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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1374843
審判番号 不服2020-9780  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-13 
確定日 2021-06-29 
事件の表示 特願2018- 70956「プーリ構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018-179293、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年4月2日(優先権主張 平成29年4月19日)の出願であって、令和2年3月12日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年4月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、令和2年5月28日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和2年7月13日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正(以下、「審判請求時の補正」という。)がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1-2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2014-114947号公報


第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正では、明細書の段落【0056】,【0057】,【0063】の【表1】及び【図8】が補正された。
明細書の段落【0056】,【0057】及び【0063】の【表1】において、コイルばね(4)の巻き数である「7」を「7.000」とする補正は、参考例1におけるコイルばね(4)の巻き数の「7」が、比較例1,2、実施例1?4、参考例1?4におけるコイルばね(4)の巻き数及び変動角度の記載から、「7.000」を示していることが明らかであるから、新規事項を追加するものではないといえる。
また、図8において、図中の「実施例1」を「参考例1」とする補正は、令和2年4月21日付けの手続補正において、「実施例1」を「参考例1」と補正したのに合わせたものであるから、新規事項を追加するものではないといえる。
したがって、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。


第4 本願発明
本願請求項1-2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明2」という。)は、令和2年4月21日にした手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-2に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ベルトが巻き掛けられる筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記外回転体と同一の回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されているコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、拡径又は縮径方向にねじり変形することによって、前記外回転体及び前記内回転体と係合して、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクを伝達し、トルクの伝達時と反対方向にねじり変形することによって、前記外回転体又は前記内回転体と摺動する係合解除状態となって、前記外回転体と前記内回転体との間でのトルクの伝達を遮断するように構成され、
前記コイルばねの巻き数は、Mを自然数として、[M-0.069]以上且つM未満の範囲内である、プーリ構造体。
【請求項2】
前記コイルばねが前記係合解除状態となるときの前記コイルばねのねじりトルクは、1N・m以上10N・m以下に設定されている、請求項1に記載のプーリ構造体。」


第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審において付与した。)。

(1)「【0036】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態のプーリ構造体1について説明する。
本実施形態のプーリ構造体1は、自動車の補機駆動システム(図示省略)において、オルタネータの駆動軸に設置される。補機駆動システムは、エンジンのクランク軸に連結された駆動プーリと、オルタネータ等の補機を駆動する従動プーリとにわたってベルトが掛け渡された構成であって、クランク軸の回転がベルトを介して従動プーリに伝達されることで、オルタネータ等の補機が駆動される。クランク軸は、エンジン燃焼に起因して回転速度が変動し、それに伴いベルトの速度も変動する。
【0037】
図1?図3に示すように、本実施形態のプーリ構造体1は、ベルトBが巻き掛けられる略筒状の第1回転体2と、第1回転体2の内側に回転軸を同一に配置される略筒状の第2回転体3と、第1回転体2と第2回転体3との間のばね収容空間8に収容されるねじりコイルばね4と、第1回転体2および第2回転体3の軸方向一端に配置されたエンドキャップ5とを備えている。以下の説明において、図1中の紙面上左方向を前方向、右方向を後方向と称する。後述する第2実施形態?第7実施形態でも同様とする。」

(2)「【0048】
次に、プーリ構造体1の動作について説明する。
【0049】
先ず、第1回転体2の回転速度が第2回転体3の回転速度より速くなった場合、即ち、第1回転体2が加速する場合について説明する。この場合、第1回転体2は、第2回転体3に対して回転方向(図2および図3の矢印方向)と同じ方向に相対回転する。
【0050】
第1回転体2の相対回転に伴って、ねじりコイルばね4の後端側領域が、第1回転体2の圧接面2aとともに第2回転体3に対して相対回転する。これにより、ねじりコイルばね4は、拡径方向にねじれる。
【0051】
ねじりコイルばね4の後端側領域の圧接面2aに対する圧接力は、ねじりコイルばね4のねじり角度が大きくなるほど増大する。
【0052】
ねじりコイルばね4の拡径方向のねじり角度が所定の角度θ1(例えば5°)未満の場合には、ねじりコイルばね4の前端側領域(他端側領域)4bの接触面3cに対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干低下するものの、ねじりコイルばね4の前端側領域(他端側領域)4bは接触面3cに圧接している。
【0053】
ねじりコイルばね4の拡径方向のねじり角度がθ1のとき、ねじりコイルばね4の前端側領域(他端側領域)4bの接触面3cに対する圧接力はほぼゼロとなり、ねじりコイルばね4の前端側領域(他端側領域)4bが、接触面3cを周方向に摺動して、ねじりコイルばね4の前端面4aが、第2回転体3の当接面3dを周方向に押圧する。前端面4aが当接面3dを押圧するため、2つの回転体2、3の間で確実にトルクを伝達できる。」

(3)「【0057】
次に、第1回転体2の回転速度が第2回転体3の回転速度より遅くなった場合、即ち、第1回転体2が減速する場合について説明する。この場合、第1回転体2は、第2回転体3に対して回転方向(図2および図3の矢印方向)と逆方向に相対回転する。
【0058】
第1回転体2の相対回転に伴って、ねじりコイルばね4の後端側領域が、第1回転体2の圧接面2aとともに第2回転体3に対して相対回転するため、ねじりコイルばね4は、縮径方向にねじれる。
【0059】
ねじりコイルばね4の縮径方向のねじり角度が所定の角度θ3(例えば10°)未満の場合には、ねじりコイルばね4の後端側領域の圧接面2aに対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干低下するものの、ねじりコイルばね4の後端側領域は圧接面2aに圧接している。また、ねじりコイルばね4の前端側領域の接触面3cに対する圧接力は、ねじり角度がゼロの場合に比べて若干増大する。
【0060】
ねじりコイルばね4の縮径方向のねじり角度が角度θ3以上の場合には、ねじりコイルばね4の後端側領域の圧接面2aに対する圧接力はほぼゼロとなり、ねじりコイルばね4の後端側領域は圧接面2aを周方向に摺動する。したがって、2つの回転体2、3の間でトルクは伝達されない。」

(4)「【0210】
また、上記第1?第7実施形態では、ねじりコイルばねの巻き数は4であるが(図1、5、8、11参照)、これより多くても少なくてもよい。」

(5)「【図1】



(6)図1において、ねじりコイルばね4の後端側領域(一端側領域)の軸方向の端面が第1回転体2に、ねじりコイルばね4の前端側領域(他端側領域)4bの軸方向の端面が第2回転体3に、それぞれ当接していることが看取できる。

摘記事項(1)?(5)及び認定事項(6)から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ベルトBが巻き掛けられる略筒状の第1回転体2と、第1回転体2の内側に回転軸を同一に配置され、第1回転体2に対して相対回転可能に設けられる略筒状の第2回転体3と、第1回転体2と第2回転体3との間のばね収容空間8に収容され、後端側領域(一端側領域)の軸方向の端面が第1回転体2に、前端側領域(他端側領域)4bの軸方向の端面が第2回転体3に、それぞれ当接しているねじりコイルばね4と、を備え、コイルばね4は、拡径方向にねじれることによって、ねじりコイルばね4の後端側領域が第1回転体2の圧接面2aに圧接するとともに、ねじりコイルばね4の前端面4aが、第2回転体3の当接面3dを周方向に押圧して、第1回転体2と第2回転体3との間でトルクを伝達し、ねじりコイルばね4は、縮径方向にねじれることにより、ねじりコイルばね4の後端側領域の圧接面2aに対する圧接力はほぼゼロとなり、ねじりコイルばね4の後端側領域は圧接面2aを周方向に摺動して、第1回転体2と第2回転体3との間でトルクは伝達されず、ねじりコイルばね4の巻き数は、4である、プーリ構造体1。」


第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明における「ベルトB」、「略筒状の第1回転体2」、「略筒状の第2回転体3」、「ねじりコイルばね4」、「プーリ構造体1」は、本願発明1における「ベルト」、「筒状の外回転体」、「内回転体」、「コイルばね」、「プーリ構造体」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明における「後端側領域(一端側領域)の軸方向の端面が第1回転体2に、前端側領域(他端側領域)4bの軸方向の端面が第2回転体3に、それぞれ当接しているねじりコイルばね4」は、ねじりコイルばねの軸方向の両端面が、それぞれ部材に当接されていれば、当該ねじりコイルばねは、軸方向に圧縮された状態にあるといえるから、本願発明1における「前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されているコイルばね」に相当する。

ウ 引用発明における「ねじりコイルばね4の後端側領域が第1回転体2の圧接面2aに圧接するとともに、ねじりコイルばね4の前端面4aが、第2回転体3の当接面3dを周方向に押圧して」いることは、ねじりコイルばね4の後端側領域が第1回転体2の圧接面2aに圧接することにより係合し、ねじりコイルばね4の前端面4aが、第2回転体3の当接面3dを周方向に押圧することにより係合することを意味しているから、本願発明1の「前記コイルばねは、…前記外回転体及び前記内回転体と係合して」に相当する。

エ 引用発明における「縮径方向にねじれることにより」は、引用発明では、トルク伝達時は「拡径方向にねじれる」ものであるから、本願発明1の「トルクの伝達時と反対方向にねじり変形することによって」に相当する。

オ 引用発明における「ねじりコイルばね4の後端側領域の圧接面2aに対する圧接力はほぼゼロとなり、ねじりコイルばね4の後端側領域は圧接面2aを周方向に摺動して」いることは、ウで示したように、引用発明は、ねじりコイルばね4の後端側領域が第1回転体2の圧接面2aに圧接することにより係合するものであり、その圧接力がほぼゼロになることは、圧接による係合状態が解除されることを意味するから、本願発明1の「前記外回転体又は前記内回転体と摺動する係合解除状態となって」に相当する。

カ 引用発明における「第1回転体2と第2回転体3との間でトルクは伝達されず」は、トルクが伝達されないことは、トルクの伝達が遮断されていることを意味するから、本願発明1の「前記外回転体と前記内回転体との間でのトルクの伝達を遮断する」に相当する。

してみると、引用発明と本願発明1とは、
「ベルトが巻き掛けられる筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記外回転体と同一の回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されているコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、拡径又は縮径方向にねじり変形することによって、前記外回転体及び前記内回転体と係合して、前記外回転体と前記内回転体との間でトルクを伝達し、トルクの伝達時と反対方向にねじり変形することによって、前記外回転体又は前記内回転体と摺動する係合解除状態となって、前記外回転体と前記内回転体との間でのトルクの伝達を遮断するように構成される、
プーリ構造体。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本願発明1は「前記コイルばねの巻き数は、Mを自然数として、[M-0.069]以上且つM未満の範囲内である」のに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。


(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。

引用発明は、「第5 1.(4)」に示すように、「ねじりコイルばねの巻き数は4であるが(図1、5、8、11参照)、これより多くても少なくてもよい。」ものである。しかしながら、引用文献1には、「クラッチ係合部のコイルばねと摺動する部分に異常摩耗が生じる」ことを解決するために、ねじりコイルばねの巻き数を所定の範囲に設定することについては開示も示唆もされておらず、また係る事項が当業者にとって自明ともいえないから、引用発明の「ねじりコイルばね4」について、本願発明1のように「前記コイルばねの巻き数は、Mを自然数として、[M-0.069]以上且つM未満の範囲内である」とすることの動機付けは存在しない。

してみると、引用発明において、「前記コイルばねの巻き数は、Mを自然数として、[M-0.069]以上且つM未満の範囲内である」ようにすることは、当業者といえども容易になし得たものとはいえない。

一方、本願発明1は、「前記コイルばねの巻き数は、Mを自然数として、[M-0.069]以上且つM未満の範囲内である」という構成を備えることにより、「コイルばねの巻き数をこの範囲内とする場合は、外回転体と内回転体との間で軸方向に圧縮されているコイルばねの姿勢をさらに安定にさせて、圧縮荷重状態でコイルばねを一方向に傾けようとする力のモーメントが、コイルばねのクラッチ係合部と接触する部分に作用するのをより確実に抑制できる。そのため、コイルバネ(クラッチ)の係合解除時に、クラッチ係合部のコイルばねと摺動する部分に作用する面圧がより確実に均一になる。これにより、クラッチ係合部のコイルばねと摺動する部分に異常摩耗が生じるのをより確実に抑制できる。」(本願明細書の段落【0013】)という効果を奏するものである。

そして、本願発明1が奏する上記効果は、引用発明が「クラッチ係合部のコイルばねと摺動する部分に異常摩耗が生じる」ことについて考慮していないことや、技術常識を鑑みても、引用発明から当業者が予測し得ないものといえる。

したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。


2.本願発明2について
本願発明2も、本願発明1の「前記コイルばねの巻き数は、Mを自然数として、[M-0.069]以上且つM未満の範囲内である」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-2は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-06-11 
出願番号 特願2018-70956(P2018-70956)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 前田 浩  
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 尾崎 和寛
中村 大輔
発明の名称 プーリ構造体  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  

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