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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01B |
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管理番号 | 1374701 |
審判番号 | 不服2020-8826 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-25 |
確定日 | 2021-06-10 |
事件の表示 | 特願2016- 74957「絶縁電線の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開,特開2017-188243〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2016年(平成28年) 4月 4日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 1年10月31日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 2月25日 :意見書,手続補正書の提出 令和 2年 3月26日付け:拒絶査定(原査定) 令和 2年 6月25日 :審判請求書,手続補正書の提出 令和 2年 8月19日 :上申書の提出 第2 令和 2年 6月25日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和 2年 6月25日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1-3の記載は次のとおりである。(下線部は,補正箇所である。以下,それぞれ,「補正後の請求項1」-「補正後の請求項3」という。) 「 【請求項1】 扁平な断面形状を有する平角導線をO/W型分散液の電着塗料組成物に連続的に通して電着塗装することにより前記平角導線の外周面を厚さが1.5μm以上5μm以下の樹脂絶縁層で被覆する絶縁電線の製造方法であって, 前記電着塗料組成物は,ポリアミドイミド樹脂と,非プロトン性極性溶媒と,水と,を含むと共に固形分濃度が2?4質量%であり,且つ前記非プロトン性極性溶媒の含有量が10?20質量%である絶縁電線の製造方法。 【請求項2】 請求項1に記載された絶縁電線の製造方法において, 前記平角導線を前記電着塗料組成物に通すときの線速を20?40m/minとする絶縁電線の製造方法。 【請求項3】 請求項1又は2に記載された絶縁電線の製造方法において, 前記電着塗料組成物を出た後の前記平角導線の外周面に付着した電着塗料組成物における固形分濃度が10質量%以上である絶縁電線の製造方法。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の,特許請求の範囲の請求項1-7の記載は次のとおりである。(以下,それぞれ,「補正前の請求項1」-「補正前の請求項7」という。) 「 【請求項1】 導線と,前記導線の外周面を被覆するポリアミドイミド樹脂で形成された厚さが1.5μm以上5μm以下の樹脂絶縁層と,を備えた絶縁電線であって, 前記絶縁電線をJIS C3216-3:2011に基づいて急激伸張試験した後の側面視での破断点から長さ4mmの所定幅の部分における前記導線の露出率が7%以下であり,且つ微小硬度計により求められる前記樹脂絶縁層のヤング率が9.0×10^(3)N/mm^(2)以上である絶縁電線。 【請求項2】 請求項1に記載された絶縁電線において, 前記導線が扁平な断面形状を有する平角導線である絶縁電線。 【請求項3】 請求項1又は2に記載された絶縁電線の製造方法において, 前記樹脂絶縁層にへら状プローブを25mNの力で押し当てて10℃/minの速度で昇温させたときの温度とプローブの変位量との関係における変位量の拡大開始点での温度が250℃以上である絶縁電線。 【請求項4】 導線をO/W型分散液の電着塗料組成物に連続的に通して電着塗装することにより前記導線の外周面を厚さが1.5μm以上5μm以下の樹脂絶縁層で被覆する絶縁電線の製造方法であって, 前記電着塗料組成物は,ポリアミドイミド樹脂と,非プロトン性極性溶媒と,水と,を含むと共に固形分濃度が2?4質量%であり,且つ前記非プロトン性極性溶媒の含有量が10?20質量%である絶縁電線の製造方法。 【請求項5】 請求項4に記載された絶縁電線の製造方法において, 前記導線を前記電着塗料組成物に通すときの線速を20?40m/minとする絶縁電線の製造方法。 【請求項6】 請求項4又は5に記載された絶縁電線の製造方法において, 前記電着塗料組成物を出た後の前記導線の外周面に付着した電着塗料組成物における固形分濃度が10質量%以上である絶縁電線の製造方法。 【請求項7】 請求項4乃至6のいずれかに記載された絶縁電線の製造方法において, 前記導線が扁平な断面形状を有する平角導線である絶縁電線。」 2 補正の目的 本件補正は,概略,補正前の請求項1-3,7を削除すると共に,補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「導線」を,「扁平な断面形状を有する平角導線」と限定し,補正後の請求項1とするものであるから,特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とする補正を含むものである。 そして,補正前の請求項4に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることは明らかである。 3 独立特許要件 以上のように,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。 そこで,補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。 本件補正発明は,上記「1(1)」に,補正後の請求項1として記載したとおりのものである。 (1)引用文献1に記載されている技術的事項及び引用発明 ア 原審の拒絶査定の理由である令和 1年10月31日付けの拒絶理由通知において引用された,特開昭64-043578号公報(以下,「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同じ。) (ア)「2 特許請求の範囲 (1)ブタンテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジカルボン酸またはその酸ハライドとを含む酸成分と,芳香族ジアミンおよび/または脂肪族ジアミンとを反応させて得られるポリアミドイミドを,水又は,水と有機溶媒の混合物に分散させたものであることを特徴とする電着用エマルジョン。」(第1頁左下欄第4-10行) (イ)「〔産業上の利用分野〕 本発明は,新規な電着用エマルジョンに関するものである。さらに詳しくは例えばエナメル電線の電着絶縁被膜,金属の電着絶縁コーティングなどに好ましく用いることのできる耐熱性のすぐれた電着用エマルジョンに関するものである。」(第1頁右下欄第4-9行) (ウ)「 ポリアミドイミド重合体の溶媒としては,N-メチル-2-ピロリドン(NMP),N,N-ジメチルホルムアミド(DMF),N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC),ジメチルスルホキシド(DMSO)のような高沸点溶媒を用いることが望ましい。」(第2頁右下欄第13-17行) (エ)「 このようにして得られた本発明の電着用エマルジョンは,極めて安定性に優れ,泳動速度も短く,例えば断面が円形の銅線に電着した後,100℃で80分,200℃で20分,さらに260℃で80分間焼付けしたポリアミドイミドの被膜は,耐熱性に優れ,平滑でピンホールがなく,銅線との接着も強固で,さらに電気絶縁破壊電圧の高いものが得られる。 また,電着時間,電圧,電流量を変化させることにより,薄膜から厚膜のコントロールが可能である。」(第3頁右上欄第7-17行) (オ)「実施例1 ブタンテトラカルボン酸二無水物(0.5モル),イソフタル酸塩化物(0.1モル)と3,3′-ジアミノジフェニルエーテル(0.6モル)の反応から得られたポリアミドイミド(分子量約10万)50gと,1-メチルイミダゾール32gを220mlのNMPに溶解させ,その溶液を,水830ml,メチルエチルケトン620mlの混合溶媒中に攪拌しながら,エマルジョンを製造した。 電着の装置は,第1図に示した。電極管(4)は直径6cm,高さ20cmのフッ累樹脂をコーティングしたアルミニウムの円筒を用いた。 電線(1)としては,断面が丸い銅線を用い,電極管(4)をカソード,電線(1)をアノードとし,直流電源(2)により400ボルト,145mAで5秒間電着を行なった。 なお,図中(3)は本発明に係る電着用エマルジョンである。上記により,電着被膜された銅線は,100℃で80分,200℃で20分さらに260℃で80分間焼付けした。 焼付け後の銅線は,表面が平滑でピンホールはまったくみられなかった。」(第3頁左下欄第1行-右下欄第2行) (カ)「 」 イ ここで,引用文献1に記載されている事項を検討する。 (ア)上記「ア(ウ)」の「ポリアミドイミド重合体の溶媒としては,N-メチル-2-ピロリドン(NMP),N,N-ジメチルホルムアミド(DMF),N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC),ジメチルスルホキシド(DMSO)のような高沸点溶媒を用いることが望ましい。」との記載において,「N-メチル-2-ピロリドン(NMP)」,「N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)」,「N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)」,「ジメチルスルホキシド(DMSO)」は,「非プロトン性極性溶媒」として周知のものである。 (イ)上記「ア(オ)」の「ポリアミドイミド(分子量約10万)50gと,1-メチルイミダゾール32gを220mlのNMPに溶解させ,その溶液を,水830ml,メチルエチルケトン620mlの混合溶媒中に攪拌しながら,エマルジョンを製造した。」との記載において,NMPの比重が約1.03,メチルエチルケトンの比重が約0.805であることから,499.1g),引用文献1には,ポリアミドイミド50g,1-メチルイミダゾール32g,NMP約226.6g,水620g,メチルエチルケトン約499.1gからなる,約1637.7gの電着用エマルジョンが記載されている。 ここで,その比率は,電着エマルジョン100質量部(1637.7g)に対して,ポリアミドイミドは約3.1質量%(50g),NMPは約13.8質量%(226.6g)となる。 (ウ)上記「ア(エ)」の「また,電着時間,電圧,電流量を変化させることにより,薄膜から厚膜のコントロールが可能である。」との記載から,引用文献1には,「電着時間,電圧,電流量を変化させることにより」「ポリアミドイミドの被膜の厚さが制御可能である」ことが記載されている。 ウ 以上から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「 断面が丸い銅線を用い,電着用エマルジョンを電着することにより,ポリアミドイミドの被膜を電着被膜する方法であって, 電着用エマルジョンとして,ポリアミドイミドを,水と非プロトン性極性溶媒の混合物に分散させたものであり,ポリアミドイミドは約3.1質量%,非プロトン性極性溶媒としてNMPは約13.8質量%であるものを用い, 電着時間,電圧,電流量を変化させることにより,ポリアミドイミドの被膜の厚さが制御可能であること。」 (2)引用文献2に記載されている技術的事項 ア 原審の拒絶査定の理由である令和 1年10月31日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2013-072092号公報(以下,「引用文献2」という。)には,以下の事項が記載されている。 (ア)「【0005】 ところで、圧延した金属線をステータコイルとするためには、金属線の表面を絶縁層で被覆する必要があり、かかる絶縁層を形成する絶縁材料として一般的にポリウレタン樹脂等の高分子材料が用いられ、金属線がいわゆるエナメル線に加工される。この金属線の絶縁層による被覆は、一般的には、金属線を、絶縁材料を有機溶剤等に溶かして液状にしたワニスに浸漬し、このとき、電気的作用によって金属線の表面に絶縁材料を析出させ、その後、高温で溶剤を飛散させる電着塗装により行われる。そして、このとき形成される絶縁層は、ステータコイルの耐電圧性能等の要求特性を満足するためには、厚さが一定であることが望ましい。」 (イ)「【0008】 本発明の絶縁電線の製造方法は,幅及び厚さが長さ方向に沿って変化する部分を有する金属線を,電着液に連続して通過させて電着塗装した後,金属線に付着した電着被膜からなる絶縁層を焼き付けるものであって,上記電着塗装を定電圧法で行う。」 (ウ)「【0018】 本実施形態で用いる金属線11の断面形状は,図2(a)に示すように,一対の平行な長辺とそれらの両側のそれぞれを連結する円弧状の側辺とからなる陸上競技のトラック形状であってもよく,また,図2(b)に示すように,横長矩形状であってもよい。但し,エッジワイズ曲げ加工を施した際,曲げ加工部分の曲げ外周部で曲げに沿って生じる伸び歪みを均一化させる観点からは,陸上競技のトラック形状のように,側面の断面外郭形状が外向きに凸の曲線であることが好ましい。」 (エ)「【0027】 <電着液> 本実施形態で用いる電着液は、アニオン型のものであってもよく、また、カチオン型のものであってもよい。電着液に含まれる樹脂成分としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ・アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。但し、本実施形態で用いる電着液としては、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを樹脂成分とし、それに加えて塩基性化合物、水溶性極性溶媒、水及びブロック共重合ポリイミドの貧溶媒を含有するサスペンジョン型電着組成物が好ましい。」 (オ)「【0037】 <電着塗装及び焼付処理> 図6は本実施形態で用いる電着装置30を示す。 【0038】 この電着装置30は,電着槽31とその上方に設けられた焼付炉32とを備えている。 【0039】 電着槽31は,金属線11が下方から進入して上方に引き上げられるように走行して内部に貯留した電着液を通過するように構成されており,その電着液に浸漬されるように設けられた第1電極31aと走行する金属線11に接触するように設けられた第2電極31bとを有する。第1及び第2電極31a,31bは図示しない電源に接続されている。なお,本実施形態で用いる電着液が上記サスペンジョン型電着組成物の場合,第1電極31aが陰極及び第2電極31bが陽極にそれぞれ接続される。 【0040】 焼付炉32は,電着被膜の絶縁層12が付着した金属線11が下方から進入して上方に引き上げられるように走行して炉内を通過するように構成されている。焼付炉32は,独立して炉内温度の設定が可能な複数のゾーンに分かれていてもよい。」 (エ) 「 」 (オ) 「 」 イ 以上から,引用文献2には,「金属線の表面を電着塗装し,金属線の表面を絶縁層で被覆する絶縁電線の製造方法であって,金属線を,樹脂成分が含まれる電着液に連続して通過させ,金属線は,横長矩形状でも良いこと。」(以下,「周知技術1」という。)が記載されている。 (3)その他の文献に記載されている技術的事項 ア 本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特公平7-120491号公報(以下,「周知文献」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。 (ア)「〔発明が解決しようとする課題〕 本発明が解決しようとする課題は,現在の強い要望に応え得る平角状の超薄膜絶縁電線を開発することであり,更に詳しくは絶縁皮膜の厚さが3.0μm以下という超薄膜の絶縁層を平角状導体上に,特に厚みが500mm以下の平角状導体上に形成せしめた,即ち従来全く不可能視されていた平角状超薄膜絶縁電線を開発することである。」(第2欄第16行-第3欄第6行) (イ)「〔発明の構成並びに作用〕 本発明の絶縁電線は,原則として次の様な構成を有する。 (イ)導体は平角状導体,就中極細平角状導体であること, (ロ)導体フラット部の絶縁皮膜は3.0μm以下の超薄膜であること, (ハ)導体コーナー部の絶縁皮膜の厚みはフラット部に比し厚いこと,且つ (ニ)上記絶縁皮膜は濃度0.1?10重量%の水分散樹脂ワニスを電着し,焼付けて形成されたものであること, である。」(第3欄第15-27行) (ウ)「本発明に於いて使用する水分散樹脂ワニスとしては,電着により皮膜を形成しうるものであれば良く,従来から電着用水分散樹脂ワニスとして使用されて来たものがいずれも使用することが出来る。」(第4欄第38-41行) (エ)「本発明の絶縁電線の製造方法を第2図により更に詳しく説明する。第2図に於いてD.C電源(図示せず)の陽極側に接続された銅,アルミの様な導体Wが水分散型樹脂ワニス(4)で満たされた電着バス(6)中を通過する。円筒状の陰極(8)が電着バス(6)中に置かれ,陽極である導体Wと陰極間の電位差により樹脂が導体W上に均一に析出する。」(第6欄50行-第7欄第6行) (オ)「実施例1 竪型炉にて線速30m/minにて下記条件の電着塗装法に従って陽極である銅平角状導体(サイズ30×600μm)に上記の〔ワニス-A〕を水で稀釈し2重量%の濃度として塗布した。電着条件は以下に示す通りである。 陰極 :直径6cm,長さ30cmの銅円筒 極間距離 :3cm 電着電圧 :D.C15V ワニス温度:20℃ 次いで得られた塗装線は,N,N-ジメチルホルムアミドの飽和蒸気で満たされた長さ1mのチヤンバーを通過する。そこで銅線上に析出しているアクリル樹脂層上にN,N-ジメチルホルムアミドの蒸気が賦与される。この様にN,N-ジメチルホルムアミド蒸気で処理された析出層は,200℃で乾燥され,400℃で焼付け,第1図に示す超薄膜(フラット部の厚さ3μm,コーナー部厚さ3.3μm)が形成された電線を得た。 実施例2?14 実施例1と同様の工程により,ただし第1表に示す条件で第1図に示す超薄膜が形成された電線を得た。」(第10欄第27-46行) (カ)「 」 (キ)「 」 (ク)「 」 イ ここで,周知文献に記載されている事項を検討する。 (ア)上記「ア(カ)」の第1表の記載から,実施例1-14における超薄膜の絶縁層の皮膜は,その厚さが1?3.5μm程度のものであると認められる。 ウ 以上から,周知文献には,次の事項(以下,「周知技術2」という。)が記載されているものと認められる。 「 平角状導体を水分散型樹脂ワニスで満たされた電着バス中を通過させ,樹脂を導体W上に均一に析出させることにより,超薄膜の絶縁層を平角状導体上に形成せしめた平角状超薄膜絶縁電線の製造方法であって,超薄膜の絶縁層の皮膜は,その厚さが1?3.5μm程度のものであること。」 (4)対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「断面が丸い銅線」は,本件補正発明の「扁平な断面形状を有する平角導線」と,「導線」である点で一致する。 そして,引用発明の「ポリイミドアミドの被膜」が,本件補正発明の「樹脂絶縁層」に対応する。 (イ)引用発明の「電着用エマルジョン」は,本件補正発明の「O/W型分散液の電着塗料組成物」に対応する。 そして,引用発明の「電着用エマルジョン」は「ポリアミドイミドを,水と非プロトン性極性溶媒の混合物に分散させたもの」であるから,本件補正発明の「電着塗料組成物」と,「ポリアミドイミド樹脂と,非プロトン性極性溶媒と,水と,を含む」点で一致する。 また,引用発明の「電着用エマルジョン」は「ポリアミドイミドは約3.1質量%,非プロトン性極性溶媒としてNMPは約13.8質量%」であるから,本件補正発明の「電着塗料組成物」と「固形分濃度が2?4質量%であり,且つ前記非プロトン性極性溶媒の含有量が10?20質量%である」点で一致する。 (ウ)引用発明は「電着用エマルジョンを電着することにより,ポリアミドイミドの被膜を電着被膜する方法」であるから,本件補正発明と,「電着塗料組成物に通して」「電着塗装することにより」「導線の外周面を」「樹脂絶縁層で被覆する絶縁電線の製造方法」である点で一致する。 イ 以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。 <一致点> 「 導線をO/W型分散液の電着塗料組成物に通して電着塗装することにより前記導線の外周面を樹脂絶縁層で被覆する絶縁電線の製造方法であって, 前記電着塗料組成物は,ポリアミドイミド樹脂と,非プロトン性極性溶媒と,水と,を含むと共に固形分濃度が2?4質量%であり,且つ前記非プロトン性極性溶媒の含有量が10?20質量%である絶縁電線の製造方法。」 <相違点1> 「導線」に関して,本件補正発明は,「扁平な断面形状を有する平角導線」と特定されているのに対して,引用発明は,そのように特定されていない点。 <相違点2> 「電着塗装」に関して,本件補正発明は,「電着塗料組成物に連続的に通して」と特定されているのに対して,引用発明は,そのように特定されていない点。 <相違点3> 「樹脂絶縁層」に関して,本件補正発明は,「厚さが1.5μm以上5μm以下の」と特定されているのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。 (5)当審の判断 上記相違点1-3について検討する。 ア 相違点1-2について 相違点1-2についてまとめて検討する。 樹脂絶縁層を備えた絶縁電線の製造方法において,扁平な断面形状を有する平角導線を,電着塗料組成物に連続的に通して電着塗装する製造方法は,例えば,周知技術1-2として開示されているように,当該技術分野における周知の事項である。 引用発明と周知技術1-2とは,どちらも,樹脂絶縁層を備えた絶縁電線の製造方法に関するものであるから,引用発明に,引用文献2や周知文献に記載された周知の事項を採用し,相違点1-2に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。 イ 相違点3について 樹脂絶縁層を備えた絶縁電線において,その樹脂絶縁層の厚さを,樹脂の素材や絶縁電線の用途等に応じて最適化することは,当業者が実施に当たり適宜なし得る設計的事項にすぎないところ,引用発明においても,「電着時間,電圧,電流量を変化させることにより,樹脂絶縁層の厚さが制御可能」なものである。 また,周知技術2として開示されているように,扁平な断面形状を有する平角導線を,電着塗料組成物に連続的に通して電着塗装する製造方法において,超薄膜の絶縁層の被膜,すなわち,樹脂絶縁層の厚さを1?3.5μm程度とすることも,周知の事項である。 すると,引用発明において,樹脂絶縁層の厚さを最適化し,相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。 ウ 請求人の主張について 請求人は,審判請求書及び上申書において,概略,「本願発明によれば,平角導線を被覆する樹脂絶縁層における長辺中央対応部分,長辺端対応部分,角対応部分,及び短辺対応部分の厚さについて,1.5μm以上5μm以下という薄くて狭い範囲において,部分間の厚さの差を小さく均一化することができる,という作用効果が奏されます。」旨主張しているが,上記「イ」で検討したように,引用文献1には,樹脂絶縁層の厚さが制御可能である点が記載され,また,周知文献に記載されているように,平角導線に形成される樹脂絶縁層の厚さを1?3.5μm程度とすることも,周知の事項であることを参酌すると,請求人の主張を採用することはできない。 (6)小括 上記で検討したごとく,相違点1-3に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 したがって,本件補正発明は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4 補正却下の決定のむすび 以上から,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和 2年 6月25日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記「第2」の「1(2)」に,補正前の請求項4として記載されたとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,以下のとおりである。 理由1 この出願の請求項1-7に係る発明は,下記の引用文献1-3に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1 特開昭64-043578号公報 引用文献2 特開2013-072092号公報 引用文献3 特開2003-007136号公報 3 引用例に記載されている技術的事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1-2は,前記「第2」の「3(1)」-「3(2)」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は,前記「第2」の「3」で検討した本件補正発明に関する限定事項を削除したものである。 そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が,前記「第2」の「3」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記限定事項を省いた本願発明も同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願の請求項4に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-03-31 |
結審通知日 | 2021-04-06 |
審決日 | 2021-04-21 |
出願番号 | 特願2016-74957(P2016-74957) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01B)
P 1 8・ 121- Z (H01B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 和田 財太 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
井上 和俊 ▲吉▼澤 雅博 |
発明の名称 | 絶縁電線の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |