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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1374466
審判番号 不服2020-9821  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-14 
確定日 2021-05-27 
事件の表示 特願2018- 95236「立体画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月18日出願公開、特開2018-161890〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月19日(以下「分割原出願日」という。)に出願した特願2012-95544号の一部を平成28年6月10日に新たに出願した特願2016-116197号の一部を平成29年4月24日に新たに出願した特願2017-85479号の一部を平成30年5月17日に新たに出願したものであって、同年6月6日に手続補正書が提出され、平成31年3月5日付けで拒絶理由が通知され、令和1年5月23日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月24日付で拒絶理由(最後)が通知され、同年11月26日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年5月12日付けで令和1年11月26日付けの手続補正書が却下されると同時に拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年7月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 令和2年7月14日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年7月14日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和1年5月23日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1へと補正することを含むものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
印字ヘッドがインク滴として噴射するためのインクであって光熱変換特性を有したインクが収容されたカートリッジと、
前記印字ヘッドが噴射したインク滴によって熱膨張性媒体上に画像を形成すべく、前記印字ヘッドに対向する第1の位置を前記熱膨張性媒体が通過するように搬送する搬送手段と、
前記搬送手段によって前記熱膨張性媒体が搬送される搬送経路における前記第1の位置よりも下流側の第2の位置で、前記熱膨張性媒体上の前記画像としてのインクに光熱変換させるべく、前記第2の位置に向けて光を照射する光照射手段と、
前記熱膨張性媒体上に前記画像を形成する際に前記印字ヘッドが所定の方向に往復動作するように、前記印字ヘッドを移動させる駆動手段と、
を備え、
前記印字ヘッドが前記光照射手段による光の照射方向の延長線上から外れた位置で往復動作するように、前記駆動手段が、前記第2の位置に向けて照射された前記光照射手段による光の前記第2の位置での照射面に対して平行な方向に前記印字ヘッドを移動させ、且つ、前記光照射手段が、前記画像が形成される際の当該画像の形成面における法線に対して平行な方向に光を照射する、
ことを特徴とする立体画像形成装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
印字ヘッドがインク滴として噴射するためのインクであって光熱変換特性を有したインクが収容されたカートリッジと、
前記印字ヘッドが噴射したインク滴によって熱膨張性媒体上に画像を形成すべく、前記印字ヘッドに対向する第1の位置を前記熱膨張性媒体が通過するように搬送する搬送手段と、
前記搬送手段によって前記熱膨張性媒体が搬送される搬送経路における前記第1の位置よりも下流側の第2の位置で、前記熱膨張性媒体上の前記画像としてのインクに光熱変換させるべく、前記第2の位置に向けて光を照射する光照射手段と、
前記熱膨張性媒体上に前記画像を形成する際に前記印字ヘッドが所定の方向に往復動作するように、前記印字ヘッドを移動させる駆動手段と、
を備え、
前記印字ヘッドが前記光照射手段による光の照射方向の延長線上から外れた位置で往復動作するように、前記駆動手段が、前記第2の位置に向けて照射された前記光照射手段による光の前記第2の位置での照射面に対して平行な方向に前記印字ヘッドを移動させ、且つ、前記光照射手段が、前記画像が形成される際の当該画像の形成面における法線に対して平行な方向に光を照射し、
前記第1位置は前記第2位置と同じ閉鎖空間内に位置するように設定されている、ことを特徴とする立体画像形成装置。」(なお、「前記第1位置」及び「前記第2位置」は、それぞれ、「前記第1の位置」及び「前記第2の位置」の誤記と認める。)

2 本件補正の適否について
本件補正により、本件補正前の発明特定事項である搬送経路における「第1の位置」及び「第2の位置」について、「第1の位置は第2の位置と同じ閉鎖空間内に位置するように設定されている」との限定を付加するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、本願の願書の最初に添付した明細書の
「【0071】
装置本体110は、例えば図17(a)、(b)に示すように、箱型の筐体を有し、概略、表示パネル111と、表示パネル収納部112と、給紙トレイ113と、排紙口114と、カードスロット115と、印刷機構部(図18参照)120と、制御部(図示を省略;図19参照)と、を有している。」
「【0075】
また、装置本体110の内部には、図17(b)に示すように、給紙トレイ113内部のピックアップローラ113bにより1枚ずつ送り出された熱膨張性シート10を搬送案内するシート搬送路116が設けられている。このシート搬送路116の途中には、例えばインクジェット式の印刷機構部120が設けられている。この印刷機構部120の給紙側(図面右方側)及び排紙側(図面左方側)には、それぞれ、熱膨張性シート10を搬送するための給紙ローラ対121、及び、排紙ローラ対122が配設されている。」
「【0089】
さらに、上述した構成例においては、印刷装置100により、上述した実施形態に係る立体画像形成方法のうち、画像データ準備ステップ(S101、S201)と、一面側画像形成ステップ(S102、S202)と、他面側情報形成ステップ(S203)と、他面側画像形成ステップ(S104、S205)とを実行する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、例えば図17(b)に示した印刷装置100の内部構成において、二点鎖線で示すように、印刷機構部120の排紙側であって、シート搬送路116(又は、熱膨張性シート10)に対して上面側もしくは下面側に、ハロゲンランプ等の光源部140が配置された構成を有するものであってもよい。ここで、光源部140は、例えば図19中、二点鎖線で示すように、CPU101からの指令に基づいて、熱膨張性シート10の搬送に応じて所定の光量の光を放射する。」
「【図17】


の記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由において引用された特開2001-150812号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、発泡性シートを選択的に発泡させて造形を行う発泡造形技術に関する。」
イ 「【0030】発泡性シート9は、図2(a)のように、基材層91と、基材層91上に積層された発泡層92とを有している。
【0031】基材層91は、後述する光LTを実質的に散乱反射する表面91Sを有している。
【0032】発泡層92は、空間分布した多数のマイクロカプセル93と、これらのマイクロカプセル93を覆う被覆部94とを備えている。

【0035】そして、図2(b)に示すように、基材層91の下側の表面91Sに、光吸収性パターン95を形成する。光吸収性パターン95は、光吸収性の低いパターン95aと、光吸収性の高いパターン95bとの組合せで構成されている。この光吸収性の低いパターン95aおよび高いパターン95bは、互いに異なる材料で形成してもよく、また単一の材料を用いる場合には面積階調法により濃淡を形成してもよい。これのうち、光吸収度が互いに異なる複数の材料の例としては、黒色トナーと灰色トナーとの組合せがある。灰色トナーは、たとえば黒色トナーと白色トナーとの混合物として得られる。この例のように、「光吸収度が互いに異なる複数の材料」は、特定の光吸収性材料(上記の例の場合は黒色トナー)の含有割合に応じて光吸収度が異なったものとなってる混合物の組であってもよい。そして、このように光吸収性(光吸収度)の大小は、着色の濃淡(濃度)によって実現可能であり、このように光吸収性材料の可視的な濃淡によって光吸収パターン95を形成すると、実際に発泡させる前の状態でも、基材層91上の光吸収性パターン95を視覚的に見ただけで、発泡パターン上の高さ分布を視覚的に予測して確認することができるという利点がある。
【0036】光吸収性パターン95に対して、赤外線を含む光LTを一様に照射すると、光吸収性パターン95が光LTを吸収して熱TMが発生し、その熱の空間パターンが基材層91を伝導して発泡層92に至る。そして、この熱TMにより、発泡層92内のマイクロカプセル93が膨張して、選択的に隆起する隆起部96(96a、96b)が生じる。ここで、光吸収性の低いパターン95aにおいて発生する熱量は、光吸収性の高いパターン95bで発生する熱量よりも小さいため、隆起部96aの発泡高さHaは、隆起部96bの発泡高さHbよりも低くなる。

【0041】<造形の手順>図5は、半立体画像を造形する手順を説明する図である。ここで、図5(e)?(f)は、図5(a)のPa-Pa位置、図5(b)のPb-Pb位置、図5(c)のPc-Pc位置、および図5(d)のPd-Pd位置から見た断面図を示している。また、図6は、造形のための発泡性シート9に形成する画像を示す図である。以下では、発泡性シートを使用して半立体画像の造形を行うプロセスを説明し、このプロセスを自動的に行う発砲造形システムについては後述する。
【0042】まず、図5(a)に示す発泡性シート9(図2(a)に示すものと同じ)を準備する。
【0043】そして、図5(b),(f)のように、発泡性シート9の発泡層92の表面上に、2次元画像データDPに基づき、カラー画像などの可視的な平面画像97を形成する。
【0044】平面画像97は、例えば図6(a)に示すように、2次元画像データDPにおいて、魚モデルMDaおよび水草モデルMDbに対応する魚画像97aおよび水草画像97bと、立体モデルMDに無関係な方形状の枠を表す枠画像97cとで構成される。この枠画像97cは、魚画像97aと水草画像97bとの組合せに関する額縁の役割を果たしている。
【0045】次に、図5(c),(g)のように、発泡性シート9の発泡層92の裏面に相当する基材層91の表面上に、既述した方法で予め取得している距離画像データDSなどに基づき、濃淡画像の光吸収性パターン95を形成する。
【0046】光吸収性パターン95は、例えば図6(b)に示すように、魚モデルMDaに対応する魚パターン95fと、方形状の枠を表す枠パターン95gとで構成されている。
【0047】魚パターン95fは、魚モデルMDaの距離画像データDSにおいて、距離データが示す立体形状の各部の高さに応じて濃淡をつけたもので、魚パターン95fの中央に向かうほど、濃い色となっている。この濃淡表現は、数段階による高さ表現から、実質的に連続な高さ分布による表現まで種々のものを利用できる。この例の「魚」のように自然物をモデルとする場合には比較的多くの段階、たとえば8段階?32段階程度またはそれ以上の段階で高さ分布を表現することが好ましい。この実施形態でも繊細な高さ表現がきるように段階数を比較的多くとっているが、図6(b)では図示の便宜上、少数の濃淡領域だけで濃淡分布を表現している。一般に、濃淡のN段階(Nは2以上の整数、好ましくは3以上の整数)で高さ分布を表現する場合には、最も高いレベルの領域は最高濃度の「黒」であり、(N-2)個の中間レベルはそれぞれ濃さが異なる「灰色」である。また、最も低い濃度レベルの領域(つまり図1の背景面IPと同程度の高さの領域)は「白」であって、この「白」領域は実質的に着色媒体を付さないことによって表現することができる。図示例の場合には、図1の魚モデルMDaから後方にに離れた位置に背景面IPを設定しており、元の高さ分布において魚モデルMDaの範囲内にはゼロレベルの部分がないため、図6(b)の魚パターン95fには「白」の領域はない。また、この実施形態では、基礎データDOによって表現されている魚モデルMDaの高さ分布においては、その最大高さが発泡性シート9における発泡層92の制御限界高さHcを越えているが、既述した変換(より詳細な変換式は後述)によって、最大高さが実質的にする制御限界高さHcとなるようにスケーリングされている。
【0048】また、魚パターン95fは、魚画像97aの位置に整合している。この場合、距離画像データDSは、魚モデルMDaと水草モデルMDbとのデータを有しているが、このデータうちの一部つまり水草モデルMDbを除く魚モデルMDaのみを光吸収性パターン95に反映している。つまり、魚パターン95fは、距離画像データDSにおいて造形すべき選択画像データに対応するものとなっている。このように、光吸収性パターン95は、距離画像データDSの一部に対応する濃淡画像のパターンとして形成してもよく、そのかわりに距離画像データDSの全体にわたって形成してもよい。
【0049】枠パターン95gは、濃淡がなく一様の濃度で着色されている。また、枠パターン95gは、距離画像データDSとは無関係に形成された幾何学的な画像パターンである。これは、上記の選択画像データに追加される追加画像データに対応するものである。
【0050】最後に、図5(d)に示すように、濃淡画像の光吸収性パターン95が形成されている基材層91側から、光LTを照射する。これにより、図5(h)に示すように、隆起部96f、96gが生成される。隆起部96fは、画像パターン95fで中央に向かうほど濃い色となっているため、中央に向かうほど発泡高さが大きくなっている。一方、隆起部96gは、画像パターン95gが一様に着色されているため、その発泡高さも等しくなっている。
【0051】<第1実施形態>
<発泡造形システムの要部構成>図7は、本発明の第1実施形態の発泡造形システム1を示す概略構成図である。
【0052】発泡造形システム1は、発泡性シート9を1枚ずつ給紙する給紙部10と、給紙部10から給紙された発泡性シート9にカラートナーを付与して画像を印刷する画像印刷部20と、画像印刷部20で印刷された発泡性シート9を表裏反転させる表裏反転機構30と、光を照射して発泡性シート9の造形を行う造形部40と、各部を制御し、データ処理を行うデータ処理部50とを備えている。データ処理部50には、操作部51とディスプレイ52とが付設されている。このうち、操作部51は、オペレータが諸条件を操作入力するキーボードなどのほか、基礎データDOを入力するためのメディアドライブまたはオンライン通信装置を備えている。
【0053】給紙部10は、給紙トレイまたは給紙カセットに積層している複数の白色の発泡性シート9が配置される。これらの発泡性シート9のそれぞれは矩形の平面形状を有している。また、給紙部10は、シート送出ローラ11を有しており、このシート送出ローラ11を駆動させることにより、発泡性シート9が1枚づつ画像印刷部20に搬送される。
【0054】画像印刷部20は、帯電器によって帯電された後に露光器21からの光によって露光されることにより、その表面に静電潜像を形成可能な感光体ドラム22を備えている。この露光パターンは、造形データDZにおける2次元画像データDPまたは距離画像データDSに基づいて決定される。
【0055】ロータリー式現像器22は、色料の3原色であるC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(黒)の各カラートナーを有する現像器22a,22b,22c,22dで構成されている。このトナーは、赤外線を吸収する材料として使われる。なお、色料の3原色の代わりに、色光の3原色であるR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)のカラートナーを用いても良い。
【0056】ロータリー式現像器22には、各トナーを感光体ドラム23に与えるための複数の現像スリーブ24を備えており、その時点で選択されているひとつの現像スリーブ24が感光体ドラム23に接触可能である。
【0057】そして、感光体ドラム23に形成されている静電潜像が現像スリーブ24からのトナーによって現像され、そのトナー像はいったん中間転写ベルト25に転写された後に発泡性シート9に転写される。この中間転写ベルト25は、駆動用ローラ25a、従動用ローラ25b、1次転写ローラ25c、支持ローラ25dによってループ状に駆動される構成となっている。また、支持ローラ25dに対向して2次転写ローラ25eが設けられている。
【0058】また、画像印刷部20においては、トナーの定着に使用される2つのヒートローラ26(26a、26b)が上下に配置されている。
【0059】表裏反転機構30は、発泡性シート9の表裏を反転するもので、用紙の表裏両面に複写可能な複写機で利用される一般的な反転機構となっている。これは、発泡性シート9の両面に、それぞれ平面画像97と濃淡画像のパターン95とを形成する必要があるが、着色部20においては発泡性シート9の片面しか着色できないため、この表裏反転機構30にて発泡性シート9の表裏を反転して、再度複写する必要があるからである。
【0060】造形部40については、その詳細な構成を示す図8を参照しつつ、説明する。
【0061】造形部40は、ケーシング41と、光を照射する光照射部42と、発泡性シート9を搬送するシート搬送部45とを備えている。
【0062】光照射部41は、所定の光量の光を均一に照射するランプ43と、ランプ43からの光線を発泡性シート9に向けて反射させる反射傘44とを備えている。このランプ43では、ハロゲンランプ、赤外線ランプなどの赤外線波長を多く含む光線を発するものが使用される。
【0063】シート搬送部45は、搬送ベルト46と、搬送ベルトを駆動する駆動用および従動用ローラ47a、47bとを備えている。また、シート搬送部45は、発泡性シート9のケーシング41内への搬入および搬出に利用するシート搬入案内板48a、シート搬出案内板48bを備えている。
【0064】搬送ベルト46は、駆動用ローラ47aの回転数を制御することにより、所定の速度で発泡性シート9を搬送することができる。そして、発泡性シート9の搬送速度と、発泡性シート9へのランプ43からの光量との積に応じて、発泡性シート9の濃淡画像パターン95の各濃度領域でそれぞれ発生する熱量が定まり、発泡高さの調整が行われることとなる。
【0065】データ処理部50では、立体モデルMDに関するデータのデータ変換(後述)が行われるとともに、上記の各部の制御が行われる。」
ウ 「【0113】◎上記各実施形態の画像印刷部においては、インクジェット方式により発砲性シートに印刷を行っても良い。この場合には、発泡性シートの発泡層にさらにインク受像層がオーバーコートされるため、塗布したインクがにじみなく画像を再現することが可能となる。」
エ 「【図7】

【図8】


オ 上記イ及びエ【図7】より、「発泡造形システム」は、給紙部10、画像印刷部20、表裏反転機構30及び造形部40を発泡性シートがその面における法線の方向を変えずに通過するよう搬送する手段を備えることは明らかといえる。
カ 上記エ【図8】より、造形部40にはランプ43からの光線を発泡性シート9に向けて反射させる半円形の反射傘44が設けられていることが看取できるところからすれば、造形部40は、画像印刷部20に対して発泡性シート9の搬送方向下流側であって、画像印刷部20による画像が形成される際の当該画像の形成面における法線に対して平行な方向に、発泡性シートに対して光を照射しているといえ、上記(エ)【図7】から看取できる画像印刷部20及び造形部40の配置位置を勘案すれば、画像印刷部20は造形部40による光の照射方向の延長線上から外れた位置に位置するといえる。
キ 上記イ画像印刷部20により、発泡性シート9の発泡層92の表面上には、カラー画像などの可視的な平面画像97が形成され、また、発泡性シート9の発泡層92の裏面上には、濃淡画像の光吸収性パターン95が形成されるものと認められる。
ク 上記ウより、発泡造形システム1の画像印刷部20は、インクジェット方式によるものと認められるところ、そのインクジェット方式の発泡造形システムが、印字ヘッドがインク滴として噴射するためのインクが収容されたカートリッジを備えていていることは明らかである。
ケ 上記イより、トナーを用いた発泡造形システムでは、光を吸収して熱を発生するトナーを用いて光吸収性パターンを形成しているところ、上記クのとおり、発泡造形システムがインクジェット方式であるのであるから、インクジェット方式で用いるインクは光を吸収して熱を発生するインクであることは明らかである。
コ 上記イより、発泡性シートは、基材層91と、マイクロカプセル93を備える発泡層92とを有し、光吸収性パターン95に対して、光LTを一様に照射すると、光吸収性パターン95が光LTを吸収して熱TMが発生し、この熱TMにより、発泡層92内のマイクロカプセル93が膨張するものであるから、熱膨張性を有するといえる。

そうすると、上記ア乃至コの記載事項から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「熱膨張性を有する発泡性シートを1枚ずつ給紙する給紙部と、印字ヘッドがインク滴として噴射するための光を吸収して熱を発生するインクが収容されたカートリッジと、給紙部から給紙された発泡性シート上にインクジェット方式により画像を印刷する画像印刷部と、画像印刷部で印刷された発泡性シートを表裏反転させる表裏反転機構と、光を照射して発泡性シートに造形を行う造形部と、各部を制御し、データ処理を行うデータ処理部とを備えている発泡造形システムであって、
給紙部、画像印刷部、表裏反転機構及び造形部を発泡性シートがその面における法線の方向を変えずに通過するよう搬送する手段を備え、
造形部は、光を照射する光照射部と、発泡性シートを搬送するシート搬送部とを備え、
光照射部は、所定の光量の光を均一に照射するランプと、ランプからの光線を発泡性シートに向けて反射させる反射傘とを備え、
造形部の光照射部は、画像印刷部に対して発泡性シートの搬送方向下流側であって、画像印刷部により発泡性シート上に画像が形成される際の発泡性シート上の当該画像の形成面における法線に対して平行な方向に、発泡性シートに対して光を照射し、
画像印刷部により、発泡性シートの発泡層の表面上には、カラー画像などの可視的な平面画像が形成され、また、発泡性シートの発泡層の裏面上には、濃淡画像の光吸収性パターンが形成され、
画像印刷部は、造形部による光の照射方向の延長線上から外れた位置に位置している、発泡造形システム。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア 後者の「印字ヘッドがインク滴として噴射するための光を吸収して熱を発生するインクが収容されたカートリッジ」、「搬送する手段」及び「光照射部」は、それぞれ、前者の「印字ヘッドがインク滴として噴射するためのインクであって光熱変換特性を有したインクが収容されたカートリッジ」、「搬送手段」及び「光照射手段」に相当する。
イ 後者の「発泡性シート」は、熱膨張性を有するものであるから、前者の「熱膨張性媒体」に相当する。
ウ 後者の「搬送する手段」は、画像印刷部を発泡性シートが通過するよう搬送するものであるから、後者の「発泡性シート」が通過する画像印刷部に対向する位置が前者の「印字ヘッドに対向する第1の位置」に相当する。
してみると、前者の「搬送手段」と後者の「搬送する手段」とは、「印字ヘッドが噴射したインク滴によって熱膨張性媒体上に画像を形成すべく、前記印字ヘッドに対向する第1の位置を熱膨張性媒体が通過するように搬送する搬送手段」との概念で一致する。
エ 後者の「光照射部」は、画像印刷部に対して発泡性シートの搬送方向下流側で発泡性シートに光を照射するものであって、画像印刷部により発泡性シート上に画像が形成される際の、発泡性シート上の当該画像の形成面における法線に対して平行な方向に、発泡性シートに対して光を照射するものであるから、後者の「発泡性シート」が搬送方向における光照射部に対向する位置が前者の「第2の位置」に相当し、前者の「光照射手段」と後者の「光照射部」とは、「搬送手段によって熱膨張性媒体が搬送される搬送経路における第1の位置よりも下流側の第2の位置で、前記熱膨張性媒体上の画像としてのインクに光熱変換させるべく、前記第2の位置に向けて光を照射する光照射手段」であって、「画像が形成される際の当該画像の形成面における法線に対して平行な方向に光を照射する光照射手段」との概念で一致する。
オ 後者の「画像印刷部」は、造形部による光の照射方向の延長線上から外れた位置に位置しているのであるから、前者の「印字ヘッド」と後者の「印字ヘッド」とは、「光照射手段による光の照射方向の延長線上から外れた位置」に位置している点で共通する。
カ 後者の「発泡画像形成システム」は、発泡性シートを1枚ずつ給紙する給紙部と、給紙部から給紙された発泡性シートにインクジェット方式により画像を印刷する画像印刷部と、画像印刷部で印刷された発泡性シートを表裏反転させる表裏反転機構と、光を照射して発泡性シートに造形を行う造形部と、各部を制御し、データ処理を行うデータ処理部及び搬送する手段を備えるものであるから、前者の「立体画像形成装置」と後者の「発泡造形システム」とは、「カートリッジ、搬送手段、光照射手段とを備える立体画像形成装置」との概念で一致する。

したがって、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
[一致点]
「印字ヘッドがインク滴として噴射するためのインクであって光熱変換特性を有したインクが収容されたカートリッジと、
前記印字ヘッドが噴射したインク滴によって熱膨張性媒体上に画像を形成すべく、前記印字ヘッドに対向する第1の位置を前記熱膨張性媒体が通過するように搬送する搬送手段と、
前記搬送手段によって前記熱膨張性媒体が搬送される搬送経路における前記第1の位置よりも下流側の第2の位置で、前記熱膨張性媒体上の前記画像としてのインクに光熱変換させるべく、前記第2の位置に向けて光を照射する光照射手段と、
を備え、
前記印字ヘッドが光照射手段による光の照射方向の延長線上から外れた位置に位置し、前記光照射手段が、前記画像が形成される際の当該画像の形成面における法線に平行な方向に光を照射している、立体画像形成装置。」

[相違点1]
本願補正発明は、「熱膨張性媒体上」に「画像を形成する際」に「印字ヘッドが所定の方向に往復動作するよう」に、「印字ヘッドを移動させる駆動手段」を備え、当該「駆動手段」は、「印字ヘッド」が「光照射手段による光の照射方向の延長線上から外れた位置で往復動作するよう」に、「第2の位置に向けて照射された前記光照射手段による光の前記第2の位置での照射面に対して平行な方向に前記印字ヘッドを移動させ」るものであるのに対し、引用発明は、そのような駆動手段を有するのか否か定かでない点。

[相違点2]
本願補正発明が、「第1の位置」は「第2の位置」と「同じ閉鎖空間内に位置するように設定されている」ものであるのに対し、引用発明は、そのように特定されない点。

(4)判断
上記各相違点について、以下、検討する。
ア [相違点1]について
媒体上に、画像を形成する際に、媒体搬送方向に対して直交する方向、かつ、媒体面に対して平行な方向に往復動作するインクジェット方式の印字ヘッドは、原査定の拒絶の理由において引用された特開平9-124984号公報、特開平11-34354号公報及び特開2012-16823号公報に示されているように、周知の技術手段(以下「周知技術」という。)であるところ、該周知技術において、印字ヘッドを往復動作するよう移動させる駆動手段を備えることは明らかであるから、引用発明の「印字ヘッド」を、媒体上に、画像を形成する際に、媒体搬送方向に対して所定の方向、かつ、媒体面に対して平行な方向に往復動作するよう移動させる駆動手段を設けることは当業者が適宜なし得るものである。
ここで、引用発明の造形部の光照射部は、画像印刷部に対して発泡性シートの搬送方向下流側であって、画像の形成面における法線に対して平行な方向に、発泡性シートに対して光を照射するものであるから、引用発明において上記周技術であるところの「媒体搬送方向に対して直交する方向、かつ、媒体面に対して平行な往復動作するインクジェット方式の印字ヘッド」を採用することにより、引用発明の造形部の光照射部による光の照射方向の延長線上から外れた位置で往復動作するものとなることは明らかである。
そして、本願補正発明の「第2の位置での照射面」とは、願書に添付した明細書の段落【0012】等を参酌すると、熱膨張性シートの光が照射される面を意味すると解されるところ、引用発明の発泡性シートは、搬送する手段により、その面における法線の方向を変えずに搬送されるものであるから、引用発明に周知技術を適用した場合には印字ヘッドは、媒体面に対して平行な方向、すなわち、光照射部による光の照射面に対して平行な方向に移動することとなるといえる。
以上のとおりであるから、引用発明において、上記周知技術を参酌し、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項の如く構成することは、当業者が容易になし得るものである。

イ [相違点2]について
画像形成装置において、装置の大きさを小さくすること、すなわち小型化は、その設計にあたって常に考慮される設計上の自明の課題といえるところ、装置の小型化を実現するために画像形成装置を構成する複数の構成要素を、近接配置したり、同じ筐体内に配置することは、常套手段といえることである。
してみると引用発明において小型化を実現するために、引用発明の発泡造形システムが備える、給紙部、画像印刷部、表裏反転機構及び造形部を、同じ筐体内に配置することは、当業者が適宜なし得るものである。
以上のことからすれば、引用発明において、画像印刷部及び造形部を同じ筐体内に配置することにより、発泡性シートの画像印刷部に対向する位置と、造形部に対向する位置とを同じ閉鎖空間内に位置するようにして、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項の如く構成することは、当業者が適宜なし得るものである。
してみると、引用発明において、上記相違点2のように構成することは、当業者が適宜なし得るものである。

したがって、引用発明において、上記周知技術を参酌し、本願補正発明とすることは、当業者が容易になし得るものである。

なお、上記アで検討したように、引用発明において、上記周知技術を採用すると、印字ヘッドは、媒体上に画像を形成する際に、媒体搬送方向に対して直交する方向、かつ、媒体面に対して平行な方向に往復動作することとなるところ、引用発明の光照射部は、ランプからの光線を発泡性シートに向けて反射させる反射傘を備えているのであるから、光照射部の光照射範囲からすれば、上記の通り小型化するにあたって、同じ閉鎖空間内に画像印刷部と造形部とを位置するようにしても、造形部の光照射部が照射する光が、画像印刷部に影響しないことは、当業者にとって自明なことである。

請求人は、「本願発明では、印字ヘッドに光照射手段からの光が照射されてしまうことを防止しつつも装置を小型化することが可能になります。 一方、各引用文献には、「第1の位置は第2の位置と同じ閉鎖空間内に位置するように設定されていること」の記載がなく、各引用文献は本願発明とは異なります。 そして、たとえ各引用文献を組み合わせたとしても、本願発明の上述したような特徴を得ることができるものでもありません。」と主張する。
しかし、請求人が主張する「印字ヘッドに光照射手段からの光が照射されてしまうことを防止しつつも装置を小型化することが可能になります」との作用効果は願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「明細書等」という。)には、何ら記載されていない。
他方で、請求人が主張する上記作用効果が、明細書等から当業者にとって自明のものだとするのであるなら、そのような作用効果は、当業者が予測し得る程度のものといえる。
よって、請求人の主張は採用できない。

したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、当業者が容易に発明できた発明であって、特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反してされたものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和1年5月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
印字ヘッドがインク滴として噴射するためのインクであって光熱変換特性を有したインクが収容されたカートリッジと、
前記印字ヘッドが噴射したインク滴によって熱膨張性媒体上に画像を形成すべく、前記印字ヘッドに対向する第1の位置を前記熱膨張性媒体が通過するように搬送する搬送手段と、
前記搬送手段によって前記熱膨張性媒体が搬送される搬送経路における前記第1の位置よりも下流側の第2の位置で、前記熱膨張性媒体上の前記画像としてのインクに光熱変換させるべく、前記第2の位置に向けて光を照射する光照射手段と、
前記熱膨張性媒体上に前記画像を形成する際に前記印字ヘッドが所定の方向に往復動作するように、前記印字ヘッドを移動させる駆動手段と、
を備え、
前記印字ヘッドが前記光照射手段による光の照射方向の延長線上から外れた位置で往復動作するように、前記駆動手段が、前記第2の位置に向けて照射された前記光照射手段による光の前記第2の位置での照射面に対して平行な方向に前記印字ヘッドを移動させ、且つ、前記光照射手段が、前記画像が形成される際の当該画像の形成面における法線に対して平行な方向に光を照射する、
ことを特徴とする立体画像形成装置。」(以下「本願発明」という。)

2 引用例
令和1年9月24日付けの拒絶理由通知に引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、実質的に、本願補正発明の「第1の位置は第2の位置と同じ閉鎖空間内に位置するように設定されている」との限定を省くものである。

そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 3 (3)対比」での検討を勘案すると、両者は、上記[相違点1]で相違するのみである。
してみると、上記「第2 3 (4)判断」における検討内容を踏まえれば、上記と同様の理由により、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-23 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-12 
出願番号 特願2018-95236(P2018-95236)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M)
P 1 8・ 56- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 博之  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 清水 康司
藤本 義仁
発明の名称 立体画像形成装置  

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