を介して接続され、 コンピュータ装置126は、メモリを内蔵しており、メモリには、予め所定の触覚情報(振動データ)が記録されるとともに、その触覚情報を取得する際に記録した触覚情報に対応する現象の映像及び音声が記録され、コンピュータ装置126は、スピーカ122で触覚情報を再生する際に、所定の触覚情報の信号(スピーカ122の駆動信号)、並びに、それに対応する映像信号及び音声信号を同期させて同時に出力し、 コンピュータ装置126は、触覚情報、映像情報及び音声情報をリアルタイム再生するだけでなく、スロー再生することもでき、触覚情報をスロー再生する場合には、サンプリングレートをリアルタイム再生時のサンプリングレートの例えば1/10、1/20、1/40等に更新して再生し、スロー再生時には、リアルタイム再生時と同等の強度の触感が得られるように、アンプ回路127により駆動信号のゲインを調整する、触覚情報提示システム120。」 第5 対比・判断 1.本願発明27について (1)対比 本願発明27と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「触覚情報(振動データ)」、「リアルタイム再生」及び「スロー再生」等の再生速度、「触覚提示」は、それぞれ、本願発明27の「ハプティック信号」、「プレイバック速度」、「ハプティック効果」に相当するといえる。 (イ)引用発明は、「触覚情報をスロー再生する場合」に、コンピュータ装置126は、「外部の操作入力装置(例えばキーボード等)により、触覚情報の再生開始の司令コマンド、再生速度の情報等を入力し、触覚情報のスロー再生を開始」(記載事項b.【0144】)していることは明らかであるから、本願発明27の「プレイバック速度を定めるように構成されたプレイバック速度決定部」に相当する構成を有しているといえる。 (ウ)引用発明の「触覚情報をスロー再生する場合には、サンプリングレートをリアルタイム再生時のサンプリングレートの例えば1/10、1/20、1/40等に更新」するコンピュータ装置126の構成は、本願発明27の「選択されたプレイバック速度に基づいて複数のハプティック信号を生成するように構成されたハプティック信号ジェネレータ」と「選択されたプレイバック速度に基づいてハプティック信号を生成するように構成されたハプティック信号ジェネレータ」である点で共通するといえ、本願発明27の「前記複数のハプティック信号の各々は異なるプレイバック速度に対応する異なるハプティックビットレートを有する」構成と「前記ハプティック信号はプレイバック速度に対応するハプティックビットレートを有する」構成である点では共通するといえる。 (エ)引用発明の「触覚提示用のスピーカ122」は、触覚情報をリアルタイム再生またはスロー再生して触覚を提示するものであるから、本願発明27の「前記異なるプレイバック速度にてハプティック効果を生成するために、前記複数のハプティック信号の各々を適用するように構成されたハプティック出力デバイス」と「前記プレイバック速度にてハプティック効果を生成するために、前記ハプティック信号を適用するように構成されたハプティック出力デバイス」である点では共通するといえる。 (オ)引用発明の「触覚情報提示システム120」は、コンピュータ装置126(再生速度調整部)によって触覚情報の再生速度を調整し、触覚提示用のスピーカ122により複数の触覚提示を行うシステムであるから、後述する相違点を除き、本願発明27の「複数のハプティック効果のプレイバックを調整するためのシステム」に相当するといえる。 したがって、本願発明27と引用発明との間には、以下の一致点及び相違点があるといえる。 (一致点) 「複数のハプティック効果のプレイバックを調整するためのシステムであって、 プレイバック速度を定めるように構成されたプレイバック速度決定部と、 選択されたプレイバック速度に基づいてハプティック信号を生成するように構成されたハプティック信号ジェネレータであって、前記ハプティック信号はプレイバック速度に対応するハプティックビットレートを有する、ハプティック信号ジェネレータと、 前記プレイバック速度にてハプティック効果を生成するために、前記ハプティック信号を適用するように構成されたハプティック出力デバイスと、 を含む、システム。」 (相違点) 本願発明27では、ハプティック信号ジェネレータが、「選択されたプレイバック速度に基づいて複数のハプティック信号を生成する」ように構成され、「前記複数のハプティック信号の各々は異なるプレイバック速度に対応する異なるハプティックビットレートを有」し、ハプティック出力デバイスが、「前記異なるプレイバック速度にてハプティック効果を生成するために、前記複数のハプティック信号の各々を適用する」ように構成されているのに対し、引用発明では、コンピュータ装置126が「触覚情報をスロー再生する場合に」、「サンプリングレートをリアルタイム再生時のサンプリングレートの例えば1/10、1/20、1/40等に更新」し、触覚情報をスピーカ122で再生する構成である点。 (2)判断 引用文献1には、「触覚情報をスロー再生する場合」に、コンピュータ装置126は、「外部の操作入力装置(例えばキーボード等)により、触覚情報の再生開始の司令コマンド、再生速度の情報等を入力し、触覚情報のスロー再生を開始」(上記第4 1.b.【0143】)することが記載されており、入力した「再生速度の情報」に基づいて、触覚情報を「サンプリングレートをリアルタイム再生時のサンプリングレートの例えば1/10、1/20、1/40等に更新」して(上記第4 1.c.【0152】)スピーカ122で再生することは記載されているものの、上記相違点に係る本願発明27の構成は記載されておらず、また示唆もされていない。 また、上記相違点に係る本願発明27の構成が、本願の優先日前に周知技術であったともいえない。 そして、上記相違点に係る本願発明27の構成により、本願明細書に記載された「ハプティックプレイバック調整システム10は、ハプティック設計者が複数のハプティック信号を生成することによって複数のプレイバック速度に対するハプティック効果を作成することを可能にでき、ここで各ハプティック信号は一意のプレイバック速度に対応する。その後、ハプティックプレイバック調整システム10は所望のプレイバック速度に基づいて、複数のハプティック信号からハプティック信号を選択でき、このハプティック信号の選択は、ハプティック信号のプレイバックが開始される前であってもよい。その後、ハプティックプレイバック調整システム10は、選択されたハプティック信号をハプティック出力デバイスに送ってもよく、選択されたハプティック信号のプレイバックは所望のプレイバック速度に対応する。」(【0023】)、「ハプティックプレイバック調整システム10は、ハプティック設計者が複数のハプティック信号を生成することによって複数のプレイバック速度に対するハプティック効果を作成することを可能にでき、ここで各ハプティック信号は一意のプレイバック速度に対応する。一意のビットレートに従って複数のハプティック信号を符号化できる。複数のハプティック信号はさらに、単一のファイル又はコンテナ内に保存され得る。その後、ハプティックプレイバック調整システム10は所望のプレイバック速度に基づいて複数のハプティック信号からハプティック信号を選択でき、このハプティック信号の選択はハプティック信号のプレイバックが開始された後であってもよい。その後、ハプティックプレイバック調整システム10は、選択されたハプティック信号をハプティック出力デバイスに送ってもよく、選択されたハプティック信号のプレイバックは所望のプレイバック速度に対応する。」(【0029】)という効果を奏するものである。 そうしてみると、引用発明を上記相違点に係る本願発明27の構成のようにすることが、当業者にとって適宜なし得る単なる設計事項であるともいえない。 したがって、本願発明27は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 2.本願発明28-37について 本願発明28-37は、本願発明27を減縮した発明であり、上記相違点に係る本願発明27と同じ構成を備えるものであるから、本願発明27と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3.本願発明1-15について 本願発明1は、本願発明27に対応する非一時的コンピュータ読み取り可能記録媒体の発明であり、上記相違点に係る本願発明27と同じ構成を備えるものであるから、本願発明27と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 また、本願発明2-15は、本願発明1を減縮した発明であり、請求項1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 4.本願発明16-26について 本願発明16は、本願発明27に対応する方法の発明であり、上記相違点に係る本願発明27と同じ構成を備えるものであるから、本願発明27と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 また、本願発明17-26は、本願発明16を減縮した発明であり、請求項16と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-05-25 |
出願番号 | 特願2016-84770(P2016-84770) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06F)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 滝谷 亮一 |
特許庁審判長 |
角田 慎治 |
特許庁審判官 |
▲吉▼田 耕一 野崎 大進 |
発明の名称 | ハプティックプレイバック調整システム |
代理人 | 藤田 和子 |