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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B60C 審判 全部申し立て 2項進歩性 B60C |
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管理番号 | 1374861 |
異議申立番号 | 異議2020-700477 |
総通号数 | 259 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-07-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-07-14 |
確定日 | 2021-03-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6631256号発明「タイヤ」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6631256号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6631256号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6631256号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は,平成28年1月8日に出願され,令和1年12月20日にその特許権の設定登録がされ(請求項の数7),令和2年1月15日に特許掲載公報が発行された。 その後,その特許に対し,令和2年7月13日に特許異議申立人 村川明美(以下,「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ,当審は同年9月25日付けで取消理由を通知し,特許権者は,取消理由通知の指定期間内である同年11月26日に意見書の提出及び訂正の請求(以下,「本件訂正請求」という。)がされ,同年12月14日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ,令和3年1月18日に異議申立人から意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は,以下の(1)ないし(3)のとおりである。なお,下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数の外側溝部,前記外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数の内側溝部,及び,前記外側溝部と前記内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記内側溝部と前記傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記傾斜部と前記外側溝部とが交差する第2交差部に連通し, 前記各内側横溝は,前記一対のセンター主溝間を継いでいることを特徴とするタイヤ。」と記載されているのを, 「トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部,前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部,及び,前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のセンター主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通し, 前記各内側横溝は,前記一対のセンター主溝間を継いでおり, 前記ショルダー主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく, 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さいことを特徴とするタイヤ。」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項3ないし7についても同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数の外側溝部,前記外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数の内側溝部,及び,前記外側溝部と前記内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記内側溝部と前記傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記傾斜部と前記外側溝部とが交差する第2交差部に連通し, 前記内側横溝のタイヤ軸方向に対する角度は,前記外側横溝のタイヤ軸方向に対する角度よりも小さいことを特徴とするタイヤ。」と記載されているのを, 「トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部,前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部,及び,前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通し, 前記内側横溝のタイヤ軸方向に対する角度は,前記外側横溝のタイヤ軸方向に対する角度よりも小さく, 前記ショルダー主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく, 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さいことを特徴とするタイヤ。」に訂正する。 請求項2の記載を引用する請求項3ないし7も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「前記各内側横溝は,前記第1交差部に連なる前記傾斜部と同じ向きに傾斜しており」と記載されているのを,「前記各内側横溝は,前記第1交差部に連なる前記センター主溝の傾斜部と同じ向きに傾斜しており」に訂正する。 請求項3の記載を引用する請求項4ないし7も同様に訂正する。 2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正前の請求項1の「センター主溝」,「外側横溝」及び「内側横溝」が設けられた「トレッド部を備えたタイヤ」について,訂正後の請求項1は,「トレッド部」がさらに,「センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝」が設けられたものとし,かつ「ショルダー主溝」が「前記ショルダー主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく, 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さい」ことを限定するものである。 したがって,訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また,訂正事項1は,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲の拡張し,又は変更するものではない。 さらに,請求項1を引用する請求項3ないし7に関する訂正事項1も同様である。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は,上記(1)で示した理由と同一の理由で,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 さらに,請求項2を引用する請求項3ないし7に関する訂正事項2も同様である。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は,請求項3における「傾斜部」が「センター主溝の傾斜部」であることを特定するものであり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 さらに,請求項3を引用する請求項4ないし7に関する訂正事項3も同様である。 3 小括 以上のとおりであるから,訂正事項1ないし3は,いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって,本件訂正は適法なものであり,本件特許の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおりであるから,本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下,順に「本件発明1」のようにいう。)は,令和2年11月26日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部,前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部,及び,前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のセンター主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通し, 前記各内側横溝は,前記一対のセンター主溝間を継いでおり, 前記ショルダー主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく, 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さいことを特徴とするタイヤ。 【請求項2】 トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部,前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部,及び,前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通し, 前記内側横溝のタイヤ軸方向に対する角度は,前記外側横溝のタイヤ軸方向に対する角度よりも小さく, 前記ショルダー主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく, 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さいことを特徴とするタイヤ。 【請求項3】 前記各内側横溝は,前記第1交差部に連なる前記センター主溝の傾斜部と同じ向きに傾斜しており, 前記各内側横溝の溝幅は,前記センター主溝の最大溝幅の50%?70%である,請求項1又は2に記載のタイヤ。 【請求項4】 前記内側横溝の本数は,前記外側横溝の本数よりも少ない請求項1乃至3のいずれかに記載のタイヤ。 【請求項5】 前記内側横溝は,直線状にのびている請求項1乃至4のいずれかに記載のタイヤ。 【請求項6】 前記外側横溝は,前記センター主溝に連通するタイヤ軸方向の内側部分と,前記内側部分のタイヤ軸方向外側に位置する外側部分とを含み, 前記内側部分の溝幅は,前記外側部分の溝幅よりも大きい請求項1乃至5のいずれかに記載のタイヤ。 【請求項7】 前記内側横溝は,タイヤ軸方向に対して傾斜しており, 前記外側横溝は,前記内側横溝と逆向きに傾斜しており, 前記外側横溝の内端のタイヤ周方向の中間位置と前記外側横溝の外端のタイヤ周方向の中間位置とを通る直線と,前記内側横溝の両端のタイヤ周方向の中間位置を通る直線とのなす角度が100?130度である請求項1乃至6のいずれかに記載のタイヤ。」 第4 特許異議申立書に記載した申立理由の概要 令和2年7月14日に異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする新規性,進歩性) 本件特許の請求項1,5及び7に係る発明は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,該発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の上記請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする新規性,進歩性) 本件特許の請求項1に係る発明は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,該発明に基いて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の上記請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 証拠方法 特許異議申立書に添付して以下の証拠を提出した。 甲第1号証:特開平7-43465号公報 甲第2号証:特開2003-96850号公報 甲第3号証:特開昭64-75730号公報 甲第4号証:特開2007-291829号公報 甲第5号証:特表2002-517002号公報 令和3年1月18日提出の意見書に添付して以下の証拠を提出した。 甲第6号証:特開2014-180910号公報 甲第7号証:特開2013-49325号公報 以下,それぞれ「甲1」ないし「甲7」という。 第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要 当審が令和2年9月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりであり,特許異議申立書に記載した申立理由を全て含むものである。 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性,進歩性) 本件特許の請求項1,5及び7に係る発明は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,該発明に基いて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の上記請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 取消理由2(甲2を主引用文献とする新規性,進歩性) 本件特許の請求項1及び5に係る発明は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,該発明に基いて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の上記請求項に係る特許は,同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第6 主な甲号証に記載された事項等 1 甲1に記載された事項等 (1)甲1に記載された事項 甲1には,「雪上性能にすぐれるトレツドを具えた空気入りタイヤ」に関して,おおむね次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。)。 「1 一対のサイドウオールと両サイドウオールにまたがるトレツドを含み,上記トレツドが幅方向に該トレツドをほぼ3等分する2本の周方向主溝と,主溝相互間及び主溝とトレツドエツジを結ぶ幅がより狭い斜溝およびこれらの主溝と斜溝群によつて区分される多数のブロツクからなるタイヤにおいて, 上記主溝は,周方向に平行な成分と斜方向成分との組合せによつて,千鳥状に連なり,且つ主溝の幅方向振り量をb,主溝の幅をcであらわしてb>cの関係にあり, また上記斜溝は,主溝を構成する上記周方向成分と斜方向成分の接合部から延びることを特徴とする,雪上性能にすぐれるトレツドを具えた空気入りタイヤ。 」(第1欄第2ないし16行) 「 この発明は雪上性能にすぐれるトレツドを具えた空気入りタイヤ,とくに雪上車用ラジアルタイヤの改良に関するものである。 雪上車用としては従来,周方向ジグザグ溝をトレツドに2本または3本等間隔に設け,そして,周方向ジグザグ溝間及びジグザグ溝とトレツドエツジ間をジグザグの頂点の夫々から延びる多数の斜溝または横溝で連らね,これらの溝群によつて区分されるブロツクから成るトレツドを備えた空気入りタイヤが知られている。」(第2欄第6ないし15行) 「 さて,第1図において,トレツドTは,両トレツドエツジTe間を実質上等分区域W1,W2,W2に分割する2本の周方向溝1及び2を有する。周方向溝1,2は夫々周方向に平行な成分1-1,2-1と周方向に対し傾斜した成分1-2,2-2からなり両成分の組合せによつて千鳥状にトレツドTの周上をエンドレスに連らなる。そしてこれらの溝はトレツドの幅方向(子午線方向)に振り量bを有し周方向溝の幅をCとするとb>cの関係にある。 トレツドTを実質上等分する位置に一対の周方向溝1,2を配置する理由は,雪上走行時にこれらの溝が節となつて,中央区域W_(1)と両側区域W_(2,)W_(2)におけるブロツク列が,各々独立して働くことによる。もし,周方向主溝を用いないか,用いても1本の場合は,その分トレツドの軸方向の屈曲性が不足し,その方向の路面凹凸に対する接地性を損ない易くなる。他方周方向主溝を3本以上用いると,トレツドの屈曲性は向上するが,それらによつて区分されるブロツクの幅が減少し過ぎ,その結果,それについて得られる幅狭ブロツクは外力に対し変形過大となつて耐摩耗性などの面で問題が生じる。」(第4欄第4ないし26行) 「 周方向溝1,2を構成する成分1-1,1-2及び2-1,2-2の接合部は1つおきにこれらの部分から区域W2,W1を斜溝3,4が貫ぬき,周方向溝 1,2と両トレツドエツジTeの間にブロツク5をそして周方向溝1と2の間にブロツク6を夫々区分する。 この実施例では両側斜溝3と中央斜溝4は,共に周方向溝の斜方向成分1-2及び2-2の延長線上にあり,従つて,子午線方向に対する両側斜溝3の角度β,同様に中央斜溝4の角度αは周方向溝の斜方向成分の子午線方向に対する角度γと等しいが,これらの角度は30゜?60゜の範囲内で自由に適用することができる。 斜溝3,3を,周方向溝の斜方向成分1-2及び2-2の実質上延長線上に設ける理由は,トレツドTの周方向における屈曲効果を向上させるためである。即ち走行時において,トレツドTの周方向曲げの節は斜溝3,3であるが,これらを周方向溝斜方向成分1-2,2-2と一線に連らねることによつて,その分周方向曲げの節の長さが増大するわけである。中央区域W_(1)における斜溝4と周方向溝の斜方向成分1-2,2-2との関係もまた同様である。」(第4欄第31行ないし第5欄第9行) 「周方向溝11,12の幅cは斜溝13,13′の平均溝幅より広い方が望ましく,一方斜溝13,13′は,屈曲部を境にトレツドエツジ寄りの溝幅fを周方向溝寄りの溝幅eより全体に広くしたりトレツドエツジに向つて漸増させることができる。 斜溝の溝幅を相対的に狭くする理由はブロツクの周方向長さをなるべく長くし,ブロツクの耐摩耗に対する配慮をしたものである。上に述べた斜溝と周方向溝の斜方向成分との結合によつてトレツドの周方向の屈曲効果が向上するため,必要以上に斜溝の溝幅を広くとらなくても走行時に接地面において斜溝中とらえた雪を効果的に踏み固めることができるため,耐摩耗性の観点からブロツク長さを有利に長くすることが可能となる。」(第5欄第24行ないし第6欄第5行) 「 」 (2)甲1発明 甲1には,上記記載事項,特に下線部の記載及び第1図より,以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されている。 「 雪上性能にすぐれるトレツドを具えた空気タイヤであって, 前記トレツドには,幅方向に該トレツドをほぼ3等分する2本の周方向主溝と,前記周方向主溝から子午線方向の外側にのびる複数の両側斜溝と,前記周方向主溝から子午線方向の内側にのびる複数の中央斜溝とが設けられ, 前記周方向主溝は,周方向に平行な成分と斜方向成分との組み合わせによつて,千鳥状に連なる周方向ジグザグ溝であり, 前記各中央斜溝は周方向主溝の斜方向成分の延長線上にあり,周方向主溝を構成する周方向に平行な成分と斜方向成分の接合部から延び, 前記各両側斜溝は周方向主溝の斜方向成分の延長線上にあり,周方向主溝を構成する周方向に平行な成分と斜方向成分の接合部から延び, 前記トレツドは,これらの周方向主溝と周方向主溝よりも幅がより狭い前記中央斜溝及び前記両側斜溝によつて多数のブロツクへと区分される, タイヤ。」 2 甲2に記載された事項等 (1)甲2に記載された事項 甲2には,「空気入りタイヤ」に関して,おおむね次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。)。 「【請求項1】 タイヤ周方向に延在する少なくとも4本の周方向主溝と,前記周方向主溝に区画されて成る複数の陸部とを備える空気入りタイヤであって, タイヤ幅方向の最も外側にある左右の前記周方向主溝を最外周方向主溝と呼び,前記最外周方向主溝よりもタイヤ幅方向内側にある前記陸部をセンター陸部と呼ぶと共に,前記最外周方向主溝よりもタイヤ幅方向外側にある前記陸部をショルダー陸部と呼ぶときに, 前記センター陸部をタイヤ幅方向に貫通する第一ラグ溝と, 前記ショルダー陸部に配置されてタイヤ周方向に延在する周方向細溝と, 前記周方向細溝からタイヤ幅方向内側に延在して前記最外周方向主溝に開口する第二ラグ溝と, 前記周方向細溝からタイヤ幅方向外側に延在してトレッド端に開口すると共に前記第二ラグ溝に対してタイヤ周方向に位置をずらして配置される第三ラグ溝とを備え,且つ, 前記第一ラグ溝が,屈折形状を有すると共に,前記センター陸部を区画する左右の前記周方向主溝に対してシースルー構造で開口することを特徴とする空気入りタイヤ。」 「【0005】 この発明は,タイヤの氷上性能および雪上性能を向上できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。」 「【0017】 [トレッドパターン] 図2は,図1に記載した空気入りタイヤのトレッド面を示す平面図である。図3は,図2に記載したトレッドパターンのセンター陸部を示す拡大図である。図4は,図2に記載したトレッドパターンのショルダー陸部を示す拡大図である。これらの図において,図2は,スタッドレスタイヤのトラクションパターンを示している。また,図3は,タイヤ赤道面CL上にあるセンター陸部31の隣り合う一対のブロックを示している。また,図4は,一方のショルダー陸部33を示している。なお,これらの図において,タイヤ周方向とは,タイヤ回転軸周りの方向をいう。また,符号Tは,タイヤ接地端である。 【0018】 図2に示すように,この空気入りタイヤ1は,タイヤ周方向に延在する少なくとも4本の周方向主溝21,22と,これらの周方向主溝21,22に区画されて成る複数の陸部31?33とをトレッド部に備える。」 【0022】 また,図2に示すように,この空気入りタイヤ1は,センター陸部31,32に複数の第一ラグ溝41,42を備える。 【0023】 第一ラグ溝41,42は,タイヤ幅方向に延在する主溝であり,センター陸部31,32をタイヤ幅方向に貫通して,センター陸部31,32を区画する左右の周方向主溝21,22;21,22にそれぞれ開口する。」 「【0025】 例えば,図2の構成では,複数のラグ溝41,42が,すべてのセンター陸部31,32にそれぞれ配置され,また,タイヤ周方向に所定間隔をあけて配置されている。これにより,各センター陸部31,32が,複数のラグ溝41,42によりタイヤ周方向に分断されてブロック列となっている。」 「【0029】 例えば,図3の構成では,第一ラグ溝41(42)が,2つの屈折部を有するステップ状の屈曲形状を有し,所定の傾斜角θ1にて傾斜しつつタイヤ幅方向に延在している。また,第一ラグ溝41(42)の屈折部が,センター陸部31(32)の中心線上に配置されている。また,第一ラグ溝41(42)の傾斜角θ1,溝幅W2,隣り合う屈折部のタイヤ周方向の距離S1などが調整されて,第一ラグ溝41(42)のシースルー構造が確保されている。 【0030】 このとき,第一ラグ溝41(42)の傾斜角θ1が,1[deg]≦θ1≦30[deg]の範囲内にあることが好ましい。なお,ラグ溝の傾斜角は,ラグ溝の左右の開口部の中心点を通る直線と,タイヤ幅方向とのなす角として測定される。」 「【0050】 また,図2の構成では,周方向主溝21(22)と第一ラグ溝41(42)との交差位置にて,各陸部31(32,33)のエッジ部が,タイヤ幅方向にオフセットした段差部を有する(図2参照)。具体的には,各陸部31(32,33)のブロックの周方向主溝21(22)側のエッジ部が,タイヤ幅方向にステップ状に変化する段差部をそれぞれ有している。また,タイヤ周方向に隣り合うブロックのエッジ部が,第一ラグ溝41(42)の開口部にてタイヤ幅方向に位置をずらして配置されている。したがって,周方向主溝21(22)が,タイヤ幅方向にステップ状に屈曲しつつタイヤ周方向に略同一の溝幅で延在している。これにより,トラクション成分が増加して,タイヤの氷上性能および雪上性能が高められている。」 「【0067】 また,この空気入りタイヤ1では,第一ラグ溝41(42)のタイヤ幅方向に対する傾斜角θ1と,第二ラグ溝43のタイヤ幅方向に対する傾斜角θ2とが,1[deg]≦θ1≦30[deg],1[deg]≦θ2≦30[deg]かつθ2≦θ1の要件を満たす(図3および図4参照)。これにより,センター陸部31(32)にある第一ラグ溝41(42)の傾斜角θ1と,ショルダー陸部33にある第二ラグ溝43の傾斜角θ2との関係が適正化される利点がある。すなわち,1[deg]≦θ1かつ1[deg]≦θ2であることにより,ラグ溝41?43が傾斜して,タイヤ幅方向への排水性やシャーベット路面での排雪性が向上する。また,θ1≦30[deg]かつθ2≦30[deg]であることにより,タイヤ周方向へのラグ溝41?43のエッジ成分が確保されて,制動時のトラクション性が確保され,また,ストップ・アンド・ゴー使用条件下における耐偏摩耗性能が確保される。また,θ2≦θ1であることにより,耐偏摩耗性能を維持しつつ氷雪性能を向上できる。」 【0068】 また,この空気入りタイヤ1では,周方向主溝21(22)と第一ラグ溝41(42)との交差位置にて,陸部31(32,33)のエッジ部が,タイヤ幅方向にオフセットした段差部を有する(図2参照)。これにより,トラクション成分が増加して,タイヤの氷上性能および雪上性能が向上する利点がある。 【0069】 また,この空気入りタイヤ1では,周方向主溝21(22)と第一ラグ溝41(42)との交差位置にて,タイヤ周方向に隣り合うブロックのエッジ部が,第一ラグ溝41(42)の開口部にてタイヤ幅方向に位置をずらして配置される(図2参照)。これにより,トラクション成分が増加して,タイヤの氷上性能および雪上性能が向上する利点がある。」 「【0074】 この性能試験では,相互に異なる複数の空気入りタイヤについて,(1)耐偏摩耗性能および(2)氷雪性能(氷上性能および雪上性能)に関する評価が行われた(図7参照)。この性能試験では,タイヤサイズ205/85R16 117/115Lの空気入りタイヤ(小型トラック用スタッドレスタイヤ)がJATMA規定の適用リムに組み付けられ,この空気入りタイヤにJATMA規定の最高空気圧および最大負荷が付与される。また,空気入りタイヤが,試験車両である3トン積みトラックの総輪に装着される。 【0075】 (1)耐偏摩耗性能に関する評価では,試験車両が平均速度60[km/h]にて5万[km]の舗装路を走行し,各陸部のブロックに発生した偏摩耗が観察される。そして,この観察結果に基づいて,従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この数値は大きいほど好ましい。」 「 」 「 」 (2)甲2発明 甲2には,上記記載事項,特に下線部の記載並びに図2及び3より,以下の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されている。 「トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,タイヤ周方向に延在する少なくとも4本の周方向主溝を備え,そのうちの2本は最もタイヤ赤道面側をタイヤ周方向に延在し,前記2本の周方向主溝からタイヤ幅方向外側に延在する複数の第一ラグ溝42と,前記周方向主溝からタイヤ幅方向内側に延在する複数の第一ラグ溝41とが設けられており, 前記周方向主溝は,タイヤ幅方向にステップ状に屈曲しつつタイヤ周方向に略同一の溝幅で延在しており, 前記第一ラグ溝41は,タイヤ幅方向に対して傾斜しており,第一ラグ溝41の周方向主溝への開口部にて周方向に区分される隣り合うブロックのエッジ部がタイヤ幅方向に位置をずらして配置され, 前記第一ラグ溝41は,タイヤ幅方向に対して傾斜しており,第一ラグ溝41の周方向主溝への開口部にて周方向に区分される隣り合うブロックのエッジ部がタイヤ幅方向に位置をずらして配置され, 前記第一ラグ溝41は,タイヤ幅方向に貫通して周方向主溝にそれぞれ開口する, 氷上性能および雪上性能を向上できるタイヤ。」 第7 当審の判断 1 本件発明1ないし7と甲1発明について (1)本件発明1について(甲1発明との対比,判断) 本件発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の「トレツド」,「中央斜溝」,「両側斜溝」及び「子午線方向」はそれぞれ,本件発明1の「トレッド」,「内側横溝」,「外側横溝」及び「タイヤ軸方向」に相当する。 甲1発明の「2本の周方向主溝」は,甲1の図1より,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続して延びるものであるから,本件発明1の「一対のセンター主溝」に相当する。 甲1発明の「周方向主溝」は「周方向に平行な成分と斜方向成分との組み合わせによつて,千鳥状に連なる周方向ジグザグ溝」であり,甲1の図1より,本件発明1の「タイヤ周方向に沿ってのびる複数の外側溝部,前記外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数の内側溝部,及び,前記外側溝部と前記内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜部を含むジグザグ状」の「センター主溝」であると言える。 甲1発明の「各中央斜溝は」「周方向主溝を構成する周方向に平行な成分と斜方向成分の接合部から延び」ることは,本件発明1の「前記各内側横溝は,前記内側溝部と前記傾斜部とが交差する第1交差部に連通し」なる事項を満たすと言える。 甲1発明の「前記各両側斜溝は」「周方向主溝を構成する周方向に平行な成分と斜方向成分の接合部から延び」ることは,本件発明1の「前記各外側横溝は,前記傾斜部と前記外側溝部とが交差する第2交差部に連通し」なる事項を満たすと言える。 甲1発明は「前記トレツドは,これらの周方向主溝と周方向主溝よりも幅がより狭い前記中央斜溝及び前記両側斜溝によつて多数のブロツクへと区分される」から,甲1発明の「中央斜溝」は「2本の周方向主溝」の間を区分し,本件発明1の「前記各内側横溝は,前記一対のセンター主溝間を継いでいる」なる事項を満たすと言える。 そうすると,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。 ・一致点 「トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部,前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部,及び,前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のセンター主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通し, 前記各内側横溝は,前記一対のセンター主溝間を継いでいる, タイヤ。」である点。 ・相違点1-1 トレッド部において,本件発明1は,「センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝」を備え,「ショルダー主溝」が「タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく, 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さい」と特定するのに対し,甲1発明では,このように特定されない点。 上記相違点1-1について検討する。 相違点1-1にかかる一対の「ショルダー主溝」の構成については,異議申立人が提出したいずれの証拠(甲1ないし7)にも記載されておらず,また,本件発明1の出願時における技術常識でもないので,甲1発明において,このようなショルダー主溝を採用することは当業者にとって容易に想到し得たことではない。 したがって,本件発明1は,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2について(甲1発明との対比,判断) 本件発明2と甲1発明を対比する。 甲1発明の「トレツド」,「中央斜溝」,「両側斜溝」及び「子午線方向」はそれぞれ,本件発明2の「トレッド」,「内側横溝」,「外側横溝」及び「タイヤ軸方向」に相当する。 甲1発明の「2本の周方向主溝」は,甲1の図1より,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続して延びるものであるから,本件発明2の「一対のセンター主溝」に相当する。 甲1発明の「周方向主溝」は「周方向に平行な成分と斜方向成分との組み合わせによつて,千鳥状に連なる周方向ジグザグ溝」であり,甲1の図1より,本件発明2の「タイヤ周方向に沿ってのびる複数の外側溝部,前記外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数の内側溝部,及び,前記外側溝部と前記内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜部を含むジグザグ状」の「センター主溝」であると言える。 甲1発明の「各中央斜溝は」「周方向主溝を構成する周方向に平行な成分と斜方向成分の接合部から延び」ることは,本件発明2の「前記各内側横溝は,前記内側溝部と前記傾斜部とが交差する第1交差部に連通し」なる事項を満たすと言える。 甲1発明の「前記各両側斜溝は」「周方向主溝を構成する周方向に平行な成分と斜方向成分の接合部から延び」ることは,本件発明2の「前記各外側横溝は,前記傾斜部と前記外側溝部とが交差する第2交差部に連通し」なる事項を満たすと言える。 そうすると,本件発明2と甲1発明との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。 ・一致点 「トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部,前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部,及び,前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のセンター主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通する, タイヤ。」である点。 ・相違点1-2 トレッド部において,本件発明2は,「センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝」を備え,「ショルダー主溝」が「タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく, 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さい」と特定するのに対し,甲1発明では,このように特定しない点。 ・相違点1-3 トレッド部において,本件発明2は,「内側横溝のタイヤ軸方向に対する角度」が「外側横溝のタイヤ軸方向に対する角度よりも小さく」と特定するのに対し,甲1発明では,このように特定しない点。 上記相違点1-2について検討する。 相違点1-2は,相違点1-1と同一の相違点であり,これについて検討するに相違点1-1と同様のことが言えるから,甲1発明において,相違点1-2に係るショルダー主溝を採用することは当業者にとって容易に想到し得たことではない。 したがって,本件発明2は,相違点1-3について検討するまでもなく,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明3ないし7について(甲1発明との対比,判断) 本件発明3は,本件発明1または2に,「前記各内側横溝は,前記第1交差部に連なる前記センター主溝の傾斜部と同じ向きに傾斜しており,前記各内側横溝の溝幅は,前記センター主溝の最大溝幅の50%?70%である」という技術事項を追加したものである。 本件発明4は,本件発明1ないし3に,「前記内側横溝の本数は,前記外側横溝の本数よりも少ない」という技術事項を追加したものである。 本件発明5は,本件発明1ないし4に「前記内側横溝は,直線状にのびている」という技術事項を追加したものである。 本件発明6は,本件発明ないし5に「前記外側横溝は,前記センター主溝に連通するタイヤ軸方向の内側部分と,前記内側部分のタイヤ軸方向外側に位置する外側部分とを含み, 前記内側部分の溝幅は,前記外側部分の溝幅よりも大きい」という技術事項を追加したものである。 本件発明7は,本件発明1ないし6に「前記内側横溝は,タイヤ軸方向に対して傾斜しており, 前記外側横溝は,前記内側横溝と逆向きに傾斜しており, 前記外側横溝の内端のタイヤ周方向の中間位置と前記外側横溝の外端のタイヤ周方向の中間位置とを通る直線と,前記内側横溝の両端のタイヤ周方向の中間位置を通る直線とのなす角度が100?130度である」という技術事項を追加したものである。 そうすると,本件発明3ないし7と甲1発明との間には,上記(1)における相違点1-1または上記(2)における相違点1-2が存在するから,他の相違点について検討するまでもなく,上記(1)及び(2)で検討したように,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本件発明1ないし7と甲2発明について (1)本件発明1について(甲2発明との対比,判断) 本件発明1と甲2発明を対比する。 甲2発明の「タイヤ赤道面側をタイヤ周方向に延在」する2本の周方向主溝は,本件発明1の「タイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続して延びる一対のセンター主溝」に相当する。 甲2発明の「前記2本の周方向主溝からタイヤ幅方向外側に延在する複数の第一ラグ溝42」及び「前記周方向主溝からタイヤ幅方向内側に延在する複数の第一ラグ溝41」はそれぞれ,本件発明1の「前記センター主溝からタイヤ軸方向にのびる複数の外側横溝」及び「前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝」に相当する。 甲2発明の周方向主溝は,「前記周方向主溝は,タイヤ幅方向にステップ状に屈曲しつつタイヤ周方向に略同一の溝幅で延在して」いるものであり,また甲2の図2から,甲2発明は,本件発明1の「前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数の外側溝部,前記外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数の内側溝部,及び,前記外側溝部と前記内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜部を含むジグザグ状」なる事項を満たすと言える。 甲2発明の「第一ラグ溝41」は,「第一ラグ溝41の周方向主溝への開口部にて周方向に区分される隣り合うブロックのエッジ部がタイヤ幅方向に位置をずらして配置」するもので,このブロックのエッジ部のタイヤ幅方向の位置のずれによって「周方向主溝」が「タイヤ幅方向にステップ状に屈曲」させられるものである。そして,甲2の図2から,甲2発明は,本件発明1の「前記各内側横溝は,前記内側溝部と前記傾斜部とが交差する第1交差部に連通し」なる事項を満たすと言える。 甲2発明の「第一ラグ溝42」についても,「第一ラグ溝41の周方向主溝への開口部にて周方向に区分される隣り合うブロックのエッジ部がタイヤ幅方向に位置をずらして配置」するもので,このブロックのエッジ部のタイヤ幅方向の位置のずれによって「周方向主溝」が「タイヤ幅方向にステップ状に屈曲」させられるものである。そして,甲2の図2から,甲2発明は,本件発明1の「前記各外側横溝は,前記外側溝部と前記傾斜部とが交差する第2交差部に連通し」なる事項を満たすと言える。 甲2発明は「前記第一ラグ溝41」を「周方向主溝をタイヤ軸方向に貫通して周方向主溝にそれぞれ開口する」とするものであるから,「前記各内側横溝は,前記一対のセンター主溝間を継いでいる」なる事項を満たすと言える。 そうすると,本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。 ・一致点 「トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部,前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部,及び,前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のセンター主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通し, 前記各内側横溝は,前記一対のセンター主溝間を継いでいる, タイヤ。」である点。 ・相違点2-1 トレッド部において,本件発明1は,「センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝」を備え,「ショルダー主溝」が「タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく, 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さい」と特定するのに対し,甲2発明では,このように特定されない点。 上記相違点2-1について検討する。 相違点2-1は,上記1(1)の相違点1-1と同一の相違点であり,これについて検討するに相違点1-1と同様のことが言えるから,甲2発明において,相違点2-1に係るショルダー主溝を採用することは当業者にとって容易に想到し得たことではない。 したがって,本件発明1は,甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2について(甲2発明との対比,判断) 本件発明2と甲2発明を対比する。 甲2発明の「タイヤ赤道面側をタイヤ周方向に延在」する2本の周方向主溝は,本件発明2の「タイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続して延びる一対のセンター主溝」に相当する。 甲2発明の「前記2本の周方向主溝からタイヤ幅方向外側に延在する複数の第一ラグ溝42」及び「前記周方向主溝からタイヤ幅方向内側に延在する複数の第一ラグ溝41」はそれぞれ,本件発明2の「前記センター主溝からタイヤ軸方向にのびる複数の外側横溝」及び「前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝」に相当する。 甲2発明の周方向主溝は,「前記周方向主溝は,タイヤ幅方向にステップ状に屈曲しつつタイヤ周方向に略同一の溝幅で延在して」いるものであり,また甲2の図2から,甲2発明は,本件発明2の「前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数の外側溝部,前記外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数の内側溝部,及び,前記外側溝部と前記内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数の傾斜部を含むジグザグ状」なる事項を満たすと言える。 甲2発明の「第一ラグ溝41」は,「第一ラグ溝41の周方向主溝への開口部にて周方向に区分される隣り合うブロックのエッジ部がタイヤ幅方向に位置をずらして配置」するもので,このブロックのエッジ部のタイヤ幅方向の位置のずれによって「周方向主溝」が「タイヤ幅方向にステップ状に屈曲」させられるものである。そして,甲2の図2から,甲2発明は,本件発明2の「前記各内側横溝は,前記内側溝部と前記傾斜部とが交差する第1交差部に連通し」なる事項を満たすと言える。 甲2発明の「第一ラグ溝42」についても,「第一ラグ溝41の周方向主溝への開口部にて周方向に区分される隣り合うブロックのエッジ部がタイヤ幅方向に位置をずらして配置」するもので,このブロックのエッジ部のタイヤ幅方向の位置のずれによって「周方向主溝」が「タイヤ幅方向にステップ状に屈曲」させられるものである。そして,甲2の図2から,甲2発明は,本件発明2の「前記各外側横溝は,前記外側溝部と前記傾斜部とが交差する第2交差部に連通し」なる事項を満たすと言える。 そうすると,本件発明2と甲2発明との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりである。 ・一致点 「トレッド部を具えたタイヤであって, 前記トレッド部には,最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と,前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており, 前記センター主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部,前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部,及び,前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のセンター主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記各内側横溝は,前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し, 前記各外側横溝は,前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通する, タイヤ。」である点。 ・相違点2-2 トレッド部において,本件発明2は,「センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝」を備え,「ショルダー主溝」が「タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり, 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく, 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さい」と特定するのに対し,甲2発明では,このように特定されない点。 ・相違点2-3 トレッド部において,本件発明2は,「内側横溝のタイヤ軸方向に対する角度」が「外側横溝のタイヤ軸方向に対する角度よりも小さく」と特定するのに対し,甲2発明では,このように特定しない点。 上記相違点2-2について検討する。 相違点2-2は,上記1(1)の上記相違点1-1と同一の相違点であり,これについて検討すると相違点1-1と同様のことが言えるから,甲2発明において,相違点2-2に係るショルダー主溝を採用することは当業者にとって容易に想到し得たことではない。 したがって,本件発明2は,相違点2-3について検討するまでもなく,甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明3ないし7について(甲2発明との対比,判断) 本件発明3は,本件発明1または2に,「前記各内側横溝は,前記第1交差部に連なる前記センター主溝の傾斜部と同じ向きに傾斜しており,前記各内側横溝の溝幅は,前記センター主溝の最大溝幅の50%?70%である」という技術的事項を追加したものである。 本件発明4は,本件発明1ないし3に,「前記内側横溝の本数は,前記外側横溝の本数よりも少ない」という技術事項を追加したものである。 本件発明5は,本件発明1ないし4に「前記内側横溝は,直線状にのびている」という技術事項を追加したものである。 本件発明6は,本件発明ないし5に「前記外側横溝は,前記センター主溝に連通するタイヤ軸方向の内側部分と,前記内側部分のタイヤ軸方向外側に位置する外側部分とを含み, 前記内側部分の溝幅は,前記外側部分の溝幅よりも大きい」という技術事項を追加したものである。 本件発明7は,本件発明1ないし6に「前記内側横溝は,タイヤ軸方向に対して傾斜しており, 前記外側横溝は,前記内側横溝と逆向きに傾斜しており, 前記外側横溝の内端のタイヤ周方向の中間位置と前記外側横溝の外端のタイヤ周方向の中間位置とを通る直線と,前記内側横溝の両端のタイヤ周方向の中間位置を通る直線とのなす角度が100?130度である」という技術事項を追加したものである。 そうすると,本件発明3ないし7と甲2発明との間には,上記(1)における相違点2-1または上記(2)における相違点2-2が存在するから,他の相違点について検討するまでもなく,上記(1)及び(2)で検討したように,甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 異議申立人の主張について 異議申立人は,訂正の請求により追加された「ショルダー主溝」に関する「前記ショルダー主溝は,タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部,前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部,及び,前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり」なる特定事項については甲2,甲5ないし7に描写されるように一般的に行われていることであり,「前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは,前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく」なる特定事項については甲6に開示された技術であり,「前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は,前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さい」なる特定事項は甲5ないし7に記載されるようにタイヤ業界において周知の技術事項であるといい,これらのことから本件発明は甲1発明又は甲2発明に対して進歩性を有しない旨を主張する。 しかしながら,「ショルダー主溝」に関する上記の3つの特定事項の全てを満たす技術事項が,異議申立人の証拠方法として提出された甲1ないし甲7のいずれかにおいて開示されているものではない。 そして,「ショルダー主溝」に関する上記の3つの特定事項の1部のみが記載されている文献が存在するからといって,3つの特定事項をひとまとまりの特徴とした「ショルダー主溝」が本件発明の出願前に公知であったという十分な裏付けになるものではないし,タイヤのトレッド形状は全体として意味を有するものであるから,細かく区分けした構成がそれぞれ周知であるからといって,それを組み合わせた構成が容易に想到し得たものということもできない。 よって,異議申立人の主張は失当であって採用できない。 第8 むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 トレッド部を具えたタイヤであって、 前記トレッド部には、最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と、前記センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と、前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と、前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており、 前記センター主溝は、タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部、前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部、及び、前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のセンター主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり、 前記各内側横溝は、前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し、 前記各外側横溝は、前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通し、 前記各内側横溝は、前記一対のセンター主溝間を継いでおり、 前記ショルダー主溝は、タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部、前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部、及び、前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり、 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは、前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく、 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は、前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さいことを特徴とするタイヤ。 【請求項2】 トレッド部を具えたタイヤであって、 前記トレッド部には、最もタイヤ赤道側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と、前記センター主溝とトレッド端との間をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と、前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる複数の外側横溝と、前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる複数の内側横溝とが設けられており、 前記センター主溝は、タイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の外側溝部、前記センター主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のセンター主溝の内側溝部、及び、前記センター主溝の外側溝部と前記センター主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のセンター主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり、 前記各内側横溝は、前記センター主溝の内側溝部と前記センター主溝の傾斜部とが交差する第1交差部に連通し、 前記各外側横溝は、前記センター主溝の傾斜部と前記センター主溝の外側溝部とが交差する第2交差部に連通し、 前記内側横溝のタイヤ軸方向に対する角度は、前記外側横溝のタイヤ軸方向に対する角度よりも小さく、 前記ショルダー主溝は、タイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の外側溝部、前記ショルダー主溝の外側溝部よりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に沿ってのびる複数のショルダー主溝の内側溝部、及び、前記ショルダー主溝の外側溝部と前記ショルダー主溝の内側溝部とを継ぎかつタイヤ周方向に対して傾斜する複数のショルダー主溝の傾斜部を含むジグザグ状であり、 前記ショルダー主溝の外側溝部のタイヤ周方向の長さは、前記ショルダー主溝の内側溝部のタイヤ周方向の長さよりも大きく、 前記ショルダー主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V2と前記ショルダー主溝の最大溝幅W2との比V2/W2は、前記センター主溝のジグザグのピークトウピークの振幅V1と前記センター主溝の最大溝幅W1との比V1/W1よりも小さいことを特徴とするタイヤ。 【請求項3】 前記各内側横溝は、前記第1交差部に連なる前記センター主溝の傾斜部と同じ向きに傾斜しており、 前記各内側横溝の溝幅は、前記センター主溝の最大溝幅の50%?70%である、請求項1又は2に記載のタイヤ。 【請求項4】 前記内側横溝の本数は、前記外側横溝の本数よりも少ない請求項1乃至3のいずれかに記載のタイヤ。 【請求項5】 前記内側横溝は、直線状にのびている請求項1乃至4のいずれかに記載のタイヤ。 【請求項6】 前記外側横溝は、前記センター主溝に連通するタイヤ軸方向の内側部分と、前記内側部分のタイヤ軸方向外側に位置する外側部分とを含み、 前記内側部分の溝幅は、前記外側部分の溝幅よりも大きい請求項1乃至5のいずれかに記載のタイヤ。 【請求項7】 前記内側横溝は、タイヤ軸方向に対して傾斜しており、 前記外側横溝は、前記内側横溝と逆向きに傾斜しており、 前記外側横溝の内端のタイヤ周方向の中間位置と前記外側横溝の外端のタイヤ周方向の中間位置とを通る直線と、前記内側横溝の両端のタイヤ周方向の中間位置を通る直線とのなす角度が100?130度である請求項1乃至6のいずれかに記載のタイヤ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-02-19 |
出願番号 | 特願2016-2982(P2016-2982) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(B60C)
P 1 651・ 121- YAA (B60C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鏡 宣宏 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
神田 和輝 細井 龍史 |
登録日 | 2019-12-20 |
登録番号 | 特許第6631256号(P6631256) |
権利者 | 住友ゴム工業株式会社 |
発明の名称 | タイヤ |
代理人 | 市田 哲 |
代理人 | 住友 慎太郎 |
代理人 | 浦 重剛 |
代理人 | 浦 重剛 |
代理人 | 苗村 潤 |
代理人 | 苗村 潤 |
代理人 | 石原 幸信 |
代理人 | 石原 幸信 |
代理人 | 住友 慎太郎 |
代理人 | 市田 哲 |