• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1374464
審判番号 不服2020-8590  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-22 
確定日 2021-05-27 
事件の表示 特願2016-550139「SiC層を備えた半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月31日国際公開、WO2016/047534〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)9月16日(優先権主張:平成26年9月24日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 元年10月 2日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月21日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年12月24日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 2年 3月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 3月19日付け:令和 2年 3月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 2年 6月22日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和 2年 6月22日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 2年 6月22日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板の表面に形成された酸化シリコン層と、
前記酸化シリコン層の表面に形成されたシリコン層と、
前記シリコン層の表面上に形成された炭化シリコン層とを備え、
前記酸化シリコン層の厚さは、1.2μm以上5μm以下であり、
前記炭化シリコン層の厚さは、0.5μm以上2μm以下であり、
前記シリコン層の厚さは、5nm以上10nm以下である、半導体装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和 元年11月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板の表面に形成された酸化シリコン層と、
前記酸化シリコン層の表面に形成されたシリコン層と、
前記シリコン層の表面上に形成された炭化シリコン層とを備え、
前記酸化シリコン層の厚さは、1μm以上20μm以下であり、
前記炭化シリコン層の厚さは、0.5μm以上3μm以下である、半導体装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「酸化シリコン層」、「炭化シリコン層」、「シリコン層」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2009/151133号(2009年(平成21年12月17日国際公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審で付した。以下同じ。)
「背景技術
窒化ガリウムや窒化アルミニウム等の窒素化合物は、直接遷移型のワイドギャップ半導体であり、シリコン半導体に比べて絶縁破壌電界や飽和電子速度、化学的安定性に優れることから、次世代の発光デバイスや半導体デバイス材料として注目を集めている。また、埋め込み絶縁層を有するSOI基板は、回路の高速化と低消費電力化を図る上で優れており、次世代のLSI基板として有望視されている。従って、これら2つの特徴を融合した絶縁層埋め込み型窒素化合物半導体基板が半導体デバイス材料として極めて有望である。」(第1ページ第12行-第20行)

「本発明において、上記変性させた単結晶SiC層の上に、さらに単結晶SiCをエピタキシャル成長させ、上記エピタキシャル成長させた単結晶SiCに対して窒素化合物半導体をエピタキシャル成長させる場合には、単結晶SiC層の上層にさらにエピタキシャル成長によってSiCを形成する際に、成長するSiCの結晶性が向上するため、その上にエピタキシャル成長させる窒素化合物半導体も結晶性が良好となり、良好な窒素化合物半導体デバイスが得られる。」(第8ページ第13行-第19行)

「図1は、本発明の窒素化合物半導体基板の製造方法の一実施の形態を示す図である。
この窒素化合物半導体基板の製造方法は、まず、所定厚さの表面Si層3と埋め込み絶縁層4とを有すSi基板1を準備し、上記Si基板1の表面Si層3の厚みを6nm?40nm程度に薄膜化する(図1(A))。つぎに、上記Si基板1を炭素系ガス雰囲気中で加熱して上記表面Si層3を単結晶SiC層6に変成させる(図1(B))。このとき、埋め込み絶縁層4との界面8近傍のSi層を残存Si層5として残すことが行なわれる。ついで、上記単結晶SiC層6をシード層としてエピタキシャル成長により、単結晶SiCエピタキシャル層7を成長させる(図1(C))。さらに、上記エピタキシャル成長で形成された単結晶エピタキシャルSiC層7の上に、エピタキシャル成長により窒素化合物半導体層15を形成する。

以下、各工程について詳しく説明する。
上記Si基板1は、Si母材2の表面近傍に、埋め込み絶縁層4として所定厚みのSiO_(2)層が形成され、表面に所定厚さの表面Si層3が形成されたものである。上記埋め込み絶縁層4の厚みは、約1?200nm程度の厚みになるよう設定されている。
ついで、上記Si基板1の表面Si層3の厚みを薄くし薄膜化する。この薄膜化は、例えば、Si基板1を酸化雰囲気で加熱処理することにより、埋め込み絶縁層4との界面8近傍に所望厚みのSi層を残存させるよう、表面Si層3の表面から所定深さを酸化させて酸化物層9を形成したのち、表面の酸化物層9をフッ化水素酸等でエッチングすることにより除去し、界面8近傍に残存させた所望厚みのSi層を露出させることにより薄膜化することが行われる。
このとき、薄膜化した表面Si層3の厚みは、6nm?40nm程度に設定するのが好ましく、より好ましいのは8nm?30nm程度であり、さらに好ましいのは10nm?27nm程度である。
上記薄膜化した表面Si層3の厚みが6nm未満では、その後の変成工程によって十分な厚みの残存Si層5を残すことができないうえ、十分な厚みの一次単結晶SiC層6も生成することができないからである。また、上記薄膜化した表面Si層3の厚みが40nmを超えると、後述する変性処理に時間を要することとなったり、残存Si層5の厚みが厚くなりすぎて上記界面8近傍にボイド等の欠陥が生じやすくなったりするからである。
上記薄膜化後の表面Si層3の厚みは、Si基板1を酸化雰囲気で加熱処理して酸化物層9を形成するときの雰囲気、温度、時間等の酸化処理条件を調整し、もともとの表面Si層3の厚みに対して形成させる酸化物層9の厚みを調整することにより設定することができる。
つぎに、上記Si基板1を炭素系ガス雰囲気中で加熱して上記表面Si層3を単結晶SiC層6に変成させる。
上記変成工程は、例えば、図2に示す装置により行われる。この装置は、ヒータ11を有する加熱炉10と、上記加熱炉10内に導入される雰囲気ガス(水素ガスG1および炭化水素ガスG2)を貯留するボンベ13,14とを備えている。12は水素ガスG1と炭化水素ガスG2とを混合して混合ガスとして加熱炉10に供給する混合器である。
上記装置により、上記Si基板1を加熱炉10内に設置し、上記加熱炉10内に水素ガスG1と炭化水素系ガスG2との混合ガス(G1+G2)を供給しながら、加熱炉10内の雰囲気温度を上昇させて、前記Si基板1の表面Si層3を単結晶SiC層6に変成させることが行われる。
より詳しく説明すると、上記Si基板1を加熱炉10内に設置して、加熱炉10内に水素ガスG1に対して炭化水素系ガスG2を1体積%の割合で混合した混合ガス(G1+G2)を供給する。また、この混合ガス(G1+G2)の供給と同じくして、加熱炉10内の雰囲気温度を500℃?シリコンの溶融点未満、好ましくは1200?1405℃に加熱する。この加熱によって、Si基板1の表面Si層3を単結晶SiC層6に変成させる。
ここで、前記水素ガスG1はキャリアガスであり、炭化水素ガスG2としては例えばプロパンガスを使用する。例えば、水素ガスG1のボンベ13からの供給量が1000cc/分であったならば、炭化水素ガスG2のボンベ14からの供給量を10cc/分とする。単結晶SiC層6の厚みは、同層の欠損欠陥の低減ならびに3次元成長抑制のため、3nm?20nm程度に設定することが好ましく、より好ましいのは4nm?10nm程度であり、さらに好ましいのは5nm?7nm程度である。
このとき、表面Si層3における表面Si層3と埋め込み絶縁層4との界面8近傍領域に残存Si層5を残すことが行なわれる。上記残存Si層5の厚みは、3?20nmに設定するのが好ましく、より好ましいのは3?17nmである。上記残存Si層5の厚みが3nm未満だと、残存Si層5と埋め込み絶縁層4との界面8の平坦性を向上させる効果に乏しく、上記残存Si層5の厚みが20nmを超えると、上記界面8近傍にボイド等の欠陥が生じやすくなるからである。
上記残存Si層5の厚みは、変性処理の雰囲気、温度、時間等の条件を調節することにより、薄膜化したときの表面Si層3の厚みに対して形成させる単結晶SiC層6の厚みを調節することにより設定することができる。
必要に応じて、上記工程を過剰に行って単結晶SiC層6を上記単結晶SiC層6の上に堆積させることが行われる。上記工程を過剰に行う(例えば数分?数時間継続させる)ことにより、上記単結晶SiC層6の上に炭素薄膜が堆積される。
ついで、上記単結晶SiC層6をシード層としてエピタキシャル成長により、単結晶SiCを成長させ、単結晶SiCエピタキシャル層7を堆積させる。
上記単結晶SiCエピタキシャル層7のエピタキシャル成長は、例えば、下記の条件により単結晶SiCを成長させることができる。すなわち、単結晶SiC層6が形成されたSi基板1を処理チャンバー内に配置し、上記処理チャンバー内にモノメチルシランまたはシランおよびプロパン等の炭化水素系とを含有する原料ガスを、大気圧以下の圧力下において約1?1000sccm程度のガス流量で供給しながら、温度500℃?シリコンの溶融点未満、好ましくは800?1405℃で処理することにより、上記単結晶SiC層6をシード層としてエピタキシャル成長により、単結晶SiCを成長させることができる。
ここで、上記変性処理やエピタキシャル成長で形成されるSiCや埋め込み絶縁層4(SiO_(2))を構成するSi分は、高温化において一部がCO_(2)となって昇華すると考えられる。また、SiCとSiO_(2)が接触した状態で高温化に晒されると、SiCとSiO_(2)との間で相互変性すると考えられる。
このとき、単結晶SiC層6と埋め込み絶縁層4(SiO_(2))との間に残存Si層5が存在しなければ、単結晶SiC層6を構成するSiCの一部がSiO_(2)に変性したり、反対に埋め込み絶縁層4を構成する SiO_(2)一部がSiCに変性したりすることが起こって、結果的に、単結晶SiC層6と埋め込み絶縁層4の界面の平坦性が崩れ、「うねり」になって現れるものと考えられる。
そこで、本発明のように、変性処理後に単結晶SiC層6と埋め込み絶縁層4(SiO_(2))の間に、適切な厚みの残存Si層5を存在させることにより、上記のようなSiCとSiO_(2)と相互変性が防止され、残存Si層5と埋め込み絶縁層4との界面8の平坦性が維持されるものと考えられる。また、変性処理後に単結晶SiC層6に何らかの欠陥があった場合でも、残存Si層5の存在により欠陥が埋め込み絶縁層4まで至らず、Siの昇華を防止し、残存Si層5と埋め込み絶縁層4との界面8の平坦性が維持されるものと考えられる。
残存Si層5と埋め込み絶縁層4との界面8の平坦性が維持されると、変性処理によって得られる単結晶SiC層6の厚みも平坦化し、結晶面がそろった状態になると考えられる。そうすると、その後にエピタキシャル成長によって単結晶SiCを成長させた場合にも、そろった状態のSiCの結晶性が維持されるため、従来よりもはるかにきれいな単結晶で膜厚も均一な単結晶SiCエピタキシャル層7が得られるようになる。
つぎに、図1(D)に示すように、上記単結晶SiCエピタキシャル層7の上に、エピタキシャル成長により窒素化合物半導体層15を堆積させる。
上記窒素化合物半導体層15のエピタキシャル成長は、例えば、下記の条件により行なうことができる。すなわち、単結晶SiCエピタキシャル層7が形成されたSi基板1を処理チャンバー内に配置し、上記処理チャンバー内に有機Al系ガスおよび/または有機Ga系ガスおよびアンモニアガスとを含有する原料ガスを、大気圧以下の圧力下において約100?5000sccm程度のガス流量で供給し、温度500℃?シリコンの溶融点未満、好ましくは400?1200℃程度で処理することにより、上記単結晶SiCエピタキシャル層7の上にエピタキシャル成長により、AlN層、GaN層、AlGaN層等のいずれかもしくはこれらの積層構造の窒素化合物半導体層15を成長させることができる。」(第12ページ第11行-第17ページ第13行)

「〔実施例A2〕
表面Si層3の厚みが10?14nmの(111)SIMOX基板(SOI-A)、表面Si層3の厚みが18?22nmの(111)SIMOX基板(SOI-B)の(111>貼り合わせSOI基板(SOI-C)を出発材料として準備し、実施例A1と同条件で炭化熱処理を実施した。この工程により、表面Si層3は表面側から3?7nmのシリコン層が炭化されて、3?7nm厚の単結晶SiC層6へと変成された。SOI-A、SOI-B、SOI-Cは、それぞれその下層部に、3?11nm、9?19nm、およそ9900?1100nmの残存Si層5が残存した膜構造となった。
引き続き、ウェハを減圧エピタキシャル成長炉に挿入し、約2×10^(-4)torrの減圧下にてモノメチルシランを3sccmで当該エピタキシャル成長炉に導入しつつ、ウェハ温度が1150℃に達するまで加熱昇温し、当該温度で10分間保持して、単結晶SiC層 (シード層)6上に約100nm厚の単結晶SiCエピタキシャル層7を堆積した。
このあと、エピタキシャル成長炉の加熱用ヒーターへの通電を止め、同時にモノメチルシランガスの導入を止め、この状態で電気炉の試料全体が所定の低温、例えば80℃程度に低下するまで冷却してウェハを炉外に取り出した。引き続き、ウェハを減圧エピタキシャル成長炉に挿入し、実施例A1と同条件で約3nm厚のAlNバッファ層を堆積した。引き続き、ウェハを減圧エピタキシャル成長炉に挿入し、実施例A1と同条件で、約300nm厚のGaNエピタキシャル層を堆積した。」(第20ページ第26行-第21ページ第21行)

(イ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「Si母材2の表面近傍に、埋め込み絶縁層4として所定厚みのSiO_(2)層が形成され、表面に所定厚さの表面Si層3が形成されたSi基板1を準備し、
表面Si層3における表面Si層3と埋め込み絶縁層4との界面8近傍領域に残存Si層5を残し、表面Si層3を単結晶SiC層6に変成させ、
単結晶SiC層6をシード層としてエピタキシャル成長により、単結晶SiCを成長させ、単結晶SiCエピタキシャル層7を堆積させた、窒素化合物半導体デバイスであって、
埋め込み絶縁層4の厚みは、約1?200nm程度の厚みになるよう設定され、
3?11nmの残存Si層5が残存した膜構造となり、
3?7nm厚の単結晶SiC層6上に約100nm厚の単結晶SiCエピタキシャル層7を堆積した、窒素化合物半導体デバイス。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-29594号公報(平成23年2月10日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
絶縁物上の単結晶Si半導体層の形成は、シリコン・オン・インシュレーター(SOI)技術として広く知られ、通常のSi集積回路を作製するシリコン単結晶基板では到達しえない数々の優位点があることから、多くの研究が成されてきた。すなわち、SOI技術を利用することで、
1.誘電体分離が容易で高集積化が可能、2.対放射線耐性に優れている、3.浮遊容量が低減され高速化が可能、4.ウエル工程が省略できる、5.ラッチアップを防止できる、6.薄膜化による完全空乏型電界効果トランジスタが可能、
等の優位点が得られる。
【0003】
このようなデバイス特性上の多くの利点を実現するために、ここ数十年に渡り、SOI構造の形成方法について数多くの研究がなされてきている。
また近年の環境問題、省エネルギーに対応した半導体素子が数多く開発されているが、この用途では高電圧を扱う必要があり、そのため厚い素子分離膜(埋め込み酸化膜(BOX層))をもつSOIウェーハの要求が非常に強くなってきている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、SOIウェーハの作製方法は数多く知られているが、分離酸化膜(BOX層)はSIMOXを除いて熱酸化膜であり、高電圧用途で使用されるような厚い分離酸化膜の形成には限界がある。何故なら熱酸化膜の厚さは酸化時間の1/2乗に比例するため、実用的には1μm程度が限界である。そして前述のようにSIMOXはイオン注入により分離酸化膜を形成する方法のため、厚い酸化膜の形成には不適である。
【0011】
ここで、実際に熱酸化膜単膜で厚さを変えてどのくらいの電圧まで破壊されないかを調べた。その結果(絶縁破壊耐圧)を図4に示す。横軸が酸化膜厚、縦軸が絶縁破壊電圧値(V_(bd))である。
この図4から判るように、酸化膜厚が1μmであれば、絶縁破壊電圧値は900Vである。また、もっと大きな絶縁破壊電圧値、例えば約5000Vであれば、10μmという厚い酸化膜が最低でも要求されることになる。
【0012】
ところで、今後は電気自動車等のように高い電圧を扱うデバイスが増えてくることが予想され、電圧もますます大きくなってくることが考えられる。そのため、それに伴い酸化膜厚が数μm以上に厚くする要求が増えてくると考えられる。
しかしながら実際の酸化工程を考慮すると、酸化膜厚が酸化時間の1/2乗に比例することを考えると通常の熱処理炉では1μm程度が限界である。そして、これ以上は高温炉の中にシリコン基板をかなりの長時間の間投入しておくしかなく、生産性等を考慮すると問題が多い。例えば、1150℃でパイロ酸化を行う場合、10μmまで成長させるには2000分以上必要となる(例えば非特許文献1等参照)。」

「【0017】
このように、熱酸化膜の代わりにCVD酸化膜を形成することによって、その厚さが1μm以上、例えば10μm以上と厚い酸化膜であっても容易に形成することができる。また、CVD酸化膜の形成後に1100℃?1300℃のアニールを行うことによって、CVD酸化膜を改質することができ、熱酸化膜と同等の品質を持った酸化膜とすることができる。
そしてこのような非常に厚く、熱酸化膜と同等の品質のCVD酸化膜を介して第1のシリコン基板と第2のシリコン基板を貼り合わせることによって、高品質かつ高絶縁性の高電圧用途に好適なBOX層の厚さが例えば1μm以上、好ましくは2μm以上と厚いSOIウェーハを容易かつ高歩留りで製造することができる。」

(イ)上記(ア)から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「環境問題、省エネルギーに対応した半導体素子が数多く開発されているが、この用途では高電圧を扱う必要があること。」
「高品質かつ高絶縁性の高電圧用途に好適なBOX層の厚さが例えば1μm以上と厚いSOIウェーハ。」

ウ 引用文献3
(ア)同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2007-281196号公報(平成19年10月25日出願公開。以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、SOI構造半導体基板を用いて高耐圧の半導体装置を実現するには、断面の縦方向において印加電圧をSOI層と埋め込み酸化膜に分配して所望の耐圧が得られるように、SOI層の濃度と厚さ及び埋め込み酸化膜の厚さを最適設計する必要がある。しかしながら、この方法で1000V以上の高耐圧を得ようとすると、5μmより厚い埋め込み酸化膜と、50μmより厚いSOI層が必要である。一方、SOI基板の反り等の関係で、達成できる埋め込み酸化膜の膜厚の上限は4μm程度である。また、SOI層の厚さは通常数μm?20μm程度であり、SOI層の厚さを大きくするとトレンチ加工負荷が増大する。このため、図10のレベルシフト回路形成領域におけるMOS型トランジスタTrLでは、600V程度の耐圧確保が限界で、400V電源系やEV車等で要求される1200Vの耐圧は確保することができない。」

(イ)上記(ア)から、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「SOI構造半導体基板を用いて高耐圧の半導体装置を実現するには、所望の耐圧が得られるように、埋め込み酸化膜の厚さを最適設計する必要があること。」
「SOI基板の反り等の関係で、達成できる埋め込み酸化膜の膜厚の上限は4μm程度であること。」

エ 引用文献4
(ア)同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2009-65082号公報(平成21年3月26日出願公開。以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、高速および高効率半導体デバイス等に用いられる3C-SiC(立方晶炭化ケイ素)と、GaN(六方晶窒化ガリウム)およびAlN(六方晶窒化アルミニウム)に代表される窒化物等の化合物半導体単結晶層とからなる化合物半導体基板に関する。」

「【0016】
3C-SiC単結晶バッファー層2の厚さは、実用性の観点から、0.05?2μmであることが好ましい。
前記厚さが0.05μm未満である場合、バッファー(緩衝)効果が不十分となる。
一方、前記厚さが2μmを超えると、3C-SiC単結晶バッファー層2形成の際、ミスフィット転位が発生する等により、好ましくない。
前記3C-SiC単結晶バッファー層2の厚さは、0.1?1μmであることがより好ましい。」

(イ)上記(ア)から、引用文献4には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「窒化物等の化合物半導体単結晶層とからなる高速および高効率半導体デバイスであって、3C-SiC単結晶バッファー層2の厚さは、実用性の観点から、0.05?2μmであること。」

オ 引用文献5
(ア)本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2006-222402号公報(平成18年8月24日出願公開。以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。
「【請求項1】
Si(110)基板上にβ-SiC薄膜の一層のみ、または、β-SiC薄膜およびAlN薄膜の二層の中間層を用いることを特徴とする窒化ガリウム化合物半導体。
【請求項2】
中間層のβ-SiCの面方位(111)であることを特徴とする。
【請求項3】
中間層は、0.02?5μmのβ-SiC層のみ、または、0.02?5μmのβ-SiC層および0.01?0.1μmのAlN薄膜の二層を用いることを特徴とする。」

「【0008】
上記の要求および問題点に対して、SiC結晶成長による緩衝層の厚み増加を提案しているが(整理番号:TSA4205P)、使用するSi基板の面方位を(111)に限定していた。
面方位(111)のSi基板を用いた際の問題点としては、中間層としてSiC層を成長した場合、面方位(111)に成長するが反りが大きく、Si基板厚さが薄くなるに従って必要膜厚の成長が困難になる。例えば、Si基板厚さ400μmに対してSiC中間層厚さ2μm以上でクラックが発生した。」

「【0013】
Si表面炭化によるSiC層だけでなく0.02μm以上の膜厚までSiCヘテロエピタキシャル成長することで、格子不整合緩和の効果に加えてSiCの高剛性により熱膨張差の応力を緩和して、その後、窒化ガリウム系化合物の必要膜厚までクラックを発生させずに成長することを可能にする。
窒化ガリウム系化合物の膜厚増加に伴い、中間層のSiC膜厚が厚いほどSi基板との応力緩和の効果が発揮されると考えられるが、厚くなりすぎた場合、SiC層とSi基板との熱膨張差による大きな反りが発生し、プロセスが困難となる。この点において、面方位(110)のSi基板を使用することは優位である。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「窒素化合物半導体デバイス」は、本件補正発明の「半導体装置」に対応する。

(イ)引用発明の「窒素化合物半導体デバイス」は、「Si母材2の表面近傍に、埋め込み絶縁層4として所定厚みのSiO_(2)層が形成され、表面に所定厚さの表面Si層3が形成されたSi基板1を準備し、表面Si層3における表面Si層3と埋め込み絶縁層4との界面8近傍領域に残存Si層5を残し、表面Si層3を単結晶SiC層6に変成させ、単結晶SiC層6をシード層としてエピタキシャル成長により、単結晶SiCを成長させ、単結晶SiCエピタキシャル層7を堆積させた」ものであり、「Si母材2」と、「Si母材2」の表面に形成されたSiO_(2)層からなる「埋め込み絶縁層4」と、「埋め込み絶縁層4」の表面に形成された「残存Si層5」と、「残存Si層5」の表面上に形成された「単結晶SiC層6」及び「単結晶SiCエピタキシャル層7」とを備えるものである。
そうすると、引用発明の「Si母材2」、「埋め込み絶縁層4」、「残存Si層5」、「単結晶SiC層6」及び「単結晶SiCエピタキシャル層7」は、それぞれ、本件補正発明の「シリコン基板」、「酸化シリコン層」、「シリコン層」、「炭化シリコン層」に相当する。

(ウ)引用発明では、「3?11nmの残存Si層5が残存した膜構造」とするものであり、引用発明の「残存Si層5」の厚さは5nm以上10nm以下の範囲を含むことから、本件補正発明と引用発明とは、「前記シリコン層の厚さは、5nm以上10nm以下である」点で一致する。

イ 上記アから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「シリコン基板と、
前記シリコン基板の表面に形成された酸化シリコン層と、
前記酸化シリコン層の表面に形成されたシリコン層と、
前記シリコン層の表面上に形成された炭化シリコン層とを備え、
前記シリコン層の厚さは、5nm以上10nm以下である、半導体装置。」

(相違点)
(相違点1)酸化シリコン層の厚さについて、本件補正発明では、「1.2μm以上5μm以下」であるのに対し、引用発明では、「約1?200nm程度」である点。

(相違点2)炭化シリコン層の厚さについて、本件補正発明では、「0.5μm以上2μm以下」であるのに対し、引用発明では、「単結晶SiC層6」及び「単結晶SiCエピタキシャル層7」の合計103?107nm程度である点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献1の背景技術に「窒化ガリウムや窒化アルミニウム等の窒素化合物は、直接遷移型のワイドギャップ半導体であり、シリコン半導体に比べて絶縁破壌電界や飽和電子速度、化学的安定性に優れることから、次世代の発光デバイスや半導体デバイス材料として注目を集めている。」と記載されているように、優れた絶縁破壊電界を有するデバイスが注目されている。
そして、引用文献2、3の技術的事項から、BOX層の厚さを最適設計した高耐圧の半導体装置は、周知であり、引用文献3の技術的事項から、SOI基板の反り等の関係で、BOX層の厚さの上限は4μm程度であることが理解できる。
そうすると、引用発明の「窒素化合物半導体デバイス」を、周知のBOX層の厚さを最適設計した高耐圧の半導体装置として用いるようにし、「埋め込み絶縁層4」の厚さを、相違点1に係る本件補正発明の範囲内の値とすることは、必要とする絶縁破壊電圧値や許容される基板の反りに応じて、当業者が適宜なし得たことである。

イ 相違点2について
引用発明の「単結晶SiC層6」及び「単結晶SiCエピタキシャル層7」は、その上に形成される窒素化合物半導体層とSi基板との間にあるものであるから、中間の緩衝層といえる。
そして、引用発明と引用文献4は、単結晶SiCからなる緩衝層に関する技術で共通し、引用発明において、引用文献4の技術的事項を考慮し、「単結晶SiC層6」及び「単結晶SiCエピタキシャル層7」の厚さを実用性の観点から選択するようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。
そうすると、引用発明の「単結晶SiC層6」及び「単結晶SiCエピタキシャル層7」の厚さを、相違点2に係る本件補正発明の範囲内の値とすることは、必要とするバッファー(緩衝)効果等に応じて、当業者が適宜なし得たことである。

ウ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「3.拒絶査定の違法性について
(1) 請求項1に係る発明は、「前記酸化シリコン層の厚さは、1.2μm以上5μm以下であり、」という構成、および「前記炭化シリコン層の厚さは、0.5μm以上2μm以下であり、」という構成を含んでいます。
請求項1に係る発明によれば、酸化シリコン層の厚さを1.2μm以上5μm以下とし、炭化シリコン層の厚さを0.5μm以上2μm以下とすることにより、炭化シリコン層へのクラックの発生及び基板の反りを抑止し、炭化シリコン層の結晶性を良好にしつつ、パワーデバイスとして半導体装置に要求される縦方向の耐圧を確保することができます。
・・・(略)・・・
つまり、請求項1に係る発明は、炭化シリコン層へのクラックの発生を抑止しつつ、基板の反りを抑止しつつ、パワーデバイスとして半導体装置に要求される縦方向の耐圧を確保することができるという効果を有しています。この効果は、酸化シリコン層の厚さ範囲と炭化シリコン層の厚さ範囲との両方を請求項1に規定する範囲に設定してこそ得られるものです。請求項1に係る発明の酸化シリコン層の厚さ範囲と炭化シリコン層の厚さ範囲との両方を開示するものは、引用文献1?4の中には存在しません。引用文献2および3は酸化シリコン層の厚さ範囲を開示するに過ぎず、引用文献4は炭化シリコン層の厚さ範囲を開示するに過ぎません。このため、この効果は、引用文献1?4の記載から予測できるものではなく、請求項1に係る発明は、引用文献と比較した有利な効果を有しています。
(2) 加えて、引用文献1?4の組合せから、請求項1に係る発明の「前記酸化シリコン層の厚さは、1.2μm以上5μm以下であり、」という構成を得ることは困難です。
・・・(略)・・・
このように、引用文献2および3では、デバイスに求められる耐圧を、SOI基板で確保することを示唆しています。デバイスに求められる耐圧を、SOI基板の酸化シリコン層の厚さと、SOI基板上に形成された炭化シリコン層の厚さとの両方により確保することの動機付けとなるものは、引用文献2および3にはありません。
このため、引用文献1に対して引用文献2または3を組み合わせることにより、デバイスに必要な縦方向の耐圧(明細書の段落0038)を確保しようとした場合、当業者であれば、引用文献1のSiC層6および7の厚さを考慮することなく、引用文献1の埋め込み絶縁層4の厚さを必要な厚さまで厚くすることのみで、耐圧を確保するはずです。その結果、引用文献1の埋め込み絶縁層4の厚さは5μmより大きくなり、基板に反りが生じます(本願の図3)。このことは、「1000V以上の高耐圧を得ようとすると、5μmより厚い埋め込み酸化膜と、50μmより厚いSOI層が必要である。」という引用文献3の記載からも読み取れます。
従いまして、引用文献1?4の組合せから、請求項1に係る発明の「前記酸化シリコン層の厚さは、1.2μm以上5μm以下であり、」という構成を得ることは困難です。
(3) 上述のように、引用文献1?4は、請求項1に係る発明の構成および効果を開示も示唆もしておらず、引用文献1?4の組合せから請求項1に係る発明の構成を得ることは困難です。したがって、引用文献1?4から請求項1に係る発明を得ることは、当業者にとって容易ではありません。ゆえに、請求項1に係る発明は進歩性を有しています。
請求項2?4は請求項1に従属しており、請求項1の発明特定事項の全てを含んでいます。上述のように請求項1に係る発明は進歩性を有していますので、請求項2?4に係る発明もまた進歩性を有しています。」と主張している。
しかしながら、上記ア、イのとおり、相違点1に係る本件補正発明の「前記酸化シリコン層の厚さは、1.2μm以上5μm以下であり、」という構成は、引用発明において、引用文献2、3に記載された技術的事項から、当業者が容易になし得たことであり、また相違点2に係る本件補正発明の「前記炭化シリコン層の厚さは、0.5μm以上2μm以下であり、」という構成は、引用発明において、引用文献4に記載された技術的事項から、当業者が容易になし得たことである。
また、引用文献3の段落【0008】には、SOI基板の反り等の関係で、達成できる埋め込み酸化膜の膜厚の上限を設けることや、引用文献5の段落【0008】、【0013】には、SiC中間層厚さ2μm以上でクラックが発生すること、厚くなりすぎた場合、SiC層とSi基板との熱膨張差による大きな反りが発生し、プロセスが困難となることが記載されているように、形成する膜にクラックや大きな反りが生じないように、厚さの上限を設けることは常套手段である。そして、引用発明において、高耐圧とするために「埋め込み絶縁層4」を厚くする際、及びバッファー効果を高めるために「単結晶SiC層6」及び「単結晶SiCエピタキシャル層7」を厚くする際、基板の反りやSiC層のクラックが生じない膜厚を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず、請求人が主張する「炭化シリコン層へのクラックの発生を抑止しつつ、基板の反りを抑止しつつ、パワーデバイスとして半導体装置に要求される縦方向の耐圧を確保することができるという効果」は、当業者が予測し得たものであって、顕著ないし異質なものとは認められない。
さらに、本願の段落【0038】には、「一般的に、パワーデバイスとしての半導体装置においては、半導体装置におけるSi基板を除く部分で、560V程度の縦方向の耐圧が要求されている。」と記載されているように、必要とする耐圧は560V程度である。対して、引用文献2の段落【0011】には、「酸化膜厚が1μmであれば、絶縁破壊電圧値は900Vである」と記載されており、引用発明において、引用文献2の技術的事項から、「埋め込み絶縁層4」を1μm以上で形成すると、560Vの耐圧を確保することが可能であり、「引用文献1?4の組合せから、請求項1に係る発明の「前記酸化シリコン層の厚さは、1.2μm以上5μm以下であり、」という構成を得ることは困難です」という請求人の主張は認められない。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(5)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから、引用発明において、上記引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて、相違点1、2に係る本件補正発明の構成、それぞれを想到することは、当業者が容易になし得たことである。
また、上記相違点1、2を総合的に勘案しても、本件補正発明は当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和 2年 6月22日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和 元年11月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-5に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2-4に記載された技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2009/151133号
引用文献2:特開2011-29594号公報
引用文献3:特開2007-281196号公報
引用文献4:特開2009-65082号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし4及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「酸化シリコン層」、「炭化シリコン層」、「シリコン層」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2-4に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-10 
結審通知日 2021-03-16 
審決日 2021-03-30 
出願番号 特願2016-550139(P2016-550139)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 智之鈴木 聡一郎  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 小川 将之
脇水 佳弘
発明の名称 SiC層を備えた半導体装置  
代理人 椿 豊  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ