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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01R
管理番号 1374455
審判番号 不服2019-12323  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-17 
確定日 2021-05-27 
事件の表示 特願2018- 86166「中間生成物フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月30日出願公開、特開2018-137237〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯
本願は、平成25年8月23日(優先権主張:平成24年8月24日(以下、「優先日」という。))に出願した特願2013-173698号の一部を、平成28年10月13日に特願2016-201405号として新たな特許出願とし、更にその一部を平成30年4月27日に新たな特許出願としたものであって、平成30年12月21日付けで拒絶理由が通知され、令和1年5月9日に手続補正されたが、同年6月10日付け(発送日:同年6月18日)で拒絶査定がされ、これに対し、同年9月17日に拒絶査定不服の審判請求が提出されると同時に手続補正され、同年12月19日付けで当審より拒絶理由が通知され、令和2年2月21日に手続補正され、同年3月10日付けで当審より拒絶理由が通知され、令和2年5月15日に手続補正され、同年7月22日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年9月28日に手続補正されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、令和2年9月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願発明1は次のとおりである。
「【請求項1】
主として絶縁性樹脂からなる第1接続層と第2接続層とが積層された、異方性導電フィルムを製造するための中間生成物フィルムであって、
第1接続層中に導電粒子が一定の間隔をあけて存在しており、
第1接続層における導電粒子近傍の絶縁性樹脂は、第2接続層が設けられていない方向の当該第1接続層の表面に波状もしくは凹凸状の形状を有しており、
第1接続層の波状若しくは凹凸状の形状が形成されている面から導電粒子が、そのすべてが第1接続層に埋没しないように、突出しており、
導電粒子が、フィルム厚み方向においてその両端部の位置が揃うように単層で配列されており、
導電粒子が、平均粒径が1?10μmの金属被覆樹脂粒子である中間生成物フィルム。」

第3 拒絶の理由
令和2年7月22日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。

理由1(新規性)
この出願の請求項1、2、3及び5に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2(進歩性)
この出願の請求項1、2、3及び5に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、また、この出願の請求項4に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記の引用文献1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由3(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由4(明確性)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
・請求項1
・引用文献1
本願発明1は引用文献1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項2
・引用文献1
引用発明において、コアフィルム1における導電性微粒子4近傍の樹脂は、接着剤層3が設けられていない方向のコアフィルム1の表面に波状もしくは凹凸状の形状が形成されるから、コアフィルム1における導電性微粒子4近傍の樹脂は、中間生成物フィルムの平面方向に対し傾斜していると認められる。

・請求項3
・引用文献1
引用文献1の段落【0081】には、コアフィルム1内に導電性微粒子4が15μmピッチで、図1(b)に示すように配置された例が記載されており、コアフィルム1中に導電性微粒子4が50?40000個/mm^(2)の個数密度で一定の間隔をあけて存在していると認められる。

・請求項5
・引用文献1
引用発明において、コアフィルム1における導電性微粒子4近傍の樹脂は、接着剤層3が設けられていない方向のコアフィルム1の表面に波状もしくは凹凸状の形状が形成されるから、隣接する導電性微粒子4の間の中央領域のコアフィルム1厚が、導電性微粒子4近傍のコアフィルム1厚よりも薄くなっていると認められる。

理由2(進歩性)について
・請求項4
・引用文献1?3
引用発明において、コアフィルム1が光重合性樹脂を含むものとすることは、引用文献2(特に、段落【0199】を参照。)、及び引用文献3(特に、段落【0156】を参照。)に記載の事項から、当業者が容易に想到し得たことである。

理由3(サポート要件)について
・請求項1?5
本願明細書の段落【0007】には、本発明が解決しようとする課題は、開口を有する転写型を利用して導電粒子が単層で配列された異方性導電フィルムを製造する際に、良好な接続信頼性、良好な絶縁性、及び良好な粒子捕捉効率を示す異方性導電フィルムを製造できるようにすることであることが記載され、段落【0019】、【0042】、【0049】には、光透過性の転写型を介して紫外線照射することにより、導電粒子を保持している第1接続層となる光重合性絶縁性樹脂層を転写型に保持したまま光硬化させて、紫外線が導電粒子で遮られた光重合性絶縁性樹脂層部分の硬化率を相対的に小さくすることにより、導電粒子の平面方向への過度の移動を防止しつつ、押し込み性を向上させ、良好な接続信頼性、良好な絶縁性、及び良好な粒子捕捉効率を実現できることが記載されている。
しかしながら、請求項1?5には、第1接続層における導電粒子と第2接続層との間の領域の硬化率が、その周囲の領域に比べて相対的に低いということは特定されておらず、上記課題を解決するための手段が、請求項1?5の記載に反映されているとはいえない。
よって、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているため、発明の詳細な説明に記載したものではない。

理由4(明確性)について
・請求項3
請求項3に記載の「MM」は、「mm」の誤記と認められる。

引用文献1:特開2003-286457号公報
引用文献2:特開2011-71108号公報
引用文献3:特開2011-70931号公報

第4 引用文献等
1 引用文献1の記載事項等
優先日前に公開された引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(1)「【0022】本発明で使用する導電性微粒子の粒子径分布は、標準偏差が平均粒子径の50%以下であることが好ましい。更に好ましくは標準偏差が平均粒子径の20%以下となるように、最も好ましくは10%以下となるようにする。(以下省略)」

(2)「【0033】コアフィルム1には、厚さ方向に貫通していない孔10が、フィルム面内に多数個、規則的に配置されている。この実施形態では、図1(b)に示すように、フィルム面内の格子点(格子の縦線と横線との交点)の位置および単位格子の面心位置に、非貫通孔10が配置されている。縦線に沿って隣り合う格子点の間隔は15μmであり、横線に沿って隣り合う格子点の間隔は15μmである。非貫通孔10の平面形状(フィルム面に沿った断面形状)は円形であり、この円の直径は7.5μm(導電性微粒子4の平均粒径の1.25倍)である。また、コアフィルム1の全ての孔10内に、各1個の導電性微粒子4が配置されている。」

(3)「【0047】(前略)本発明の導電性接着シートを製造する第3の方法(請求項9の方法)の実施形態について、図6を用いて説明する。シート状あるいは板状の金属、セラミックスあるいは樹脂に所定配置でかつ所定深さの貫通していない孔を形成した冶具170を作製し、形成されている孔に導電性微粒子を入れた後(図6(b))、前記冶具の孔の開いた面上にコアフィルムを押し付けるあるいは加熱しながら押し付けるか、あるいはコアフィルム成分を含有する樹脂溶液を所定厚みで塗布し溶剤を乾燥し(図6(c))、コアフィルムを前記冶具から剥離することにより冶具に所定配置していた導電性微粒子をコアフィルムに転写した後(図6(d))、コアフィルムを中央に挟んで両側に接着剤層を形成する(図6(e))。
【0048】前記冶具の作製方法としては、図2に示したような感光性樹脂をフォトリソグラフィーを用いてパターン化する方法、図7に示したような樹脂をレーザ光を用いて溶融あるいは結合を切断するアブレーション加工する方法がある。(後略)」

(4)「【0075】【実施例4】[導電性微粒子配列冶具の作製]図7
(b)に示す導電性微粒子配列冶具を以下の方法で作製した。先ず、図2(b)に示すように、導電性基板13の上にネガ型の感光性樹脂層8を形成し、その上に、導電性微粒子が入る孔に対応させた光透過部を有するフォトマスクM1を配置して、このフォトマスクM1の上から光を照射する。次に、所定の現像処理を行うことによって、感光性樹脂層8の光が当たらなかった部分を除去する。これにより、導電性基板上に四角柱状の樹脂パターンが形成される。図2(c)はこの状態を示す。
【0076】次に、この導電性基板上の樹脂パターンの存在していない部分に電解めっき法により金属を析出させ、円柱状の樹脂パターンの高さを越えて更に金属を成長させる。これにより円柱状の樹脂パターンに対応した凹部を有する金属13を成長させる。図2(d)はこの状態を示す。次に、金属体13を導電性基板7から剥離する。更に光が当たって硬化された円柱状樹脂パターンが金属体13の表面に残存していることがあるため、酸素雰囲気下での反応性イオンエッチング法により残存感光性樹脂層を除去する。これにより、図7(b)に示すような、貫通していない孔171を有する金属体13が形成されている導電性微粒子配列冶具170が得られる。
(中略)
【0078】[導電性接着シートの作製]この実施例では、本発明の第3の方法の実施例に相当する方法により、導電性接着シートを作製する。この実施例を図6に基づいて説明する。先ず、PETフィルム(支持体)5と接着剤層2、3とからなるシートを、以下の方法で作製した。厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、このPETフィルムの表面に、剥離剤としてポリジメチルシロキサンを約50nmの膜厚で被覆した。このPETフィルムの剥離剤が被覆された面に、エポキシ接着剤溶液をブレードコーターを用いて塗布した。次に、この塗布膜から溶剤を乾燥除去することにより、PETフィルム上に、厚さ30μmのエポキシ接着剤からなる接着剤層を形成した。支持体上に接着剤層を被覆したものを2枚形成した。
(中略)
【0080】上述の導電性微粒子配列冶具の非貫通孔に、導電性微粒子4を入れ、更に導電性微粒子が配列した面にポリスルホン樹脂組成物を塗布した後、溶剤であるテトラヒドロフランを乾燥除去し厚さ5μmの被膜を得た。次に、既に形成してある支持体上に接着剤層を被覆したシートを接着剤層の面を導電性微粒子を包埋したポリスルホン樹脂被膜とを加熱圧縮して接着した。その後、ポリスルホン樹脂層と接着剤層が接着したシートを導電性微粒子配列冶具から剥離した。更に導電性微粒子を包埋したコアフィルム上に、もう1枚の接着剤シートを接着剤層を下にして載せ、加熱圧縮し接着した。
【0081】導電性微粒子4としては、実施例1と同じものを用いた。導電性微粒子配列冶具に超音波振動を加えて動かすことにより、全ての非貫通孔10に導電性微粒子4が入るようにした。また、冶具の非貫通孔10以外の面に付着した導電性微粒子を、日東電工(株)製の粘着フィルム「SPV-363」を用いて取り除いた。接着剤層23を50℃に加熱した状態で導電性微粒子が配列した面に押し付けた。以上のようにして、導電性微粒子を包埋したコアフィルムを中央に挟んで2層のエポキシ接着剤からなる接着剤層を接着した導電性接着シートを得た。コアフィルム内では平均粒子径6μmの銅-銀合金製の導電性微粒子4が15μmピッチで、図1(b)に示すように配置されていた。
【0082】[性能評価]この実施例4で作製された導電性接着シートと、実施例1と同じ試験用基板30、基板D、およびガラス基板Eとを用いて、実施例1と同じ方法で各2個のテストピースを作製し、実施例1と同じ方法で接続確認試験とショート確認試験を行った。その結果、接続確認試験では、2個のテストピースの合計400個の全ての接続箇所について、基板Dと電気的に接続されていないものは無いことが確認された。また、ショート確認試験では、2個のテストピースの合計398組の検査用パッド35について、全ての絶縁抵抗が10^(12)Ω以上であった。これにより、2個のテストピースの合計398組の全ての配線32について、隣接する全ての配線32間にショートが発生していないことが確認された。」

(5)上記(4)の段落【0075】?【0077】の記載事項及び【図2】の図示内容から、導電性微粒子配列冶具170の貫通していない孔171全ての深さは、ネガ型の感光性樹脂層8の厚さに等しい所定深さであることが理解できる。

(6)上記(4)の段落【0076】、【0078】及び【0080】の記載事項並びに【図6】の図示内容から、以下のア?カの工程を順に経ることで、【図6】(e)の状態の導電性接着シートを得ると理解できる。

ア PETフィルムの支持体5、6の剥離剤が被覆された面上に、エポキシ接着剤からなる接着剤層2、3を被覆したシートを2枚形成する。
イ 導電性微粒子配列治具170の貫通していない孔171に、導電性微粒子4を入れる。
ウ 導電性微粒子4が配列した面にポリスルホン樹脂組成物を塗布し、溶剤であるテトラヒドロフランを乾燥除去し、厚さ5μmの被膜を得る。
エ 上記アで形成した、1枚のシートの接着剤層3の面を、上記ウで得られた、導電性微粒子4を包埋したポリスルホン樹脂被膜(コアフィルム1)に加熱圧縮して接着する。
オ ポリスルホン樹脂被膜と接着剤層3が接着したシートを導電性微粒子配列治具170から剥離する。
カ 導電性微粒子4を包埋したコアフィルム1に、上記アで形成した、もう1枚のシートの接着剤層2の面を、加熱圧縮して接着する。

そして、上記エの工程での接着の後から、上記カの工程で接着剤層2を接着する前までの間において、コアフィルム1の導電性微粒子4が突出していない面に、接着剤層3を接着した、導電性接着シートを作成するためのシート状の中間生成物が得られると理解できる。

ただし、導電性微粒子配列治具170や支持体6は、導電性接着シートの作成中に、導電性接着シートを作成するためのシート状の中間生成物と一体的な状態をなす構成ではあるものの、遅くとも導電性接着シートの使用時には分離される部分であって、導電性接着シートの実質的な構成要素ではないから、導電性接着シートを作成するためのシート状の中間生成物に、導電性微粒子配列治具170や支持体6を含めないこととする。

そうすると、上記(4)の段落【0076】、【0078】及び【0080】の記載事項、【図6】の図示内容及び上記(5)の認定事項から、コアフィルム1と、接着剤層3とが接着したシートであって、導電性微粒子配列治具170上にある状態ないし導電性微粒子配列治具170から剥離し接着剤層2を接着する前の状態における、導電性接着シートを作成するためのシート状の中間生成物において、その中間生成物のコアフィルム1の下面において、およそ半分が包埋されずに露出した導電性微粒子4の下端部の位置が、所定の深さの貫通していない孔171によって、揃うようになっていることが理解できる。

(7)上記(4)の段落【0080】の記載事項及び【図6】の図示内容から、コアフィルム1の上面に接着剤層3が接着されたシート状の中間生成物が、導電性微粒子配列冶具170から剥離された時、コアフィルム1の下面の導電性微粒子4が、およそ上半分が包埋され、およそ下半分が包埋されずに露出しており、導電性微粒子配列治具170の貫通していない孔171の側壁面及び導電性微粒子4の上半分に沿った凹凸形状が、コアフィルム1の下表面に形成されることが理解できる。

(8)上記(1)の段落【0022】の記載から、上記(4)の段落【0081】に記載された「平均粒子径6μmの銅-銀合金製の導電性微粒子4の」の粒子径分布の最も好ましい発明として、標準偏差が平均粒子径の10%以下となる「0.6μm以下」のものが引用文献1に記載されているに等しいと認められる。

2 引用発明
上記1の(1)?(4)の記載事項、(5)?(8)の認定事項及び【図2】及び【図6】の図示内容を総合し、本願発明1の記載振りに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「ポリスルホン樹脂からなるコアフィルム1の上面にエポキシ接着剤からなる接着剤層3が接着された、シートの厚さ方向のみに導電性を付与する導電性接着シートを作製するための、導電性微粒子配列治具170から剥離したシート状の中間生成物であって、
コアフィルム1内に導電性微粒子4が包埋され15μmピッチで配置されており、
コアフィルム1における導電性微粒子4の近傍のポリスルホン樹脂は、接着剤層3が設けられていない方向のコアフィルム1の下表面に、導電性微粒子配列治具170の貫通していない孔171の側壁面及び導電性微粒子4の上半分に沿った凹凸形状を有しており、
コアフィルム1の下面から導電性微粒子4が、およそ上半分が包埋され、およそ下半分が包埋されずに露出しており、
導電性微粒子4の下端部の位置が揃うように、コアフィルム1の厚さ方向に導電性微粒子4が1つ存在する状態で配置されており、
導電性微粒子4が平均粒子径が6μmで粒子径分布の標準偏差が0.6μm以下の銅-銀合金製のものであるシート状の中間生成物。」

3 周知技術について
優先日前に頒布された特開平7-268303号公報、特表2006-513566号公報及び特開2009-16133号公報(以下、それぞれ「周知例1」、「周知例2」及び「周知例3」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

(1)周知例1の記載事項
「【0007】このように従来から異方導電性接着剤中に配合されている導電性粒子は、充分な特性を有しているとは言えない。これとは逆に、樹脂製の芯材に金属を被覆した金属被覆樹脂粒子は、配線パターンの重なり部分で変形するため接触面積が大きいので、上記のような導通不良が発生し難く、しかも芯材が樹脂であるため絶縁性接着性成分とはそれほど比重の差がないので分散性も良好である。」

(2)周知例2の記載事項
「【0010】上記のように、金属粒子の不均一性及び大きい比重によって異方性導電接着剤が有する問題点を解決するために、コア部として樹脂粒子に形成し、上記の樹脂粒子の表面に金属成分をメッキして金属を被覆した金属被覆樹脂粒子が使用される。上記の金属被覆樹脂粒子を含有する異方性導電接着剤は回路基板に圧力が加えられる場合、金属被覆樹脂粒子の形態が変形されて回路などの間の面積を増加させるため、回路などの間の電気接続不良率を減らすことができ、金属被覆樹脂粒子の比重が接着剤成分の比重と差異が小さいため、接着剤成分内で相対的に均等に分布される。しかし、上記の金属被覆樹脂粒子は、その表面が金属であるため、上記の金属被覆樹脂粒子を含有する異方性導電接着剤は、依然として短絡されてはいけない回路の電極などを短絡させるため、回路基板などを適宜に接続することができない。」

(3)周知例3の記載事項
「【0033】
-導電性粒子-
前記導電性粒子としては、特に制限はなく、従来の異方性導電接着剤において用いられているものと同じ構成のものを使用することができる。例えば、半田、ニッケル等の金属粒子;金属(ニッケル、金、アルミニウム、銅等)メッキで被覆された、樹脂粒子、ガラス粒子あるいはセラミック粒子;更にこれらを絶縁被覆した粒子;などが挙げられる。これらの導電性粒子を用いると、接合する端子及び基板配線の平滑性のばらつきを吸収し、製造時のプロセスマージンを確保することができるほか、応力により接続点が離れた場合でも、導通を確保することができ、高い信頼性が得られる。 前記導電性粒子の中でも、金属被覆樹脂粒子、例えば、ニッケル金メッキ被覆樹脂粒子が好ましく、端子間に前記導電性粒子が入り込むことにより生じるショートを防止可能な点で、前記金属被覆樹脂粒子が、絶縁樹脂により被覆されてなる絶縁粒子がより好ましい。(以下省略。)」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「ポリスルホン樹脂」及び「エポキシ接着剤」は、本願発明1の「絶縁性樹脂」に相当し、以下同様に、
「コアフィルム1」は「第1接続層」に、
「接着剤層3」は「第2接続層」に、
「接着」することは「積層」することに、
「シートの厚さ方向のみに導電性を付与する導電性接着シート」は「異方性導電フィルム」に、
「作製する」ことは「製造する」ことに、
「導電性微粒子配列治具170から剥離したシート状の中間生成物」は「中間生成物フィルム」に、
「導電性微粒子4」は「導電粒子」に、
「導電性微粒子4の近傍のポリスルホン樹脂」は「導電粒子近傍の絶縁性樹脂」に、
「接着剤層3が設けられていない方向のコアフィルム1の下表面」は「第2接続層が設けられていない方向の当該第1接続層の表面」に、
「導電性微粒子配列治具170の貫通していない孔171の側壁面及び導電性微粒子4の上半分に沿った凹凸形状」は「波状もしくは凹凸状の形状」に、
「コアフィルム1の下面」は「第1接続層の波状若しくは凹凸状の形状が形成されている面」に、
「導電性微粒子4が平均粒子径が6μm」であることは「導電粒子が、平均粒径が1?10μm」であることに、
それぞれ相当する。

そして、引用発明の「ポリスルホン樹脂からなるコアフィルム1の上面にエポキシ接着剤からなる接着剤層3が接着された」状態は、本願発明1の「主として絶縁性樹脂からなる第1接続層と第2接続層とが積層された」状態に相当し、
引用発明の「コアフィルム1内に導電性微粒子4が包埋され15μmピッチで配置されて」いる状態は、本願発明1の「第1接続層中に導電粒子が一定の間隔をあけて存在して」いる状態に相当し、
引用発明の「およそ上半分が包埋され、およそ下半分が包埋されずに露出して」いる状態は、本願発明1の「そのすべてが第1接続層に埋没しないように、突出して」いる状態に相当し、
引用発明の「コアフィルム1の厚さ方向に導電性微粒子4が1つ存在する状態で配置されて」いる状態は、本願発明1の「単層で配列されて」いる状態に相当する。

また、引用発明は「導電性微粒子4の下端部の位置が揃」っており、なおかつ「導電性微粒子4」の直径の粒子径分布が「標準偏差が0.6μm以下」なので、導電性微粒子4の上端部の位置が標準偏差0.6μm以下の範囲で揃っているといえるから、本願発明1の「導電粒子が、フィルム厚み方向においてその両端部の位置が揃う」構成を備えているといえる。

したがって、本願発明1と引用発明とは
「主として絶縁性樹脂からなる第1接続層と第2接続層とが積層された、異方性導電フィルムを製造するための中間生成物フィルムであって、
第1接続層中に導電粒子が一定の間隔をあけて存在しており、
第1接続層における導電粒子近傍の絶縁性樹脂は、第2接続層が設けられていない方向の当該第1接続層の表面に波状もしくは凹凸状の形状を有しており、
第1接続層の波状若しくは凹凸状の形状が形成されている面から導電粒子が、そのすべてが第1接続層に埋没しないように、突出しており、
導電粒子が、フィルム厚み方向においてその両端部の位置が揃うように単層で配列されており、
導電粒子が、平均粒径が1?10μmである中間生成物フィルム。」
の点で一致し、以下の相違点において相違する。

[相違点]
本願発明1は「導電粒子」が「金属被覆樹脂粒子」であるのに対し、引用発明は「導電性微粒子4」が「銅-銀合金製」のものである点。

2 判断
以下、上記相違点について検討する。

上記第4 3(1)?(3)からみて、異方導電性接着の技術分野において、金属粒子より接続信頼性が高い導電性粒子として、金属被覆樹脂粒子を採用することは、従来周知の技術手段であったと認められる。
そして、引用発明において、高い接続信頼性が要求されることは「接続確認試験」(引用文献1の段落【0082】参照)が行われていることからも明らかであるところ、引用発明の接続信頼性を向上するために、引用発明の導電性微粒子4を、「銅-銀合金製」のものから、上記従来周知の「金属被覆樹脂粒子」に置き換えることは、当業者が容易になし得たことといえる。

また、本願発明1の奏する作用・効果は、引用発明及び周知の技術手段から当業者が予測できるものである。

したがって、本願発明1は、引用発明及び周知の技術手段から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は、その出願前に日本国内において頒布された引用文献1に記載された発明及び周知の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願発明2?5について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-24 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-12 
出願番号 特願2018-86166(P2018-86166)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 健一  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
尾崎 和寛
発明の名称 中間生成物フィルム  
代理人 特許業務法人田治米国際特許事務所  

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