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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1374849
審判番号 不服2020-15248  
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-04 
確定日 2021-06-29 
事件の表示 特願2017- 53328「半導体装置の製造方法、基板処理装置およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月 4日出願公開、特開2018-157095、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年3月17日の出願であって,令和元年12月12日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年2月17日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ,同年7月29日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年11月4日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定(令和2年7月29日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。
本願の請求項1-18に係る発明は,以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献3),ないし,引用文献1,2に記載された各発明及び周知技術(引用文献3)に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2014-165395号公報
2.特開2012-124322号公報
3.特開2014-208883号公報

第3 本願発明
本願請求項1-18に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明18」といい,まとめて「本願発明」ともいう。)は,令和2年11月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-18に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1,17,18は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
(a)表面にパターンが形成された基板に対して,形成しようとする膜を構成する主元素を含む原料を供給することで,前記主元素を含む第1層を形成する工程と,
(b)前記基板に対して,炭素,窒素および水素の3元素で構成される第1反応体を供給することで,前記第1層上に前記第1反応体の一部が分解した物質を吸着させて,前記主元素,炭素および窒素を含む第2層を形成する工程と,
を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで,前記パターン上に,前記主元素,炭素および窒素を含む膜を形成する工程を有し,
1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする半導体装置の製造方法。
【請求項17】
基板に対して処理が行われる処理室と,
前記処理室内の基板に対して,形成しようとする膜を構成する主元素を含む原料を供給する原料供給系と,
前記処理室内の基板に対して,炭素,窒素および水素の3元素で構成される第1反応体を供給する第1反応体供給系と,
前記処理室内において,(a)表面にパターンが形成された基板に対して,前記原料を供給することで,前記主元素を含む第1層を形成する処理と,(b)前記基板に対して前記第1反応体を供給することで,前記第1層上に前記第1反応体の一部が分解した物質を吸着させて,前記主元素,炭素および窒素を含む第2層を形成する処理と,を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで,前記パターン上に,前記主元素,炭素および窒素を含む膜を形成する処理を行わせ,1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くするように,前記原料供給系および前記第1反応体供給系を制御するよう構成される制御部と,
を有する基板処理装置。
【請求項18】
基板処理装置の処理室内において,
(a)表面にパターンが形成された基板に対して,形成しようとする膜を構成する主元素を含む原料を供給することで,前記主元素を含む第1層を形成する手順と,
(b)前記基板に対して炭素,窒素および水素の3元素で構成される第1反応体を供給することで,前記第1層上に前記第1反応体の一部が分解した物質を吸着させて,前記主元素,炭素および窒素を含む第2層を形成する手順と,
を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで,前記パターン上に,前記主元素,炭素および窒素を含む膜を形成する手順と,
1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする手順と,
をコンピュータによって前記基板処理装置に実行させるプログラム。」

なお,本願発明2-16は,本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下,同様である。)。
(1)「【請求項1】
基板に対して所定元素とハロゲン元素とを含む第1の処理ガスを供給する工程と,
前記基板に対して炭素および窒素を含む第2の処理ガスを供給する工程と,
前記基板に対して炭素を含む第3の処理ガスを供給する工程と,
前記基板に対して前記各処理ガスとは異なる第4の処理ガスを供給する工程と,
を含むサイクルを所定回数行うことで,前記基板上に,少なくとも前記所定元素および炭素を含む膜を形成する工程を有する半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記サイクルは,前記第3の処理ガスを供給する工程を,少なくとも前記第2の処理ガスの供給期間に行う工程を含む請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
基板を収容する処理室と,
前記処理室内へ所定元素とハロゲン元素とを含む第1の処理ガスを供給する第1ガス供給系と,
前記処理室内へ炭素および窒素を含む第2の処理ガスを供給する第2ガス供給系と,
前記処理室内へ炭素を含む第3の処理ガスを供給する第3ガス供給系と,
前記処理室内へ前記各処理ガスとは異なる第4の処理ガスを供給する第4ガス供給系と,
前記処理室内の基板に対して前記第1の処理ガスを供給する処理と,前記処理室内の前記基板に対して前記第2の処理ガスを供給する処理と,前記処理室内の前記基板に対して前記第3の処理ガスを供給する処理と,前記処理室内の前記基板に対して前記第4の処理ガスを供給する処理と,を含むサイクルを所定回数行うことで,前記基板上に,少なくとも前記所定元素および炭素を含む膜を形成する処理を行うように,前記第1ガス供給系,前記第2ガス供給系,前記第3ガス供給系および前記第4ガス供給系を制御する制御部と,
を有する基板処理装置。
【請求項4】
基板処理装置の処理室内の基板に対して所定元素とハロゲン元素とを含む第1の処理ガスを供給する手順と,
前記基板に対して炭素および窒素を含む第2の処理ガスを供給する手順と,
前記基板に対して炭素を含む第3の処理ガスを供給する手順と,
前記基板に対して前記各処理ガスとは異なる第4の処理ガスを供給する手順と,
を含むサイクルを所定回数行うことで,前記基板上に,少なくとも前記所定元素および炭素を含む膜を形成する手順をコンピュータに実行させるプログラム。」

(2)「【技術分野】
【0001】
この発明は,基板上に薄膜を形成する工程を含む半導体装置の製造方法,基板処理装置およびプログラムに関する。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,絶縁膜へのカーボン添加により,絶縁膜のエッチング耐性を向上させることが可能となる一方,誘電率が増加し,リーク耐性が劣化してしまうことがある。すなわち,低誘電率,高エッチング耐性,高リーク耐性の特性はトレードオフの関係にある。各特性に対する要求は絶縁膜の用途により異なるが,要求を満たす絶縁膜を形成するには,膜中における組成の制御性を高めることが課題であった。
【0004】
本発明の目的は,膜中における組成の制御性を高め,低誘電率,高エッチング耐性,高リーク耐性の特性を備える薄膜を形成することにある。」

(4)「【0043】
以下,本実施形態の成膜シーケンスを,図4,図5を用いて具体的に説明する。図4は,本実施形態における成膜フローを示す図である。図5は,本実施形態の成膜シーケンスにおけるガス供給のタイミングを示す図である。
【0044】
なお,ここでは,
ウエハ200に対して第1の処理ガスとしてクロロシラン系原料ガスであるHCDSガスを供給する工程と,
ウエハ200に対して第2の処理ガスとしてアミン系ガスであるTEAガスを供給する工程と,
ウエハ200に対して第3の処理ガスとして炭化水素系ガスであるC_(3)H_(6)ガスを供給する工程と,
ウエハ200に対して第4の処理ガスとして酸化ガスであるO_(2)ガスを供給する工程と,
を含むサイクルを所定回数(n回)行うことで,ウエハ200上に,少なくとも所定元素および炭素を含む膜として,所定組成及び所定膜厚のシリコン系絶縁膜であるシリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)またはシリコン酸炭化膜(SiOC膜)を形成する例について説明する。また,ここでは,C_(3)H_(6)ガスを供給する工程を,TEAガスを供給する工程と同時に行う例,すなわち,C_(3)H_(6)ガスを供給する工程を,TEAガスの供給期間に行い,TEAガスの供給停止期間には行わない例について説明する。
【0045】
なお,本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は,「ウエハそのもの」を意味する場合や,「ウエハとその表面に形成された所定の層や膜等との積層体(集合体)」を意味する場合(すなわち,表面に形成された所定の層や膜等を含めてウエハと称する場合)がある。また,本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は,「ウエハそのものの表面(露出面)」を意味する場合や,「ウエハ上に形成された所定の層や膜等の表面,すなわち,積層体としてのウエハの最表面」を意味する場合がある。
【0046】
従って,本明細書において「ウエハに対して所定のガスを供給する」と記載した場合は,「ウエハそのものの表面(露出面)に対して所定のガスを直接供給する」ことを意味する場合や,「ウエハ上に形成されている層や膜等に対して,すなわち,積層体としてのウエハの最表面に対して所定のガスを供給する」ことを意味する場合がある。また,本明細書において「ウエハ上に所定の層(又は膜)を形成する」と記載した場合は,「ウエハそのものの表面(露出面)上に所定の層(又は膜)を直接形成する」ことを意味する場合や,「ウエハ上に形成されている層や膜等の上,すなわち,積層体としてのウエハの最表面の上に所定の層(又は膜)を形成する」ことを意味する場合がある。
【0047】
なお,本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も,「ウエハ」という言葉を用いた場合と同様であり,その場合,上記説明において,「ウエハ」を「基板」に置き換えて考えればよい。
・・・
【0050】
(シリコン酸炭窒化膜またはシリコン酸炭化膜形成工程)
その後,次の3つのステップ,すなわち,ステップ1?3を順次実行する。
【0051】
[ステップ1]
(HCDSガス供給)
第1ガス供給管232aのバルブ243aを開き,第1ガス供給管232a内にHCDSガスを流す。第1ガス供給管232a内を流れたHCDSガスは,MFC241aにより流量調整される。流量調整されたHCDSガスは,第1ノズル249aのガス供給孔250aから処理室201内に供給され,排気管231から排気される。このとき,ウエハ200に対してHCDSガスが供給されることとなる。このとき同時にバルブ243fを開き,第1不活性ガス供給管232f内に不活性ガスとしてのN_(2)ガスを流す。第1不活性ガス供給管232f内を流れたN_(2)ガスは,MFC241fにより流量調整される。流量調整されたN_(2)ガスは,HCDSガスと一緒に処理室201内に供給され,排気管231から排気される。
【0052】
なお,このとき,第2ノズル249b,第3ノズル249c内へのHCDSガスの侵入を防止するため,バルブ243g,243hを開き,第2不活性ガス供給管232g,第3不活性ガス供給管232h内にN_(2)ガスを流す。N_(2)ガスは,第2ガス供給管232b,第3ガス供給管232c,第2ノズル249b,第3ノズル249cを介して処理室201内に供給され,排気管231から排気される。
【0053】
このときAPCバルブ244を適正に調整して,処理室201内の圧力を,例えば1?13300Pa,好ましくは20?1330Paの範囲内の圧力とする。MFC241aで制御するHCDSガスの供給流量は,例えば1?1000sccmの範囲内の流量とする。MFC241f,241g,241hで制御するN_(2)ガスの供給流量は,それぞれ例えば100?10000sccmの範囲内の流量とする。HCDSガスをウエハ200に対して供給する時間,すなわち,ガス供給時間(照射時間)は,例えば1?120秒,好ましくは1?60秒の範囲内の時間とする。このときヒータ207の温度は,ウエハ200の温度が,例えば250?700℃,好ましくは300?650℃,より好ましくは350?600℃の範囲内の温度となるような温度に設定する。なお,ウエハ200の温度が250℃未満となるとウエハ200上にHCDSが化学吸着しにくくなり,実用的な成膜速度が得られなくなることがある。ウエハ200の温度を250℃以上とすることで,これを解消することが可能となる。なお,ウエハ200の温度を300℃以上,さらには350℃以上とすることで,ウエハ200上にHCDSをより十分に吸着させることが可能となり,より十分な成膜速度が得られるようになる。また,ウエハ200の温度が700℃を超えるとCVD反応が強くなる(気相反応が支配的になる)ことで,膜厚均一性が悪化しやすくなり,その制御が困難となってしまう。ウエハ200の温度を700℃以下とすることで,膜厚均一性の悪化を抑制でき,その制御が可能となる。特にウエハ200の温度を650℃以下,さらには600℃以下とすることで,表面反応が支配的になり,膜厚均一性を確保しやすくなり,その制御が容易となる。よって,ウエハ200の温度は250?700℃,好ましくは300?650℃,より好ましくは350?600℃の範囲内の温度とするのがよい。
【0054】
上述の条件下でウエハ200に対してHCDSガスを供給することにより,ウエハ200(表面の下地膜)上に,所定元素(シリコン)とハロゲン元素(塩素)とを含む初期層として,例えば1原子層未満から数原子層程度の厚さの塩素(Cl)を含むシリコン含有層(Si含有層)が形成される。Clを含むSi含有層はHCDSガスの吸着層であってもよいし,Clを含むシリコン層(Si層)であってもよいし,その両方を含んでいてもよい。
・・・
【0062】
クロロシラン系原料ガスとしては,ヘキサクロロジシラン(Si_(2)Cl_(6),略称:HCDS)ガスの他,テトラクロロシランすなわちシリコンテトラクロライド(SiCl_(4),略称:STC)ガス,トリクロロシラン(SiHCl_(3),略称:TCS)ガス,ジクロロシラン(SiH_(2)Cl_(2),略称:DCS)ガス,モノクロロシラン(SiH_(3)Cl,略称:MCS)ガス等の無機原料ガスを用いてもよい。不活性ガスとしては,N_(2)ガスの他,Arガス,Heガス,Neガス,Xeガス等の希ガスを用いてもよい。
【0063】
[ステップ2]
(TEAガス及びC_(3)H_(6)ガス供給)
ステップ1が終了し処理室201内の残留ガスを除去した後,第2ガス供給管232bのバルブ243bを開き,第2ガス供給管232b内にTEAガスを流す。第2ガス供給管232b内を流れたTEAガスは,MFC241bにより流量調整される。流量調整されたTEAガスは,第2ノズル249bのガス供給孔250bから処理室201内へ供給される。このとき同時にバルブ243gを開き,第2不活性ガス供給管232g内に不活性ガスとしてのN_(2)ガスを流す。第2不活性ガス供給管232g内を流れたN_(2)ガスは,MFC241gにより流量調整される。流量調整されたN_(2)ガスは,TEAガスと一緒に処理室201内へ供給される。
【0064】
このとき同時に,第3ガス供給管232cのバルブ243cを開き,第3ガス供給管232c内にC_(3)H_(6)ガスを流す。第3ガス供給管232c内を流れたC_(3)H_(6)ガスは,MFC241cにより流量調整される。流量調整されたC_(3)H_(6)ガスは,第3ノズル249cのガス供給孔250cから処理室201内へ供給される。このとき同時にバルブ243hを開き,第3不活性ガス供給管232h内に不活性ガスとしてのN_(2)ガスを流す。第3不活性ガス供給管232h内を流れたN_(2)ガスは,MFC241hにより流量調整される。流量調整されたN_(2)ガスは,C_(3)H_(6)ガスと一緒に処理室201内へ供給される。
【0065】
処理室201内に供給されたTEAガス及びC_(3)H_(6)ガスは,それぞれ熱で活性化(励起)され,第2不活性ガス供給管232g及び第3不活性ガス供給管232hから供給されたN_(2)ガスと共に,排気管231から排気される。このとき,ウエハ200に対して,熱で活性化されたTEAガス及び熱で活性化されたC_(3)H_(6)ガスが同時に供給されることとなる。
【0066】
なお,このとき,第1ノズル249a内へのTEAガス及びC_(3)H_(6)ガスの侵入を防止するため,バルブ243fを開き,第1不活性ガス供給管232f内にN_(2)ガスを流す。N_(2)ガスは,第1ガス供給管232a,第1ノズル249aを介して処理室201内に供給され,排気管231から排気される。
【0067】
このときAPCバルブ244を適正に調整して,処理室201内の圧力を,例えば1?13300Pa,好ましくは399?3990Paの範囲内の圧力とする。処理室201内の圧力をこのような比較的高い圧力帯とすることで,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスをノンプラズマで熱的に活性化させることが可能となる。なお,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスを熱で活性化させて供給することで,ソフトな反応を生じさせることができ,後述する改質をソフトに行うことが出来る。MFC241bで制御するTEAガスの供給流量は,例えば100?2000sccmの範囲内の流量とする。MFC241cで制御するC_(3)H_(6)ガスの供給流量は,例えば100?10000sccmの範囲内の流量とする。MFC241g,241h,241fで制御するN_(2)ガスの供給流量は,それぞれ例えば100?10000sccmの範囲内の流量とする。このとき処理室201内におけるTEAガスの分圧は,0.01?12667Paの範囲内の圧力とする。また,このとき処理室201内におけるC_(3)H_(6)ガスの分圧は,0.01?13168Paの範囲内の圧力とする。熱で活性化させたTEAガス及び熱で活性化させたC_(3)H_(6)ガスをウエハ200に対して供給する時間,すなわち,ガス供給時間(照射時間)は,例えば1?120秒,好ましくは1?60秒の範囲内の時間とする。このときのヒータ207の温度は,ステップ1と同様,ウエハ200の温度が,例えば250?700℃,好ましくは300?650℃,より好ましくは350?600℃の範囲内の温度となるような温度に設定する。
【0068】
上述の条件下でウエハ200に対してTEAガスを供給することにより,ステップ1でウエハ200上に形成された初期層としてのClを含むSi含有層と,TEAガスとを反応させることができる。すなわち,初期層としてのClを含むSi含有層に含まれるハロゲン元素(Cl)の原子(Cl原子)と,TEAガスに含まれるリガンド(エチル基)と,を反応させることができる。それにより,初期層に含まれるClのうち少なくとも一部のClを初期層から引き抜く(分離させる)とともに,TEAガスに含まれる複数のエチル基のうち少なくとも一部のエチル基をTEAガスから分離させることができる。そして,少なくとも一部のエチル基が分離したTEAガスのNと,初期層に含まれるSiと,を結合させることができる。すなわち,TEAガスを構成するNであって少なくとも一部のエチル基が外れ未結合手(ダングリングボンド)を有することとなったNと,初期層に含まれ未結合手を有することとなったSi,もしくは,未結合手を有していたSiと,を結合させて,Si-N結合を形成することが可能となる。またこのとき,TEAガスから分離したエチル基(-CH_(2)CH_(3))に含まれるCと,初期層に含まれるSiと,を結合させて,Si-C結合を形成することも可能となる。これらの結果,初期層中からClが脱離すると共に,初期層中に,N成分が新たに取り込まれることとなる。またこのとき,初期層中に,C成分も新たに取り込まれることとなる。
【0069】
また,ウエハ200に対してC_(3)H_(6)ガスを供給する工程を,ウエハ200に対してTEAガスを供給する工程と同時に行うことにより,すなわち,C_(3)H_(6)ガスを供給する工程を,少なくともTEAガスの供給期間に行うことにより,初期層中に,C_(3)H_(6)ガスに含まれるC成分も新たに取り込まれることとなる。つまり,ウエハ200に対してC_(3)H_(6)ガスを供給することにより,初期層の表面にC_(3)H_(6)ガスが吸着し,このとき,初期層中に,C_(3)H_(6)ガスに含まれるC成分も新たに取り込まれることとなる。なお,このとき,例えば,C_(3)H_(6)ガスに含まれるCと,初期層に含まれるSiと,を結合させて,Si-C結合を形成することも可能となる。
【0070】
TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスを上述の条件下で供給することで,初期層としてのClを含むSi含有層と,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスとを適正に反応させることができ,上述の一連の反応を生じさせることが可能となる。そしてこの一連の反応により,初期層中からClが脱離すると共に,初期層中に,N成分とC成分とが新たに取り込まれ,初期層としてのClを含むSi含有層は,シリコン(Si),窒素(N)及び炭素(C)を含む第1の層,すなわち,シリコン炭窒化層(SiCN層)へと変化する(改質される)。第1の層は,1原子層未満から数原子層程度の厚さのSi,NおよびCを含む層となる。なお,第1の層は,Si成分の割合とC成分の割合とが比較的多い層,すなわち,Siリッチであり,かつ,Cリッチな層となる。
・・・
【0075】
アミン系ガスとしては,トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N,略称:TEA)の他,ジエチルアミン((C_(2)H_(5))_(2)NH,略称:DEA),モノエチルアミン(C_(2)H_(5)NH_(2),略称:MEA)等を気化したエチルアミン系ガス,トリメチルアミン((CH_(3))_(3)N,略称:TMA),ジメチルアミン((CH_(3))_(2)NH,略称:DMA),モノメチルアミン(CH_(3)NH_(2),略称:MMA)等を気化したメチルアミン系ガス,トリプロピルアミン((C_(3)H_(7))_(3)N,略称:TPA),ジプロピルアミン((C_(3)H_(7))_(2)NH,略称:DPA),モノプロピルアミン(C_(3)H_(7)NH_(2),略称:MPA)等を気化したプロピルアミン系ガス,トリイソプロピルアミン([(CH_(3))_(2)CH]_(3)N,略称:TIPA),ジイソプロピルアミン([(CH_(3))_(2)CH]_(2)NH,略称:DIPA),モノイソプロピルアミン((CH_(3))_(2)CHNH_(2),略称:MIPA)等を気化したイソプロピルアミン系ガス,トリブチルアミン((C_(4)H_(9))_(3)N,略称:TBA),ジブチルアミン((C_(4)H_(9))_(2)NH,略称:DBA),モノブチルアミン(C_(4)H_(9)NH_(2),略称:MBA)等を気化したブチルアミン系ガス,または,トリイソブチルアミン([(CH_(3))_(2)CHCH_(2)]_(3)N,略称:TIBA),ジイソブチルアミン([(CH_(3))_(2)CHCH_(2)]_(2)NH,略称:DIBA),モノイソブチルアミン((CH_(3))_(2)CHCH_(2)NH_(2),略称:MIBA)等を気化したイソブチルアミン系ガスを好ましく用いることができる。すなわち,アミン系ガスとしては,例えば,(C_(2)H_(5))_(x)NH_(3-x),(CH_(3))_(x)NH_(3-x),(C_(3)H_(7))_(x)NH_(3-x),[(CH_(3))_(2)CH]_(x)NH_(3-x),(C_(4)H_(9))_(x)NH_(3-x),[(CH_(3))_(2)CHCH_(2)]_(x)NH_(3-x)(式中,xは1?3の整数)のうち少なくとも1種類のガスを好ましく用いることができる。
【0076】
なお,アミン系ガスとしては,炭素(C),窒素(N)および水素(H)の3元素で構成され,その組成式中(1分子中)においてN原子の数よりもC原子の数の方が多いガスを用いるのが好ましい。すなわち,アミン系ガスとしては,TEA,DEA,MEA,TMA,DMA,TPA,DPA,MPA,TIPA,DIPA,MIPA,TBA,DBA,MBA,TIBA,DIBAおよびMIBAからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むガスを用いるのが好ましい。
【0077】
第1の処理ガスとして,HCDSガス等のような,所定元素(Si)とハロゲン元素(Cl)とを含むクロロシラン系原料ガスを用いる場合に,第2の処理ガスとして,TEAガスやDEAガス等のような,C,NおよびHの3元素で構成され,その組成式中(1分子中)においてN原子の数よりもC原子の数の方が多いアミン系ガスを用いることで,ステップ2で形成される第1の層中のC濃度,すなわち,後述する所定回数実施工程において形成されるSiOCN膜またはSiOC膜中のC濃度を高くすることができる。
・・・
【0085】
また,第3の処理ガスとしては,プロピレン(C_(3)H_(6))ガス以外に,アセチレン(C_(2)H_(2))ガスやエチレン(C_(2)H_(4))ガス等の炭化水素系のガス,すなわち,窒素非含有の炭素含有ガスを用いることができる。
【0086】
第3の処理ガスとして,C_(3)H_(6)ガスのような,その組成式中(1分子中)においてC原子を含み,N原子を含まない炭化水素系ガスを用いることで,ステップ2において第3の処理ガスをウエハ200に対して供給する際に,初期層中に,すなわち,第1の層中に第3の処理ガス由来のN成分が添加されてしまうことを抑制することができる。すなわち,第1の層中へN成分を添加する際の窒素源を,第2の処理ガスのみとすることができる。結果として,後述する所定回数実施工程において形成されるSiOCN膜またはSiOC膜中のN濃度の増加を抑制しつつ,そのC濃度を高くすることが可能となる。
【0087】
以上述べたように,第2の処理ガスのガス種(組成)や,第3の処理ガスのガス種(組成)をそれぞれ適正に選択することにより,SiOCN膜またはSiOC膜中のC濃度を高くすることができる。
・・・
【0091】
また,形成するSiOCN膜またはSiOC膜中のC濃度は,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスを供給する際の処理室201内の圧力を上述のように制御するだけでなく,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスの供給時間や供給流量等の供給条件を制御することによっても微調整することが可能である。
【0092】
例えば,ステップ2において,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスを供給する際のガス供給時間を長くしたり,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスの供給流量を大きくしたりすることで,SiOCN膜またはSiOC膜中のC濃度をさらに高めることが可能となる。また,例えば,TEAガスの供給流量に対するC_(3)H_(6)ガスの供給流量の割合を大きくすることで,つまり,処理室201内におけるC_(3)H_(6)ガスの分圧をTEAガスの分圧よりも大きくすることで,SiOCN膜またはSiOC膜中のC濃度を高めることが可能となる。
【0093】
また例えば,ステップ2において,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスを供給する際のガス供給時間を短くしたり,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスの供給流量を小さくしたりすることで,SiOCN膜またはSiOC膜中のC濃度の増加量を適正に抑制することが可能となる。また,例えば,TEAガスの供給流量に対するC_(3)H_(6)ガスの供給流量の割合を小さくすることで,つまり,処理室201内におけるC_(3)H_(6)ガスの分圧をTEAガスの分圧よりも小さくすることで,SiOCN膜またはSiOC膜中のC濃度の増加量を適正に抑制することが可能となる。
【0094】
このように,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスを供給する工程における供給条件(ガスの供給時間,供給流量,分圧,処理室201内の圧力等)を制御することにより,SiOCN膜またはSiOC膜中のC濃度を微調整することができるようになる。
【0095】
不活性ガスとしては,N_(2)ガスの他,Arガス,Heガス,Neガス,Xeガス等の希ガスを用いてもよい。
【0096】
[ステップ3]
(O_(2)ガス供給)
ステップ2が終了し処理室201内の残留ガスを除去した後,第4ガス供給管232dのバルブ243dを開き,第4ガス供給管232d内にO_(2)ガスを流す。第4ガス供給管232d内を流れたO_(2)ガスは,MFC241dにより流量調整される。流量調整されたO_(2)ガスは,第3ガス供給管232c内を流れ,第3ノズル249cのガス供給孔250cから処理室201内へ供給される。処理室201内に供給されたO_(2)ガスは熱で活性化(励起)され,排気管231から排気される。このときウエハ200に対して,熱で活性化されたO_(2)ガスが供給されることとなる。このとき同時にバルブ243hを開き,第3不活性ガス供給管232h内にN_(2)ガスを流す。N_(2)ガスはO_(2)ガスと一緒に処理室201内に供給され,排気管231から排気される。
【0097】
なお,このとき,第1ノズル249a,第2ノズル249b内へのO_(2)ガスの侵入を防止するため,バルブ243f,243gを開き,第1不活性ガス供給管232f,第2不活性ガス供給管232g内にN_(2)ガスを流す。N_(2)ガスは,第1ガス供給管232a,第2ガス供給管232b,第1ノズル249a,第2ノズル249bを介して処理室201内に供給され,排気管231から排気される。
【0098】
このとき,APCバルブ244を適正に調整して,処理室201内の圧力を,例えば1?3000Paの範囲内の圧力とする。処理室201内の圧力をこのような比較的高い圧力帯とすることで,O_(2)ガスをノンプラズマで熱的に活性化させることが可能となる。なお,O_(2)ガスを熱で活性化させて供給することで,ソフトな反応を生じさせることができ,後述する酸化をソフトに行うことができる。MFC241dで制御するO_(2)ガスの供給流量は,例えば100?10000sccmの範囲内の流量とする。MFC241h,241f,241gで制御するN_(2)ガスの供給流量は,それぞれ例えば100?10000sccmの範囲内の流量とする。このとき処理室201内におけるO_(2)ガスの分圧は,0.01?2970Paの範囲内の圧力とする。熱で活性化させたO_(2)ガスをウエハ200に対して供給する時間,すなわち,ガス供給時間(照射時間)は,例えば1?120秒,好ましくは1?60秒の範囲内の時間とする。このときのヒータ207の温度は,ステップ1?2と同様,ウエハ200の温度が,例えば250?700℃,好ましくは300?650℃,より好ましくは350?600℃の範囲内の温度となるような温度に設定する。
【0099】
このとき処理室201内に流しているガスは,処理室201内の圧力を高くすることで熱的に活性化されたO_(2)ガスであり,処理室201内にはHCDSガスもTEAガスもC_(3)H_(6)ガスも流していない。したがって,O_(2)ガスは気相反応を起こすことはなく,活性化されたO_(2)ガスは,ステップ2でウエハ200上に形成されたSi,NおよびCを含む第1の層の少なくとも一部と反応する。これにより第1の層は酸化されて,第2の層として,Si,O,CおよびNを含む層,すなわち,シリコン酸炭窒化層(SiOCN層),または,Si,OおよびCを含む層,すなわち,シリコン酸炭化層(SiOC層)へと改質される。
・・・
【0108】
(所定回数実施)
上述したステップ1?3を1サイクルとして,このサイクルを1回以上(所定回数)行うことにより,ウエハ200上に所定組成及び所定膜厚のSi,O,CおよびNを含む膜,すなわち,シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜),または,Si,OおよびCを含む膜,すなわち,シリコン酸炭化膜(SiOC膜)を成膜することができる。なお,上述のサイクルは,複数回繰り返すのが好ましい。すなわち,1サイクルあたりに形成するSiOCN層またはSiOC層の厚さを所望の膜厚よりも小さくして,上述のサイクルを所望の膜厚になるまで複数回繰り返すのが好ましい。」

(5)「【0195】
(実施例2)
実施例2として,上述の第1実施形態における基板処理装置を用い,上述の第1実施形態の成膜シーケンスにより,複数枚のウエハ上にSiOC膜を形成した。なお,成膜時の処理手順及び処理条件は,実施例1の処理手順及び処理条件と同じとした。なお,ウエハとしては,その表面(成膜の下地)に,アスペクト比が11程度(深さ2.8μm/幅0.25μm)の溝が複数形成されているシリコン基板を用いた。
【0196】
そして,本実施例に係るSiOC膜の溝の底部,溝の側壁,溝の外部における膜厚,および段差被覆性(ステップカバレッジ)についてそれぞれ測定した。図7は,本実施例に係るSiOC膜の溝の底部,溝の側壁,溝の外部における膜厚,および段差被覆性の測定結果を示す図であり,SiOC膜が形成された後のウエハ表面の断面構造を電子顕微鏡写真で示す図である。
【0197】
図7によれば,ウエハ表面に形成された溝の底部,溝の側壁,溝の外部のいずれの領域においても,その表面(下地)が,本実施例に係るSiOC膜によって,切れ目なく,連続的に覆われていることが分かる。また,本実施例に係るSiOC膜の膜厚は,溝の底部および溝の側壁でそれぞれ13.4nm,溝の外部で13.5nmであり,段差被覆性は99%以上であることが分かる。つまり,本実施例に係るSiOC膜は,段差被覆性が極めて良好であることが分かる。」

(6)「【図4】

【図5】



(7)「【図7】



2 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,次の事項が記載されている。
(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の課題は,Alの前駆体としてTMAを用い,Zrの前駆体としてTEMAZを用いて各々同一ステップで供給するALD法によってZrAlO膜を形成する方法において,シリコン基板表面に形成された深孔の内部の位置によって,ZrAlO膜中のZr/Al比に差が生じることなく,どの位置においても一定したZr/Al比を有するZrAlO膜を形成できる方法を提供することにある。
また,本発明の課題は,上記のZrAlO膜を容量絶縁膜とするキャパシタを備えた半導体記憶装置の製造方法を提供することにある。
【0023】
発明者は,図36に示したように,深孔内の位置に依存してZr/Al濃度比が異なる原因を探るために種々実験検討を行った。その結果,Alの前駆体となるTMAとZrの前駆体となるTEMAZでは,被覆率に対する前駆体供給時間依存性に差があるという知見を得た。
【0024】
ここで,被覆率とは,基板表面の吸着サイト全体に対してどの程度の割合で前駆体が吸着し基板表面を被覆しているかを示す指標である。例えば,TMAを基板表面の吸着サイト全体が完全に覆われる時間よりも十分長い時間となる200秒供給する。その場合の基板表面に吸着しているAl原子数を前述のEDXで求めておく。この時のAl原子数をAl飽和原子数とする。その後,供給時間を変えてAlの吸着量を変化させた試料を作成し,各試料表面の吸着Al原子数を求め,Al飽和原子数に対する吸着Al原子数の割合(%)を被覆率とした。
【0025】
図37(A)に,ALD法により,同じ流量のTMAとTEMAZとを,それぞれ供給時間を変えて基板に供給した場合の各前駆体の1サイクルあたりの被覆率を示す。ここで,横軸は前駆体の供給時間(秒/サイクル),縦軸は1サイクルあたりの前駆体の被覆率を示す。図37(A)から明らかなように,TMAの場合は供給時間が10秒で被覆率が100%となっている。一方,TEMAZの場合は被覆率が100%となるのに30秒の供給時間を要していることがわかる。つまり,TMAとTEMAZでは,供給時間に対する前駆体被覆特性が異なっていることを示している。このような前駆体被覆特性に差が生じる原因としては,Alの前駆体となるTMAとZrの前駆体となるTEMAZの気相中の拡散速度の違いに起因しているものと推察される。すなわち,TMAの分子量が72であるのに対し,TEMAZの分子量は323であり,約4.5倍も重いことから拡散速度に差が生じ,基板表面の気相空間が充分な濃度の前駆体分子で覆われるまでの時間が異なってくるものと推察される。
【0026】
図37(B)は,上記の推察に基づき,基板表面に形成した深孔内におけるTMAとTEMAZの吸着の様子を模式化して表した図である。図37(A)に記載した時間,t1,t2,t3の3つの場合について示している。t1は供給し始めの段階における時間経過後,t2はTMAの被覆率が100%に近い段階における時間経過後,t3はTMAの被覆率が100%,TEMAZの被覆率が100%に近い段階における時間経過後,t3はTMA,TEMAZのいずれも被覆率が100%となる段階における時間経過後である。
【0027】
黒丸はAlの前駆体であるTMAを,白丸はZrの前駆体であるTEMAZを模式的に表している。t1時間経過後では,深孔の表面付近ではTMAとTEMAZとの吸着比率はほぼ一定となるが,中央付近では拡散速度の速いTMAの吸着が進み拡散速度の遅いTEMAZは吸着していない。t2時間経過後では,深孔の中央付近にTEMAZが吸着し始めるが,既に大半の吸着サイトがTMAで覆われているのでTEMAZの吸着サイトは限定的となる。また,TMAの吸着はさらに深い部分まで進行している。t3時間経過後では,深孔の底部を含むほとんどの吸着サイトがTMAで占有され,TEMAZの吸着サイトはさらに限定的となる。したがって,深孔の位置が深くなるほどTEMAZの到達が遅れるため,TMAの吸着が先行しTEMAZの吸着が限定的となる。その結果,前述の図36に示したように,Zr/Al比が深孔の位置が深くなるほど小さい値となっている。
【0028】
上記のように,供給時間に対する被覆特性が異なるTMAとTEMAZを同時に供給しても深孔内では,深さ方向の位置によってZr/Al比に差が生じてしまう。その結果,位置によって異なるZr/Al比を有するZrAlO膜が形成され,リーク電流や誘電率を制御することが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0029】
そこで,発明者は,上記の被覆特性をTMAとTEMAZとで一致させることができないかどうか検討を進めた。一般的に拡散速度は,基板表面における気相空間の温度と上記前駆体の濃度に依存すると考えられる。そこで,まず温度を変えた場合のTMAとTEMAZの各々の被覆特性を調べる検討を試みた。その結果,TMAについては,温度を変えると被覆率が100%となるTMA供給時間が変化し,高温側では供給時間が短くなり,低温側では長くなる。また,温度は150?400℃の範囲で変化させてもALD成膜が可能であることが明らかとなった。一方,TEMAZについては温度を30℃程度上げただけでも気相反応が生じ,ALD成膜自体が困難となることがわかった。したがって,前駆体としてTMAとTEMAZを用いる同時供給ALDでは,温度を最適化することによって被覆率を同じにすることは困難であり,TEMAZのALD成膜に最適な210?230℃の範囲で行わざるを得ない。
【0030】
次に,供給量を変えた場合のTMAとTEMAZの各々の被覆特性を調べた。供給量は,液体原料であるTMAとTEMAZの各々の気化量で制御することができる。この結果,TMA,TEMAZ共に,供給時間を一定とした場合,被覆率は供給量に依存し,供給量が多いほど被覆率が大きくなることが明らかとなった。これらの実験結果の中から,TMAとTEMAZの被覆特性を一致させるためにはTMAの供給量に対してTEMAZの供給量を2.5?3.5倍の範囲とし,好ましくは3倍に設定することが効果的であることを見出した。
また,各々の前駆体を反応室に搬送するためのキャリヤガス流量や,反応室内の全圧力依存性についても検討したが,それらの条件は被覆特性に影響していなかった。
【0031】
図29(A)は,一例として,反応室すなわち半導体基板の温度220℃,TMAの供給量を0.2slm,TEMAZの供給量を0.6slmとした場合の窒化チタン膜に対する被覆率の供給時間依存性を示したものである。なお,上記供給量は,TMAおよびTEMAZ自体の実供給量を意味するものであり,キャリヤガスの供給量ではない。窒化チタン膜は,キャパシタの下部電極材料であり,半導体基板上にCVD法で形成したものである。図29(A)から明らかなように,TMA,TEMAZ共に供給時間10secで被覆率が100%となっており,被覆特性が一致していることを示している。
図29(B)は,TMAとTEMAZの被覆率特性を一致させた場合の,半導体基板表面に形成した深孔内におけるTMAとTEMAZの吸着の様子を模式化して表した図である。
【0032】
図29(B)におけるt1,t2,t3は,図29(A)に記載した時間であるt1,t2,t3の3つの場合について示している。t1は供給し始めの段階における時間経過後,t2はTMA,TEMAZの被覆率が100%に近い段階における時間経過後,t3はTMA,TEMAZのいずれも被覆率が100%となる段階における時間経過後である。黒丸はAlの前駆体であるTMAを,白丸はZrの前駆体であるTEMAZを模式的に表している。ここでは被覆特性が一致しているので,いずれの経過時間においてもTMAとTEMAZとの吸着比率は一定となる。
【0033】
図29(A),(B)に示したような条件であれば,図37(A),(B)に示した,被覆特性が異なるガスが深孔内の位置によって吸着比率が異なる問題や,深孔内のZr/Al比を制御できなくなる問題を回避することができる。このため,深孔内のいずれの位置においてもZr/Al比を一定にすることができる。
【0034】
したがって,上記課題を解決するために,本発明は以下の構成を採用した。すなわち,本発明の半導体記憶装置の製造方法は,第1の電極を積層する工程と前記第1の電極上に二種類以上の金属元素を含有する容量絶縁膜を形成する工程と前記容量絶縁膜上に第2の電極を積層する工程とによってキャパシタを形成し,前記容量絶縁膜を形成する工程が,前記各金属元素を含有する各々の前駆体の第1の電極表面を覆う被覆率の前記前駆体供給時間依存性が同じとなるように調整された供給条件を用いて前記各々の前駆体を同時に前記半導体基板表面に供給するALD法により前記容量絶縁膜を形成する工程を含むことを特徴とする。」

3 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,次の事項が記載されている。
(1)「【0041】
(TiN膜形成工程)
<ステップS104>
ステップS104(図4,図5参照,第1の工程,遷移金属原料供給工程,TiCl_(4)供給工程)では,まずTiCl_(4)ガスを流す。ガス供給管310のバルブ314を開き,気化ユニットとしてのバブラ(図示せず)からガス供給管310内にTiCl_(4)ガスを流す。ガス供給管310内を流れるTiCl_(4)ガスは,MFC312からバブラにN_(2)ガスを供給し,バブラでTiCl_(4)をバブリングすることにより発生する。ガス供給管310に供給されるTiCl_(4)ガスの流量は,MFC312の流量と,バブラの温度のいずれか又は両方により調整される。また,バブラには,基板処理工程毎に,液体MFC(図示せず)により流量調整されたTiCl_(4)液が供給される。流量調整されたTiCl_(4)ガスはガス供給管310からノズル420を通って処理室201内のウェハ200に供給され,排気管231から排気される。このとき,同時にバルブ514を開き,キャリアガス供給管510内にN_(2)ガス等の不活性ガスを流す。キャリアガス供給管510内を流れるN_(2)ガスは,MFC512により流量調整される。流量調整されたN_(2)ガスはTiCl_(4)ガスと一緒に処理室201内に供給され,排気管231から排気される。
【0042】
このとき,上述の課題を解決するために,少なくとも2サイクル目から,処理室201内へのTiCl_(4)ガスの供給を分割(断続)して供給する。すなわち,原料ガスの供給を複数のステップに分けて行う。ガス供給t1のステップを複数回行い,ガス供給t1の間で,ガス停止t2を行う。言い換えると,原料ガスの供給の際に,一時的に原料ガス供給を停止(中断)するガス停止t2を行う。さらに言い換えると,反応ガスの供給を間欠的に行う。なお,このガス停止t2の間は,真空排気のみとしても良いし,パージのみとしても良いし,真空排気およびパージを併用しても良い。この様に,ガス供給t1とガス停止t2を行うことによって,ガス供給t1で発生した副生成物をガス停止t2で除去することができる。副生成物は,原料ガスと反応ガスとの反応(主反応)を物理的に妨害または,化学的に妨害し,主反応の発生確率を低下させる。主反応の妨害は,副生成物の分圧が増加することにより,原料ガスまたは反応ガスの分圧が低下することや,副生成物が基板表面の吸着サイトへ付着することによって発生する。主な副生成物としては塩化水素(HCl)が挙げられる。化学的な妨害は,塩化水素とアンモニアの二次反応に,塩化アンモニウム(NH_(4)Cl)が形成され,原料ガスや反応ガスの分圧が低下することによって発生する。
【0043】
このとき,バルブ243を適正に調整して処理室201内の圧力を,例えば10?1330Paの範囲内の圧力とする。バルブ243は基本的に常時開いておくが,常時開くことによりガス濃度が下がってしまい,所定時間内にウエハ200への所定の暴露量を達成しようとした場合,TiCl_(4)ガスの供給回数を増やさなければいけなくなるため,トレードオフの関係にある。TiCl_(4)ガスの供給流量は,例えば10ccm?1000ccmの範囲内の流量とする。ウェハ200をTiCl_(4)ガスに曝す時間,すなわちガス供給t1の時間(照射時間)は,例えば0.01秒?300秒,好ましくは,0.01秒から5秒間の範囲内の時間とし,ガスの停止t2の時間は,TiCl_(4)ガスを処理室201内から排気するのに十分な時間があればよく,例えば,0.01秒?300秒,好ましくは,0.01秒?30秒間の範囲内の時間とする。このときヒータ207の温度は,ウェハ200の温度が,例えば100?400℃好ましくは200?400℃の範囲内の温度となるような温度に設定する。TiCl_(4)ガスの供給により,ウェハ200上にTi含有層が形成される。
【0044】
原料ガスの分割供給は,少なくとも2サイクル目から行う。図5に示すように,1サイクル目の原料ガスの供給前には,反応ガスを供給しておらず,副生成物の発生が無い場合が有る。このように副生成物の発生が起こらない場合には,1サイクル目を破線で記すように分割せずに供給しても良い。
【0045】
また,ステップS104で,バルブ524を開いて,ガス供給管320からN_(2)ガス等の不活性ガスを流しても良い。また,ガス停止t2時に不活性ガスを流すようにしても良い。このようにすることで,TiCl_(4)ガスがノズル420へ逆流することを防止する効果を得ることができる。
【0046】
<ステップS105>
ステップS105(図4,図5参照,第2の工程,パージ工程)では,バルブ314を閉じ,処理室201内へのTiCl_(4)ガスの供給を停止する。このとき,APCバルブ243は開いたままとして,真空ポンプ246により処理室201内を真空排気し,処理室201内に残留する未反応もしくはTi含有層形成に寄与した後のTiCl_(4)ガスを処理室201内から排除する。」

(2)「【図4】

【図5】



第5 当審の判断
1 引用文献1に記載された発明
(1)前記第4 1(1)には,
「基板に対して所定元素とハロゲン元素とを含む第1の処理ガスを供給する工程と,
前記基板に対して炭素および窒素を含む第2の処理ガスを供給する工程と,
前記基板に対して炭素を含む第3の処理ガスを供給する工程と,
前記基板に対して前記各処理ガスとは異なる第4の処理ガスを供給する工程と,
を含むサイクルを所定回数行うことで,前記基板上に,少なくとも前記所定元素および炭素を含む膜を形成する工程を有する半導体装置の製造方法。」,
「基板を収容する処理室と,
前記処理室内へ所定元素とハロゲン元素とを含む第1の処理ガスを供給する第1ガス供給系と,
前記処理室内へ炭素および窒素を含む第2の処理ガスを供給する第2ガス供給系と,
前記処理室内へ炭素を含む第3の処理ガスを供給する第3ガス供給系と,
前記処理室内へ前記各処理ガスとは異なる第4の処理ガスを供給する第4ガス供給系と,
前記処理室内の基板に対して前記第1の処理ガスを供給する処理と,前記処理室内の前記基板に対して前記第2の処理ガスを供給する処理と,前記処理室内の前記基板に対して前記第3の処理ガスを供給する処理と,前記処理室内の前記基板に対して前記第4の処理ガスを供給する処理と,を含むサイクルを所定回数行うことで,前記基板上に,少なくとも前記所定元素および炭素を含む膜を形成する処理を行うように,前記第1ガス供給系,前記第2ガス供給系,前記第3ガス供給系および前記第4ガス供給系を制御する制御部と,
を有する基板処理装置。」,及び,
「基板処理装置の処理室内の基板に対して所定元素とハロゲン元素とを含む第1の処理ガスを供給する手順と,
前記基板に対して炭素および窒素を含む第2の処理ガスを供給する手順と,
前記基板に対して炭素を含む第3の処理ガスを供給する手順と,
前記基板に対して前記各処理ガスとは異なる第4の処理ガスを供給する手順と,
を含むサイクルを所定回数行うことで,前記基板上に,少なくとも前記所定元素および炭素を含む膜を形成する手順をコンピュータに実行させるプログラム。」が記載されている。

(2)前記第4 1(4)の【0044】には,ウエハ200に対して第1の処理ガスとしてクロロシラン系原料ガスであるHCDSガスを供給する工程と,
ウエハ200に対して第2の処理ガスとしてアミン系ガスであるTEAガスを供給する工程と,
ウエハ200に対して第3の処理ガスとして炭化水素系ガスであるC_(3)H_(6)ガスを供給する工程と,
ウエハ200に対して第4の処理ガスとして酸化ガスであるO_(2)ガスを供給する工程と,
を含むサイクルを所定回数(n回)行うことで,ウエハ200上に,少なくとも所定元素および炭素を含む膜として,所定組成及び所定膜厚のシリコン系絶縁膜であるシリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)を形成すると記載されているから,HCDSガスは第1の処理ガスであり,TEAガスは第2の処理ガスであり,C_(3)H_(6)ガスは第3の処理ガスであり,O_(2)ガスは第4の処理ガスである。

(3)前記第4 1(4)の【0050】には,ステップ1?3を順次実行すると記載されている。

(4)前記第4 1(4)の【0051】及び【0054】には,ステップ1として,ウエハに対してHCDSガスを供給することで,ウエハ(表面の下地膜)上に,所定元素(シリコン)とハロゲン元素(塩素)とを含む初期層として,例えば1原子層未満から数原子層程度の厚さの塩素(Cl)を含むシリコン含有層(Si含有層)が形成されることが記載されている。

(5)前記第4 1(4)の【0077】には「HCDSガス等のような,所定元素(Si)とハロゲン元素(Cl)とを含むクロロシラン系原料ガス」と記載されているから,HCDSガスは,所定元素(Si)とハロゲン元素(Cl)とを含むクロロシラン系原料ガスである。

(6)前記第4 1(4)の【0063】及び【0068】?【0070】には,ステップ2として,ウエハに対してTEAガス及びC_(3)H_(6)ガスを供給することで,ステップ1で形成された初期層としてのClを含むSi含有層は,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスと反応して,シリコン(Si),窒素(N)及び炭素(C)を含む第1の層へと変化する(改質される)ことが記載されている。

(7)前記第4 1(4)の【0075】及び【0076】には,TEAは,トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)の略称であって,炭素(C),窒素(N)および水素(H)の3元素で構成されることが記載されている。

(8)前記第4 1(4)の【0096】及び【0099】には,ステップ3として,ウエハに対して,熱で活性化されたO_(2)ガスを供給することで,活性化されたO_(2)ガスは,ステップ2でウエハ200上に形成されたSi,NおよびCを含む第1の層の少なくとも一部と反応し,これにより,第1の層は酸化されて,第2の層として,Si,O,CおよびNを含む層,すなわち,シリコン酸炭窒化層(SiOCN層)へと改質されることが記載されている。

(9)前記第4 1(4)の【0108】には,上述したステップ1?3を1サイクルとして,このサイクルを1回以上(所定回数)行うことにより,ウエハ上に所定組成及び所定膜厚のSi,O,CおよびNを含む膜,すなわち,シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)を成膜することが記載されている。

(10)前記第4 1(5)の【0195】には,ウエハとして,その表面(成膜の下地)に,アスペクト比が11程度(深さ2.8μm/幅0.25μm)の溝が複数形成されているシリコン基板を用いることが記載されている。

(11)以上によれば,引用文献1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「アスペクト比が11程度の溝が複数形成されているシリコン基板に対して,所定元素(Si)とハロゲン元素(Cl)とを含むクロロシラン系原料ガスであるHCDSガスを供給することで,塩素を含むシリコン含有層を形成するステップ1と,
前記シリコン基板に対して,炭素(C),窒素(N)及び水素(H)の3元素で構成されるトリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス及びプロピレン(C_(3)H_(6))ガスを供給することで,ステップ1で形成した初期層としての塩素を含むシリコン含有層を,所定元素(Si),窒素(N)及び炭素(C)を含む第1の層へと改質するステップ2と,
前記シリコン基板に対して,熱で活性化されたO_(2)ガスを供給することで,前記第1の層を酸化して,第2の層として,所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む層へと改質する第3のステップ3と,
を順次実行するサイクルを所定回数行うことで,前記シリコン基板上に,前記所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む膜を形成する工程を有する半導体装置の製造方法。」(以下,引用発明1A)という。)
「アスペクト比が11程度の溝が複数形成されているシリコン基板を収容する処理室と,
前記処理室内へ,所定元素(Si)とハロゲン元素(Cl)とを含むクロロシラン系原料ガスであるHCDSガスを供給する第1ガス供給系と,
前記処理室内へ,炭素(C),窒素(N)及び水素(H)の3元素で構成されるトリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガスを供給する第2ガス供給系と,
前記処理室内,へプロピレン(C_(3)H_(6))ガスを供給する第3ガス供給系と,
前記処理室内へ,O_(2)ガスを供給する第4ガス供給系と,
前記処理室内のシリコン基板に対して前記HCDSガスを供給することで,塩素を含むシリコン含有層を形成する処理と,前記処理室内のシリコン基板に対して前記トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス及びプロピレン(C_(3)H_(6))ガスを供給することで,ステップ1で形成した初期層としての塩素を含むシリコン含有層を,所定元素(Si),窒素(N)及び炭素(C)を含む第1の層へと改質する処理と,前記処理室内のシリコン基板に対して前記O_(2)ガスを供給することで,前記第1の層を酸化して,第2の層として,所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む層へと改質する処理と,を順次実行するサイクルを所定回数行うことで,前記シリコン基板上に,前記所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む層を形成する処理を行うように,前記第1ガス供給系,前記第2ガス供給系,前記第3ガス供給系および前記第4ガス供給系を制御する制御部と,
を有する基板処理装置。」(以下,「引用発明1B」という。)
「基板処理装置の処理室内の,アスペクト比が11程度の溝が複数形成されているシリコン基板に対して,所定元素(Si)とハロゲン元素(Cl)とを含むクロロシラン系原料ガスであるHCDSガスを供給することで,塩素を含むシリコン含有層を形成する手順と,
前記シリコン基板に対して,炭素(C),窒素(N)及び水素(H)の3元素で構成されるトリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス及びプロピレン(C_(3)H_(6))ガスを供給することで,ステップ1で形成した初期層としての塩素を含むシリコン含有層を,所定元素(Si),窒素(N)及び炭素(C)を含む第1の層へと改質する手順と,
前記シリコン基板に対して,O_(2)ガスを供給することで,前記第1の層を酸化して,第2の層として,所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む層へと改質する手順と,
を順次実行するサイクルを所定回数行うことで,前記シリコン基板上に,前記所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む層を形成する手順をコンピュータに実行させるプログラム。」(以下,「引用発明1C)という。)

2 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明1Aとを対比する。
(ア)引用発明1Aの「アスペクト比が11程度の溝が複数形成されているシリコン基板」は,複数の溝によって表面にパターンが形成されていることは明らかであるから,本願発明1の「表面にパターンが形成された基板」に相当する。

(イ)本願発明1の「形成しようとする膜」について,本願明細書の【0029】には,「上述の基板処理装置を用い,半導体装置の製造工程の一工程として,基板としてのウエハ200上にシリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)を形成するシーケンス例について,図4(a)を用いて説明する。」,同【0014】には,「ガス供給管232aからは,原料(原料ガス)として,形成しようとする膜を構成する主元素としてのシリコン(Si)およびハロゲン元素を含むハロシラン系ガスが,MFC241a,バルブ243a,ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。」と記載されている。
一方,引用発明1Aにおいては,「所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む膜」が,形成しようとする膜であり,「所定元素(Si)とハロゲン元素(Cl)とを含むクロロシラン系原料ガスであるHCDSガス」が,形成しようとする膜の原料であるといえる。
そうすると,引用発明1Aの「所定元素(Si)」,「所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む膜」,「所定元素(Si)とハロゲン元素(Cl)とを含むクロロシラン系原料ガスであるHCDSガス」は,それぞれ,本願発明1の「主元素」,「形成しようとする膜」,「形成しようとする膜を構成する主元素を含む原料」に相当する。

(ウ)前記(ア)及び(イ)を参照すると,引用発明1Aの「アスペクト比が11程度の溝が複数形成されているシリコン基板に対して,所定元素(Si)とハロゲン元素(Cl)とを含むクロロシラン系原料ガスであるHCDSガスを供給することで,塩素を含むシリコン含有層を形成するステップ1」は,本願発明1の「(a)表面にパターンが形成された基板に対して,形成しようとする膜を構成する主元素を含む原料を供給することで,前記主元素を含む第1層を形成する工程」に相当する。

(エ)引用発明1Aの「前記シリコン基板に対して,炭素(C),窒素(N)及び水素(H)の3元素で構成されるトリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス及びプロピレン(C_(3)H_(6))ガスを供給することで,ステップ1で形成した初期層としての塩素を含むシリコン含有層を,所定元素(Si),窒素(N)及び炭素(C)を含む第1の層へと改質するステップ2」について,引用文献1の【0068】には,「TEAガスに含まれる複数のエチル基のうち少なくとも一部のエチル基をTEAガスから分離させることができる。そして,少なくとも一部のエチル基が分離したTEAガスのNと,初期層に含まれるSiと,を結合させることができる。」と記載されているから,引用発明1Aにおいては,「ステップ1で形成したClを含むシリコン含有層」上に,「炭素(C),窒素(N)及び水素(H)の3元素で構成されるトリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」の一部が分解した物質である「窒素(n)」が吸着することによって,「所定元素(Si),窒素(N)及び炭素(C)を含む第1の層」が形成されているといえる。
したがって,引用発明1Aの「炭素(C),窒素(N)及び水素(H)の3元素で構成されるトリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」は,本願発明1の「炭素,窒素および水素の3元素で構成される第1反応体」に相当し,引用発明1Aの「前記シリコン基板に対して,炭素(C),窒素(N)及び水素(H)の3元素で構成されるトリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス及びプロピレン(C_(3)H_(6))ガスを供給することで,ステップ1で形成した初期層としての塩素を含むシリコン含有層を,所定元素(Si),窒素(N)及び炭素(C)を含む第1の層へと改質するステップ2」は,本願発明1の「(b)前記基板に対して,炭素,窒素および水素の3元素で構成される第1反応体を供給することで,前記第1層上に前記第1反応体の一部が分解した物質を吸着させて,前記主元素,炭素および窒素を含む第2層を形成する工程」に相当する。

(オ)引用発明1Aは,ステップ1?ステップ3を順次実行するものであるから,ステップ1とステップ2とは,非同時に行うものである。
そして,前記(ア)を参照すると,引用発明1Aの「シリコン基板上」は,本願発明1の「パターン上」に相当する。
さらに,前記(イ)を参照すると,引用発明1Aの「前記所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む膜」は,本願発明1の「前記主元素,炭素および窒素を含む膜」に相当する。
そうすると,引用発明1Aのステップ1?ステップ3を「順次実行するサイクルを所定回数行うことで,前記シリコン基板上に,前記所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む膜を形成する工程」は,本願発明1の工程(a),工程(b)「を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで,前記パターン上に,前記主元素,炭素および窒素を含む膜を形成する工程」に相当する。

(カ)以上から,本願発明1と引用発明1Aの一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「(a)表面にパターンが形成された基板に対して,形成しようとする膜を構成する主元素を含む原料を供給することで,前記主元素を含む第1層を形成する工程と,
(b)前記基板に対して,炭素,窒素および水素の3元素で構成される第1反応体を供給することで,前記第1層上に前記第1反応体の一部が分解した物質を吸着させて,前記主元素,炭素および窒素を含む第2層を形成する工程と,
を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで,前記パターン上に,前記主元素,炭素および窒素を含む膜を形成する工程を有する半導体装置の製造方法。」

<相違点>
相違点1:本願発明1は,「1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする」のに対して,引用発明1Aは,そのような事項を備えているか不明な点。

(2)判断
ア まず,相違点1について,本願発明1が,引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるか否かについて検討する。
(ア)本願明細書の【0004】の記載によれば,「表面にパターンが形成された基板上に膜を形成する場合,表面にパターンが形成されていない基板上に膜を形成する場合と比較して,形成される膜の膜厚が薄くなる現象(以下,この現象を膜厚ドロップ現象とも称する)が生じる場合がある」ところ,本願発明が解決しようとする課題は,「表面にパターンが形成された基板上に膜を形成する際における膜厚ドロップ現象の発生を抑制することが可能な技術を提供すること」である。
そして,本願明細書の【0057】には,「本実施形態のように,TEAガスの供給時間T_(B)をHCDSガスの供給時間T_(A)よりも長くする(T_(B)>T_(A))ことで,パターンの表面200a,側面200bおよび下面200cのそれぞれに形成されるN(C_(x)H_(y))_(z)の吸着層の密度を,それぞれ同等とすることが可能となる。・・・N(C_(x)H_(y))_(z)の吸着層の密度分布を・・・面内で揃えることで,最終的に形成されるSiOCN膜の膜厚を,パターンの表面200a,側面200bおよび下面200cのそれぞれで同等とすることが可能となる。結果として,本実施形態によれば,ウエハ200としてパターンウエハを用いる場合であっても,SiOCN膜の膜厚(平均膜厚)の低下を回避すること,すなわち,膜厚ドロップ現象の発生を抑制することが可能となる。・・・例えばT_(A)を10?13秒の範囲内の時間とした場合,T_(B)を100?130秒以上とすることで上述の効果が確実に得られるようになり,T_(B)を150?195秒以上とすることで上述の効果がより確実に得られるようになる。」と記載されていることからすると,本願発明は,「1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする」ことにより,上記課題を解決し得るものであるといえる。

(イ)一方,引用文献1の前記第4 1(3)の【0003】によれば,引用発明1Aが解決しようとする課題は,「膜中における組成の制御性を高め,低誘電率,高エッチング耐性,高リーク耐性の特性を備える薄膜を形成すること」である。
ここで,引用文献1の前記第4 1(4)の【0053】には「ウエハ200の温度を700℃以下とすることで,膜厚均一性の悪化を抑制でき,その制御が可能となる。特にウエハ200の温度を650℃以下,さらには600℃以下とすることで,表面反応が支配的になり,膜厚均一性を確保しやすくなり,その制御が容易となる。」と記載されており,また,前記第4 1(5)の【0195】?【0197】には,ウエハとして,その表面(成膜の下地)に,アスペクト比が11程度(深さ2.8μm/幅0.25μm)の溝が複数形成されているシリコン基板を用いて,実施例1の成膜時の処理手順及び処理条件で複数枚のウエハ上にSiOC膜を形成して,SiOC膜の溝の底部,溝の側壁,溝の外部における膜厚,および段差被覆性(ステップカバレッジ)についてそれぞれ測定したところ,ウエハ表面に形成された溝の底部,溝の側壁,溝の外部のいずれの領域においても,その表面(下地)が,本実施例に係るSiOC膜によって,切れ目なく,連続的に覆われており,その膜厚は,溝の底部および溝の側壁でそれぞれ13.4nm,溝の外部で13.5nmであり,段差被覆性は99%以上であり,本実施例に係るSiOC膜は,段差被覆性が極めて良好であることが記載されている。
そうすると,引用発明1Aは,アスペクト比が11程度の溝が複数形成されているシリコン基板上に形成した所定元素(Si),酸素(O),炭素(C)及び窒素(N)を含む膜の膜厚均一性を確保すること,すなわち,「表面にパターンが形成された基板上に膜を形成する際における膜厚ドロップ現象の発生を抑制する」ことも解決しようとする課題として内在しているといえる。
しかし,上記【0053】に記載されているように,引用文献1においては,ウエハの温度を700℃以下とすることで,膜厚均一性を確保するものであって,本願発明1のように,「1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする」ことで,「表面にパターンが形成された基板上に膜を形成する際における膜厚ドロップ現象の発生を抑制する」ものではない。

(ウ)また,引用発明1Aの「HCDSガス」及び「トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」(TEAガス)のそれぞれの1サイクル当たりのガス供給時間について,引用文献1の前記第4 1(4)の【0053】には,「HCDSガスをウエハ200に対して供給する時間,すなわち,ガス供給時間(照射時間)は,例えば1?120秒,好ましくは1?60秒の範囲内の時間とする。」,同【0067】には,「熱で活性化させたTEAガス及び熱で活性化させたC_(3)H_(6)ガスをウエハ200に対して供給する時間,すなわち,ガス供給時間(照射時間)は,例えば1?120秒,好ましくは1?60秒の範囲内の時間とする。」と記載されているものの,1サイクルあたりの「トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの「HCDSガス」の供給時間よりも長くすることは記載も示唆もされていない。

(エ)さらに,引用文献1の前記第4 1(4)の【0092】には,「ステップ2において,TEAガス及びC_(3)H_(6)ガスを供給する際のガス供給時間を長くする・・・ことで,SiOCN膜・・・中のC濃度をさらに高めることが可能となる」ことは記載されているものの,1サイクルあたりの「トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの「HCDSガス」の供給時間よりも長くすることで,膜厚ドロップ現象の発生を抑制するものではない。

(オ)以上から,引用発明1Aは,「表面にパターンが形成された基板上に膜を形成する際における膜厚ドロップ現象の発生を抑制する」ことも解決しようとする課題として内在しているといえるものの,当該課題を解決するために,1サイクルあたりの「トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの「HCDSガス」の供給時間よりも長くすることの動機付けがあるとはいえない。
また,「表面にパターンが形成された基板上に膜を形成する際における膜厚ドロップ現象の発生を抑制する」という課題を解決するために,1サイクルあたりの「トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの「HCDSガス」の供給時間よりも長くすることは,引用文献3には何ら記載も示唆もされていないから,このことが,本願出願前より周知技術であったともいえない。
したがって,本願発明1は,引用発明1A及び周知技術(引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

イ 次に,相違点1について,本願発明1が,引用文献1,2に記載された各発明及び周知技術(引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるか否かについて検討する。
(ア)引用文献2の前記第4 2(1)には,「Alの前駆体としてTMAを用い,Zrの前駆体としてTEMAZを用いて各々同一ステップで供給するALD法によってZrAlO膜を形成する方法において,シリコン基板表面に形成された深孔の内部の位置によって,ZrAlO膜中のZr/Al比に差が生じることなく,どの位置においても一定したZr/Al比を有するZrAlO膜を形成できる方法を提供する」ことを課題とし,「TMA,TEMAZ共に,供給時間を一定とした場合,被覆率は供給量に依存し,供給量が多いほど被覆率が大きくなる」ことから,「TMAとTEMAZの被覆特性を一致させるためにはTMAの供給量に対してTEMAZの供給量を2.5?3.5倍の範囲・・・に設定することが効果的であることを見出し」,「二種類以上の金属元素を含有する容量絶縁膜を形成する工程」において,「前記各金属元素を含有する各々の前駆体の第1の電極表面を覆う被覆率の前記前駆体供給時間依存性が同じとなるように調整された供給条件を用いて前記各々の前駆体を同時に前記半導体基板表面に供給するALD法により前記容量絶縁膜を形成する」ことで,上記課題を解決することが記載されているものの,「表面にパターンが形成された基板上に膜を形成する際における膜厚ドロップ現象の発生を抑制する」という課題を解決するために,1サイクルあたりの「トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの「HCDSガス」の供給時間よりも長くすることは,何ら記載も示唆もされていない。

(イ)そして,前記アで検討したとおり,引用発明1Aは,「表面にパターンが形成された基板上に膜を形成する際における膜厚ドロップ現象の発生を抑制する」ことも解決しようとする課題として内在しているといえるものの,当該課題を解決するために,1サイクルあたりの「トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの「HCDSガス」の供給時間よりも長くすることの動機付けがあるとはいえない。
また,「表面にパターンが形成された基板上に膜を形成する際における膜厚ドロップ現象の発生を抑制する」という課題を解決するために,1サイクルあたりの「トリエチルアミン((C_(2)H_(5))_(3)N)ガス」の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの「HCDSガス」の供給時間よりも長くすることは,本願出願前より周知技術であったともいえない。

(ウ)したがって,本願発明1は,引用文献1,2に記載された各発明及び周知技術(引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用発明1A及び周知技術(引用文献3),ないし,引用文献1,2に記載された各発明及び周知技術(引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明2-16について
本願発明2-16は,いずれも本願発明1の全ての発明特定事項を有しているから,前記2(2)で検討したのと同様の理由により,引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献3),ないし,引用文献1,2に記載された各発明及び周知技術(引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明17について
(1)対比
本願発明17は,本願発明1の「半導体装置の製造方法」を実施するための「基板処理装置」であって,本願発明1と同様に,「1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする」という事項を有しており,一方,引用発明1Bは,引用発明1Aの「半導体装置の製造方法」を実施するための「基板処理装置」であるところ,前記2(1)における検討を参照して,本願発明17と引用発明1Bを対比すると,両者は,少なくとも以下の点で相違する。

相違点2:本願発明17は,「1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする」のに対して,引用発明1Bは,そのような事項を備えているか不明な点。

(2)判断
相違点2は,相違点1と同様の内容であるから,前記2(2)で検討したのと同様の理由により,本願発明17は,引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献3),ないし,引用文献1,2に記載された各発明及び周知技術(引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

5 本願発明18について
(1)対比
本願発明18は,本願発明1の「半導体装置の製造方法」を,「コンピュータによって前記基板処理装置に実行させるプログラム」であって,本願発明1と同様に,「1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする」という事項を有しており,一方,引用発明1Cは,引用発明1Aの「半導体装置の製造方法」を「コンピュータに実行させるプログラム」であるところ,前記2(1)における検討を参照して,本願発明18と引用発明1Cを対比すると,両者は,少なくとも以下の点で相違する。

相違点3:本願発明18は,「1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする」のに対して,引用発明1Cは,そのような事項を備えているか不明な点。

(2)判断
相違点3は,相違点1と同様の内容であるから,前記2(2)で検討したのと同様の理由により,本願発明18は,引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献3),ないし,引用文献1,2に記載された各発明及び周知技術(引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
1 理由1(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により,本願発明1-18は,いずれも「1サイクルあたりの前記(b)における前記第1反応体の供給時間を150秒以上とし,1サイクルあたりの前記(a)における前記原料の供給時間よりも長くする」という事項を有するものとなっており,前記第5で検討したとおり,拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献3),ないし,引用文献1,2に記載された各発明及び周知技術(引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-06-09 
出願番号 特願2017-53328(P2017-53328)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 聡一郎  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 渡部 博樹
河本 充雄
発明の名称 半導体装置の製造方法、基板処理装置およびプログラム  
代理人 阿仁屋 節雄  
代理人 福岡 昌浩  

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