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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01N
管理番号 1374792
審判番号 不服2020-13676  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-30 
確定日 2021-06-29 
事件の表示 特願2019-187698「内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定装置、内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定システム、データ解析装置、および内燃機関の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔令和3年4月22日出願公開、特開2021-63450、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和元年10月11日の出願であって、令和2年1月29日付け(発送日:令和2年2月4日)で拒絶理由通知がされ、令和2年4月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年7月2日付け(発送日:令和2年7月7日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して令和2年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願の請求項1ないし7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1ないし3、5ないし7
・引用文献等1ないし3

・請求項4
・引用文献等1ないし4

<引用文献等一覧>
1.特許第6547991号公報
2.特開平4-116245号公報
3.特開2006-83804号公報
4.特開2008-232109号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、令和2年4月3日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
記憶装置と、実行装置と、を備え、
前記記憶装置は、内燃機関の周囲の外気の温度に関する変数である外気温変数と前記内燃機関の燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比とする上で必要な燃料量に対する実際の噴射量の過剰量に応じた変数である過剰量変数との2つのうちの少なくとも1つの変数、前記内燃機関の排気通路に設けられた触媒に流入する流体のエネルギに関する状態変数である流体エネルギ変数、および前記触媒の温度の推定値の前回値を入力とし、前記触媒の温度の推定値を出力する写像を規定するデータである写像データを記憶しており、
前記実行装置は、
前記少なくとも1つの変数、前記流体エネルギ変数、および前記推定値の前回値を取得する取得処理、
前記取得処理で取得した前記少なくとも1つの変数、前記流体エネルギ変数、および前記推定値の前回値を前記写像に入力し、前記写像から前記触媒の温度の推定値を出力させる算出処理、を実行し、
前記写像データは、機械学習によって学習済みのデータであり、
前記実行装置は、
前記推定値が許容範囲外である場合に、前記推定値を前記許容範囲に近づけるまたは前記許容範囲内の値にするガード処理を実行し、
前記ガード処理を実行した場合には、前記ガード処理後の値を前記推定値として算出する
内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定装置。
【請求項2】
前記実行装置は、
前記推定値が前記許容範囲よりも大きい場合には、前記推定値を前記許容範囲の上限値に一致させるガード処理を実行し、前記推定値が前記許容範囲よりも小さい場合には、前記推定値を前記許容範囲の下限値に一致させるガード処理を実行する
請求項1に記載の内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定装置。
【請求項3】
前記実行装置は、前記許容範囲を算出する許容範囲算出処理を実行し、
前記記憶装置は、前記内燃機関のクランク軸の回転速度の平均値である回転速度平均値および前記内燃機関の燃焼室内に充填される空気量を定めるパラメータである充填効率の平均値である充填効率平均値を代入することにより、前記許容範囲の上限値が得られる上限値算出関数および前記許容範囲の下限値が得られる下限値算出関数を記憶しており、
前記実行装置は、前記許容範囲算出処理において、
前記取得処理によって取得した前記回転速度から算出された回転速度平均値、および前記取得処理によって取得した前記充填効率から算出された充填効率平均値を、前記上限値算出関数に代入して前記上限値を算出し、
前記取得処理によって取得した前記回転速度から算出された回転速度平均値、および前記取得処理によって取得した前記充填効率から算出された充填効率平均値を、前記下限値算出関数に代入して前記下限値を算出する
請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定装置。
【請求項4】
前記実行装置は、前記算出処理による前記推定値の今回値と前回値との差を示す乖離度が、所定の範囲外となった場合に、前記推定値の今回値が前記許容範囲外であると判定する
請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定装置における前記実行装置および前記記憶装置を備え、
前記実行装置は、第1実行装置および第2実行装置を含み、
前記第1実行装置は、車両に搭載されて且つ、前記取得処理と、前記取得処理によって取得されたデータを車両の外部に送信する車両側送信処理と、前記算出処理によって算出された出力に基づく信号を受信する車両側受信処理と、を実行し、
前記第2実行装置は、前記車両の外部に配置されて且つ、前記車両側送信処理によって送信されたデータを受信する外部側受信処理と、前記算出処理と、前記算出処理によって算出された出力に基づく信号を前記車両に送信する外部側送信処理と、を実行する内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定システム。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定システムにおける前記第2実行装置および前記記憶装置を備えるデータ解析装置。
【請求項7】
請求項5に記載の内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定システムにおける前記第1実行装置を備える内燃機関の制御装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された特許第6547991号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「触媒温度推定装置、触媒温度推定システム、データ解析装置、および内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下、同様。)。

(1)「【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度を推定する触媒温度推定装置であって、記憶装置と、実行装置と、を備え、前記記憶装置は、前記内燃機関の周囲の外気の温度に関する変数である外気温変数と前記触媒に流入する流体に含まれる酸素と過不足なく反応する燃料量に対する、実際に前記触媒に流入する燃料量の過剰量に応じた変数である過剰量変数との2つのうちの少なくとも1つの変数、前記触媒に流入する流体のエネルギに関する状態変数である流体エネルギ変数、および前記触媒の温度の推定値の前回値を入力とし、前記触媒の温度の推定値を出力する写像を規定するデータである写像データを記憶しており、前記実行装置は、前記少なくとも1つの変数、前記流体エネルギ変数、および前記推定値の前回値を取得する取得処理、該取得処理によって取得されたデータを入力とする前記写像の出力に基づき前記触媒の温度の推定値を繰り返し算出する温度算出処理、および前記触媒の温度の推定値に基づき、前記触媒の温度を調整するための前記内燃機関の操作部を操作する操作処理を実行し、前記写像データは、機械学習によって学習されたものを含む触媒温度推定装置である。」

(2)「【0032】
<第1の実施形態> 以下、触媒温度推定装置にかかる第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。 図1に示す車両VCに搭載された内燃機関10において、吸気通路12から吸入された空気は、過給機14を介して下流へと流動し、吸気バルブ16の開弁に伴って燃焼室18に流入する。内燃機関10には、燃焼室18に燃料を直接噴射する筒内噴射弁20や、火花放電を生じさせる点火装置22が設けられている。燃焼室18において、空気と燃料との混合気は、燃焼に供され、燃焼によって生じたエネルギは、クランク軸24の回転エネルギとして取り出される。燃焼に供された混合気は、排気バルブ26の開弁に伴って、排気として、排気通路30に排出される。排気通路30のうち過給機14の下流には、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタであって酸素吸蔵能力を有した三元触媒が担持されたフィルタであるGPF34が設けられている。また、GPF34の下流には、酸素吸蔵能力を有した三元触媒である触媒36が設けられている。また、排気通路30は、過給機14を迂回してGPF34へと排気を流動させる迂回通路40を備えている。迂回通路40には、その流路断面積を調整するウェストゲートバルブ(以下、WGV42)が設けられている。」

(3)「【0037】
ベース噴射量算出処理M10は、充填効率ηに基づき、燃焼室18内の混合気の空燃比を目標空燃比とするための燃料量のベース値であるベース噴射量Qbを算出する処理である。詳しくは、ベース噴射量算出処理M10は、たとえば充填効率ηが百分率で表現される場合、空燃比を目標空燃比とするための充填効率ηの1%当たりの燃料量QTHに、充填効率ηを乗算することによりベース噴射量Qbを算出する処理とすればよい。ベース噴射量Qbは、燃焼室18内に充填される空気量に基づき、空燃比を目標空燃比に制御するために算出された燃料量である。本実施形態では、目標空燃比として、理論空燃比を例示する。なお、充填効率ηは、燃焼室18内に充填される空気量を定めるパラメータであり、CPU72により回転速度NEおよび吸入空気量Gaに基づき算出される。また、回転速度NEは、クランク角センサ88の出力信号Scrに基づきCPU72により算出される。」

(4)(1)の「触媒に流入する流体に含まれる酸素と過不足なく反応する燃料量」は、(2)及び(3)の事項を参照することにより、内燃機関10の燃焼室18内の混合気の空燃比を理論空燃比とするための燃料量であることが把握できる。

(5)(1)の「実際に前記触媒に流入する燃料量」は、(2)の事項を参照することにより、実際に燃焼室18に直接噴射された噴射量であることを把握できる。

したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「記憶装置と、実行装置と、を備え、
前記記憶装置は、内燃機関の周囲の外気の温度に関する変数である外気温変数と前記内燃機関の燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比とするための燃料量に対する、実際に燃焼室に直接噴射された噴射量の過剰量に応じた変数である過剰量変数との2つのうちの少なくとも1つの変数、前記内燃機関の排気通路に設けられた触媒に流入する流体のエネルギに関する状態変数である流体エネルギ変数、および前記触媒の温度の推定値の前回値を入力とし、前記触媒の温度の推定値を出力する写像を規定するデータである写像データを記憶しており、
前記実行装置は、前記少なくとも1つの変数、前記流体エネルギ変数、および前記推定値の前回値を取得する取得処理、該取得処理によって取得されたデータを入力とする前記写像の出力に基づき前記触媒の温度の推定値を算出する温度算出処理を実行し、
前記写像データは、機械学習によって学習されたものを含む
内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度を推定する触媒温度推定装置。」

2 引用文献2について
本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-116245号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「車両制御装置用センサのバックアップ装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「[従来の技術]
従来のこの種の装置としては、例えば特公昭63-9099号公報に記載のものかある。この公報に記載のバックアップ装置は、第3図に示すように、センサの出力値が上限値(限界値)を越えた場合には、センサ出力値に代えて、破線で示すバックアップデータを出力するようにしたものであり、センサの出力値が上限値を越えるとその直前のセンサ出力値を初期値として出力し、その後所定時間経過した後においてもセンサ出力値が限界値を越えている場合には、予め定められた所定の最終値を出力するようになっている。」(第1頁右欄第5行ないし第16行)

したがって、引用文献2には次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献2記載事項>
「センサの出力値が上限値を越えるとその直前のセンサ出力値を初期値として出力し、その後所定時間経過した後においてもセンサ出力値が限界値を越えている場合には、予め定められた所定の最終値を出力すること。」

3 引用文献3について
本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-83804号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「エンジンの制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0169】
ホットワイヤ式のエアフローメータ141の出力電圧を受ける電圧→流量演算手段151では、このエアフローメータ出力電圧から所定のテーブルを検索することにより空気流量Q0(質量流量)に変換する。エアフローメータ誤差補正手段152ではこの空気流量Q0に補正係数を乗算した値を誤差補正後の空気流量Qafmとして算出する。ここで、補正係数はエンジン回転速度Neと、図1により得られている仮想流速(またはスロットル弁開度)とから所定のマップを検索して求められる値である。空気流量Q0の補正は吸気脈動の影響を受けて空気流量Q0が大きくなり過ぎるのを補正するためのものである。
【0170】
吸気脈動なまし処理手段153では誤差補正後の空気流量Qafmに対して次式によりなまし処理を実行して単位時間当たりスロットル弁通過空気流量Mtを算出する。
【0171】
Mt=Qafm×加重平均係数+(1-加重平均係数)×Mt(前回値)
…(12)
ただし、Mt(前回値):Mtの前回値、
コレクタ圧力センサ142により検出されるコクレタ27圧力Pcolを入力するコレクタ圧力変化量演算手段154では、コレクタ圧力変化量ΔP(=Pcol-Pcol(前回値))を算出する。
【0172】
1吸気当たりシリンダ吸気質量演算手段155では、次式により1吸気当たりシリンダ吸気質量Mcを演算する。
【0173】
Mc0=Mt-ΔP×Vcol/(R・Ta) …(13)
Mc=係数×(Mc0/Ne)/気筒数 …(14)
ただし、Vcol:コレクタ容積、
Ta :吸気温度、
R :ガス定数、
充填効率検出値演算手段156では次式により充填効率検出値ηcrealを演算する。
【0174】
ηcreal=Mc/Mcbase …(15)
ただし、Mcbase:標準状態の1吸気当たりシリンダ吸気質量(一定値)、
図30に戻り、EGR弁閉故障判定手段134では次のようにしてEGR弁25に閉故障が生じているか否かを判定する。すなわち、充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestを比較して充填効率検出値ηcrealが異常とみなせるほど大きいときにEGR弁25に閉故障があると診断する。具体的に説明すると、図32は充填効率推定値ηcest(破線参照)と、EGR弁25の閉故障によりEGRガスが吸気通路22に導入されなかったときの充填効率検出値ηcreal(実線参照)とを重ねて示したもので、充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値ηcestより大きくなる側に外れる突起が生じている。これは、EGR弁25を開いてEGRガスを導入しようとしているのにEGR弁25の閉故障により実際にはEGRガスが入らないと、燃焼室に推定値より実際の吸気量が多く入るためであり、EGRを行う運転域でこのような充填効率検出値ηcrealの突起が現れる。この場合、図32に示す特性は両対数表示なので、実数表示における充填効率検出値ηcrealと充填効率推定値ηcestの差は図32においては比(ずれ率)となり、ずれ率は目標EGR率が大きいほど大きくなる。」

(2)「【0216】
第14実施形態は、充填効率検出値に基づいて燃料噴射パルス幅Ti(燃料供給量)を算出するものを前提とし、充填効率推定値ηcestと、充填効率検出手段133により検出される充填効率検出値ηcrealとを比較し、充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値ηcestより異常とみなせるほど大きい側や小さい側にずれているときに充填効率検出手段としてのエアフローメータ141が異常な出力をしていると判断して充填効率検出値ηcrealを所定の範囲に制限し、その所定の範囲に制限した充填効率検出値ηcrealに基づいて燃料噴射パルス幅Tiを算出し、さらに充填効率検出値ηcrealが所定の範囲に制限されている状態が所定時間以上継続したときにはフェールセーフのため充填効率検出値ηcrealに代えて充填効率推定値ηcestを用いて燃料噴射パルス幅Tiを算出するものである。
【0217】
ここでも、第10実施形態と相違する部分を主に説明すると、まずエアフローメータ出力異常判定手段201では充填効率検出値ηcrealと、充填効率推定値の上限値ηcestMAX、充填効率推定値の下限値ηcestMINとをそれぞれ比較して充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値上限値ηcestMAXを上回ったり、この逆に充填効率ηcrealが充填効率推定値下限値ηcestMINを下回るときにはフェールセーフ処理手段202が充填効率検出値ηcrealを上限値ηcestMAXや下限値ηcestMINに制限し、燃料噴射パルス幅算出手段203が、この制限された充填効率検出値ηcrealに基づいて上記(19)式、(20)式により燃料噴射パルス幅Tiを算出する。さらに、エアフローメータ出力異常判定手段201において充填効率検出値ηcrealが上限値ηcestMAXや下限値ηcestMINに制限されている状態が所定時間以上継続したことを判定したときにはエアフローメータ出力に異常があると判定し、フェールセーフ処理手段202が充填効率検出値ηcrealを充填効率推定値ηcestへと切換え、切換えた後には燃料噴射パルス幅算出手段203が充填効率検出値ηcrealに代えて充填効率推定値ηcestを用いて上記(19)式、(20)式により燃料噴射パルス幅Tiを算出する。」

(3)(1)より、充填効率検出値ηcrealは、ホットワイヤ式のエアフローメータ141の出力電圧を受ける電圧から順次演算されて得られる値であることが把握できる。

したがって、引用文献3には次の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献3記載事項>
「ホットワイヤ式のエアフローメータ141の出力電圧を受ける電圧から順次演算されて得られる値である充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値上限値ηcestMAXを上回ったり、この逆に充填効率ηcrealが充填効率推定値下限値ηcestMINを下回るときにはフェールセーフ処理手段202が充填効率検出値ηcrealを上限値ηcestMAXや下限値ηcestMINに制限すること。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「記憶装置」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明1における「記憶装置」に相当し、以下同様に、「実行装置」は「実行装置」に、「外気温変数」は「外気温変数」に、「流体エネルギ変数」は「流体エネルギ変数」に、「触媒の温度の推定値」は「触媒の温度の推定値」に、「写像」は「写像」に、「写像データ」は「写像データ」に、「取得処理」は「取得処理」にそれぞれ相当する。
また、引用発明における「内燃機関の燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比とするための燃料量」及び「実際に燃焼室に直接噴射された噴射量」は、それぞれ本願発明1における「内燃機関の燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比とする上で必要な燃料量」及び「実際の噴射量」に相当するから、引用発明における「過剰量変数」は、本願発明1における「過剰量変数」に相当する。
さらに、引用発明における「取得処理によって取得されたデータ」は、「取得処理」により「前記少なくとも1つの変数、前記流体エネルギ変数、および前記推定値の前回値を取得する」ことから、本願発明1における「前記取得処理で取得した前記少なくとも1つの変数、前記流体エネルギ変数および前記推定値の前回値」に相当するので、引用発明における「温度算出処理」は、本願発明1における「算出処理」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「記憶装置と、実行装置と、を備え、
前記記憶装置は、内燃機関の周囲の外気の温度に関する変数である外気温変数と前記内燃機関の燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比とする上で必要な燃料量に対する実際の噴射量の過剰量に応じた変数である過剰量変数との2つのうちの少なくとも1つの変数、前記内燃機関の排気通路に設けられた触媒に流入する流体のエネルギに関する状態変数である流体エネルギ変数、および前記触媒の温度の推定値の前回値を入力とし、前記触媒の温度の推定値を出力する写像を規定するデータである写像データを記憶しており、
前記実行装置は、
前記少なくとも1つの変数、前記流体エネルギ変数、および前記推定値の前回値を取得する取得処理、
前記取得処理で取得した前記少なくとも1つの変数、前記流体エネルギ変数、および前記推定値の前回値を前記写像に入力し、前記写像から前記触媒の温度の推定値を出力させる算出処理、を実行し、
前記写像データは、機械学習によって学習済みのデータである、
内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定装置。」

<相違点>
本願発明1は「前記実行装置は、前記推定値が許容範囲外である場合に、前記推定値を前記許容範囲に近づけるまたは前記許容範囲内の値にするガード処理を実行し、前記ガード処理を実行した場合には、前記ガード処理後の値を前記推定値として算出する」のに対して、引用発明はそのような事項を備えていない点。

上記相違点について検討する。
引用文献2記載事項は、第4の2で述べたとおり、「センサの出力値が上限値を越えるとその直前のセンサ出力値を初期値として出力し、その後所定時間経過した後においてもセンサ出力値が限界値を越えている場合には、予め定められた所定の最終値を出力すること。」である。
また、引用文献3記載事項は、第4の3で述べたとおり、「ホットワイヤ式のエアフローメータ141の出力電圧を受ける電圧から順次演算されて得られる値である充填効率検出値ηcrealが充填効率推定値上限値ηcestMAXを上回ったり、この逆に充填効率ηcrealが充填効率推定値下限値ηcestMINを下回るときにはフェールセーフ処理手段202が充填効率検出値ηcrealを上限値ηcestMAXや下限値ηcestMINに制限すること。」であるから、引用文献3記載事項は、センサの出力値に基づいて演算される値を所定の上限値又は下限値に制限しているといえる。
しかしながら、引用文献2及び引用文献3記載事項のどちらにも、写像データとして、機械学習によって学習済みのデータを含む写像の出力に対して所定の上限値又は下限値に制限するという事項は開示されていない。
そのため、学習時には想定していなかったパラメータが入力された場合に、許容できるデータの範囲を超えて、出力層からデータが出力されることを抑制するという課題は自明とはいえないから、引用発明に引用文献2又は引用文献3記載事項を適用して、「写像」から出力される「触媒の温度の推定値」に対して所定の上限値又は下限値に制限すること、すなわち、「ガード処理」を実行するという動機付けは起こり得ない。
そうすると、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項は、引用発明並びに引用文献2及び引用文献3記載事項から、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、他に、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者が容易に想到し得たという証拠や根拠もない。
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明並びに引用文献2及び引用文献3記載事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2ないし7について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし7は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく直接的又は間接的に引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし7は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし7は、本願発明1について述べたものと同様の理由により、引用発明並びに引用文献2及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 小括
そうすると、本願発明1ないし7は、引用発明並びに引用文献2及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-14 
出願番号 特願2019-187698(P2019-187698)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 高島 壮基
鈴木 充
発明の名称 内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定装置、内燃機関の排気通路に設けられた触媒の温度の推定システム、データ解析装置、および内燃機関の制御装置  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
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