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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1374711 |
審判番号 | 不服2020-10648 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-07-31 |
確定日 | 2021-06-10 |
事件の表示 | 特願2019- 4112「積層体及び液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月 6日出願公開、特開2019- 86790〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2019-4112号(以下「本件出願」という。)は、平成27年5月22日を出願日とする特願2015-104249号の一部を、平成31年1月15日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成31年 2月 8日 :手続補正書 令和 元年12月 9日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 1月29日 :意見書 令和 2年 1月29日 :手続補正書 令和 2年 6月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 7月31日 :審判請求書 令和 2年 7月31日 :手続補正書 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年7月31日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の(令和2年1月29日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「基板、活性エネルギー線硬化型接着剤層および偏光板をこの順に有する積層体において、 前記偏光板は、偏光子と環状オレフィン系樹脂の保護フィルムとを有する偏光板であって、 前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムは面内位相差を有し、 前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムの主面と前記活性エネルギー線硬化型接着剤層の主面とが接するように積層され、下記式(1)を満たし、 前記活性エネルギー線硬化型接着剤層の厚みが50?200μmである積層体。 Re(550)≧-38.37ln(S)-434.4δ+8063 (1) [式(1)中、Sは、重合性モノマーの溶解度を表し、以下の式: ![]() を表す。S_(k)は、25℃の水100gに対する、前記活性エネルギー線硬化型接着剤層を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に含まれるk番目の重合性モノマーの溶解度を表し、a_(k)は、前記k番目の重合性モノマーの重量部を表す。 Re(550)は、波長550nmにおける環状オレフィン系樹脂の保護フィルムの面内位相差値を表す。 δは、Y-MB法により計算した前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムのSP値を表す。 なお、Sの単位はgとし、Re(550)の単位はnmとし、δの単位は(MPa)^(1/2)とする。 また、Sは10以上1500以下である。]」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。 「基板、活性エネルギー線硬化型接着剤層および偏光板をこの順に有する積層体において、 前記偏光板は、偏光子と環状オレフィン系樹脂の保護フィルムとを有する偏光板であって、 前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムは面内位相差Re(550)が90nm以上であり、 前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムの主面と前記活性エネルギー線硬化型接着剤層の主面とが接するように積層され、下記式(1)を満たし、 前記活性エネルギー線硬化型接着剤層の厚みが50?200μmである積層体。 Re(550)≧-38.37ln(S)-434.4δ+8063 (1) [式(1)中、Sは、重合性モノマーの溶解度を表し、以下の式: ![]() を表す。Skは、25℃の水100gに対する、前記活性エネルギー線硬化型接着剤層を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に含まれるk番目の重合性モノマーの溶解度を表し、akは、前記k番目の重合性モノマーの重量部を表す。 Re(550)は、波長550nmにおける環状オレフィン系樹脂の保護フィルムの面内位相差値を表す。 δは、Y-MB法により計算した前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムのSP値を表す。 なお、Sの単位はgとし、Re(550)の単位はnmとし、δの単位は(MPa)1/2とする。 また、Sは10以上1500以下である。]」 (当合議体注:「(MPa)1/2」、「Sk」及び「ak」は、それぞれ「(MPa)^(1/2)」、「S_(k)」及び「a_(k)」の誤記である。) (3)本件補正についての判断 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルム」の「面内位相差Re(550)」について、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0111】の【表3】及び【0112】の【表4】の記載に基づいて、その値が「90nm以上であ」るという要件を付加する補正である。そして、本件補正は、当業者によって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということができる。 また、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0006】)。 したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条5項2号に掲げる事項を目的とするものである。 そこで、本件補正後発明が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 2 独立特許要件違反についての判断 (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由において引用された、特開2014-141623号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、新規樹脂組成物と、その樹脂組成物を用いてなる活性エネルギー線重合性接着剤、及び積層体に関する。 【背景技術】 …中略… 【0005】 また、近年、ディスプレイを含めた情報通信機器の発達と汎用化は目覚しいものがあり、これらの表示装置には、コートティング剤、接着剤、あるいはシーリング剤等の更なる性能向上及び生産性の向上が求められており、活性エネルギー線重合性材料を用いた様々な提案がされている。このような表示装置には、通常、外部光源からの反射を防ぐための反射防止フィルムや、表示装置の表面の傷付き防止のための保護フィルム(プロテクトフィルム)など、用途に応じて様々なフィルムが使用されており、例えば、LCDを構成する液晶セル用部材においては、偏光板や位相差フィルムが積層されている。 【0006】 また、フラットパネルディスプレイ(FPD)は、表示装置として利用するだけではなく、その表面にタッチパネルの機能を設けて、入力装置として利用されることもある。タッチパネルにも、保護フィルム、反射防止フィルムやITO蒸着樹脂フィルムなどが使用されている。 また、表示装置には、液晶層を背面から照らして発光させるバックライト方式が普及し、液晶層の下面側にエッジライト型、直下型等のバックライトユニットが装備されている。かかるエッジライト型のバックライトユニットは、基本的には光源としての線状のランプと、ランプに端部が沿うように配置される方形板状の導光板と、導光板の表面側に配設される光拡散シートの表面側に配設されるプリズムシートを備えている。最近では、光源に令陰極管(COFL)から色再現性や省電力に優れた発光ダイオード(LED)が使用されるようになってきたため、より耐熱性や寸法安定性の要求が高まってきている。 このようなフィルムは、表層に傷つき防止、指紋付着防止、帯電防止、あるいは易接着化のため、コート剤を介して、コート層を設けたり、接着剤を介して被着体に貼着して光学素子用積層体として表示装置に使用されている。表示装置に用いられるコート剤や接着剤は、まず透明性や耐熱性に優れることが要求されるので、ポリアクリル系樹脂を主剤とする溶剤含有の2液の熱硬化型接着剤や活性エネルギー線重合性接着剤が一般に使用されている。 しかしながら、従来の活性エネルギー線重合性樹脂組成物の重合物には、光学用途に用いるには透明性が劣ることや、各層を構成する材料の寸法変化特性が異なるため、温度や湿度の変化に伴う寸法変化によるソリ(カールともいう)が生じやすかったり、屈折率を自由に選べないこと、また、高屈折率を有するものは接着性が十分でないといった問題点が指摘されている。 …中略… 【0009】 そこで、光学素子積層体用の活性エネルギー線重合性コート剤や活性エネルギー線重合性接着剤には、実質的に有機溶剤を含有しない状態で寸法安定性、屈折率や全光線透過率、あるいはHAZEの良好なものが求められる。 …中略… 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明は、優れた耐熱性、耐湿熱性寸法安定性、耐候性等を有する新規な活性エネルギー線重合性樹脂組成物であって、各種透明フィル、特に光学フィルムの貼り合わせにおいて、概活性エネルギー線重合性樹脂組成物を使用した活性エネルギー線重合性接着剤、及び/または活性エネルギー線重合性コート剤を使用する事によって、各種光学フィルムの種類を問わず、簡便かつ強固に接着や被覆ができ、有機溶剤を実質的に含まず、取り扱いの良好な活性エネルギー線重合性接着剤、及び/または活性エネルギー線重合性コート剤、及びそれを用いて、従来に比して打抜き加工性及び湿熱耐久性に優れた積層体、特に光学素子用積層体を提供することを目的とする。 …中略 【発明の効果】 【0028】 本発明により、低照度で重合可能な活性エネルギー線重合性樹脂組成物、及びそれを用いた活性エネルギー線重合性接着剤、及び/または活性エネルギー線重合性コート剤を用いて、光学フィルムを簡便かつ強固に接着や密着ができ、打ち抜き加工性、耐熱性、及び耐湿熱性の良好な積層体を得ることが可能となり、特に優れた光学素子用積層体を提供することができるようになった。」 イ 「【発明を実施するための形態】 【0029】 本発明の活性エネルギー線重合性樹脂組成物は、分子内に、少なくともα,β-不飽和二重結合基を1個以上有するオリゴマー(A)と、分子内に1個以上のカルボキシル基を有するα,β-不飽和二重結合基含有化合物(B)(ただし、オリゴマー(A)に該当するものを除く)と、及び環状イミン化合物(C)とを、必須成分あることが特徴である。 本発明の活性エネルギー線重合性樹脂組成物(以下樹脂組成物と称す。)において、少なくともα,β-不飽和二重結合基を1個以上有するオリゴマー(A)としては、ポリエステル系オリゴマー(a-1)、ポリウレタン系オリゴマー(a-2)、ポリエポキシ系オリゴマー(a-3)及びポリアクリル系オリゴマー(a-4)よりなる群から選ばれた少なくとも1種類以上のオリゴマーであり、特に制限が無く使用できる。 …中略… 【0170】 次に、樹脂組成物の性状について、説明する。 本発明の樹脂組成物は、液状、ペースト状及びフィルム状のいずれの形態でも使用することができる。 なお、本発明における樹脂組成物は、実質的に有機溶剤を含まないことが好ましいが、機溶剤を含有することも可能である。 例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサン、トルエン、キシレンその他の炭化水素系溶媒等の有機溶媒や、水をさらに添加して、樹脂組成物の粘度を調整することもできるし、樹脂組成物を加熱して粘度を低下させることもできる。 【0171】 本発明における樹脂組成物は、樹脂組成物層の膜厚が使用用途によって、0.1?6μmの場合には、粘度は1?1500mPa・sであることが重要であり、好ましくは10?1300mPa・sであり、20?1000mPa・sであることがより好ましい。粘度が1500mPa・sより高いと基材(G)に塗工した場合、0.1?6μmの薄膜塗工ができず、透過率等の光学的特性が悪化してしまう。一方、粘度が1mPa・sより低いと樹脂組成物層の膜厚制御が困難になる。 また、樹脂組成物層の膜厚が使用用途によって、6?300μmの場合には、粘度は1500?100,000mPa・sであることが重要であり、好ましくは3,000?50,000mPa・sであることがより好ましい。 樹脂組成物の粘度は、オリゴマー(A)の粘度で殆ど決定されるため、オリゴマー(A)の粘度を1?100,000mPa・sの範囲で管理することにより、樹脂組成物の粘度も管理が可能である。 【0172】 次に、樹脂組成物の塗工プロセスについて、説明する。 常法にしたがって適当な方法で基材(G)の片面、または両面に樹脂組成物を塗工して、基材(G)上に樹脂組成物の積層構造(樹脂組成物層ともいう)を形成することができる。樹脂組成物層の要求膜厚が使用用途によって、0.1?6μmの場合には、樹脂組成物層の厚さは、0.1?6μmの薄膜塗工であることが好ましく、0.1μm?3μmであることがより好ましい。0.1μm未満では、樹脂組成物を活性エネルギー線重合性コート剤、あるいは活性エネルギー線重合性接着剤として用いた場合には、十分な密着性や接着力が得られないことがあり、6μmを超えても密着性や接着力等の特性はそれ以上向上しない場合が多い。 一方、樹脂組成物層の要求膜厚が使用用途によって、6?300μmの場合には、樹脂組成物層の厚さは、6?300μmの厚膜塗工であることが好ましく、20μm?250μmであることがより好ましい。6μm未満では、樹脂組成物を活性エネルギー線重合性コート剤、あるいは活性エネルギー線重合性接着剤として用いた場合には、十分な応力緩和性が得られないことがあり、300μmを超えるとスジ引き等の塗工性が低下する場合が多い。 【0173】 本発明の樹脂組成物を基材(G)等に塗工する方法としては、特に制限は無く、マイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、マイクログラビアコーター、リップコーター、コンマコーター、カーテンコーター、ナイフコーター、リバースコ-ター、スピンコーター等種々の塗工方法が挙げられるが、薄膜塗工や厚膜塗工等、用途により使用可能であり、特に制限はない。 …中略… 【0176】 次に、基材(G)について、説明する。 本発明の樹脂組成物は、さらに活性エネルギー線重合性コート剤(以下コート剤と称す)や活性エネルギー線重合性接着剤(以下接着剤と称す)として好適である。 基材(G)としては、樹脂組成物をコート剤として基材(G)一層の片面や両面に使用した場合には、木材、金属板、プラスチック板、フィルム状基材、ガラス板、紙加工品等、特に制限無く使用できる。一方、二つ以上の基材(G)を貼り合わせる接着剤として使用する場合には、活性エネルギー線を照射して重合させるために、活性エネルギー線を透過し易い基材を使用する必要があり、特に透明フィルム(H)や透明ガラス板を使用する事が好ましい。片方を活性エネルギー線が透過し難い基材、例えば、木材、金属板、プラスチック板、紙加工品等を使用した場合でも、もう片方を透明フィルム(H)や透明ガラス板を使用し、透明フィルム(H)や透明ガラス板側から照射し、重合硬化を行えば使用は可能である。 【0177】 本発明の樹脂組成物は、基材(G)のうち、フィルム状基材を使用する事が好ましく、フィルム状基材としては、セロハン、各種プラスチックフィルム、紙等のフィルム状基材が挙げられるが、透明な各種プラスチックフィルムの使用が好ましい。また、フィルム状基材としては、透明であれば、単層のものであってもよいし、複数の基材を積層してなる多層状態にあるものも用いることができる。 【0178】 ここで、活性エネルギー線重合性接着剤、及び/または性エネルギー線重合性コート剤を用いて、基材(G)の片面、または両面に積層してなることを特徴とする積層体について、一般的な説明する。 本発明の樹脂組成物の活性エネルギー線による重合反応を使用する場合は、即ち、前記した基材(G)のうち、フィルム状基材である透明フィルム(H)と該透明フィルム(H)の少なくとも一方の面に位置する樹脂組成物層とを具備する積層体の形成に使用されることが好ましい。 本発明の透明フィルム(H)の積層体は、以下のようにして得ることができる。 樹脂組成物を活性エネルギー線重合性コート剤として使用した場合には、フィルム状基材である透明フィルム(H)の片面にコート剤を塗工することによって、積層体を得ることができる。この際、コート層は、易接着化のためのプライマー層としても使用される。 また、樹脂組成物を活性エネルギー線重合性接着剤として使用した場合には、フィルム状基材である透明フィルム(H)の片面に接着剤を塗工し、別の透明フィルム(H)を接着層の表面に積層したり、更にこの積層体の片面や両面に接着剤を塗工し、更に別の透明フィルム(H)、ガラス、あるいは透明成形体に積層したりすることによって、積層体を得ることができる。 コート剤や接着剤の活性エネルギー線重合反応は、コート剤や接着剤の塗工時、あるいは積層する際、さらには積層した後に活性エネルギー線を照射して進行するが、積層した後に活性エネルギー線を照射して重合反応を進めることが好ましい。 【0179】 本発明の透明フィルム(H)について説明する。 本発明の透明フィルム(H)は、ディスプレイやタッチパネル等の情報通信機器等の光学フィルム(I)に使用する事ができる。 ここで、光学素子用積層体について一般的な説明をする。 コート剤や接着剤は、光学素子用積層体を形成するために用いられる。 光学用積層体の基本的積層構成は、樹脂組成物を活性エネルギー線重合性コート剤として使用した場合には、透明フィルム/コート層、あるいはコート層/透明フィルム/コート層のようなシート状の光学コート積層体である。 また、樹脂組成物を活性エネルギー線重合性接着剤として使用した場合には、透明フィルム/接着層/透明フィルム、あるいは透明フィルム/接着層/透明フィルム/接着層/透明フィルムのようなシート状の両面感光硬化性接着積層体である。さらには、透明フィルム/接着層/透明フィルム/接着層/透明フィルム/接着層/透明フィルム、ガラス、あるいは光学成形体のような多層の光学フィルムを光学部材に固定化した光学素子用積層体として使用される。 【0180】 光学フィルム(I)として使用される各種透明フィルム(H)は、例えば透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。各種透明フィルム(H)としては、各種プラスチックフィルムやプラスチックシートともいわれ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムや、ポリトリアセチルセルロースフィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリシクロオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系フィルム、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリノルボルネン系フィルム、ポリアリレート系フィルム、ポリアクリル系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリビニル系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリオキシラン系フィルムなどが挙げられる。 【0181】 本発明の透明フィルム(H)は、多層に使用する場合は、同一組成であっても異なっていても良い。例えば、片面にポリシクロオレフィン系フィルムを使用し、もう一方の片面にポリアクリル系フィルムを使用しても良い。 【0182】 透明フィルム(H)の厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1?500μm程度である。特に1?300μmが好ましく、5?200μmがより好ましい。透明フィルム(H)は、5?150μmの場合に特に好適である。 なお、光学フィルム(I)である偏光板フィルムの偏光子の両側に透明フィルム(H)を設ける場合、その表裏で同じポリマー材料からなる透明フィルム(H)を用いてもよく、異なるポリマー材料等からなる透明フィルム(H)を用いても良い。 【0183】 次に、光学フィルム(I)について、説明する。 本発明における光学用積層体としては、上記の各種透明フィルム(H)のうち、主に光学用途にて用いられる光学フィルム(I)が好適に使用される。光学フィルム(I)としては、上記透明フィルム(H)に特殊な処理を施されたものであり、光学的機能(光透過光拡散、集光、屈折、散乱、HAZE等の諸機能)を有するものが光学フィルムと称されている。これらの光学フィルムは単独で、または数種の光学フィルムをコート剤や接着剤で多層に積層されて光学素子用積層体として使用される。例えば、ハードコートフィルム、帯電防止コートフィルム、防眩コートフィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、楕円偏光フィルム、反射防止フィルム、光拡散フィルム、輝度向上フィルム、プリズムフィルム(プリズムシートともいう)、導光フィルム(導光板ともいう)等が挙げられる。 偏光フィルムは、偏光板とも呼ばれ、ポリビニルアルコール系偏光子の両面を2枚のポリアセチルセルロース系フィルムであるポリトリアセチルセルロース系保護フィルム(以下、「TACフィルム」という)や、ポリビニルアルコール系偏光子の片面や両面をポリノルボルネン系フィルムであるポリシクロオレフィ系フィルム、ポリアクリル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリエステル系フィルム等で挟んだ多層構造のシート状の光学素子用積層体である。 【0184】 本発明の活性エネルギー線重合性接着剤を使用した光学フィルムの積層体は、液晶表示装置、PDPモジュール、タッチパネルモジュール、有機ELモジュール等のガラス板や上記の各種プラスチックフィルム等の透明フィルム(H)に貼着して光学素子用積層体として使用されることが好ましい。 【0185】 本発明の偏光板(偏光フィルム)は、より具体的には、以下のようにして得ることができる。 (I)第1の透明フィルム(H)である保護フィルムの一方の面に、活性エネルギー線重合性接着剤を塗工し、第1の重合性接着層(2’)を形成し、 透明フィルム(H)である第2の保護フィルムの一方の面に、活性エネルギー線重合性接着剤を塗工し、第2の活性エネルギー線重合性接着層を形成し、 次いで、ポリビニルアルコール系偏光子の各面に、第1の活性エネルギー線重合性接着層及び第2の活性エネルギー線重合性接着層を、同時に/または順番に重ね合わせた後、活性エネルギー線を照射し、第1の活性エネルギー線重合性接着層及び第2の活性エネルギー線重合性接着層を重合硬化することによって製造する方法。 【0186】 (II)ポリビニルアルコール系偏光子の一方の面に、活性エネルギー線重合性接着剤を塗工し、第1の活性エネルギー線重合性接着層を形成し、形成された第1の活性エネルギー線重合性接着層の表面を透明フィルム(H)である第1の保護フィルムで覆い、次いでポリビニルアルコール系偏光子の他方の面に、活性エネルギー線重合性接着剤を塗工し、第2の活性エネルギー線重合性接着層を形成し、形成された第2の活性エネルギー線重合性接着層の表面を第2の保護フィルムで覆い、活性エネルギー線を照射し、第1の活性エネルギー線重合性接着層及び第2の活性エネルギー線重合性接着層を重合硬化することによって製造する方法。 【0187】 (III)第1の透明フィルム(H)である保護フィルムとポリビニルアルコール系偏光子を重ねた端部および、ポリビニルアルコール系偏光子の第1の保護フィルムがない面に重ねた第2の保護フィルムの端部に活性エネルギー線重合性接着剤をたらした後、ロールの間を通過させ各層間に接着剤を広げる。次に活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線重合性接着剤を重合硬化させることによって製造する方法等があるが、特に限定するものではない。」 ウ 「【実施例】 【0188】 以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と併せて説明するが、本発明は、下記実施例に限定されない。また、下記実施例および比較例中、「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。 【0189】 [配合例1?11] 酸素濃度が10%以下に置換された遮光された300ccのマヨネーズ瓶に、分子内に、少なくともα,β-不飽和二重結合基を1個以上有するオリゴマー(A)、分子内に1個以上のカルボキシル基を有するα,β-不飽和二重結合含有化合物(B)、環状イミン化合物(C)、分子内にカルボキシル基を有しないα,β-不飽和二重結合含有化合物(D)(ただし、オリゴマー(A)に該当するものを除く)、活性エネルギー線重合開始剤(E)及びシラン化合物(F)を表1に示す比率で仕込み、にて十分に攪拌を行い、十分に脱泡を行った後、配合例に示す樹脂組成物を得た。 【0190】 表1に示した配合例の樹脂組成物について、重量平均分子量(Mw)、酸価(AV)、溶液外観、粘度、及びガラス転移点(Tg)を以下の方法に従って求め、Mw、AVについては表1に、それ以外は表2に結果を示した。 【0191】 《外観》 各配合例で得られた樹脂組成物の液体外観を目視にて評価した。 【0192】 《粘度》 各配合例で得られた樹脂組成物を23℃の雰囲気下でE型粘度計(東機産業社製 TV-22)にて、約1.2mlを測定用試料とし、回転速度0.5?100rpm、1分間回転の条件で測定し、溶液粘度(mPa・s)とした。 【0193】 《分子量》 数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の測定は、昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「ShodexGPCSystem-21」を用いた。GPCは溶媒に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーであり、溶媒としてはテトロヒドロフラン、重量平均分子量(Mn)の決定はポリスチレン換算で行った。 【0194】 《水酸基価(OHV)》 共栓三角フラスコ中に試料、約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解する。更にアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mlとした溶液)を正確に5ml加え、約1時間攪拌した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間持続する。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。 水酸基価は次式により求めた。水酸基価は樹脂の乾燥状態の数値とした(単位:mgKOH/g)。 水酸基価(mgKOH/g)=[{(b-a)×F×28.25}/S]/(不揮発分濃度/100)+D ただし、S:試料の採取量(g) a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml) b:空実験の0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml) F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価 D:酸価(mgKOH/g) 【0195】 《酸価(AV》 共栓三角フラスコ中に試料化合物(B)を、約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容積比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持した後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定した。 乾燥状態の樹脂の値として、酸価(mgKOH/g)を次式により求めた。 酸価(mgKOH/g)={(5.611×a×F)/S}/(不揮発分濃度/100) ただし、S:試料の採取量(g) a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml) F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価 【0196】 《ガラス転移温度(Tg)》 ロボットDSC(示差走査熱量計、セイコーインスツルメンツ社製「RDC220」)に「SSC5200ディスクステーション」(セイコーインスツルメンツ社製)を接続して、測定に使用した。 表1の樹脂組成物を、剥離処理されたポリエステルフィルムに塗工し、活性エネルギー線を照射し、重合硬化させたものを約10mgかきとり、試料としてアルミニウムパンに入れ、秤量して示差走査熱量計にセットし、試料を入れない同タイプのアルミニウムパンをリファレンスとして、100℃の温度で5分間加熱した後、液体窒素を用いて-120℃まで急冷処理した。その後10℃/分で昇温し、昇温中に得られたDSCチャートからガラス転移温度(Tg、単位:℃)を決定した。 【0197】 例示化合物は以下の表1に具体的に示すが、これらに限られるものではない。尚、例示化合物の表記として、TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイト゛(BASF社製,DAROCUR TPO)、4HBA:アクリル酸4-ヒドロキシブチル、HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル、IBXA:アクリル酸イソボニル、ACMO:N-アクリロイルモルホリン、AA:アクリル酸、M-5300:東亞合成社製 酸含有アクリル酸エステル、HBAP:2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、HBMAP:2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3-(2-メチルー1-アジリジニル)プロピオネート]、HDU:1,6-ヘキサメチレンビス-N,N’-エチレンウレア、紫光UV3000B:日本合成化学工業社製 ポリウレタン系オリゴマー(ウレタンアクリレート)、KBM-5103:信越化学社製 シラン化合物を示す。 【0198】 【表1】 ![]() 【0199】 【表2】 ![]() 【0200】 [実施例1?9][比較例1?4] 表1及び2に示した樹脂組成物を活性エネルギー線重合性接着剤として使用して、以下の積層体を作成した。 透明フィルム(H)である保護フィルム(1)として、富士フィルム社製の紫外線吸収剤含有ポリトリアセチルセルロース系フィルム:商品名「フジタック:80μm」を用い、保護フィルム(2)として、富士フィルムビジネスサプライ社製の紫外線吸収剤を含有しないポリトリアセチルセルロース系フィルム:商品名「TAC50μ」(厚み50μm)を使用し、それぞれその表面に300W・min/m^(2) の放電量でコロナ処理を行い、表面処理後1時間以内に、配合例1に示す活性エネルギー線重合性接着剤をワイヤーバーコーターを用いて膜厚4μmとなるように塗工し、活性エネルギー線重合性接着層を形成し、前記活性エネルギー線重合性接着層との間に上記のポリビニルアルコール系偏光子を挟み、保護フィルム(1)/接着層/PVA系偏光子/接着層/保護フィルム(2)からなる積層体を得た。 保護フィルム(1)がブリキ板に接するように、この積層体の四方をセロハンテープで固定し、ブリキ板に固定した。 活性エネルギー線照射装置(東芝社製 高圧水銀灯)で最大照度300mW/cm^(2)、積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を保護フィルム(2)側から照射して、偏光板を作製した。 【0201】 得られた積層体(偏光板)について、剥離強度、ゲル分率、打ち抜き加工性、収縮率、耐熱性及び耐湿熱性を以下の方法に従って求め、結果を同様に表3に示した。 【0202】 《剥離強度》 接着力は、JIS K6 854-4 接着剤-剥離接着強さ試験方法-第4部:浮動ローラー法に準拠して測定した。 即ち、得られた偏光板を、25mm×150mmのサイズにカッターを用いて裁断して測定用サンプルとした。サンプルを両面粘着テープ(トーヨーケム社製DF8712S)を使用して、ラミネータを用いて金属板上に貼り付けて、偏光板と金属板との測定用の積層体を得た。測定用の積層体の偏光板には、保護フィルムと偏光子の間に予め剥離のキッカケを設けておき、この測定用の積層体を23℃、相対湿度50%の条件下で、300mm/分の速度で引き剥がし、剥離力とした。この際、ポリビニルアルコール系偏光子と保護フィルム(1)、及びポリビニルアルコール系偏光子と保護フィルム(2)との双方の剥離力を測定した。この剥離力を接着力として4段階で評価した。 ◎:剥離不可、あるいは偏光板破壊 ○:剥離力が2.0(N/25mm)以上?5.0(N/25mm)未満。 △:剥離力が1.0(N/25mm)以上?2.0(N/25mm)未満。 ×:剥離力が1.0(N/25mm)未満。 【0203】 《ゲル分率》 コロナ処理を施していない日本ゼオン社製のポリノルボルネン系フィルム(商品名「ゼオノア ZF-14:100μm」に、活性エネルギー線重合性接着剤を、ワイヤーバーコーターを用いて膜厚20?25μmとなるように塗工し、活性エネルギー線重合性接着層を形成した。さらに活性エネルギー線重合性接着層の上にコロナ処理を施していないゼオノア ZF-14を重ね、3層からなる積層体を得た後、活性エネルギー線照射装置(東芝社製 高圧水銀灯)で最大照度300mW/cm^(2)、積算光量300mJ/cm^(2)の活性エネルギー線を照射し活性エネルギー線重合性接着層を重合硬化させた。3層からなる積層体のゼオノア ZF-14を剥離し接着剤層を得た。 接着剤層の重量を測定した後(重量1)を金属メッシュと金属メッシュの間に挟み接着剤層同士が重ならないようにし、メチルエチルケトン(MEK)中で3時間還流した。さらに80℃-30分乾燥し、接着剤層の重量を測定した(重量2)。下記式よりゲル分率を求め、3段階評価した。 ゲル分率(%)={1-(重量1-重量2)/重量1)}×100 ○:ゲル分率が90%以上 △:ゲル分率が80%以上?90%未満 ×:ゲル分率が80%未満 【0204】 《打ち抜き加工性》 ダンベル社製の100mm×100mmの刃を用い、作製した偏光板を保護フィルム(1)側から打ち抜いた。 打ち抜いた偏光板の、周辺の剥離距離を定規で測定し、以下の4段階で評価した。 ◎:0mm ○:1mm以下 △:1?3mm ×:3mm以上 【0205】 《収縮率》 上記偏光板小片を60℃-ドライと60℃-90RH%の恒温恒湿機中に放置し、60時間後の延伸方向の縮み量を測定し、元の長さ(100mm)に対する縮み量の割合を収縮率とし求め、以下の3段階で評価をした。 ○:収縮率が0.2%以下 △:収縮率が0.2%より大きくて0.4%以下 ×:収縮率が0.4%を超える。 【0206】 《耐熱性》 各実施例1?9、比較例1?4で得られた偏光板を、50mm×40mmの大きさに裁断し、80℃-dry、及び100℃dryの条件下で、それぞれ1000時間暴露した。暴露後偏光板の端部の剥がれの有無を目視にて、以下の3段階で評価をした。 ◎:100℃dryの条件下でも剥がれが全く無し。 ○:80℃-dry条件下で剥がれが全く無し。 △:80℃-dry条件下で1mm未満の剥がれあり。 ×:80℃-dry条件下で1mm以上の剥がれあり。 【0207】 《耐湿熱性》 各実施例1?9、比較例1?4で得られた偏光板を、50mm×40mmの大きさに裁断し、60℃-90%RHの条件下、及び85℃-85%RHの条件下で1000時間暴露した。暴露後偏光板の端部の剥がれの有無を目視にて、以下の3段階で評価をした。 ◎:85℃-85%RHの条件下でも剥がれが全く無し。 ○:60℃-90%RHの条件下で剥がれが全く無し。 △:60℃-90%RHの条件下で1mm未満の剥がれあり。 ×:60℃-90%RHの条件下で1mm以上の剥がれあり。 【0208】 【表3】 ![]() 【0209】 表3で示した記号は以下の通りである。 ZF-14:日本ゼオン社製ポリノルボルネン系フィルム、HBD-002:三菱レイヨン社製アクリル系フィルム。 …中略… 【0216】 本発明の樹脂組成物を活性エネルギー線重合性接着剤として用いた場合は、表3に示すように、実施例1?9では、若干粘度が高いが、特に問題無い。これに対して比較例1?4では、特に接着力が低く、打ち抜き加工性や収縮率に難があることがわかる。」 (2)引用発明1 ア 活性エネルギー線重合性接着剤 引用文献1の【0001】等の記載から、引用文献1に開示される「樹脂組成物」は、「活性エネルギー線重合性接着剤」に「用い」られるものであることが把握できる。 イ 配合例5 引用文献1の【0189】には、「酸素濃度が10%以下に置換された遮光された300ccのマヨネーズ瓶に、分子内に、少なくともα,β-不飽和二重結合基を1個以上有するオリゴマー(A)、分子内に1個以上のカルボキシル基を有するα,β-不飽和二重結合含有化合物(B)、環状イミン化合物(C)、分子内にカルボキシル基を有しないα,β-不飽和二重結合含有化合物(D)(ただし、オリゴマー(A)に該当するものを除く)、活性エネルギー線重合開始剤(E)及びシラン化合物(F)を表1に示す比率で仕込み」、「十分に攪拌を行い、十分に脱泡を行った後、配合例に示す樹脂組成物を得」ることが記載されている。 また、上記配合例について、【表1】の「配合例5」は、上記「分子内に、少なくともα,β-不飽和二重結合基を1個以上有するオリゴマー(A)」として「紫光UV3000B」を「5重量部」、上記「α,β-不飽和二重結合含有化合物(B)」として「M-5300」を「4重量部」、上記「環状イミン化合物(C)」として「HBAP」を「6重量部」、上記「分子内にカルボキシル基を有しないα,β-不飽和二重結合含有化合物(D)」として「4HBA」及び「HEA」をそれぞれ「20重量部」ずつ、及び上記「活性エネルギー線重合開始剤(E)」として「TPO」を「5重量部」の比率で有するものである。 ここで、引用文献1の【0197】及び【表1】の記載から、「紫光UV3000B」は「日本合成化学工業社製 ポリウレタン系オリゴマー(ウレタンアクリレート)」、「M-5300」は「東亞合成社製 酸含有アクリル酸エステル」、「HBAP」は「2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]」、「4HBA」は「アクリル酸4-ヒドロキシブチル」、「HEA」は「アクリル酸2-ヒドロキシエチル」、「TPO」は「2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイト゛(BASF社製,DAROCUR TPO)」を示す。 ウ 上記ア及びイから、引用文献1には、次の「活性エネルギー線重合性接着剤」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「 紫光UV3000Bを5重量部、M-5300を4重量部、HBAPを6重量部、4HBA及びHEAをそれぞれ20重量部ずつ、及びTPOを5重量部の比率で仕込み、攪拌を行い、脱泡を行って得た、樹脂組成物を用いてなる活性エネルギー線重合性接着剤。 ここで、紫光UV3000Bは日本合成化学工業社製 ポリウレタン系オリゴマー(ウレタンアクリレート)、M-5300は東亞合成社製 酸含有アクリル酸エステル、HBAPは2,2’-ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、4HBAはアクリル酸4-ヒドロキシブチル、HEAはアクリル酸2-ヒドロキシエチル、TPOは2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイト゛(BASF社製,DAROCUR TPO)を示す。」 (3)対比 本件補正後発明と引用発明1を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 活性エネルギー線硬化型接着剤 引用発明1の「活性エネルギー線重合性接着剤」は、その文言上の意味及び組成からみて、活性エネルギー線により重合して硬化する接着剤である。そうしてみると、引用発明1の「活性エネルギー線重合性接着剤」は、本件補正後発明の「活性エネルギー線硬化型接着剤」に相当する。 (4)一致点及び相違点 ア 一致点 本件補正後発明と引用発明1は、次の構成で一致する。 「活性エネルギー線硬化型接着剤。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明1は、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件補正後発明は、「基板、活性エネルギー線硬化型接着剤層および偏光板をこの順に有する積層体」であるのに対し、引用発明1はこの構成を具備しない(「活性エネルギー線重合性接着剤」である)点。 (相違点2) 本件補正後発明は、「前記偏光板は、偏光子と環状オレフィン系樹脂の保護フィルムとを有する偏光板であって」、「前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムの主面と前記活性エネルギー線硬化型接着剤層の主面とが接するように積層され」、「前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムは面内位相差Re(550)が90nm以上であり」、「Re(550)は、波長550nmにおける環状オレフィン系樹脂の保護フィルムの面内位相差値を表す」という構成を有するのに対し、引用発明1はこの構成を具備しない(「活性エネルギー線重合性接着剤」である)点。 (相違点3) 本件補正後発明は、「式(1)を満た」すのに対し、引用発明1は、この構成を具備しない(「活性エネルギー線重合性接着剤」である)点。なお、式(1)は以下のとおりである。 「Re(550)≧-38.37ln(S)-434.4δ+8063 (1) [式(1)中、Sは、重合性モノマーの溶解度を表し、以下の式: ![]() を表す。Skは、25℃の水100gに対する、前記活性エネルギー線硬化型接着剤層を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に含まれるk番目の重合性モノマーの溶解度を表し、akは、前記k番目の重合性モノマーの重量部を表す。 δは、Y-MB法により計算した前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムのSP値を表す。 なお、Sの単位はgとし、Re(550)の単位はnmとし、δの単位は(MPa)1/2とする。 また、Sは10以上1500以下である。]」 (相違点4) 本件補正後発明は、「前記活性エネルギー線硬化型接着剤層の厚みが50?200μmである積層体」であるのに対し、引用発明1は、このような特定を有さない点。 (5)判断 相違点についての判断は以下のとおりである。 ア 相違点1及び相違点2について 引用発明1の「活性エネルギー線重合性接着剤」の用途に関して、引用文献1の【0178】には、「フィルム状基材である透明フィルム(H)の片面に接着剤を塗工し、別の透明フィルム(H)を接着層の表面に積層したり、更にこの積層体の片面や両面に接着剤を塗工し、更に別の透明フィルム(H)、ガラス、あるいは透明成形体に積層したりすることによって、積層体を得ることができる。」と記載されている。また、「透明フィルム(H)」に関して、引用文献1の【0182】には、「光学フィルム(I)である偏光板フィルムの偏光子の両側に透明フィルム(H)を設ける」構成、すなわち「偏光板」が記載されている。 以上の記載を勘案すると、引用文献1には、引用発明1の「活性エネルギー線重合性接着剤」を用いて、「透明フィルム(H)/偏光板フィルム/透明フィルム(H)」ならなる「偏光板」と、「ガラス、あるいは透明成形体に積層したりすることによって、積層体を得ること」が示唆されているといえる。 また、「ポリシクロオレフィン系フィルム」を偏光板の保護フィルムとして用いることは、引用文献1の【0183】においても示唆されているところ、「偏光板」において面内位相差Re(550)が90nm以上の「ポリシクロオレフィン系フィルム」を採用することは、周知技術である(例えば、特開2015-75684号公報の【0055】、特開2015-28598号公報の【0092】を参照。)。 そうしてみると、引用発明1の「活性エネルギー線重合性接着剤」を用いて、相違点1及び相違点2に係る本件補正後発明の構成に到ることは、引用文献1の記載が示唆する範囲内の創意工夫である。 イ 相違点3について 引用発明1の「活性エネルギー線重合性接着剤」の樹脂組成物のうち、「4HBA」及び「HEA」は、その組成からみて重合性モノマーである。ここで、「4HBA」の水100gへの溶解度は10g以上であり(参考として、国際公開第2011/138961号の段落[0024]、特開2003-261827号公報の段落【0058】参照。)、HEAの水100gへの溶解度は、本件出願の明細書【0081】の記載に照らして1000gであるから、引用発明1における、本件補正後発明の式(1)でいう「S」の値は、「(20*10+20*1000)/(20+20)=505」程度と計算される。そうしてみると、引用発明1の「活性エネルギー線重合性接着剤」のSは、本件補正後発明の「10以上1500以下である。」という要件を満たしていると考えられる。 さらに、「ポリシクロオレフィン系フィルム」のSP値は、18.5(MPa)^(1/2)程度である(例えば、特開2014-215560号公報の【0034】には、18.6であること、及び特開2005-164632号公報の【0145】には、19であることが記載されている。)ところ、この値は、本件補正後発明でいうδである。 以上を踏まえて、引用文献1の「光学素子用積層体」の上記の「S」の値及び「δ」の値を、式(1)の右辺に適用すると、おおむね右辺は-212程度となり、90を下回る。 そうしてみると、前記アで述べた「積層体」は、相違点3に係る本件補正後発明の構成を具備する。 なお、本件出願の【0103】では、「ポリシクロオレフィン系フィルム」として周知の「ゼオノアフィルム」のSP値を18.0としている(当合議体注:「ポリシクロオレフィン系フィルム」には、SP値が18.0等、他の値のものもある。)。しかしながら、SP値が18.0であるとしても、右辺は5程度にとどまり、やはり90を下回る。 ウ 相違点4について 引用文献1の【0172】には、「樹脂組成物を」「活性エネルギー線重合性接着剤として用いた場合」、「応力緩和性」や「塗工性」を考慮して厚さを決定することが記載されているとともに、その厚さとして「20μm?250μmであることがより好ましい」と記載されている。当該記載に接した当業者であれば、相違点4に係る本件補正後発明の構成とすることは、容易になし得たことである。 なお、引用発明1の「樹脂組成物」の粘度は、「40mPa・s」(【0199】【表2】)であり、上記厚さの塗工には適さないものである。しかしながら、引用文献1の【0171】には、「樹脂組成物の粘度は、オリゴマー(A)の粘度で殆ど決定されるため、オリゴマー(A)の粘度を1?100,000mPa・sの範囲で管理することにより、樹脂組成物の粘度も管理が可能である。」と記載されている。また、引用発明1の「紫光UV3000B:日本合成化学工業社製 ポリウレタン系オリゴマー(ウレタンアクリレート)」の粘度(mPa・s/60℃)は、「40,000?60,000」である(インターネット<URL:https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/coating-mat/tech/1205787_9232.html>)ことからみて、粘度の調整は当業者が直ちに行える事項にすぎない。 (6)発明の効果について 本件補正後発明の効果として、本願明細書の【0008】には、「本発明によれば、偏光板を構成する保護フィルムにソルベントクラックが発生しない積層体を提供することができ、さらにかかる積層体を組み込んだ視認性に優れた液晶表示装置を提供することができる。」と記載されている。 しかしながら、「偏光板を構成する保護フィルムにソルベントクラックが発生しない」という効果は、本件補正後発明の式(1)を満足する引用発明1も奏する効果といえる。 (7)審判請求書について 審判請求人は、審判請求書の【請求の理由】[5]において、「面内位相差を有する環状ポリオレフィン系樹脂フィルムに関する記載も、示唆もなく、ソルベントクラックに関する記載もない引用文献1に基づいて、面内位相差を有する観桜オレフィン系樹脂フィルムに生ずるソルベントクラックを防止するべく、本願発明に想到することは決して容易ではない。」と主張する。(当合議体注:「観桜オレフィン系樹脂フィルム」は、「環状オレフィン系樹脂フィルム」の誤記である。) しかしながら、前記(5)ア及びイ並びに前記(6)で述べたとおりである。 (8)引用発明2について ア 引用発明2 引用文献1の【0200】には、「保護フィルム(1)」及び「保護フィルム(2)」の「それぞれの表面に300W・min/m^(2)の放電量でコロナ処理を行い、表面処理後1時間以内に、配合例1に示す活性エネルギー線重合性接着剤をワイヤーバーコーターを用いて膜厚4μmとなるように塗工し、活性エネルギー線重合性接着層を形成し、前記活性エネルギー線重合性接着層との間に上記のポリビニルアルコール系偏光子を挟み、保護フィルム(1)/接着層/PVA系偏光子/接着層/保護フィルム(2)からなる積層体」が記載されている。 また、【0208】の【表3】に示される実施例5は、上記の「積層体」の「活性エネルギー線重合性接着剤」の「配合例1」等を変更したものであると解されるところ、保護フィルム(1)として、日本ゼオン社製の紫外線吸収剤を含有しないポリノルボルネン系フィルム:商品名「Z-14:100μm」を用い、保護フィルム(2)として、三菱レイヨン社製紫外線吸収剤を含有しないポリアクリル系フィルム:商品名「HBD-002」(厚み50μm)を使用し、配合例5に示す活性エネルギー線重合性接着剤としたものである。ここで、「配合例5」は、上記(2)イ及びウで検討したとおり、配合例5:「紫光UV3000Bを5重量部、M-5300を4重量部、HBAPを6重量部、4HBA及びHEAをそれぞれ20重量部ずつ、及びTPOを5重量部」である。そうしてみると、引用文献1には、実施例5として、次の「積層体」の発明が記載されている(以下「引用発明2」という。)。 「保護フィルム(1)として日本ゼオン社製の紫外線吸収剤を含有しないポリノルボルネン系フィルム:商品名「Z-14:100μm」、保護フィルム(2)として三菱レイヨン社製紫外線吸収剤を含有しないポリアクリル系フィルム:商品名「HBD-002」(厚み50μm)を使用し、それぞれの表面に300W・min/m^(2) の放電量でコロナ処理を行い、表面処理後1時間以内に、配合例5に示す活性エネルギー線重合性接着剤をワイヤーバーコーターを用いて膜厚4μmとなるように塗工し、活性エネルギー線重合性接着層を形成し、前記活性エネルギー線重合性接着層との間に上記のポリビニルアルコール系偏光子を挟み、保護フィルム(1)/接着層(1)/PVA系偏光子/接着層(2)/保護フィルム(2)からなる積層体。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明2を対比すると、以下の点で相違する。 (相違点5) 本件補正後発明は、「基板、活性エネルギー線硬化型接着剤層および偏光板をこの順に有する積層体」であるのに対し、引用発明2は、上記下線を付した構成を有していない点。 (相違点6) 本件補正後発明は、「前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムは面内位相差Re(550)が90nm以上であり」という構成を有するのに対し、引用発明2は、『日本ゼオン社製の紫外線吸収剤を含有しないポリノルボルネン系フィルム:商品名「Z-14:100μm」』の面内位相差が特定されていない点。 (相違点7) 本件補正後発明は、「前記環状オレフィン系樹脂の保護フィルムの主面と前記活性エネルギー線硬化型接着剤層の主面とが接するように積層され、下記式(1)を満たし、」という構成を有するのに対し、引用発明2はそのような特定を有さない点。(当合議体注:式(1)は、前記1(2)の記載を参照。) (相違点8) 本件補正後発明は、「前記活性エネルギー線硬化型接着剤層の厚みが50?200μmである」のに対し、引用発明2は、そのような特定を有さない点。 ウ 判断 (相違点5について) 引用発明2の「積層体」は、本件補正後発明の「偏光板」に相当する構成である。 また、引用文献1には、上記(5)アで述べたとおりの記載がある。 当該記載に接した当業者であれば、引用発明2の「活性エネルギー線重合性接着剤」を用いて、上記「偏光板」の「保護フィルム(1)」と「ガラス、あるいは透明成形体に積層したりすることによって、積層体を得ること」により、相違点5に係る本件補正後発明の構成とすることは、容易になし得たことである。 (相違点6?8について) 上記(5)ア?ウで述べたのと同様である。 (9)小括 本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 補正の却下の決定のむすび 本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、理由1(進歩性)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、原出願の出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2014-141623号公報 3 引用文献及び引用発明 (1) 引用文献1 引用文献1の記載、引用発明1及び引用発明2は、前記「第2」2(1)、(2)ウ及び(8)アに記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は、前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から、同1(3)で述べた限定事項を除いたものである。また、本願発明の構成を全て具備し、これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]2(3)?(9)で述べたとおり、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 そうしてみると、本願発明は、前記「第2」[理由]2(3)?(9)で述べた理由と同様の理由により、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-03-29 |
結審通知日 | 2021-03-30 |
審決日 | 2021-04-22 |
出願番号 | 特願2019-4112(P2019-4112) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 慎平、菅原 奈津子 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
福村 拓 関根 洋之 |
発明の名称 | 積層体及び液晶表示装置 |
代理人 | 坂元 徹 |
代理人 | 中山 亨 |