• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60W
管理番号 1374489
審判番号 不服2020-6137  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-07 
確定日 2021-05-26 
事件の表示 特願2017-175788「自律走行車(ADV)用のビジュアルコミュニケーションシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年5月24日出願公開、特開2018-79916〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成29年9月13日(パリ条約による優先権主張2016年(平成28年)11月16日(US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成29年9月13日に審査請求がされ、平成30年9月27日付け(発送日:同年10月2日)で拒絶理由が通知され、平成30年12月26日に意見書及び手続補正書が提出され、令和元年5月15日付け(発送日:同年5月21日)で拒絶理由が通知され、令和元年8月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和元年12月23日付け(発送日:令和2年1月7日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して、令和2年5月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 令和2年5月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和2年5月7日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本件補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項8について、本件補正前(令和元年8月19日の手続補正書)の請求項8として、
「【請求項8】
プロセッサと、
前記プロセッサに連結されて命令を記憶するメモリと、を備え、
前記命令が、第1自律走行車に接続される前記プロセッサにより実行される場合、前記プロセッサに操作を実行させ、前記操作は、
前記第1自律走行車が第2車両を感知することに応答して、前記第1自律走行車の初期運転操作を決定するステップと、
前記第1自律走行車により提供される、前記初期運転操作を示す第1ビジュアルコミュニケーション信号を送信するステップと、
前記第1ビジュアルコミュニケーション信号に応答し、前記第2車両により提供される第2ビジュアルコミュニケーション信号を検出するステップと、
前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプを識別するステップと、
前記第1自律走行車が、識別された前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプに基づいて、前記第1自律走行車の後続の運転操作を決定するステップと、を含み、
前記第2車両は第2自律走行車であり、
前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプは、運転方向に対して意図的に実行される前記第2車両の意図的な運転操作であり、
前記初期運転操作と、前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される前記第2車両の運転操作とに基づいて、前記第1自律走行車の後続の運転操作を決定する
ことを特徴とする自律走行制御システム。」
とあったものを、
「【請求項8】
プロセッサと、
前記プロセッサに連結されて命令を記憶するメモリと、を備え、
前記命令が、第1自律走行車に接続される前記プロセッサにより実行される場合、前記プロセッサに操作を実行させ、前記操作は、
前記第1自律走行車が第2車両を感知することに応答して、前記第1自律走行車の初期運転操作を決定するステップと、
前記第1自律走行車により提供される、前記初期運転操作を示す第1ビジュアルコミュニケーション信号を送信するステップと、
前記第1ビジュアルコミュニケーション信号に応答し、前記第2車両により提供される第2ビジュアルコミュニケーション信号を検出するステップと、
前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプを識別するステップと、
前記第1自律走行車が、識別された前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプに基づいて、前記第1自律走行車の後続の運転操作を決定するステップと、を含み、
前記第2車両は第2自律走行車であり、
前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプは、決定された前記第2車両の走行経路に沿った、運転方向に対して意図的に実行される前記第2車両の意図的な運転操作であり、
前記初期運転操作と、前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される前記第2車両の運転操作とに基づいて、前記第1自律走行車の後続の運転操作を決定する
ことを特徴とする自律走行制御システム。」
と補正することを含むものである(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

上記補正は、補正前の請求項8に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプ」について、「運転方向に対して意図的に実行される前記第2車両の意図的な運転操作」が「決定された前記第2車両の走行経路に沿った、」ものであるという限定を付加するものであり、かつ、補正前の請求項8に記載された発明と補正後の請求項8に記載される発明の産業上利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項8に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、検討する。

2 引用文献、引用発明
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、国際公開第2016/147622号(以下、「引用文献1」という。)には、「運転制御装置、運転制御方法および車車間通信システム」に関して、図面(特に、図1、3、5ないし8を参照。)と共に次の記載がされている(下線は、理解の一助のために当審が付したものである。以下同様。)。

ア「技術分野
[0001] 本発明は、自動車の自動運転システムの制御装置に係り、特に車車間通信による情報交換を行う運転制御装置、運転制御方法および車車間通信システムに関する。
背景技術
[0002] 近年、車の自動運転技術について活発に研究が進められている。このような自動運転技術は、車載センサを用いて障害物を認識し衝突の可能性がある場合に自動でブレーキを行う技術や、周囲の車の位置・速度を検知し、前方車との車間距離を一定に維持するよう自律的に車速を調節する技術などがあり、一部の車で実現されている。
[0003] 今後、より高度な自動走行を実現するには、同一車線内に閉じた車速維持や車間距離維持の調節だけでなく、車線変更や合分流、右左折時の走行制御が必要になる。車線変更や合分流を行う場合には、特に安全性や交通流の円滑性を確保されることが求められる。
[0004] これまで、車線変更や合分流、右左折時の走行制御は、運転者同士が目視及び方向指示器を使用して相互認知を行い、車線変更や合分流のタイミングを計っていた。自動運転技術では、これらの運転者の動作と同様の制御を、自動でスムーズに行う技術が求められる。
[0005] しかし、現実の交通環境は複雑であり、カメラやレーダ等の車載センサだけで、車線変更や合分流のタイミングを決定することは非常に難しい。なぜなら、予測困難な周囲の車の走行挙動により自車の走行制御が大きく変化してしまうからである。
[0006] そこで、車載センサでの周辺認知に加えて、車車間通信や路車間通信技術を利用して車周囲の情報を収集することが提案されている。たとえば、合流道路を走行中の合流車と本線車との間で、車車間通信を行い、合流車が合流地点に到達するのに要する時間に基づいて、車線変更を行うか否かを判断する運転支援方法について特許文献1に開示がある。」

イ「[0010] しかし、特許文献1および特許文献2に記載された車車間・路車間通信は、周囲の車を認知するセンサの検知機能を向上する役割であるに過ぎない。車線変更や合分流、右左折時の、本線走行中の車と車線変更をしようとする車との相互認知としての安全確認技術について、具体的な検討は不十分である。
[0011] 特許文献3は、周辺車両認識装置に関するものであり、自車両の周囲に存在する周辺車両に搭載された車載通信装置から送信された車両状態通知情報を取得すること、これを使って周辺車両との隊列走行やその解除など走行制御することが提案されている。特許文献4は、車両に搭載される運転支援装置に関するものであり、自車両に搭載したセンサにより検出された他車両と、車車間通信又は路車間通信により情報を取得した他車両とを対応付けて車両を同定することが、提案されている。特許文献4ではこのような車両同定を、他車両との衝突回避などのための運転支援に役立てることが提案されている。
[0012] 本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、自動走行により車線変更あるいは合流する場合に、事前に車同士が通信により安全確認の意思疎通を確実に行ってから走行動作を行うことで、スムーズで安全に車線変更あるいは合流を実現することのできる運転制御方法及び装置を提供することにある。」

ウ「[0016] このような構成により、自動走行により車線変更あるいは合流する場合に、事前に車同士が通信により安全確認の意思疎通を確実に行ってから走行動作を行うことで、スムーズで安全に車線変更あるいは合流を実現することのできる運転制御方法及び装置を提供することが可能になる。」

エ「[0017][図1]本発明の実施形態による運転制御装置のブロック図である。
[図2]本発明の実施形態による運転制御装置のセンサ搭載例である。
[図3]本発明の実施形態による運転制御装置の自車の周囲の車の検出イメージ図である。
[図4]本発明の実施形態による車載通信機より検出された周辺通信機テーブルである。
[図5]本発明の実施形態による車線変更動作のイメージ図である。
[図6]本発明の実施形態による車線変更時における車線変更車Aの動作フロー図である。
[図7]本発明の実施形態による車線変更における車線変更車Aの車載通信機と後続直進車Bの車載通信機との車車間通信のシーケンス図である。
[図8](a)はその他の実施形態における運転制御装置の構成の一部を説明するためのブロック構成図であり、(b)はその他の実施形態で実行される処理を示すフロー図である。
[0018] 以下、本発明の実施形態による運転制御装置の構成を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態による運転制御装置のブロック図である。本発明の実施の形態における運転制御装置1は、車載通信機2、センサ部3、走行判断部5、走行制御部6を有している。さらに図1の運転制御装置1は、測位部4、ハンドル制御部7、アクセル制御部8、ブレーキ制御部9を有している。
[0019] 車載通信機2は、自車の周囲の車に搭載された車載通信機との間で、識別番号と位置情報とを含む情報を相互に送受信し、テーブルとして保持する。より具体的には車載通信機2は、路側通信機や自車の周囲に存在する他の車載通信機と双方向の無線通信を行う。車載通信機2が車車間通信や路車間通信により受信したデータは、走行判断部5に供給される。走行判断部5は車載通信機2が受信したデータを基に自車周囲の走行環境を認知する。」

オ「[0025] 走行制御部6は、自動車本体の走行を制御する。より具体的には走行制御部6は、走行判断部5で判断した結果に基づいて自車の走行を制御する。また、常に自車の現在位置や車速を検出するとともに、走行判断部5によって生成された制御信号を基に、ハンドル、アクセル、ブレーキなどを操作し、自車の自律走行を行う。
[0026] 自車が車線変更を行う場合、走行判断部5は、センサ部3の検出結果から変更先車線の後続直進車を特定する。さらに走行判断部5は、車載通信機2が保持するテーブルから後続直進車の識別番号を選択する。さらに車載通信機2は、上記識別番号を用いて上記後続直進車にユニキャスト方式で車線変更を要求する情報を送信する。」

カ「[0028] 本発明の実施形態における運転制御装置は、図3に示すように、センサ部および車載通信機によって周囲の車の走行状況の検出を行いながら自動走行制御を行う。図3は、本発明の実施形態による運転制御装置の自車の周囲の車の検出イメージ図である。
[0029] 図3の車Aのセンサ部は、図3に示すように自車の周囲に存在する並走車の検出を行う。車Aのセンサ部は、周囲の並走車と車Aとの相対距離、相対速度、方向の計測を行う。
[0030] 車Aの車載通信機は、図3の点線で表す電波が届く範囲内において、周囲の車B、車C、車Dの車載通信機との間で無線による双方向通信である車車間通信を行う。各車載通信機は互いに識別情報(以下「ID」と称する)および自端末の位置情報を周囲の端末に定期的にブロードキャスト方式で送信する。IDは通信相手を特定するために用いられるIPアドレス(Internet Protocol address)などである。」

キ「[0033] なお、車載通信機による周囲の車の位置、走行速度などの情報は、直接通信による受信以外に、路側通信機によって中継した情報を受信するようにしてもよい。また、送信元の車載通信機から電波の届かない位置にある車載通信機は、電波範囲内の別の車載通信機が中継した信号を受信してもよい。そうすることで直接電波の到達範囲から外の車の存在を認識することができる。
[0034] 走行判断部は、車Aの車載通信機およびセンサ部によって取得した周囲の車B、車C、車Dの情報を基に、車Aの位置、走行速度が周囲の車B、車C、車Dに対して安全に効率よく走行できる最適な走行スケジュールを演算する。走行制御部はその結果に基づいて、車Aのハンドル制御部7によってハンドル、アクセル制御部8によってアクセル、ブレーキ制御部9によってブレーキなどを操作し、自動走行制御を行う。」

ク「[0035] 以下、車線変更を行う場合の動作について図5および図6を用いて説明する。図5は本発明の実施形態による車線変更動作のイメージ図である。
[0036] まず、車線変更を行う進路変更車Aが実施する処理を説明する。図6は車線変更時における進路変更車Aの動作フロー図である。
[0037] スムーズに車線を変更するためには、移りたい車線の車の走行状況はもちろん、自車が走行している車線の状況把握が必要である。そのため、進路変更車Aの走行判断部は、目的地までの走行ルートから車線変更が必要になった場合、あらかじめ安全に車線変更できるかどうか確認を行う。安全に車線変更できるかどうかの確認は、例えば、車線変更を実行した場合において、自車Aと変更先車線の車B、車Cとの車間距離が予め定めた所定の閾値以上を維持し続けるか否かを判断する。車間距離が予め定めた所定の閾値以下になると予測される場合には、車線変更は不可とし、予め定めた所定の閾値を超える場合にのみ車線変更を可能とする。
[0038] 進路変更車Aの走行判断部は、走行中は常時、測位部から得られる自車位置、走行制御部から得られる車速、車載通信機から得られる周辺通信機テーブル、およびセンサ部から得られる情報を基に、自車と周囲の車の位置、車速を認識している。
[0039] 車線変更が可能と判断した場合、進路変更車Aの走行判断部は、センサ部により検出された周囲の並走車B、並走車C並走車Dのうち、変更先の車線上を並走し、進路変更車Aの後方でかつ相対距離が最も近い車Bを、後続直進車として特定する。すなわち、センサ部により通信相手となる後続直進車を検出する(ステップS1)。
[0040] 次に、進路変更車Aの走行判断部は、特定した後続直進車BのIDを周辺通信機テーブルから選択する。後続直進車BのID選択は、進路変更車Aの走行判断部が、センサ部により検出された車Bの位置情報と、周辺通信機テーブルに登録されている周囲の車B、車C、車Dの位置情報とを比較し、位置情報の誤差が閾値以下かつ最も近い車のIDを後続直進車BのIDとして特定する。すなわち周辺通信機テーブルに登録されている位置情報を参照し、後続直進車Bとの相対位置を比較する(ステップS2)。なお、後続直進車の認識については、位置情報に加え、進行方向、走行速度、加速度等の情報を加味して判定してもよい。そうすることで認識精度を向上することができる。
[0041] 後続直進車のIDを特定できたかどうか、判断する(ステップS3)。周辺通信機テーブルの位置情報の誤差が閾値以上の場合、後続直進車BのIDを特定できなかったので、ステップS1?S3を繰り返す。
[0042] 車線変更が可能と判断され、後続直進車BのIDを特定した場合、走行判断部は後続直進車Bを通信相手として選択し、車線変更を要求するための車線変更要求信号を車載通信機に供給する。車載通信機は周辺通信機テーブルから特定した後続直進車BのIDを使って、後続直進車Bに車線変更要求信号をユニキャスト方式で送信する。
[0043] 進路変更車Aの走行判断部は、車載通信機が送信した車線変更要求信号に対し後続直進車Bからの車線変更要求の許可応答を受信したか否かを確認する。
[0044] 後続直進車Bと1対1通信を実行する(ステップS4)。すなわち、進路変更車Aの走行判断部は、車載通信機が後続直進車Bから車線変更要求の許可応答を受信したと判断した場合、走行制御部に車線変更を行う指示を出し、進路変更車Aは実際に車線変更を行う。
[0045] また、進路変更車Aの走行判断部は、車載通信機に車線変更を開始する方向指示器情報信号を車載通信機に供給する。車載通信機は方向指示器情報信号を周囲の車B、車C、車Dにブロードキャスト方式で送信する。
[0046] 進路変更車Aの走行判断部は、車線変更を完了した後に、走行判断部は車線変更完了信号を車載通信機に供給し、進路変更車Aの車載通信機は後続直進車Bに車線変の完了信号をユニキャスト方式で送信する。送信継続するか判断し(ステップS5)、継続しないときは車線変更動作を終了する。
[0047] 次に、車線変更により合流される側となる後続直進車Bが実施する処理を、図7に基づいて説明する。
[0048] 後続直進車Bも進路変更車Aと同様、走行中は常時、測位部から得られる自車位置、走行制御部から得られる車速、車載通信機から得られる周辺通信機テーブル、およびセンサ部から供給される情報を基に、自車と周囲の車の位置、車速を認識している。
[0049] 変更先車線を並走している後続直進車Bの走行判断部は、車載通信機が周囲の車からの車線変更要求を受信することにより、自車の走行車線に合流する予定の車の存在を認識する。
[0050] 次に、後続直進車Bの走行判断部は、その合流予定車をIDを用いて識別する。
[0051] 後続直進車Bの走行判断部は、進路変更車Aが合流した場合に後続直進車Bが安全走行を維持できるかどうか予測し、予測結果から、受信した車線変更要求への応答を送信する。
[0052] 安全走行を維持できるかどうか予測は、例えば、進路変更車Aが合流した場合において、自車Bと進路変更車A、自車Bと自車の後続直進車との車間距離が予め定めた所定の閾値以上を維持できるか否かを判断し、予め定めた所定の閾値以下の場合には、車線変更は不可とし、予め定めた所定の閾値を超える場合にのみ、車線変更を可能とする。
[0053] 進路変更車Bの走行判断部は、車Aの合流を許可する場合はYes、合流を拒否する場合はNoという信号を車載通信機に供給する。車載通信機は車線変更要求への応答結果(Yes/No)信号を車Aにユニキャスト方式で送信する。
[0054] 後続直進車Bは、送信元である車Aに車線変更了解の返信をするとともに、必要に応じセンサ部により特定した車Aが安全に合流できるように必要な車間距離を確保するよう減速等の速度制御を行い衝突を回避する。
[0055] 後続直進車Bは、進路変更車Aの車線変更を完了後の通知信号を車載通信機で受信し、通常の自律走行制御に戻る。」

ケ「[0056] (その他の実施形態)
上述した運転制御装置や運転制御方法は、上述した構成や動作を実現するプログラムを実行できる情報処理装置によっても実現され得る。このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の形態で、流通され得る。このような記録媒体に記録されたプログラムを読み込んで、情報処理装置で実行することにより、本実施形態の機能をソフトウェア的に実現してもよい。
[0057] 図8(a)は、本発明の実施形態の運転制御方法に適用可能なコンピュータの構成を例示する図である。なお、図面中の矢印の向きは、一例を示すものであり、ブロック間の信号の向きを限定するものではない。
[0058] 図8(a)に示すように、情報処理装置は、CPU(Central Processing Unit)11や、RAM(Random Access Memory)などで構成されるメモリ12を含む。このようなハードウェア構成の情報処理装置で、上述した本発明の実施形態の走行判断部5や走行制御部6は、実現され得る。すなわち、図1の走行判断部5や走行制御部6の一部又は全部は、図8(b)のような各処理を実行させるプログラムを読み込んで情報処理装置に実行させることによっても、実現できる。具体的には図8(b)のような、自車に搭載されたセンサ部3により変更先車線の後続直進車を特定する特定処理と、自車に搭載された車載通信機2と、自車の周囲の車に搭載された車載通信機との間で、識別番号と位置情報とを含む情報を相互に送受信し、テーブルとして保持する保持処理である。さらに図8(b)のような、車載通信機2が保持するテーブルから後続直進車の識別番号を選択し、識別番号を用いて後続直進車に車線変更を要求する情報をユニキャスト方式で送信する送信処理である。さらに図8(b)のような、車載通信機2が後続直進車から車線変更を了解する内容の返信をユニキャスト方式で受信した後に、車線変更を行う車線変更処理などである。」

上記アないしケの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「CPU11と、
前記CPU11に連結されてプログラムを記憶するメモリ12と、を備え、
前記プログラムが、自律走行を行う進路変更車Aに接続される前記CPU11により実行される場合、前記CPU11に処理を実行させ、前記処理は、
前記自律走行を行う進路変更車Aが後続直進車Bを特定して検出することに応答して、前記進路変更車Aの車線変更を決定するステップと、
前記自律走行を行う進路変更車Aにより供給される、前記車線変更を示す電波を用いた無線によるユニキャスト方式の車車間通信での車線変更要求信号を送信するステップと、
前記車線変更要求信号に応答し、前記後続直進車Bにより送信される電波を用いた無線による車車間通信での許可応答を受信するステップと、
前記許可応答により示される応答を判断するステップと、
前記自律走行を行う進路変更車Aが、判断された前記許可応答により示される応答に基づいて、前記自律走行を行う進路変更車Aのその後の実際の車線変更を決定するステップと、を含み、
前記後続直進車Bは前記自律走行を行う進路変更車Aとは別の自律走行車であり、
前記許可応答により示される応答は、決定された前記後続直進車Bの走行経路に沿った応答であり、
前記車線変更、前記許可応答により示される前記後続直進車Bの応答とに基づいて、前記自律走行を行う車線変更車Aのその後の実際の車線変更を決定する
自動運転システムの運転制御装置1。」

(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2010-182207号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「運転支援装置」に関して、図面(特に、図1ないし図4を参照。)と共に次の記載がされている。

ア「【0001】
本発明は、車両の運転を支援する運転支援装置に関し、特に、周辺車両の動きの予測内容に基づいて自車両の運転を支援する運転支援装置に関する。」

イ「【発明の効果】
【0011】
上述の手段により、本発明は、周辺車両の動きの予測内容に基づいて自車両の運転を支援する運転支援装置を提供することができる。」

ウ「【0014】
図1は、本発明の実施例に係る運転支援装置の構成例を示すブロック図であり、運転支援装置E1は、合流点の周辺を走行する車両の動きを予測しながらその合流点に接近する自車両の運転を支援するための車載装置であって、車速センサ20、ブレーキセンサ21、アクセルセンサ22、カメラ23、レーダ24、及び通信装置25の出力を受け、ナビゲーションシステム30及び記憶装置31との間でデータをやり取りしながら各種演算を実行し、エンジンECU40及びブレーキECU41に対して制御信号を出力する制御部10を有する。
【0015】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータであって、例えば、道路情報取得手段100、車両情報取得手段101、行動履歴取得手段102、運転情報取得手段103、動き予測手段104、運転支援手段105、予測内容表示手段106のそれぞれに対応するプログラムをそのROMに記憶しながら、各手段に対応する処理をそのCPUに実行させる。」

エ「【0021】
通信装置25は、外部との通信を制御するための装置であり、例えば、DSRC(Dedicated Short Range Communication)等の通信プロトコルを用いて、他車両に搭載された通信装置や道路に設置された通信装置との間で車車間通信や路車間通信を実行できるようにする。」

オ「【0032】
次に、制御部10が有する各種手段について説明する。
【0033】
道路情報取得手段100は、自車両周辺の道路に関する情報を取得するための手段であり、例えば、ナビゲーションシステム30が出力する自車両の位置情報と地図情報とに基づいて、自車両が合流点に接近しているという情報、自車両が合流点を通過したという情報、並びに、その合流点の位置(緯度、経度、高度等である。)及び形状(本線道路の車線数、合流路の車線数、及び、合流路のカーブ半径等である。)等を取得する。
【0034】
車両情報取得手段101は、自車両の周辺を走行する周辺車両の車両情報を取得する手段であり、例えば、道路情報取得手段100により自車両が合流点に接近しているという情報(例えば、自車両から合流点までの距離が500m未満になったことを知らせる情報である。)を取得した場合に、自車両から所定の距離範囲(例えば、1km四方である。)内に存在する周辺車両が発信する車両情報を取得し、制御部10が現時点における周辺車両の配置を把握できるようにする。
【0035】
この場合、車両情報は、各周辺車両に搭載される通信装置25を通じて各周辺車両が周期的に発信する情報、又は、自車両からの車両情報要求信号に応じて各周辺車両が返信する情報であり、各周辺車両の車両ID、運転者ID、位置情報(緯度、経度、高度)、及び速度情報等を含むものとする。
【0036】
また、車両情報取得手段101は、路車間通信を通じて、合流点付近に設置され合流点に接近する車両を検出するレーダの出力を受信することで合流点に接近する車両の位置情報(緯度、経度、高度)、及び速度情報を車両情報として取得するようにしてもよい。
【0037】
行動履歴取得手段102は、各周辺車両を運転する運転者の行動履歴に関する情報(以下、「行動履歴情報」とする。)を車車間通信又は路車間通信を介して取得するための手段であり、例えば、車両情報取得手段101により各周辺車両が発信する車両情報を取得して周辺車両の配置を把握した後、周辺車両の中から自車両の合流に関連のある周辺車両(以下、「関連周辺車両」とする。)を抽出した上で、それら関連周辺車両に対して行動履歴要求信号(自車両の車両IDを含む。)を送信し、その行動履歴要求信号に応じて各関連周辺車両が自車両に対して返信する行動履歴情報を取得する。
【0038】
各関連周辺車両は、それぞれの記憶装置31に記憶された行動履歴DB310から現在の運転者に対応する行動履歴を抽出して行動履歴情報を生成し、行動履歴要求信号を発信した自車両に対してその行動履歴情報を返信するものとする。
【0039】
なお、各周辺車両は、送信先を特定することなく、各周辺車両の現在の走行環境及び現在の運転者に対応する行動履歴情報を車両情報と共に周期的に発信するようにしてもよい。この場合、自車両は、行動履歴要求信号を関連周辺車両に対して送信する必要なく関連周辺車両の行動履歴情報を取得することができる。
【0040】
また、行動履歴取得手段102は、データベースセンタ等の固定施設にアクセスして各関連周辺車両の行動履歴情報を取得するようにしてもよい。この場合、周辺車両の認証(特定)は、合流点付近に設置されたカメラが撮像する合流点に接近する車両の画像(ナンバープレートを含む。)に基づいてそのカメラ又は付属の処理装置が行い、行動履歴取得手段102は、路車間通信を通じてその認証結果を受信するようにしてもよい。
【0041】
運転情報取得手段103は、各関連周辺車両を運転する運転者の運転情報を車車間通信又は路車間通信を介して取得するための手段であり、例えば、各関連周辺車両に搭載されたブレーキセンサ21、アクセルセンサ22、又はカメラ23等の出力そのものである一次運転情報、又は、各関連周辺車両に搭載された制御部10がそれら一次運転情報を加工することによって生成される二次運転情報(例えば、アクセルセンサ22の出力に基づいて検出される合流路を走行する先行車両の加速開始のタイミング、ブレーキセンサ21の出力に基づいて検出されるその先行車両のブレーキタイミング、又は、カメラ23の出力に基づいて検出されるその先行車両の運転者が本線道路側(右後方)を目視確認するタイミング等である。)を各関連周辺車両から取得する。
【0042】
各関連周辺車両は、例えば、行動履歴要求信号を受信した後に運転情報の送信を開始させ、行動履歴要求信号を発信した自車両に対して一次運転情報を継続的に送信するようにしてもよく、運転者による特定の行動(アクセルペダル若しくはブレーキペダルの踏み込み、又は目視確認動作等である。)が行われたと判断した時点で行動履歴要求信号を発信した自車両に対して二次運転情報を送信するようにしてもよい。
【0043】
また、各関連周辺車両は、自車両が別途発信する運転情報要求信号を受信した後に運転情報の送信を開始させるようにしてもよい。自車両は、必ずしも関連周辺車両の全てから運転情報を収集する必要はないからであり、必要十分な運転情報のみを収集することで自車両に搭載された運転支援装置E1の制御部10の処理負荷を低減させるためである。」

カ「【0049】
動き予測手段104は、追加的に、運転情報取得手段103が取得する全ての或いは一部の関連周辺車両の運転情報に基づいて、既に予測した合流点に向かう関連周辺車両群の動きの予測内容を変更する。好適には、自車両の走行に最も大きな影響を与える、自車両の前方を走行する先行車両の運転情報を取得し、その運転情報に基づいて予測内容を変更する。より即時性が高く信頼性の高い予測内容を得るためである。
【0050】
運転支援手段105は、車両の運転を支援するための手段であり、例えば、動き予測手段104が予測した関連周辺車両群の動きに基づいて危険レベル、ひいては最適な運転支援内容を決定し、車載スピーカ、ナビゲーションシステム30、エンジンECU40、及びブレーキECU41等に対して制御信号を出力し、決定した運転支援内容を実行させる。」

キ「【0072】
その後、制御部10は、行動履歴取得手段102により、各周辺車両の進行方向、走行している車線、及び車速等に基づいて、車両情報を返信した周辺車両の中から自車両の合流に直接的に関連する関連周辺車両を特定し、それら関連周辺車両に対して行動履歴要求信号を送信してそれら関連周辺車両に行動履歴情報を返信するよう要求し、各関連周辺車両から返信される行動履歴情報を取得する(ステップS4)。」

ク「【0075】
その後、制御部10は、動き予測手段104により、図2B又は図2Cに示すように、周辺車両の配置を予測し(ステップS5)、予測した配置をナビゲーションシステム30における車載ディスプレイに表示させる(ステップS6)。
【0076】
更に、制御部10は、運転支援手段105により、動き予測手段104が予測した関連周辺車両群の動きに基づいて危険レベル又は最適な運転支援内容を決定し、車載スピーカ、ナビゲーションシステム30、エンジンECU40、及びブレーキECU41等に対して制御信号を出力しながら、決定した運転支援内容を実行させるようにする(ステップS7)。」
【0077】
その後、制御部10は、運転情報取得手段103により、全ての又は一部の関連周辺車両(例えば、先行車両である。)が自車両に向けて送信する運転情報を監視しながら動き予測手段104が予測した予測内容をその運転情報に応じて変更する処理(以下、「予測内容変更処理」とする。)を開始させ(ステップS8)、動き予測手段104による予測内容をリアルタイムで変更できるようにする。
【0078】
次に、図4を参照しながら、予測内容変更処理について説明する。なお、図4は、予測内容変更処理の流れを示すフローチャートであり、自車両に搭載された運転支援装置E1は、自車両が合流点を通過するまで所定間隔で繰り返しこの処理を実行するものとする。
【0079】
最初に、制御部10は、運転情報取得手段103により、関連周辺車両(例えば、先行車両である。)が送信する運転情報を取得し(ステップS11)、本線道路の走行車線を走行する車両を追い越すために先行車両が加速を開始するタイミング、又は、本線道路の走行車線を走行する車両を先行させるために先行車両が減速を開始するタイミング等を認識する。
【0080】
その後、制御部10は、先行車両を運転する運転者の運転情報が動き予測手段104によって既に予測された車両配置に影響するか否かを判定し(ステップS12)、予測した車両配置に影響すると判定した場合、動き予測手段104によりその運転情報に基づいてその車両配置を変更するようにする(ステップS13)。
【0081】
具体的には、制御部10は、関連周辺車両の行動履歴に基づいて図2Bに示すような車両配置を予測していたところ、先行車両の運転者によるブレーキペダルの踏み込みを示す運転情報を取得した場合には、図2Bに示すような車両配置が実現される可能性は低いと判断し、図2Cに示すような車両配置に予測内容を変更するようにする。
【0082】
この場合、制御部10は、動き予測手段104により代替となる予測内容を予め用意しておき先行車両の運転情報に応じて即座に予測内容を切り換えることができるように待機していてもよく、或いは、先行車両の運転情報に応じて予測を実行し直すようにしてもよい。
【0083】
その後、制御部10は、車両配置の予測内容の変更に応じて危険レベル又は最適な運転支援内容を変更し(ステップS14)、運転支援手段105により、変更後の運転支援内容を実行させるようにする。」

ケ「【0087】
以上の構成により、運転支援装置E1は、各周辺車両を運転する運転者の行動履歴に基づいて各周辺車両の動きを予測するので、自車両が合流点に接近する際の車両配置をより信頼性高く予測しながら自車両の運転を支援することができる。」

コ「【0093】
例えば、上述の実施例において、運転支援装置E1は、合流路を走行しながら合流点に接近する自車両の運転を支援するが、本線道路を走行しながら合流点に接近する自車両南畝を同様に支援するようにしてもよく、交差点に接近する場合や車線変更を行う場合の自車両の運転を支援するようにしてもよい。」

上記アないしコの記載事項及び図1ないし4の図示内容から、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されているといえる。

〔引用文献2記載事項〕
「制御部10、車速センサ20、ブレーキセンサ21、アクセルセンサ22、通信装置25を備える自車両の運転を支援するための運転支援装置E1において、
前記制御部10は、CPU、RAM、ROM等を備えたコンピュータであって、道路情報取得手段100、車両情報取得手段101、行動履歴取得手段102、運転情報取得手段103、動き予測手段104、運転支援手段105及び予測内容表示手段106を備えるとともに、道路情報取得手段100、車両情報取得手段101、行動履歴取得手段102、運転情報取得手段103、動き予測手段104、運転支援手段105及び予測内容表示手段106のそれぞれに対応するプログラムを前記ROMに記憶しながら、対応する処理を前記CPUに実行させるものであり、前記処理は、
前記行動履歴取得手段102が、前記自車両により、関連周辺車両である先行車両に対して行動履歴要求信号を送信し、前記行動履歴要求信号を前記先行車両が受信するステップと、
前記運転情報取得手段103が、前記行動履歴要求信号に応答して前記先行車両から、運転情報として、アクセルセンサ22の出力に基づいて検出される合流路を走行する前記走行車両の加速開始のタイミング及びブレーキセンサ21の出力に基づいて検出される前記先行車両のブレーキタイミングを含む二次運転情報を取得するステップと、
前記動き予測手段104が、前記運転情報取得手段103が取得した前記先行車両の前記運転情報に基づいて、前記先行車両の動きの予測内容を変更し、より即時性が高く信頼性の高い予測内容を得るステップと、
前記運転支援手段105が、前記動き予測手段104で予測した前記先行車両の動きに基づいて、最適な運転支援内容を決定し、エンジンECU40及びブレーキECU41等に対して制御信号を出力し、決定した運転支援内容を実行するステップと、
を含む、運転支援装置E1。」

(3)引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2015-225558号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「車々間通信システム」に関して、図面(特に、図1ないし3を参照。)と共に次の記載がされている。

ア「【0014】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の車々間通信システムを備えた複数台、ここでは先頭の第1車両CAR1から後尾の第3車両CAR3までの計3台の自動車が同じ道路を縦列状態で走行している状況を例示した車々間通信システムの概念図である。これら自動車CAR1?CAR3は本発明にかかる車々間通信システムによって相互に通信することが可能である。また、各自動車CAR1?CAR3には後述するように自動運転システムも装備されており、本発明の車々間通信システムはこの自動運転システムとも関連付けて構成されている。」

イ「【0016】
前記光通信部3は、他車両との間で個別にかつ相互に光通信が可能な構成であり、各自動車の前部と後部、特に自動車CARの前部に設けたヘッドランプHLと後部に設けたリアランプRLのそれぞれに組み込んでいる。ここでは自動車CARの右側のヘッドランプHLとリアランプRLに光通信部3を設けている。ヘッドランプHLでは、所要の配光で光を照射するランプユニットを内装しているランプハウジング(いずれも図示を省略)内に前側光通信部3Fが内装されており、この前側光通信部3Fは、自車両の前方に存在する他車両との間で光通信が可能に構成されている。リアランプRLでは、テールランプユニットやバックアップランプユニットを一体に構成したランプハウジング(いずれも図示を省略)内に後側光通信部3Rが内装されており、この後側光通信部3Rは、自車両の後方に存在する他車両との間で光通信が可能に構成されている。
【0017】
また、自動車CARには、前記DSRC通信部2と光通信部3に加えて、自動運転システム部4が装備されており、この自動運転システム部4と前記DSRC通信部2と光通信部3は自動車CARのECU(電子制御ユニット)1に接続されている。このECU1は、自身で取得した自車両の情報と、前記DSRC通信部2および光通信部3により取得した他車両の情報に基づいて自動運転システム部4を制御し、適切な自動運転を行うように構成されている。」

ウ「【0025】
例えば、図1に示したように第1ないし第3の車両CAR1?CAR3が接近した状態で走行している場合に、各車両は光通信部3により自車両のIDを光信号として出力する。すなわち、前側光通信部3Fと後側光通信部3Rのそれぞれにおいて、ECU1のROM17に設定されている自車両のIDに基づいて光変調部32で光変調を行い、光変調した光信号を発光部31から出射する。図1の例では、各車両CAR1?CAR3は、ヘッドランプHLに配設した前側光通信部3FとリアランプRLに配設した後側光通信部3Rからそれぞれ自車両の前方および後方に向けて光信号を送信する。」

上記アないしウの記載事項並びに図1ないし3の図示内容から、引用文献3には、以下の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されているといえる。

〔引用文献3記載事項〕
「自動運転を行う車両において、光通信部3を用いた光通信によって、自車両と他車両との間の車車間通信を行うこと。」

(4)引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2004-326705号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「車両用通信装置および通信方法」に関して、図面(特に、図1、3及4を参照。)と共に次の記載がされている。

ア「【0007】このような問題点に鑑みて、車両用通信のために特別な装置を車両側に設けるようにするとそのためのコストが増大する欠点がある。一方で車両には、前照灯、補助灯、ブレーキランプ等の発光装置や、後方視界を得るためのバックライトカメラや視覚補助用の赤外線カメラ、あるいはまたT字路等において側方視界を得るための側方視界カメラ等が設けられている車両があるが、これらの発光装置やカメラはそれぞれ専用の目的以外には利用されていなかった。とくにこのような発光装置やカメラは通信装置の受信手段としては考えられておらず、有効に利用されていないという問題があった。
【0008】
ところがこのような光学的な発光手段と受光手段とを用いて光によって通信を行なう場合には、近傍にある車両をユーザが特定することが困難になっていた。このために不特定の車両に対して情報メッセージを送信し、相手方の返信を待つのが一般的な方式になるが、現状においてはこのようなシステムが存在しないために、特定の車両間におけるコミュニケーションの成立が困難になっていた。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、とくに光を媒体として車両間で通信を行なう通信方式において、不特定多数の車両ではなく特定の車両と車両との間での通信を可能にするようにした車両用通信装置および通信方法を提供することを目的とする。」

イ「【0029】
上記の表1から明らかなように、ガイドパルスは2.4msのパルス幅を有し、これに対してデータコードは“0”を示す0.6msのパルス幅のパルスと“1”を示す1.2msのパルスとを順次形成して所定の情報の伝達を行なう。このようなパルスコード変調方式によると、周囲の複数の車両が別々に発する信号が時間軸上で一致することはほとんど考えられないので、混信の心配がなくなる。なおこのような変調器11によるパルスの形成はあくまでも一例であって、目的や情報の長さに応じて各種の形態のものが採用可能である。また上記のようなパルスコード方式で補助ランプ12の発生する光に信号を重畳する場合には、応答性に優れたLEDによって補助ランプ12を構成することが好ましい。
【0030】
図3Aは上記発光器12によって発せられた不特定送信パルス例を示している。このパルスは、不特定の車両に対して情報メッセージを伝送するために発光されるパルスであって、ガイドパルスと送信元IDパルスとメッセージとを含んでいる。とくに送信元IDパルスは自車の識別情報を構成するものである。従ってこのような不特定送信パルスは自車の周囲にある不特定の車両であって光が受光可能な総ての車両に対して送信される。
【0031】
これに対して図3Bに示す返信データパルスは、ガイドパルスと、送信先IDパルスと、送信元IDパルスと、メッセージとを含んでいる。とくにこの返信データパルスの特徴は、送信先IDパルスを含んでいることである。この送信元IDパルスが近傍の特定の車両に対してのみ情報メッセージを伝送することを可能にする。すなわち送信先IDパルスが一致しない車両は上記の送信データパルスを受信しないことによって、特定の車両に対する車両間通信が可能になる。
【0032】
図4はある車両が図3Aに示す不特定送信パルスを発信し、これを近傍の不特定の車両が受信したときの返信動作を示している。すなわち図3Aに示すパルスを受信して返信を行なおうとする返信側は、通信の開始に伴ってリクエスト情報を受信する。例えば不特定の車両に対する送信信号を受信し、この受信された内容をその車両の運転者に対して表示する。従って運転者は返信するかどうかの判断を行なう。この判断は運転者の判断であって、その結果は例えば釦操作等によって行なう。」

上記ア及びイの記載事項並びに図1、3及び4の図示内容から、引用文献4には、以下の事項(以下、「引用文献4記載事項」という。)が記載されているといえる。

〔引用文献4記載事項〕
「特定車両間において、光を媒体として車両間通信を行うこと。」

3 対比・判断
(1)一致点、相違点
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「CPU11」はその機能、構成又は技術的意義からみて本件補正発明の「プロセッサ」に相当し、以下同様に、「プログラム」は「命令」に、「メモリ12」は「メモリ」に、「自律走行を行う進路変更車A」は「第1自律走行車」に、「処理」は「操作」に、「後続直進車B」は「第2車両」に、「車線変更」は「初期運転操作」に、「その後の実際の車線変更」は「後続の運転操作」に、「自律走行制御のための運転制御装置1」は「自律走行制御システム」に、それぞれ相当する。

引用発明の「電波を用いた無線によるユニキャスト方式の車車間通信での車線変更要求信号」と本件補正発明の「第1ビジュアルコミュニケーション信号」とは、いずれも1つ目の車車間通信の信号であるから、「第1コミュニケーション信号」という限りにおいて一致する。
同様に、引用発明の「前記車線変更要求信号に応答し、前記後続直進車Bにより送信される電波を用いた無線による車車間通信での許可応答」と本件補正発明の「前記第1ビジュアルコミュニケーション信号に応答し、前記第2車両により提供される第2ビジュアルコミュニケーション信号」とは、上記相当関係を踏まえると、「前記第1コミュニケーション信号に応答し、前記第2車両により提供される第2コミュニケーション信号」という限りにおいて一致する。

また、本願明細書の段落【0034】には、「ビジュアルコミュニケーション信号のタイプ(例えば応答、運転操作、確認等)を識別することができる。」と記載されていることを踏まえると、本件補正発明における「通信タイプ」とは「応答」「運転操作」「確認」といったものを意味すると解されるから、引用発明の「応答」は、本件補正発明の「通信タイプ」の一つに該当するものということができ、本件補正発明の「通信タイプ」に相当する。
そうすると、引用発明の「前記許可応答により示される応答を判断するステップ」と本件補正発明の「前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプを識別するステップ」とは、上記相当関係を踏まえると、「前記第2コミュニケーション信号により示される通信タイプを識別するステップ」という限りにおいて一致する。
さらに、引用発明の「前記許可応答により示される応答は、決定された前記後続直進車Bの走行経路に沿った、応答であり、」と本件補正発明の「前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプは、決定された前記第2車両の走行経路に沿った、運転方向に対して意図的に実行される前記第2車両の意図的な運転操作であり、」とは、上記相当関係を踏まえると、「前記第2コミュニケーション信号により示される通信タイプは、決定された前記第2車両の走行経路に沿った、所定の通信タイプであり、」という限りにおいて一致する。

そうすると、本件補正発明と引用発明は、次の一致点及び相違点を有する。

〔一致点〕
「プロセッサと、
前記プロセッサに連結されて命令を記憶するメモリと、を備え、
前記命令が、第1自律走行車に接続される前記プロセッサにより実行される場合、前記プロセッサに操作を実行させ、前記操作は、
前記第1自律走行車が第2車両を感知することに応答して、前記第1自律走行車の初期運転操作を決定するステップと、
前記第1自律走行車により提供される、前記初期運転操作を示す第1コミュニケーション信号を送信するステップと、
前記第1コミュニケーション信号に応答し、前記第2車両により提供される第2コミュニケーション信号を検出するステップと、
前記第2コミュニケーション信号により示される通信タイプを識別するステップと、
前記第1自律走行車が、識別された前記第2コミュニケーション信号により示される通信タイプに基づいて、前記第1自律走行車の後続の運転操作を決定するステップと、を含み、
前記第2車両は第2自律走行車であり、
前記第2コミュニケーション信号により示される通信タイプは、決定された前記第2車両の走行経路に沿った、所定の通信タイプであり、
前記初期運転操作と、前記第2コミュニケーション信号により示される前記第2車両の所定の通信タイプとに基づいて、前記第1自律走行車の後続の運転操作を決定する
自律走行制御システム。」

〔相違点1〕
「第1コミュニケーション信号」及び「第2コミュニケーション信号」に関して、本件補正発明においては、第1「ビジュアル」コミュニケーション信号及び第2「ビジュアル」コミュニケーション信号であるのに対して、引用発明においては、「電波を用いた無線によるユニキャスト方式の車車間通信での車線変更要求信号」及び「前記車線変更要求信号に応答し、前記後続直進車Bにより送信される電波を用いた無線による車車間通信での許可応答」がそれぞれコミュニケーションのための信号、すなわちコミュニケーション信号であるものの、「ビジュアル」コミュニケーション信号であるか否か不明な点。

〔相違点2〕
「前記第2コミュニケーション信号により示される通信タイプは、決定された前記第2車両の走行経路に沿った、所定の通信タイプであり、」に関して、本件補正発明においては、第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプが、決定された前記第2車両の走行経路に沿った、「運転方向に対して意図的に実行される前記第2車両の意図的な運転操作」であるのに対して、引用発明においては、許可応答により示される「応答」(本件補正発明の「通信タイプ」に相当。)が、決定された前記後続直進車Bの走行経路に沿った応答であるものの、決定された前記第2車両の走行経路に沿った、「運転方向に対して意図的に実行される前記第2車両の意図的な運転操作」であるか否か不明な点。

(2)相違点についての検討
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
引用文献3記載事項は「自動運転を行う車両において、光通信部3を用いた光通信によって、自車両と他車両との間の車車間通信を行うこと。」というものであり、引用文献4記載事項は「特定車両間において、光を媒体として車両間通信を行うこと。」というものであって、これらの記載事項によれば、車車間通信を光通信によるビジュアルコミュニケーション信号を用いて行うことは、当業者にとって本願優先日前の周知技術である(以下、「周知技術」という。)。
そして、引用発明は、自律走行を行う進路変更車Aと後続直進車Bとの間の車車間通信を行い、車線変更要求信号と許可応答の送受信を行うものであり、車車間通信の信号の送受信の手段として、電波による無線通信に代えて、上記周知技術を採用することは、当業者であれば適宜なし得たことである。
また、本願明細書の段落【0022】には、「ビジュアルコミュニケーション信号は任意の適切な形態、例えば、特定のパターン、ゲートパルス、周波数、色、強度、方向等であってもよい。また、ビジュアルコミュニケーションは人間エンティティ(例えば、人間の運転者、サイクリスト、通行人等)に通知することに用いられる実施形態では、ビジュアルコミュニケーションの形態は人間が感知可能である。ビジュアルコミュニケーションは自律走行車間の通信(例えば、双方向通信プロトコル)のみに用いられる実施形態では、ビジュアルコミュニケーションは必ずしも人間が感知可能なものではない。例えば、照明機構は人間に感知不能であるが、他の自律走行車により区別できるゲートパルス周波数を用いてもよい。」と記載されている。当該記載を踏まえると、本件補正発明における「ビジュアルコミュニケーション信号」は、人間に感知不能なゲートパルス周波数を用いた信号を含むものとなっているから、引用発明における電波による無線通信で用いられる信号と周波数帯によっては重複する場合があり得ると解され、引用発明の電波による無線通信に代えて、上記周知技術の光通信によるビジュアルコミュニケーション信号を用いることを阻害する要因はないものと認められる。さらに、他に、引用発明において上記周知技術の適用を阻害する要因も特段見当たらない。
したがって、引用発明において、上記周知技術を適用して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
上記2(2)で述べたとおり、引用文献2記載事項は、
「制御部10、車速センサ20、ブレーキセンサ21、アクセルセンサ22、通信装置25を備える自車両の運転を支援するための運転支援装置E1において、
前記制御部10は、CPU、RAM、ROM等を備えたコンピュータであって、道路情報取得手段100、車両情報取得手段101、行動履歴取得手段102、運転情報取得手段103、動き予測手段104、運転支援手段105及び予測内容表示手段106を備えるとともに、道路情報取得手段100、車両情報取得手段101、行動履歴取得手段102、運転情報取得手段103、動き予測手段104、運転支援手段105及び予測内容表示手段106のそれぞれに対応するプログラムを前記ROMに記憶しながら、対応する処理を前記CPUに実行させるものであり、前記処理は、
前記行動履歴取得手段102が、前記自車両により、関連周辺車両である先行車両に対して行動履歴要求信号を送信し、前記行動履歴要求信号を前記先行車両が受信するステップと、
前記運転情報取得手段103が、前記行動履歴要求信号に応答して前記先行車両から、運転情報として、アクセルセンサ22の出力に基づいて検出される合流路を走行する前記走行車両の加速開始のタイミング及びブレーキセンサ21の出力に基づいて検出される前記先行車両のブレーキタイミングを含む二次運転情報を取得するステップと、
前記動き予測手段104が、前記運転情報取得手段103が取得した前記先行車両の前記運転情報に基づいて、前記先行車両の動きの予測内容を変更し、より即時性が高く信頼性の高い予測内容を得るステップと、
前記運転支援手段105が、前記動き予測手段104で予測した前記先行車両の動きに基づいて、最適な運転支援内容を決定し、エンジンECU40及びブレーキECU41等に対して制御信号を出力し、決定した運転支援内容を実行するステップと、
を含む、運転支援装置E1。」というものである。
本件補正発明と引用文献2記載事項とを対比すると、引用文献2記載事項の「CPU」はその機能、構成又は技術的意義からみて、本件補正発明の「プロセッサ」に相当し、以下同様に、「ROM」は「メモリ」に、「プログラム」は「命令」に、「処理」は「操作」に、それぞれ、相当する。
本件補正発明の「第1自律走行車」と引用文献2記載事項の「自車両」とは、「第1車両」という限りにおいて一致し、本件補正発明の「第2車両」及び「第2自律走行車」と引用文献2記載事項の「関連周辺車両である先行車両」とは、「第2車両」という限りにおいて一致する。
引用文献2記載事項の「前記運転情報取得手段103が、前記行動履歴要求信号に応答して前記先行車両から、運転情報として、アクセルセンサ22の出力に基づいて検出される合流路を走行する前記走行車両の加速開始のタイミング及びブレーキセンサ21の出力に基づいて検出される前記先行車両のブレーキタイミングを含む二次運転情報を取得するステップ」において、「アクセルセンサ22の出力に基づいて検出される合流路を走行する前記先行車両の加速開始のタイミング及びブレーキセンサ21の出力に基づいて検出される前記先行車両のブレーキタイミングを含む二次運転情報」は、前記先行車両の決定された走行経路である「合流路」における、加速開始のタイミング及びブレーキタイミングに関する情報であり、当該「加速開始のタイミング及びブレーキタイミング」は運転方向に対して意図的な運転操作といえるものであるから、本件補正発明の「決定された前記第2車両の走行経路に沿った、運転方向に対して意図的に実行される前記第2車両の意図的な運転操作」である「通信タイプ」に一致する。

そして、引用発明と引用文献2記載事項はともに、自車両と周辺車両とが双方向で情報を送受信し、自車両が周辺車両から得た情報に基づいて運転制御を行う点で共通の機能を有するものである。さらに、引用発明は、自動走行により車線変更あるいは合流する場合に、事前に車同士が通信により安全確認の意思疎通を確実に行ってから走行動作を行うことで、スムーズで安全に車線変更あるいは合流を実現することができる(引用文献1の段落[0016]を参照。)ものであるところ、よりスムーズで安全な自動運転を行うために、周囲の情報を多く得ようとすることは、当業者であれば当然認識する課題といえる。
したがって、引用発明において、よりスムーズで安全な自動運転を行うために、引用文献2記載事項を適用することは、当業者が容易になし得たことである。
その際、情報の送受信に用いるコミュニケーション信号の種別はどのようなものであっても良いと解されるから、コミュニケーション信号として、上記周知技術の光通信によるビジュアルコミュニケーション信号を採用することに、何ら格別の困難性はなく、その採否は当業者が適宜選択し得たことである。

したがって、引用発明において、上記周知技術を適用して、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)効果について
そして、本件補正発明が奏する効果は、全体としてみても、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)審判請求書における主張について
なお、審判請求人は、令和2年5月7日の審判請求書において、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献(特に引用文献2)に関して、以下の主張をしている。

(主張)「審査官殿は、引用例2(特開2010-182207号公報)には、関連周辺車両が加速開始のタイミングやブレーキタイミングなどの二次運転情報を自車両に送信することが記載されており、関連周辺車両による加速開始のタイミングやブレーキタイミングなどの二次運転情報は、運転方向に対して意図的に実行される関連周辺車両の意図的な運転操作であると認められると認定されています。
ここで、引用例2の段落[0041]には、「運転情報(二次運転情報)」とは、加速開始のタイミングやブレーキタイミングなどの情報であることが記載されています。このような、加速やブレーキのタイミングの情報だけでは、交差点を通過するのか、左折するのか、あるいは、左折するのかといった、関連周辺車両の運転意図を明確に把握することができません。そのため、引用例2に記載の発明では、自立走行の信頼性の向上に十分に資することはできません。
一方、本願発明における「運転操作」とは、上記補正により明らかになったように、「決定された第2車両の走行経路に沿った、運転方向に対して意図的に実行される第2車両の意図的な運転操作」であります。すなわち、本願発明における「運転操作」とは、交差点の通過、左折または右折といった、より直接的な車両の操作を示します。従いまして、本願発明における「運転操作」と引用例2における「二次運転情報」とは全く異なるものであります。
なお、他の引用例にも、上記本願発明の特徴は開示も示唆もされていません。
本願発明においては、上記特徴を有することにより、第1自立走行車では、第2車両の運転意図を明確に把握し、その結果に応じて、第1自立走行車の後続の運転操作を決定することができるので、自立走行の信頼性を向上させることができるという格別な効果を奏します。このような格別な効果は、引用例1-5に係る発明を組み合わせたとしても得られることはありません。
このように本願発明は、引用例1-5には開示も示唆もない構成を有し、本構成を有することにより、引用例1-5に記載の発明には無い格別な効果を奏するものであるため、進歩性を有するものであります。また、本願の独立請求項である請求項1,5,8に係る発明が進歩性を有する以上、これらの請求項のいずれかに従属する請求項2-4,6-7,9-10に係る発明も当然に、進歩性を有するものであります。」

以下、上記主張について検討する。
上記「(2)イ 相違点2について」で述べたとおり、引用文献2記載事項における「アクセルセンサ22の出力に基づいて検出される合流路を走行する前記先行車両の加速開始のタイミング及びブレーキセンサ21の出力に基づいて検出される前記先行車両のブレーキタイミングを含む二次運転情報」は、前記先行車両の決定された走行経路である「合流路」における、加速開始のタイミング及びブレーキタイミングに関する情報であり、当該「加速開始のタイミング及びブレーキタイミング」は運転方向に対して意図的な運転操作といえるものであるから、本件補正発明の「決定された前記第2車両の走行経路に沿った、運転方向に対して意図的に実行される前記第2車両の意図的な運転操作」である「通信タイプ」に一致する。ゆえに、請求人の「本願発明における「運転操作」と引用例2における「二次運転情報」とは全く異なるもの」との主張は、当を得たものではない。
また、引用文献2記載事項は、即時性が高く信頼性の高い周辺車両の動きの予測内容に基づいて自車両の運転を支援するためのものであって、信頼性を向上させる効果を奏するものといえる(引用文献2の段落【0011】、【0049】、【0050】及び【0087】を参照、)。
さらに、引用文献2の段落【0093】には「合流路を走行しながら合流点に接近する自車両の運転を支援する」場合だけでなく、「交差点に接近する場合や車線変更を行う場合の自車両の運転を支援するようにしてもよい。」と記載されていることを考慮すると、引用文献2記載事項は、合流路における運転支援だけでなく、交差点における運転支援における自車両と周辺車両との情報の送受信についても記載ないし示唆されているといえるから、引用発明に引用文献2記載事項を適用したものは、請求人が主張する本件補正発明の効果と同等の効果を奏するものといえる。

そして、上記(2)ないし(4)で述べたとおり、引用発明において、引用文献2記載事項及び周知技術を適用して、上記相違点1及び2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、請求人の上記主張は採用できない。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正(令和2年5月7日にされた手続補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、令和元年8月19日の手続補正により補正がされた請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項8に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項8に記載された事項により特定される、上記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項8として記載したとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
この出願については、令和元年5月15日付け拒絶理由通知書に記載した理由1(進歩性)によって、拒絶をすべきものである。なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。
備考
●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-3、5-10
・引用文献等 1-4

・請求項 4
・引用文献等 1-5
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2016/147622号
2.特開2010-182207号公報
3.特開2015-225558号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2004-326705号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2005-50187号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(国際公開第2016/147622号)、引用文献2(特開2010-182207号公報)、引用文献3(特開2015-225558号公報)及び引用文献4(特開2004-326705号公報)並びにその記載事項及び引用発明は、上記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

4 当審の判断
本件補正発明は、上記「第2〔理由〕1」で述べたように、本願発明における「前記第2ビジュアルコミュニケーション信号により示される通信タイプ」について、「運転方向に対して意図的に実行される前記第2車両の意図的な運転操作」が「決定された前記第2車両の走行経路に沿った、」ものであるという限定を付加したものであるから、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる。
そして、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる本件補正発明が、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおり、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-12-21 
結審通知日 2020-12-22 
審決日 2021-01-05 
出願番号 特願2017-175788(P2017-175788)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神山 貴行  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 西中村 健一
渡邊 豊英
発明の名称 自律走行車(ADV)用のビジュアルコミュニケーションシステム  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 杉村 憲司  
代理人 辻 啓太  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ