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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1374458
審判番号 不服2020-2147  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-17 
確定日 2021-05-27 
事件の表示 特願2016- 4176「インクジェット印刷装置及びインクジェット印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月20日出願公開、特開2017-124519〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年1月13日を出願日とする出願であって、令和1年5月29日付けで拒絶理由が通知され、同年7月19日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月9日付けで拒絶査定がなされたのに対し、令和2年2月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和2年2月17日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年2月17日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和1年7月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至5を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至5へと補正するものである。(下線部は補正箇所である。)

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
搬送される平面形状の鋼板に対してインクの液滴を射出するインク射出装置と、
射出された前記液滴を帯電させる帯電装置と、
帯電された前記液滴の飛翔方向を前記鋼板の搬送方向と交差する方向である偏向方向へ偏向する第1の偏向板と、
前記第1の偏向板によって偏向された前記飛翔方向を前記偏向方向に対して逆方向へ偏向する第2の偏向板と、を備える、
インクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記第1の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度及び前記第2の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度は、それぞれ調整可能であり、
かつ前記鋼板の印刷面に接触するときにおける前記液滴の飛翔方向の前記印刷面と略直交する方向に対する傾きは3°以下に調整可能である、
請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記鋼板に前記液滴が付着して形成されたドットについてのドット形状の不具合を検出する検出部と、
前記ドット形状の不具合が検出された場合に、前記第2の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度を調整する制御部と、をさらに備える、
請求項1又は2に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
搬送される平面形状の鋼板に対してインクの液滴を射出する工程と、
射出された前記液滴を帯電させる工程と、
帯電された前記液滴の飛翔方向を前記鋼板の搬送方向と交差する方向である偏向方向へ第1の偏向板によって偏向する工程と、
前記第1の偏向板によって偏向された前記飛翔方向を前記偏向方向に対して逆方向へ、
第2の偏向板によって偏向する工程と、を含む、
インクジェット印刷方法。
【請求項5】
前記第1の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度及び前記第2の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度を予め調整する工程をさらに含み、
前記鋼板の印刷面に接触するときにおける前記液滴の飛翔方向の前記印刷面と略直交する方向に対する傾きは3°以下である、
請求項4に記載のインクジェット印刷方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
搬送される平面形状の鋼板の表面に対してインクの液滴を射出するインク射出装置と、
射出された前記液滴を帯電させる帯電装置と、
帯電された前記液滴の飛翔方向を前記鋼板の搬送方向と交差する方向である偏向方向へ偏向する第1の偏向板と、
前記第1の偏向板によって偏向された前記飛翔方向を前記偏向方向に対して逆方向へ偏向する第2の偏向板と、を備える、
インクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記第1の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度及び前記第2の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度は、それぞれ調整可能であり、
かつ前記鋼板の表面である印刷面に接触するときにおける前記液滴の飛翔方向の前記印刷面と略直交する方向に対する傾きは3°以下に調整可能である、
請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記鋼板の表面に前記液滴が付着して形成されたドットについてのドット形状の不具合を検出する検出部と、
前記ドット形状の不具合が検出された場合に、前記第2の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度を調整する制御部と、をさらに備える、
請求項1又は2に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
搬送される平面形状の鋼板の表面に対してインクの液滴を射出する工程と、
射出された前記液滴を帯電させる工程と、
帯電された前記液滴の飛翔方向を前記鋼板の搬送方向と交差する方向である偏向方向へ第1の偏向板によって偏向する工程と、
前記第1の偏向板によって偏向された前記飛翔方向を前記偏向方向に対して逆方向へ、
第2の偏向板によって偏向する工程と、を含む、
インクジェット印刷方法。
【請求項5】
前記第1の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度及び前記第2の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度を予め調整する工程をさらに含み、
前記鋼板の表面である印刷面に接触するときにおける前記液滴の飛翔方向の前記印刷面と略直交する方向に対する傾きは3°以下である、
請求項4に記載のインクジェット印刷方法。」

2 本件補正の目的について
(1)本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1乃至5を下記(2)に示したとおり具体的に限定するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

(2)
・本件補正前の請求項1の「鋼板に対してインクの液滴を射出」との特定事項を、本件補正後の請求項1では「鋼板の表面に対してインクの液滴を射出」と補正。
・本件補正前の請求項2の「鋼板の印刷面」との特定事項を、本件補正後の請求項2では「鋼板の表面である印刷面」と補正。
・本件補正前の請求項3の「鋼板に前記液滴が付着して」との特定事項を、本件補正後の請求項3では「鋼板の表面に前記液滴が付着して」と補正。
・本件補正前の請求項4の「鋼板に対してインクの液滴を射出」との特定事項を、本件補正後の請求項4では「鋼板の表面に対してインクの液滴を射出」と補正。
・本件補正前の請求項5の「鋼板の印刷面」との特定事項を、本件補正後の請求項5では「鋼板の表面である印刷面」と補正。

3 独立特許要件について
次に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か)について検討する。

(1)本件補正発明
本件補正後の特許請求の範囲は、前記1(2)に記載したとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明は,上記1(2)に記載の請求項1において特定されるとおりのものである(以下,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本件補正発明」という。)。

(2)引用例1の記載
原査定で引用された特開昭51-118325号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある。(なお、下線は強調のために当審が付した。以下同じ)

ア 「しかしながら、これら従来のインクジエツト記録装置においては、いずれも、インク粒子を1次の偏向系で偏向するだけであるため、被記録体6の記録面に、図示のような段差dがある場合には記録画像の大きさが異つてしまうという欠点があつた。このような記録歪の不都合は、被記録体の記録面の段差、曲率などによる形状の差異によつて起こるばかりではなく、その他コンベア上の被記録体の位置の傾きなどによつても発生する。
本発明の目的は、前記従来技術の欠点を除き、インクジエツト記録部と被記録体の記録面との間の距離が変動しても、記録画像の大きさが変化したり、記録画像に歪が生ずることのない記録を行い得るインクジエツト記録装置を提供するにある。」(1頁右欄15行?2頁左上欄8行。)

イ 「ノズル1より射出されたインク流(粒子流)3の流れに従つて、帯電電極2、第1の偏向電極5、ガター8および第2の偏向電極14が配置されている。第1と第2の各偏向電極5、14の形状は同一であるが、電界は逆方向になるように電圧が印加される。すなわち、第1の偏向電極5の上電極5aと第2の変更電極14の下電極14bとが接地され、第1の偏向電極5の下電極5bと第2の偏向電極14の上電流14aとに電圧Eが印加されている。
以上のように構成されたインクジェット記録装装置において、ノズル1より射出ざれたインク粒子流3の飛行線はつぎのようになる。
すなわち、帯電電極2で帯電されなかつたインク粒子流3aは、直線的に進み、ガター8に捕集される。帯電電極2により最小の荷電を受けたインク粒子流3bと最大の荷電を受けたインク粒子流3cとは、弟1の偏向電極5によつて、それぞれ角度θ_(b)、θ_(c)(θ_(b)<θ_(c))の偏向を受け、最小荷電を受けたインク粒子流3bもガター8を乗り越える。これらのインク粒子流3b、3cは第2の偏向電極14内に入り、第1の偏向電極5とは全く逆方向の角度-θ_(b)、-θ_(c)の偏向を受ける。
したがつて、第2の偏向電極14を出た後のインク粒子流3b、3cの偏向角は零となり、両者はノズル1より射出された偏向を受ける前のインク粒子流3と平行に進むことになるため、被記録体の記録面の位置に無関係に記録画像の大きさ15は一定となる。」(2頁左上欄15行?左下欄4行。)

ウ 「被記録体が熱い金属体などの場合」(2頁左下欄12行?13行)

エ 引用例1の第1図をみると、被記録体6の上面には矢印が描かれ、被記録体6のノズル1に対する面は、段差dによってノズル1から近い面とノズル1から遠い面が存在していることがわかる。(第1図中の「ノズル1から近い面」と「ノズル1から遠い面」の表記は審判で付した。)
そして、前記「ア」の「インク粒子を1次の偏向系で偏向するだけであるため、被記録体6の記録面に、図示のような段差dがある場合には記録画像の大きさが異つてしまうという欠点があつた。」との記載から、被記録体6において記録画像が形成される範囲は、符号7で示された範囲だけでなく、ノズル1から近い面とノズル1から遠い面も含むと解される。
ノズル1から近い面とノズル1から遠い面に記録画像を形成するためには、記録時に被記録体6を横方向に搬送させる必要があり、前記「矢印」はその搬送方向を示したものであると解される。
引用例1において、第1図は、従来技術の問題を説明するためのものであるが、引用例1記載の発明は当該問題を解決するためのものであるから、前記従来技術と同様に被記録体6が横方向に搬送されると解される。

第1図は次のものである。

オ 前記「イ」の「第2の偏向電極14を出た後のインク粒子流3b、3cの偏向角は零となり、両者はノズル1より射出された偏向を受ける前のインク粒子流と平行に進むことになるため、被記録体の記録面の位置に無関係に記録画像の大きさ15は一定となる。」ことは、「インク粒子流3により被記録体の記録面に記録画像が記録され」ることを示しているといえる。

カ 前記「ウ」の「被記録体が熱い金属体などの場合」との記載は、引用例1の被記録体は金属である場合があることを示しているといえる。

キ ここで前記「イ」に記載された事項である「インク粒子流3」、「インク粒子流3b」、「インク粒子流3c」の関係について検討すると、インク粒子流3bとはインク粒子流3のうち帯電電極2により最小の荷電を受けた後に弟1の偏向電極5によつて縦方向に角度θ_(b)の偏向を受けたものであり、インク粒子流3cとはインク粒子流3のうち帯電電極2により最大の荷電を受けた後に弟1の偏向電極5によつて縦方向に角度θ_(c)の偏向を受けたものである。

(3)引用例1記載の発明
以上によれば、引用例1には、つぎの発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ノズル1より射出されたインク粒子流3の流れに従つて、帯電電極2、第1の偏向電極5、ガター8および第2の偏向電極14が配置され、インク粒子流3のうち帯電電極2により最小の荷電を受けた後に弟1の偏向電極5によつて縦方向に角度θ_(b)の偏向を受けたインク粒子流3bと、インク粒子流3のうち帯電電極2により最大の荷電を受けた後に弟1の偏向電極5によつて縦方向に角度θ_(c)の偏向を受けたインク粒子流3cとは、第2の偏向電極14内に入り、それぞれ第1の偏向電極5とは全く逆方向の角度-θ_(b)、-θ_(c)の偏向を受け、第2の偏向電極14を出た後のインク粒子流3b、3cの偏向角は零となって、インク粒子流3により被記録体の記録面に記録画像が記録され、被記録体は横方向に搬送され、被記録体は金属であるインクジェット記録装置」

(4)当審の判断
ア 本件補正発明と引用発明との対比
(ア)引用発明の「帯電電極2」、「第1の偏向電極5」、「第2の偏向電極14」、「インクジェット記録装置」はそれぞれ、本件補正発明の「「帯電装置」、「第1の偏向板」、「第2の偏向板」、「インクジェット印刷装置」に相当する。

(イ)引用発明は、インク粒子流3を射出するものであって、インク粒子流を射出する装置を備えているということができるから、当該装置は本件補正発明の「インク射出装置」に相当する。

(ウ)引用発明の「インク粒子流3」の「インク粒子」は、本件補正発明の「インクの液滴」に相当する。

(エ)引用発明の「縦方向に角度θ_(b」)、「縦方向に角度θ_(c)」は、それぞれ本件補正発明の「偏向方向」に相当する。

(オ)引用発明においては、「第1の偏向電極5」は、インク粒子流の「最小の荷電を受けた」「インク「粒子流3b」を「縦方向に角度θ_(b)」偏向させ、「最大の荷電を受けた」「インク粒子流3c」を「縦方向に角度θ_(c)」偏向させてインク粒子流3cとするものであるところ、引用発明において被記録体は、横方向に搬送されるものであるから、本件補正発明の「帯電された前記液滴の飛翔方向を前記鋼板の搬送方向と交差する方向である偏向方向へ偏向する第1の偏向板」と引用発明の「第1の偏向電極5」とは、「帯電された前記液滴の飛翔方向を被記録体の搬送方向と交差する方向である偏向方向へ偏向する第1の偏向板」である点で共通するものといえる。

(カ)引用発明においては、「インク粒子流3b」と「インク粒子流3c」は、「第2の偏向電極14内に入り」、それぞれ第1の偏向電極5とは全く逆方向の角度-θ_(b)、-θ_(c)の偏向を受け、第2の偏向電極14を出た後のインク粒子流3b、3cの偏向角は零とな」るものであるから、引用発明の「第2の偏向電極14」は、本件補正発明の「第1の偏向板によって偏向された前記飛翔方向を前記偏向方向に対して逆方向へ偏向する第2の偏向板」に相当するものである。

(キ)引用発明の「インク粒子流3により被記録体の記録面に記録画像が記録され」るの「被記録体の記録面」と、本件補正発明の「鋼板の表面に対してインクの液滴を射出する」の「鋼板の表面」とは、「インクの液滴を射出する」対象である被記録体の表面である点で共通する。

イ 一致点・相違点
前記「ア」の検討をふまえれば、本件補正発明と引用発明とは、つぎの一致点で一致し、相違点で相違するものである。

<一致点>
「搬送される被記録体の表面に対してインクの液滴を射出するインク射出装置と、
射出された前記液滴を帯電させる帯電装置と、
帯電された前記液滴の飛翔方向を前記被記録体の搬送方向と交差する方向である偏向方向へ偏向する第1の偏向板と、
前記第1の偏向板によって偏向された前記飛翔方向を前記偏向方向に対して逆方向へ偏向する第2の偏向板と、を備える、
インクジェット印刷装置。」

<相違点>
本件補正発明において「インクの液滴を射出する」対象は「平面形状の鋼板」であるのに対して、引用発明において、「被記録体」の形状は「平面形状」の「板」であるとは特定されておらず、その材料は金属ではあるものの「鋼」であるとは特定されていない点。

ウ 相違点についての当審の判断
(ア)相違点について
a 相違点に係る本件補正発明の特定事項について検討する。
本願出願日以前に公開された文献である特開昭60-92370号公報(以下「周知例1」という。)には「インクジエツト記録方式では、圧縮空気、ポンプ等によって加圧送出されたインクは、フイルタ圧力調節器等が連結されたパイプを通り、通常直径20?300μmのオリフイスを1個または多数個有するインク噴射装置に入り、該装置を通過する際に、磁気的または電気的に作動する振動子によって、強制的に微粒子となり連続的な流れを構成する。次に該微粒子は、被記録体に向う間に電気的文字発生器からのビデオ信号あるいは静電的偏向系によって制御され、被記録体上に文字等を形成する。」(2頁左上欄2行?12行)、「無処理鋼板」(2頁右上欄18行)、同特開昭59-41370号公報(以下「周知例2」という。)には、「インクジェット装置により・・・各種材質の物体に鮮明な印字を形成できる。被印字体としては鋼板、さび止め処理された鋼板、化成処理により酸化被膜された鋼板、高温酸化による四三酸化鉄被膜を有する鋼板、・・・」(3頁左下欄18行?同頁右下欄4行)と記載されている。
周知例1の記載において、「無処理鋼板」とは、被覆層等を設けず鋼そのものが露出している鋼板と解されるから、その「無処理鋼板」に「該微粒子」が、「静電的偏向系によって制御され、被記録体上に文字等を形成する」ことは、相違点に係る本件補正発明の「鋼板」に「インクの液滴を射出する」ことに相当する。
周知例2の前記記載において「鋼板」とは、他の「さび止め処理された鋼板、化成処理により酸化皮膜された鋼板、高温酸化による四三酸化鉄皮膜を有する鋼板」が鋼板表面に鋼以外のものからなる被覆層等を有する鋼板であることを示唆しているのと区別して記載されていることからみて、被覆層等を設けず鋼そのものが露出している鋼板を示していると解され、その「鋼板」に文字等を形成することは、相違点に係る本件補正発明の特定事項である「鋼板」に「インクの液滴を射出する」ことに相当する。
そして、周知例1の「無処理鋼板」及び周知例2の「鋼板」の、「板」とは、相違点に係る本件補正発明の特定事項である「平面形状」の「板」と同様の形状であると解される。
よって、相違点に係る本件補正発明の特定事項は、本願出願日前に周知技術であったといえる。

b 前記「a」で検討した周知技術を、引用発明に採用することを阻害する理由があるか否かについて検討する。
前記(2)アで示した引用例1の「このような記録歪の不都合は、被記録体の記録面の段差、曲率などによる形状の差異によって起こるばかりではなく、その他コンベア上の被記録体の位置の傾きなどによっても発生する。」との記載によれば、記録歪の不都合は、コンベア上の被記録体の位置の傾きによっても発生するから、被記録体が段差、曲率などを有しない板状(平面形状)の形状であっても、記録歪の不都合が生じると解され、引用発明において「被記録体」が板状(平面形状)の形状であることを阻害する理由はない。
金属材料として「鋼」は一般的なものであり、引用例1をみても特に「金属である」「被記録体」の材料に鋼を採用できない理由は記載されていない。よって、引用発明の「被記録体は金属である」の「金属」に周知技術の「鋼」を適用することを阻害する理由はない。
よって、引用発明の「被記録体」に、「a」で検討した周知技術を採用することを阻害する理由はない。

c したがって、引用発明における「被記録体は金属」との事項に、前記「a」で検討した周知技術を採用して、相違点に係る本件補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(イ) 審判請求書における主張について
審判請求人は審判請求書において以下の主張をしている。
「(3-3)本願発明の課題について
そもそも本願発明の課題は、被印刷物である鋼板において、液滴が印刷面に接触後、形状が安定するまでの間、鋼板との界面から遠い側と、鋼板の界面との近傍の部分との間に生じる張力によって、インクの液飛び等のドット不具合が生じることによります(本願明細書段落[0041]?[0046]、図5)。
すなわち、鋼板を印刷対象とする場合には、その表面へのインクの浸み込みが生じにくいために、インクの液滴が、印刷面に接触してから形状が安定するまでに、記録紙などの通常の記録媒体と比較して、より多くの時間を要します。このため、上述のような、インクに生じる張力の差に起因するドット形状の不具合の問題が生じます。
また、印刷面に接触するときの液滴の飛翔方向が印刷面と略直交する方向に対して傾く場合、液滴の飛翔速度は印刷面の平面方向成分を有します。ゆえに、液滴の鋼板との界面から遠い側の部分は、印刷面の平面方向成分に応じた速度で平面方向へ移動します。
よって、インク液滴の形状が安定するまでの間において、鋼板との界面から遠い側の部分と、界面の近傍の部分との間には、偏向角度が0である場合と比較して、大きな張力が掛かります。
また、偏向角度が大きいほど、印刷面に接触するときの印刷面と略直交する方向に対する傾きが大きくなります。従って、液滴の飛翔速度における印刷面の平面方向成分が大きくなるので、インクの液滴の形状が安定するまでの間において、より大きな張力が液滴に掛かります(本願明細書段落[0042、43])。
本願発明は、搬送される被印刷物である鋼板に対し、液滴の飛翔方向を偏向することができます。具体的には、帯電された液滴を、第1の偏向板によって、鋼板の搬送方向と交差する方向である偏向方向へ偏向し、さらに第2の偏向板によって、第1の偏向板によって偏向された偏向方向に対して、逆方向へ偏向します。
これにより、液滴の飛翔方向の印刷面と略直交する方向に対する傾きを低減することができます。
この結果、印刷面への接触後におけるインクの液滴の搖動において、液滴に掛かる張力を低減することができます。よって、鋼板への印刷におけるドット形状の不具合を低減することができます。
上記のような、搬送される鋼板に対する印刷に関して、引用文献1、2には記載も示唆もありません。特に、鋼板表面でのインク液滴の搖動に起因するドット形状の不具合について開示も示唆もありません。」(5頁下から4行?7頁3行。)

しかしながら、引用発明の「被記録体は金属」であるから、「その表面へのインクの浸み込みが生じにくいために、インクの液滴が、印刷面に接触してから形状が安定するまでに、記録紙などの通常の記録媒体と比較して、より多くの時間を要」することは、「鋼」と同様である。
引用発明においても、「第2の偏向電極14を出た後のインク粒子流3b、3cの偏向角は零となって、インク粒子流3により被記録体の記録面に記録画像が記録され」るから、審判請求書において主張されている「液滴の飛翔方向の印刷面と略直交する方向に対する傾きを低減することができ・・・この結果、印刷面への接触後におけるインクの液滴の搖動において、液滴に掛かる張力を低減することができます。よって、鋼板への印刷におけるドット形状の不具合を低減する」ことと同様の効果を奏するのは明らかである。
そして、前記(ア)で検討したとおり、引用発明における「被記録体は金属」との事項に、前記「(ア)a」で検討した周知技術を採用して、相違点に係る本件補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(エ)小括
以上のとおりであるから、引用発明に周知技術を適用することにより、相違点に係る本件補正発明の発明特定事項の如く構成することは当業者が容易に想到し得るものである。
また、前記相違点に係る本願発明1の発明特定事項により、本件補正発明に格別の作用効果が生じるものでもない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年2月17日にされた手続補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和1年7月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2 1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の本願発明に対する拒絶の理由
原査定には、「この出願については、令和1年5月29日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」と記載され、備考欄には、理由2が特許法第29条第2項違反である旨と、「●理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項1-5 ・引用文献等1-4」と記載がされ、当該記載は請求項1ないし4に係る発明は、引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとの意味であると一応読み取れる。
なお、前記引用文献1ないし4はそれぞれ、特開昭51-118325号公報(前記「引用例1」と同じもの。)、特開昭63-209947号公報(以下「引用例2」という。)、特開2015-214098号公報(以下「引用例3」という、特開2008-50904号公報(以下「引用例4」という。)である。
ここで、原査定の根拠となった令和1年5月29日付け拒絶理由通知書を参照すると、引用例2は、請求項3に係る発明に対して引用されたものであり、請求項1に係る発明に対して引用されたものではないことがわかる。
請求項3に係る発明特定事項である「前記鋼板に前記液滴が付着して形成されたドットについてのドット形状の不具合を検出する検出部と、前記ドット形状の不具合が検出された場合に、前記第2の偏向板による前記飛翔方向の偏向角度を調整する制御部」は、本願発明には含まれていないから、原査定において引用例2は、請求項1に対して引用されたものではなく、本願発明に対して原査定で引用された文献は、引用例1、3、4である。
よって、本願発明に対する原査定の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、日本国内又は外国において、その出願前に頒布された引用例1に記載された発明、周知技術(周知技術を示す文献として引用例3、引用例4)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用例及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1の記載事項及び記載の発明は、それぞれ前記第2 3(2)、(3)に記載したとおりである。

4 当審の判断
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明は、前記第2 2で検討したとおり、本件補正発明の「鋼板の表面に対してインクの液滴を射出」の「の表面」との限定的事項を削除したものである。
前記「の表面」との限定的事項は、前記第2 3(4)ア(キ)で検討したとおり、引用発明と本件補正発明の一致点としたものである。
そうすると、本願発明と引用発明との相違点は、前記第2 2(4)イで検討した相違点と変わるものではない。

(2)相違点についての当審の判断
ア 前記第2 3(4)ウで検討したとおり、相違点に係る本願発明の特定事項は、本願出願日前に周知技術であり、引用発明における「被記録体は金属」との事項に、前記周知技術を採用して、相違点に係る本件補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

イ 原査定で周知文献として引用された引用例3、4について検討する。
引用例3には、「【0019】上記インク層3は、鋼板6に接着剤5で貼り付けた樹脂フィルム4上に、インクジェットプリンターによってインクを塗布することで形成している。つまり、本発明においては、鋼板6に印刷シートを貼り合わせるのではなく、鋼板6上に単色の樹脂フィルム4を介して柄をインクジェットプリンターによって直接印刷する。」と記載されている。
引用例4には、「【0008】・・・(1)鋼板基材と、この鋼板基材の片面にインクジェット印刷される印刷層と、上記鋼板基材の印刷層と反対の面に配置され鋼板表面よりも摩擦係数の大きい摩擦材層とを備えた鋼板パネル。」と記載されている。
そして、引用例3の「鋼板」及び引用例4の「鋼板」の、「板」とは、相違点1に係る本願発明の特定事項である「平面形状」と同様の形状であると解される。
よって、相違点に係る本願発明の特定事項は、本願出願日前に周知の技術(以下「周知技術´」という。)であったといえる。
当該周知技術´を、引用発明に採用することを阻害する理由があるか否かについての検討は、第2 3(4)ウ(ア)bでの検討のとおり、阻害する理由はない。
したがって、引用発明における「被記録体は金属」との事項に、前記で検討した周知技術´を採用して、相違点に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

ウ 以上のように、相違点に係る本願発明の発明特定事項の如く構成することは当業者が容易に想到し得るものである。
また、前記相違点に係る本願発明の発明特定事項により、本願発明に格別の作用効果が生じるものでもない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術又は周知技術´に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-23 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-12 
出願番号 特願2016-4176(P2016-4176)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤本 義仁
畑井 順一
発明の名称 インクジェット印刷装置及びインクジェット印刷方法  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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