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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F |
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管理番号 | 1374713 |
審判番号 | 不服2020-10852 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-08-05 |
確定日 | 2021-06-10 |
事件の表示 | 特願2016- 51581「リアクトル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-168587〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成28年3月15日の出願であって、令和元年10月17日付けで拒絶理由が通知され、令和元年12月26日に手続補正がなされたが、令和2年4月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年8月5日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。 第2 令和2年8月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年8月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「【請求項1】 柱状の中脚部と、前記中脚部の外側に位置する側部と、前記中脚部及び前記側部の端部を繋ぐ一対の平板部とを有するコアと、 前記中脚部に巻回され、直列に磁気結合するように前記中脚部の軸方向に配置された2以上のコイルと、 を備え、 前記コイルの結合係数が0.700以上0.830以下であり、 前記コイルの周囲には、樹脂からなる被覆部が設けられ、 前記樹脂のショア硬度Dは、15以下であること、 を特徴とするリアクトル。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和元年12月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 柱状の中脚部と、前記中脚部の外側に位置する側部と、前記中脚部及び前記側部の端部を繋ぐ一対の平板部とを有するコアと、 前記中脚部に巻回され、直列に磁気結合するように前記中脚部の軸方向に配置された2以上のコイルと、 を備え、 前記コイルの結合係数が0.7以上であり、 前記コイルの周囲には、樹脂からなる被覆部が設けられ、 前記樹脂のショア硬度Dは、15以下であること、 を特徴とするリアクトル。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「結合係数」について、本件補正前の請求項1に「0.7以上」とあったところを「0.700以上0.830以下」と数値範囲の上限を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-69896号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。 「【0001】 本発明は、複数の巻線素子(コイル)を備えた複合型巻線素子に関し、特に、帯状の導体部材を巻回した巻線素子(コイル)を磁気結合部材で内包した構造の複合型巻線素子に関する。そして、本発明は、この複合型巻線素子を用いた変圧器、変圧システムおよびノイズカットフィルタ用複合型巻線素子に関する。」 「【0062】 このような磁気結合部材2aは、例えば仕様等に応じた所定の磁気特性(透磁率)を有しており、上述のような所望の形状の成形容易性の観点から、軟磁性体粉末を形成したものであることが好ましい。このような構成の変圧器Traは、容易に磁気結合部材2aを 形成することができ、その鉄損も低減することができる。さらに、磁気結合部材2aは、 軟磁性体粉末と非磁性体粉末との混合物を成形したものであることがより好ましい。軟磁性体粉末と非磁性体粉末との混合率比を比較的容易に調整することができ、前記混合比率を適宜に調整することによって、磁気結合部材2aにおける前記所定の磁気特性をそれぞれ所望の磁気特性に容易に実現することが可能となる。また、第1ないし第3磁気結合部材21?23は、低コスト化の観点から、同一材料であることが好ましい。」 「【0111】 また、これら上述の変圧器Trにおいて、複数のコイル1と磁気結合部材2aとの間に 生じる間隙に充填される高分子部材をさらに備えることが好ましい。このような構成の変圧器Trでは、前記間隙に高分子部材が充填されているので、このような構成の変圧器Trは、コイル1で生じる熱を、高分子部材を介してこれを外囲する磁気結合部材2aに伝導することができ、放熱性を改善することができる。この観点から、前記高分子部材は、比較的熱伝導性のよい樹脂(比較的高伝導率の樹脂)であることが好ましい。そして、このような構成の変圧器Trは、高分子部材によって絶縁性も改善することができる。さらに、このような構成の変圧器Trは、高分子部材によってコイル1が磁気結合部材2a内 に略固定され、磁歪による振動を防止することも可能となる。このような高分子部材は、例えば、接着性に優れたエポキシ系の樹脂等を挙げることができる。」 「【0114】 (第5および第6実施形態) ・・・(途中省略)・・・。」 「【0125】 この第5実施形態のノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Daは、例えば、図11に示すように、複数のコイル40と、磁気結合部材2bとを備えて構成される。 【0126】 磁気結合部材2bは、複数のコイル40を磁気結合するための部材であって、これら複数のコイル40を内包する構造である。磁気結合部材2bは、例えば、図11に示す例では、複数のコイル40の外周を覆うように配される第1磁気結合部材21と、複数のコイル40の各両端部を覆うように、第1磁気結合部材21に連結する第2および第3磁気結合部材22、23と、複数のコイル40の芯部に配設される第4磁気結合部材24とを備えている。すなわち、磁気結合部材2bは、第1実施形態における磁気結合部材2aの第1ないし第3磁気結合部材21?23と略同様の第1ないし第3磁気結合部材21?23に、さらに第4磁気結合部材24を備えた構成である。このため、第1ないし第3磁気結合部材21?23の説明は、ここでは省略する。そして、複数のコイル40は、第4磁気 結合部材24をその芯部に備えることで有芯のコイルであって、これら第1ないし第3磁気結合部材21?23によって囲まれており、第5実施形態のノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Daは、いわゆるポット型となっている。第4磁気結合部材24は、複数のコイル40の内径よりも小径の円柱体であって、その両端のそれぞれは、第2および第3磁気結合部材22、23に連結されている。これら第1ないし第4磁気結合部材21?24は、本実施形態では、磁気的に等方性を有し、軟磁性粉末を形成したものである。」 「【図11】 」 「【0127】 複数のコイル40は、図11に示す例では、2個の第1上段および第2下段コイル401、402を備えて構成されている。これら第1上段および第2下段コイル401、402がチョークコイルL1、L2として用いられる。第1上段および第2下段コイル401、402のそれぞれは、長尺状の導体部材を所定の回数だけ巻き回したものであり、通電することによって、磁場を発生するものであり、第1実施形態の変圧器Traにおけるコイル1と同様に、帯状の導体部材を、該導体部材の幅方向がコイル40(401、402)の軸方向に沿うように巻回することによって構成される。すなわち、コイル401、4 02は、フラットワイズ巻線構造である。そして、本実施形態では、これら第1上段コイル401と第2下段コイル402とは、コイル40(401、402)の軸方向に絶縁部材6を介して重ねられ、積層されている。絶縁部材6は、第1上段コイル401と第2下段コイル402とを電気的に絶縁するためのフィルム状(シート状)の部材である。 【0128】 そして、・・・(途中省略)・・・第1上段コイル401の一方端部とこれに対向する第2磁気結合部材22の内面との間および第2下段コイル402の他方端部とこれに対向する第3磁気結合部材23の内面との間にも絶縁部材6が介在されている。」 「【0138】 そして、第5および第6実施形態における各ノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Da、Dbは、前記複数のコイル40(401、402)、50(501、502)を内包する磁気結合部材2bを備え、いわゆるポット型であり、ギャップレス構造であるので、外部への漏れ磁束を低減することができ、前記複数のコイル40(401、402)、5 0(501、502)が前記交流電力系統または交流負荷SACを介して間接的に直列に接続され、これら複数のコイル40、50におけるコイル401、402;501、502間における結合係数の低減を抑制することができ、個々のコイル401、402;501、502におけるインダクタンスの低下を抑制することができる。この結果、第5および第6実施形態のノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Da、Dbにおける個々のコイル401、402;501、502のインダクタンスは、従来の巻線素子におけるインダクタンスよりも、大きいものとなる。例えば、2つのコイルにおける結合係数0.66であって各コイルのインダクタンスが100μHである場合では、これら2つのコイルを互いに直列に結合すると、各コイルのインダクタンスは、約330μHであるが、第5および第6実施形態のノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Da、Dbでは、結合係数が約0.97となり、その結果、各コイル401、402;501、502のインダクタンス は、約395μHとなって、前者に較べてより大きなインダクタンスを得ることができる 。」 「【0140】 そして、第5実施形態におけるノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Daでは、第1上段および第2下段コイル401、402が軸方向に重ねられるので、径の大きさを低減したノイズカットフィルタ用複合型巻線素子を提供することができる。」 「【0149】 第1ないし第6実施形態において、そのインダクタンスをより大きくしようとすると、複数のコイル1、10、20、30、40、50の巻き数(ターン数)を大きくする必要があり、より多くの導体部材が必要となるとともに装置が大型化してしまう。しかしながら、・・・(途中省略)・・・このため、インダクタンスが大きく、低損失の、例えばリアクトルや変圧器が提供される。」 (イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 a ノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Daは、複数のコイル40と、磁気結合部材2bとを備えて構成される(【0125】)。 b 磁気結合部材2bは、複数のコイル40の外周を覆うように配される第1磁気結合部材21と、複数のコイル40の各両端部を覆うように、第1磁気結合部材21に連結する第2および第3磁気結合部材22、23と、複数のコイル40の芯部に配設される第4磁気結合部材24とを備え、第4磁気結合部材24は円柱体であって、その両端のそれぞれは、第2および第3磁気結合部材22、23に連結され、これら第1ないし第4磁気結合部材21?24は、軟磁性粉末を形成したものである(【0126】)。 c 複数のコイル40は、第4磁気結合部材24をその芯部に備えることで有芯のコイルであって、これら第1ないし第3磁気結合部材21?23によって囲まれ、いわゆるポット型となっていて(【0126】)、ギャップレス構造であるので、外部への漏れ磁束を低減することができる(【0138】)。 d 複数のコイル40は、2個の第1上段および第2下段コイル401、402を備えて構成され、これら第1上段コイル401と第2下段コイル402とは、コイル40(401、402)の軸方向に絶縁部材6を介して重ねられる(【0127】)。 e 第1上段コイル401の一方端部とこれに対向する第2磁気結合部材22の内面との間および第2下段コイル402の他方端部とこれに対向する第3磁気結合部材23の内面との間にも絶縁部材6が介在される(【0128】)。 f 2つのコイルを互いに直列に結合すると、結合係数が約0.97となり、大きなインダクタンスを得ることができる(【0138】)。 (ウ)上記(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「複数のコイル40と、磁気結合部材2bとを備えて構成され、 磁気結合部材2bは、複数のコイル40の外周を覆うように配される第1磁気結合部材21と、複数のコイル40の各両端部を覆うように、第1磁気結合部材21に連結する第2および第3磁気結合部材22、23と、複数のコイル40の芯部に配設される第4磁気結合部材24とを備え、第4磁気結合部材24は円柱体であって、その両端のそれぞれは、第2および第3磁気結合部材22、23に連結され、これら第1ないし第4磁気結合部材21?24は、軟磁性粉末を形成したものであり、 複数のコイル40は、第4磁気結合部材24をその芯部に備えることで有芯のコイルであって、これら第1ないし第3磁気結合部材21?23によって囲まれ、いわゆるポット型となっていて、ギャップレス構造であるので、外部への漏れ磁束を低減することができ、 複数のコイル40は、2個の第1上段および第2下段コイル401、402を備えて構成され、これら第1上段コイル401と第2下段コイル402とは、コイル40(401、402)の軸方向に絶縁部材6を介して重ねられ、第1上段コイル401の一方端部とこれに対向する第2磁気結合部材22の内面との間および第2下段コイル402の他方端部とこれに対向する第3磁気結合部材23の内面との間にも絶縁部材6が介在され、 2つのコイルを互いに直列に結合すると、結合係数が約0.97となり、大きなインダクタンスを得ることができる、 ノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Da。」 イ 引用文献5 原査定の備考欄に周知技術を示す文献として引用された引用文献5(特開2015-65300号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。 「【0012】 さらに、接着性の樹脂体がコアの内部に満たされてコイルとコアとの間に配されることで、コイルとコアとの間の絶縁性が確保される。また、コイルの周囲に配された接着性の樹脂体によってコイルに発生するノイズおよび振動(NV)を低減することができるだけでなく、樹脂体を緩衝材料として機能させ、冷熱衝撃などの耐久性評価によるコイルの繰り返しの膨張と収縮によるクラック等の損傷を抑制することができる。」 「【0025】 接着性の樹脂体3は、接着剤および絶縁材としての機能を有し、コイル1A,1Bとコア2との間に配され、コイル1A,1Bをコア2に絶縁された状態で固定する。樹脂体3の材料は、湿気硬化型、常温付加硬化型(1 液タイプ、2液混合タイプのいずれも可) 等の常温硬化型の樹脂体であることが好ましく、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂を用いることができ、樹脂の種類は特に限定されない。樹脂体3 のせん断接着強度は、例えば0.2MPa以上であることが好ましい。また、樹脂体3は、絶縁性(体積固有抵抗)が、例えば10^(12)Ω・cm以上であることが好ましく、例えばデュロメータ硬さ(タイプA)が85以下であることが望ましい。」 「【図1】 」 よって、引用文献5には、次の周知技術が記載されているものと認められる。 「コイルの周囲に配された接着性の樹脂体によってコイルに発生するノイズおよび振動(NV)を低減することができ(【0012】)、樹脂体は、例えばデュロメータ硬さ(タイプA)が85以下であることが望ましい(【0025】)こと。」 ウ 引用文献6 当審で新たに引用する、MECHANICAL RUBBER、「Durometer Conversion Chart」、インターネットアーカイブ、<URL:https://web.archive.org/web/20151123165711/http://mechanicalrubber.com:80/elastomericsolutions/wp-content/uploads/2013/08/Durometer-Conversion-Table.pdf>(以下、「引用文献6」という。)には、Shore A(ショア硬度A)とShore D(ショア硬度D)とのDurometer Conversion Chart(デューロメータ換算表)が記載されている。 「 」(注釈の当審訳:*デュロメータは、ゴム、プラスチック、スポンジ及び非金属材料の硬度測定に関する標準です。 **一般的には使用されていない。) (3)対比 本件補正発明と引用発明とを比較する。 ア 引用発明における「磁気結合部材2b」は、「複数のコイル40の外周を覆うように配される第1磁気結合部材21と、複数のコイル40の各両端部を覆うように、第1磁気結合部材21に連結する第2および第3磁気結合部材22、23と、複数のコイル40の芯部に配設される第4磁気結合部材24とを備え、第4磁気結合部材24は円柱体であって」、「いわゆるポット型」となっているから、 (ア)引用発明における「円柱体」である「第4磁気結合部材24」が、本件補正発明における「柱状の中脚部」に相当する。 (イ)引用発明における「複数のコイル40の外周を覆うように配される第1磁気結合部材21」が、本件補正発明における「前記中脚部の外側に位置する側部」に相当する。 (ウ)引用発明における「第2および第3磁気結合部材22、23」は、引用文献1の図11(A)に見られるように平板状であって、「第1磁気結合部材21に連結する」とともに、「第4磁気結合部材24」「の両端のそれぞれ」にも「連結」しているから、本件補正発明における「前記中脚部及び前記側部の端部を繋ぐ一対の平板部」に相当する。 (エ)引用発明における「第1ないし第4磁気結合部材21?24」は、「軟磁性粉末を形成したものであ」るからコアといえる。 よって、上記(ア)ないし(エ)より、引用発明における「第1ないし第4磁気結合部材21?24」は、本件補正発明における「柱状の中脚部と、前記中脚部の外側に位置する側部と、前記中脚部及び前記側部の端部を繋ぐ一対の平板部とを有するコア」に相当するといえる。 イ 引用発明における「複数のコイル40」は、「第4磁気結合部材24をその芯部に備え」、「2個の第1上段および第2下段コイル401、402を備えて構成され」、「これら第1上段コイル401と第2下段コイル402とは、コイル40(401、402)の軸方向に重ねられ」、「大きなインダクタンスを得る」ため(つまり、磁気結合するため)に「互いに直列に結合」されるから、本件補正発明における「前記中脚部に巻回され、直列に磁気結合するように前記中脚部の軸方向に配置された2以上のコイル」に相当する。 ウ 引用発明における「2つのコイル」の「結合係数が約0.97」であることと、本件補正発明における「コイルの結合係数が0.700以上0.830以下」であることとは、「コイルの結合係数が0.700以上」である点で共通する。 しかしながら、本件補正発明における「コイルの結合係数」は「0.830以下」であるのに対し、引用発明における結合係数は「約0.97」であって、「0.830以下」でない点で相違する。 エ 本件補正発明では、「前記コイルの周囲には、樹脂からなる被覆部が設けられ、前記樹脂のショア硬度Dは、15以下である」のに対し、引用発明における「複数のコイル40」では、「第1上段コイル401と第2下段コイル402とは、コイル40(401、402)の軸方向に絶縁部材6を介して重ねられ、第1上段コイル401の一方端部とこれに対向する第2磁気結合部材22の内面との間および第2下段コイル402の他方端部とこれに対向する第3磁気結合部材23の内面との間にも絶縁部材6が介在されている」ものの、「複数のコイル40」の「周囲」に被覆部を設けるものではない点で相違する。 オ 引用文献1の段落【0149】に「インダクタンスが大きく、・・・例えばリアクトル・・・が提供される。」と記載されていることも参酌すれば、引用発明における「ノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Da」は「2つのコイルを互いに直列に結合する」ことで「大きなインダクタンスを得ることができる」から、本件補正発明における「リアクトル」に相当するといえる。 よって、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点、相違点を有するものと認められる。 (一致点) 「柱状の中脚部と、前記中脚部の外側に位置する側部と、前記中脚部及び前記側部の端部を繋ぐ一対の平板部とを有するコアと、 前記中脚部に巻回され、直列に磁気結合するように前記中脚部の軸方向に配置された2以上のコイルと、 を備え、 前記コイルの結合係数が0.700以上であること、 を特徴とするリアクトル。」 (相違点1) 本願発明における「コイルの結合係数」は「0.830以下」であるのに対し、引用発明における結合係数は「約0.97」であって、「0.830以下」でない点。 (相違点2) 本件補正発明では、「前記コイルの周囲には、樹脂からなる被覆部が設けられ、前記樹脂のショア硬度Dは、15以下である」のに対し、引用発明では、「複数のコイル40」の「周囲」に被覆部を設けるものではない点。 (4)判断 以下、相違点について検討する。 ア 相違点1について (ア)また、引用発明における「2つのコイルを互いに直列に結合すると、結合係数が約0.97となり、大きなインダクタンスを得ることができる」とは、結合係数が約0.97未満の製品が作成不可能であることを意味しない。そして、引用文献1の段落【0062】に「このような磁気結合部材2aは、例えば仕様等に応じた所定の磁気特性(透磁率)を有しており、」と記載されているとおり、製品の特性は要求された仕様等に応じて決定すべきものであるから、引用発明における「ノイズカットフィルタ用複合型巻線素子Da」のインダクタンス値も、要求された仕様等に応じて当業者が適宜決定すべきものである。 さらに、引用文献1の段落【0140】に「第1上段および第2下段コイル401、402が軸方向に重ねられるので、径の大きさを低減したノイズカットフィルタ用複合型巻線素子を提供することができる。」と記載されているとおり、引用発明は「径の大きさを低減」した点にも利点が認められるのであるから、単に「インダクタンス」の値のみに着目した発明でもない。 よって、引用発明の「結合係数が約0.97」であることは、引用発明における結合係数を「約0.97」未満とすることを何ら妨げるものではない。 (イ)次に、本件補正発明における「結合係数」の上限値(0.830)が臨界的意義を有するものか否か検討する。 本願明細書の段落【0028】には、次のとおり記載されている。 「コイル5a、5bの結合係数は0.7以上である。結合係数は1であることが好ましい。」 また、本願明細書の段落【0043】の【表1】は、以下のとおりである。 上記表1を見ても、実施例1ないし6の結合係数と騒音値との間に明確な関係性は見いだせない。 したがって、結合係数は1であることが好ましいものであり、本件補正発明における「結合係数」の上限値(0.830)は、本願明細書に記載された最も大きな結合係数である実施例1の結合係数の値を記載しただけであって、臨界的意義を有するものではない。 (ウ)よって、引用発明における「結合係数」を、例えば本件補正発明で規定されたとおりの「0.830以下」とし、上記相違点1に係る数値範囲とすることは、当業者が容易になし得たことである。 イ 相違点2について (ア)引用文献5に記載された周知技術を再掲すれば、次のとおりである。 「コイルの周囲に配された接着性の樹脂体によってコイルに発生するノイズおよび振動(NV)を低減することができ、樹脂体は、例えばデュロメータ硬さ(タイプA)が85以下であることが望ましいこと。」 ここで、「デュロメータ硬さ(タイプA)が85以下」とは、引用文献6の換算表によれば、「ショア硬度D52以下」の硬さに相当する。 また、上記「樹脂体は、例えばデュロメータ硬さ(タイプA)が85以下であることが望ましい」とは、ノイズおよび振動を低減する樹脂として軟質のもの(ショア硬度が低いもの)が望ましいことを意味していることも、当業者にとって明らかなことである。 (イ)ここで、引用文献1の段落【0111】には、「また、これら上述の変圧器Trにおいて、複数のコイル1と磁気結合部材2aとの間に生じる間隙に充填される高分子部材をさらに備えることが好ましい。・・・(中略)・・・このような構成の変圧器Trは、高分子部材によってコイル1が磁気結合部材2a内に略固定され、磁歪による振動を防止することも可能となる。」と記載されている。 (ウ)したがって、引用発明1において、磁歪による振動を防止するため、引用文献1の段落【0111】の記載にしたがって「複数のコイル1と磁気結合部材2aとの間に生じる間隙に充填される高分子部材をさらに備える」ようにすることは当業者が容易に想到し得たことであり、また、その振動を防止するための充填部材として、周知技術のように「デュロメータ硬さ(タイプA)が85以下」(ショア硬度D52以下)の軟質な樹脂を用いること、あるいは、そのなかでも特に本件補正発明のように「ショア硬度Dが15以下」の比較的柔らかい樹脂を用いることも、当業者が適宜なし得たことである(なお、必要であれば、特開平8-167525号公報の段落【0006】、【0008】、【0013】に「ショア硬度A40」(ショア硬度D8)の「エポキシ樹脂から成る軟質注型剤」を用いて「磁歪振動のエネルギの大部分」を「軟質注型剤に吸収さ」せた例が記載されている点を参照。)。 ウ また、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 エ したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和2年8月5日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和元年12月26日付けで手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由の概要 本願発明についての原査定の拒絶の理由は、次のとおりのものである。 「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記1、3-5の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2012-69896号公報 3.特開2010-238920号公報(周知技術を示す文献) 4.特開2010-165884号公報(周知技術を示す文献) 5.特開2015-65300号公報 (周知技術を示す文献) 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、5及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「結合係数」の数値範囲の上限に係る限定を削除したものである。 そうすると、前記第2の[理由]2(3)の対比を踏まえれば、本願発明と引用発明とは、前記第2の[理由]2(3)に記載した「(相違点2)」の点で相違する。 しかしながら、「(相違点2)」が引用文献5等に示された周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものであることは、前記第2の[理由]2(4)に記載したとおりである。 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-03-31 |
結審通知日 | 2021-04-06 |
審決日 | 2021-04-21 |
出願番号 | 特願2016-51581(P2016-51581) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久保田 昌晴 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 清水 稔 |
発明の名称 | リアクトル |
代理人 | 木内 加奈子 |
代理人 | 木内 光春 |
代理人 | 片桐 貞典 |
代理人 | 大熊 考一 |