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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F28D
管理番号 1374485
審判番号 不服2019-17369  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-23 
確定日 2021-05-26 
事件の表示 特願2018-567442「ベーパーチャンバ」拒絶査定不服審判事件〔2018年 8月16日国際公開、WO2018/147283〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年2月6日(優先権主張 2017年2月7日、日本国)を国際出願日とする出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。
令和1年6月25日付けで拒絶理由の通知(令和1年7月1日発送)
令和1年8月16日に意見書及び手続補正書の提出
令和1年10月4日付けで拒絶査定(令和1年10月15日送達)
令和1年12月23日に拒絶査定不服審判の請求及びその請求と同時に手続補正書の提出
令和2年9月2日付けで拒絶理由の通知(令和2年9月7日発送)
令和2年11月5日に意見書及び手続補正書の提出
令和2年11月19日付けで最後の拒絶理由の通知(令和2年11月30
日発送)
令和3年1月27日に意見書及び手続補正書の提出

第2 補正の適否
1.補正の内容
令和3年1月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前に令和2年11月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲についてする補正であり、以下に示す、本件補正前の請求項1を、本件補正後の請求項1とする補正である(下線は、補正箇所を示す。)。
<本件補正前の請求項1>
【請求項1】
一方の板状部材と該一方の板状部材と対向する他方の板状部材が積層されて形成された、中空の空洞部を有するコンテナと、前記空洞部に封入された作動流体と、前記空洞部に設けられたウィック構造体と、を有し、前記空洞部の外周部が溶接にて封止されたベーパーチャンバであって、
前記一方の板状部材は、前記溶接により形成される溶融部が貫通しており、前記他方の板状部材は、前記溶融部が貫通しておらず、
前記他方の板状部材の、前記溶融部が貫通していない部位が、溶接のエネルギー密度が低減されている前記コンテナの枠の部位であり、
前記他方の板状部材が、前記一方の板状部材と対向する面に、凹部を有し、前記他方の板状部材の、前記一方の板状部材と対向しない面において、前記凹部の位置に対応する部位が、前記凹部の周縁部に対応する部位と同一平面上にあるベーパーチャンバ。

<本件補正後の請求項1>
【請求項1】
一方の板状部材と該一方の板状部材と対向する他方の板状部材が積層されて形成された、中空の空洞部を有するコンテナと、前記空洞部に封入された作動流体と、前記空洞部に設けられたウィック構造体と、を有し、前記空洞部の外周部が溶接にて封止されたベーーチャンバ(当審注:「ベーパーチャンバ」の誤記と認める。)であって、
前記一方の板状部材は、前記溶接により形成される溶融部が貫通しており、前記他方の板状部材は、前記溶融部が貫通しておらず、
前記他方の板状部材の、前記溶融部が貫通していない部位が、前記溶融部が貫通していないことで前記溶融部が貫通している部位よりも溶接のエネルギー密度が低減されている、前記コンテナの枠の部位であり、
前記他方の板状部材が、前記一方の板状部材と対向する面に、凹部を有し、前記他方の板状部材の、前記一方の板状部材と対向しない面において、前記凹部の位置に対応する部位が、前記コンテナの枠の部位である前記凹部の周縁部に対応する部位と同一平面上にあるベーパーチャンバ。

2.本件補正の適合性
(1)補正の範囲
願書に最初に添付した明細書の
「【0022】
本発明の態様によれば、一方の板状部材の溶融部における板厚が、他方の板状部材の溶融部における板厚よりも薄い、すなわち、溶融部において、光線照射側に位置する板状部材である一方の板状部材の板厚が他方の板状部材の板厚よりも薄いので、光線のエネルギー密度をより低減でき、結果、コンテナの歪みがさらに低減される。」
「【0032】
レーザー溶融部17が他方の板状部材12を貫通していないベーパーチャンバ1では、コンテナ10の材料の種類に関わらず、レーザー光線15のエネルギー密度を低減できるので、レーザー溶接時に発生する熱を抑制できる。従って、ベーパーチャンバ1では、コンテナ10の歪みが低減されている。また、レーザー光線15のエネルギー密度を低減できるので、コンテナ10の材料が、レーザー溶融部17にピンホールが発生しやすい銅やアルミニウムでも、ピンホールの発生が防止されている。
【0033】
また、他方の板状部材12ではレーザー溶融部17が貫通されていないことにより、レーザー溶接時に溶融状態の金属粉であるスパッタの発生が防止されるので、ベーパーチャンバ1や溶接用治具等の汚染を防止できる。また、レーザー溶融部17が貫通されていない他方の板状部材12では、盛り上がった溶接痕である溶接ビートが発生しないので、他方の板状部材12から溶接ビートを除去する作業を省略できる。さらに、レーザー光線15のエネルギー密度を低減でき、他方の板状部材12から溶接ビートを除去する作業を省略できるので、ベーパーチャンバ1の生産コストを低減できる。」
の記載事項からみて、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてする補正であり、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

(2)補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1及び請求項1を引用する請求項2?7について、「溶接のエネルギー密度が低減されている前記コンテナの枠の部位」が特定していることや「低減」の比較対象が明確でない点について、最後の拒絶の理由を通知したところ(令和2年11月19日付け)、「前記溶融部が貫通していないことで前記溶融部が貫通している部位よりも溶接のエネルギー密度が低減されている、前記コンテナの枠の部位」と補正するものである。これによって、「溶接のエネルギー密度が低減されている」の比較対象が「前記溶融部が貫通している部位」であり、「前記コンテナの枠の部位」について「前記溶融部が貫通していない」という事項を特定するものであることが明確となった。
また、補正前の「コンテナの枠の部位」の用語が明細書に記載されておらず、当該用語が何を示すかが明確でない点についても、最後の拒絶の理由を通知したところ(令和2年11月19日付け)、「前記コンテナの枠の部位である前記凹部の周縁部」と補正するものである。これによって、「前記コンテナの枠の部位」が「前記凹部の周縁部」であることが明確となった。

以上より、本件補正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするといえ、特許法第17条の2第5項第4号の規定に適合する。
したがって、本件補正は適法なものである。

第3 本願発明
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、「第2 1.<本件補正後の請求項1>」に記載したとおりのものと認める。

第4 令和2年9月2日付けで通知した拒絶の理由
当審において、令和2年9月2日付けで通知した拒絶の理由のうち、請求項1に係る発明についてした拒絶の理由の概略は、以下の理由1のとおりである。
<理由1(進歩性)>
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:国際公開第2016/151916号
引用文献2:国際公開第2011/016200号
引用文献3:特開2011-240390号公報
引用文献4:特開2005-40853号公報

第5 引用文献
1.引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
当審の拒絶の理由で通知された上記引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、参考のため当審で付与したものである。以下、同様。)。
「[0017] 以下、本発明のシート型ヒートパイプについて説明する。
[0018] 本明細書において、「ヒートパイプ」とは、コンテナと、該コンテナ内に封入される作動液と、ウィックとを有してなり、蒸発部から冷却部に熱を輸送することができるデバイスを意味する。熱の輸送は、作動液が蒸発部において熱を吸収して蒸発し、気相となった作動液が冷却部へと移動し、冷却部において熱を放出して凝縮し、液相となった作動液が再び蒸発部へと移動するサイクルにより行われる。
[0019] 上記コンテナは、第1金属シートと第2金属シートが、重ね合わせた状態で内部に密閉された空間が形成されるように一部、例えば周縁部が接合されている。第1金属シートと第2金属シートとは、完全に一致するように重なっている必要はなく、ウィックおよび作動液を封入するのに十分な空間を確保できるような範囲で重なっていればよい。
・・・
[0066] 本発明のシート型ヒートパイプの製造方法は、特に限定されず、上記の構成を得られる方法であれば特に限定されない。例えば、2枚の金属シートを重ね合わせ、ウィックおよび作動液を封入するための開口部を残して接合し、開口部からウィックおよび作動液をコンテナ内に入れ、次いで、開口部を封止することにより得ることができる。また、別法として、一方の金属シート上にウィックを配置し、次いで、他方の金属シートを重ねて一部を接合し、開口部から作動液を入れて、封止してもよい。また、ウィックは予め金属シート上に形成されていてもよい。第1金属シートと第2金属シートの接合方法は、特に限定されないが、例えば、抵抗溶接、レーザー溶接、超音波接合、はんだを含むろう材による接合等が挙げられる。
・・・
[0085] シート型ヒートパイプの設置状態に関する態様:
態様1(図7):予め作製したシート型ヒートパイプ16が金属板17の凹部に設置されている放熱板11a。態様1の放熱板は、シート型ヒートパイプを別途作製することから、シート型ヒートパイプの設計、製造法の自由度が高い等の利点を有する。
態様2(図8):金属板17と第2金属シート13が一体となっている放熱板11b。態様2の放熱板は、シート型ヒートパイプの第2金属シート13が金属板に高度に密着していることから、シート型ヒートパイプと金属板間の熱の受け渡し効率が高く、また、コンテナの容積を大きくできる等の利点を有する。
・・・
[0098]・・・
12…第1金属シート
13…第2金属シート
・・・
16…シート型ヒートパイプ」
「[図8]



(2)上記(1)の記載から認められる事項
上記(1)及び図8から、第2金属シート(13)が、前記第1金属シート(12)と対向する面に、凹部(図8において、引き出し線16で示されている空間部分)を有し、前記第2金属シート(13)の、前記第1金属シート(12)と対向しない面において、前記凹部の位置に対応する部位が、前記凹部の周縁部に対応する部位と同一平面上にあることがみてとれる。

(3)引用文献1に記載された発明
上記(1)及び(2)の事項を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「コンテナと、該コンテナ内に封入される作動液と、ウィックとを有してなり、
上記コンテナは、第1金属シートと第2金属シートが、重ね合わせた状態で内部に密閉された空間が形成されるように周縁部が接合されていて、
前記第1金属シートと前記第2金属シートの接合方法は、抵抗溶接、レーザー溶接、超音波接合、はんだを含むろう材による接合等が挙げられ、
前記第2金属シートが、前記第1金属シートと対向する面に、凹部を有し、前記第2金属シートの、前記第1金属シートと対向しない面において、前記凹部の位置に対応する部位が、前記凹部の周縁部に対応する部位と同一平面上にある、
シート型ヒートパイプ。」

2.引用文献2
(1)当審の拒絶の理由で通知された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。
「[0031] 本発明の密閉型電池の製造方法は、正極板および負極板をセパレータを介して捲回または積層して電極群を形成する工程と、電極群のいずれか一方の極板に、リードの一端を接続する工程と、電極群を電池ケース内に収容する工程と、リードの他端を封口板に当接させて、リードの厚みよりも小さいスポット径を有するレーザ光を連続的に走査しながらリード側から照射することによって、リードの他端を封口板にレーザ溶接する工程と、電池ケースの開口部を封口板で封口する工程とを含み、レーザ光は、少なくとも封口板の表面から、リードの端部を跨って該リードの表面に走査される。これにより、リードと封口板との溶接時の製造工程上の外部要因の変動が生じても、リードと封口板との接合強度を維持しつつ、リードの穴開きを抑制し、かつ、レーザ溶接時におけるスパッタの発生を大幅に低減することができる。その結果、スパッタの混入を低減した高い信頼性を有した密閉型電池を製造することが可能となる。
[0032] ここで、レーザ光の光源は、ファイバーレーザであることが好ましい。これにより、リードの厚みよりも小さいスポット径を有するレーザ光を容易に実現でき、リードの穴開きやスパッタが電池内に混入するのを抑制することが可能となる。
[0033] また、レーザ光の1秒間に走査する距離は、レーザ光のスポット径に対して2500倍以上であることが好ましい。これにより、リードの外側に配置した封口板の表面をレーザ照射する際、単位時間当りの入熱量が抑えられるため、封口板の裏側へ溶融部が貫通することなく接合強度を高くすることが可能となる。
[0034] また、レーザ光の走査速度は、リードの表面を走査するときとより、封口板の表面を走査するときの方が速いことが好ましい。これにより、熱容量が小さく温度が上昇し易い封口板表面へレーザ照射する際、入熱量が抑えられるため、封口板の裏側へ溶融部が貫通することを防ぐことが可能となる。また、同様の効果を得るために、レーザ光の出力を、リードの表面を走査するときより、封口板の表面を走査するときの方を低くしてもよい。
[0035] また、レーザ光が封口板の表面を走査する際に、封口板の表面のレーザ光が照射されている近傍に気流を吹きつけることが好ましい。これにより、封口板表面へのレーザ照射において、気流による冷却によって封口板の過度な温度上昇を抑制し、封口板の裏側へ溶融部が貫通することを防ぐことが可能となる。また、同様の効果を得るために、レーザ光が照射される封口板の表面の近傍に、封口板に対して熱伝導率の高い治具を接触させるようにしてもよい。
・・・
[0040] 図2(a)は、本発明の一実施の形態におけるレーザ接合部の断面図、図2(b)は、レーザ接合部の平面図である。図2(a)に示すように、溶接部14がリード11と封口板10とに溶け込んで接合している。また、図2(b)に示すように、溶接部14がリード11の表面と封口板10の表面の両方に跨って形成している。」
「[図2]



(2)引用文献2に記載された技術
上記(1)の事項を総合すると、引用文献2には、以下の技術が記載されていると認められる。
「リード11の他端を封口板12にレーザ溶接する際に、リード11は溶接部14が貫通しており、封口板10は溶接部14が貫通していないようにすること。」

3.引用文献3
(1)当審の拒絶の理由で通知された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。
「【0025】
溶接工程では、回転台29およびガス滞留用治具23を所定の速度で回転軸Zの回りに回転させ、それに伴って第1パイプ11および第2パイプ12を中心軸の回りに回転させる。そして、第1パイプ11および第2パイプ12を回転させながら、レーザ照射ヘッド51から第2パイプ12の外周にレーザ光Lを照射し、第2パイプ12から第1パイプ11へ金属を溶け込ませる。このとき、溶け込み部15の先端が第1パイプ11の板厚内に位置するようにレーザ照射のエネルギ値および照射時間を調整する。
冷却工程では、不活性ガス注入工程から継続して注入される不活性ガスG1によって、溶接工程で溶接された箇所を冷却する。なお、不活性ガスG1の温度は大気温度よりも低いため、冷却効率がよく、冷却時間を短縮することができる。
【0026】
(効果)
次に、図2(a)を参照して本発明の実施形態によるレーザ溶接方法の効果を説明する。
第1パイプ11の内側に不活性ガスを注入することにより第1パイプ11の内壁の酸化を防止する。また、不活性ガスが第1パイプ11の内壁を冷却するため、溶け込み部15の温度が安定する。したがって、溶け込み部の先端が第1パイプ11の板厚内に位置するように溶け込み深さDmや溶け込み幅Wmを正確に制御することができる。よって、突き抜け不良やスパッタの発生を防止し、パイプ接合体10の溶接品質を向上することができる。」
「【図1】


「【図2】


(2)引用文献3に記載された技術 上記(1)の事項を総合すると、引用文献3には、以下の技術が記載されていると認められる。
「第1パイプ11と第2パイプ12とをレーザ溶接する際に、第2パイプ12は溶け込み部15が貫通しており、第1パイプ11は溶け込み部15が貫通していないようにすること。」

4.引用文献4
(1)当審の拒絶の理由で通知された上記引用文献4には、次の事項が記載されている。
「【0031】
(実施の形態)
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るレーザ溶接方法を用いて作成される電池について説明する。図1は、本実施の形態に係るレーザ溶接方法で作成される電池100の側断面を模式的に示す。電池100は、電池ケース1、蓋2、及び電極体3に大別される。電池ケース1は、電極体3の外形状に応じた内形状を有する収容部1aと、当該収容部1aの開口部の周囲に所定の幅Lで延在するフランジ部1bとを有する。なお、電池ケース1は、好ましくは、所定の板厚t1を有する1枚の金属板をプレス加工して形成されるが、鋳造や機械加工によって製造されることもある。蓋2は好ましくは、所定の板厚t2を有する金属板によって、電池ケース1のフランジ部1bの外形と概ね同形に構成される。
【0032】
電池ケース1および蓋2は、所望の強度、形状安定性、耐腐食性、耐溶剤性、および生産性が得られる金属でできている。例えば、鉄、アルミニウム、亜鉛、チタン、あるいはこれらの合金が考えられるが、加工性および経済性の面からステンレス鋼が好ましい。電極体3は、正極および負極をセパレータを挟んで渦巻状に巻回したものである。
【0033】
電極体3は、リチウムイオンを吸蔵および放出する物質を含む正極および負極の間に絶縁体であるセパレータを挟んで渦巻状に巻回して構成される。電極体3と収容部1aの内周壁との間は、図1に示すように所望の間隙gを有していても良いし、間隙無く密着しても良い。また、電極体3の上端は、フランジ部1bの上端より所定の高さだけ低く設定しても良いし、フランジ部1bの上端と同じ高さであっても良い。
【0034】
離間距離Lcは、レーザ5の照射範囲の中心から電極体3までの距離である。離間距離Lcは、後述する実験により、溶接部6を生じさせるためにレーザ5の照射範囲に与えられる熱量が電極体3のセパレータに伝導されても、セパレータの温度がセパレータを変質させない臨界温度Tbに達しないような距離に設定される。
【0035】
フランジ部1bの長さLは、少なくとも電極体3から離間距離Lcだけ離れた位置にレーザ5の照射範囲が確保できる長さに設定される。
【0036】
この電池100は、以下のように、作成される。まず、電極体3が、電池ケース1の収容部1bに収容される。電極体3の正極および負極は、リード線を介して、電池ケース1に設けられる端子(図示せず)にそれぞれ接続される。蓋2は、電池ケース1の開口部を塞ぎ、かつ折りフランジ部1bに接するように電池ケース1に載置される。
【0037】
さらに、フランジ部1bと接する部分の蓋2に対して、レーザ5が照射される。レーザ5の照射範囲付近は、レーザ5によって加熱されて溶融される。溶融される範囲は、レーザ5のエネルギ密度によって変化し、レーザ5の照射範囲よりも小さい場合もあれば、大きい場合もある。溶融された範囲は、レーザ5の照射エネルギの低下または停止によって、融点以下の温度になると凝固して溶接部6を生じる。その結果、フランジ部1bと蓋2とが溶接される。レーザ5の照射位置を移動させて、フランジ部1bに沿って連続的に溶接部6を生じさせることにより、フランジ部1bと蓋2との間を密閉する。
【0038】
図2を参照して、溶接部6の溶融幅Wおよび溶融深さDについて説明する。溶融幅Wは、レーザ5が照射された蓋2の表面における溶接部6の幅である。溶融幅Wは、レーザ照射装置のファイバの直径、結像比および焦点位置などの光学的設定でおおむね決まる。実際には、レーザ5の照射エネルギを大きくすると、レーザ5の照射範囲に与えられる熱量が増加するため、熱伝導によって照射範囲の周囲が加熱され、溶融幅Wは長くなる。
【0039】
溶融深さDは、レーザ5が照射された溶接部6の深さである。レーザの照射エネルギを大きくするほど、与えられる熱量が増加するため、溶融深さDが深くなる。なお、後述する実験において、溶融深さDが、蓋2の板厚t2の1.2倍以上であれば電池ケース1と蓋2との間の密封が安定して行われることを見出した。」
「【図1】


「【図2】



(2)引用文献4に記載された技術
上記(1)の事項を総合すると、引用文献4には、以下の技術が記載されていると認められる。
「フランジ部1bと蓋2とをレーザ溶接する際に、蓋2は溶接部6が貫通しており、フランジ部1bは溶接部6が貫通していないようにすること。」

第6 対比・判断
1.引用発明と本願発明との対比
本件発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、後者の「第1金属シート」、「第2金属シート」は、それぞれ、本願発明の「一方の板状部材」、「他方の板状部材」に相当する。
そして、引用発明の「コンテナ」は、「前記第1金属シートと前記第2金属シートが、重ね合わせた状態で内部に密閉された空間が形成されるように周縁部が接合されてい」るものであるから、本願発明1の「一方の板状部材と該一方の板状部材と対向する他方の板状部材が積層されて形成された、中空の空洞部を有するコンテナ」に相当する。

引用発明における「作動液」及び「ウィック」は、「該コンテナ内に封入される」ものであり、具体的には、「シート型ヒートパイプ」の「密閉された空間」に封入されていることが明らかである。そうすると、引用発明の「作動液」及び「ウィック」は、本願発明1の「前記空洞部に封入された作動流体」及び「前記空洞部に設けられたウィック構造体」に、それぞれ相当する。

引用発明の「前記第2金属シートが、前記第1金属シートと対向する面に、凹部を有し、前記第2金属シートの、前記第1金属シートと対向しない面において、前記凹部の位置に対応する部位が、前記凹部の周縁部に対応する部位と同一平面上にある」は、「前記凹部の周縁部」が「コンテナ」の枠の部位をなしているので、本願発明1の「前記他方の板状部材が、前記一方の板状部材と対向する面に、凹部を有し、前記他方の板状部材の、前記一方の板状部材と対向しない面において、前記凹部の位置に対応する部位が、前記コンテナの枠の部位である前記凹部の周縁部に対応する部位と同一平面上にある」に相当する。

引用発明の「上記コンテナは、前記第1金属シートと前記第2金属シートが、重ね合わせた状態で内部に密閉された空間が形成されるように周縁部が接合されてい」る点は、「周縁部」が「コンテナ」の枠をなしているので、本願発明1の「前記空洞部の外周部が溶接にて封止され」、「前記一方の板状部材は、前記溶接により形成される溶融部が貫通しており、前記他方の板状部材は、前記溶融部が貫通しておらず、前記他方の板状部材の、前記溶融部が貫通していない部位が、前記溶融部が貫通していないことで前記溶融部が貫通している部位よりも溶接のエネルギー密度が低減されている、前記コンテナの枠の部位であ」る点と、「前記空洞部の外周部が」「封止され」、「前記他方の板状部材の」封止された部位が「前記コンテナの枠の部位であ」る点に限り一致する。

引用発明の「シート型ヒートパイプ」は、本願発明1の「ベーパーチャンバ」に相当する。

そうすると、両者は、
「一方の板状部材と該一方の板状部材と対向する他方の板状部材が積層されて形成された、中空の空洞部を有するコンテナと、前記空洞部に封入された作動流体と、前記空洞部に設けられたウィック構造体と、を有し、前記空洞部の外周部が封止されたベーパーチャンバであって、
前記他方の板状部材の、封止された部位が、前記コンテナの枠の部位であり、前記他方の板状部材が、前記一方の板状部材と対向する面に、凹部を有し、前記他方の板状部材の、前記一方の板状部材と対向しない面において、前記凹部の位置に対応する部位が、前記コンテナの枠の部位である前記凹部の周縁部に対応する部位と同一平面上にあるベーパーチャンバ。」
である点で一致し、以下に示す相違点で相違する。

[相違点]
「空洞部の外周部が封止」されることについて、本願発明1は「溶接にて封止され」、「前記一方の板状部材は、前記溶接により形成される溶融部が貫通しており、前記他方の板状部材は、前記溶融部が貫通しておらず、」「前記溶融部が貫通していない部位が、前記溶融部が貫通していないことで前記溶融部が貫通している部位よりも溶接のエネルギー密度が低減されている」のに対して、引用発明は「接合方法は、抵抗溶接、レーザー溶接、超音波接合、はんだを含むろう材による接合等が挙げられる」点。

2.相違点に関する判断
引用発明の「抵抗溶接、レーザー溶接、超音波接合、はんだを含むろう材による接合等」から、レーザー溶接を選択することは、ヒートパイプの大きさや材質等に応じて当業者が適宜なし得ることである。そして、板状部材を重ね合わせてレーザー溶接を行う際に、“一方の板状部材は、溶接により形成される溶融部が貫通しており、他方の板状部材は、溶融部が貫通していない(結果から見て、前記溶融部が貫通していない部位が、前記溶融部が貫通していないことで前記溶融部が貫通している部位よりも溶接のエネルギー密度が低減されている)”ようにすることは、引用文献2、引用文献3、引用文献4に記載されているように本願の優先日より前の周知技術(以下、「周知技術」という。)であって、引用発明においてレーザー溶接を選択する際に当該周知技術を採用することに格別の困難性はなく、溶融部の総体積が比較的小さくて済む(必要なエネルギーやコストが比較的少なくて済む)ように、第1金属シートを溶融部が貫通するものとすることは、当業者であれば当然になし得ることである。
そうすると、引用発明に周知技術を適用して、上記相違点に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

3.本願発明の効果
本願発明の効果は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が予測できる範囲を超えるものではない。
請求人は、令和2年11月5日に提出した意見書において、本願発明の効果として、以下の3点を挙げている(「(3.2)本願発明の効果」)。
「(a)『溶接時に発生する熱を抑制できるので、溶接の対象であるコンテナの歪みが低減される』([0020]第2文)。
(b)『光線のエネルギー密度を低減できることから、溶融部にピンホールが発生しやすいコンテナ材料である銅やアルミニウムでもピンホールの発生を防止できるので、優れた接合特性が得られる』([0020]第3文)。
(c)『コンテナの材料の種類に関わらず、コンテナの歪みが低減されるので、冷却対象の発熱体を面状に均一に冷却する』([0070])ことができる。」
そして、「引用文献1とは『課題の解決手段』及び得られる『効果』(上記(3)(3.2)参照)とも顕著に相違する。」として、「引用文献1に引用文献2?4を組み合わせても当業者が容易に本願発明1をなし得るとは認められない」(意見書「(4.1)指摘1について(d)小括」)と主張している。

しかしながら、請求人が挙げる上記(a)?(c)の3つの効果は、「溶接において溶融部を少なくするほど(例えば、溶融部が貫通する場合よりも、貫通しない場合の方が)、発生する熱が少なくなり、かつ、ピンホールが発生しにくいこと」、「金属において加えられる熱が少なくなるほど、歪みが少なくなりやすいこと」及び「ヒートパイプの外形の歪みが少ない方が、冷却対象を免状に均一に冷却しやすいこと」という当業者が当然に認識している技術常識、引用発明及び周知技術とから予測し得る程度のことであって、当業者が予測できる範囲を超えるものではない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

4.まとめ
上記1ないし3の検討によれば、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-03-19 
結審通知日 2021-03-22 
審決日 2021-04-08 
出願番号 特願2018-567442(P2018-567442)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F28D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十嵐 康弘瀧本 絢奈  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 槙原 進
山田 裕介
発明の名称 ベーパーチャンバ  
代理人 前川 純一  
代理人 住吉 秀一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 上島 類  
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