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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H04L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L |
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管理番号 | 1374585 |
審判番号 | 不服2020-3678 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-03-17 |
確定日 | 2021-06-24 |
事件の表示 | 特願2019-115840「ネットワーク機器」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月10日出願公開、特開2019-176511、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年11月13日(パリ条約による優先権主張:2013年11月13日 米国、2014年8月20日 米国)に出願した特願2014-231099号の一部を令和元年6月21日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和元年 9月 3日付け:拒絶理由通知 令和元年11月 5日 :意見書、手続補正書の提出 令和2年 1月 9日付け:拒絶査定(原査定) 令和2年 3月17日 :審判請求書の提出 令和3年 2月22日付け:拒絶理由(当審拒絶理由)通知 令和3年 5月13日 :意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、令和3年5月13日に提出された手続補正書の手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。なお、下線は補正された箇所を示す。 「 IPv4のアドレスについて、プライベートネットワーク空間におけるプライベートアドレスと、グローバルネットワーク空間におけるグローバルアドレスとが、互いに競合しないようにあらかじめ割り当てられているにもかかわらず、前記プライベートネットワーク空間で前記グローバルアドレスの少なくとも一部を使用するネットワークシステムにおいて、前記プラベイートネットワーク空間内のプライベートネットワーク内にあるクライアントと、前記グローバルネットワーク空間内のグローバルネットワーク内にあるサーバとの間の通信を介するネットワーク機器であって、 前記ネットワーク機器は、 前記プライベートネットワーク内にあるクライアントからの名前解析要求メッセージに対するグローバルアドレスと、プレースホルダネットワークアドレスとの写像のデータストアを保持しており、 前記クライアントから、前記サーバの宛先アドレスとして前記プレースホルダネットワークアドレスを含む要求メッセージを受け付けると、前記写像を使用して前記宛先アドレスを変換して、前記サーバに前記要求メッセージを送り、 前記サーバから前記要求メッセージに対する応答メッセージを受け付けると、前記写像を使用して、前記サーバのグローバルアドレスを、前記プレースホルダネットワークアドレスに変換して、前記クライアントに前記応答メッセージを送り、 前記プレースホルダネットワークアドレスは、 前記サーバをプライベートアドレス空間において一意に識別可能である、 ことを特徴とするネットワーク機器。」 なお、本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。 第3 引用文献、引用発明等 1 引用文献1記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平9-233112号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、プライベート・ネットワークで使用されている非公式なネットワーク層のアドレスをインターネットワーク環境下で使用される公式なアドレスに変換することによってプライベート・ネットワークのインターネットワークへの接続を可能にするアドレス変換装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】近年、複数のネットワーク同士をルータ等のLAN(Local Area Network)間接続装置を介して相互接続したインターネットワーク環境が整備されており、端末装置(クライアント)と遠隔地のサーバマシン(ホスト)との間のスムーズなデータ通信が可能となっている。 【0003】インターネットワークを構築する際、ホスト/クライアントを識別するために、ネットワーク層のアドレス(TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)通信ではIPアドレス)をホスト/クライアントに割り当てる必要がある。ここでは、ネットワーク層のアドレスをIPアドレスとして説明する。 【0004】IPアドレスには、IPアドレスを管理している団体から公式に取得した公式IPアドレスと、IPアドレスを管理している団体から公式に取得せずにプライベート・ネットワーク内だけで有効な非公式IPアドレスとがある。非公式IPアドレスは、グローバルなインターネットワーク上の公式IPアドレスと重なる可能性があり、非公式IPアドレスを利用してグローバルなインターネットワークに接続することはできなくなっている。 【0005】したがって、プライベート・ネットワークをグローバルなインターネットワークに接続するためには、クライアントの非公式IPアドレスを公式に取得した公式IPアドレスに変換する必要がある。」 「【0017】本実施形態に係るアドレス変換装置を適用したインターネットワーク環境の一例を図1に示す。非公式なIPアドレスを使用しているプライベート・ネットワーク2は、ルータ3およびアドレス変換装置4を介して、公式なIPアドレスを使用しているインターネットワーク1に接続されている。」 「【0022】アドレス変換装置4は、プライベート・ネットワーク2側のデータの送受信を行う送受信部10と、インターネットワーク1側、すなわちルータ3との間のデータの送受信を行う送受信部11と、ドメイン名から公式IPアドレスを取得するDNS部12と、公式IPアドレスと非公式IPアドレスとの間の変換を行うアドレス変換部13と、OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルの第3層:ネットワーク層で処理されるデータ(パケット)の先頭に付加されるIPヘッダ内に設定されるIPアドレスをインターネットワーク1側に送信する場合とプライベート・ネットワーク2側へ送信する場合とで変更するIPヘッダアドレス変換部(ヘッダアドレス変換手段)14と、IPアドレス変換のためのアドレス変換データを記憶するアドレス変換データベース部(アドレス変換データ記憶手段)15とを備えている。」 「【0029】プライベート・ネットワーク2上の端末装置25(以下、クライアントA)からインターネットワーク1上のサーバSに接続要求を出す場合を考える。ここで、上記クライアントAの非公式IPアドレスをIPアドレスA(”154.100.10.1”)とする。また、接続先のサーバSの公式IPアドレスをIPアドレスD(”150.96.10.1”)、そのドメイン名を”ftp.out.co.jp”とする。また、プライベート・ネットワーク2内には、公式IPアドレスDと同じ番号の非公式IPアドレスBを持った端末装置B(ドメイン名:ftp.in.co.jp)が存在するものとする。尚、IPアドレスA、B、C、D、Eの意味を表1にまとめて示す。 【0030】 【0031】先ず、クライアントAがサーバSに対して接続要求を行ってインターネットワーク1側へパケットが送出されるまでの手順(図4に示す)を説明する。 【0032】クライアントAがサーバSのドメイン名”ftp.out.co.jp”を入力した場合、当該ドメイン名を含むフレームがルータ24を介してアドレス変換装置4へわたされる。このフレームを受信したアドレス変換装置4は、プライベート・ネットワーク2内で現在使用されている非公式IPアドレスを記憶(認識)しており、上記のドメイン名”ftp.out.co.jp”を、プライベート・ネットワーク2内でのみ有効であり、且つプライベート・ネットワーク2内で現在使用されていない非公式IPアドレスCと対応付け、アドレス変換データベース部15(図2)の接続先IPアドレス変換データベース領域に一時的に記憶する。 …(中略)… 【0034】次に、アドレス変換装置4は、DNSによってインターネットワーク1上のDNSサーバより、上記接続先のドメイン名に対応する公式IPアドレスDを取得する。そして、取得した公式IPアドレスDを非公式IPアドレスCと対応付け、アドレス変換データベース部15(図2)の接続先IPアドレス変換データベース領域に一時的に記憶する。 【0035】そして、アドレス変換装置4は、クライアントAに対して、サーバSのIPアドレスがIPアドレスCであることを通知する。このため、クライアントAが送出するパケットに付加されるIPヘッダ内には、図6中の(a)に示すように、送信先アドレスとしてIPアドレスC、送信元アドレスとしてIPアドレスAという何れも非公式のIPアドレスが設定される。 …(中略)… 【0037】アドレス変換装置4は、クライアントAが送信したパケットを受信したとき、アドレス変換データベース部15に登録されているアドレス変換データに基づいて、IPヘッダ内の送信先および受信先アドレスを、図6の(b)に示すように送信先アドレスとしてIPアドレスD、送信元アドレスとしてIPアドレスEという何れも公式のIPアドレスに変換し、この変換後のパケットを、第2層:データリンク層で処理されるフレームにのせてインターネットワーク1側のルータ3に送出する。 【0038】この後、公式IPアドレスが設定されたパケットは、ルータ3よりインターネットワーク1上のサーバSに伝送される。」 「【0039】次に、サーバSからの返信時の通信手順(図5に示す)を説明する。 【0040】サーバSからの返信を受け取ったルータ3は、それをアドレス変換装置4へわたす。このサーバSからの返信のパケットに付加されるIPヘッダ内には、図7中の(a)に示すように、送信先アドレスとしてIPアドレスE、送信元アドレスとしてIPアドレスDという何れも公式のIPアドレスが設定されている。アドレス変換装置4は、このサーバSからの返信パケットを受信したとき、アドレス変換データベース部15に登録されているアドレス変換データに基づいて、IPヘッダ内の送信先および受信先アドレスを、図7中の(b)に示すように送信先アドレスとしてIPアドレスA、送信元アドレスとしてIPアドレスCという何れも非公式のIPアドレスに変換し、この変換後のパケットを第2層:データリンク層で処理されるフレームにのせてプライベート・ネットワーク2側のLAN上に送出する。 【0041】この後、非公式IPアドレスが設定されたパケットは、図1のサブネットワーク22のルータ24を介してクライアントAに伝送される。」 「【図1】 」 「【図2】 」 「【図4】 」 2 引用発明 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「 プライベート・ネットワークで使用されている非公式なネットワーク層のアドレスをインターネットワーク環境下で使用される公式なアドレスに変換することによってプライベート・ネットワークのインターネットワークへの接続を可能にするアドレス変換装置であって、 IPアドレスには、IPアドレスを管理している団体から公式に取得した公式IPアドレスと、IPアドレスを管理している団体から公式に取得せずにプライベート・ネットワーク内だけで有効な非公式IPアドレスとがあり、非公式IPアドレスは、グローバルなインターネットワーク上の公式IPアドレスと重なる可能性があり、 非公式なIPアドレスを使用しているプライベート・ネットワーク2は、ルータ3およびアドレス変換装置4を介して、公式なIPアドレスを使用しているインターネットワーク1に接続され、 アドレス変換装置4は、プライベート・ネットワーク2側のデータの送受信を行う送受信部10と、インターネットワーク1側、すなわちルータ3との間のデータの送受信を行う送受信部11と、ドメイン名から公式IPアドレスを取得するDNS部12と、公式IPアドレスと非公式IPアドレスとの間の変換を行うアドレス変換部13と、OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルの第3層:ネットワーク層で処理されるデータ(パケット)の先頭に付加されるIPヘッダ内に設定されるIPアドレスをインターネットワーク1側に送信する場合とプライベート・ネットワーク2側へ送信する場合とで変更するIPヘッダアドレス変換部(ヘッダアドレス変換手段)14と、IPアドレス変換のためのアドレス変換データを記憶するアドレス変換データベース部(アドレス変換データ記憶手段)15とを備え、 プライベート・ネットワーク2上の端末装置25(以下、クライアントA)からインターネットワーク1上のサーバSに接続要求を出す場合、 クライアントAがサーバSのドメイン名”ftp.out.co.jp”を入力した場合、当該ドメイン名を含むフレームがルータ24を介してアドレス変換装置4へわたされ、このフレームを受信したアドレス変換装置4は、プライベート・ネットワーク2内で現在使用されている非公式IPアドレスを記憶(認識)しており、上記のドメイン名”ftp.out.co.jp”を、プライベート・ネットワーク2内でのみ有効であり、且つプライベート・ネットワーク2内で現在使用されていない非公式IPアドレスCと対応付け、アドレス変換データベース部15の接続先IPアドレス変換データベース領域に一時的に記憶し、 次に、アドレス変換装置4は、DNSによってインターネットワーク1上のDNSサーバより、上記接続先のドメイン名に対応する公式IPアドレスDを取得し、取得した公式IPアドレスDを非公式IPアドレスCと対応付け、アドレス変換データベース部15の接続先IPアドレス変換データベース領域に一時的に記憶し、 そして、アドレス変換装置4は、クライアントAに対して、サーバSのIPアドレスがIPアドレスCであることを通知し、このため、クライアントAが送出するパケットに付加されるIPヘッダ内には、送信先アドレスとしてIPアドレスCという非公式のIPアドレスが設定され、 アドレス変換装置4は、クライアントAが送信したパケットを受信したとき、アドレス変換データベース部15に登録されているアドレス変換データに基づいて、IPヘッダ内の送信先および受信先アドレスを、送信先アドレスとしてIPアドレスDという公式のIPアドレスに変換し、この変換後のパケットを、第2層:データリンク層で処理されるフレームにのせてインターネットワーク1側のルータ3に送出し、公式IPアドレスが設定されたパケットは、ルータ3よりインターネットワーク1上のサーバSに伝送され、 サーバSからの返信時の通信手順において、 サーバSからの返信を受け取ったルータ3は、それをアドレス変換装置4へわたし、このサーバSからの返信のパケットに付加されるIPヘッダ内には送信元アドレスとしてIPアドレスDという公式のIPアドレスが設定されており、 アドレス変換装置4は、このサーバSからの返信パケットを受信したとき、アドレス変換データベース部15に登録されているアドレス変換データに基づいて、IPヘッダ内の送信先および受信先アドレスを、送信元アドレスとしてIPアドレスCという非公式のIPアドレスに変換し、この変換後のパケットを第2層:データリンク層で処理されるフレームにのせてプライベート・ネットワーク2側のLAN上に送出し、 非公式IPアドレスが設定されたパケットは、クライアントAに伝送される アドレス変換装置。」 第4 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「IPアドレス」と、本願発明1の「IPv4のアドレス」とは、「アドレス」である点において共通する。 よって、引用発明と本願発明1とは、「アドレスについて」の発明である点において共通する。 イ 引用発明の「プライベート・ネットワーク」は、アドレス空間として捉えると、本願発明1の「プライベートネットワーク空間」に相当し、また、物理的なネットワークとして捉えると、本願発明1の「プライベートネットワーク空間内のプライベートネットワーク」に相当する。 同様に、引用発明の「(グローバルな)インターネットワーク」は、本願発明1の「グローバルネットワーク空間」及び「グローバルネットワーク空間内のグローバルネットワーク」に相当する。 ウ 引用発明において、「インターネットワーク環境下で使用される公式なアドレス」は、「IPアドレスを管理している団体から公式に取得した公式IPアドレス」であるから、「IPアドレスを管理している団体」から公式に割り当てられているものといえる。 一方、引用発明において、「プライベート・ネットワークで使用されている非公式なネットワーク層のアドレス」(非公式IPアドレス)は、「IPアドレスを管理している団体から公式に取得せずにプライベート・ネットワーク内だけで有効な非公式IPアドレス」であるから「IPアドレスを管理している団体」から公式に割り当てられているものとはいえない。 また、「非公式IPアドレス」は、「グローバルなインターネットワーク上の公式IPアドレスと重なる可能性」があるから、「公式IPアドレス」と互いに競合しないものとはいえない一方、「プライベート・ネットワーク」で「公式IPアドレス」の少なくとも一部を使用する場合が想定されている。 また、引用発明において、「プライベート・ネットワーク」及び「(グローバルな)インターネットワーク」並びにこれらを接続する「アドレス変換装置4」及び「ルータ3」は一体として「ネットワークシステム」といい得るものである。 エ 前記アないしウを参酌すると、引用発明と本願発明1の「IPv4のアドレスについて、プライベートネットワーク空間におけるプライベートアドレスと、グローバルネットワーク空間におけるグローバルアドレスとが、互いに競合しないようにあらかじめ割り当てられているにもかかわらず、前記プライベートネットワーク空間で前記グローバルアドレスの少なくとも一部を使用するネットワークシステム」とは、「アドレスについて、プライベートネットワーク空間におけるプライベートアドレスがあらかじめ割り当てられており、前記プライベートネットワーク空間で前記グローバルアドレスの少なくとも一部を使用するネットワークシステム」である点において共通する。 オ 引用発明の「端末装置25」(「クライアントA」を含む。)は、「プライベート・ネットワーク2」上(内)にあるものであるから、前記イを参酌すると、本願発明1の「前記プラベイートネットワーク空間内のプライベートネットワーク内にあるクライアント」に相当する。 カ 引用発明の「サーバS」は、「インターネットワーク1」上(内)にあるものであるから、前記イを参酌すると、本願発明1の「前記グローバルネットワーク空間内のグローバルネットワーク内にあるサーバ」に相当する。 キ 引用発明は、「プライベート・ネットワーク2は、ルータ3およびアドレス変換装置4を介して、公式なIPアドレスを使用しているインターネットワーク1に接続され」るとの構成を備えるから、「アドレス変換装置」は、「プライベート・ネットワーク2」上の「クライアントA」と、「インターネットワーク1」上の「サーバS」との間の通信を介する「ネットワーク機器」といい得るものである。 ク 前記ウ及びオないしキより、引用発明の「アドレス変換装置」は、本願発明1の「前記プラベイートネットワーク空間内のプライベートネットワーク内にあるクライアントと、前記グローバルネットワーク空間内のグローバルネットワーク内にあるサーバとの間の通信を介するネットワーク機器」に相当する。 ケ 引用発明において、「クライアントA」が入力し「アドレス変換装置4」へわたされる、「サーバS」の「ドメイン名”ftp.out.co.jp”」含む「フレーム」は、本願発明1の「前記プライベートネットワーク内にあるクライアントからの名前解析要求メッセージ」に相当し、「アドレス変換装置4」が「DNSサーバ」から取得する「ドメイン名”ftp.out.co.jp”」に対応する「公式IPアドレスD」は、本願発明1の「前記プライベートネットワーク内にあるクライアントからの名前解析要求メッセージに対するグローバルアドレス」に相当する。 コ 引用発明において、「ドメイン名ftp.out.co.jp」と対応付けられ、「プライベート・ネットワーク2」内でのみ有効である「非公式IPアドレスC」は、本願発明1の「プレースホルダネットワークアドレス」に相当する。 サ 引用発明において、「アドレス変換データベース部15」は、「公式IPアドレスD」と「非公式IPアドレスC」とを対応付けたもの(写像)を記憶したものであるから、前記ケ及びコを参酌すると、本願発明1の「前記プライベートネットワーク内にあるクライアントからの名前解析要求メッセージに対するグローバルアドレスと、プレースホルダネットワークアドレスとの写像のデータストア」に相当する。 シ 前記ク及びサを参酌すると、引用発明において、「アドレス変換装置4」が、「アドレス変換データベース部15」を備えることは、本願発明1の「前記ネットワーク機器は、」「前記プライベートネットワーク内にあるクライアントからの名前解析要求メッセージに対するグローバルアドレスと、プレースホルダネットワークアドレスとの写像のデータストアを保持しており」との構成に相当する。 ス 引用発明において、「アドレス変換装置4」が「クライアントA」から受信する、「IPヘッダ」内に送信アドレス(宛先アドレス)として「IPアドレスC」(非公式IPアドレス)が設定されている「パケット」は、本願発明1の「前記サーバの宛先アドレスとして前記プレースホルダネットワークアドレスを含む要求メッセージ」に相当する。 セ 引用発明において、「アドレス変換装置4」が、前記「パケット」を受信したときに、「アドレス変換データベース部15に登録されているアドレス変換データに基づいて、IPヘッダ内の送信先および受信先アドレスを、送信先アドレスとしてIPアドレスDという公式のIPアドレスに変換し、この変換後のパケットを、第2層:データリンク層で処理されるフレームにのせてインターネットワーク1側のルータ3に送出し、公式IPアドレスが設定されたパケットは、ルータ3よりインターネットワーク1上のサーバSに伝送され」ることは、本願発明1の「前記写像を使用して前記宛先アドレスを変換して、前記サーバに前記要求メッセージを送り」との構成に相当する。 ソ 前記ク、ス及びセより、引用発明において、「アドレス変換装置4」が、「クライアントA」から「パケット」を受信して、送信アドレスを変換し、「変換後のパケット」を「サーバS」に送信することは、本願発明1の「前記ネットワーク機器は、」「前記クライアントから、前記サーバの宛先アドレスとして前記プレースホルダネットワークアドレスを含む要求メッセージを受け付けると、前記写像を使用して前記宛先アドレスを変換して、前記サーバに前記要求メッセージを送り」との構成に相当する。 タ 引用発明の「サーバSからの返信のパケット」は、本願発明1の「前記サーバから前記要求メッセージに対する応答メッセージ」に相当する。 チ 引用発明は、「アドレス変換装置4」が「サーバSからの返信のパケット」を受信したときに、「アドレス変換データベース部15に登録されているアドレス変換データに基づいて、IPヘッダ内の送信先および受信先アドレスを、送信元アドレスとしてIPアドレスCという非公式のIPアドレスに変換し、この変換後のパケットを第2層:データリンク層で処理されるフレームにのせてプライベート・ネットワーク2側のLAN上に送出し、非公式IPアドレスが設定されたパケットは、クライアントAに伝送される」との構成を備えるから、前記ク及びタを参酌すると、本願発明1の「前記ネットワーク機器は、」「前記サーバから前記要求メッセージに対する応答メッセージを受け付けると、前記写像を使用して、前記サーバのグローバルアドレスを、前記プレースホルダネットワークアドレスに変換して、前記クライアントに前記応答メッセージを送り」との構成を備える。 ツ 引用発明において、「ドメイン名”ftp.out.co.jp”」に対応する「公式IPアドレスD」は、「プライベート・ネットワーク2内でのみ有効であり、且つプライベート・ネットワーク2内で現在使用されていない」ものであるから、「プライベート・ネットワーク2」内において、「サーバS」を一意に識別可能なものである。 よって、前記コを参酌すると、引用発明は、本願発明1の「前記プレースホルダネットワークアドレスは、前記サーバをプライベートアドレス空間において一意に識別可能である」との構成を備える。 (2)一致点・相違点 前記(1)より、本願発明1と引用発明とは、以下の点において一致ないし相違する。 [一致点] 「 アドレスについて、プライベートネットワーク空間におけるプライベートアドレスがあらかじめ割り当てられており、前記プライベートネットワーク空間で前記グローバルアドレスの少なくとも一部を使用するネットワークシステムにおいて、前記プラベイートネットワーク空間内のプライベートネットワーク内にあるクライアントと、前記グローバルネットワーク空間内のグローバルネットワーク内にあるサーバとの間の通信を介するネットワーク機器であって、 前記ネットワーク機器は、 前記プライベートネットワーク内にあるクライアントからの名前解析要求メッセージに対するグローバルアドレスと、プレースホルダネットワークアドレスとの写像のデータストアを保持しており、 前記クライアントから、前記サーバの宛先アドレスとして前記プレースホルダネットワークアドレスを含む要求メッセージを受け付けると、前記写像を使用して前記宛先アドレスを変換して、前記サーバに前記要求メッセージを送り、 前記サーバから前記要求メッセージに対する応答メッセージを受け付けると、前記写像を使用して、前記サーバのグローバルアドレスを、前記プレースホルダネットワークアドレスに変換して、前記クライアントに前記応答メッセージを送り、 前記プレースホルダネットワークアドレスは、 前記サーバをプライベートアドレス空間において一意に識別可能である、 ことを特徴とするネットワーク機器。」 [相違点] <相違点1> 「アドレス」が、本願発明1は、「IPv4のアドレス」であるのに対し、引用発明の「IPアドレス」は、「IPv4の」ものであると具体的に特定していない点。 <相違点2> 「ネットワークシステム」が、本願発明1は、「プライベートネットワーク空間におけるプライベートアドレスと、グローバルネットワーク空間におけるグローバルアドレスとが、互いに競合しないようにあらかじめ割り当てられているにもかかわらず、前記プライベートネットワーク空間で前記グローバルアドレスの少なくとも一部を使用する」ものであるのに対し、引用発明は、プライベート・ネットワークで使用される「非公式IPアドレス」は、インターネットワークで使用される「公式IPアドレス」と互いに競合しないように予め割り当てられたものではない点。 (3)相違点についての判断 まず、前記(2)より、本願発明1と引用発明との間には相違点が存在するから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号(新規性欠如)に該当しない。 次に、特許法第29条第2項(進歩性欠如)に関して、事案に鑑みて先に上記相違点2について検討する。 上記相違点2に係る本願発明1の構成は、「プライベートネットワーク空間におけるプライベートアドレスと、グローバルネットワーク空間におけるグローバルアドレスとが、互いに競合しないようにあらかじめ割り当てられている」との前提があるために、通常は、プライベートネットワーク空間ではグローバルアドレスを使用することができないにもかかわらず、例外的に又は一時的に、プライベートネットワーク空間においてもグローバルアドレスを使用することができるようにしたものと理解することができる。 実際、本願明細書の記載「IPv4が持つ一意アドレスは理論上約40億個に限られる。当然ながら、17,891,328個のアドレス(またはIPv4の一意IPアドレスの約0.4%)(RFC1918に準拠)はプライベートネットワークのアドレス指定に使用するために確保されている。これ以外のアドレスは、インターネット上の機器などのパブリックアクセスが可能な機器に割り当てられる。このようにネットワークを割り当てる理由は、インターネット上の機器とプライベートネットワーク上の機器との間でアドレスが競合しないようにするためである。」(【0003】)、「インターネットに接続された機器や、スマートフォンおよびタブレットを含むモバイル機器の使用が急速に増加していることで、プライベートネットワークアドレス指定に割り当てるアドレスの数が不足してきている。例えば、大規模サービスプロバイダはプライベートネットワークIPアドレスを使い果たす可能性がある。」(【0004】)、及び、「プライベートネットワークアドレス指定に使用するべく割り当てられた識別子の範囲外にある識別子を、プライベートネットワーク上で使用できるようにする解析法への必要となった。」(【0005】)を参酌すれば、本願は、インターネットに接続する機器等の増加に伴って、予め割り当てられている有限個のプライベートネットワークアドレスの数が不足する問題を解決するために、プライベートネットワークアドレス以外のアドレス、すなわち、グローバルネットワークアドレスをプライベートネットワーク上で使用できるようにすることを目的とするものと理解することができる。 一方、引用発明は、プライベート・ネットワークで使用される「非公式IPアドレス」は、インターネットワークで使用される「公式IPアドレス」と互いに競合しないように予め割り当てられたものではないため、「グローバルなインターネットワーク上の公式IPアドレスと重なる可能性」がある(引用文献1の【0003】)という課題を解決するためのものである。すなわち、引用発明は、そもそも「公式IPアドレス」をプライベート・ネットワーク上で使用できることを前提としたものといえる。 よって、引用発明と本願発明1とは、前提とする「ネットワークシステム」の構成が異なるから、引用発明は、本願発明1とは本質的な技術的思想が異なるといわざるを得ない。そうすると、仮に、上記相違点2に係る本願発明1の構成自体が本願優先日前に周知技術であったとしても、引用発明が前提とする「ネットワークシステム」の構成を上記相違点2に係る本願発明1の構成に変更することは容易とはいえない。 したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 1 原査定の概要 原査定の概要は、次のとおりである。 [理由1] 請求項1及び2に係る発明は、上記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。 [理由2] 請求項1及び2に係る発明は、上記引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 原査定についての判断 本件補正により補正された請求項1及び2に係る発明は、いずれも「プライベートネットワーク空間におけるプライベートアドレスと、グローバルネットワーク空間におけるグローバルアドレスとが、互いに競合しないようにあらかじめ割り当てられているネットワークシステム」という事項を有するものとなっており、上記「第4」のとおり、本願発明1及び2は、上記引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者が、引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由の概要及び当審拒絶理由についての判断 1 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。 [理由1](サポート要件違反) 本願請求項1及び2に係る発明は、以下の点において特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 [理由2](明確性要件違反) 本願請求項1及び2に係る発明は、以下の点において特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項1及び2に係る発明において、「プライベートネットワーク」、「IPv4のプライベートアドレス空間」及び「プライベートアドレス」の関係、並びに、「外部ネットワーク」、「IPv4のグローバルアドレス空間」及び「グローバルアドレス」の関係が明確ではないため、IPv4のアドレス(IPアドレス)が、プライベートネットワーク(プライベートアドレス空間)とそれ以外のパブリックな空間(グローバルネットワーク(グローバルアドレス空間))との間で競合しないアドレスが予め割り当てられているという前提が明らかではなく、よって、「プライベートネットワークアドレス指定に使用するべく割り当てられた識別子の範囲外にある識別子を、プライベートネットワーク上で使用できるようにする」という本願明細書に記載された課題を認識することができない。 2 当審拒絶理由についての判断 本件補正により、請求項1及び2に係る発明は、「IPv4のアドレスについて、プライベートネットワーク空間におけるプライベートアドレスと、グローバルネットワーク空間におけるグローバルアドレスとが、互いに競合しないようにあらかじめ割り当てられているにもかかわらず、前記プライベートネットワーク空間で前記グローバルアドレスの少なくとも一部を使用するネットワークシステムにおいて、前記プラベイートネットワーク空間内のプライベートネットワーク内にあるクライアントと、前記グローバルネットワーク空間内のグローバルネットワーク内にあるサーバとの間の通信を介するネットワーク機器」と補正された結果、上記の拒絶の理由はいずれも解消した。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1及び2は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者が、引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-06-08 |
出願番号 | 特願2019-115840(P2019-115840) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H04L)
P 1 8・ 537- WY (H04L) P 1 8・ 113- WY (H04L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 大石 博見 |
特許庁審判長 |
角田 慎治 |
特許庁審判官 |
富澤 哲生 林 毅 |
発明の名称 | ネットワーク機器 |
代理人 | 吉浦 洋一 |
代理人 | 吉浦 洋一 |