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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L
管理番号 1374433
審判番号 不服2020-6839  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-20 
確定日 2021-06-15 
事件の表示 特願2016-107971「通信装置、通信方法及び通信プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日出願公開、特開2017-212708、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯

本願は、平成28年5月30日(優先権主張 平成28年5月18日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月13日 :手続補正書の提出
令和 元年 7月12日付け:拒絶理由通知
令和 元年 9月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 2月17日付け:拒絶査定(原査定)
令和 2年 5月20日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要

原査定(令和2年2月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1-6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1-3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.吉野 學,PONシステムのソフト化に向けた機能配備の検討,電子情報通信学会2015年通信ソサイエティ大会講演論文集2,日本,電子情報通信学会通信,2015年 8月25日,p.139
2.田所 将志,西本 恵太,持田 武明,田中 逸清,仮想化技術の光アクセスNWへの適用検討,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2015年 6月25日,第115巻 第123号,p.85?89
3.国際公開第2012/157112号

第3 本願発明

本願請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、令和2年5月20日提出の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
ネットワーク機器に備わる1以上の機能を実行し、自身が備えられる通信装置に依存する機器依存部と、
前記ネットワーク機器に備わる機能毎に設けられ、自身が備えられる通信装置に依存しない複数の機器無依存アプリと、
前記機器依存部と前記機器無依存アプリとを接続するインタフェースと、
を備え、
前記インタフェースを介して、前記機器無依存アプリと、他の前記機器無依存アプリとは通信する、通信装置。
【請求項2】
前記インタフェースは、前記通信装置のミドルウェアに備えられることで実現され、
前記ミドルウェアは、前記機器無依存アプリ同士の通信のみならず、前記機器依存部と前記機器無依存アプリとを通信可能に接続する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記機器無依存アプリは、複数の通信装置に共通した機能である基本機能と、個々の通信装置に対して前記基本機能に含まれない機能を追加するために付与される複数の拡張機能と、を有し、
前記インタフェースは、前記基本機能に備えられることで実現される、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
一の拡張機能と、他の拡張機能、他の通信装置又は前記機器依存部を構成するソフトウェア又はハードウェアによって実現される機能と、は前記基本機能を介して接続される、 請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
請求項1に記載の通信装置を用いた通信方法であって、
前記通信装置が、前記複数の機器無依存アプリに含まれる任意のアプリケーションを実行することで、前記ネットワーク機器に備わる各ハードウェアを動作させる、
通信方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1に記載の通信装置に備わる各機能部として機能させるための通信プログラム。」

第4 引用文献、引用発明等

1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図とともに次の事項が記載されている。
a.139ページ左欄1行?右欄6行
「1.はじめに
ネットワーク機器の構成として、機能同士が密結合である従来のインテグラル型アーキテクチャと、疎結合のモジュラ型アーキテクチャ[1]がある。モジュラ型アーキテクチャでは、ネットワーク機器を構成するモジュルとその入出力インターフェース(IF)の汎用性を確保し、モジュルのソフト化[2]を進めることで、過去の資産を活用して開発・調達コストを低減し、拡張機能の柔軟・迅速な追加を容易にして差異化サービスのタイムリーな提供が期待できる。
本稿では、TWDM-PON(Time and Wavelength Division Multiplexing - Passive Optical Network)システム[3]のOLT(Optical Line Terminal)において、モジュラ型アーキテクチャを実現するアーキテクチャ、機能配備、ソフト化領域の検討結果を示す。

2.モジュラ型アーキテクチャ
図1にOLTのモジュラ型アーキテクチャを示す。図1に示すように、下から準拠する標準や製造ベンダに依存するハードウェア、ハードウェアを駆動するドライバ・ファーム等のソフトウェア、ハードウェア等の機器依存部分を隠蔽するミドルウェア、機器に依存しないアプリとから構成する。

3.OLT機能
表1にOLTの主要な機能を示す。ここでソフト化領域は、2018年に想定されるOLTの処理能力を前提とした。表1に示す通り、ソフト化領域は、基本機能、保守運用機能、MLDプロキシ、アルゴリズムとなる。

4.OLT機能配備
ソフト化領域とした機能を機器無依存IF上の機器無依存アプリとし、機器無依存アプリの内、特に差異化サービスに資するONU登録/認証アルゴリズム、DWBAアルゴリズム、設定・管理・監視制御、省電力アルゴリズムは拡張機能とする。

5.おわりに
PONシステムのソフト化に向けた機能配備とソフト化領域を示した。」

b.図1


図1から、機器無依存アプリである「拡張機能アプリ」は、「機器無依存IF」により「ミドルウェア」に接続され、ハードウェアを駆動するソフトウェア等の機器依存部分は、「機器依存IF」により前記「ミドルウェア」に接続されていることが看てとれる。

上記a、bより、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〈引用発明〉
「準拠する標準や製造ベンダに依存するハードウェア、ハードウェアを駆動するドライバ・ファーム等のソフトウェア、ハードウェア等の機器依存部分を隠蔽するミドルウェア、機器に依存しないアプリとから構成されたOLTのモジュラ型アーキテクチャであって、
前記機器に依存しないアプリ(機器無依存アプリ)は、ソフト化領域とした機能を機器無依存IF上の機器無依存アプリとし、機器無依存アプリの内、特に差異化サービスに資するONU登録/認証アルゴリズム、DWBAアルゴリズム、設定・管理・監視制御、省電力アルゴリズムは拡張機能とする機器無依存アプリであり、
前記機器に依存しないアプリ(機器無依存アプリ)である拡張機能アプリは、機器無依存IFにより前記ミドルウェアと接続され、ハードウェアを駆動するソフトウェア等の機器依存部分は、機器依存IFにより前記ミドルウェアと接続される、OLTのモジュラ型アーキテクチャ。」


2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図とともに次の事項が記載されている。
a.86ページ右欄1?18行
「2.2 仮想化OLT(v-OLT)のアーキテクチャ検討
本節では仮想化技術を適用したOLT(以下,v-OLT/virtualized-OLT)について,アーキテクチャの説明を行う.なお,本稿では汎用装置上にOLT機能を実装するNFVコンセプトを仮想化技術と位置付ける.
想定されるv-OLTの基本的な構成(アーキテクチャ)をFig3.に示す.v-OLTは主にハードウェア層, OS/仮想化ミドルウェア層,アプリケーション層から構成され,NW機能(OLT固有機能を含む)はソフトウェア化されたアプリケーションとしてLinux等のOS上で動作する.
また,NW機能はOS上で複数動作ささせることも可能である.例えば,ポートごとに該当するNW機能を割り当て,別々の設定を施すこと可能であるため,柔軟性の高い運用が見込める、また,ソフトウェアスイッチを汎用装置上で複数動作させるための構成(アーキテクチャ)はいくつか存在するため,いくっかの構成パターン例をFig4.に示す.」

b.Fig3.


3.引用文献3について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
a.段落0031?0032
「[0031] 図4は、本実施形態に係るシステムにおいて、各サーバ装置121、ゲートウェイ装置124、各ノード装置123の接続関係の一例を示す図である。
図4に示した例では、二つの異なるプロトコルスタックのうち、第2のプロトコルスタックを、無線アドホック通信プロトコルのプロトコルスタックとしている。無線アドホック通信プロトコルは、アドホックネットワークを形成するためのアドホック・ルーティングプロトコルの機能を持ち、主に通信端末間の接続状況管理とデータの送受信、ルーティング(データの通信経路を管理すること)を行う。OSI参照モデルにおける第2層のデータリンク層と第3層のネットワーク層の一部に該当する。この場合、第2のプロトコルスタックにおいて、データリンク層とネットワーク層との間に、アドホック処理を行う層(アドホック層)として記載している。。無線アドホック通信プロトコルでは、アドホック層で経路制御可能な通信プロトコルであり、アドホック層以上のネットワーク層の階層は規定しなくても良い。なお、第2のプロトコルスタックにおいて、ネットワーク層は、プロトコルスタックの層構造を統一するために記載している。
[0032] 図4に示したように、各サーバ装置121は、第1のプロトコルスタックが実装され、各ノード装置123は、第2のプロトコルスタックが実装され、ゲートウェイ装置124は、その両方のプロトコルスタックが実装されている。そして、ネットワークミドルウェアは、各装置に実装されているプロトコルスタック中に配置される。すなわち、各サーバ装置121においては、第1のプロトコルスタック中のトランスポート層とアプリケーション層との間にネットワークミドルウェアが配置される。ゲートウェイ装置124においては、第1のプロトコルスタック中のトランスポート層とアプリケーション層との間、及び、第2のプロトコルスタック中のネットワーク層とトランスポート層との間にネットワークミドルウェアが配置される。各ノード装置123においては、第2のプロトコルスタック中のネットワーク層とトランスポート層との間にネットワークミドルウェアが配置される。なお、各サーバ装置121、ゲートウェイ装置124、各ノード装置123において、ネットワークミドルウェアが抽象化する範囲は図4の点線で囲まれた部分となる。」

b.図4


第5 対比・判断

1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア.引用発明の「ハードウェア等の機器依存部分」は、「準拠する標準や製造ベンダに依存するハードウェア、ハードウェアを駆動するドライバ・ファーム等のソフトウェア」であり、OLTのモジュラ型アーキテクチャ(ネットワーク機器の構成)におけるハードウェア等の部分であるから、本願発明1の「ネットワーク機器に備わる1以上の機能を実行し、自身が備えられる通信装置に依存する機器依存部」に相当するといえる。
イ.引用発明の「機器に依存しないアプリ(機器無依存アプリ)」は、「ONU登録/認証アルゴリズム、DWBAアルゴリズム、設定・管理・監視制御、省電力アルゴリズム」等であるから、本願発明1の「前記ネットワーク機器に備わる機能毎に設けられ、自身が備えられる通信装置に依存しない複数の機器無依存アプリ」に相当するといえる。
ウ.引用発明の「OLTのモジュラ型アーキテクチャ」は、ネットワーク機器の構成であるから、後述する相違点を除き、本願発明1の「通信装置」に相当するといえる。

以上のことから、本願発明1と引用発明には、次の一致点及び相違点が認められる。

(一致点)
「ネットワーク機器に備わる1以上の機能を実行し、自身が備えられる通信装置に依存する機器依存部と、
前記ネットワーク機器に備わる機能毎に設けられ、自身が備えられる通信装置に依存しない複数の機器無依存アプリと、を備える、通信装置。」

(相違点)
本願発明1は、「前記機器依存部と前記機器無依存アプリとを接続するインタフェース」を備え、「前記インタフェースを介して、前記機器無依存アプリと、他の前記機器無依存アプリとは通信する」のに対し、引用発明は、そのような構成が特定されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用発明の「ハードウェア等の機器依存部分を隠蔽するミドルウェア」は、機器無依存IFにより複数の機器無依存アプリと接続され、機器依存IFによりハードウェアを駆動するソフトウェア等の機器依存部分と接続されており、機器無依存アプリのPONアクセス制御機能等のアプリで処理される情報は、機器依存部分のハードウェアを駆動するために使用される情報といえる。そうすると、引用発明の「ハードウェア等の機器依存部分を隠蔽するミドルウェア」は、機器依存部と機器無依存アプリとを接続するインタフェースとして機能しているといえるから、上記相違点に係る本願発明1の「前記機器依存部と前記機器無依存アプリとを接続するインタフェース」を備える構成は実質的な相違点ではない。
しかしながら、引用発明の「ミドルウェア」が機器依存部と機器無依存アプリとを接続するインタフェースとしてどのように機能しているのか、引用文献1には具体的な記載はなく、「機器無依存IFにより機器無依存アプリに接続されているミドルウェアを介して、機器無依存アプリと、他の機器無依存アプリと通信するようにする」ことは示唆されてもいない。
また、上記相違点に係る本願発明1の「前記機器依存部と前記機器無依存アプリとを接続するインタフェース」を備え、「前記インタフェースを介して、前記機器無依存アプリと、他の前記機器無依存アプリとは通信する」という構成は、上記引用文献2,3にも記載されておらず、本願優先日前において周知技術であったともいえない。
このため、引用発明の「機器に依存しないアプリ(機器無依存アプリ)」は、「ONU登録/認証アルゴリズム、DWBAアルゴリズム、設定・管理・監視制御、省電力アルゴリズム」等であり、このようなアプリ間で情報を転送する必要が生じることが、当業者であれば通常の創作活動の範囲内で想定し得る事項であったとしても、引用発明において、「機器無依存IFにより機器無依存アプリに接続されているミドルウェアを介して、機器無依存アプリと、他の機器無依存アプリと通信する」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たとは認められない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2、3に記載された技術的事項及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-6について
本願発明2-6も、本願発明1の「前記機器依存部と前記機器無依存アプリとを接続するインタフェース」を備え、「前記インタフェースを介して、前記機器無依存アプリと、他の前記機器無依存アプリとは通信する」という同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、拒絶査定において引用された引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について

審判請求時の補正により、本願発明1-6は、「前記機器依存部と前記機器無依存アプリとを接続するインタフェース」を備え、「前記インタフェースを介して、前記機器無依存アプリと、他の前記機器無依存アプリとは通信する」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-05-25 
出願番号 特願2016-107971(P2016-107971)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野元 久道  
特許庁審判長 角田 慎治
特許庁審判官 ▲吉▼田 耕一
富澤 哲生
発明の名称 通信装置、通信方法及び通信プログラム  
代理人 特許業務法人 志賀国際特許事務所  

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